「史上最強のギャグ漫画家」
臼井儀人さん追悼企画

「はいじまの本棚から」

 2009年9月20日、日本国民が史上初めて訪れた9月の大型連休に浮かれていた。
 私は連休を利用して娘と二人で2泊3日のキャンプ旅行に出かけており、その2泊目の夜だった。静岡県浜松市佐久間にあるキャンプ場に建てた我が家のテント(緑色なので「グリーンゲイブルズ」と名付けている)の中で、私の携帯画面が私にとって悲しいニュースを表示した。群馬・長野県境の荒船山で見つかった登山者の遺体が、9月11日以降行方不明だった漫画家の臼井儀人さんと確認されたというニュースだ。
 臼井儀人さんと言えば代表作「クレヨンしんちゃん」の作者として多くの人々に知られた存在であった。20年前に連載が始まり、テンポの良さとギャグの濃厚さで人気を集めてアニメ化もされ、さらにキャラクターを増やして家族で楽しめるアニメとしてのメッセージ性も強化して、今や日本を代表するギャグアニメのひとつとして世界中に広がっていた。
 だが私にとって臼井儀人さんというのは、「クレヨンしんちゃん」とともに大人向けのちょっとブラックで過激な、軽快でノリの良い4コマ漫画のイメージが強い。それは私が「クレヨンしんちゃん」より以前から臼井儀人さんの作品が気に入っていてはまり込んでいたのが理由だと思うのだが。タイトルに入れた「史上最強のギャグ漫画家」という表現は私にとっては誇張ではなく、本当に臼井儀人さんが描いた漫画以上に笑い転げた漫画にまだ出会っていないのだ。私に「漫画」というものを「単なる暇つぶし」ではなくひとつの「エンターテイメント作品」として認識させたのは、まさに臼井儀人さんだったのだ。もちろん私が最も好きな漫画家さんである。
 今回はその臼井儀人さんの追悼企画として、私の臼井儀人作品に対する感想や考察、それにあまり知られていない初期「クレヨンしんちゃん」(単行本1巻より前)の話や、それ以外の臼井儀人作品についても語って行きたいと思う。

 なお、当サイトでは有名人の逝去による追悼企画はこれで2例目で、1例目はちょうど10年前の1999年6月に亡くなった歌人・村下孝蔵さんについて行ったのみである。あの時は村下孝蔵の歌の中から何曲か選んで、その曲から浮かぶ思い出話や短編小説やエッセイなどを書くという追悼企画を行った。その時のファイルは、昨年の外付けHDDクラッシュ事件で全て消えてしまった…。

1.出会い
 まずは私と臼井儀人作品との出会いを語っておこう。
 高校を卒業して就職したのが1989年、研修が終わって職場に配属されたのだが、昼休みは特にやることがなくて暇だった。職場の昼食スペースには漫画雑誌がそこいらに放置されてた、先輩の誰かが通勤の電車の中で読んで「誰かが読むだろう」とそこに置いておくそうだ。この暇な昼休み後半は、このように放置された雑誌を読んで時間を潰していた。
 その時に置いてあった雑誌の中に、「漫画アクション」誌が含まれていたのである。そしてテーブルに置いてあった「アクション」誌を手に取り、ペラペラめくっているとある漫画に目がとまった。舞台が大型スーパーの4コマ漫画、そこに働く様々なキャラクターを徹底的にギャグにしてノリとテンポが良く、何よりもそのギャグの濃厚さと目の付け所が独特で面白い。あまりにも面白くてそのページだけ何度も読み返してしまい、かつ何度読んでも同じところで笑えた…。この作品こそ臼井儀人さんデビュー作である「だらくやストア物語」であった。1989年の初夏、ちょうど20年前である。

