北海道・東北方面2.JR東日本東北本線719系(マイクロエース製Nゲージ)
TNカプラーのはなし・1


模型写真


 私にとっての学生時代から20代前半の旅などの鉄道を追いかけるホームグラウンドは東北地方だった。
 土日になれば18きっぷ片手に気軽に遠征できるところが東北や信州だったわけで、特に東北は一時期の板谷峠追っかけのためによく行った場所でもある。
 そしてそこでも様々な旅の思い出が詰まっている。無論東北での旅の思い出を模型として残した例は多い。特に仙台地区の緑色の帯を締めた電車達はお世話になった回数が多いこともあり、再生産待ちの701系以外はほぼ揃ったかたちである。
 この東北方面のコーナーでは東北の思い出が詰まった電車たちを中心にお伝えしたい。
 そのトップを飾るのはマイクロエースから出たばかりの719系、新プロ野球球団発足で舞い上がる仙台を舞台に活躍するステンレスボディーのまぶしい電車である。

1.実車について

 東北本線の仙台地区では国鉄時代から客車列車の電車化が進んでおり、これらの電車を使って仙台都市圏を中心にしたフリーケンシーサービスを国鉄時代末期から行っていた
 しかし、仙台地区で使われている電車の大半は急行型電車を一部改良しただけのもので、他は僅かばかりの近郊電車と特急型からの格下げ改造車という有様で、どの車両も混雑には向かずとても都市近郊輸送に耐えられる状況ではなかった上、車両の陳腐化も急速に進んでいた。
 そこて国鉄時代から古くなった451系や453系といった急行型電車の車体を作り直して、717系という近郊型電車に改造する工事を進めていたが、これもこれも足周りが旧型のままで車両性能上と運用上(3両編成単位でしか使えない)に問題があって抜本的な対策とはならなかった。
 そこで2両単位で運用ができ、当時最先端の技術を導入してコストダウンを狙った新型車が仙台地区に登場することになった。これが719系で、登場は1989年である。
 719系は電動制御車(クモハ)と制御車(クハ)が背中合わせに連結された2両編成、足周りは当時東海道本線や東北本線東京口に投入が続いていた211系をベースにしたが、台車だけは当時廃車になった急行型電車からの流用である。ステンレス製20メートル車体に3扉の構成で、ドア間には大きな窓が3つ並んでいて独特の風情がある。車内はボックス・2人掛け混成の固定クロスシートで、座席を始めとする内装材料は前述の211系と同じ物を使用している。ただ211系と大きく異なるのは天井部分で、その後に出る209系以降のいわゆる「走ルンです」シリーズに見られるようなユニット式内装板で構成されており、JR東日本の車両設計でも次の世代の電車との過渡期に入っていたことを伺わせる。
 719系は2両編成を最大4本つなげて8両編成を組めるように設計されていた。投入されるとすぐに東北本線を中心にした仙台近郊輸送に使われ、その後ロングシートの701系が登場すると運用範囲は北へ南へと広がり、現在は東北本線黒磯〜一ノ関間と仙山線でその活躍を見ることが出来る。また仙台〜福島間の都市間快速電車「シティラビット」号でも使用されている。
 またこの車両の隠れた歴史として、山形新幹線建設時のピンチヒッターランナーとしての活躍があることを付け加えておこう。山形新幹線区間にはローカル用として、719系を標準軌に設計変更した719系5000番台が工事途中の1991年秋から投入されたが、その直前、1991年8月に50系客車による運行を終了してから標準軌単線運転開始までの短い期間に719系が奥羽本線で活躍した。特急の代わりに運行された快速列車にも投入され、その俊足性能を遺憾なく発揮した719系の晴れ舞台であった。

 私が719系に最初に乗ったのは実はこの、奥羽本線でのピンチヒッター運用中であった。その後、東北本線で本来の活躍をする彼らに出会うこととなる。
 最近では仕事で仙台へ行く機会が多く、仙台駅から現場への電車になぜかよく719系が来る。そんな理由もあって、701系とともに最近になって愛着が増してきた処である。


2.模型について

 719系の完成品模型は、2004年秋になってやっと破竹の勢いで隙間商品をラインナップするマイクロエースから発売された。先行のトミックスやカトーがメジャーな車両しか出さないせいもあって、最近買う完成品模型はマイクロエースばかりである。このメーカーは当たりはずれの差が極端なので、毎回毎回買うときはギャンブルをしているような気分になる。
 仕上がりとしてはマイクロエースの標準的な仕上がりか。マイクロエース製品で毎度気になるのは、ステンレスボディの再現に於いて銀色が薄いのかメタリック感がもうちょっと欲しいと思うところである。
 しかし、719系の雰囲気は見事に再現されている。実はあまり出っ張りのない扉のタラップ部分に、独特の3枚の窓が並んだ繊細な雰囲気。前面ではいわゆる「211系顔」の繊細さとのっぺり感もうまく出ており、スノープラウの再現とともに雰囲気は抜群である(ただ雰囲気抜群のスノープラウがくせ者なのだが)。
 ケチをつけるとすれば動力込みの車両とそうでない車両で車高が違うこと。マイクロエースの特徴として動力車の腰があがってしまう癖は有名だが、この719系では腰高感を直そうとした反動で逆に動力車の方が腰が低いという逆転現象が出てしまった。動力車の車高違いは直ってきた処だっただけに少し残念である。以外は価格相応のレベルに達しており、不満はない。


