「トム・ソーヤーの冒険」完結版ついて

編集内容
 ・総集編形態…特定エピソード集中形(トムとインジャンの対決)
 ・再現範囲…1話〜49話(全話)・前半1〜40話(40話)・後半42話〜49話(8話)
 ・オープニング「誰よりも遠くへ」(本編と同じ) エンディング「ぼくのミシシッピー」(本編と同じ)
 ・ナレーション 藤田淑子(本編外の概要説明等) 野沢雅子(本編中・本編のナレーションを流用)

「完結編」製作に当たっての設定変更点
 ・ベッキーの転入生設定がカットされ、最初からいるかのような編集となっている。
 ・ベッキーとベン以外の学校の仲間達のエピソード全面カット。
 ・ハックは最初から木の上の家に住んでいたことになっている。
 ・ジム、ハックの父親、デビット一座、アーサー、サリーおばさんとその一家の不在。

内容の詳細
1話 前半開始 トムが朝目をさますシーン トムが石板にドビンズ先生の似顔絵を描くシーンを採用
2話 (カット)
3話
4話
5話
6話
7話
8話
9話
10話
11話 トムとハックが深夜に宝を掘るシーンを採用
12話 河原でのトムとベッキーの婚約シーンを採用
13話 トムがベッキーに口を滑らせたことを悔やむシーン ベンが父親と大喧嘩するシーン トムとベンが木の上で家出して海賊になろうと語り合うシーン トム・ハック・ベンの3人が筏に乗ってジャクソン島へ向かうシーンを採用
14話 3人の島探検から夕立に遭うシーン ポリーやベッキーが行方不明のトムを心配するシーンを採用
15話 (カット)
16話 3人の葬式シーンとにそこに本人達が現れるシーンを採用
17話 (カット)
18話
19話
20話
21話
22話
23話
24話
25話
26話
27話
28話
29話
30話
31話
32話
33話
34話
35話
36話
37話
38話 ほぼ全面採用
39話 トムとハックがこのままでは自分達がインジャンに狙われると語り合うシーン 獄中のマフに差し入れをするシーンを採用
40話 トムが弁護士の元へ駆けるシーン マフの裁判シーン インジャンの逃亡シーンをを採用 前半終了
41話 (カット)
42話 後半開始 トムと保安官がインジャンの行方について語り合うシーンを採用
43話 (カット)
44話
45話
46話 ほぼ全面採用
47話
48話
49話

考察・感想
 「トム・ソーヤーの冒険」は「ピーターパンの冒険」と並んで「世界名作劇場」シリーズの中で最も原作が有名な作品(日本国内の話)だと思われる。これらは東京ディズニーランドで作品が取り上げられ、作品の世界観を忠実に再現したアトラクションがあるため、こちらから入って来る人が多数あるのは間違いないだろう。だが「トム・ソーヤーの冒険」がアニメなどで再現されているのは国内ではほぼ「世界名作劇場」シリーズだけだと考えられ、この作品は「世界名作劇場」というシリーズを意識せずに入って来る視聴者が多いことだろう。つまり「一見さん」に見られる確率が最も高いのだ。
 だからこそ「世界名作劇場」シリーズここにあり、という作品に仕上げて一人でも多くの人に「こっちを向いてもらう」必要がある作品でもあるのだ。こんな作品をどう総集したのか、注目的はここだった。

・前半…話の展開速すぎ!

