突然ですが 新型プリウスに試乗しますた
8月のある日、私は自転車に乗って近所のスーパーに買い物に行った。当サイトで自動車の話題を取り扱うコーナーで「自転車で買い物はねーだろ」と思う方もあるかも知れないが、今回の話の発端は近所のスーパーに出かけたことだから仕方ない。
そのスーパーで近くのトヨタ店が出張セールスを行っており、店頭には5月に発売された新型の「プリウス」が置かれていたのである。世間からは自分が乗っているクルマのライバルとされてしまっているクルマが、「ご自由にご覧下さい」状態で目の前に置いてあるのだから興味が無いわけはない。開け放しの窓から車内を覗き込んでいると、トヨタ店の営業マンがやってきて「エンジン入れましょうか?」と声を掛けてきた。
私は「興味はあるが買うつもりはない」事を明言した。だが「(スーパーが)空いてることですし、興味がおありなら乗り込んでメーター類とかも…」と言ってきた、これこそ幸いと言葉に甘えて乗り込むとさらに店員にどんなクルマに乗っているのかと単刀直入に聞かれた。「インサイト」である旨を言うと営業マンは目の色を変えて「試乗なさってみますか?」と言い出した、私はこれは良い機会だと感じてその言葉に乗ってみることにした。流石に買う気もないのにディーラーへ言って試乗させてくれなんて言いにくい、だから新型プリウスに試乗する機会はレンタカー屋で扱いが始まってからになるとか思っていたのだが、ディーラーでもない場所で、しかも「買う気はない」と明言している上で「試乗してみないか?」と誘われたのである。これは話に乗らない手はない。
しかも「インサイト」をネタにサイト上でハイブリッド車について論じ、先代をレンタカーで借りて乗ったという経験だけで「プリウス」を批判している私としては、早い段階で新型「プリウス」に試乗する機会があれば…と思っていたので、これは願ったり叶ったりのチャンスとなったわけだ。
という訳ですぐに「是非とも」という返答をすると、すぐにその営業マンが飾ってあった「プリウス」に乗り込んで展示場所からスーパーの駐車場へとクルマを移動させた。そこで運転席に乗り込むよう促され、乗り込んで座席を調整してシートベルトを締めた。
乗り込んでみての感想は「狭い」と一言だった。いや、「窮屈」と言った方が正しい。見回すとスペース的には「インサイト」の方が狭いことが確かなのは理解できる、だが「プリウス」のインテリアはその「広さ」を感じさせないのだ。「窮屈」「狭苦しい」という印象は、ダッシュボードのナビ画面部分とセンターコンソールを結ぶ橋状の部分から来ていると思う。そこに座ると「そこから動けなくなる」という圧迫感…つまり「閉じ込められる」という心理的なものが大きいと思う。やはりその必要性の有無はともかく、あそこは最低限通れる構造にして欲しい。一般的な自動車の構造(「インサイト」もそうだ)では操作性の上でも、も心理的要因の上でも優れているのだ。「モビリオ」で採用されていたフロアシフトとか、コラムシフトというのも慣れを要するものだ。
駐車場から公道へ、このときに感じたのは加速の鈍さだ。「重い」とかそういう感じじゃなくて、根本的にパワーが出ていないような感触でもない。とにかく助手席の営業マンに「加速が鈍い」旨を言うと、「いまはエコモードに入ってるんですよ」と返事が来た。すぐにエコモードを解除してもらったが…やっぱ鈍い。最終的には「パワーモード」にしてもらってやっと満足のいく加速が出来た…いや、並のクルマと同じ加速感が味わえたと言うのが正解だ。ただパワーモードの場合は、アクセルを強めに踏み込めばそれに応じて加速力も上がってくれた。他のモードでは以前「プリウス」をレンタカーで借りて運転したときの感想と同じ、思い通りにクルマを制御できないもどかしさを感じた。アクセルを強く踏んでもそれに応じた加速力はなく、アクセルペダル自体が加速ON・OFFスイッチのような働きしかしないのである。「インサイト」ではECONがオンでもちゃんとアクセルの踏み込みに応じた加速を見せてくれるのだが、どうも「プリウス」についてはそう感じないのだ。
だがその感触は、「誰が運転しても」燃費がよくなることを予感させる。「インサイト」ではある程度の燃費を出すためには「慣れ」と「腕」が要求される。以前レンタカーで「プリウス」を借りた時も、いい加減な運転でかなりの燃費を記録していたのを思い出す。だからこそ「プリウス」には「インサイト」のエコアシスト機能のような、ソフトでもって人間の「慣れ」を引き出して燃費を向上させるような機能は必要性を感じないのだが。
運転については周囲の住宅街でのみの運転だったのだが、小回り性には問題はなさそうである。ボディが「インサイト」より少し大きいとはいえ、その大きさを感じさせる状況はなかった。それとサイドミラーが小さいのが気になった、高速道路の車線変更などはこれで大丈夫なのか?とちょっと不安になった。だがこれについては「インサイト」のサイドミラーが大きすぎるという声もある。
それとやっぱり慣れなかったのはセンターメーター。そのセンターメーターも表示内容がゴチャゴチャしていてわかりにくかった事。今だから正直に言うが、速度計が何処にあるのか最後まで分からず、速度はカンに頼っていた。デジタル表示やゲージタイプのメーターがいくつかあったがそれが何を示しているのか理解できないまま、「そう言えばタコメーターはついてないはずだ」と思い出したのは下車した後。初代「プリウス」はセンターメーターでも表示内容は最小限で、シンプルで分かり易かったのを覚えている。やはり運転者から遠いところにあるメーターの情報量は多くすべきではないと感じた、トヨタの開発者には次期「プリウス」の時は燃費関係やエネルギーフロー表示などを、ハンドル前に移設するよう強くお願いしたい。あ、でもそうすっとセンターメーターにしている意味がないか。つまりメーターへの情報が増えたのだから、もうセンターメーターにこだわる必要はないということだ。
