「BALLAD〜名もなき恋のうた〜」について

 クレヨンしんちゃん(劇場版)「嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦」が好評のうちに上映されてから7年が経た2009年、これを実写化した映画が製作された。これがここに紹介する「BALLAD〜名もなき恋のうた」である。
 本作を制作した山崎貴監督が「ラスト・サムライ」の影響を受け、合戦を中心にした「戦国もの」を作ろうと思ったのが始まりである。その中で山崎監督が知っている中で、ジャンルを問わず最も優れている物語として「戦国大合戦」を選んだとのことである。脚本には「クレヨンしんちゃん」のスタッフも参加し、「戦国大合戦」では描ききれなかった「行間」も描かれる事になったという。
 本作では又兵衛役にSMAPの草g 剛を、廉姫役に新垣 結衣を起用し、野原しんのすけを設定変更した主人公を子役として多くの映画やテレビドラマに出ていた武井 証が演じた。個人的にはこの3人の演技が物語を大いに盛り上げたと感じている。
 本作は「クレヨンしんちゃん実写化!」として広く宣伝され、「クレヨンしんちゃん」のテレビアニメでも連動した企画が放映されたほどだ。悲しい事に「クレヨンしんちゃん」原作者の史上最強のギャグ漫画家・臼井儀人さんが他界したのは、この映画が封切りとなってすぐの事であった。
 私はこの映画を見てみたいと思っていたが、上映中は何だかんだで映画館に行く時間がないまま時を過ごしてしまった。そして昨年8月にテレビ放映されたのをきっかけに、本作については本サイトで「戦国大合戦」と一緒に取り上げたいと感じた。
 本サイトでは、「戦国大合戦」との違いを中心に、この映画についても簡単に考察して行きたい。

「BALLAD〜名もなき恋のうた〜」製作に当たっての設定変更点
※9月9日の更新で一部加筆してあります。

登場人物

野原しんのすけ→川上真一 臆病だけど小生意気な小学生として物語に登場。
野原ひろし→川上暁 真一の父親で過程での主導権は妻に握られている。サラリーマンでなく写真家。
野原みさえ→川上美佐子 名前と年齢以外はほぽ原作を踏襲、姉さん女房。
野原ひまわり 設定消去
シロ 設定消去
井尻又兵衛由俊 「次郎丸」という幼名が設定されるとともに、30歳から25歳に年齢変更。
ほぼ原作踏襲だが、又兵衛を幼名で呼ぶことと、又兵衛を命令口調で操ることが異なる。
仁右衛門とお里 少し若くて30代後半か40代辺りの年齢のようだ。文四郎という子が存命である。
「かすかべ防衛隊」 基本的には設定は消されているが、現代に真一のクラスメイトの少女が出てくる。
「おおまさ一家」 基本的に設定は消されているが、キャラクターとしての役割は文四郎が担っている。

物語

 ・冒頭で、主人公一家が皆同じ廉姫の夢を見たという設定はなく、廉姫の夢を見たのは真一のみとされた。
 ・主人公一家が住む街は埼玉県春日部市ではなく、都道府県不詳の「春日市」とされた(福岡県春日市とは無関係?)。
 ・主人公・真一のタイムスリップは登校時とされた。ちなみに自転車(マウンテンバイク)ごとタイムスリップする。
 ・タイムスリップ時、時間移動する人物は気を失う設定とされた。
 ・又兵衛や康綱は、未来のことを「時の果て」と呼称する。
 ・「春日の国」の隣国に大蔵井や「岩月(いわつき)」だけでなく、「越谷(こしたに)」が加わる。
 ・又兵衛に主人公の面倒見を命じるのは、康綱でなく廉姫。
 ・主人公が手紙を埋め、発見した場所は自宅の庭から、近所にある大きなクヌギの老木とした。
 ・主人公が戦国時代で書いた手紙は、横書きでなく縦書き。
 ・その場所は、戦国時代では「隠れ家淵(?)」と呼ばれていて、近くに湖があり文四郎が真一を案内する。
 ・このクヌギは「川上の大クヌギ」と命名され、真一が現代から持ち込んだ種が戦国時代に発芽したものと設定された。
 ・現代で息子がいなくなり心配する夫婦の役割が逆である。
 ・手紙は文箱に入れるのみでなく、長い月日にわたり埋められるため蝋で固めた。
 ・主人公の歴史を調べるのは図書館でなく、自宅PCでインターネット検索であった。
 ・高虎と廉姫の婚約は前提条件であったが、本作では高虎が春日城を訪れ求婚する。
 ・高虎は狩りの時に廉姫と出会っており、ここで廉姫に惚れたという過去が設定された。
 ・カレーライスを康綱に献上するのでなく、仁右衛門達との夕食とした。
 ・主人公の父の職業を「写真家」と設定し、戦国時代のキャラクターの記念写真シーン等が追加された。
 ・主人公が携帯電話を所有しており、内蔵カメラでの撮影シーンや、これが伏線として使用されるシーンが加えられた。
 ・又兵衛の出撃時には、彦蔵と儀助には逃げるよう命じられる。
 ・主人公の父が所有する自動車はセダンからRV車となり、戦国時代の走行について不自然が無くなった。
 ・終盤、主人公になぜ戦国時代へ来たのかの謎解きをするのは、又兵衛でなく廉姫。
 ・廉は現代社会の主人公に向けて、メッセージを残す。これがラストシーンとなる。

主人公が残した手紙の内容
「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦」 「BALLAD〜名もなき恋のうた〜」
とーちゃんかーちゃん
おらてんしょうにねんにいる
おひめさまはちょーびじんだぞ
かすがのおしろはとういから
おくるまできたほうがいいぞ
はやくきてね。
じゃそゆことで

(ぶりぶりざえもんは省略)

 

