突然ですが CR−Zに試乗しますた

 2010年7月25日、我が家のインサイト君を18ヶ月目の6ヶ月点検に出すべく、馴染みのディーラーへ行った。
 そこで自分の愛車の点検に1時間ほど時間が掛かるわけだが、店員と色々と話をしたときに「CR−Zに乗ってみたいなぁ」という話をしたら、待ち時間の間に乗せてくれることになった。時間的な問題もあってディーラーの周囲を一周しただけであったが、その感想を記して置きたい。

 「CR−Z」は皆さんご存じとは思うが、今年になってホンダが世に放ったハイブリッドのスポーツカーというまさにハイブリッド車の存在理由に挑戦した車である。自分の愛車である「インサイト」の流れを汲む車として興味が出るのは当然であろう。機会があれば「インサイト」との違いを体感してみたいと考えてみたのだ。
 私が試乗した「CR−Z」は、グレードは「α」のCVT車である。本当は店員に6MT車を勧められたのだが、このところMT車に乗っていないので運転に対する不安があったこと、「インサイト」との比較には同じミッションの車の方がいいと判断して、CVTの試乗車を選んだ。

 試乗車が駐車場から回送されてきて車内に案内される。運転席…いや、この車の第一印象からあえて「コックピット」と言わせて貰う。コックピットに座ったその印象は、「インサイト」のように様々な色に輝く計器類である。「インサイト」と同じくどこか松本零士の世界を彷彿とさせる計器類の輝きは、「インサイト」のハンドルを初めて握った日の「わくわく感」を感じた。ただその方向性がこれまた「インサイト」とは少し違う、インサイトは計器類をシンプルにまとめている印象があるが、この「CR−Z」ではたくさんの計器を並べた「機械感」が強いのを感じた。かといって「プリウス」のように計器が煩雑な印象がなく、どの計器をどこに配置すれば使いやすいかというのが考えられていることも瞬時に感じ取れた。デジタルメーターを囲うように配置されたタコメーター、電池残量やチャージ・アシスト表示など電池系の情報を左側に、燃料系や瞬間燃費計など燃料系を右側にまとめ、見たい情報がどこにあるのか分かり易かった。ただマルチインフォメーションディスプレイが速度計によって端っこに追いやられてしまい、エネルギーフローやオドメーターなどの重要な情報が端っこへ行ってしまった点は欠点である。
 「インサイト」と同じ位置にメーカーオプションのナビが埋め込まれているが、これも「インサイト」を受けて改善されているのが分かる。私が1年前にディーラーを通じてメーカーに強く要望した「エコ画面への時計表示」が実現していたのが何よりも羨ましかった。これは「CR−Z」発売以後の「インサイト」でも反映されているとのこと。プログラムの書き換えで既存のナビも変更できないものかと思う。
 エンジンに火を入れてみる、エンジン始動の感触はインサイトと全く同じだ。いよいよパーキングブレーキを開放してアクセルを踏んでみる、するといきなり予想以上の加速力で飛び出してしまい少々驚く。その時のモードは「ノーマル」、なにの「インサイト」を凌ぐ出足を見せてくれたことで「スポーツ」モードを試してみるのをやめた。モーターアシスト前回の瞬発力は試してみたかったが、出た路上がそこそこ車通りのある道路であることを考えるとこれ以上の加速はクルマに慣れていないので辞めた方がいいと判断した。
 それでもノーマルだと車に振り回されるんじゃないかと思うほどの瞬発力があった(アクセルの踏み方は「インサイト」運転時に合わせた)。先行車がある状態でこの加速では加速で気を遣うと思い、最初の交差点を曲がるときにはもう「ECON」モードに変更した。このモードでも「ECON」オンの「インサイト」より出足は鋭い。あっという間に巡航速度に達してしまい、今回の試乗コースに組み込んだ片側2車線の大通りではあっという間に60km/hを越えてしまい速度制御に苦労した。
 その加速における「インサイト」との大きな違いは、モーターアシストへの依存度を高めにしていることである。チャージ・アシスト表示を見ながら加速してみると、「ECON」オンの時はメーターが一杯になるほどアシスト方向に指針が振れているのだ。「インサイト」ではアシスト方向へ針が振り切れることは、通常の加速では殆ど無い。その割には低速巡航でモーターのみの走行に入ってくれず、巡航時はエンジンで充電しながらの走行が多かった。これは「インサイト」と比較すると電池残量を残す方向に制御し、発進時のために電気を残す制御をしていると直感的に感じた。「インサイト」では巡航時にバッテリーを使い発進時にケチるような電池の使い方をしているように感じることがあり、これによって電池残量が減ってアシストが必要なときに電力がなかったりすることがたまにあるように感じる。この「CR−Z」の電池の使い方は少し羨ましい気がした。
 快適性は「インサイト」と殆ど変わらない。大きな違いは後部座席、「CR−Z」は快適性の車ではないので後部座席はおまけと割り切りが必要だ。

