心象鉄道5.日本航空・国際科学技術博覧会出展リニアモーターカー HSST−03 |
今から20年前、色んな出来事があった1985年。私が中学3年生の頃。 そう、ハレー彗星の接近に天文学ファンが沸き、阪神タイガース21年ぶりの優勝に野球ファンが沸き、日航機墜落という悲しい惨事に日本中が泣いたあの年…。 茨城県のつくば研究学園都市を舞台に我々の世代にとってはもう二度とないであろう熱いイベントが行われた。その名は「国際科学技術博覧会」、通称「つくば科学万博」「EXPO1985」である。 内外の大企業や国家が最先端技術の粋を競って出展し、その当時最先端の技術に我々は酔った。富士通パビリオンの全天立体映画、東芝グループの精細な映画画面、SONYの世界最大のテレビ「ジャンボトロン」…思い出せばキリがない最先端技術は「娯楽」のひとつとして我々の前に現れた。その後の「花と緑」とか「環境との融合」とかいう名やテーマを冠して偽善に走る博覧会と違い、最先端技術を何に臆することなく堂々と、前面に押し出すことが出来た最後の国内での博覧会だった。 無論ここには鉄道少年だった私の心を強烈に引き寄せた展示もあった。往復の連接バスから始まって、日立館にあった自動改札機や、場内移動のロープウェイやモノレール「ビスタライナー」など。そして15歳の鉄道少年にとってこの博覧会最大の目玉は、世界最大のテレビでもなければ各社が競った立体映画でもない、日本航空が会場の片隅に僅か350mの線路を敷いて走らせた浮上式リニアモーターカー「HSST-03」であった。 そしてここで紹介するからには勿論、当時この「HSST-03」の模型が製作されて販売されていた。私は1985年のあのイベントを忘れたくなくてこの模型が欲しくて欲しくてたまらなかった。その願いは博覧会から5年後にゃっとかなうのであった。 今回紹介する模型は、「石神井急行」で唯一のNスケール(1/150または1/160)以外の模型である。また鉄軌道でない「磁気浮上式」で走行する模型も我が家では唯一のものである。当時、あのエンドウが日航商事を通じて世に放った世にも珍しい「磁気浮上式」鉄道模型の世界を、今回はゆっくりと味わって頂こう。 |
1.HSSTとは
多くの人たちが磁気浮上式リニアモーターカーといえば、現在山梨県でJR東海が中心になって東京〜大阪間を1時間で結ぶべく研究が進んでいる、いわゆる国鉄が開発したものを思い浮かべるであろう。しかし、現在のような長期的不況など考えていなかったあの時代、国鉄だけではなく鉄道会社でもないのに敢然と浮上式リニアモーターカー開発に立ち向かった企業があった。 |
2.模型車両について
さて、ここからはエンドウが出したHSSTについて語ろう。なにせ、こちらも磁気浮上式鉄道模型という非常に画期的な鉄道模型である。興味をお持ちの方も多いだろう。
私はつくばの博覧会に強い刺激を受けたこともあって、このHSSTの模型が欲しかったのは言うまでもない。科学博覧会には3度足を運び、その3度目、家族でつくばへ出かけた際に途中別行動してHSST乗車を果たした。そのリニアモーターカーに乗るという興奮は今でも忘れられない。そんな興奮を模型で立体的に遺したいのは言うまでもないだろう。
家に帰って早速箱を開けてみた、車両を出してじっくり見るだけでもう自分はそれから5年前のつくばにタイムスリップできた。3度目の万博見物、6月末で梅雨の中休みの暑い日だった。母に「どうしてもリニアモーターカーに乗りたい」とせがむと「サントリー館の整理券が13時だからその間に乗ってこれるなら行っていい」(11時頃の話)と言われた。五百円玉を握りしめてHSSTの乗り場に立った時の興奮、30分待ちで乗れると聞いて慌ててチケットを購入したときの嬉しさ。ホームに上がったときの興奮…あんなにひとつの車両に乗るのにわくわくしたのは、その後では500系のぞみしかない。そして浮き上がった時の感動、飛行機でもないのに地から離れて走っている不思議…それらが模型を見ただけで全部よみがえってきた。
ケチをつけると言えば前面のカーブガラスとボディラインが合ってないくらいだが、これは当時の技術では限界だったと思われる。現在のエンドウ製の車両を見れば分かるが、改善されている点なの文句言うものではない。むしろこれくらいズレている方が1980年代チックでいいと思う。デザイン的にも当時の物だなぁ。 |
3.どうやって走るのか?
