「愛の若草物語」完結版ついて

編集内容
 ・総集編形態…ダイジェスト再現形(ローリー登場以降の全編)
 ・再現範囲…15話〜46話(32話分)・前半15〜28話(14話)・後半29話〜46話(18話)
 ・オープニング「いつかきっと!(1番)」(本編後期奇数話と同じ) エンディング「お父さまへのララバイ」(本編後期と同じ)
 ・ナレーション 藤田淑子(本編外の概要説明等) 佐久間レイ(本編中・本編のナレーションを流用)

「完結編」製作に当たっての設定変更点
 ・マーチ家一家がゲティスバーグから焼け出される過程は設定ごとカットして無かったことになっている(原作踏襲となる)。
 ・デービット、ジョン、トムの不在。
 ・メグとブルックの恋愛については全てカットされ、ブルックの片思いという風に編集されている。
 ・ジョオが最後ににニューヨーク行きとなる展開は全てカットされて設定ごと無くなっている(原作踏襲となる)。

内容の詳細
1話 (カット)
2話
3話
4話
5話
6話
7話
8話
9話
10話
11話
12話
13話
14話
15話 前半開始 マーチ家の様子を覗くローリーとブルックの会話シーン メグが母にサリーという友人が出来たと語ることをきっかけに母がベスに友が出来るか不安がるシーン ジョーとアンソニーの会話シーンを採用
16話 (カット)
17話 マーサが狭心症だとわかりそれについてジョオと語るシーンを採用 ジョオ宛の手紙をエイミーが届けに来たシーン 「人民の人民による人民のための政治」のシーンを採用
18話 メグの帰宅シーンをのぞき見るローリーのシーン メグがジョオに舞踏会に招待されたことを告げるシーン ガーテナー家の舞踏会に招待されたことをジョオがマーサに語るシーンを採用 舞踏会シーンをほぼ全面採用
19話 ローリーが何故マーチ家を見てしまうのか語るシーンを採用
20話 (カット)
21話
22話
23話 ほぼ全編を採用
24話 (カット)
25話 ベスがローレンス家のピアノを弾くシーン エイミーとベスがメグとジョオに「お願い」をするシーン ベスがローレンスへのプレゼントを作るシーン ベスがローレンスの部屋にプレゼントを置くシーン それを見つけたローレンスのシーンを採用
26話 帰宅したベスにピアノがプレゼントされるシーン ベスがローレンスにお礼を言いに行くシーンを採用
27話 (カット)
28話 小説を書いていたジョオが咳き込むエイミーに気付くシーン ローリーが芝居のチケットー購入するシーンと 芝居見物に招待されたジョオに「連れて行ってくれ」とエイミーが懇願するシーン以降はほぼ全面採用 前半終了
29話 後半開始 原稿を燃やされたことでジョオとエイミーの大喧嘩シーン ジョオのローリーのスケートに着いていくようエイミーがメグに勧められるシーンを採用 スケートのシーン以降は全面採用
30話 母がジョオの手の怪我を手当てして説教するシーン ジョオとエイミーの和解シーンを採用
31話 (カット)
32話
33話
34話
35話
36話
37話 ほぼ全編を採用
38話 姉妹が部屋で不安に過ごすシーン ローリーがメグとジョオに電報を届けるシーンを採用
39話 (カット)
40話 ベスがフンメル家から飛び出してくるシーン 薬箱を漁るベスをジョオが見つけて事の次第を聞くシーン メグの帰宅してベスの病床へ行くシーン エイミーがマーサに預けられるシーンを採用
41話 ローレンスがベスを見舞うシーン メグが家の前で医師の到着を待っているとローレンスと逢うシーン ベスの診察シーン メグが母に電報を打つと決心したシーンを採用
42話 ベスがメグに「治らないんじゃないかしら?」と訴えるシーン 医師がベスの容態が最悪だと診察結果を語りローレンスが「ベスを助けてくれ」と懇願するシーン ジョオの疲弊とそれに対するローレンスの会話シーン ベスの快復シーン 母が帰りエイミーに会いに来たシーンを採用
43話 (カット)
44話
45話
46話 クリスマス当日の朝のシーン 父の帰宅シーンを採用 後半終了
47話 (カット)
48話

