特別企画

インサイトに1年乗ってみて・追記

 「インサイトに1年乗ってみて」に回生ブレーキについての記述を書いた。この中に私の誤解があったので今回弁解として、某巨大掲示板で指摘を受けていろいろと調べてみた結果を書こうと思う。同時に現在世間を騒がせているプリウスのリコール問題についても思うところを書きたい。

1.回生ブレーキに対する誤解
 件の記事で回生ブレーキが機械ブレーキと連動しているような記述を書いたが、インサイトの場合はそうでなく回生ブレーキと機械ブレーキは個別に動いているらしい。つまりブレーキペダル踏量によって運転者が欲しているブレーキ力を判断し機械ブレーキと回生ブレーキの量を分配している訳ではなく、ブレーキペダル踏量に応じた機械ブレーキは必ず掛かった上で、その機械ブレーキ力に応じた回生ブレーキを追加しているというかたちが真相のようだ。

 まずそれについて詳しく書かれているサイトを見つけたので、勝手にリンクしておく(勝手にリンクしているので苦情等あったらすぐにリンク外します)。ただこのサイトに出てくるインサイトのブレーキ制御のイメージを示したグラフは運転している人間が感じているものと少し違う。これではちょっとブレーキを強くしただけで回生ブレーキが頭打ち(チャージメーターが回生側に振り切る)になってしまいそうだ。頭打ちになるには少し強めにブレーキを踏むことになるのでこれが実際にブレーキを掛けているときとイメージが違うのだ。
 いずれにしろインサイトでは回生ブレーキメインで動作することはなく、回生ブレーキは補助として動いていると理解した方が良いだろう。インサイトのバッテリーの大きさを考えれば、回生ブレーキメインでブレーキを掛ければあっという間にバッテリーが一杯になってしまうからちょうど良いかもしれない。バッテリー残量が強制充電がかかる領域まで下がったとしても、1〜2度停止するだけで残量が復活するのは回生ブレーキメインだからでなくバッテリーが小さいからというのが真相のようだ。

 そうするとインサイトのブレーキの使い形として、停止するときはしっかりとブレーキペダル踏むという私の説は正しいんじゃないかと思う。しっかり充電してクルマの慣性力を電気エネルギーとして少しでも多く回収するためには、やはりブレーキペダルをしっかりと踏むことで機械ブレーキに足される回生ブレーキ力が強くなるという事なのだ。ブレーキペダルを踏まなければ回生ブレーキは最小限しか効かないので充電量は減るし、弱ければブレーキペダルを踏まないのと同程度の回生量のまま機械ブレーキ分のブレーキ力が増えるだけということになる。

 私はやっていないが、ネット上で間違ったブレーキの使い方もいくつか見た。
 その中でも峠での下り坂でのブレーキのかけ方において、「ブレーキペダルを弱く踏めば回生ブレーキだけで坂を降りていける」との主張をある掲示板で見た。ここまでを読めばこれは間違いであることは誰にでも理解できるだろう。私はブレーキ制御に対する誤解に基づき、そのような使い方を考えたことはある。だが結局行わなかったのはそうした場合、回生ブレーキの使いすぎでバッテリー容量が一杯になったときは機械ブレーキを主体に使うことになって危険だと判断してやめたのだ。
 私の場合、下り坂で考えていたのは「インサイトのバッテリーは小さい」という点であった。半年の感想では「下り坂ではアクセルペダルもブレーキペダルも踏まない運転」をお勧めしたはずだ。これは長い下り坂でインサイトのバッテリーがすぐに一杯になってしまい、回生ブレーキは殆ど期待できないという意味で書いている。また長い下りだと分かる場合は逆に積極的に電動走行を使った方が良いとしてのは、電動走行で電気を使った分を下りで簡単に取り戻せるからだ。これらはバッテリーの小ささに対応した運転である。
 つまり下り坂ではSレンジにしてエンジンブレーキで下って行くことで、エンジンブレーキへの負荷を大きくして回生ブレーキ量を減らす方が良いのだ。するとバッテリーに少し余裕が出来て、回生ブレーキの持ちも長くなる。バッテリーが一杯になって回生ブレーキが効かなくなっても、そのままエンジンブレーキを効かせて行けば安全だ。

