「思ったこと」特別編

愛車乗り換えの話

現在の愛車

スズキ・ワゴンRワイド1997年式XL 5MT・4WD
1000ccDOHC NA
1997年7月17日登録 2000年7月13日車検

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1.クルマ選び〜契約編

 時は早いもので、今の愛車に「あ〜るくん」と名付けて家族の一員にしてから、もう5年が経つ。
 その間、「あ〜るくん」は8万キロ以上もの距離を私と共に走り、クルマでの旅の時間を一緒に過ごしてきた。北は下北半島大間岬から、西は島根県の宍道湖まで、本州全域を一緒に旅した既に思い出多きクルマであって、私の手足同然である。

 ところが、使い方が過酷だったのか、はたまた運転が悪いのか、足回りを中心にかなりくたびれているのも事実だった。今年に入ってから既にクラッチのトラブルに見舞われ応急的修理で対応し、続いてマフラーにトラブルが発生してディーラ整備工場から「早期の交換が望ましい」との診察結果が出た。さらに夏用タイヤの摩耗が極限まで来ていて、これも早急な履き替えを要するといった状況に追い込まれ、現在は摩耗の少ない冬用タイヤを使用して急場を凌ぐという状況。これらを一斉に交換するとなると多額な費用を要する事が分かった。また、今回直したたとしても、今後は故障や修理箇所がでてくる可能性は高くなるばかりである。
 それとは別に、我が家を取り巻く環境が変わっているのも事実である。私や妹に子供ができたりして、時と場合によってこの「あ〜るくん」が手狭になるように感じてきた。特にこのクルマの弱点であると私が購入時から認識していた荷室の狭さが問題になり始め、長距離旅行の際の荷物の積み込みに助手席まで使うようになった。荷物が運転を支障するようになって安全面の問題も生じるようになった。当時、荷物が多いときは夫婦2人、多くても誰か一人足して3人で使用というのが前提だったので、購入時は問題ないと判断したし、つい1年半前まではそれで全く問題がなかった。

 今年は「あ〜るくん」を買ってから丸5年。2回目の車検を迎える。
 私は私自身や「あ〜るくん」に取り巻く環境を考慮した上で、「あ〜るくん」を直して使い続けるか、はたまた新車に乗り換えるのかを悩んでいた。

 実は「あ〜るくん」の次のクルマ、というのは全く考えたことがないと言う訳ではない。「あ〜るくん」購入直後から最小限の乗用車に関する情報は入手し、興味があるクルマについてはいろいろ詳細を調べたりしていた。
 特に「あ〜るくん」購入直後に発売されたトヨタ「ラウム」は私を非常に悔しがらせた。ほぼ同じ室内広さと少し低いだけの室内高さの車内に、両側スライドドア+コラムシフトによるウォークスルーなどの使い勝手の良さそうな車内。価格帯も少し高いだけとあって新車購入をもう少し遅らせたら…と思うこととなった。
 その私の悔しがるのが正解と言わんばかりに、他メーカからも似たようなクルマが続いて発表された。それらのクルマは私が注目した部分はことごとくカットされており、特に興味を引く物ではなかった。
 それとは別に、ハイブリッドカーなどの新技術にも関心を持った。トヨタが出したガソリンエンジン+電気モーターのハイブリッドシステムを積んだ「プリウス」は雑誌などを買ってどんなもんかと思ったものである。去年の北海道出張中の現地休日では、レンタカーでプリウスを借りて1500キロに及ぶドライブでその性能を堪能した。

 実際にインターネットや雑誌、カタログを取り寄せたりして内容を調べてみた車種は、この5年間では以下の通り。

スズキ ワゴンRプラス(ソリオ)
エブリィプラス(ランディ)
エリオ
トヨタ ラウム・スパシオ・プリウス・ファンカーゴ
ナディア・ガイア・エスティマ(ハイブリッド仕様)
ホンダ ステップワゴン・キャパ・モビリオ
ダイハツ パイザー・アトレー7
マツダ デミオ・プレマシー

…中には「あ〜るくん」購入時にも候補に挙げた車種もある。車種がミニバン系に偏っているのは単に私の趣味である。この中で私の収入で帰る価格、かつ趣味に合いつつも、生活にも合致するクルマというのはなかなかないものである。