助手席に座っている営業マンが私から何を聞き出そうとしているかはだいたい想像がついた。世間から「プリウス」のライバルとされてしまった「インサイト」の実情を聞き出そうとしていたに違いないのだ。だからこちらもそれに応えて正直に私の感触を語っておいた。「インサイト」の良い点も悪い点も包み隠さず、悪い点についてはオーナーとしてのフォローも入れつつ話をした。
その営業担当者に「プリウスは価格で頑張りましたねー、205万円で手に入れられるクルマとは思えないですよー」と言ってみたら、その営業マンは神妙な表情で「いや、あれは我々でもやりすぎと呆れています」と答えたのが意外だった。その営業マンによると、「プリウス」はそこまで値下げしなくても絶対に売れるという営業最前線での自信を前提に、最低価格240万円程度で市場に出ていれば現在のように需要過多の状況に陥って納車まで半年以上かかるという状況が回避でき、結果本当に「プリウス」を欲しがっている顧客に迷惑を掛けずに済んだというのだ。また他の車種と比較してバランスが取れていない価格設定になっているがために、もっと小さいクルマを欲していたユーザが「プリウス」に流れて他の売れ行きが落ちるという悪循環は既に始まっているという。需要が「プリウス」に偏ってしまい、トヨタという自動車メーカー自体がおかしくなってしまうんじゃないかという危惧を感じているという。
またその営業マンは価格だけでなく、あらゆる面で「プリウス」はやり過ぎなのだと言った。
確かに営業上のセールストークになる技術はたくさんあるが、多くが「だからどうした」という程度ものだと言うのだ。私が前述した通り、「プリウス」のようなクルマにエコドライブモニターが取り付けられている意義は感じない(誰がどのように運転しても条件が同じならば燃費に大きな差は出ないのは事実らしい)し、私が「半年の感想」で書いたように、エアコンの圧縮機をモーターで動かす機能についても必要性を感じないと言う。レクサスのハイブリッド車にはさらに余計な機能がたくさん付くが、それら電気で動く機能をたくさん付けても、結局はガソリンを燃やして電気を作るのだから燃費を悪化させているだけに過ぎないと言い出すのだ。この営業マンも「プリウス」を私有しており、私が「半年の感想」で語ったように「ハイブリッド車とはいえやっぱり動力源はガソリン」という事を身にしみているらしい。
最後に私が新型「プリウス」で気に入った点を挙げておこう。
まずはブレーキ、「インサイト」のブレーキはペダルの踏み込みが一定でもギクシャクすることがよくある。回生ブレーキから摩擦ブレーキへの切り替えが上手く行ってないように感じるのだ。これは以前にレンタカーで乗った「プリウス」でも同じように感じたが、新型「プリウス」ではこのギクシャク感が解消されているのである。いつ回生ブレーキから摩擦ブレーキに変わったか分からないほど自然に減速し、スーッと自然に停止する。
あとこれは実用的な事ではないが、「プリウス」には「ハイブリッド車に乗ってます」感が出るような演出が成されている事も挙げられる。この「演出」というのは自動車という商品にとっては重要な面であり、実も元々こう言うことが得意な自動車メーカーはホンダだったはずである。スポーツ系のクルマにどのような「味付け」をすればそのようなクルマのユーザーが満足するか、それをよく知っているのはホンダの方である。
ところがハイブリッド車では、ホンダが「インサイト」に付けた味付けは「いかにハイブリッド車と思わせないか」というものであった。多分普通のクルマから「インサイト」に乗り換えるユーザはこの方が満足だろう、だが「ハイブリッド車」が欲しいと思っているユーザにはどうだろう?
確かにホンダがハイブリッドを売るために必要な「ハイブリッド車を普通のクルマにする」という趣旨に従えば「インサイト」の味付けは間違ってないのだが。
新型「プリウス」でも大袈裟なほどモーターの音が聞こえる。加速するとき、あるいは回生ブレーキでの減速時に、まるで電車のようなモーターの音がハッキリ聞こえるのだ。やはりエネルギーフロー表示と連動した「走行音」というのは実に自然で、運転にも役立つことだろう。「インサイト」のモーター音はオーディオ類を全部切ったときにやっとかすかに聞こえる程度で、「このクルマはハイブリッド車だ」と主張するには物足りないし、なによりも耳だけでモーターの動作を確認できずエネルギーフロー表示に頼らざるを得ない。
だいたい4キロほどのコース(スーパーの近くにある団地をの外周を一週)を走って店に戻って来た。最後の最後に悩んだのはシフトレバーの使い方だった。それでも何とかクルマをパーキング状態にして下車した。
総合的な感想としては慣れない部分、個人的に好きになれない部分もあったが、あれはあれで良いクルマだと思う。また機会があったらレンタカーなどで借りて乗ってみたい、今度乗る機会があったらちゃんと速度計の位置も把握して、高速道路とか走ってみたいなぁ。
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※この背景色は、私が試乗した新型「プリウス」のボディカラーが黒だったことによるものです。
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