アルプス物語わたしのアンネット」完結版ついて

編集内容
 ・総集編形態…特定キャラクターによる回想形(11話以降)
 ・再現範囲…39話〜47話(11〜37話の展開を回想として編集)・前半39〜40話(2話)・後半40話〜47話(8話)
 ・オープニング「アンネットの青い空」(本編と同じ) エンディング「エーデルワイスの白い花」(本編と同じ)
 ・ナレーション 藤田淑子(本編外の概要説明等) 高乃麗(本編中)

「完結編」製作に当たっての設定変更点
 ・視点をアンネットからルシエンに変更。
 ・本編ではダニーを複数の医者に診せていたが、シャトーデイの医師1人だけの診察に変更。
 ・「思いがけない診断」の内容がダニーに伏せられた設定はない。
 ・ダニーの治療費については触れられていない。ギベットとペギンの関係についても省略。
 ・ローザンヌ編後半は大半をカット(下表参照)、ダニーの治療のみに絞られる。
 ・従ってエリザベスなどローザンヌ編後半のみのキャラは無かったことにされている。

内容の詳細
1話 (カット)
2話
3話
4話
5話
6話
7話
8話
9話
10話
11話 クラウスがバルニエル家にやってくる過程を39〜40話シーンの回想として採用
12話 (カット)
13話 ほぼ全編(鏡の件でのクロードの説教や二度目の平手打ちシーン等を除く)を39〜40話シーンの回想として採用
14話 ルシエンがダニーにプレゼントする木彫りを掘るシーンをワンカットのみ39〜40話シーンの回想として採用 ルシエンがダニーを捜して谷上の花畑に来るところからは39〜40話シーンの回想として全面採用
15話 ルシエンが牛小屋で泣くシーン ダニーの転落がピエールに知らされるシーン 崖下のダニーに声を掛けてからピエールがロープで崖を下りダニーを発見するまでのシーンを39〜40話シーンの回想として採用
16話 (カット)
17話
18話
19話 ルシエンがパン屋を訪れたシーン ダニーの松葉杖での歩行訓練シーン 「思いがけない診断」シーンを39〜40話シーンの回想として採用
20話 ルシエンがペギンの元でノアの方舟を製作するシーン(このシーンは「思いがけない診断」シーンの前に置かれる) 「ノアの方舟」拒絶シーン ルシエンが夜にペギンの元にやってくるシーンを39〜40話シーンの回想として採用
21話 ピエールやクロードがアンネット共にダニーのこれからについて語り合うシーン アンネットが「ダニーを守る」と決意するシーンを39〜40話シーンの回想として採用
22話 「ノアの方舟」でダニーが遊んでいるのをルシエンが見つけて声を掛けるシーン その夜の眠れないアンネットの様子を39〜40話シーンの回想として採用 これらのシーンに引き続き40話の雪山でルシエンが倒れるシーンを挟んで前半終了
23話 (カット)
24話
25話
26話
27話
28話 後半開始 40話のバルニエル家でのシーンを挟んで 学校の教室で展覧会の出展品について語り合うシーン ルシエンがペギンと「木彫りの馬」に込めた思いを語るシーン アンネットがモレル家を訪れるシーン 買い物に出ていたルシエンの帰宅して「木彫りの馬」破壊が発覚するシーンを39〜40話シーンの回想として採用 4
29話 展覧会の表彰式シーン アンネットが優勝賞品の本を投げつけて後悔するシーン 自暴自棄のルシエンがペギンに殴られるシーンを39〜40話シーンの回想として採用
30話 (カット)
31話
32話
33話 アンネットが「木彫りの馬」破壊をクロードに打ち明けるシーンを39〜40話シーンの回想として採用
34話 (カット)
35話 アンネットとルシエンの和解の過程を39〜40話シーンの回想としてほぼ全面採用
36話 アンネットを助けたルシエンが帰宅する際の握手シーン ピエールの馬車上でのシーンを39〜40話シーンの回想として採用
37話 アンネットが展覧会の優勝をルシエンに変更するよう先生に懇願するシーンを39〜40話シーンの回想として採用
38話 (カット)
39話 前半開始 ルシエンが置き手紙をしてモレル家を出て行くシーン時点の回想として37話までの展開を編集 ルシエンがペギンのところに立ち寄るシーン以外はほぼ全面採用(一部シーンは二重採用)
40話 ほぼ全面採用
41話 ルシエンがロシニエール駅に戻ってきたシーンを採用
42話 (カット)
43話
44話
45話 手術前にダニーが不安がるシーン 手術後にギベットが手術成功を告げるシーンを採用
46話 ダニーが見た夢のシーンを採用
47話 アンネットとダニーがロシニエールに戻るシーンを採用 後半終了
48話 (カット)