 さて、去年の夏頃から前述したような問題が多発し、「あ〜るくん」の行く末を真剣に考えねばならない状況になった。車内が手狭なのを我慢してクルマを直して使い続けるのか、はたまた新車に置き換える必要があるのか。
 私の感情だけで言えば、「あ〜るくん」は手放したくないクルマであった。4年以上に渡って慣れ親しみ、自分の手足のように走ってきたクルマである。私が運転するのに一番慣れていて、どんなときも言うことを聞いてくれる可愛いヤツであった。
 買い換えると言ってもそう簡単には手放せるものではなかった。確かにどんなに愛した物とも必ず別れの時が来るのは分かっている、それなら自分が納得の行くクルマを買ってやらないと自分も「あ〜るくん」も納得がいかないだろう。決して今のクルマに飽きたとか、嫌になったとかそういう理由で乗り換えるわけではないのである。
 だから、絶対に妥協は許されない。そう言うつもりで「購入」をも視野に入れてクルマを探すことになった。無論「直して使う」という選択肢も自分の腹の中にあった。

 新車に買い換える場合、次の条件に当てはまるクルマでなければならなかった。

・エンジン排気量は1500cc以下。 排気量は税金などの維持費を大きく左右する。今の生活で払えるギリギリの排気量がここ。
・3列シート6〜7人乗りであるが、普段は2列シート4〜5人乗りとして使用できること。 ・クルマの定員の増加を望むが、うち座席一列分は「予備座席」として割り切り、長距離旅行時などはそのスペースに荷物を多く積むという使い方を考えている。
・運転操作性、運転時の視線等が今のクルマとほぼ同じであること。 ・乗り換えても大きな違和感を感じないこと。本来ならMTが望ましい。
・車体の大きさは一回り大きくなっても良いが今のクルマと近いもの、車高はほぼ同じで小回り性能と燃費を重視。 ・クルマそのものの性能は現在と同程度でよい。
・価格は車体+オプション品で200万円以内+諸費用。 ・ローンを組んで払える範囲はここまで。月々の支払いが現在のクルマの場合+α程度。

  これら5点の条件すべてに当てはまりつつ、私の好みに合ったクルマとして、去年の段階では3車種を候補としていた。
 それはスズキの「エブリィランディ」と、ダイハツの「アトレー7」(トヨタブランドバージョンの「スパーキー」含む)と、トヨタ「スパシオ」である。
 トヨタとホンダからは他にも何車種が該当しそうだが、微妙に価格帯が違ったり、小回り性能が劣ったり、車体が大きすぎたり、フルモデルチェンジのために排気量が大幅に上がってしまったり、色々な理由で候補から外した。それよりも趣味に合わないという点もあったが。

 3車種の中でも問題点が大きいものは積極的に外すことになる。

 トヨタ「スパシオ」はミニバンやワゴンと言うよりも、普通の乗用車を3列座席にしただけという感があった。ネット上のカタログでもそれは一目で判断できた。車内高さも長さも一般的な5人乗りのハッチバックの乗用車と殆ど変わらず。その中に3列分の座席を積んでいるので構造に明らかなムリがあると判断できた。3列目はメーカ側も「予備座席」と割り切っているようだが、私に言わせれば割り切りすぎで、大人が座るなら短距離乗車における最低限の居住性すらないと思えた。私の使い方では3列目の予備座席に座るのは子供でない、大人である。子供は2列目のチャイルドシートに座ることになるのだ。さらに、長いボンネットに低い視線は私が運転するには違和感が大きいと思えた。性能的には申し分ないクルマだったが他の部分で納得できるわけがなく、最初に候補から外した。

 次はダイハツ「アトレー7」である。内装の使い勝手はかなり良さそうで最初に発表されたときに心を動かされたが、この時に重大な問題に気づいていた。近所にダイハツのディーラがないのである。一番近いところでは立川の多摩川沿い、中央線の線路を越えなければならない(渋滞が激しい)。これではせっかくクルマを買ってもアフターサービスを受けるのが困難なため、トラブル発生時などに問題が生じる可能性があって候補から外すことにした。このクルマをブランドだけ変えてトヨタの販売店が出しているのも知っていたが、どうせ乗るならオリジナルに乗りたい。これは好みだけの問題である。

 残ったのはスズキ「エブリィランディ」であった。これはこのクラスの7人乗り車では一番装備が充実していて、2列目キャプテンシートによるフォークスルーの実現や、リアエアコンを装備して2列目と3列目にも観光バスのように冷風の吹き出し口があった。さらに左側後部スライドドアの下に自動収納式のステップが標準装備され、小さな子供の乗り込みに便利と広告されていた。
 ただ他の7人乗りと大きく違うのは、他が2列目が3人席で3列目を2人席としているのに対抗して、2列目にキャプテンシートを2席、3列目は3人分の一体座席という配置であって、普段2列だけで使うときは今までのクルマと同じ使い方をすると言うわけには行かないようだった。さらに2列目座席を収納して後部を全部荷室とするという使い方も出来ないため、これに伴う利便性の低下が懸念されたが、前述のような充実の装備がそれを十分カバーできると判断した。

