「小公女セーラ」完結版ついて

編集内容
 ・総集編形態…特定エピソード集中形(クリスフォードとの関わりが話の中心)
 ・再現範囲…11話〜46話(36話分)・前半11〜35話(25話)・後半35話〜46話(12話)
 ・オープニング「花のささやき」(本編と同じ) エンディング「ひまわり」(本編と同じ)
 ・ナレーション 藤田淑子(本編外の概要説明等) 荘真由美(本編中)

「完結編」製作に当たっての設定変更点
 ・セーラが特待生だった頃のエピソードは全面カット、その頃のセーラに人徳があったのは前提条件へ変化。
 ・セーラが嵐の中に買い物に出た際、ラビニアの服の件については無かったことになっている。
 ・「魔法」の回数は2回で2回目でミンチンに見つかった(本編では3回で見つかったのも3回目)。
 ・セーラが学院を追放は本編では「馬小屋の火事」が理由とされたが、本作では「魔法」が理由とされた。
 ・追放されたセーラとピーターは偶然会ったのでなく、セーラがピーターを訪ねていった事とされた。
 ・セーラがミンチンへ賠償として「ベッキーと一緒」を要求した事が明確にされる。

内容の詳細
1話 前半開始 1話ミンチン学院の外見シーンをワンカットのみ採用
2話 (カット)
3話
4話
5話
6話
7話
8話
9話
10話
11話 誕生会前の着替えシーン 誕生会シーンはほぼ全面 ミンチンがセーラに父の死を告げるシーンを採用
12話 セーラがミンチンにメイドにされる事を告げられるシーン以降をほぼ全面採用
13話 セーラがジェームスとモーリーの元に連れて行かれたシーン以降を全面採用
14話 (カット)
15話
16話
17話
18話
19話
20話 セーラがアイロン掛けをしているシーンからベッキーに「意地悪はしているその人も決して良い気持ちじゃない」と語るまでを全面採用
21話 (カット)
22話
23話
24話
25話
26話
27話
28話
29話
30話 セーラが最初にクリスフォードらが引っ越してきたことに気付くシーン アメリアとモーリーが隣家に引っ越してくる人物について噂するシーン クリスフォード初登場シーンを採用
31話 ベッキーが屋根裏部屋に帰って来たシーン セーラとベッキーがラムダスに挨拶してからスーリャが飛び込んでラムダスが屋根裏に来るまでのシーン ラムダスがスーリャを捕まえて帰って行くまでのシーンを採用
32話 ミンチンの朝食中にアメリアが隣の主人について語るシーン セーラとベッキーが隣の家から医師達が帰って行くのを見送るシーン セーラがクリスフォードのために祈りを捧げるシーンを採用
33話 (カット)
34話 セーラが嵐の中買い物に出かけて歩き回るシーン 帰って来たセーラにジェームスが怒鳴りつけるシーン セーラが流しのベッキーの元で熱を出して倒れるシーン セーラが両親の写真を見つめるラストシーンを採用
35話 ワイルド医師の診察結果が出て屋根裏に消毒薬が撒かれるまでのシーンをほぼ全面採用して前半終了
後半開始 アーメンガードがセーラの屋根裏部屋を訪れて以降シーンをほぼ全面採用
36話 ラムダスがセーラの部屋の様子を窺うシーン その結果をクリスフォードに報告するシーンを採用 セーラが目をさまし最初の「魔法」シーン(ベッキーを呼びに部屋から出るまで)は全面採用
37話 セーラが快復して仕事に復帰した朝シーン ミンチンとモーリーに屋根裏部屋に踏み込まれるシーン 屋根裏への扉の前でセーラとベッキーが「魔法」が続いているか語り合うシーンを採用
38話 3度目の「魔法」でミンチンに踏み込まれるまでのシーンを採用
39話 (カット)
40話
41話
42話 ミンチンがセーラを突き飛ばした後の追放を告げるシーン セーラが学院を出て行くシーン ピーターがセーラから事の次第を聞かされたシーンを採用
43話 ピーターの家にアメリアが迎えに来たシーンを採用 ミンチンがセーラを迎えて以降のシーンをほぼ全面採用
44話 クリスフォードがセーラからの手紙を読むシーン セーラとベッキーが迷い込んだスーリャを助けるシーンを採用 カーマイケルがラルフの娘を発見できなかった事を報告するシーン以降はほぼ全面採用
45話 ミンチンがクリスフォード邸を来訪してから着飾ったセーラが階段を下るまでのシーンを全面採用
46話 セーラを乗せた船がインドへ旅立つラストシーンを採用 後半終了

