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・はいじま的「わたしのアンネット」追加考察
ルシエンが越えた峠についての考察




 「わたしのアンネット」およびその原作「雪のたから」最高の迫力シーンは、ルシエンがダニーの足を治すべく徒歩とスキーで吹雪の峠を越えてモントルーを目指すシーンであろう。ルシエンの行く手を猛烈な吹雪が遮るが、ルシエンが自分が犯してしまった罪の精算と、何よりもアンネットとダニーの笑顔を求めて吹雪と暗闇をついて峠を目指す。その道中でルシエンは何度も倒れ、意識をも失うシーンもあり、視聴者は手に汗握ってこのシーンに見入ったことだろう。
 当サイトでは「わたしのアンネット」について他の人が考えない視点での考察も加え、「世界名作劇場」シリーズで1・2を争うマイナー作品とも言えるこの作品を丸裸にすることでこのサイトの読者にこの素晴らしいアニメの魅力を伝えようと思っている。私が知る限り、ソリ大会におけるキャラクターの滑走速度、ダニーが落下した崖の高さ等について研究したサイトはなかっと思うし、ネット上での感想を拾うと不要論まで出ているローザンヌ編についての意味を見いだす解釈についても考察した。
 それらの考察の中で予告だけしておきながらまだアップしていなかったのがルシエンが越えた峠についてである。31話の考察で峠までの距離については触れたが、それ以外の部分についてと31話の考察結果の検証を済ませていない。実は本文用に考察文を作りかけていたが、長文になりそうなので別ページにしようと考えて保留していたのだ。
 そこでこのページで改めて、その峠について考えて行きたい。

1.31話考察結果の整理と32話について
 まずここで31話「峠へつづく道」研究欄で、ロシニエール村から峠までの距離(道のり)に考察した結果をおさらいしておこう。

・ルシエンは登校のために家を出たのは7時頃と思われる(原作設定では学校の始業時刻は7時半)。
・従ってルシエンが学校をサボり、問題の馬車に乗り込んだのは8時頃。
・ルシエンは馬車が動いたのに気付かないほど熟睡していた。つまり1時間程度寝ていたと思われるので、馬車のロシニエール出発は9時頃。
・馬車の速度はルシエンの歩行速度(昼食後のシーン)との比較で時速6キロ程度と思われる(ルシエンの歩行速度を時速4キロと仮定)。
・従って9時に出発した馬車は、ルシエンを発見して昼食のために停車したのを正午とすれば、この地点まで18キロばかり走ったことになる。
・ルシエンが峠に到着した時刻にはまだ日が傾き始めていない、季節から考えれば遅くても15時頃だろう。
・昼食後にルシエンが出発した時刻を12時半とすれば、昼食地点から峠まで約10キロ。
・従ってロシニエールから峠までは28キロの道のりである。

 さて、32話でルシエンは峠からロシニエールまで徒歩で戻るのだが、これにいて考えてみよう。
 前述の通り、ルシエンの峠到着を15時としよう。ルシエンが30分程峠に滞在したとして15時半に出発したとする。行程の殆どが下り坂であることを考慮すれば平均歩行速度が多少上がっているかも知れないが、ここではやはり時速4キロで計算すればルシエンが村に戻るのにかかった時間は7時間である。休憩無しなら22時半に村に戻ったことになるが、無論無休憩で歩けるわけはないので1時間ほど猶予を見た方がいいだろう。画面の描写や登場人物達の行動から時刻を推定しよう、寝る時間を大幅に過ぎたのに息子が帰ってこない事実に家族だけでなく村の人々(ピエール)も大騒ぎするとなれば確実に22時は過ぎているだろう。日付が変わればもっと別の心配、たとえば生命の危機について考えたりするだろう。逆に日付が変わっていれば何処かで野宿をしているとか泊めてもらっているという想像も出てくるかも知れない(「南の虹のルーシー」ではある時刻からはそういう想定も始めている)。そこまでは行っていないということはまだ日付は変わっていないだろう。つまり23時代前半にルシエンが帰宅したという私の考察結果…つまり峠まで28キロという考察結果は外れてはいないと考えられる。

