彼女と過ごした24年と9ヶ月の間に、私は16歳高校2年生だったのが40を超えたおじさんになってしまった。 自分自身も、高校を卒業して就職、転職、結婚、子供の誕生、離婚と決して平坦ではない人生を歩んでいた。 そして彼女もまた、航路廃止、保存展示決定、展示開始遅延、海外の万博での展示という波乱の人生を歩み、やっと落ち着いた「船の科学館」という安住の地を、このたび追われることになってしまった。 彼女の後半の人生に、自分の人生を重ね合わせて見ていたのかも知れない。 だから以前から愛着のある船ではあったが、ここ数年でさらに愛着が強くなったのは事実だ。 そんな彼女が、遂に最期の時を迎える。 形あるものはいつか消えて行くというのは解りきっていたし、いつかこの日がくることは出逢ったときから知っていたのは間違いない事実である。 そして、まるで物語のような付き合いを24年9ヶ月に渡って続けられたことは幸せとしか言いようがない。こんな長い間、追い続けることができるなんて思ってもみなかった。 だから、この「別れ」を私は冷静に受け止めることが出来たのだ。 彼女は愛媛の地でしばらく公開展示された後、最期を迎える。 だがその最期が、今後の日本の船舶業界の糧になるのだから、彼女を愛してきた者達はそれを受け止めてやらねばならないと思う。このような最期を迎えられることは、彼女にとっても幸せだろう。 彼女を大事に保存し、どんなに頑張ってもこれ以上の保存は無理と判断するとちゃんと責任を持ち、そんな立派な最期を遂げる場を彼女に与えた「船の科学館」はやはり凄いと思うし、「羊蹄丸」に思い入れのある者として感謝したい。 でも本音では、やはり残念だし、悲しいのも事実だ。 私に「鉄道以外の乗り物」に興味を持たせ、海と自然に興味を持たせ、今の自分を作り上げるのに重要な役割をしたまさに「人生を変えられた」船の消滅は、自分自身の一部が消えてしまうような強い悲しみを感じるのも事実である。 もう、お台場に行っても彼女の姿はない。戻って来ることもない。 だけど彼女が私に教えてくれた大事なものを、これからも大事にして生きていきたい。 さらば、「羊蹄丸」。 さらば、私の人生を変えた船、「羊蹄丸」 さらば、私にとって一番思い入れの深い乗り物、「羊蹄丸」。 さらば、私の青春の船、「羊蹄丸」。 2012年4月1日 「羊蹄丸」への弔辞として。 |