 その頃、私にとって「漫画」というのは暇つぶしのひとつでしかなかった。自分の中に「漫画は子供のもの」という考えがあって、高校に入る頃に卒業したつもりでいたのだ。無論子供の頃に夢中になった漫画はたくさんある、「銀河鉄道999」(松本零士作)は私が初めて自分の小遣いで買った漫画だし、「Dr.スランプ」(鳥山明作)や「ハイスクール奇面組」(新沢基栄作)や「ストップひばりくん」(江口寿史作)といったギャグ漫画も夢中になって読んでいた。スポーツ系も兄が夢中になっていた「ドカベン」(水島新司作)を中心に野球モノが多かったような。だが高校に入るとパッタリと漫画を読むのをやめてしまったのだ。高校3年間で読んだ漫画は、同級生が夢中になっていた「究極超人あーる」(ゆうきまさみ作)のみだ。
 そんなんだから「アクション」をはじめとする大人向け漫画雑誌に載っているような漫画が非常に新鮮だったのもある、いわゆる「ヤング誌」を飛び越していきなりそっちへ行ってしまったのだが。

 私はこの「だらくやストア物語」の続きを読むのが楽しみで、部屋に置いてある「アクション」誌が最新刊に変わる度にそれを探して読んでいた。「6時半の男」の活躍や「だらくや社長一代記」の強烈なギャグにいつも大笑いさせてもらったのである。繰り返し読んでいるうちに「臼井儀人」という漫画家の名前を覚え、ちょっとこの人の作品は注目してみようと思った。
 ほどなくして「だらくやストア物語」の連載は終わり、「ええーっ!」と思ったところで直後から新連載が始まったのが臼井儀人さんの代表作となる「クレヨンしんちゃん」であった。私はこの「クレヨンしんちゃん」第1話を、「アクション」誌に連載されたものをリアルタイムで読んだ記憶がハッキリと残っている。「だらくやストア物語」の面白さでさんざん笑わせてくれた漫画家の新連載と言うことで期待をこめて読んだし、実際によんでみてこの第1話は笑い転げるほど面白かった。そして次はこの「クレヨンしんちゃん」の続きが楽しみになって、テーブルの「アクション」誌を手に取ることになったのである。でもまさか、第1話の過激な内容からしてこの「クレヨンしんちゃん」が後日アニメ化され、映画が何本も作られるような国民的作品に育つとは想像もしていなかった。

 それまで私は漫画を作者を選んで読むと言うことはしていなかった。雑誌などに載っていて面白かったら読む、それだけである。だから単行本というのも自分で買った記憶はあまりない。上記に挙げた少年時代に夢中になった漫画というのも、「999」以外は自分で単行本を買ったのでなく、兄が読んでいた少年漫画誌に連載されていたとか、兄が単行本を買ってきたのを兄妹で回し読みしていたというのが実情だった。
 ところがこの私にとっての「だらくやストア物語」と「クレヨンしんちゃん」の関係は初めて「作者で漫画を選んだ」のであった。普通なら新連載の漫画だって流し読みで特に期待はしない、ところが「クレヨンしんちゃん」に限ってはあの「だらくやストア物語」の臼井儀人って人だと言うことで期待して初見に挑んだのである。これによって私は漫画という世界にも作者によって「色」が大きく違い、面白い漫画を描ける人の作品はその作者名がブランドとなると言うことを知った。つまり「漫画」というのはその作者が自分の全てを賭けたエンターテイメントであり、その世界はひとつの「文化」と言うことを教えられたのだ。

 この「出会い」をきっかけに私は「アクション」誌や臼井儀人作品に限らず、多くの漫画を読むようになる。そして気に入ったものは単行本を買うようにもなったのだ。
 ところが「クレヨンしんちゃん」の単行本を読みたいと思っても、連載がスタートしてからかなりの間それが書店に並ぶことはなかった。「アクション」誌の臨時号で「クレヨンしんちゃん特集号」という一冊丸々「クレヨンしんちゃん」だけというものも出たのだから決して人気のない作品ではないはずだ、だから単行本が出ないのはおかしいとずっと思っていた。ちなみに「だらくやストア物語」の単行本はかなり早い段階で手に入れている。