内容の詳細
「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦」 「BALLAD〜名もなき恋のうた〜」
しんのすけら野原家一同が見た夢として、廉姫が泉のほとりで佇むシーンでスタート。しんのすけが目を覚ますのは夜中。 真一が見た夢として、廉姫は湖の畔で何かを祈っているシーンでスタート。真一が目を覚ますのは朝。
廉姫の夢について、しんのすけは家族と語り合う。そうしているうちにひろしが遅刻し掛かり、しんのすけがようち園バスに乗り遅れる「いつもの朝」となる。 廉姫の夢について、真一はクラスメイトの女の子と語り合う。その途中で真一と女の子が悪ガキに囲まれるが、真一は女の子を助けられない。ちなみに真一は自転車通学。
ようち園ではしんのすけは「かすかべ防衛隊」のメンバーとチャンバラごっことなる。 女の子を助けられず意気消沈の真一は、町外れの大きなクヌギの木に慰めを求める。そこで上記の女の子に嫌われる。
しんのすけがようち園から帰ると、飼い犬のシロが庭に大きな穴を掘り叱られている。 突然放課後、真一は家でケータイいじり。両親は夫婦喧嘩中で、真一はため息を漏らす。
  翌朝、真一はまた廉姫の夢を見て目を覚ます。
しんのすけはみさえに穴を埋めるよう命じられるが、シロはさらに穴を掘り続ける。しんのすけは宝が埋まっていると勘違いしてさらに穴を掘り、文箱と自分が書いた手紙を見つける。「おひめさまはちょーびじん」の一言で夢に出てきた姫を思い出し、目を閉じる。 登校中、真一は大きなクヌギを撮影する父を見つける。父はクヌギの木に自分達の苗字が付けられていることを語るが、真一は興味なし。この時、真一がクヌギの実を拾った事をきっかけに文箱と中の自分が書いた手紙を見つけ、手紙を読んでいるうちに目眩を起こし倒れる。
しんのすけが目を開くと、冒頭で廉姫がいた泉のほとりにいる。辺りを見回し「あのおねいさんのいたところだ」。 真一が意識を取り戻すと、見知らぬ林の中にいる。自転車を起こしながら「なんだよこれ?」。
しんのすけが草原の中を歩いていると、春日と岩月の合戦に出くわす。「時代劇の撮影」としんのすけは判断する。 真一が草原の中を自転車で走っていくと、合戦に出くわす。「お祭り」と真一は判断する。
又兵衛を密かに撃とうとしている兵二人に、しんのすけは「これ何のドラマ?」と声を掛ける。兵はしんのすけを斬ろうと刀を出すが、しんのすけは「ケツだけ星人」で対抗。これを又兵衛に発見され、兵二人は逃げる。 又兵衛を密かに撃とうとしている兵二人に、真一は「あの…?」と声を掛けるが、兵は銃を暴発させて逃げる。これを又兵衛らが見つけ、真一越しに矢で応戦する。真一と又兵衛が向かい合ったところで春日城のシーンに飛ぶ。
又兵衛はしんのすけに礼を言うと共に、早く帰るよう言う。すぐに合戦が本格化し、手も汗握る合戦シーンとなる。  
合戦の後、又兵衛はしんのすけが迷って帰れなくなったことを知り、取りあえず城へ連れて行く。  
しんのすけは捕らえられたわけではなく、又兵衛と共に康綱に接見する。その際に自分が未来から来たことを語るが信じられず、又兵衛がしんのすけが来ている衣服や言葉使いについて説明したことで信用され、康綱に自分の世界のことを語る。 真一は捕らえられ、縛られた上で春日城へ連れて行かれ、康綱の取り調べを受ける。康綱は真一が岩月あるいは大蔵井の間者でないかと疑う。
しんのすけと康綱の接見の後、廉姫が登場する。しんのすけは廉姫を見て「やっと会えたぞー」と騒ぐが、廉姫は「そのような可愛いお尻、初めて見た」と言う。しんのすけが夢のことを言うと、「おもしろい」ということになり翌日改めて会うことになる。 真一は携帯の写真機能を駆使して自分が未来から来た事を証明する。それにより今度は「天狗の子」と疑われ斬られ掛かるが、ここで廉姫が登場し、真一が夢のことを語ると「我が願い叶えるために来たか?」言われ、真一が「へ?」と返すと「おもしろい」となり、廉姫が真一に城内に留まるよう命じる形となり助けられる。
  又兵衛は真一の面倒を見ることを嫌がり、仁右衛門の子である文四郎に押しつけようとするが、うまく断られる。
(名台詞)
「こう見えても、俺と姫様は幼なじみなのだぞ。父上が昔、殿のおそば近く仕えておってな、俺もよく連れられて行っては、姫様の遊び相手をさせられたものだ。いや、遊んだと言うより、手荒くこき使われたのだが…。俺も15の時からは戦に出るようになったのでお逢いすることも少なくなったが…いやぁ、本当に美しくなられた。他国の殿が何人も嫁に欲しいと言ってきておるが、なかなかお気に召す話がないようでな。いや、まったく我が儘な姫だ。」(又兵衛)
 
「しかし、姫様にも困ったものだ。昔から何かというと俺に押しつけてくる。」「仲がよろしい証拠でしょう?」「馬鹿野郎! 幼なじみだから姫は俺に遠慮がない。それだけだ! 父上が親方様のそばにお仕えしていた頃、よく姫の遊び相手をさせられていたからな。」「そうでしたか。」「いや、手荒くこき使われていたといった方がよいか。とにかく、それを仲がよいなどと…私はあくまでも姫様に仕える身、畏れ多いこと言うでない。……しかし、本当におきれいになられた。他国の武将が何人も嫁に欲しいと言ってきてるようだが、なかなかお気に召す話が無いようでな。全く我が儘な姫君だ。」又兵衛文四郎
城から又兵衛の家への道すがら、しんのすけは又兵衛の話をろくに聞かず、いつしか全く違う方向へ歩いている。 城から又兵衛の家への道すがら、真一は上記のやり取りを聞いて「モテモテなんですね」と語る。真一が又兵衛に「モテモテ」の意味を説明すると、又兵衛は「姫君は春日にとって大切なお方だ」と微笑む。
又兵衛の家に着くと、しんのすけは「お城の中に家がある」ことに感心し、じいちゃんの家にソックリだと語る。 又兵衛の家に着くと、真一は「お城の中に家がある」ことに感心し、「通勤時間が短くて良いですね」「満員電車とか?」と言って又兵衛を驚かせる。仁右衛門はここで初登場。
しんのすけは又兵衛に家族や嫁はいないか聞くが、又兵衛は両親や兄弟については死んだと告げ、嫁については「妻や子があればこの世に未練が生まれる」と返答する。しんのすけはわざと又兵衛が男好きだと勘違いして話を混乱させるが、ここで又兵衛の「戦場では強いが女性には弱い」「仁右衛門は息子を亡くしている」という設定が語られる。仁右衛門夫妻を見たしんのすけが「昔も女房が強かった」と語るシーンだ。  
又兵衛はしんのすけが家へ帰れないことを案じるが、しんのすけは平気だとする。夕食が近付くと、又兵衛はお里にカレーライスを作れるか聞くが、知らないと言われる。  
しんのすけが手紙を残して姿を消したことで、野原家は大騒ぎになる。その中で手紙を見た父・ひろしは、しんのすけが本当に天正2年へ行ったのではないかと疑うが、母・みさえは「手の込んだ悪戯」としてこれを信じない。 真一が手紙を残して学校をサボり姿を消したことで、川上家は大騒ぎになる。その中で手紙を見た母・美佐子は、真一が本当に天正2年へ行ったのではないかと疑うが、父・暁は「手の込んだ悪戯」としてこれを信じない。
  真一は又兵衛に家族や嫁はいないか聞くが、又兵衛は両親や兄弟については死んだと告げ、嫁については「妻や子があればこの世に未練が生まれる」と返答する。ここで又兵衛の「戦場では強いが女性には弱い」」「仁右衛門は息子を亡くしていて、文四郎がたった一人残された」という設定が語られる。ここが楽しく描かれており、ここまで固かった真一が笑顔になる。仁右衛門夫妻を見た真一が「いつの時代も女の人が強いんですね」と語るシーンだ。
  又兵衛は真一の両親が未来で心配していることを案じる。真一は「何も言わないで来ちゃった」と語る。ここで又兵衛が真一に、両親宛の手紙を書くことを提案し、真一は又兵衛の家でこれを書く。書き上げたところで、クヌギの木の下から発掘した手紙の正体に気付く。又兵衛が文箱を出し、油紙で包むことと、蝋で固めて保存することを提案する。
  又兵衛は真一がタイムスリップしてきた場所の事を知っており、そこへ翌日手紙を埋めるため案内すると約束。同時に真一に「自分が帰る方法を見つけ出す」と約束して、真一を落ち着かせる。
  真一は学校へ通う夢を見る、その中で先の少女に「逃げてばかりだ」と指摘される。目を覚ますと城内に大蔵井が来たと騒ぎになり、真一を「隠れ家淵」へ連れて行くのは文四郎の役割になる。
ひろしは図書館へ行き、天正2年の郷土の歴史を調べる。そこには「春日合戦」の記事があり、「野原信之助」の名が載っていることを知る。その結果「しんのすけは天正2年にいる」「自分達も行くことになる」と判断し、荷物をまとめて車に載せ始める。みさえは懐疑的だが、下欄の台詞で意を決してひろしとともに準備を始める。ついでに格闘技の練習(?)もする。
車に全てを積み込んだ後、ひろしは庭の中を器用に車を走らせ、シロが掘った穴の上に車を止める。
現代世界では、美佐子が天正2年についてインターネットで調べ「川上の大クヌギ」の由来と、そこに「川上真一」の名があることを知る。その結果「真一は天正2年にいる」「自分達も行くことになる」と判断し、荷物をまとめて車に載せ始める。暁は懐疑的で「その時代は戦に明け暮れ日本人同士が殺し合っている」とするが、下欄の台詞で意を決して美佐子と共に準備を開始する。
(名台詞)
「しんのすけのいない世界に未練なんてあるか? みさえが嫌だったら、俺一人でも行く。」(ひろし)
 