2.峠の位置とルシエンの歩行ルートを想像してみる
 では実際にルシエンがたどった道を推理してみよう。現地の地図と劇中の描写を比較してロシニエールからモントルーまでの行程を推理してみた。
 結論からいうとこの地図の通りである。スタート地点をルシエンの家があると思われる位置、ゴール地点はとりあえずモントルー駅である。全行程26.7キロ、ロシニエールから峠まで約16キロという結果であった。
 まず峠の位置であるが、地図や空中写真を見て劇中に出てくる「峠から見たレマン湖」(当ページトップ画像)と景色が一致しそうな場所でかつ、ロシニエール〜モントルー間の経路としておかしくない場所を選んだ。この峠はモントルーとロシニエールを結ぶ鉄道も越えている峠だが、鉄道は2.5キロもの長大トンネルで一気に峠を越えているようだ。こんなに長いトンネルが開通時からあるとすれば、この路線に蒸気機関車が走っているのは不自然なのは一目瞭然だ(笑)。
 峠の位置から5キロほど戻った地点を31話で馬車の御者がルシエンを発見し昼食を取った場所と仮定した。空中写真で峠までの行程を見てみると、劇中のこのシーンに見られる「森の中の直線路」はこの辺りにしか存在しないからだ。
 さらにルシエンが30話で峠を見上げた橋の位置を示しておいた。問題はここで推理した峠がロシニエールから見えるかどうかかなり微妙な点である。峠はロシニエールの西側にあり、ルシエンがこの橋に立って峠を見上げる30話ではもちろん、37話で夕焼けの方向にこの峠がある点や、40話でルシエンを心配するアンネットが峠の方向を見るシーンでも峠の方向が村の西方向であるという解釈をすれば矛盾はなくなる。だがロシニエール村近辺の地図や空中写真を見る限り、村と峠の間に山から伸びてくる尾根が横たわっていてこの方向の眺望を遮っているようなのだ。標高データがないのでなんとも言えないのだが…。
 そうだ、これを確認する方法がある。私のPCには「Google Earth」がインストールされているではないか。てな訳で「Google Earth」でロシニエールからこの峠を見た場合の検証画像、つまりルシエンが見たロシニエールから峠の風景を再現したのでご覧頂こう。それがこの画像である。この画像の真っ正面にルシエンが越えた峠があるのだが…う〜ん、やはり見えない。ならばともうひとつ、「Microsoft Flight Simulator X」でも検証してみたのがこの画像である。近くの空港からここまで飛んでいくの大変だった、じゃなくて…やはり見えない。


劇中では村から西の方向に峠が見えるが実際には見えない

3.31話再考察も含めた所要時間
 実際に地図で調べてみると31話の考察結果とはかなり違う結果が出てきた。ロシニエール村から31話で昼食を取った地点まで9キロ、峠まで16キロ、モントルーまで27キロと31話の描写だけで推察した距離よりかなり短くなってしまった。
 まず31話の行動であるが、これはルシエン(を乗せた馬車)のロシニエール出発時刻をずらせば合点が合うだろう。ルシエンが時速4キロで歩くとした場合の馬車との速度差は、ルシエンが馬車と別れるシーンの状況から言って変えられない。馬車は9キロを走るのに1時間半かかるため、馬車の出発時刻が10時、しかも途中で休みながら走ったとの解釈を取れば合点を合わせる事は可能だ。問題はルシエンが誰にも見つからずに動いていない馬車の上で2時間も眠っていられたかという点だが、何もルシエンが家を出てすぐにこの馬車にたどり着いたという解釈をする必要性は何処にもない。ルシエンが自分の居場所を求めて1〜2時間彷徨っていたと解釈することも可能だ。
 次に正午にルシエンを発見した御者は、昼食と休憩をこれまで通り30分取ったと解釈しよう。するとルシエンが徒歩で峠へ向かうには7キロを2時間で歩けば良いのだ。峠到達予想時刻が15時というのは考えられる最も遅い時間なので早く着いたって構わない。上り坂で速度が落ちて平均時速3キロになったとしても峠まで2時間半は掛からずに到着する。ここまでは峠までの距離が短くなってもいくらでも解釈のしようがあるのだ。
 次に帰りだ。帰るために峠を出発した時刻を15時半、時速4キロで16キロを歩いたなら4時間、休憩を考えても4時間半ほどの道のりだ。すると19時半〜20時の間にルシエンは家に帰り着いたことになり、一応周囲が真っ暗になったという描写と一致する。だがピエールまで含めて騒ぎになっている事実を考えれば、やはり帰りは21時を回っているという解釈をしたい。そこは帰り道の描写ではルシエンが道に迷ったり、犬から逃げ回ったりして時間が延びたとの解釈が可能だ。逆に言えば1項での考察の通り、峠まで28キロ説を採ればこれらのシーンとの矛盾が出てくるとも考える事が出来る。