動力込みクモハ719・よく見ると動力のないクハ718と車高が違うのが分かる。

 さて、ここからが今記事の本題となる部分である。
 この719系にも先頭部の見栄えをよくするためにトミックス製の「TNカプラー」を装着することにした。719系購入時に店員さんに適合するTNカプラーを聞いたところ、719系では対応していないと言われた。さらにその店の常連客の声として「TNカプラー取り付けは困難である」という情報があるとのこと。少し嫌な予感がしたのは言うまでもない。
 その場で719系の床板をまじまじと眺め、とりあえず自己責任のもとTNカプラー取り付け改造に挑んでみることにした。TNカプラーを取り付けるための受けがついており、自分の腕で何とかなるはずと断定できたからである。結論を先に言えば上の写真を見て分かるようにTNカプラー取り付けに成功した、ただし取り付けるべき製品番号を間違えてしまい電気連結器がなくなってしまったが…orz。 


TNカプラー取り付け状況

 まず上の写真を見ていただきたい、これは動力が組み込まれていない先頭車にTNカプラーを取り付けて顔合わせで連結させたものである。TNカプラーの利点は本物の密着連結器を車体と同縮尺で縮小しただけに見える外観が最大であり、このカプラーの登場によって連結が必要な先頭車でも雰囲気を崩さずに前面床下部分の再現が可能になったことである。TNカプラーの利点がこれだけならば中間車には必要ないとの声も聞こえそうだが、TNカプラーのもう一つの利点として「連結した場合の連結距離が短くなる」というものがある。つまり連結間隔を狭くすることで編成を組んだときの見栄えが良くなると言うことで、これはTNカプラーに装備されている伸縮機能で実現した。TNカプラー以前のカプラーでは特に構造上の工夫がない限りは連結器が異常に大きいため実物縮尺の倍くらいの連結間隔が必要で、これが編成美を崩してきたのも事実である。カトーカプラーで連結器そのものの小型化に成功して若干連結間隔が狭くなってきてはいたが、TNカプラーの登場は模型における連結間隔に革命を起こしたと言っても過言ではない。
 このような理由で719系にもTNカプラーを付けることにしたのだが、メーカーの正式対応になっていない以上は自己責任での取り付けとなる。まず上写真にあるように動力が組み込まれていない車両へのTNカプラー取り付けは簡単だった。と言うかメーカーが取り付け可能を正式対応している他製品と全く同じに付けられた。全く困ることがなく4両セット中3両までは簡単にTNカプラー取り付けがうまくいった。
 問題は動力車である。その前に動力車へのTNカプラー組み込み完了写真を出しておこう。


719系動力車へのTNカプラー組み込み写真

 恐らくメーカー側が正式対応させなかったのは動力車先頭部への組み込みが「要加工」になるからのようだ。この写真の丸で囲んだ部分を見ていただきたい、これは加工済みの写真だが、加工前は台車からスノープラウへ延びる部分とTNカプラー本体がぶつかって台車を装着できない状況だった。
 そこで下図にも示すように、TNカプラー本体を削ってやることで解決させようとカッターを取り出してせっせこ削り始めた。しかしこれだけだと勾配があったときなどに不安になるので、スノープラウの部品も若干削ることにした。TNカプラー側は高さ方向に1ミリ、前後方向に2.5ミリ程度削ればいいと思うが、実際には現物合わせで行った。スノープラウ側は角を丸める程度でしかないが、台車の回転が若干良くなるなど手応えは感じた。
 最後にスカートを取り付け、正規に組み立ててみたら見事この「当たり」は除去されて719系動力車にTNカプラーがはまり、前面床下の外観向上に成功した。
 もしこの記事を読んでこの加工に挑んでみようという方がいたら、メーカーが公式対応をうたっていない以上、あくまでも改造は自己責任でよろしくお願いしたい。またこの加工はそんな難しくないので加工の経験がない方でも慎重にやれば大丈夫だと思われる。ただしこの場合も自己責任で。
 しかし、この程度の加工ならグリーンマックスのように「上級者向け」(実際にそうでなくても)と明記した上で説明書に載せてもいいと思う…。


719系動力車TNカプラー取り付け時の加工


 最初は東北地方の電車の紹介と言うより、単なるカプラー取り付けの苦労話になってしまった。
 しかし、外観においてカプラーの交換がどれだけ大事で、それだけのためにどんな工夫をしているかの一端を見ていただけたと思います。
 さて、東北方面の車両についてもこれから順次紹介の予定。次は何が出てくるかはその時のお楽しみ…。

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