 そんな中、私の耳に入ってきたニュースはまさかまさかの「クレヨンしんちゃんアニメ化」という信じられないものだった。私は内容からして「夜中にこっそりやるとしか思えない」と感じたが、月曜日のよる7時という家族団らんの時間にやると聞いて驚いた。これって決して「クイズ100人に聞きました」の裏でやる内容じゃないぞ、とニュースに突っ込みたくなったのである。アニメ化のニュース自体は素直に喜んだが、内容が内容だけにいつまで続けられるかと不安に感じた。まさか大ヒットして世界的な名作にまで成長するとは、やはり想像すらできなかった。
 ところがこの「クレヨンしんちゃん」のアニメ、時間帯が悪くて見ることが殆ど出来なかった。当時はこの時間だと家に帰っていることが少なく、また実家に住んでいたこともあってたまに帰っても夕食の時間で居間のテレビは母が好きな番組を流すことに決まっていたのだ。始まって何ヶ月かしたときにやっとみれたが、この話がたまたまだったのか当時の作風がそうだったのかは知らないが、子供向けに大きくアレンジされていてがっかりした記憶がある。以後「クレヨンしんちゃん」は原作のイメージを大切にしたいという思いでアニメは殆ど見ていない。その原作すらアニメ開始と同時期にやっと出てきた単行本では大人向けギャグの多い初期作品は大幅にカットされ、単行本7巻あたりからは子供に媚びた作風となってしまって非常につまらないと感じるようになった。また後述するが、キャラクターが固定化してしまったことで臼井儀人作品の特徴が薄まってしまったせいもあってこの辺りが一度限界だったんじゃないかと私は感じている。
 後に主人公しんのすけに妹が生まれ、さらに個性豊かな近所の人々や、幼稚園の先生や同級生に新キャラが登場した20巻台から再び単行本を読むようになった。

 そして、この私が「クレヨンしんちゃん」がつまらなくなったと思っていたちょうどその頃、臼井儀人さんが「クレヨンしんちゃん」と平行して描いていた大人向け4コマ漫画が怒濤の如く単行本化され、これがまた笑い転げるほど面白かった。そういう訳で私は「クレヨンしんちゃん」とは距離を置きつつも他の臼井儀人作品を片っ端から読み続けるという形をとることになる。

2.臼井儀人作品の特徴
 ここでは臼井儀人作品の特徴を考えてみよう。
 この人が描く漫画の多くで、「主人公」が特定の人物と決められていないのが特徴である。代表作「クレヨンしんちゃん」はこんな臼井儀人作品の中では例外であり、中には「おーえるグミ」のように当初は主人公が設定されていたものの、後に出番が殆ど無くなって最終的にはこの主人公を物語から退場させた上で主人公無しの作品に転化した例もある。
 そして主人公が明確でないまま多くのキャラクターを出し、そのキャラクターの特徴をそのままギャグにしてしまうというものが多いのである。例えばそのキャラクターがしょーもない必殺技を持っていたり、しょーもないことに生命を賭けていたりする。また「オカマ」(しかも妙に力強そうな名前)と「SM嬢」は臼井儀人作品ではお約束となっている感がある。
 主人公が特定の場合も、主人公が一人ではなく複数が団体行動を取っているケースが多い。「クレヨンしんちゃん」と並ぶ家族向け作品である「スーパー主婦月美さん」では川越家の4人全員が主人公であるように読めるし、「しわよせ人材派遣」「くるぶし産業24時」ではその舞台となっている企業の社員全員が主人公である(「だらくやストア物語」もこの範疇に入るだろう)。「動乱高校」シリーズのように実質卓球部員全員が主人公という学園モノも存在する。
 その中でも面白いと主役級に出番が多くなるキャラクターもある。「だらくやストア物語」の「6時半の男」はその代表例だと思うし、人の良い手下を持った暴力団の組長もそんな人物の一人だ。
 さらにスポーツ時事物である「スポーツするか!」では実在のスポーツ選手(ただし名前の一部のまたは全部カタカナ表記)をネタにしている。