 ちなみに「回生ブレーキ」の概念自体を間違って解説しているサイトも見つけている。クルマが進もうとする慣性力をタイヤに接続されている発電機(モーター)で電気にすることでその抵抗力をブレーキにしているのなら自転車のダイナモも回生ブレーキの一種だ、またはエンジンで発電機を回して電気を得るオルタネータも回生ブレーキの一種だと解説しているサイトを見つけたのだが、これは大きな間違いだ。
 「ブレーキ」というのは乗り物や回転機械が持つ慣性エネルギーを吸収する行為である。慣性力というのは言うまでもなく動いている物体がその運動を続けようとする力で、クルマの場合はもし慣性力がなければアクセルペダルから足を離せば瞬時に車の速度はクリープ走行の速度まで落ちてしまう。そうならないのは慣性力がクルマを同じ速度に保とうとするからだ。もちろんクルマにはエンジンブレーキをはじめ、様々な走行抵抗があるのでアクセルペダルから足を離しても徐々に速度は落ちる。
 「回生」というのは「同じ物として生き返らせる(生きて回る)」という意味と考えるべきだ。つまり「回生ブレーキ」という言葉の意味は慣性力を吸収した際に得たエネルギーを、もう一度慣性力として生き返らせることが出来るということになる。電力的ブレーキだから「回生ブレーキ」という訳ではなく、鉄道ではブレーキ時にモーターを発電機にして得た電気を架線に戻して他の電車に使って貰う場合を「回生ブレーキ」、発電機から得た電気を抵抗器で熱に変換してしまう場合は「電気ブレーキ」「発電ブレーキ」と区別している。回生ブレーキで得た電力を架線に返した場合は、同じ架線の下にいる他の電車がその電気を加速に使うことで他の電車の慣性力に変換されているわけだから、「同じ物に生き返る」という定義の回生ブレーキという言葉に合致する。インサイトの場合、回生ブレーキで得た電力は次の加速でモーターを回すことにより、次の加速という慣性力を作る出すエネルギーの一部として使われ「別の慣性力に生まれ変わる」からやはり「回生ブレーキ」という定義に合致する。
 自転車のダイナモはそれとは違う。確かにダイナモを使用すれば前照灯が付き、その抵抗力で自転車の速度は落ちる(慣性力を吸収される)。だがその吸収された慣性力は前照灯を点灯させるだけで、それは次の加速で利用されるわけではなく別の慣性力に生まれ変わることはない。つまり自転車のダイナモは鉄道でいう「電気ブレーキ」には当たるが、回生ブレーキには当たらない。昔の鉄道車両は車輪に発電機がついていて、走行中に得た電力を一旦バッテリーに貯めこの電気を客室の電灯を点けたり電装品を動かすのに使っていたが、これを「回生ブレーキ」と呼ぶ人はいない。
 エンジンの回転力の一部を電気に変換して、自動車の電装品を動作させたりバッテリーに充電したりするオルタネータは言うまでもなく「回生ブレーキ」ではない。オルタネータで吸収した回転力はエンジンの回転力に戻ることはない。ほんの一部が次にエンジンを始動させる時に回転力に変わるが、だからといってオルタネータを回す力はブレーキ力ではないので誰も「回生ブレーキ」とは言わない。ガソリンを消費してエンジンを回したエネルギーから直接電力を得ているからだ。もちろん「回生ブレーキ」では慣性力から回収した電力の多くが、慣性力に戻るのだ。

 「回生ブレーキ」というのは自動車ではまだ一般的ではなく、私も含めて誤解が多い。このサイトをきっかけに多くの人が「回生ブレーキ」というものを考えるようになってくれれば、と思う。

2.プリウスのリコール問題について思うこと
 世間では「ハイブリッド車同士」という理由だけでインサイトのライバルにされてしまったプリウス、私にとっては買いたいとは思わないが技術的な部分、あるいは機械的な部分には興味があるクルマで、去年夏に機会を見つけ次第試乗したことも事実だ。
 そのプリウスがリコール問題に揺れている。ブレーキに不具合があるとされて無料修理対応となったのだが、なんかこの問題がプリウスというクルマの問題として一人歩きしている部分もあっってなんだかなーと思ったのだ。