恐らく、検索エンジンか何かで「エンドウのHSST」を探してここにたどり着いた人が一番興味を持っている部分は、浮上して走行するというギミックであろう。この模型はちゃんと磁気浮上してリニアモーターで動くというのが売りで、このギミックのために僅かな線路と車両1両のために29000円という素晴らしい値段になってしまったと考えられる。 ちなみにディスプレイ用の非走行キットもレールに走行用磁石が埋め込まれていないレールが付属していて、台車も走行用電磁石がないだけで同じなので、この浮上・走行セットと同じ仕組みで浮上だけはするようになっていた。 この模型の走行原理はリニアモーターカーそのものである。説明するにはリニアモーターとは何だということが理解できているのを前提としたいので、リニアモーターについての基礎学習はここで良いところを探して勉強していただきたい。私としてはここがお勧めする。 まずは電源、このセットは箱の内容物のみで車両の運転が楽しめるトータルセットの形態である。つまり走行用電源を車両に供給するのだが、この電源がなんと「乾電池」! エンドウは単1乾電池4本で動くリニアを開発に成功したのである。「鉄道模型」として発売されたトータルセットの中で動力源が乾電池というのは、昔のカトー「ポケットライン」のセットしか知らないよ。 そして乾電池で動くコントローラとはいえ、前進・後進の切り替えは勿論のことLEDライトで進行方向も表示する、さらにスピードは「High」と「Low」の2段階に調節が可能だが、このトータルセットでは「Low」だけあれば十分。デザイン的にも当時の未来志向が詰まっており、電池ケース蓋の「JAPAN AIR LINES」がそれに彩りを添える。回り道したが、このリニアモーターカーの電源は直流6ボルトということだ。恐らく、市販の鉄道模型用コントローラならだいたい使用可能と思われる。
車両をひっくり返してみると、回転モーターで言えば電機子に当たる走行用コイルが台車に組み込まれているのがおわかり頂けるだろう。
さらにレールの側壁上部にも磁石が組み込まれ、これと台車側の浮上用磁石が反発することによって浮上する仕組みになっている。
レールは国鉄型リニアのようにU字型ガイドウェイの形態を取っている。このU字型ガイドウェイの底部には浮上・走行に関わる部品は取り付けられていない。側壁からガイドウェイ上部にかけて逆L字型に磁石が埋め込まれており、側壁側の磁石は推進用磁石、ガイドウェイ上部の磁石は浮上磁石である。浮上磁石については台車側の浮上磁石と反発して車両を浮上させる役割であるのは前述の通り。浮上磁石の上は写真を見て分かるように薄い金属製のカバーで保護されている。 問題は推進用磁石である。分解したことはないが(貴重品なので怖くて分解できない)、恐らくN極とS極が交互にこちらへ向くようにセットされていると考えられる。そして推進用磁石の上にはまるでラーメン屋のどんぶりのような模様の基盤がかぶせられている。ここが鉄道で言えば架線に当たる給電部分で、凹字型の模様は絶縁部分である。恐らく、推進用磁石もこの絶縁部分に合わせて極性を入れ替えて配置しているのであろう。 この絶縁部分の上と下で直流電流が逆に流れている…つまり車両はこの絶縁部分を通過するたびに給電される電流がプラスマイナス逆となり、そのたびに台車の推進用電磁石の極性も逆になるのである。こうして台車の推進用電磁石とレールの推進磁石の間に吸引・反発力が連続的に一方向に向けて発生し、車両が進むというわけだ。
このような特殊構造のため、普通の鉄道模型のレールなら左右に電気線は1本(電流片方向)ずつでいいのだが、このHSSTのレールでは左右に2本(電流双方向)がどうしても必要になる。それだけ接続部も複雑となるわけで、写真を見ていただければ分かるのだが家庭用コンセントのようなごっつい電気コネクタが一緒に接続されるレール構造となった。この接続部が厄介でコネクタのサイズに余裕がないために接続には苦労させられる。繋がりやすいレールとそうでないレールの差が極端で、僅か5本のレールを繋げるのに相性のいい組み合わせを求めて四苦八苦するのだ。 このトータルセットに付属するレールは全て直線で長さは1本240mm、内容は通常レールが4本とフィーダーレールが1本の合計5本。つまりレールを全部繋げても1メートル20センチにしかならない。つくば科学博の時、実物は350メートル軌道だったのでその3分の1しか軌道がないので凄く寂しい。この模型が発売された当時は曲線レールセットの発売が予定されていたと言うが(取扱説明書にも載っていた…取説は紛失…orz)、発売は中止になった模様だ。 これでこの模型の走行システムについて分かっていただけただろうか。でも他にエンドウのHSSTを扱っているサイトは見たことがないので、ここまで走行システムが本格的にネットで紹介されたのは初めてかも知れない。この模型の写真が出ている程度のサイトはいくつか見つけたけど…。
|
以上でエンドウのHSSTの紹介を終わりたい。つくば科学博へ行った人は懐かしかっただろうし、そうでない人はこんな模型が出たんだと驚いてご覧になったことであろう。 今回も連動企画を用意している。ともに1985年夏の日本航空の話題であるが、こちらは当時の日本航空の「明」の話題、そしてもう一つは対照的に「暗」の方も自分のHPに上げた。 「暗」の方もご覧になりたい方はここをクリックしてこのコーナーから抜けてご覧ください。 他にこんな面白い模型は持っていない、てーか、リニアモーターカーの模型なんてこれくらいだろうし…。 |