考察・感想
 「雪のたから」という子供向けキリスト教文学を原作に持つこの作品、原作は決してマイナーではないが恐らく「世界名作劇場」外からこの作品に入ってくる人は少ないだろう。よってこの完結版DVDを見る層の多くは、過去に「世界名作劇場」シリーズ他作品や「わたしのアンネット」を全編見たことがある人である可能性が高い。こんな人達を満足させられる内容かどうかは、この完結編のポイントかも知れない。

・前半…まさかの回想設定

 前半が幕を開くと、なんか序盤の「わたしのアンネット」と雰囲気がかなり違うのに気付く人がいるだろう。ルシエンが置き手紙を置いて重装備で部屋から出て行くシーン、これはどう見てもルシエンがダニーのために医者を呼ぶため雪の峠道に挑もうとしているあのシーンだ。冒頭でいきなり終盤、これはどうしたことかと思うが物語は何の説明も無く進み、ルシエンがスキーを履いて雪山に乗り出して行き、アンネットのモレル家来訪で事件が発覚する。バルニエル家では話を聞いたピエールが驚いて捜索に出かけ、アンネットが神に祈り…ここまで来てルシエンにシーンが戻ると、やっとナレーターの超簡単な解説と共にルシエンの回想として話が1年巻戻る。まさかの「回想設定」で物語が幕を開くのだ。
 だがこの「回想設定」にはある事実がある。実は「わたしのアンネット」を再小説化した小説版でも、この物語は30話時点のアンネットによる「回想設定」を取っている。そんな「回想設定」を取りやすい物語かなぁ…いずれにせよ、この冒頭シーンでこの総集編についてはある事実が確定する。それは「主役はルシエン」という本編とは違う構図だ。こうして「回想設定」を上手く使うことで、本編とは違った視点から「わたしのアンネット」を見せようと試みたに違いない。
 1年巻戻り、物語はクラウスがやってくる過程から綴り始める。アンネット7歳時の物語は豪快に全面カットだ。アンネットとルシエンの仲の良さは「前提条件」へと変化してしまったのである。
 クラウスの登場をキチンと再現したところで、物語は躊躇せずに本編部分へと突入する。手鏡の一件で最初のアンネットとルシエンの亀裂から始まり、引き続いてクラウスがルシエンの木彫りを壊したことでルシエンがキレてクラウスを叩く事件へ。ここでアンネットの平手打ちだけがカットされたのはちょっと残念。ここまでの「歯車がずれちゃった」感をキチンと再現してから崖上でのルシエンとダニーのシーンへ持って行ったのは、ここへ至る本編の雰囲気を上手く再現できてたと思う。そしてダニーが悲鳴と共に転落し、ルシエンが牛小屋で泣くシーンとなる。このルシエンが泣くシーンを省かなかったのもとても良かったと思う。
 牛小屋のシーンをカットしなかったことで、事件が発覚しバルニエル家に急報がもたらされたという描き方も自然な流れだ。だがアンネットの「私が生きている限りあんななんか絶対に許さないわよ!」の部分がカットされたのは残念。ピエールが事件を知ると唐突に崖上にみんなワープしてしまったのだ。
 ダニー救助シーンはカット無しで進んだと思うと忙しくなってくる。一度話が雪山を行くルシエンに戻り、転落事故が原因で雪山を歩いていることと「辛く悲しい日々が続いた」ことの解説が入る。ここで回想に戻るとパン屋の入り口でルシエンとアンネットがやり合うシーンから始まる、続いて医師の診察もないままダニーは松葉杖で歩行練習を開始しており、かと思うとルシエンがペギンの元で「ノアの方舟」を作っているという忙しさだ。そして「思いがけない診断」へと休む間もなく進んだと思うと、突然のように「ノアの方舟」拒絶シーンへ、続いて拒絶されたルシエンがペギンの元を訪れるという感じでめまぐるしく話が進むのだ。
 「思いがけない診断」を受けてダニーを支えるとバルニエル家の全員が決意するシーンを挟むと、また雪山のルシエンに戻る。こんどはナレーターの実況付きで、ルシエンが岩陰に隠れるシーンだ。と思うと唐突に「ノアの方舟」で遊ぶダニー、このダニーとルシエンのやり取りでダニーがあっさりとルシエンを赦すシーンが入れられたのは、この物語の総集編としてどうしても必要だろう。同時にその様子を見たアンネットの苦悩を再現も必要だ、このアンネットの苦悩こそがこの物語の屋台骨であり、印象に残る点であろう。そんなシーンがカットされず入れられたのは「わたしのアンネット」のファンとしては嬉しいことだろう。
 これらの「ノアの方舟」関連シーンが終わると、また雪山のルシエンに戻る。本編40話相当のルシエンがダニーとアンネットに謝る台詞を吐きながら倒れるシーンを流して前半が終わる。ここまでは「回想設定」として上手く話が回り、また前半再現範囲を「ノアの方舟編」としてうまくまとめたと感じた。