 早速、これを前提に詳細を検討してみてが、いろいろと問題が大きいことが分かってきた。
 まずカタログを取り寄せて主要寸法図を見て驚いた。横幅が普通の乗用車に比べて大幅に狭いのである。ベースが軽ワンボックスの「エブリィ」である事は知っていたが、まさかその車体をそのまま使っているとは思わなかった。続いてワンボックスゆえにFR車となってしまって、走行安定のためには4WDでないと不安が大きく予算内で希望のオプションすべてを装備するのが難しいこと、充実装備のせいで車体重量が増えたせいかこのクラスのクルマとしては燃費があまりよろしくないことも分かってきた。

 とにかく実物を見てみよう、と思った。しかし、今の愛車の点検のためにディーラへ行った時に見せて貰おうと思ったら、現物がなかった。これではお話にならない、担当の営業マンに話を聞いても要領を得た話はほとんどなく、「家族が増えたりして7人乗りがいいかな」って最初に言ったにも関わらず、5人乗りの「エリオ」を勧めるという始末であった。その後、クルマに不具合があって見て貰った時に、ディーラの駐車場の片隅で展示されている「ランディ」を見つけた。これを興味深そうに眺めている私の姿を見ても誰もセールスしようとしない、それどころか話を聞きたくても周囲に人がいないという有様であった。この会社、本気でクルマ売る気があるのか?と今でも疑っている。
 なにはともあれ、実物を見た感想は「まるで玩具」であった。取り敢えず大人6人なら乗れそうな玩具。全体的に座席や装備品のサイズを小さくして車内を広く見せるというマジックを一発で見破ってしまった。でも充実した装備に目を奪われていたのもあって、「?」ではあったが候補から外せずにいた。
 とりあえず「エブリィランディ」は私のクルマ選びの中で、追い風参考記録的な部分もあるが優位に立った。しかしそれは「他に対抗できるライバルがない」だけの話で、この時点ではまた「あ〜るくん」を直して使うという選択は捨ててはいないどころか、こっちにする可能性の方が高かったのである。

 ここで今回の私のクルマ選びの転機が訪れる。
 ホンダが1500cc7人乗りの新型車「モビリオ」を発売したことである。最初は新聞記事でこれを知ったが、情報も少なかったこともあってまた「スパシオ」みたいなクルマが出たんだろうと思ったくらいで、特に興味を引く存在ではなかった。がどこかで詳細だけは見て置いた方が…心の中に引っかかるクルマであった。しかし、通りすがりのホンダ販売店の店頭に展示されている「モビリオ」を見た第一印象は「何だ?あの窓だけがでかいだけの気持ち悪いクルマは?」というあまり良くないものであった。
 実物を見る機会は少し遅くなって、忘れもしない3月16日の土曜日に訪れた。この一週間前、近所にホンダの新しいディーラが開店した。しかも同じ敷地にホンダの全ディーラ、ベルノ・プリモ・クリオ・二輪専門の4種類の店が全部入っているという大型自動車店であった。この開店記念のイベントに一度遊びに行くという大義名分をつけて、新型の7人乗り「モビリオ」の実物を見ようと考えたのである。まだホームページ上のカタログも見ておらず、ぶっつけ本番で本物を見よう、そう思った。
 実物を間近で見たのはこれが始めてである。まだ公道を走っている姿も見たことがない。とにかく第一印象で思った「窓がでかいだけの気持ち悪いクルマ」という印象は吹き飛んでいた。窓の大きさは車内の明るくし、小型自動車とは思えない開放感を作り出していた。中をのぞき込んでこれを見ただけで「欲しい」と思ったのは本当である。座席の配置は2列目が幅広の3人がけで7人、3列目を普段畳んでおけば今のクルマと同じ使い方ができる。その3列目座席は畳むと2列目座席の下に完全に収まって後の荷室を完全フラットとして使えるのが驚いた。その3列目座席も「予備座席」としても割り切りは感じるものの、大人の定員乗車には必要な快適性を備えているように見えた。それどころか、中距離程度の移動にも3列目座席は十分に使えそうな空間を供えていた。
 営業マンが一人、実際に3列目を畳んだり出したりする実演をしていて、積極的に客の質問等に受け答えし、積極的なセール活動をしていた。スズキとは対照的な光景であった。この日はカタログを請求しただけでいろんな記念品がもらえた上に、娘に「こども免許証」なるものまで発行して持たせてくれた。