 私としてはプリウスに不具合があったにしても、市場に出た台数との比で見れば苦情件数も事故件数も少なすぎると感じている。本当に車に欠陥があってブレーキの効きが悪いのなら、特に事故がもっと多くてもおかしくないと思うのだ。また近所の新型プリウスを見ている限り、そのオーナーが「ブレーキが悪い」と認識しているように見えない(ブレーキが悪いと認識した運転をしているプリウスを見たことがない)。
 つまりこれは本当にブレーキがおかしいのでなく、ハイブリッド車に慣れていない人がその独特の動きについて行けてないというのが実情ではないかと思う。私も新型プリウスに試乗したが、インサイトほどではないにしてもブレーキをかけて停止直前にちょっと前へ出るように感じた。あれで欠陥ならインサイトは大欠陥でうちのクルマは明日にでも修理して貰わねばならないだろう。
 意外な事を言うと、私はこの挙動で「ブレーキがおかしい」という人は運転の中でもブレーキングが上手な人が言っているのだと思う。クルマを停止させるときに衝動無く止めるには、クルマの減速に合わせてブレーキペダルの踏量を変えて行くことなのだが、一定の減速度でスルスルっと減速して、衝撃無く停止させる人は(無意識か見知れないが)停止直前の段階でブレーキペダルの踏力をかなり弱めるはずなのだ。プリウスではそのブレーキペダルの踏量を大きく緩める速度域と、ハイブリッド車独特の動き(回生失効でブレーキ力が摩擦ブレーキだけになり瞬間ブレーキ力が緩む)のタイミングが合致しているのかも知れない。すると「今まで通り」にクルマを停止させようとした人は、速度が充分落ちたと思ったところで急にブレーキが効かなくなったように感じるだろう。
 もちろん本当に運転技術がある人は、それを1度か2度で修正してくるはずだ。停止直前にブレーキペダルの踏量を減らすことをせず、上手く止めたい位置に止める事が出来るようになる。こうやって修正が早い人は「欠陥」とは思わないだろうが、なかなか修正できない人が「自分の学習能力の無さ」を棚に上げてクルマのせいにするのである。私はこう言うことがプリウスに起きていたとしか思えないと思って見ている。

 だがクルマというのは大量生産されているとは言え、物が巨大なだけに製作誤差もそれに連れて大きくなっている。俗に言う「あたり」「はずれ」というやつで、この製作誤差は人間が作る物ではどうやっても防ぎようがないのだ。クルマの場合、オーナーは同車種で他の個体に乗ることが殆ど無いので自分が持っているものが「標準」だと思う。つまり「はずれ」に当たった人もその個体が「標準」であり、欠陥があるような動きをすれば他もみんなそうだと信じているはずである。特に高い金を出して買った物だから、自分の個体が「はずれ」で他は正常だなんて思いたくもないし、もちろん売った側も口が裂けてもお客にそう言う事が出来ない。つまり「欠陥だ」と言って持ち込まれた「はずれ」の個体を黙って修正する以外に手はないのだ。こう考えればトヨタの「不誠実な対応」の正体も見えてくる。個体差によって出た不具合をお客はそうと悟られないために、ナイショで修理したのだ。もちろん他の客に知れて他の客の不安を煽りたくないというのはあるが、それ以上にその個体に乗っている客が他の客から「他のクルマでは異常がない」と知らされるのを避けなければならなかったはずだ。

 もちろんもしこの私の推測が真相だったにしても、トヨタにはそのような個体差を縮める努力はして欲しい。トヨタがインサイトに対抗すべくいろいろ焦ったのは否定のしようがない事実で、その過程で粗製乱造したというのは言い訳にはならない。生産計画、コスト管理、制度管理、それを見直さなければならないのは当然だろう。
 だが、それとクルマをリコールにすべきかどうかは別問題だ。リコールは本当に問題があるときだけやるよう慎重で的確な判断を願いたい。特に海外でのリコールはトヨタのクルマだけの問題ではなく、日本車全部の問題となるのだから慎重に願いたい。

 ちなみに今回の問題はアメリカ発なのだが、私はアメリカでのトヨタ叩きに対してかなり疑問を持っている。
 トヨタのクルマが暴走事故を起こしたのがきっかけとされているが、その事故について調べてみたのだがどう見ても事故を起こした人の自業自得の事故にしか見えない(死者に鞭打つのは好きではないが、ここまで騒ぎが大きくなると黙ってられない)。アクセルペダルを踏んだら戻らなくなったというのは大問題だが、その前に運転者が正しく使っているかどうかはもっと大問題である。この事故ではクルマの欠陥云々の前に、運転者がフロアマットを二重に敷くというあり得ない行為をしたのがそもそもの原因ではないか。どういう事情があったかは知らないがフロアマットを二重に敷くなんて常識的に考えればあり得ない正しくない使い方で、それによってアクセルペダルが引っかかって戻らなくなるのは当然だと思うのだが。
 この事故は「濡れているネコを乾かそうと電子レンジに入れた」と同レベルの物だと思う。こんなレベルの低い話でさんざんな目に遭っているトヨタ自動車に心から同情する。アメリカ議会でトヨタ社長が尋問されたその直後、トヨタ社長がアメリカのユーザが絶賛をもって迎えられたというニュースもあった。これがアメリカでの真のトヨタの姿であり、日本車を愛する人々の真の声だと私は感じた。報道を見た日本人はマスコミの一方的な戯言に振り回されている場合ではない。

 だからこの件は他人事だと思っていない。トヨタが叩かれたら次はホンダの番かも知れない、ホンダの人たちにはこのトヨタに対する仕打ちをキチンと研究し、我々日本のユーザを振り回さないように対策を、心から願いたい物だ。

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