「ペリーヌ物語」完結版ついて

編集内容
 ・総集編形態…特定エピソード集中形(ペリーヌとビルフランの物語)
 ・再現範囲…27話〜53話(26話分)・前半27〜39話(13話)・後半39話〜53話(15話)
 ・オープニング「ペリーヌものがたり」(本編と同じ) エンディング「気まぐれバロン」(曲は本編と同じだが背景画像は一部相違)
 ・ナレーション 藤田淑子(本編外の概要説明等) 渋沢詩子(本編中・本編のナレーションを流用)

「完結編」製作に当たっての設定変更点
 ・ボスニアからマロクールへの旅は全面カット、ただしパリでのマリの死去だけは回想として再現。
 ・したがってルクリ以外の旅行中で出会った人物は不在。
 ・エンディングの背景画像は、オリジナルではブラウンだった部分が紫色に変更されている。

内容の詳細
1話 (カット)
2話
3話
4話
5話
6話
7話
8話
9話
10話
11話
12話
13話
14話
15話
16話
17話
18話
19話
20話
21話 マリ臨終シーンを27話相当シーンの回想として全面採用
22話 (カット)
23話
24話
25話
26話
27話 前半開始 ペリーヌのマロクール到着とロザリーとの出会いシーン フランソワーズとの出会い「オーレリィ」と偽名を名乗るシーン ペリーヌがビルフランを始めて見て目が不自由と知るシーンを採用
28話 トロッコ押しの仕事をするシーンを採用
29話 (カット)
30話
31話
32話 ペリーヌが池の畔の小屋で生活する様子のシーン パリカールやルクリと再会しファブリに本名を聞かれるシーンを採用
33話 (カット)
34話 バロンが工場に迷い込み工員に追われつまみ出されるシーン以降はほぼ全面採用
35話 (カット)
36話 ファブリの帰国をロザリーに告げられるシーン 工場でのファブリとビルフランがオーレリィについて会話するシーンを採用
37話 ビルフランがオーレリィを呼び出し秘書にすると告げるシーン ビルフランが目眩を起こしペリーヌが手を貸すシーンを採用
38話 (カット)
39話 ファブリがビルフランに届いた手紙を渡してからビルフランがマリにも孫にも感心はないと叫ぶまでのシーンをほぼ全面採用 前半終了
後半開始 ビルフランの言葉を受け秘書室で一人泣くペリーヌのシーンを採用
40話 ファブリがロザリーとの会話からペリーヌの正体を察してからペリーヌに「心配事があるなら何でも打ち明けて欲しい」と力説するまでのシーンを全面採用
41話 ビルフランがペリーヌに屋敷に同居するよう命じるシーン ペリーヌが下宿を引き払うシーンを採用
42話 ペリーヌがビルフラン邸のエドモンの肖像を見て涙を流すシーンを採用
43話 ペリーヌが屋敷から出かけるシーン ファブリがペリーヌに「聞きたいことがある」と突き付けるシーン ペリーヌがファブリに全て打ち明けた後の二人の会話シーンを採用
44話 (カット)
45話 フィリップがビルフランの元を訪れエドモンの死を告げるシーンを採用
46話 ビルフランがエドモンの肖像画に呟きながら涙を流すシーンを採用
47話 ペリーヌがビルフランを徹夜で看病した朝のシーン フランソワーズがビルフランを見舞うシーンを採用
48話 (カット)
49話 フィリップがビルフラン邸に到着して以降は全面採用
50話 ペリーヌの正体を確認した後のビルフランとペリーヌの会話シーンを採用
51話 ビルフランが自分が目の手術に耐えられるか医師に相談するシーンを採用
52話 ビルフランが始めてペリーヌの姿を見るシーンを採用
53話 ペリーヌのもとにパリカールが戻って来るシーン ペリーヌがかつて暮らしていた小屋を訪れるシーン 街を見下ろし丘の上でペリーヌとビルフランが語り合い二人で踊るラストシーンを採用 後半終了

考察・感想
 どちらかというと原作より「世界名作劇場」シリーズの1作品として知名度が高く、テーマが一貫していることとストーリーが平坦でありつつも多彩な登場人物により評価の高い作品の一つだ。恐らく「赤毛のアン」「トムソーヤーの冒険」「小公女」「若草物語」といった原作がメジャーな作品からこのシリーズに興味を持った人が、一度は手に取るであろう作品の一つであろう。
 。