考察・感想
 「若草物語」も原作は有名で「世界名作劇場」シリーズ外からの視聴者が期待できる作品の一つであろう。それに対しこれをアニメ化した「愛の若草物語」ではオリジナルの要素が大きく、また原作踏襲エピソードでも大幅に手が加えられている事が多く、物語全体の雰囲気はかなり原作小説からかけ離れている。
 もちろんシリーズ外からの視聴者を取り込むなら原作の雰囲気を中心に据え、所見の人が「あ、この物語知っている」と思うようでなければならない。その上でオリジナル話や改編ストーリーを見せて興味を引きつけるという手法に、はまりやすい人は多いことだろう。

・前半…「愛の若草物語」を捨て「若草物語」に

 前半が始まって最初に出てくるキャラクターはなんとローリーである。ローリーがブルックの個人授業をサボってマーチ家の様子に見入っているシーンからスタートだ。この設定は原作通りなのでシリーズ外からの視聴者には非常に取っ付きやすい内容であると言う事が出来るだろう。そして物語はすぐにメグとジョオが舞踏会に呼ばれる展開となり、ローリーがマーチ家の知人となるよう展開する。この間に「人民の人民による(以下略)」のストーリーを入れ、アンソニーなど「愛の若草物語」オリジナルのキャラも出てきて一応「愛の若草物語」の最小限の体裁は保つが、本題的には原作に沿った内容しか流れていない。
 舞踏会が終わるとすぐにジョオとエイミーがローレンスから茶に招待される話となり、ベスとピアノの4部作ダイジェストへと突入して行く。本編で言う23〜26話相当の物語をベスとローレンスの関係のみに絞って物語を抜き出し、合間の余計な話を全部カットしてくれたのはベスのファンとしては嬉しいところだろう。同時にこれで物語も完全に原作に沿うエピソードとなり、シリーズ外からの視聴者も納得しながら見る事になるのは確かだ。そして感動のピアノ贈呈シーンと、ベスがローレンスに抱かれるシーンがこの前半のハイライトとも言える。
 ベスとピアノのエピソードの次は、メグとジョオがローリーから芝居見物に招待され、エイミーが置き去りにされるあの話だ。置いて行かれたエイミーが怒りにまかせてジョオが書いた小説の原稿を暖炉に放り込むシーンで前半が幕を閉じる。
 こうして見てみると、原作の前半におけるクリスマス以外のおいしいところは全部再現した感じだ。そして「愛の若草物語」独自の展開はほぼ捨てており、タイトルに「愛の」を着けず「若草物語」と自信を持って言いきって良い内容に変化した。原作の雰囲気から脱線しがちだった本編アニメが嘘のように、原作踏襲の物語として原作からこのアニメに入る人にとって違和感のない内容になった。もうこれは「愛の若草物語」ではなく、このアニメが「若草物語」に生まれ変わったと痛切に感じた。