 つまり臼井儀人さんの作品は、彼が生み出したキャラクターの多様性によって支えられているのだ。
 「クレヨンしんちゃん」の場合、登場人物が幼稚園の先生や同級生、それに家族のみという臼井儀人作品としては少ない方の部類に入る。さらにこれだけの登場人物で固定化されてしまったという問題はあったと思う。結果キャラクターの多様性が売りだった臼井儀人作品とは違う方向に行かざるを得ず、またこの作者独特の世界観やノリが活きる作品ではなくなって来た時期があったのは確かだ。
 このようにして物語やギャグが硬直化して臼井儀人作品本来の楽しさが失われていた事は作者やアニメを作っている人たちも何処かで気付いたのだろう、結果「クレヨンしんちゃん」は新たなキャラクターを次から次へと生み出す方向に変わり元の面白さを取り戻している。しんのすけの妹、ひまわりを誕生させることで家族を増やした事をきっかけに、幼稚園の先生や同級生、近所の人々に新キャラを用意。さらに主人公一家の自宅が崩壊してアパート住まいをするという設定でキャラを増やし、さらに「外伝」を追加することで使い捨て設定が可能となったことで、臼井儀人作品の醍醐味の一つである「キャラクターの多様性」が活かせる作品内容に変化した。

 キャラクターの多様性と、文章では説明しがたい独特のノリ。これが臼井儀人作品の醍醐味である。「ノリ」については興味のある方は、とにかく一度臼井儀人作品を手にとって確認して頂きたい。これだけは文章で説明するのは無理だからだ。

3.「クレヨンしんちゃん」初期作品について
 臼井儀人さん代表作は皆さんご存じの「クレヨンしんちゃん」、1990年に連載が始まり単行本が49巻を数えたばかりでなく、アニメ化されて映画も毎年作られるほどの大ヒット作品となったばかりではなく、海外へも輸出されて国際的ヒット作品となり、いまや日本を代表する漫画・アニメ作品のひとつとなっている。
 前述したように「クレヨンしんちゃん」以前に臼井儀人作品と出会い、その流れで「クレヨンしんちゃん」を読んだ私はまさか「クレヨンしんちゃん」がこのような大ヒット作になるとは想像すらしていなかった。無論面白くて、そこそこの人気は出るだろうがそれはあくまでも「青年向け漫画雑誌」の中での人気を出ることはないと考えていた(それ以上にアニメ化されることなど想像していなかった)。
 なぜそのような考えに行き着くのか、それは初期「クレヨンしんちゃん」の作風による。元々「クレヨンしんちゃん」はあくまでも大人をターゲットとした作品であり、しんのすけという幼稚園児が大人しか分からないようなネタを炸裂したり、幼児らしからぬ行動をとるというギャップを楽しむという要素もあった。もちろん子供に見せられないようなネタが数多くあり、記念すべき第1話を始め初期作品の多くが単行本から漏れているのはその辺りに理由があると考える。

 例えば幼稚園で粘土細工の時間になれば(と言っても初期は幼稚園での話のみでみさえやひろしすら出てこない)、ネネちゃんが犬のを作ればしんのすけが雄の犬を作って交尾させ、ネネちゃんが「犯された〜っ」と泣くという展開だったりする。風間くんが「ロダンの考える人」を作ればしんのすけは「いやらしいこと考える人」で対抗、一見風間くんのマネに見えるが「腰が引けているのがオリジナリティ」だそうだ。
 最初のクリスマスでは、よしなが先生に「プレゼントは何が欲しいか?」と聞かれたしんのすけは、顔を赤くして「湯上がりの岡本夏生」を希望する。それは無理だとよしなが先生が言うと息を荒げて「入浴前の岡本夏生でいいや、むしろその方が…」と言う。
 幼稚園の前をカップルが歩けば「もう寝たのか?」と問うし、運動会でネネちゃんのパパがビデオを回せばネネちゃんのブルマの辺りにモザイクぼかしを入れるという悪戯をする、遠足で「子供達が興奮している」と先生方が話せばしんのすけは女性の性的興奮を再現して…(以下略)といった感じで、とてもじゃないが子供に見せられるようなものでなかったのだ。