「そんな世界に、あの子は行ってるのかも知れないのよ。助けに行かなきゃ…真一は私たちを待ってる!」(美佐子)
戦国時代での翌日、しんのすけは又兵衛に連れられ廉姫の元に行き、現代のことについて色々と聞かれる。しんのすけは両親の真似をして廉姫を笑わせる。廉姫はしんのすけに文を書くことを提案し、しんのすけは手紙を書いて文箱に入れる。廉姫は21世紀では人々はどのように恋をするか問い、しんのすけは「お互いに好きになればいい」と応える。この時に又兵衛は建前として、廉姫と高虎の婚儀は良縁であると語り、廉姫に帰るよう命じられる。 真一は「奇妙な態をしている」と高虎に声を掛けられるが、又兵衛が「この者は出入りの田楽師」だと誤魔化す。だが高虎に演じるよう命じられ、文四郎の機転で真一は自転車を乗り回し、この危機を乗り越える。「ひびった、ちびりそうでした」真一は語り、文四郎のおかげで切り抜けられたから礼をしたいという。
又兵衛は帰らずに、しんのすけを連れて近くの櫓に上っていた。そこで廉姫への想いを白状させられ、これを秘密とするために「男同士の約束」として「金打」をして誓いを立てる。その後、しんのすけは櫓の上から自分と同程度の子供達を発見し、一緒に遊ぶことにする。その子供達は「かすかべ防衛隊」にそっくりな面々が集まる「おおまさ一家」であり、「秘密の場所」としてしんのすけを例の泉のある場所に連れて行く。 高虎が春日城に来た理由は、廉を嫁に欲しいと申し出るためであった。この申し出に廉姫は思わず又兵衛の顔を見てしまい、そのために高虎は又兵衛に「この婚儀はどう思う?」と聞く。又兵衛がたてまえとして「良縁である」旨を言ったことで、高虎は一方的に結婚を決めてしまう。この態度に康綱は怒り心頭、廉姫は険しい表情で婚儀について「父上が決めること」とするが、馬に乗って城の外に駈けだしてしまう。
「おおまさ一家」としんのすけが泉に到着すると、馬に乗った廉姫が現れる。廉姫が身体を突っ伏して泣いていると、野伏に襲われる。それをしんのすけと「おおまさ一家」で助けようとするが勝てるはずもなく、危機に陥ったところで又兵衛が現れて野伏を倒す。 「隠れ家淵」へは、文四郎が自転車に乗り真一がこれを追っかけて行く。途中の湖で、真一は「ここで廉姫がお祈りしている夢を見た」とする。そこに馬に乗った廉姫登場、廉姫が一人で泣いているところに、野伏が現れ廉姫を襲う。文四郎が助けに出るが、気迫で完全に押され形勢不利。そこで真一が児童用防犯ブザーを鳴らし野伏を威嚇、そこへ又兵衛が登場し、壮絶なチャンバラシーンの果てに野伏を倒す。倒された野伏の一人が又兵衛に「あんたはいいよな、守れる国があってよ」と吐き捨てる。
(名台詞)
「待て、お前達。大して無いが、これを持って行け。お前達も以前は何処かの家中に仕えておったのだろう。侍になりたかったのであろう。もう一度、仕官してやり直せ。」(又兵衛)
 
「待て、大して入っとらんが、これを持って行け。お前らも以前は何処かに仕えておったのだろう。侍でいたかったのであろう。その金でもう一度仕官してやり直せ。」(又兵衛)
野伏が去った後、又兵衛は廉姫がここにいると何故か思い浮かび駆けつけた事を語る。廉姫はこの場で又兵衛が戦で死なぬよう祈っていると語るとともに、又兵衛が手に怪我をしていることに気付いて手ぬぐいを巻いて治療する。その後廉姫は又兵衛の胸に飛び込み、又兵衛は緊張して廉姫を引きはがしてしまう。これを見たしんのすけは「おじさんの嘘つき」と、又兵衛の足を蹴る。 野伏が去った後、又兵衛は廉姫に自重するように注意し、その理由を「モテモテだから」とする。悩む廉姫に「皆が姫のことを大切に思っているということだ」とする。後は「戦国大合戦」をほぼ踏襲している。廉姫が又兵衛に抱き付く前に高虎との婚儀の話題となり、又兵衛が建前を語ったことで廉姫は城に帰ろうとする。「又兵衛さん、本当に良いの」真一が問うが、又兵衛は「そういうことではない」と立ち去る。
  暁は美佐子を車に乗せ、車を「川上の大クヌギ」の下に停止させる。
しんのすけは又兵衛や「おおまさ一家」の手を借りて、文箱を土の中に埋める。埋め終わり泉の水で手を洗っていると、背後に突如野原家の自動車が現れる。しんのすけは「いくら何でも早すぎるゾ」と呟く。  真一と文四郎が「隠れ家淵」に着く、真一は石仏が自分の時代にあることと、「ここに大きなクヌギの木がある」ことや木の大きさを説明する。すると文四郎は真一が説明した位置に、真一が現代から持ち込んだクヌギの実を植え、ここに文を埋めるよう提案する。こうして文が埋められると、車のエンジン音が聞こえ、振り向くとそこに川上家の車があった。真一は「はやっ!」と叫ぶ。車内を見ると暁と美佐子が真一がタイムスリップしたとき同様に気を失っていた。
車内からひろしが出てくると、しんのすけを抱き締め又兵衛と廉姫に挨拶をしてから自動車に乗せ「もどれもどれ」と繰り返すが、何も起きない。廉姫が取りあえず城へ来ることを提案し、ひろしは鼻の下を伸ばして廉姫を同乗させ、自動車を春日城へ向け走らせる。廉姫だけでなく、おおまさ一家の子供達も同乗している。 暁と美佐子が気が付くと、下車して真一を抱きしめる。そこへ文四郎が顔を出すと、夫婦は真一の身を守る形で身を引く。暁が「こちらはどなたであらせられるか?」と聞くと、真一は「文ちゃん」と答え、文四郎は「真一殿の仲間であります」と答える。夫婦は真一とともに車に乗り込み「もどれもどれ」と繰り返すが、何も起きない。そのまま車は城へ向かうが、馬に乗る廉姫と又兵衛に追い付く。ここで廉姫を車に乗せる。ついでに文四郎も一緒に乗る。
城へ向かって走っていると、先の野伏が現れて又兵衛に家来にするよう懇願する。襲われた経験のある廉姫は「構わぬ」とし、康綱には話を通しておくとする。話が付くとまた城に向けて走り出す。しんのすけは父にスピードを上げるよう要求し、ひろしはその言葉の通り速度を上げる。こうして視界から消える又兵衛を、廉姫は振り返って見つめる。 野伏の二人が又兵衛に仕えさせてくれと頼むのはここ。展開は「戦国大合戦」を踏襲。車が城に向かうシーンも「戦国大合戦」を踏襲。城門では突如の自動車登場に門番が槍を持って威嚇し、これを廉姫が鎮めて通すよう命ずるシーンを追加。
ひろしとみさえは康綱との接見にあたり、カレーライスを献上する。その上でその後の歴史や、21世紀の事について康綱に語る。康綱は自分達が消えゆく運命にあることを知り、大蔵井と手を組んでも対等ではないことを考慮して、廉姫の大蔵井家への嫁入りを断る事を決意する。 暁が康綱に歴史を語るシーンでは、春日という国が歴史の表舞台に出ないだけでなく、大蔵井高虎も同様であることを語る。ただし、ここではカレーライスは献上されない。
(名台詞)
「空しいのう…。戦に明け暮れ国を守っておるが、いずれは消え去る運命か…。どこぞの大国に飲み込まれるのやも知れぬのう。(中略)この乱世に春日のような小国が生き残るには、大国と手を結ぶしかない。じゃが、そんな大国のどれもこれもがこの者達の時代には、きれいさっぱり滅び去っているという…。(中略)決めた! 廉、此度の大蔵井家からの申し入れ、断る事にする。よいよい、大蔵井と同盟を結んだところで対等の立場にはなれん。それに大蔵井高虎という男、なかなかのやり手らしいが、どうも非情なところがあってわしは好きになれん。」(康綱)
 