・後半…余計なシーンが多く、「しつこくて」「大袈裟」な展開に
 前半「ノアの方舟編」で上手くまとまったなら、後半は「木彫りの馬編」でまとめてくるだろうと全話通し視聴経験のある人は誰もが思うだろう。
 まずはルシエンが雪山に飛び出した夜に戻る。ピエールが捜索から帰ってくると同時に、ダニーが目をさますシーンから始まる。アンネットが思わず外に出てルシエンの名を叫ぶシーンを流し、ナレーターが「アンネットが自分で自分を責めていた」旨を付け加えるとやっと前半の続きとなる。そしてその内容は予想通り展覧会について語り合う子供達の様子から始まるのだ。
 でもここでは急がない、学校の様子をじっくり再現し、続いてペギンの元で出展物を製作しながら語り合うルシエンとペギンを描く。こうしてルシエンが「木彫りの馬」に込めた思いをしっかり印象付けてから、万を侍してアンネットがモレル家へやってきて「木彫りの馬」と対面するシーンとなる。だがそこまでだった、アンネットが怖い目で「木彫りの馬」を見つめたかと思ったら…もうルシエンが買い物が帰宅するシーンになる。既に「木彫りの馬」は破壊されており、ルシエンと空気の読めない母が大騒ぎするシーンへと展開する。と思うと瞬時に場面は展覧会の表彰式となり、賞品を受け取ったアンネットとルシエンが震えながら睨み合うシーンへと変わる。同時に「木彫りの馬破壊」シーン最初の回想シーンが、はかも2回連続で流され、アンネットが本を投げつけて後悔するシーンとなる。
 続いて絶望したルシエンへと画面が切り替わる。自暴自棄のルシエンをペギンが殴りつけたところで、ここでの二人の気持ちの設定が終わる。ここで本編同様に「アンネットの後悔」と「ルシエンの自暴自棄」を再現したのは評価できる。だがその後は急ぎすぎた、突然アンネットがクロードに全てを打ち明けちゃっているのである。この間に二人の間に色々起きるのが辛いのは解るが、その辛さを一緒に乗り越えるのがこの物語の良いところなのに…って、90分という時間制限ではそりゃ無理だ。仕方ない。
 一度急ぎ出すともう止まらない、ルシエンはまた木彫り作りを始め、バルニエル家では早速クラウスが行方不明になる。そしてクラウスを捜索中のアンネットが遭難し、そこへルシエンが通りかかるシーンとなる。この「和解」シーンはノーカットでゆったり描いたが、その前が軽すぎた。なんか「このまま二人は和解できないのでないか?」と心配になるような要素が描かれなかったのである、でもこれも制限時間90分を考えれば致し方ない点だろう。
 アンネットとルシエンが固い握手を交わしたことで、二人の和解は印象的にはなったが全編を見た者ににはなんか物足りなく話が進んでしまった感がある。そしてアンネットが「木彫りの馬」破壊に対してのけじめを取ったところで、いきなり「回想設定」は終わりに向かう。モントルーから帰って来たマリーがギベットについて語り、それを聞いたルシエンが「その先生ならダニーを…」と興奮するシーンになるのだ。こうしてルシエンが雪山に乗り出して行く過程を描き直し、前半冒頭をもう一度やり直して「回想設定」終了だ。気が付いたルシエンがひたすら雪山を歩くシーンが描かれ、そして無事に峠を越えてギベットに逢えるまではほぼノーカット再現だ。この迫力シーンを余すところなく再現したのは嬉しいが、前半冒頭で使った全く同じシーンがここでもう一度繰り返されたのはもうちょっと何とかならなかったかと思う。
 ルシエンがギベットに出会うと、もうここからラストまでは完全なダイジェストだ。ルシエンがロシニエールに戻り、かと思うともうアンネットとダニーがギベットの病院におり、矢継ぎ早にダニーの手術を迎え、ダニーの苦しみが描かれないまま「ダニーが見た夢」で経過時間だけを表現したかと思うと、もう完治したダニーがロシニエールに戻ってくるシーンだ。そしてこの駅シーンで後半終了となる。
 「回想設定」が終わった後はもう物語もへったくれもなかった、「ダニーの足が治りました、めでたしめでたし」それだけである。制限時間90分を考えればこうせざるを得ないのは解るが、だったらこんな中途半端なことはせず、なおのことローザンヌでのシーンはもっとカットしてよかったと思う。手術中のシーンやダニーの夢のシーンもいらなかっただろう、ダニーの治療シーンや手術中のシーンをもっと短く編集しても説得力はあったはずだ。その分の時間と、「回想設定」が終わる直前の前半冒頭を繰り返す時間があれば「木彫りの馬破壊」以降のアンネットとルシエンの気持ちの変化を一つ二つ入れられたと思う。例えはルシエンが学校をサボったシーンをワンカット入れるだけでも違っただろうし、謝罪しようとしたアンネットがルシエンに拒絶されるシーンも上手く入れられたと思う。結局余計なところに時間を使ってしまって肝心なところを省くことになってしまい、結果二人の和解シーンが大袈裟なだけでそれに見合う意味を込められなかったのは痛いと思った。
 だがこれは、全編での通し視聴の経験があるからこそ出てくる評価であって、はじめてこの物語を見る人は「ちょっとしつこい」「ちょっと大袈裟」と思う程度で何ら問題は無いと考える。その「大袈裟」という感想に「何でだろう?」という疑問を持ってもらえば成功、という考え方もあるからだ。