 前半の始まりこそは驚くべきところではない。本編の第1話シーンからちゃんと始めていて、このアニメを全話通しで見た経験者も違和感なく始まるだろう。トムの朝寝坊とドビンズ先生に鞭打ちされるシーンという「おやくそく」を第1話から選んで流すと、話は唐突にトムとハックが深夜に宝を掘っているシーンとなる。いきなり10話分ストーリーが飛んだわけで、この間のトムとベッキーの出会いと接近は全部カットされ、ベッキーは「最初からいた人」という設定へ替えられた。だがここは細かく言うところではなく、むしろこの物語を簡潔にまとめるためには必要だと割り切って見るべきところだろう。
 宝探しのシーンが特にオチも付かないまま終わると、唐突にトムとベッキーが河原で語り合うシーンになる。二人は何の脈略もなく仲良くなっていて、突然のトムのプロポーズに始めて見た者は唐突で驚くだろう。だがトムが口を滑らせたことで大喧嘩、そのままガールフレンドを怒らせたトムの失意を描いたかと思うと、ベンが親子喧嘩しているシーンに切り替わる。ストーリーを知っている人にはもうミシシッピー川に浮かぶ無人島の光景が思い浮かんでいる事だろう。トムとベンが家出をしようと決意し、あっという間に話はハックも含めた3人が筏で漕ぎ出すシーンとなる。忙しい。
 無人島で朝を迎え楽しそうな3人の冒険が描かれるが、その裏側で街の人々が3人の少年の姿が消えたと大騒ぎになるシーンを流すと、もう「トムの葬式」だ。この流れに「…それだけ?」と思った人も多いだろう。あらすじ的には間違いないが無人島での冒険や3人の苦悩を描かなかったのはちょっと拍子抜けだった。まぁ葬式のシーンがほぼノーカットだからそれはそれで良いけど、なんか急ぎすぎると思っているとこの先の展開でその理由が理解できる。先に結論を言うとこの家出して無人島に渡るエピソードまでは、この完結版では「前置き」に過ぎないのだ。
 トムの葬式が終わると、一気に20話以上も話が飛ぶ。ドビンズ先生のヅラの話も、病気にならない薬の話も、アルフレドとの決闘も、ハックとリゼットの恋物語、天から降ってきた男の話も全部無し。ついでに言うとトムとベッキーの喧嘩までいつの間にか無かったことになっている。そして物語が飛んできた先は、トムとベッキーが「化け物屋敷」を訪れるシーンである。「えー、そこまで?」と全話視聴経験のある人は思うことだろう。だがそういう人はすぐにピンと来る、「この総集編はトムとインジャンの闘いに絞る気だ」と。つまり完結版ではここからが本題なのだ。
 そしてインジャンがトムとハックがコッソリ見ている前で殺人事件を起こし、それをマフがやったように偽装する。トムとハックの恐怖と、本当のことを知っているが故の良心の間で揺れ、二人がマフに差し入れをしたときにこの男の本来の姿を見た事でトムが「本当のことを言おう」と決意する過程がダイジェストで描かれる。この過程は無駄なところを省きその展開だけに上手く絞って、見る者を混乱させないように配慮がされている。そしてマフの裁判シーンでトムが恐怖に震えながら真実を語り、人々の前でインジャンの悪事が明らかにされたところでこの前半が幕を閉じる。こうしてトムが「インジャンから恨まれる立場」という設定を前半の後ろ半分を使って丁寧に描き、後半の手に汗握るシーンに説得力を付けたのだ。
 究極に簡単に言えば、この前半は「設定付け」だけで終わってしまったかも知れない。無人島の冒険は前置きとしてではなく、トムの英雄的素質を視聴者に植え付ける役割があっただろう。その上でディズニーランドからこの物語に入ってきた人に「無人島」の存在でもって、彼らの体験とこのアニメを繋ぐという役割を持たされているのだ(ディズニーランドにはこの無人島を模したアトラクションがある)。そしてその英雄的素質を持ったトムでも殺人鬼の前では恐怖に震えるという子供らしさをもちゃんと植え付け、後半でトムがこの悪党と対峙する設定として視聴者に強く印象付けたのだ。