「空しいのう…。戦に明け暮れ国を守っておるが、いずれは消え去る運命か…。」「廉、わしは決めたぞ。お前を高虎のところへやるのはやめだ。あいつに尻尾を振ったところで、所詮は暁達の時代にはこの国は残っておらんのだ。ならばこざかしい振る舞いはやめて、思ったままに生きて行こうと思う。お前のことだけではない、越谷のことは聞いておろう。口車に乗って無血開城までは良かったが、高虎に無理難題を押しつけられて最後は城主、家臣、皆処刑された。そうなる位ならこの春日、小国なりの意地を見せたいと思う。」(康綱)
(カギ括弧の切れ目でシーンが暁が歴史を語るシーンから、廉姫と康綱二人のシーンに変わる)
又兵衛の家で夕食時にビールで盛り上がる。最後に、仁右衛門らがビールを全部呑んでしまって酔いつぶれてる。 「戦国大合戦」と同じく、又兵衛の家夕食時にビールで盛り上がるが、カレーライスが出されたのはここである。仁右衛門らがビールを全部呑んで酔いつぶれるシーンはない。
(名台詞)
「廉ちゃんお嫁に行かなくなったからって、ご機嫌になっちゃって…。」(しんのすけ)
 
「(ケータイ動画を撮りながら)浮かれている又兵衛さんを撮っています。さて、何でこんなに浮かれてるんでしょうか? 1.廉姫様がお嫁に行かなくなったから 2.廉姫様がお嫁に…(又兵衛に連れて行かれる)」(真一)
高虎が康綱から廉姫の嫁入りを断る文を受け取ると、落ち着いて陣触れを命じる。 高虎が康綱から廉姫の嫁入りを断る文を受け取ると、廉姫が又兵衛を取ったと思いブチギレして、文を叩き斬る。逆上したまま陣触れの命を下す。
廉姫が野原一家に早く逃げるよう促すが、又兵衛が「目立つ」という理由でこれを制止する。しんのすけ「なんか盛り上がってきたゾ!」。 廉姫が川上一家に早く逃げるよう促すが、又兵衛が「目立つ」という理由でこれを制止する。真一「戦、始まるの…?(心細い声で)」。
野原一家は城下の女性や子供達と共に、一曲輪に避難する。 真一と美佐子は城下の女性や子供と共に、本丸に避難する。暁は自動車を隠すために一度城外に出て、帰りは馬に乗せられたと語る。
廉姫は野原夫妻に、北と南で生まれた者同士が出会い夫婦になった不思議を言われ、「あなたたちに不幸は似合わない」とされる。 ここで廉姫は、未来の者の恋愛について美佐子に聞く。「お前達も好き合って一緒になったのであろう?」との廉姫の質問に、美佐子は複雑な表情をする。他は「戦国大合戦」踏襲。
  仁右衛門と分四郎が酒を酌み交わし、又兵衛を加えて今回の手勢について語り合う。高虎が作戦会議をしているところに、予期せぬところに松明の火が見えたと報告がある。これは又兵衛が掛けた罠であり、又兵衛はその様子を暁のカメラに望遠レンズを付けて監視する。ちなみに罠を仕掛けた実行犯は、彦蔵と儀助。高虎はまんまと罠にはまり、夜襲に備え一晩眠れぬ夜を過ごす。
家老の榊隼人が逃げ出したことが兵達の間で噂され、康綱は「他に去りたい者があれば城から出よ」と命ずる。戦への不安で兵達は沈んでいるが、仁右衛門が「鬼の井尻がついておるわ」「おなごにはめっぽう弱いがのう」と冗談を言ったことで、気勢が上がる。これを見てしんのすけが「お祭りみたい」、ひろし「だったらいいよな…」。 「戦国大合戦」踏襲だが、康綱が「去りたい者は城から出よ」と命じるシーンはカット。真一「お祭りみたい」、暁「お祭りならいいけどな…」。
詳細な戦のシーン。 戦のシーンは「戦国大合戦」踏襲だが、実写化不能、または困難な部分は再現していない。
しんのすけが「おまたのおじさんだいじょうぶかな?」として戦場へ駆け出す。ひろしが「お祭りじゃねーんだぞ! 戦だぞ戦!」と叫びながら息子を追う。しんのすけは又兵衛のところまで行き「オラ手伝いに来た」と言うが、又兵衛は「無用だ」として追い付いたひろしにしんのすけを連れ戻すよう命じる。だがひろしの前で兵が倒されると、又兵衛は親子が危険と判断して近くの小屋にしんのすけとひろしを隠す。そこへ敵が放った焙烙火矢が直撃し、小屋は炎上するがしんのすけとひろしは小便でこれを消火。敵の焙烙火矢が引火して爆発し、敵が怯んだ隙にしんのすけとひろしは城に戻る。。 真一は又兵衛のことが心配になり、戦場へ向かって駆け出す。暁が「本物の戦争なんだぞ、殺し合いなんだぞ!」と叫びながら息子を追う。真一は又兵衛が戦っている光景が見える場所まで行き立ち尽くす。「俺たちが行っても邪魔になるだけだ」と追い付いた暁が言い、城に戻る。戻って来た真一に廉姫は様子を聞くと、真一は又兵衛が無事だったことを何とか語る。廉姫は苦しそうな表情で「そうか…」。暁は「俺があんな話をしたせいで…」と悔やむ。
(名台詞)
「おまたのおじさん大丈夫かな? オラ、ちょっと見てくる!」(しんのすけ)

「又兵衛さん大丈夫かな? ちょっと行ってくる!」(真一)
  城の中で兵達への炊き出しが始まる。廉姫や美佐子だけでなく、真一や暁もおむすび作りに加勢する。
高虎が今後の方針として、城方の面目が立つ戦をさせ、頃合いを見て和睦。敵がノコノコと出てきたところを男を討ち取り、女を頂くとする。 「戦国大合戦」踏襲。だが「追い詰めて廉姫が自害したら困る」という理由とされる。
城の中で兵達への炊き出しが始まる。廉姫やみさえもおむすび作りに加勢する。  
夕刻となり、巻き貝の音で引き上げとなる。
夜になり、又兵衛が「明日の夜明け前にそれが師が隊を率いて討って出ることになった」と告げる。同時に野原家には、夜明け前の戦いの混乱に乗じて自動車で逃げるよう命じる。
「戦国大合戦」踏襲だが、又兵衛が地図を示して夜明け前の作戦について説明するシーンを追加。さらに最後の部分は、又兵衛が持ち場に戻るために立ち上がったところで、「いいの? もう会えないかも知れないわよ」と美佐子が言うと、廉姫は立ち上がり又兵衛を追い「武運を祈っている」と告げるよう変更される。
(名台詞)
「死ぬことだけが、武士の道ではありませぬぞ。」(吉乃)

「何と言うことを…死ぬことだけが、武士の生き方ではありませぬぞ。」(吉乃)
  持ち場に戻る又兵衛を真一が追い、「本当にこれで良いの?」と問う。又兵衛は「自分が守りたいと思うものを生命を賭けて守れ。それが武士というものだ。だから俺は今武士として、とても幸せなのだ。これで十分なのだ」と言う。だが真一は下欄の台詞で又兵衛に詰め寄ると、又兵衛は廉姫の元に引き返す。そして廉姫に「姫様、ひとつ約束して下さい。自由にお生きくださりませ! 例え春日の国が滅びようとも、姫らしく凛と。それがこの又兵衛、最後の願いであります。」と言う。これに対し廉姫は「ならば私も、お前に最後の願いを言おう。必ず生命を繋げ。お前が生きて帰ってきてくれれば…」と言いかけたところで又兵衛の胸の中に飛び込み続ける。「自由に生きよう、お前と」…。
(名台詞)
(該当の台詞無し)

