北海道・東北方面2.JR東日本東北本線417系(マイクロエース製Nゲージ)
TNカプラーのはなし・1


模型写真


 高校3年の冬休みに初めて決行した冬の北海道旅行、私は冬の北海道の虜となってその後約10年に渡って毎年冬に北海道旅行をするのが恒例となっていた。
 その前半は上野から青森まで何が何でも鈍行を乗り継いで北上という、今考えると凄い体力を消耗する行程だった。中には仙台から盛岡まで座れず立ち詰めだった経験もあって苦しかった思い出も多いが、ゆっくり変化する景色に、じわじわと北へ向かう実感が緊張感となって伝わる旅情が最高でやめられなかった。
 さて、その中で1990年頃から仙台〜一ノ関間で毎年乗るようになったのがこの417系だ。
 それまで福島で乗り換えると一ノ関まで直通だったのが、この頃のダイヤ改正で仙台で乗り換えにダイヤが変わってしまい、しかもその乗り換え時間が短くて苦しい思いをした。仙台駅の跨線橋を走り、ホームへ駆け下りるとこの417系がいたのである。記憶が正しければ福島〜一ノ関間直通時代最後の時にこの417系に変わっていたと思う。
 今年になって仕事で仙台へ行った際、同僚と「旅費を浮かそう」と鈍行乗り継ぎで行ったことがあった。その際に仙台から福島まで乗った快速列車でこの417系に当たった。久々の417系の旅は高速バスと戦う都市間快速列車、かつての急行列車を思わせる俊足振りを体験し、ただの近郊型で無いとも感じさせられた。
 この417系、数が少なくて乗るのが難しい車両にも関わらず、私は地元でもないのに毎年乗った回数と思い出が多い。そんな思い出のある車両がこの度模型として出てきたので購入した。模型を眺めながら私の記憶を振り返りたい。。