 ちなみに「クレヨンしんちゃん」記念すべき第1話であるが、しんのすけは他の「幼稚園から転園してきた」という設定になっているのをご存じの方はかなりの通と思う。第1話は転園してきたしんのすけをよしなが先生がひまわり組のみんなに紹介する過程でのドタバタを描いている。記念すべき最初のコマはよしなが先生とひまわり組のみんなの挨拶シーンで始まっており、しんのすけ登場は4コマ目、しかもすぐに「恥ずかしがり屋さん」を装ってよしなが先生のスカートの中に隠れてしまう(むろんスカートの中でしんのすけが大人しくしているわけはなく、よしなが先生はよがっている)。
 ちなみにその後レギュラーキャラになる登場人物で、第1話にでてきているのはしんのすけとよしなが先生の他はネネちゃんと風間くんだけである。二人ともよしなが先生から「ネネちゃん」「風間くん」と名前で呼ばれており、この二人については当初から設定が固まっていたと考えられる(ちなみによしなが先生の名前が分かるのは、1話の後半でネネちゃんがそう呼ぶから)。ちなみにマサオくんやボーちゃんは最初の運動会の話で登場しており、チョイ役だか出る頻度の多い「ばら組のチーター」こと河村くんと初登場が一緒である(ちなみにマサオくんらしい男の子が第2話に「その他大勢」の中に混じっている)。

 初期「クレヨンしんちゃん」は主人公しんのすけすら設定が固まっていなかったと思われる。最初の頃のしんのすけは顔がもっと丸く、眉毛も曲がってなくて太くもないのでアニメ化で世間一般に広がったしんのすけの顔とかなり違う印象を受ける。また最初の頃のしんのすけの目はただの黒丸で、現在のように中に白目がない(ちなみに初期の風間くんは髪型が違って顔の輪郭も違い、ボーちゃんは髪がもっと少なくて丸顔、ひろしは面長ではなくもっとも丸まった顔、みさえももっとシンプルな髪型である。マサオくんやネネちゃんやよしなが先生の描写は最初から一貫している)。
 描写以外にも最初の運動会の話で「中2になる姉がいる」などと現在の設定にはない発言をしており、初期の頃はギャグ優先で設定などにこだわらないおおらかさがあったと思う。
 この頃の作品で好きなギャグはやはり最初の運動会、「ばら組のチーター」に対抗して「大用を足すとき涙を流しながらきばる」という理由で「便所のウミガメ」だと対抗するネタだ。

 もちろん、ここで初期の「クレヨンしんちゃん」を懐かしんだからといって現在のがつまらないなどというつもりはない。初期には初期の良さがあり、現在のものには現在の良さがあり、似て非なるが笑い転げるほど面白いことには変わりがない。最近のキャラでは上尾先生や「あいちゃんのボディーガード」の黒磯さん、スーザン小雪さんなど面白いキャラが大好きな事も付け加えておこう。

4.「クレヨンしんちゃん」以外の作品を紹介しよう
 我が家の本棚にある臼井儀人作品の紹介しよう。一部露骨な下ネタはお許し頂きたい。

・「だらくやストア物語」(1987〜1989年双葉社「アクション」連載・単行本全3巻)
・本編内容
 大型スーパー「だらくや」に勤める個性豊かな店員達を、強烈なギャグとユーモアで描く4コマ漫画。主人公は特になく、「だらくやストア」というスーパーに働く人々そのものの物語である。
 また作品中に以下のシリーズ物が存在する。このうち「だらくや社長一代記」が後の「クレヨンしんちゃん」の原型になったと言われている。

・「不良店員と呼ばれて〜お加代の場合」…高校時代スケバンだった不良少女が、様々な戦いを経てま更生する(?)までの物語。
・「だらくやバレー部物語」…だらくやのバレー部が様々な必殺技を駆使して優勝するまでの物語。
・「エスパーふみ」…だらくやの新入社員ふみの特技は超能力、だがその力ゆえにライバルスーパーとの戦いに巻き込まれる物語。
・「だらくや社長一代記」…だらくや社長、二階堂信之助が奉公に出されてから戦争を生き抜くまでの半生を描く。