・後半…「若草物語」の「暗さ」を再現
 後半は前半を受けて、折角書いた小説の原稿が行方不明になって怒りまくるジョオを描くところから始まる。やがてジョオとエイミーの大立ち回りが演じられたかと思うと、すぐにジョオのローリーのスケートにメグの助言でエイミーがついて行かされるシーンとなる。そしてエイミーが事故を起こして死にかけ、これをきっかけにジョオとエイミーの和解までが一気に描かれる。ここで姉妹の「母の大きさ」もしっかり描いて「若草物語」通りの母親を印象付け、また原作通りに展開をなぞることでシリーズ外の視聴者へ向けた編集として展開して行く。
 ジョオとエイミーの件が一段落つくと、原作であまりにも難解だったのでアニメでは大幅に改編された物語中盤は全てカットされて、いよいよ終盤の父が病に倒れたと電報が届くシーンなる。一家が苦境に立たされたことにより姉妹の不安、そして何とかしようと髪を売るジョオの姿が上手くまとめられ、物語はいいテンポで駒を進めて行く。
 そして突然出てくるフンメル家から飛び出すベス、こうしてベスが病に倒れた事で物語は一気に陰鬱になる。これはアニメ本編も原作も雰囲気は全く同じで、どちらにもある「長いトンネルに入っちゃった」感がこの完結版でも見事に再現されるようシーンを上手く抜き出したのは見どころだと思う。そしてエイミーはマーサに預けられ、メグとジョオの必死の看病、ローレンスの見舞い、影で働くローリーという連携が本編アニメの雰囲気も、原作の雰囲気も潰さずに再現して行くのだ。
 やがてベスが快復し、母が戻って来るともう物語はクリスマスだ。原作通りクリスマスを祝っているところに突然父が帰宅し、この完結版はここで幕を閉じる。その後に描かれるメグとブルックの恋愛(原作でもある)や、終戦やジョオの旅立ち(「愛の若草物語」独自の完結)という要素は全て排除された。
 後半も前半を引き継いで「若草物語」として完成したと思う。特に父が病に倒れ、それで母が不在になったところでベスが倒れることによる「物語の暗さ」が短時間ながら上手く再現されていた。ここは「若草物語」にしろ「愛の若草物語」にしろ姉妹が団結して戦うという見どころの一つであり、またここでの「物語の暗さ」は本編アニメを見た人も原作小説を読んだ人も強く印象に残った点であろう。

・まとめ
 この完結版は、何度も前述したが「世界名作劇場」シリーズの「愛の若草物語」を上手く編集して「若草物語」を作ったと言っても過言ではない内容だ。本編アニメの原作に忠実なところだけを順を追って抜き出し、本編アニメ独自のシーンはほぼ全部がカットというものとなった。また本編アニメ中でも原作踏襲だったがいわゆる「劣化コピー」になってしまった展開は、アニメ独自展開以上に徹底的に排除されているのも嬉しい。例えばエイミー登校拒否のエピソードや、最初のクリスマス、メアリーやハンナまでが休みを取ってしまい姉妹だけが取り残される話、野外パーティの話に、ジョオの小説が新聞に載る話など(全て原作基準で書いた)、アニメ制作者が原作の意図を理解していないんじゃないかと疑いたくなるような「劣化コピー」の話の排除は見ていて気持ちよかった人は多いだろう(特にアニメと原作の双方を知っている人)。だからこそこの完結版が「愛の若草物語」を捨てて「若草物語」になれたのは非常によかったと思う。
 だがこの「愛の若草物語」が好きだという人にとっては物足りないのは確かだと思う。本編で最もぶっ飛んでいる34話が全面カットされていたり、ジョオとローリーとアンソニーの三角関係と言った要素がカットされたのは残念な面でもある。序盤のゲティスバーグから焼け出される展開がカットされた点や、最初はマーチ家を毛嫌いしていたマーサと少しずつ近付く展開などがカットされたのは賛否両論あるだろう。
 だがやはり、「若草物語」という原作に忠実になったことで、この完結版が多くのシリーズ外からの視聴者を「世界名作劇場」シリーズに取り込むことになる優作になったのは確かだろう。

・おまけ
 完結版ではジョオとベスが主役を取る話が多く採用されたせいで、どうしてもこの二人が印象に残る。その穴埋めかどうかは知らないが、他作品のように完結版編集時に新規の劇中ナレーションは一切入れられず、本編のエイミーによるナレーションがそのまま流用されている。またエイミーが原稿を燃やしたり池に落ちたりという印象深いところばかり引き抜かれているのでジョオより印象度が高いかも知れない。対してメグは主役になるエピソードが殆ど採用されず、この完結版だけ見ていると不遇のキャラに見えてしまうのが痛い。

前のページに戻る