 こんな感触を得ながら、私はディーラーを中心にした8.5キロの平坦コースを燃費12.8km/lで走った。時間と距離がもっとあれば、もっと良い燃費を出せることは確実だろう。
 率直な印象としては「欲しいな」と思ったが、その実用性能を越えた走りを思うと「所有してやっていける車ではない」という感触を持ったのも事実。だがその加速力の良さと操縦性の良さは運転していて気持ちよく、一度機会があったらレンタカーで借りて1日ドライブしてみたいとは思った。

・おまけ〜ホンダ副社長「プリウスがインサイトより上」に対する反論〜
 数日前にホンダの副社長が「プリウスはインサイトより価格も性能が良い」と発言したが、これについては今回の点検時に強く苦情を言っておいた。
 この言葉を裏読みすれば、「インサイト」に低性能の烙印を押されたことになり、我々乗っているユーザーを不安にさせる材料となる。それだけでなく「インサイト」の査定に響く発言であり、もし我々が急にどうしようもない事情が発生して車を売らざるを得なくなった場合に不利になってしまうのは確かだ。
 何度も言うが、「プリウス」と「インサイト」は車格も価格帯も違う車であって、直接対決をするべき車ではなく共存共栄できる車である。現に車会社やマスコミの思惑とは別に、路上を見ている限りはちゃんと棲み分けが出来ているように見える。なのにホンダの副社長はあまりにもその状況を知らなすぎると思うし、なによりもユーザーの心理を考えない発言をしてしまったと考えるのだ。

 私も副社長に対抗するために言うが、単純に「性能」を見た場合に決して「インサイト」が「プリウス」より下だとは思わない。むしろ「インサイト」は健闘していると褒めてやりたいほどだ。
 その理由は既にカタログスペックの段階で既に決着が出ている事。この上で言うと「プリウス」の方が性能が良くて当然であり、副社長の発言は真新しいことではない。
 だが、性能的な数字をただ並べても、その「比較対象」をどう見るかで特に「プリウス」の性能の善し悪しが変わってしまうことだけは明記しておきたい。

 例えば目の前に果物が二つ置いてある。一つは直径2センチ、もう一つは直径10センチ。これに対してただ漠然と「大きいのはどちらだ?」と聞いたら、誰もが後者の直径10センチと言うだろう。
 だがこれが直径2センチのサクランボと、直径10センチの西瓜であったらどうだろう? その上で「よく成長したのはどちらか?」と聞けば多くの人は直径2センチの方を指すだろう。

 この例えを書き換えてみよう。「実用燃費19.8km/l」の車と、「実用燃費21.9km/l」の車のどちらの燃費が良いかと問えば、誰もが後者と言うだろう。
 では「カタログスペック30lm/lで実用燃費19.8km/l」の車と、「カタログスペック38km/lで実用燃費21.9km/l」の車の、どちらの燃費性能が良いかと聞いてみたらどうだろう?
 設計した燃費、またはテスト走行条件で達成した燃費に、どれだけ近づけるかというのは車の燃費性能で重要な面である。カタログスペックが高いのに実際の燃費がそれに対し不釣り合いだったらがっかりする人は多いだろう。
 私はカタログスペックで燃費30km/lとうたっている車と、同じく38km/lとうたっている車で比較した場合、前者が19.8km/lで後者が21.9km/lならば前者の方が優れていると感じる。後者は計算すると25km/l程度の燃費が出ていないと前者に匹敵しないという事ができるはずだ。
 ちなみに世の中のいくつかの車についてカタログスペックと実用燃費の差を比較してみたが(「プリウス」と同車格のトヨタ「プレミオ」も含める)、メーカーを問わず「インサイト」と同じ程度の比率(カタログスペックに対し実用燃費は65〜70%)という数値になっている例が多いことは分かった。どちらかというと「プリウス」(同55〜60%)が異常に低いと言うことも分かった。

 もちろんカタログスペックと実用燃費の比率という性能について、それを重視するかどうかはこれをご覧になった皆さんが考えてくれればいいと思う。私がこの欄に書いたことをどう考えるか、それは人の数ほどあって当然だ。
 なお当欄の実用燃費の数値は「e燃費」(http://response.jp/e-nenpi/)の数値を参照した。

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※この背景色は、私が試乗した「CR−Z」のボディカラーがオレンジだったことによるものです。