・「すうぱあ・みっくす」(1994年双葉社)
・本編内容
 上記「だらくやストア物語」単行本落ち作品と、同時期制作の4コマ漫画で構成されている。

・「だらくやストア物語」…上記単行本に載らなかった作品。「エスパーふみ」はこちらに掲載されている。
・「野生のOL」シリーズ…ごくごく普通の企業に、山奥からやってきたOLが転勤してくるが…。
・「みちづれタクシー」シリーズ…「ドリフ大爆笑」のコント「もしもこんなタクシーがあったら」を臼井儀人風にやってみたといえるもの。

・おーえるグミ(1990〜1992年双葉社)
・本編内容
 都心の企業に勤めるOL、熊谷グミが繰り広げる4コマ漫画。当初は主人公を中心に描いていたが、じきに熊谷グミの出番が減って行く。熊谷グミが転勤して変わりにさらに強烈な山口グミが現れるが、同時にその企業をネタにした作品はなくなり、無関係な単発もしくはシリーズものの4コマ漫画集となってゆく(2巻には主人公熊谷グミや後継の山口グミも出てこない)。グミがいなくなってからのシリーズ物は以下の通り。

・「みんなで飛べば怖くない…」…「だらくやストア物語」の航空会社版、「タイマン航空」で世界各地を飛び回る乗務員達を描く。
・「組長と竜二」…組長とちょっと間の抜けた弟分の竜二が描く、暴力団「OL組」のおはなし。
・「バター犬のジョン」…バター犬関連ギャグの4コマ、違う犬でも臼井儀人さんが描くバター犬はみな「ジョン」という名になっている。
・「名犬ペス」…ソープ(犬用)へ行ったり、海外買春ツアー(犬用)に参加して飼い主のお金を使い果たす犬と飼い主の物語。
・「ふみおくん」…喧嘩っ早い姉と親を持った気弱なふみお君のお話。

・しわよせ人材派遣(株)(1993年徳間書店・「まんがハイム」連載)
・本編内容
 威張るのが好きな社長大森みき、靴の臭いで職業を当てられる特技を持つ松田せえこ、世界七カ国語と津軽弁が話せる竹ゆかた、息を止めて生死の境をさまよえる梅宮たつえ、この4人の女性が様々な仕事に派遣される物語。個人的には梅ちゃんの何処まで本気か分からないボケ具合が好きだ。
 単行本一巻では余るので下記作品も同時掲載されている。

・「ともぐい動物園」(1990年「コミックGIGA」連載作品)…動物園に住む動物たちをネタにした4コマ、動物園とは無関係に猟師と狩猟犬スティーブのシリーズもある。ゴルゴではなくウルフに生命を狙われるボス猿、OL気質のアフリカ象、ヨガをするインド象、池で溺れる鯉などのキャラクターが出てくる。

・スーパー主婦月美さん(1994年竹書房・「まんがライフ」連載・単行本全4巻)
・本編内容
 ちょっとおとぼけている主婦・川越月美を中心にしたファミリー4コマ、ある意味「クレヨンしんちゃん」の対極にあると言っても過言ではない。お父さんは川越日出男、長女朝見、次女星見という家族構成で、月美以外が主役となるネタも多いのが特徴。我が家の本棚にあるのは2巻と3巻のみ。

・すくらんぶるえっぐ(1992〜1993年双葉社・単行本全2巻)
・本編内容
 内容的には「おーえるグミ」2巻の続きといって差し支えないだろう。主人公を固定しない単発またはシリーズものの4コマ漫画集で、一部は「おーえるグミ」のシリーズものの続きとなっている。2巻のカバーにはなぜかしんのすけが…。

・「大人のおもちゃマユツバ堂」…しょうもない機能のダッチワイフを売る店と、いつも騙されて買ってしまう青年の物語。
・「部長と部下」…同性愛の関係にあるサラリーマンの男とその上司と、その関係に気付いている男の妻のおはなし。
・「刑事の山さん」…一風変わった刑事「山さん」を中心に起きる事件現場でのドタバタ。

・くるぶし産業24時(1992年竹書房・「まんがクラブ」連載・全1巻)
・本編内容
 「くるぶし産業」という企業のセールスマンと、それを取り巻く人々を舞台にした4コマ漫画集。中にはその会社と全く無関係な作品も混じっている。