「最後の最後まで逃げるのかよ? もし又兵衛さんが死んじゃったら、廉姫様はどうすれば良いんだよ?」(又兵衛)
夜中に春日の城下町が焼かれるのを見ながら、又兵衛と仁右衛門が酒を酌み交わす。又兵衛は仁右衛門にお里のために帰るよう訴えるが、仁右衛門はそれでも又兵衛と共に出撃することを選ぶ。 夜が更け、真一が母の膝枕で眠りについたとき、暁は不安な表情を浮かべる。美佐子がその理由を聞くと、「皆が国を守るのに生命を賭けて戦っているのに自分には何も出来ない」と語る。美佐子は「自分達はこの時代の人間じゃないから仕方が無い」と言うが、暁は「役に立ちたい」と自分の胸の内を語る。ここで美佐子は「いいことを考えた!」と言い出す。
明け方が近くなると、野原一家と廉姫の別れの挨拶となる。廉姫は食べ物と金子をひろしに渡し「無事元の世界に帰れると良いが…」と語る。 夜中、戦場に立つ又兵衛の元に暁が走る。そして又兵衛に「写真、撮りましょう」と声を掛ける。そして兵達の撮影会となる。その後、文四郎とお里との別れのシーンが描かれる。
出撃前、又兵衛は自宅で廉姫が自分の手に巻いてくれた手ぬぐいを眺める。そして意を決したように手ぬぐいを握りしめると、その手ぬぐいを片付けて家を出る。 出撃前、又兵衛は自宅で廉姫が自分の手に巻いてくれた手ぬぐいを眺める。そして手ぬぐいを鉢巻き代わりに額に巻いてから、家を出る。
又兵衛は「丸腰では不安であろう?」とひろしに刀を渡してから、「お前達家族と会えて良かった」と語る。「いいえ、こちらこそ」と泣くひろしとみさえに「泣くのは無事帰ってからにしろ」と又兵衛が言い残す。 暁に対し写真の礼を言い、「これで自分達がこの世に生きていた証が残せた」と語る。暁は「生きて帰って来て下さい」。又兵衛は「お前達家族と会えて良かった」と語り、真一には「お前のおかげで俺は今ここにいる」とする。別れを惜しんで泣く真一に、「泣くのは無事帰ってからにしろ」と言い残し、又兵衛は戦場へ向かう。その後ろ姿を真一が呼び止め、廉姫が映っている写真を表示した状態で携帯電話を渡す。又兵衛は「自分に万一のことがあったら、これを姫に渡してくれ」と言って、昨夜撮った自分の写真を渡す。
(名台詞)
「今日は晴れそうだ…」(又兵衛)

(該当の台詞無し)
出撃シーン 「戦国大合戦」踏襲だが、門を開けた時に又兵衛は真一が取った廉姫の写真を見る。また川上一家は自動車が隠してある場所までは、兵と一緒に進軍する。そしてそこで、逃げるよう命じられていた彦蔵と儀助との合流や、又兵衛と川上家の別れが演じられる。
廉姫は堪えられなくなり、避難していた一曲輪から抜け出し、「外の様子が見たい」戦場がよく見える櫓へと走る。 川上一家は遠目で戦況を見守り、又兵衛らが大蔵井勢に囲まれるのを目撃する。真一が「助けに行こう」というが、暁は「俺はお前達家族を守らねばならない」と反論。だが真一も下記の台詞のように反抗する。その台詞を聞いた暁の表情が変わる。
(名台詞)
(該当の台詞無し)

「仲間を…友達を見捨てるような奴に、家族なんか守れるかよ! 俺はもう、逃げるのは嫌なんだよ。」(真一)
又兵衛達から一歩遅れて城外に出た野原一家は、遠目に戦況を見る。しんのすけが「おまたのおじさんだいじょうぶかな?」と呟くが、ひろしに反応はない。「お助けしなくていいの? 父ちゃん!」としんのすけはひろしに詰め寄る。 廉姫は堪えられなくなり、避難していた一曲輪から抜け出し、戦場がよく見える櫓へと走る。内容は「戦国大合戦」を踏襲。
又兵衛達の戦況が不利になってきたところで、野原家の自動車が戦場に突進してくる。「春日部住人野原一家、儀によって助太刀いたーす! いざ!」「どけどけ! ぶつかっても保険はおりねーぞ」とひろしが叫ぶ。又兵衛は自動車突進で大蔵井勢の体制が乱れたことに気付き、「この機を逃すな!」と叫び、戦いを有利に進め始める。進撃の中で、野原家の自動車は鉄砲に討たれ、敵陣の柵にぶつかり、ひろしが「へこんだぞ」と嘆く。 又兵衛達が大蔵井勢に囲まれ万事休す、と思ったところでどこからともなく自動車のクラクションが響いてくる。その音に振り返ると丘の向こうから川上家の自動車が猛スピードで突進してくる。「どけどけどけ!どかねーとはね飛ばすぞ」「どけどけどけ! ぶつかっても保険はおりねーぞ」と暁が叫ぶ。「又兵衛さん、助太刀に来た」暁が言うと、又兵衛は嬉しそうな顔でこれに応える。又兵衛は自動車突進で大蔵井勢の体制が乱れたことに気付き、「この機を逃すな!」と叫び、戦いを有利に進め始める。
野原家の自動車進撃を先頭に、春日勢は高虎の本陣に切り込む。そしてしんのすけが車から降り、高虎に「降参しろ」と迫る。しんのすけを助けようとひろしが車外に出るが、刀だと思って持ち出した者はボディーブレードだった。そこへ又兵衛も本陣に切り込み、馬回り衆の一人と一騎打ちになる。 川上家の自動車を先頭に、春日勢は高虎の本陣に切り込む。すぐに双方の兵が入り乱れた戦いになるが、高虎は又兵衛を見て「こいつだけは俺が倒す」と立ち上がり、又兵衛と高虎の一騎打ちとなる。
又兵衛と馬回り衆の一人との一騎打ちの隙を見て、高虎は逃亡を謀ろうとする。これを見つけたしんのすけが「逃げるのか」と迫り、これによって怒り心頭の高虎がしんのすけを斬ろうと刀を振り上げたところで、みさえが間に入り高虎の刀を受け止める。そこへひろしがボディーブレードを振り回して高虎に渾身の一撃を加え、とどめにしんのすけの金的で高虎は倒される。 又兵衛と高虎の一騎打ちは廉姫の取り合いの様相を見せる。だが戦術では又兵衛が上回っており、高虎は槍を突き飛ばされて敗北する。真一が車から降りて「やった」。
しんのすけの金的により気絶した高虎の元に、又兵衛はゆっくり歩いて行く。何が起きるか理解したしんのすけは2つ下の台詞を力説する。だが又兵衛は黙って倒れたままの高虎の鎧に手をかける。 槍を突き飛ばされた高虎は、覚悟を決めて腰を下ろす。そして下記の台詞を吐くと鎧を外し「やれ」と首を出す。何が起きるのか理解した真一は又兵衛の元に走り、2つ下の台詞を力説する。だが又兵衛は無言で真一を退けて、高虎の髪をつまみ上げて刀を振り落とす。
(名台詞)
(該当の台詞無し)

「こんなところで、こんな奴に…。人というのは、つまらぬところで躓くものだな。」(高虎)
(名台詞)
「待って! もういいでしょ? オラ達、勝ったんだよ。こいつ悪い奴だけど、もう大丈夫だよ。おじさんが強いのわかったから、もう攻めてこないよ! だから許してやろうよ。」(しんのすけ)