 家に帰って早速「モビリオ」を研究してみた。カタログの他にこれが特集されている雑誌も入手していろいろ調べてみた。あの第一印象が悪くて第二印象で理解できたデザインはヨーロッパの路面電車「ユーロトラム」から貰ってきたという。そのために開発陣が熊本市交通局の新型路面電車を取材したという話を知って、私の「てつごころ」がなぜか疼くことに。言われてみれば乗り込んでみたときに床面が低いと感じたが、これは最近の路面電車の方向性と同じである。大きな窓、直線基調のデザイン、真四角に近い車体断面、これらも最近の路面電車と「モビリオ」が持つ共通点であった。その頃、公道を走る「モビリオ」の姿を初めて見たが、確かに路面電車が通過していくのと同じ雰囲気を醸し出していた。そのキャラクターも私の購入意欲を大いに誘った。

 ここへ来て今までのクルマを直して使うという選択肢はかなり小さくなり、買い換えようという方向へ大きく傾いた。「モビリオ」は魅力的なクルマであったが、まだ「エブリィランディ」の充実装備に後ろ髪を引かれていた。ちょうど愛車の具合が悪い部分もあったので、スズキのディーラへ行って再度見てみよう、それで決めようと思った。
 「モビリオ」を始めて見た数日後、改めて「エブリィランディ」をのぞき込んだ。相変わらずディーラの誰も声をかけてこないどころか近くにいない。前もって「購入も考えているから、ランディ見せてください」って言っても誰も説明する気もないらしい。少なくともスズキはこのクルマを積極的に売ろうとはしていない、そう判断した。
 全部の座席に一度腰掛けてみて、いろいろ見回してみた。そして「モビリオ」との比較を車内でしてみた。何度見ても玩具みたいな印象は否めない。ひょっとしてあの充実装備はその狭くて座席などが小さいという欠点を隠すためのものだったのかと勘ぐってみたりもした。
 そしてそれを家に持ち帰って検討してみた。次のような比較点を挙げてみた。

エブリィランディ モビリオ ワゴンRワイド(現有) 考察
室内配置 2−2−3で7人 2−3−2で7人 2−3で5人 仕事で荷物をたくさん積む場合は、2列目・3列目共に折り畳みが可のモビリオ。ウォークスルーも2列使用を優先させればモビリオ。
ウォークスルー 2−3列間のみ 1−2列間のみ なし
2列目座席 キャプテンシート 折り畳み可の一体座席 折り畳み可の一体座席
車内の雰囲気
(現有車との比較)
暗く閉鎖感多し
窓が低く上方視界がよくない
明るい開放感
窓が上下に大きく全方向見通しよい
乗車時の快適性はモビリオ。
空調装置 通常のエアコン
(リアエアコン付き)
全自動エアコン 通常のエアコン リアエアコンと全自動エアコンでは甲乙付け難いが、後席の快適性を考えた場合エブリィランディ。
小回り性能 4.5m 5.3m 4.8m 小回り重視ならエブリィランディ。
変速装置 4変速オートマチックのみ 無段階変速オートマチック(CVT)のみ 5変速マニュアル 本来はMT車が欲しいが、ATとなれば燃費面でCVTが優れている。
駆動方式 FR
(購入なら4WD
を想定
FF
(購入なら2WDを想定)
4WD
(ベースはFF)
FR車は滑りやすい路面で不安なので、4WDにしたい→エブリィランディの場合は価格上昇。
エンジン 1300CC SOHC
86PS/6000rpm
1500CC SOHC
90PS/5500rpm
1000CC DOHC
70PS/7000rpm
性能を現有車に合わせるならエブリィランディだが、ほんの少し上を狙いたいのでモビリオ。
車体重量 1080kg 1260kg 880kg
燃費
(カタログ値)
14.0km/l 17.0km/l 18.2km/l 燃費性能を大幅に落としたくないのでモビリオ。
視線高さ 約1500mm 約1300mm 約1300mm モビリオなら現有車と同じ感覚の運転ができる。
 
車体寸法
(アンテナ部除く)
全長3710mm
全幅1505mm
全高1915mm
最低地上高155mm
全長4055mm
全幅1685mm
全高1705mm
最低地上高155mm
全長3400mm
全幅1575mm
全高1705mm
最低地上高145mm
エブリィランディの車高だと、車高制限1.8メートルのところを走れない。駐車場も制約を受ける。モビリオは車庫入れなど困難になるが、慣れ次第。
室内寸法 全長2370mm
全幅1270mm
全高1350mm
全長2435mm
全幅1390mm
全高1360mm
全長1690mm
全幅1355mm
全高1310mm
エブリィランディは全長・全幅が狭く、窮屈な感じがあった。