1.実車について

 時は国鉄時代の昭和50年代前半。国鉄は蒸気機関車を一掃する動力近代化が一段落つき、ここで地方都市における輸送改善を加速する方針となった。その内容は客車列車主体の普通列車を電車に置き換え、乗降時間の短縮と体質改善を図った上でスピードアップを行おうという計画であった。
 その前にも地方都市の普通列車を電車化した例はあった。札幌や福岡では電化と同時に新型の電車が投入されてラッシュ時の輸送力増強に大きな効果が出ていた。また岡山や広島でも大都市圏で活躍した旧型電車を投入してスピードアップなどに貢献していた。
 しかし、この電車化の波は東北や北陸で立ち後れていたのである。最大の理由は広島や岡山と違い、交流電化のため大都市近郊で使用された旧型電車の転用が出来なかったからだろう。そこで国鉄はまず手始めに仙台に新型電車を投入して輸送力改善を図ることにした。そこで登場したのがこの417系である。
 417系は徹底的に地方都市特化の車体を持ったことである。大都市近郊型は3扉セミクロスシートであるが、地方都市ではそこまでして乗降時分の短縮を図る必要もなくある程度の着席率を確保したい。かといって客車や急行型のように車端に2つの扉を寄せたタイプでは乗降に時間がかかりすぎる。
 そこで考え出されたのが編成を組んだときにドアが等間隔に並ぶように2つの扉を中間に寄せた構造を取る構造である。この構造は1977年に登場した地方都市用気動車であるキハ48系で採用されたもので好成績を収めていた。そこで地方都市向けの電車にもこの構造を採用することとなった。
 さらにこの417系投入が予想される地域は寒冷地であり、路線によっては雪も多いため万全の耐寒耐雪構造とすることにした。外観で目立つのは各車両の車端に付けられた鎧戸付きの機器室である。ここは「雪切室」と呼ばれ、電動機などの電気機器冷却用の空気を取り入れるための機器室である。つまり機器類が冷却用の空気を直接取り込むと雪も一緒に取り込んでしまい短絡事故などの原因になるが、この雪切室で雪を落として乾燥した冷気を電気機器類に送るシステムにすることで故障を大幅に減らすことが出来た。この装置は417系を皮切りに、信州の豪雪地帯を走る115系耐寒仕様や東北新幹線200系等に引き継がれた。
 その他、台車は急行用の空気バネ台車が採用され、勾配区間に対応して抑速発電ブレーキも装備された。冷房装置については、当時は大都市圏でも冷房化が遅れていたこともあって地方都市用の417系では見送られた。ただ後に簡単に取り付けが出来るよう準備工事はされていた。
 417系は仙台近郊用としての製造だから交流専用で良いとも思われるが、交直両用として製作された。これについては車両が増えれば宇都宮まで下るのでは?とか色々噂があったようだが、私の予測では単に仙台以外への投入も考えていたからだと思う。417系が成功すれば大量量産されて、北陸本線や羽越本線にも入れるつもりだったのだろう。そのための共通設計だったのではないかと私は推測する。結果的には仙台にしか投入されずに直流区間に入ることは無くなるのだが。
 このような特徴を持って417系は1978年に製造され、3両編成5本の15両が仙台電車区に投入された。国鉄交直両用ローカル車統一カラーであるローズピンクに塗られ、当初は仙山線を中心に運用された。雪切室などの重耐寒装備は宮城山形県境のこの山岳路線で威力を発揮する。
 417系は大成功だった。客車時代に発生していたラッシュ時の慢性的な列車遅延が417系の列車ではほぼ皆無だったという。スピードも上がり、地元ではもっと欲しいとの声がたちまちに上がる。その声に応えて417系は増備されるかと思われた。
 しかし、417系の増備は後が続かなかった。この頃から国鉄の財政状況が末期的な症状を呈してきたので地方都市に新型電車投入どころではなくなった。地方都市に新型電車を入れるという試みは長崎に713系の試作車だけが投入されるに留まり、あとはぱったりと途絶えてしまう。
 同時にこの時期、多くの急行列車が特急列車に格上げされ、地方都市の電車化は職場を失った急行型電車を活用することとなった。仙台地区もその例外ではなく、東北本線や常磐線で急行列車として活躍した451系、453系、455系、457系といった急行型電車が格下げされてきて客車の普通列車を置き換えていった。さらに東北新幹線の開業や寝台特急の削減で寝台特急電車である581系と583系が大量に余剰になると、これをローカル型に改造した715系が仙台にも投入されて普通列車はこれらの格下げ車両でまかなえるようになった。すると417系は少数派となり、地方都市の救世主として誕生したハズなのに、仙山線で細々と運用される「異端車」としての歴史を歩むことになった。
 また1986年から仙台地区の急行型電車の中でも製造時期が古い451系や453系が車体更新されることになった。この時にこれらの急行型は交直転換機能を下ろし、車体は完全に改造されて717系となるのだが、この新しい車体は417系とほぼ同一である。417系の思想は急行型車体更新で活かされることになった。
 417系は分割民営で全車両がJR東日本に継承される。JRとなると少数派ということもあったせいでいろいろと「実験台」的な使われ方をした。飲料の自動販売機を試験設置してみたり、側面の行き先表示を幕式から液晶式に変えたりされた(この液晶化は現在の高性能の液晶でなく、1980年代末期の話だから当時の電卓クラスの性能しかなかったはず)。
 1989年、冷房改造工事が行われてこの頃から仙山線中心という使われ方から東北本線の普通列車に回されるようになったらしい。1991年頃からローズピンク一色の塗装がクリームに緑色帯という仙台地区ローカルカラー(通称・グリーンライナー)に塗り替えられ、現在に至る(一部では冷房改造と塗装変更が同時と紹介されているが実際には2〜3年の時間差がある)。
 現在では東北本線の普通列車を中心に運用され、一部は福島〜仙台間の快速「東北シティラビット」にも運用される。


2.模型について

 417系もやっぱ破竹の勢いのマイクロエースからこの秋になって出てきた。ここは455系のローカル格下げタイプに始まり、717系や715系といった仙台ローカル列車を次々にラインナップしていたので417系も時間の問題と見ていたらやっぱり出てきた。3タイプ同時発売され、ひとつは国鉄時代のローズピンク一色で非冷房時代、ひとつは現在のクリームに緑帯で冷房付き、そしてもう一つは僅か2〜3年しか見られなかったローズピンク一色の冷房付きという姿である。ネタ的にはローズピンク一色で冷房付きというのが良いと思ったが、私の中ではローズピンクの417系はあまり記憶にない。現在と同じ色のクリームに緑色帯の417系こそが私にとっての417系である。ということで購入したのもこのタイプとなった。
 仕上がりとしてはマイクロエースの標準的な仕上がりで、取り立てて誉めるところもけなすところもない。雪切室の鎧戸の再現は秀逸で側面は417系の特徴をよく捉えていると思う。でも前面、いわゆる「東海顔」のつくりがなんかいつも引っかかる。何処と限定できないんだけど何か違うと思うときがある。でもいい、417系は「側面が生命」なんだから…とは言うけど以前のマイクロエースに比べたらずっと良くなっていて、最低限価格相応のレベルはクリアしている。

