西武鉄道20000系フラれた

 さて、私は西武球場前でのイベントの様子でも見に行こうと思って、やって来た普通上石神井で西武新宿線を西進していた。車内はガラガラで、カメラバックを広げて濡れたカメラのふき取り等の作業をするのには充分であった。手がかじかんで指先が思うように動かなかったが、終点の上石神井に到着するまでにはそれを終えることができた。
 上石神井で後続の準急本川越に乗り換え、車内には沿線で20000系を追いかけていたとおぼしき、カメラを持った人たちも多数乗っている。準急といっても上石神井以西は全駅停車である。列車は丹念にひとつずつ駅に止まりながら、西へ向かう。田無に着くまでに外の雨は雪に変わり、多摩地区全体が雪になっていることも用意に想像できた。雪の小平駅で急行西武遊園地に乗り換え。車内はさらにカメラを持った「いかにも」って感じの人が増える。この急行も新101系。野方で粘っていればよかった。

 西武遊園地で山口線に乗り換えて雪の西武球場前駅に到着した。駅の雰囲気が普通のイベントとは違う。主役の20000系前でなく、1番ホームエンドに人だかりができている。何故だろう? と思っていると入ってきた西所沢からの狭山線区間列車は、残り数両しかいない新101系ツートンカラー車。西武鉄道は3年前から101系の塗色変更をしていて、黄色とグレーのツートンから黄色一色への塗り替えがほぼ完了しているのである。そこへこのイベントにあわせるかのように、残り数少ない貴重なツートンカラー車を狭山線に運用するとは…西武はイベントが上手すぎる。私も慌てて山口線ホームから狭山線ホームへ走り、貴重なツートンカラー車の撮影をした。

 こうなるとじっとしていられないのが人情である。狭山線沿線の景色が良いところで撮影したくなってくる。でも20000系狭山線内イベント列車の発車まで時間がない。ものになりそうな撮影地まで歩いて小一時間かかる。現地に着いた頃にはイベント列車は行ってしまうのだ。
 私は賭けに出た。今から山口線で西武遊園地に折り返し、そこから家まで走って愛車で出直せばイベント列車通過に間に合うのではないか。山口線が待ち時間入れて10分、西武遊園地から小走りで家まで20分、クルマで撮影地まで10分、何とかなる。私は慌てて20000系グッズを買い、駅構内で数枚写真を撮ってから山口線で折り返した。
 新101系ツートンカラー車が狭山線運用に入ってなかったら、このような撮影は考えなかったに違いない。


西武球場前イベントでの一こま

 その決断から40分後、計算通りに私は狭山線沿線のある踏切にいた。降り続いていた雪は何時しか小降りになり、撮影にちょうどいい状況であった。慌てて車から降り、慌ててレンズを交換し、慌てて構図を決めると一息つく間もなく踏切が鳴り始めた。20000系との初デートはやっぱり完全にフラれた訳ではなかった。私のカメラをSカーブを曲がる彼女の姿を、美しく捕らえたのだった。


狭山線を行く20000系、この日のベストショット。

 さらに折り返しイベント列車をその場で待つ間に、101系ツートンカラー車がそこを通ることも分かった。長玉を片手にいろいろアングルを構えると、通りすがりの人が白い目で見て行く。最初はあまり気にしなかったけれど、何だろうと思って辺りを見ると、女子中学生の運動部がジャージや体操服姿で練習している。確かにこれじゃアブナイ人だ、ここで今日「女子中学生誘拐事件」なんか起きれば、真っ先に警察が飛んでくるなと思った。101系ツートンカラーが通過した。


踏切を通過する101系。左が旧塗色、右が現在の塗色。

 下り列車撮影のために行こうとしている場所は、その女子中学生が練習しているまさにその場所である。保護者らしい年輩の男声も私の動向を怖い顔で見ている。思い切って聞いてみた。
「すいません、電車の写真撮りたいんでちょっと入っていいですか?」
 その人がホッとした表情で
「いいよ、一回千円(笑)」
とジョークまで出る始末。
「なんか珍しい電車でも来るの」
と聞かれたので、新型電車のイベント運転をやっていると教えてあげた。
 そんなこんなでカメラを構える。また101系ツートンカラーが通過する。試験撮影、満足な構図である。試し撮りではなく浮気? 20000系が気を悪くしそう。


101系ツートン車を試し撮り? いやいやこっちも本命。

 同じ場所に鉄道好きなカメラマンが二人やって来た。時間がなくて慌てて準備している。
 ほどなく踏切の音が聞こえた。来た、20000系である。今日の20000系との最後のデートになった。


本日最後の写真。またデートしようね。

 一緒に撮影した人との会話も弾む。お互い満足な写真が撮れたようだ。

 この日は寒い中を強行したので、身体を冷やしてしまい風邪を引きそうになったので、上りイベント運転は諦めて帰ることにした。クルマで家に帰ると雪はすっかり止んで夕方には晴れ間も出てきた。天気回復するなら、上りイベント列車も行けばよかったと、夕焼けを見ながら後悔した。

 でも20000系の時代はまだ始まったばかり、これからもあちらこちらでデートするぞ。

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