「待ってよ! もう良いでしょ? 僕たち勝ったんだよ。この人達、春日強いのわかったからもうきっと攻めてこないよ。だから許してやろうよ。この人殺したって、何も始まらないんだよ、又兵衛さん。」(真一)
又兵衛は大蔵井勢に対し、大蔵井高虎を討ち取ったことを宣言する。だが高虎を殺してはおらず、「もとどりだけを頂戴しお返し申す」とする。その宣言の後、高虎が前に出るが、しんのすけによる金的の影響が残っていて腰を曲げながら引き上げの命令を下す。櫓から見守る康綱や廉姫にもこの様子は見えており、心から安堵する。 「戦国大合戦」踏襲だが、高虎は金的を食らっていないので、それに従って描き直されている。高虎は引き揚げる際、又兵衛のところで立ち止まり「この仮は忘れん、春日の窮地には駆けつけるぞ」と言い残し、真一をしばらく見つめてから立ち去る。櫓から見守る康綱や廉姫にもこの様子は見えており、心から安堵する。
引き揚げシーンでは、又兵衛としんのすけは同じ馬に乗り、その後を野原家の自動車、そして生き残りの春日の兵達が徒歩でついてくる。仁右衛門達は兵が減ってしまった事を嘆き、ひろしとみさえはしんのすけが侍になりたいと言い出すのでは、と話題をする。又兵衛は戦の手柄はしんのすけのものだとし、殿が褒美をくれるので何が良いか聞く。しんのすけは又兵衛の小太刀が欲しいと言うが、又兵衛は父の形見だから譲れないとする。 「戦国大合戦」踏襲だが、又兵衛と真一は馬に乗らず、先頭を歩いている。また、又兵衛は戦の手柄は川上一家のものだとする。さらに真一が又兵衛の写真を預かっていた事を思い出し、これをネタにして又兵衛の小太刀を要求するシーンが追加される。
又兵衛達が見えてくると、櫓の上で廉姫が大きく手を振る。これを見たしんのすけは「廉ちゃんだ」と言って手を振り返す。又兵衛は表情を赤らめ、廉姫は安堵のため息を漏らした瞬間に銃声が響く。そして又兵衛としんのすけが乗っていた馬が停まり、又兵衛は静かに落馬する。 途中まで「戦国大合戦」踏襲だが、安堵した廉姫は堪えられなくなって又兵衛の元へ走り出す。吉乃がこれを制止するが、康綱が吉乃の制止を止める。そして廉姫が又兵衛の元に向かって笑顔で走る途中、突然銃声が響いて又兵衛がその場に倒れる。
しんのすけは馬から下りて又兵衛の元に駆け寄る。「おじさん、どうしたの?」「撃たれたらしい」…驚くしんのすけに、又兵衛は下欄のような台詞でしんのすけとであったことの意義を説く。そして形見としてしんのすけに、あの小太刀を渡す。そこで又兵衛は絶命し、しんのすけは小太刀を手にして大泣きをする。仁右衛門や彦蔵や儀助が「誰がやった?」と叫んで刀を振り回し、廉姫は櫓の上で静かに泣く。 基本的に「戦国大合戦」踏襲だが、又兵衛が通れた場所に真一だけでなく、春日の兵達や暁や美佐子も駆けつける。そして最後には「又兵衛!」と叫びながら、廉姫もそこに走ってくる。「姫、私は果報者です」と言い残して、又兵衛は絶命する。「又兵衛、死ぬのは許さぬぞ」「私を一人にするな」…廉姫は絶叫しながら泣く。
(名台詞)
「しんのすけ、お前が何故俺の元へやってきたか、今わかった。俺はお前と始めて会ったあの時、撃たれて死ぬはずだったのだ。だが、お前は俺の生命を救い、大切な国と人を守る働きをさせてくれた。お前は、その日々を俺にくれるためにやってきたのだ。お前の役目も終わった、きっと元の時代へ帰れるだろう。馬鹿、泣くな、帰れるのだぞ。そら、これをやろう。お前の言う通り、最後にそれを使わないでよかった。きっと姫様も同じことを…」(又兵衛)

「真一、お前にもらった時間も尽きたらしい。ほら、これをやろう。お前の言う通り、これを使わないで良かった。」(又兵衛)
泉のほとりでしんのすけと廉姫が語り合う。「又兵衛が戦で生命を落とすことを、私は判っていたのかも知れない。多分、又兵衛自身も。私の願いが届いたせいで、しんのすけには辛い思いをさせてしまったな」と。それに対ししんのすけが「廉ちゃんはおまたのおじさんと結婚したかった?」と聞くと、下欄台詞のように返される。しんのすけが又兵衛の本当の気持ちを語り掛かると、廉姫は涙を流しながら「もうよいのだ」と返答する。しんのすけは又兵衛の秘密を口に仕掛かったことで「金打」をする。そして野原一家が廉姫に挨拶をし、自動車に乗り込んでエンジンを掛けると…もうそこには自動車も野原一家の姿もなく、廉姫だけが一人取り残された。 基本的に「戦国大合戦」踏襲だが、「戦国大合戦」では又兵衛が死の間際に語った「なぜ真一がここに来たのか」という謎解き(「戦国大合戦」の1つ上欄参照)と、そうであれば真一の役割は終わったので帰れるという内容の台詞(「戦国大合戦」の1つ上欄参照)は、ここでの廉姫の台詞になっている。また、真一が又兵衛から「自分にもしものことがあったら廉姫に渡して欲しい」と言われて預かっていた又兵衛の写真も、真一がここで渡している。また、この一連のシーンは夕方のシーンに描き直されている。さらに、足下では真一が植えたクヌギの実が、芽を出していることが示唆されている。
(名台詞)
「うん、こんなに人を好きになることは、もう二度とないと思う。だから、私はこれから先、誰にも嫁がない。」(廉)

「うん、今までこんなに人を好きになったことはない。」(廉)
野原一家は、気付くと自宅の庭に帰ってきていた。一家が自動車から下車し、ふと空を見上げると又兵衛の旗印にそっくりな雲が出ていた。一家はこれを見上げ、しんのすけは又兵衛の形見の小太刀を雲に向かってかざす。 川上一家は、「川上の大クヌギ」の下に停めてある自動車の中で気絶していた。まず真一が目を覚まし、大クヌギを見上げる。両親がこれに続く。そして真一が、春日城があった山に目をやる。「あの山、春日城の跡だったんだ」と真一が言うと、美佐子が「あそこに行ってみよう」と声を掛ける。親子が城趾の山を登り、本丸があった場所に着くとそこにはひとつの石碑が建っていた。石碑を見た真一は感慨を込めて「どういたしまして」と口にする。石碑には「ありがとう れん」と掘られていたのだ。
そして最後、真一は自転車に跨って学校へ向かう。「今日くらいは休んで良い」という美佐子に対し、力強く「俺も逃げてばかりいられないんだよ」と言って真一は立ち去る。両親が真一の成長について語る。そして雄叫びを上げながら自転車で学校へ向かう真一の姿が出たところで、物語は幕を閉じる。
一方、戦国時代の空にも同じ雲が浮かんでいた。これを見た廉姫は「おい、青空侍!」と声を掛けたところで、物語は幕を閉じる。 エンディングの背景は、劇中で真一が撮影した携帯動画という設定となっている。

考察・感想
・序盤

 本作については初めて見る前に、設定変更点などは事前に知っていた。だから物語全体としても「しんのすけ」が「真一」という小学生に変わった事で、どのような物語を見せられるかはかなり期待していた。いくら「野原しんのすけ」でも「幼児」であり基本的には受け身のキャラクターである(特に「戦国大合戦」では顕著)が、小学生ともなれば受け身だけでなく大人の世界にある程度入っていける。つまり物語への影響度も大きく変わることになる。また小学生である以上は、物語を通じて「成長」を見せる必要も生じるだろう。

 最初は「戦国大合戦」と全く同じ始まり方だ、湖の畔にいる美しい姫君、水面に浮かぶ映画のタイトル。そして主人公が目を覚ますとその瞬間から主人公の設定が変わった事による「差別」が演じられる。主人公の両親も出ないままに登校シーンとなり、真一とクラスメイトの女の子の物語が演じられるのだ。この女の子が、真一をさりげなくいじめるのがこれまた良い空気を出している。主人公の弱みにつけ込むというより、主人公の欠点に突き刺さるような言葉をずかずかと言うのだ。これは後の方の真一が見た夢のシーンでも同じである。この女の子、登場回数は少ないのだがものすごく印象度が高いのは、このように主人公の欠点を明確にして主人公が越えるべきハードルを設定するという重要な役を、その印象深い演技で演じたからだろう。
 続いて出てくる真一の両親も、これまた初登場から夫婦喧嘩モード全開だ。それも「クレヨンしんちゃん」の両親とは違う、かなり深刻な内容の夫婦喧嘩で始まり見る者を不安にさせる。ここもこの夫婦に「越えるべきハードル」を設定したと言って良いだろう。こうして序盤の僅か数分で現代キャラの設定付けは完了する。ここまで急いだのは原案の「戦国大合戦」では前提だった部分であり、ここに時間を割くと物語の雰囲気が変わってしまうからだと推測される。