・「小心者の課長」…部下の女性社員達にセクハラ行為をする想像だけで悦に入る、情けない男の物語。
・「ワニ好き主婦」…セールスマン撃退用にワニの変装をしていた主婦が、次第にエスカレートして普段もワニの変装をするようになり…。
・「セールスマン対狂犬」…セールスマンとセールスマン撃退に燃える犬との熱き戦い。セールスマンが勝った後、米軍特殊部隊で鍛えた犬が来て…。
・「ダイハード・クラブ」…会社にはいろいろなサークルがある、あるサークルの会長の物語。
・「靴の臭いが好きな主婦」…家に来るセールスマンの靴の臭いに取り憑かれてしまった主婦、臭いで履いていた人の特徴が分かる。
・「被害妄想の激しい社員」…何でもかんでも被害妄想してしまう男の話。
・「肛門科医」…直腸検診で世の中の男達を悦ばせてしまう男が、世界征服を目指して立ち上がる。

・臼井儀人のひらきなおっちゃうぞ
・臼井儀人のもっとひらきなおっちゃうぞ(1993年・竹書房)
 90年代初頭の単行本に入らなかった臼井儀人作品集。下記のもので構成されている。

・「ひらきなおっちゃうぞ」…単発4コマ集、掲載誌は多岐にわたっている。
・「動乱高校運動部」…ある高校の体育会系クラブの変わった生徒達と、変わった先生達が繰り広げる4コマ漫画。卓球部を取り上げた短編作品もある。
・「スポーツするか!!」…実在のスポーツ選手をパロディにした4コマ漫画集。
・「牌な人々」…麻雀ネタの4コマ漫画集。全7作品と短い。
・「おぎの武道館」…実力はあるが貧しい空手道場を舞台にする1ページ漫画集、絵柄が他作品と少し違う。
・「ぶちかまシアター」…日刊スポーツに連載されていた4コマ漫画、嫁の入浴を覗きたい義父と嫁のやり取りが面白い。
・「いっしょにSUMO!」…「スポーツするか!!」が相撲関連のみとなったもの。

・あんBaらんすぞーん(1992年双葉社)
 これも90年代初頭の単行本に入りきらなかった4コマ漫画作品集、「股蔵中学校」を舞台にした学園ものが中心。「おーえるグミ」に出ていたふみお君が「オナピーふみお」として再登場している(もちろんオナピーとは自慰行為のこと、オナピーに生命を賭けている中学生という役柄だ)。

・みっくすこねくしょん(1993年・双葉社)
 「おーえるグミ」の流れを汲む4コマ漫画集。暴力団ネタは「かに玉組」に舞台を変え、隣に住む夫婦が巻き添えになる話などへと膨らんでいる。ふみおやペス、それに刑事の山さんも健在。

5.最後に
 前述した通り、臼井儀人さんが描く漫画と出会ったことによって、私は漫画を心底楽しんで読むと言うことを教わり、漫画という物がエンターテイメントとして完成された「文化作品」とひとつであることを教えられた。そして「だらくやストア物語」との出会いをきっかけに多くの漫画を積極的に読むようになり、それまで鉄道関連書くらいしかなかった私の本棚の様相を一変させた。
 漫画とはなんなのか、漫画とはどんなに面白いものなのか、漫画とはどんなに楽しいものなのか、それを私に教えてくれたのは紛れもなく臼井儀人さんなのだ。
 そんな臼井儀人さんの急逝されたことは本当に残念でならない。これからももっと多くの楽しい漫画を読ませてくれるはずと期待していたのに。訃報を聞いたときは信じられない気持ちで一杯だったがやっとそれを受けて入れて、このような形で自分の気持ちを残すことにした。

 私は個人的に、勝手に「史上最強のギャグ漫画家」という称号を臼井儀人さんに贈りたい。私にとって臼井儀人さんを超える漫画家は後にも先にも現れないと思う。

 そして臼井儀人さんに、漫画の楽しさを教えてくれた感謝の言葉を述べて、この追悼特集を終わりたい。
 本当にありがとう。

 「史上最強のギャグ漫画家」臼井儀人さんのご冥福を、心からお祈りいたします。

 合掌

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