考察・感想
 「小公女セーラ」は「世界名作劇場」シリーズ中でも「キツさ」ではとても印象深い作品である。いじめシーンの容赦の無さとキツさで印象に残っている人も多く、「ポリアンナ物語」と並んでシリーズ中期の良作でもある。
 同時に「赤毛のアン」と同様に原作小説がどちらかというと有名で、これもシリーズ外からの視聴者が入ってくる可能性が高い作品である。従って完結版という総集編では「キツさ」の再現で当時の視聴者を懐かしがらせるだけでなく、原作小説から入ってくる視聴者を納得させなければならない。
 「赤毛のアン」では本編が原作を忠実に再現していたから良かったものの、「小公女セーラ」は原作展開を大きく逸脱している展開も多い。その辺りをどのように処理するのかも見どころであると言っていいだろう。

・前半…殆どカットして早くクリスフォードを登場させる

 物語は本編第1話の最初にミンチン学院の建物が出てくるシーンから始まる、だからセーラがラルフに連れられて学院に来たところから始まるのかと思いきや、出てきたのは誕生パーティ直前のシーンだ。つまり物語はセーラの父の死判明から再現されることになる。11話のシーンを存分に使ってセーラのショックを描き、続けてセーラがメイドになることを告げられて働かされるまでをゆったりと再現する。特にセーラが屋根裏へ続く階段のドアを閉めるシーンを再現したのは、彼女の「どうなってしまうんだろう」という思いと「変わってしまった」という思いをキチンと物語に残すことが出来た。
 セーラが働き出すと、「小公女セーラ」らしいセーラがラビニアにいびられるシーンへと流れる。「おおっ、この調子でいくのか?」と思わせるほどこの20話相当シーンは引っ張るが、結果を言えばラビニアがセーラをいじめるシーンはここだけである。物語はそのまま学院の夏休みに入ってしまい、即座にクリスフォードが隣に越してくる。ここでクリスフォードが引っ越してきたシーンに時間を使ったのは、この人物がセーラの運命を変えるということを予感させるのに相応しいシーンだ。こうしてキチンとクリスフォードの存在が印象付けられたのはこの完結版の良いところである。でも物語が前半のさらに半分も来てないところでクリスフォードが出てくるのは、ちょっと違和感が。
 続いてスーリャが屋根裏に飛び込んでくるシーンを再現し、ミンチンなどの学院の人々が隣人を歓迎しないことを示唆するシーンの再現も忘れない。こうして今完結版の中での後半への伏線を張っておくのも印象がよい。
 夏休みの展開が終わるとセーラは唐突に嵐の中を歩いている。このシーンでは本編であったラビニアの服の件は無かったことにされ、純粋にセーラが嵐で難儀されているように描かれた。そしてセーラが病に倒れ、ワイルド医師が登場する。
 おおっ、これで「魔法」へ行くんだなとワクワクしながら見続けると、なんか唐突に前半が終わるのだ。話数の切れ目ではなく、本当に唐突だ。しかもなんか45分経ったように感じない終わり方である。この「早く感じる」のはやはり全編の視聴経験があるからだろう。前半では多くの部分がカットされ流れが速く、「次は?次は?」と思っているうちにどんどん時間が過ぎてしまうのだ。
 だが原作小説からこの完結版に入ってきた人はあまり違和感なく見られると思う。確かにこの前半は原作「小公女」に出てこないシーンも多いが、「小公女」の雰囲気を上手く掴んで編集してきたと思えるのだ。