・前半…いきなりマロクール到着から

 この完結版DVDが始まったとき、「ペリーヌ物語」全話視聴経験のある方はたいそう驚いたのではないかと推測する。なんといきなりペリーヌとロザリーの出会いから始まるのである。ロザリーは全53話中27話からの登場で、まさに物語の後半にしか出てこないキャラクターだ。そして展開を知っている人は「マリはどうした?」という風に感じるであろう。視聴者がさう思う頃合いを見計らって、マリの臨終シーンが回想として流される。これだけでこの完結版を見るためのペリーヌ側の「前提条件」が作られてしまった。つまり本編前半の展開はほぼ無視と言って良いだろう。
 マリの死が流されると物語はトントン拍子に、今後の物語のキーとなるフランソワーズとの出会い、ペリーヌがオーレリィという偽名を使い始めるシーン、そしてペリーヌが始めてビルフランを見かけるシーンへと流れて行く。ここで完結版の中でも後の展開への伏線と、ビルフラン側の条件設定に掛かる。これが滞りなく終わると唐突にペリーヌはパンダボワヌ工場でトロッコ押しの仕事に従事しているシーンとなり、自然に池の畔の小屋に勝手に住み着いている展開となる。う〜ん、ここのペリーヌが下宿屋を嫌がるシーンは欲しかったなぁ。
 さらにもうひとつ、今度はファブリに対し伏線を張っておく。ペリーヌとルクリの再会シーンを再現することで、ファブリがペリーヌの本名に気が付くシーンを挿入するのだ。こうして本編同様にファブリを「ペリーヌの正体に感付いている人物」として印象付ける。
 ここまでは「前置き」的な展開でいよいよこの完結版での本題、ペリーヌとビルフランの物語に入る。そのきっかけシーンとして選んだのはバロンが工場に迷い込んで大騒ぎになるシーンで、ここでバロンというキャラクターを上手く使用したと感心した。そのままペリーヌがタルエルに呼び出され、そこでちゃんとバロンの話題を省略しないで引っ張るのもこれまた上手く作ったと感心した。後から思うとここまでやってよく前半が45分に収まったと思う。
 ペリーヌが通訳の仕事を上手くこなし、ビルフランの秘書になるまでの展開は自然に描かれる。通訳の仕事のシーンから短い区切りで抜き出すという制約の中で、ビルフランがペリーヌの仕事ぶりを気に入って秘書にしてしまうまでの心境の変化が上手く描かれているのだ。総集編という「押し込み」作業があったとは思えない程の自然な展開である。
 そしてビルフランの元にインドからエドモンの消息について書かれた手紙が届く。ここでペリーヌはタルエルやテオドールの妨害に遭いながらもその内容をビルフランに伝え、これに対しビルフランがエドモンの嫁を恨み、孫にも興味はないと怒鳴るシーンで前半は唐突に幕を閉じる。
 この前半はとにかく話に不自然さがない。このような総集編だと無理に話を繋ぐ関係で、どうしてもあっちがおかしいこっちがおかしいという点が出てくる物だ。だが「ペリーヌ物語」総集編前半は、その通常はどうしても出てきてしまう「些細な矛盾」や「急激な心境変化」というものがない。登場人物の心境変化までを自然に再現し、始めて見る者に違和感を与えない作りになっているのだ。