・後半…「手に汗握るリアルな対決」を再現
 前半の展開を考えれば、後半はこのインジャンとの対決に入って行くことは視聴経験のない者でも容易に想像が付くだろう。特にディズニーランドから入った視聴者には、「無人島」「インジャン」というディズニーランドにも出てくるキーワードはちゃんと示されている。ところがディズニーランドのアトラクションでは「インジャン」というキーワードにもれなく付いてくるのは「洞窟」というキーワードだ。こうしてこの物語に入ってきて、このDVDを見ている人の気持ちはもう既に「洞窟」に行っている。洞窟無しには物語は終われないのだ。
 後半冒頭こそはトムと保安官がインジャンの行方について語り合っているシーンだが、それを過ぎたら上表の通り本編の最後の4話をほぼ丸々流す(細かいシーンはカットされているが)かたちである。ハックの家が壊れたからとトムと二人で例の「化け物屋敷」へ行ったら逃亡していたはずのインジャンと鉢合わせ、なんとかそこから逃げ出すと今度は街の子供達のピクニック。トムとベッキーの二人がここから抜け出して洞窟に入って行くと、ディズニーランドでこの物語を知った人は「きたーっ!」と思うことだろう。一方のハックは「化け物屋敷」でインジャンと一緒にいた男が他殺体となって川に浮いているのを発見、保安官はハックの証言からトムとベッキーがいるその洞窟こそがインジャンの隠れ家だと判断して洞窟へ走る。ほぼノーカットだからこそ展開に破綻がない。
 トムとベッキーが洞窟の中で道に迷った不安感も余すところ無く再現だ。ベッキーが泣き出し、ベッキーの前では「男」を演じていたトムも一人になって灯りを失うと泣いてしまう。そんなところへインジャン発見という絵に描いたようなストーリーもノーカット。
 トムはベッキーに何も言わずに逃げ、保安官の声が聞こえるとその方向からインジャンが現れるという恐怖のシーンも迫力満点だ。結局インジャンは保安官が逃れようとして事故死してしまうが、その直前のトムとインジャンの会話をカットしなかったのは好感だ。この90分一本勝負の中でインジャンを根っからの悪党にして勧善懲悪にすることはせず、彼にも子供には手加減するほどの人情を持たせている点をカットしなかったことで「らしさ」を失わなかった。そしてインジャンの事故死を聞いたトムの複雑な心境を出したことで、トムがインジャンから逃げていたのでなく「戦っていた」という展開でオチを付けられた。
 後は物語の「オチ」であるが、これも最終回のほぼ全編を流すというゆったりした話だ。トムとハックがインジャンの大金を発見したことがきっかけで、周囲から見れば幸せだがハック個人にとっては不幸な運命の変化が訪れる。ここのハックについても「大金持ちの養子になりました、よかったね」とせずに、ハックがここでの生活に慣れずに精神的に疲弊している事をキチンと描いたのは、ハックのハックらしさをキチンと描いて見る者に印象付けられたと思う。
 そしてラストは本編ラストと同じ「格好悪い終わり方」だ。ここで前半冒頭でわざわざ第1話のシーンを再現したことが生きてくる。前半冒頭の第1話シーンは本来は要らないが、このオチを考えると必要だと言うことだ。これでトムが学校で鞭打ちされる事で始まり、学校で鞭打ちされる事で終わるという「起承転結」が上手く付いたと言った良いだろう。
 後半は前述したように、「最後の4話をほぼ完全再現」という方針であったため物語展開に破綻が無く、またトムとインジャンのまるで運命付けられているような接近と対決が上手く描かれた。これを見た子供達は興奮して手に汗握って見ることができただろう。同時にトムの子供としてのリアルさ、正義の味方のように聖人君子的に再現せず、怖いものには恐怖して、好きな女の子の前では格好つけ、一人で恐怖の中に放り込まれたら泣くという自然な子供の姿を余すところなく再現したことは良くできていると思う。この子供としてのリアルさこそが、トム・ソーヤーというキャラクターなのだから。

・まとめ
 この完結版は正直言って、「ディズニーランドのアトラクション」はかなり意識したと思う。ディズニーランドで本作品を扱ったアトラクション「トム・ソーヤー島」で出てくるキーワードを極力入れるようにしているのだ。だが考えようによっては、トムとインジャンの対決を中心に据えて物語を転がせば「無人島」以外のキーワードはほぼ必ず出てくると言っても良いだろう。
 だからといってこのDVDは、本作初心者向けかというとそうでもない。全話視聴をした経験のある人から見ても、物語のヤマ場を上手く再現していて楽しめると感じる。ただトムとベッキーの関係については本編よりも簡単にされていて、ちょっと残念に感じるところがあるだろう。トムとベッキーは序盤では徐々に近付いて仲良くなり、中盤ではライバルの登場や喧嘩など二人の間に危機感が生まれ、だからこそ終盤ではこれらの危機を乗り越えた二人が手を合わせてインジャンから逃れようと戦うことができるのだ。その二人の関係の成長については、このDVDを見た人には是非とも本編で見て頂きたいところだ。
 総集編としての仕上がりも悪くないし、また無人島の話では「この間にもっと面白いことがある」と言うことをさりげなく示唆して、初見の視聴者を引き入れようとしている点もある。つまりこの総集編の存在理由と重ね合わせてみれば、視聴経験者には少し物足りないかも知れないが初見の人を考えれば上手く出来ていると評価することは可能だろう。

・おまけ
 この物語で演じられた冒険ミッションは、「海賊の宝探し」「無人島での海賊訓練」「深夜の化け物屋敷探検」「マフに差し入れ」「化け物屋敷をハックの家にする」「洞窟探検」と言った辺りだろう。今後「トム・ソーヤーの冒険」を本サイトで全話考察する機会があったら、1話ごとに「冒険ミッション」を取り上げる予定だ。いつのことやら…。
 またポリーおばさんは良く出てきたが、その娘のメアリーやトムの弟シッドは殆ど物語に出てこなかった。

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