・後半…「世界名作劇場」で入った人も原作小説で入った人も満足する編集
 後半は病に倒れたセーラをアーメンガードが見舞うシーンから始まる。ここでのアーメンガードファン大喜びのシーンをほぼノーカットで流してくれたのは嬉しいが、それだけでなくベッキーが薬を持ち帰るまでをゆったりと再現してくれる。こうしてセーラの苦しみをキチンと表現し、クリスフォードがこれに同情するという展開にしてしまう。そうなれば「魔法」へ話が繋がるのも説得力がつき、展開に不自然さも無くなってくるのだ。そしてその通りラムダスがセーラの部屋を覗き込んだかと思うと、屋根裏に「魔法」がかけられる。
 こうなったら次は「魔法」がバレる展開だ。これは原作「小公女」にはない展開だが、アニメ独特の展開として是非とも欲しいところでもある。セーラ回復後に一度だけミンチンに屋根裏へ踏み込ませ、「ミンチンがセーラの様子を疑う」という設定をキチンと植え付けてから「魔法」を破壊する。この「魔法」の破壊を短時間かつ説得力を持った編集にしたのはとてもうまいと思う。
 そして設定そのものを変更して、セーラは「魔法」を理由に追放ということにされる。これで「魔法」破壊から「追放」までの展開をスッキリ分かり易くし、しかもアニメ独特の展開をダイジェストで上手くまとめてきたと思う。追放されたセーラはピーターの紹介で「マッチ売りの少女」になるという展開も完結版に引き継がれ、この辺りは原作小説から入ってきた視聴者を大いに驚かせることだろう。
 そしてセーラがミンチンに呼び出されて学院に戻ると、小包の届いているあのシーンになる。ミンチンはセーラに有力な保護者が着いていると悟り、セーラの待遇が変わる様子もゆったり描かれる。原作小説を知っている人はいつの間にかに原作踏襲展開に変わっていることにこれまた驚くところだ。
 そしてセーラが手紙を書き、その手紙をクリスフォードが読み、セーラの部屋にスーリャが迷い込み、クリスフォードの元にこの日来るはずだった「ラルフの娘」が別人28号だった事がわかりと、本編や原作同様の忙しい展開をほぼそのままやってしまう。これぞ「小公女」らしい展開で、この忙しさの後で万を侍して「この子だ」シーンへ持って行くのは、「小公女」再現媒体ではもう定番の感もあろう。だからこそ「らしい」のであり、「世界名作劇場」から入ってきた人も、原作から入ってきた人も満足する編集に仕上がったと思う。
 最後はミンチンの前に着飾ったセーラが現れるあのシーンだ。もちろん燐家が好きでないミンチンが、セーラが勝手に上がり込んだことに怒り狂ってクリスフォード邸を訪れるという展開は変わらず、前半で植え付けた伏線が有効に使用されている。ミンチンがヘナヘナと倒れ込むと、セーラがベッキーと共にインドへ旅立って後半終了だ。
 後半はとにかく「小公女セーラ」らしさと「小公女」らしさがうまく両立できたと思う。セーラが病で倒れたり追放されたりという「小公女セーラ」独特の展開と、「魔法」がかかったり小包が届いたり「この子だ」のシーンがあったりという原作小説踏襲の展開が、上手くミックスされて、どっちとも取れる雰囲気を出すのに成功しているのだ。これで「世界名作劇場」というアニメから入った人も、原作小説からとりあえず完結版に入った人も両方とも楽しめる展開になったのは間違いない。そして「小公女セーラ」独特の展開は、原作からこの完結版にとりあえず入った視聴者を「世界名作劇場」版に引き込むだけの魅力に満ちた内容に仕上がったと思う。

・まとめ
 終わってみると、この総集編のメインはクリスフォードが隣に引っ越してきてから引き取られるまでを描いていたことになる。クリスフォード登場前のシーンは最小限に抑えられ、内容はそこまでの設定作りだけに留められている。だからこの総集編はセーラとクリスフォードの関係に絞って再現したと見る事が出来る、によって私はこの完結版は「特定エピソード集中形」の総集編に分類した。
 そして「小公女セーラ」の総集という本来の目的の他に、原作が有名だからこそ嫌でも背負わされる「原作小説から入ってくる視聴者を引き込む」という役割をも上手く果たしている良作と言えることが出来る。物語の随所に出てくる「小公女セーラ」独特の展開は「そこでどうなっているんだろう?」と視聴者に興味を持たせるよう上手く切ってあり、「世界名作劇場」という世界の入り口にある蟻地獄のような罠として機能しているのだ。
 だから、原作「小公女」だけを知っているという人には、積極的にこのアニメを見て欲しいと心から思うのだ。

・おまけ
 「アーメンガード萌え〜」シーンは11話・20話・35話相当の3回、彼女の活躍があまり無くてがっかり。
 劇中ナレーターは、「愛少女 ポリアンナ物語」のミリーや「愛の若草物語」のベスでお馴染みの荘真由美さん。このナレーターも前述した「小公女セーラ」独特展開で原作のみを知っている視聴者に「どうなっているんだろう?」と思わせる解説をさりげなくしている。完結版シリーズではたまにナレーターが語りすぎだと感じる事が多いが、「小公女セーラ」に関してはその「語りすぎ」がプラスに出ているから見ていて面白い。それだけ「小公女セーラ」が原作から外れていて、その部分が面白いと言うことなのだろうけど。

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