・後半…一途なペリーヌとビルフランの変化に的を絞るとともに物語の「空気」も再現
 物語を破綻させずに総集した前半を引き継いで、後半はさらに展開を絞って行く。まずはペリーヌの一途さの表現に掛かるのだ。
 前半ラストシーンを受けてペリーヌが秘書室で一人泣くシーンは重要だ、本編を見た人なら解るのだがここがペリーヌにとってのビルフランとの闘いの出発点であるからだ。失意のペリーヌの裏側でファブリが「ペリーヌの正体」に薄々感付き、この状態の二人が出会うことから物語が進行する。本編同様ここでペリーヌがすぐに打ち明けないのは彼女のその時点での心情を上手く表現している。
 一方のビルフランはペリーヌに住み込みで働いてもらうという方針に変更し、彼なりの「大事な秘書を守らねばならない」という思いが描かれる。その中でペリーヌがビルフラン邸に飾ってある父の肖像を見つけ、亡き父を思い涙するシーンは見る者にアツイ何かを呼び起こすことだろう。こうしてペリーヌがビルフラン邸潜入に成功し、定着したところでいよいよファブリが動く。
 休日のロザリーの店にペリーヌが訪れ、ピクニックに行くべくロザリーやファブリと待ち合わせるシーンになるのだ。ここでファブリの口から真相が出てきたかと思うと、ロザリーが空気を読まずに割り込んでくる「おやくそく」を再現したのは「ペリーヌ物語」という作品の「空気」をうまく表現していて好きだ。そして池の畔でペリーヌがファブリに全てを打ち明け、自分が孫だと名乗り出ることができない現況にあたまを悩ますペリーヌの一途な気持ちに、見ている者は心を打たれる。なんていい娘なんだと。
 だがその感動も束の間、画面が切り替わると唐突にフィリップ弁護士が現れてビルフランにエドモンの死を告げる。ビルフランはエドモンの肖像画の前で泣き崩れ、そのまま寝込んでしまうという編集にした。これはこの間の「色々ある」を自然に全部飛ばす最良の編集であろう。寝込んだビルフランを献身的に看病するペリーヌと、目をさましてそれを知ったビルフランの心境の変化…これまで頑固で厳しかった老社長が優しい老人に変化して行く様をこのワンシーンだけで自然に描いた。本編ではビルフランがここまで変化するのにこの間に「色々あった」のだが、それは1年駆けて全編を放映する長いドラマだからこそであって、90分にまとめるならこれだけで説得力が付いてしまうという典型だ。
 こうしてビルフランはペリーヌの愛情こもった態度によって変化したところで、フランソワーズが登場し「オーレリィはエドモンの若い頃にそっくり」と語る。もうここは「王道的」な展開だ。目が不自由で自分が知り得ることの無かったオーレリィについての情報をフランソワーズから聞いたビルフランがフィリップ弁護士を呼び出す、というのは感動シーンへ向けて待ってましたってところだろう。
 フランソワーズの見舞いが済むと、もう感動のあのシーンだ。暖炉が暖かそうな部屋でペリーヌがビルフランに本を読んで聞かせているところへ、フィリップ弁護士にもれなくテオドールがついてやってくるあのシーンだ。フィリップ弁護士による「エドモンの娘に関する最後の調査」がノーカットで演じられ、祖父と孫の感動の抱擁。ここまで1時間強しか見ていないと言うのが信じられないほどの清々しいシーンだ。
 感動シーンの後、ペリーヌが何故名乗りでなかったかをビルフランに語るシーンを挟むと、もう話は「ビルフランの目」へと進んで行く。彼の「孫の顔をひと目みたい」という気持ちが上手く伝わってくるように編集され、今度は感動のビルフランが始めて孫の顔を見るシーンだ。このアニメには感動シーンがふたつあって、このふたつでもって物語に結論が出るという構造をこの完結版でも上手く再現し、物語の持つ「空気」をキチンと再現したのは嬉しい。
 そして残った時間で本編最終回に演じられた「オチ」も再現する。パリカールがペリーヌの元に戻り、ビルフランが過去の思いとペリーヌへの思いを語り、最後は二人のダンスで幕を閉じるのは本編と同じだ。
 後半はペリーヌとビルフランの物語に的を絞り、その中でファブリ以外の登場人物の活躍が減ってしまったのは残念だが、ロザリーの例を挙げるまでもなくその少ない登場回数で登場人物はならではの味を出し、「ペリーヌ物語」という作品の空気まで再現したのは素晴らしいと言わざるを得ない。
 その上でこの物語の構造をも壊さず、2回にわたる感動シーンもちゃんと再現したのは秀逸であり、「総集編」としては上手く出来ていると感じた。

・まとめ
 この完結版は「ペリーヌ物語」後半の世界観を忠実に再現し、物語が持つ「空気」までも上手く伝える事に成功している。その意味では「南の虹のルーシー」完結版と同様であろう。「南の虹のルーシー」完結版も本編アニメの展開を余すところ無く再現し、物語が持つ「空気」を上手く再現しているのだ。
 つまり欠点も「南の虹のルーシー」完結版と同じなのだ。つまりこの完結版で視聴者が「お腹いっぱい」になってしまう可能性を十分に秘めているのだ。こうなってしまっては初見の人が「ペリーヌ物語」本編に興味を持たなくなってしまい、作品世界の入り口としての総集編の役割を果たせなくなってしまう。こうなってしまうと「南の虹のルーシー」完結版と同じく「総集編としての作品の仕上がりはとても良いのだが、役割を考えれば良いとは言えない」という評価を下さざるを得ない。

・おまけ
 タルエルやテオドールというのは、主人公の敵役ではあるけれどサラリーマンとしては憎めないコンビ。前半ではこの二人がたっぷりとペリーヌをいたぶってくれるが、後半では活躍が無くて残念。特にペリーヌの正体を知ったテオドールがタルエルに真実を告げるシーンと、ペリーヌの正体を知って以降気持ち悪い位に人が変わるタルエルのシーンは好きなのに。
 どうでもいいけど、ペリーヌのトロッコ押しは子供の頃に見たとは「自分もやってみたい」と思ったもんだ。。

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