 真一が二度目の「廉姫の夢」から目覚めたところから、本題が始まる。ここで再度真一に同じ夢を見させたのは「しつこい」と感じる人もあることだろう。だがこのシーンを境に、物語は明確に「前置き」から「本題」に変わっていて、場面転換としては悪くないシーンだ。
 そして学校も始まる前の朝の早い時間から、真一の父が近所の大木の写真を撮影していた不自然にツッコミを入れてはいけない。ここは「戦国大合戦」同様に細かいことを気にせず、勢いだけで突っ走らねばならない部分だ。そして唐突に父がいなくなると、真一はクヌギの実を拾った際に文箱が埋まっているのに気付くというシーンに描かれた。掘り出して手紙を読み、そして「戦国大合戦」同様に原理も仕組みも無いままに唐突にタイムスリップ。こうして主人公は有無を問わさずに戦国時代に放り込まれる。ただタイムスリップ時に、その当人は気を失うという新たな設定が加わった。

 タイムスリップした真一が目を覚ますときの演技がとても良い、突然見知らぬ場所に飛ばされてしまった少年というのを見事に演じている。またここで主人公に「自転車」という新アイテムが加わっている事は、「戦国大合戦」を知っている人の多くが気付くことだろう。
 そして「戦国大合戦」をほぼ踏襲した展開で又兵衛と出会うが、ここでは戦にならずに少し拍子抜け。だがその代わりに主人公は捕らえられてしまい、縄で縛られて殿様の直々の取り調べを受けるという大ピンチが描かれる。このシーンでは真一が縄で縛られた上、持ち物であるランドセルの中身が全て開けられている点もリアルだ。真一は間者であると疑われ、その疑いを晴らそうと「未来道具」(ドラえもんか?)を駆使すれば天狗の子と疑われ斬られそうになり、万事休すと思ったところに廉姫が現れて真一は救われる。この廉姫の出方が全く違う状況ながらも「戦国大合戦」の廉姫と雰囲気を上手く揃えていて、面白いと感じた部分だ。

 ここで出てくるのは「文四郎」という謎の若者だ。「戦国大合戦」を知っている人はこの人物が何者かで頭を悩ましたことだろう。又兵衛との会話を良く聞いてないと「仁右衛門の息子」という正解になかなかたどり着けないのはちょっと難点だ。やはり原案がある映画なのだから、原案にない人物が出てくるときでもそれが「誰」なのか見た瞬間に判るようにして欲しいなー。

 ここからは「戦国大合戦」と大きく展開は変わらない。だがそれぞれのシーンの順番は入れ替えられていて、「戦国大合戦」を知っている人は少し混乱しそうな場所だ。先に真一の両親が息子が消えて心配するシーンとなり、それで突っ走ると思ったらすぐ戦国時代に場面が戻る。ここはちょっと忙しいので、出来れば二元中継にせず現代なら現代、戦国時代なら戦国時代で話をまとめて欲しかった部分だ。「戦国大合戦」はそのように分けたので、話がわかりやすい。
 戦国時代シーンでは、発掘されることになる「手紙」を書くシーンは設定ごと変えられている。手紙を書く発案者は廉姫でなく又兵衛とされ、真一は又兵衛の家で手紙を書くのだ。
 現代シーンでは、「戦国大合戦」とほぼ同内容のシーンが描かれているが、夫婦の役割が逆になっているのが面白い。
 そして戦国時代の真一が学校に登校した夢を見る。この中で先の少女が真一に「逃げてばかりだ」と突き付けるのは、本作品の中で最高の演技だと思う。仲直りしたように見せかけてまだ根に持っている蛇のような少女というのを、とても上手く演じてくれた子役は寺本 純菜という少女であった。

・中盤

 序盤のところで記した、戦国時代の真一が学校へ登校した夢を見たところからが中盤としていいだろう。現代では夫婦の役割が逆になり、戦国時代の郷土史を調べるのは母の役割だ。そして郷土の歴史に息子の名があることを見つけ、夫婦は息子だけでなく自分達も戦国時代へ行く事を悟り旅支度を開始する。さすがに意味不明の格闘技の練習はしなかったが…。
 同時進行で描かれるのは、大蔵井高虎と真一の対面だ。ここで又兵衛が「出入りの田楽師」と誤魔化したことで、真一はまた斬られる危機に陥る。だがここで「自転車」というアイテムが上手く活用される。真一の自転車が「移動手段」だけでなく、危機を乗り越える手段として描かれた事にとても感心した。また直後の真一の「びびった、ちびりそうでした」も現代っ子らしくてとてもいい。そして文四郎が「おおまさ一家」の役割を引き継ぎ、真一を文箱を埋める場所まで案内することになる。湖はその途中とされた。

 だがこれはオマケ的な話であり、本題は高虎が城内に入ってからだ。「戦国大合戦」では前提条件であった廉姫と高虎の婚約であるが、なんと本作では高虎自らが春日に乗り込んで廉姫に求婚も、嫁入りを一方的に決める。廉姫が馬で城外へ掛けだしてしまうのは、このことがきっかけとされ物語に不自然さが無くなったのは言うまでもない。

 こうして湖の畔で真一と廉姫が交錯する上に、野伏まで現れるという「戦国大合戦」通りのシーンになって行くのだ。ここからは城に帰るまで「戦国大合戦」を踏襲して物語が進む。又兵衛が野伏を倒し、それで出来た傷に廉姫が手ぬぐいを巻き、真一と文四郎が文箱を埋め、そして真一の両親がタイムスリップして登場する。ただ違うのは、ここで真一が現代から持ってきたクヌギの実を植えたことだ。だけどその実は現代の木から落ちてきた物で、それをそこに植えても同じ個体にはならないんだけどなぁ…遺伝子的なもんd(ry
 また廉姫を車に乗せるのも、タイムスリップしてすぐではなくしばらく走ったところで廉姫達と合流してのことだ。ここで野伏であった彦蔵と儀助が又兵衛の家来となり、本作に必要なキャラが一通り揃ったところだろう。

 城では物語は「戦国大合戦」を踏襲しているが、描かれ方が多少変わっている。カレーライスが献上されないだけでなく、康綱が廉の大蔵井への嫁入りを断ると決断するシーンは、康綱と廉の二人だけのシーンとされた。暁が歴史を語るシーンでは、康綱だけでなく高虎も歴史の表舞台には出てこないとされたのは、康綱が高虎と組むことを止める決断をする説得力が増した内容でもある。

 そして夜の又兵衛の家での大宴会は、カレーとビールで戦国人が盛り上がるという違和感がとても面白い。同じ違和感は「戦国大合戦」でも描かれたが、実写にされるとこうも強烈なシーンになるとは思わなかった。さらにここで真一が携帯電話を出し、又兵衛を動画撮影するのも面白い。何が面白いって、又兵衛がちゃんと「真一が何をやっているか」を理解してそれなりの対応をしているから面白いのだ。
 このシーンを見て「ドラえもん」を思い出すのはアニメに毒されちゃっている人だ。「ドラえもん」というのは現代人が「未来道具」によって引っかき回されるストーリーが描かれるが、このシーンはまさに戦国時代の人々が現代の文明の利器(つまり未来道具)によって引っかき回されているシーンだろう。

 この次のシーンで怒り狂った高虎が出てくるところからが終盤であるが、この中盤は本作では最も短く感じる部分である。「戦国大合戦」と比較すると、序盤が後ろへ伸び、終盤が前へ伸びてきて中盤展開を食ってしまった感がある。まぁ、本作には「おおまさ一家」も出てこないし、物語もこれと言って余り進まないから仕方ないのだけど。

・終盤

 本作と「戦国大合戦」と比較すると、映画を通じて伝えるメッセージに少し違いがある。その「違い」が一気に吐き出されるのはここたらの終盤であろう。

 高虎の元に廉の嫁入りを断る報せが届くところからが本作の終盤と言って良い。このシーンは「戦国大合戦」とはかなり様相を異にしており、廉の嫁入りが断られたことで高虎は又兵衛に対し異常な執着心を燃やし、冷静さを失って報せの文を叩き斬る…正直言って、このシーンは「戦国大合戦」と同様にして欲しかったなぁ。中盤までに高虎が又兵衛に大して対抗心を燃やす伏線は確かにあったが、どれも伏線としてはアピール度が足りなかった。高虎が過去に廉と出会っていたこと、高虎が廉に婚約を突き付けたとき廉が思わず又兵衛を見たこと…特に後者は細かすぎて気付かない人も多かったことだろう。