・まとめ
 この完結版の印象は、上記に書いたことを簡単に言うと「前半は印象が良くて後半の印象が悪い」という点だ。
 前半は本当に上手く物語が流れていた。前半で起きる出来事ではちゃんとアンネットとルシエンに「その行動に出る理由」を植え付けていたのである。ダニーの落下事故はちゃんとその前段の「歯車が狂っちゃった」感を印象付けた上で起こしているし、ルシエンが牛小屋で泣くシーンを入れた事で彼が「何とかしなければならない」と心から思うよう説得力がついた。パン屋のシーンでルシエンの「何とかしなきゃ」が空回りしたことも描かれ、そこから「木彫りを作ってプレゼント」という展開に自然に行くように出来ているのも見逃せない。前半ラストではダニーがルシエンの木彫りで遊ぶことで、アンネットがルシエンの気持ちを知って後悔するという良い方向で終わることが描かれた。
 だが後半はうまく行かなかった。最初の「木彫りの馬」破壊シーンとそれに続く二人の気持ちを決定づけるところまでは上手く抜き出したが、そこまでやっておいて急いでしまったのである。和解シーンだけが大袈裟になってしまうだけならまだしも、同じシーンを二度使ったり再現の必要のないところをわざわざ再現したりと「編集方針」にブレを生じてしまったことだ。やはりダニーの治療に時間を割くなら、ここはアンネットとルシエンの気持ちに絞った方が良かっただろう。総集編ではダニーの足は簡単に治って良いのである。本編の段階ダニーの治療に原作ほどの意味も持たせていなかったし、制限時間90分ではローザンヌでのアンネットの物語を描くことが不可能だからだ。
 その上で繰り返す言うが、これは「本編を全部見たことがある」からこその不満だ。「わたしのアンネット」を見たことがないという人には安心して勧められる内容であることはちゃんとフォローしておこう。

・おまけ
 「わたしのアンネット」の特徴は、転落事故シーンや破壊シーンなど強烈な場面が回想として繰り返し流される点であるが、この完結版ではそれは殆ど見られなかった。だがその中で「木彫りの馬」破壊シーンだけはなんと4回も繰り返し流されたのは驚きだ。その「木彫りの馬」破壊シーンは「本番」はカットされて回想シーンのうちの4回だけが採用されて流された形だ。「木彫りのカモシカ」投棄シーンに至っては完全に省略されている。
 完結版冒頭シーンはいきなり39話。全部見たわけでないから断定は出来ないが、これは完結版冒頭シーンで話数が最も後ろだと思われる。当サイトで考察済みの中では「ポリアンナ物語」の26話スタートを除けば全て序盤からのスタートだ。「わたしのアンネット」「ポリアンナ物語」両完結版の共通点は、「回想設定」に編集されたことだ。「回想設定」に頼らないダイジェスト形の完結版では、私が知る限り「ペリーヌ物語」の27話スタートが最も後ろからのスタートだ。

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