417系(クモハ側)
きちんと特徴は捉えていると思う
417系(クハ416側)
たまに顔が変だと思うこともある

 
 車両をよく見回すと、交直流電車独特の屋根上結線の精細さが目を引く、でも高圧結線をすべて針金で再現しているのはちょっと「?」と思わざるを得ない。実際には電線がむき出しなわけでないからもうちょっといい再現法はないのかと各メーカーに期待したい。まぁKATOさんや以前のトミックスみたいに平均台みたいな高圧結線よりはいいと思うけど。それとポイントが高いのはこの高圧結線、ちゃんと交直転換機が交流側に向いていること。実はKATOの455系「グリーンライナー」ではこの部分が直流側になっていて、模型は上から見る機会が多いこともあって非常に萎えた部分でもある。トミックスの455系がどうなんだろう? 予算があったら角形ライトの455系をうちの東北シリーズに加えたいので…。 


パンタグラフ周り、高圧結線の再現が細かい。

 側面の再現が秀逸なのは先ほども申し上げたが、417系を特徴づける雪切室の再現が文句の付けようがない。寒冷地の車両ではこの雪切室の鎧戸をどう再現するかで雰囲気が左右されるといっても過言ではない。KATOが最初に115系耐寒仕様を出したとき、雪切室の鎧戸をなんと塗装で再現した。当時はそれで満足だったが、最近の精密化の中でそろそろこの再現法はきつくなると思う。
 半自動扉の押し釦は印刷で再現している。これはローズピンク時代と素材を共用するためにはやむを得ないだろう。実車がいつ頃から釦による半自動となったのは色の塗り替えからさらに後、1996年頃のようである。私が乗った時代は手動式の半自動ドアだったからこの釦表現は消したいなぁ…。

連結部分拡大
雪切室の鎧戸はGJ! トイレ窓の表現は裏から白
扉付近拡大
半自動扉の釦はこの通り

 私は購入してきた417系について、前面の見た目をよくするために運転席部分は車体マウントタイプのTNカプラーに、編成中間については密連型カトーカプラーに変更した。本当は全車TNにしたいところだけどそこはそれ、やっぱ予算の都合には勝てないわけで。
 いつも通りにチョチョイのチョイと交換作業をしていたのだが、クハ416のうち1両のカプラー交換を終えて車体を元に戻そうとしたら、トイレ個室を再現する「壁」が車体に引っかかってうまく組み立てられない。あーでもないこーでもないと車体と床下を眺め、何度目かの接合作業中に、指に何かが折れる軽い感触を感じた。嫌な予感がして指先を見ると…
「ああーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
と叫んでしまった。先頭車の屋根を特徴づける静電アンテナをポッキリとやってしまった。ああ、どうしよう?
 もうの○太くんになりきって「ドラ○もーん、なんとかしてー」状態。いろいろ考えた対処法は…


つ[タミヤセメント]!(←ド○えもんの声で)


「これを使えばプラスチックは何でもくっつくよ!」
「ありがとー、ドラえ○ん!」
…こんなアホな一人芝居をマジで部屋で一人でやってますた(←バカ)。で実際に付けてみたけど何とかくっついた、マイクロエースの屋根上パーツはタミヤセメントで修復可能と…。

一度折損した静電アンテナ、なんとかくっついてる。
(左側のクハ416)
運転室屋根上もクハとクモハで微妙な作り分け
左が静電アンテナを折損したクハ

 最後に2年ほど前に出た717系と比べてみる。717系と417系は生まれが違うだけでほぼ同じ車体であるが、変な使い回しとかないかとあら探し。でもみればみるほどしっかりと作り分けがされていることに気付く、717系の詳細は今後別の機会に行うこととして、417系との違いに絞ろう。
 例えば雪切室の小型化で若干変わった窓配置なども完璧だし、屋根上も完全新車の417系と急行型の転用機器で埋められている717系でしっかり違う。写真には載せなかったが、パンタ周りの高圧結線もキチンと作れ分けられていて、メーカーの意気込みを感じる。

417系(右)と717系(左)
顔の微妙な違いも再現されている
同じく上から見る
屋根上の作り分けは完璧だろう


 最後に以前紹介した719系と並べてみた。これだけで気分は東北地方だね〜。マイクロエースの東北地方ラインナップはもう諸手をあげて喜ぶしかないです。数年前までNの完成品でのこの並びはまず不可能だったからね。でもラインナップ充実は嬉しいけど財布の中身がだんだん寂しくなる…このメーカーは出たときに買わないと後で手に入らなくなって痛い思いをするからなー。
 次は701系仙台色、こちらもどう予算を工面するか…でも今買っておかないと絶対に泣くし。これで仙台ローカルがほぼ揃うから新たに買う必要も無くなるから頑張ろう。


719系との並び
数年前までN完成品でのこの並びは考えられなかった


 東北本線仙台地区フルコンプリートという夢を持っていた私、それを商品化の目標にしているメーカー、見事に商戦にはまったといえばそれまでだが、東北本線ローカルは独特の魅力があるんで良いんですよ〜、文章にはしにくい魅力がね。
 さて、まだまだ東北方面の車両紹介は続く予定。次は…もうバレたか。

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