 次に本命、39話〜40話でのルシエンの行動だ。
 この物語は「月初めの日」の出来事なのは確かだ。理由はアンネットとルシエンが賞品の本を交換する日が月初めだという設定があるからである。この日は1月1日か2月1日、この後の物語の展開を追えば、ダニーが2ヶ月入院して帰った来た時にはロシニエールは雪解けの後である。標高が高い地方であることを考えれば4月中旬〜5月頃の描写と思われるだろう、これはダニーの入院時期がきっかり2ヶ月でなく2ヶ月と1〜2週間と解釈すれば合点が合う。また卒業式の話がすぐ出てくる(欧米では卒業式は6月)ことを考えればこの推察は間違いないと考えられる。つまりこの出来事は2月1日深夜の出来事と断定できるのだ。
 この時期は日が長くなり始めているとはいえ、日本を基準にして考えればまだ17時には完全に真っ暗になる時期だ。さらに北にあるスイスだから16時にはかなり暗くなっていることだろう。そこまでの物語から考察するとマリーがモレル家へ帰ってきた時点で外は真っ暗だった。つまりマリーの帰宅時刻が16時半〜17時頃だったと推察できる。ここからマリーがギベットの話をして、ルシエンが部屋で決意を固め、置き手紙を書いて準備万端で出かけるまで30分は要しただろう。ルシエンの出発は早くて17時と言うことになる。
 ここにもうひとつの事実を考慮しなければならない。ルシエンの家をアンネットが訪れて事件が発覚する事実だ。お転婆とはいえ13歳の少女を一人で外へ出かけさせる時間というと遅くても19時には家に戻れる時刻であるだろう。アンネットがルシエンの家を訪れて事件が発覚する時間は遅くても18時半ということになる。
 ルシエンの準備に余裕を持たせたいから、ここはルシエンが18時に家を出たと考えよう。ルシエンがペギンのところに立ち寄って金の工面をするのにそう時間は掛からなかったと思うが、ペギンの家までの往復にどれほど時間が掛かっているかが問題である。ペギンの家まで片道10分の道のりならば往復20分、ルシエンがペギンの家から峠へ向けて折り返しているときにアンネットと鉢合わせてもおかしくない時刻になってしまう。これは峠へ向かう街道の反対側にペギンの家があると解釈すべきだ。18時半、ルシエンは既に峠へ向けて歩き出してから10分ほど経過しており、既に街道に出ているはずだろう。その瞬間にモレル家では事件が発覚してモレル家の二人はアンネットと共にバルニエル家へ走る。ピエールが事件を知ったのが18時50分、防寒着や馬車の支度をしてルシエンを追いかけ始めたのが19時10分、既にルシエンは徒歩で45分、3キロほど先行していることになる。馬そりの速度が前述の馬車と同じ時速6キロだとすれば、ルシエンとピエールの距離は1時間に2キロ詰まるから、ピエールがルシエンに追いつくのに1時間半かかり、それまでに9キロ走ることになる。つまりピエールがルシエンに追いつくのは前掲地図の「2」地点、31話でルシエンが昼食を取った場所である。確かにあの森ならば吹雪による倒木があってもおかしくないだろう、劇中の描写からいってもピエールはこの地点で倒木に行く手を阻まれ、ルシエンの名を叫んだのだと考えられる。この時にルシエンの耳にかすかに声が届いたように描かれているのだが、ここに挙げたような解釈をすれば、この時点でルシエンはピエールの数十メートル前にいてもおかしくないわけで、この描写は的確だと言うことになる。これが20時40分頃の出来事だ。倒木に行く手を阻まれたピエールが引き返し、バルニエル家に戻ってきてその騒ぎにダニーが目を覚ましたのが22時頃と考えていいだろう。