 そして「戦国大合戦」踏襲で戦の準備が進む。だが廉が現代社会の恋愛について問うシーンはこの中に移動され、この改変は「唐突さ」が無くなったという点では悪くないと思う。さらに又兵衛が罠を仕掛け大蔵井の軍勢を眠らせない作戦に出たのは、この後の城攻めで春日優位に戦が進む事に対する説得力を強めるという意味で良い点だろう。同時に彦蔵と儀助というキャラも「戦国大合戦」以上に上手く使っており、この辺りは「戦国大合戦」でやりたかったことではないかと勘ぐってしまいたくもある。
 そして城攻めとなり、この辺りは改変のしようもなく「戦国大合戦」とほぼ同じ展開で物語が進んで行く。さすがに真一と暁が立ち小便で火を消すシーンはカットされたが…。

 物語の様相が「戦国大合戦」と大きく変わるのは、又兵衛が「明け方に隊を率いて討って出る」と告げるところからだ。廉に想いも打ち明けずに立ち去ろうとする又兵衛を、真一が引き止めて説得、又兵衛は廉に伝えたかった一言…「廉は廉らしく生きて欲しい」という言葉を伝える。これに対して廉は「生きて帰ってきて欲しい」という願いを言いかけたところで、又兵衛の胸に飛び込む。つまり完全な告白だ。
 ここでひとつのキーワードは「逃げない」ということである。真一は又兵衛も廉も互いの「正直な想い」から逃げていたことを見抜き、「逃げたなら何も進まない」ということに気付くのだ。これはこの物語が真一の成長物語として動き出した瞬間である。つまり、「戦国大合戦」にはない要素であり、物語が出す答えのうちの1つへと真一が向かい始める瞬間である。
 同時に又兵衛と廉の恋物語を通じて、「男らしい生き方」として守るべき者を生命を賭して守る、「女らしい生き方」として愛する者を信じて待つという、ひとつのあり方が明確になってくるシーンである。後の又兵衛が真一から廉の写真をもらい、又兵衛がこれを抱き締めて戦うところも又兵衛が「何を守ろうとしているか」ということを通じて、こんなテーマを伝えようとしている。

 真一が回答に向かい始めると、今度は父親の暁が回答の1つへ向かい始める。「自分に出来る事」をやらねばならないという「男」としての生き様だ。同時に母である美佐子は、そんな暁を支える女房役として上手く回り出す。美佐子の提案で暁が又兵衛らの記念撮影をするシーンでは、このようにして又兵衛や廉と違う「男らしさ」「女らしさ」というものをこの夫婦が演じ、「夫婦とは?」というメッセージを突き付けてくるところでもある。

 そしてここで使用された「写真」というアイテムは、又兵衛が語るように「生きた証」というテーマも見る者に植え付けることになる。つまり遠い過去の時代においても、歴史の裏側で必死に生きてきた人達が様々な物語を紡いでいたという事実だ。こんなテーマを描きつつ、物語はまた「戦国大合戦」踏襲に戻り、いよいよクライマックスである又兵衛らの隊による出撃と、高虎との決戦へと進んで行く。
 その中で川上一家が加勢を決心するシーンでは、またも真一が「逃げない」というテーマで動く。ここでは冒頭の少女とのシーンを伏線として活用し、真一の心の叫びである「自分も逃げてばかりでは嫌だ」旨をハッキリ告げ、真一は大きく成長しようとする。その息子を見れば暁だって逃げるわけにはいかない。これは「戦国大合戦」以上の良いシーンになったと私は思う。

 さすがに高虎との決戦は「戦国大合戦」通りに描く訳にいかず、ここは又兵衛と高虎の一騎打ちとして描き直されている。こうして高虎は倒され、「戦国大合戦」同様に高虎の首が取られることもなく戦は終わる。そして引き揚げシーンの中で又兵衛が銃声に倒れるが、ここで又兵衛が必要最小限の台詞しか吐かないのは現実的でよい。ただ廉が又兵衛の元に駈けて来て、又兵衛にすがって大泣きするのはやり過ぎのような…。

 戦の後、「戦国大合戦」同様に主人公と廉が湖の畔で語り合う。「戦国大合戦」では又兵衛が死の間際に語った台詞の多くが、ここでの廉の台詞とされた改変は前述したように現実的だろう。そして廉は一点の曇りのない又兵衛への想いを真一に語り、廉の又兵衛への想いが明確にされて二人の恋物語が完成する。そして「戦国大合戦」通りに川上一家がタイムスリップして現代に帰ってきて、「オチ」となる。

 その「オチ」は「戦国大合戦」とは大きく違うものとなった。一家は近くの小山が春日城趾であることを知り、そこへ上って行くのだ。そして本丸の跡地にある石碑には、「ありがとう」と刻まれているだけでなく廉の名があったというものだ。この「オチ」からは「又兵衛の死」というものが別の角度から描かれている。それは廉が又兵衛の死を乗り越え、その後も戦国時代の姫君として一般的な生涯を送ったであろうことが示唆されており。その上でここに「未来人」へ向けてのメッセージを残して感謝だけでなく、伝えたいことがあったと言うことだ。それこそ「自分が死んでも又兵衛と共にいつも見守っている」ということであり、これは「戦国大合戦」で又兵衛が死を通じて見る者に伝えた「死者はいつでも見守っている」というテーマそのものであると受け取ることが出来よう。

 そしてもう一つの「オチ」は、真一の成長だ。彼は学校へ走り自分にやることがあることに気付いたはずだ。それは「男らしく」あることであり、「逃げずに戦う」ことであった。冒頭の少女と仲直りし、彼女を守ることこそが自分が「男」としてやることだと彼が気付く「成長」を描き、それを示唆したところで物語は幕を閉じる。

 エンディングの背景画像は、劇中で真一が撮ったとされる携帯動画の画像だ。これがまた違和感ありありで面白い。戦国時代の人達が携帯動画の中に再現されたら、まさにこうなんだろうなと思わせてくれる面白いエンディングで、とても印象的だ。

・総評

 本作では又兵衛と廉を通じて「男らしさ」と「女らしさ」を描き、又兵衛の死を通じて「生命」について描いたことは「戦国大合戦」と変わらない。
 だがそれに付加して、主人公である真一は自らの成長物語を演じ、主人公の父である暁は戦に加勢することだけでなく「自分に出来る事をやる」という「男」をキッチリ演じ、母である美佐子は「その女房役」を上手く演じてくる。この一家は「戦国大合戦」の野原一家と共に「家族愛」を突き付けるのでなく、「夫婦愛とは何か?」と「息子の成長」を演じたと言って良いだろう。

 「戦国大合戦」からの改変については、多くが上手くいっていると思う。だが前述したように高虎が又兵衛に対し対抗心を燃やす点は伏線が不足していたし、廉が死んだ又兵衛にすがって泣くのはやり過ぎで萎える人もあったと思うところだ。
 実写ならではの表現、実写では不可能な表現というものもあり、この辺りの使い分けは難しいところだ。実写で不可能なのは合戦シーンに多く、細かい点は省かざるを得ないのはやむを得ないだろう。その代わりに「実写ならでは」として、例えば合戦中に又兵衛が遠くを見るのに暁からカメラと望遠レンズを借りたシーンや、彦蔵と儀助が罠を作るシーン等が該当する。これらは合戦シーンを大いに盛り上げることになり、合戦の「奥行き」を拡げるのに成功したと思う。

 物語全体を見ると、「戦国大合戦」に様々な肉付けをしつつも冗長にならないよう上手く配慮がされ、見ていて面白いと感じた。特に「戦国大合戦」を見た人なら誰でも楽しめる作品となった。これは「戦国大合戦」よりも話やテーマを拡げただけでなく、「戦国大合戦」にあった「行間」や「描き残し」を上手く描いたこともあるし、「戦国大合戦」をそのまま実写として再現したシーンもあるからであろう。この作品はアニメ映画の実写化において、とても良い見本となったと思う。

 本作は私は純粋に面白いと感じた。このサイトをご覧になった皆さんにも、是非とも見て頂きたい1作である。登場キャストなどへの偏見は抜きにして、作品を心ゆくまで楽しんで欲しいと思う。

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