…この結果、「エブリィランディ」はかなり霞んでしまうことになった。妥協点も少なく、今の愛車「あ〜るくん」も「モビリオ」への乗り換えなら納得するだろうという最終的な判断となった。

 次の祝日、前述のホンダのディーラへ再度足を運んだ。もう一度「モビリオ」を見て、ついでに「購入」を前提とした詳しい話を聞いてみようと。営業担当の人にもいろいろ話を聞いてみると、かなり満足のいく内容であることは間違いはないと確信した。とにもかくにも、あとは乗って走らせてみて最終的な決断をしようと思い。試乗車に乗せて貰うことにした。
 これが決定的であった、CVT無段階変速のムラのない電車のような加速は静かな車内とクルマらしくない乗り心地を与えてくれ、こぼれ落ちそうなほどの大きな窓の外を流れる景色が心地よかった。車内も今の「あ〜るくん」とは比べ物にならない広さがある(「あ〜るくん」ですらリッターカーとしては大きすぎるサイズだが)。何よりも3列目を畳んだ2列目の広さに、後部座席で運転を見守っていた妻が喜んでいた。それでも2列目の後に広大な荷物スペースがある、これなら長距離の旅行の時に荷物の収納で大騒ぎすることはない。
 不満点はないわけではなかった。MTの設定がないのはCVTが売りのクルマだから仕方がないし、そのために燃費が今のクルマより良くなるのだから満足である。二列目が独立スライドしないから三列目乗り込みに難があると予想されるが、3列使用の頻度を考えると致命傷でもないと思う。「エブリィランディ」のリアエアコン機能には最後まで後ろ髪を引かれたが、そのためだけに他の欠点を背負うのも馬鹿馬鹿しいと自分を納得させた。他の利点が十分に欠点を補っていると判断した。
 人気があるため、場合によっては納入に3ヶ月かかる可能性があるという。買うなら急がねば車検に間に合わない。
 ほぼ決意は固まった。あとは家で装備品を考えただけと言っても過言ではない。ただ、購入するにしてもひとつだけ条件を付けていた。「あ〜るくん」を少しでも良い条件で引き取ってくれることである。あれほど気に入ったクルマである、手放すのはやっぱ惜しいが仕方がないし、お金で気持ちが解決するとは思えないが、それなりの代償が欲しいと思った。少なくとも残り数ヶ月分のローンを返済出来る以上の額で引き取ってくれない限りは首を縦に振らない、そう決めていた。

 3月30日土曜日、ホンダのディーラへ行き私の担当に決まっていた営業マン氏に「条件次第で購入」を伝えた。早速見積もりと「あ〜るくん」の査定をしてもらった。
 すべての見積額が出る瞬間は、前回の購入時より緊張した。何よりも今の愛車にどれくらいの額がつくかであった。様々な悪条件が重なっているにも関わらず、残りのローンを返してもまだお釣りが来る額がそこには書かれていた。営業マン氏はかなりイロをつけてくれたとのことだったが、多分私が今のクルマが気に入っていて、にも関わらず買い換えをするという事情を考慮してくれたのだと思う。
 他の条件も見た上で、思ったより条件が良いこともあって購入は決定し注文書にサインを入れようとした…が。
 ボディカラーを決めていなかった、というより悩んでいたのである。「モビリオ」には10色も色が用意されていたのでそう簡単には決まらなかったが、2回目の訪問までにそのうちの2色までに絞っていた。ただ最後に残った2色は自分がクルマの色として好きな緑系の色にするか、実物を見てきれいな発色に感動した紫系の色にするかで最後まで決着が着かずにいた。
 営業マン氏は近くの店に緑系の展示車があるから見に行ったらどうだと勧めてくれた、そしてそちらの店に電話で話を付けてくれたので、取り敢えず片道20分の道のりを走ったところにあるディーラに着いた。その店では緑色の「モビリオ」を店頭の目立つところに出して私の到着を待っていた。
 発色、印象共に紫系のものを上回っていた。上品な黄緑色にメタリックの輝きが夕方が近い太陽の光を照り返している姿に、完全に目を引かれていた。もうすべては決心着いた。
 元の店に戻って、注文書にサイン。納入は5月下旬と決まった。その瞬間、頭をよぎったのは「あ〜るくんともあと2ヶ月かぁ…」という事実であった。

 次のクルマが決まった。これからは今の愛車との最後の思い出づくりかな。
 続きは5月下旬以降に「納車編」をお送りします。

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