 ルシエンに話を絞ろう、20時40分頃にピエールに声を掛けられ、その声がかすかに聞こえつつもルシエンは前進する。順調にいけば峠を23時頃には通過するはずだ。だが森林が途切れたところから猛烈な吹雪に襲われる。空中写真で見ると森林が途切れるのは峠まで残り2キロの地点からだ。転倒したり、斜面を滑り落ちたり、二度も意識を失ったりという緊迫シーンは全てこの2キロの道のりの中で起きていることだろう。普通に歩いているときも疲労で歩行速度が半分位になっている。だが意識を失ったとはいえ、それが長時間であればルシエンは生命を落としているはずだ。つまり二度にわたって意識を失った時間は5分程度、長くても10分程度と考えるべきだろう。1回目に意識を失ったときは5分、2回目はその間に天候が変わっていることを考慮して10分意識を失ったと考える。さらに1度目に意識を失う前に立ち止まった時間を10分、劇中に描写された意外にも転倒したりして足止めを食った事もあっただろう。だから足止めは1時間と考えて、森林が途切れた最後の2キロに2時間を要したと思われる。
 そこに至るまでの5キロも普通に歩けたとは考えにくい。折からの吹雪で新雪に足を取られてやはり歩行速度は徐々に落ちたことだろう。この区間を時速3キロ程度で歩いたと考えて1時間40分、つまり地図の「2」地点から峠まで3時間40分を要したと考える事が出来る。ルシエンは降り積もる新雪に足を取られながら進み、引き返したピエールが家にたどり着いた直後の22時20分頃に森林が途切れる地点まで来て難航を始めるのである。峠までの最後の2キロに難儀し、日付が変って0時20頃には峠に到着したと考えられる。そこで喜びの歓声を上げ、ルシエンが峠から反対側の斜面を下り始めたのが0時半頃だろう。
 だが劇中の描写をよく見ると別の事実がある。前掲地図を見てもらえば分かるが、この峠は東西方向に街道が通っている。峠でのシーンをよく見るとルシエンの進行方向に満月が、しかもかなり低い位置にあるのだ。満月が西に傾いていると言うことはもう夜明けが近いという事も考えられ、実は峠の到着を明け方4時以降とも考える事が出来る。様々な状況から考えてもこの時間では峠まで時間が掛かりすぎで、しかも朝一番の列車で発ってしまうギベットに逢えなくなってしまう可能性も出てくる。だからこの満月は無視した方が良いと考えられる。

 峠道の下りはスキーで風を切りながら進むが、これも全区間スキーを使えたわけではないと解釈しなければならないと思う。道が単調な下りでなくたまに上り坂もあったりしたのだろう。また市街地に入る最後の2キロほどはスキーは使えなかったかも知れない。峠を下り降りる行程のうち、7キロはスキーで下って残り4キロは徒歩によったと考えよう。徒歩は疲労のため速度は半分におちるかも知れない。だから徒歩区間は2時間かかる、スキーも実は転倒しながら進んでいたと考えれば時速10キロと仮定できる。さらに休憩や色々な阻害要素を考慮して峠からモントルーまで3時間、すると夜中の3時半にはモントルーの町に着いたと考えられるのだ。
 ルシエンの出発を遅らせたいところだが、アンネットの行動を考えればそうも行かないだろう。夜明けが6時半と考えて空白の時間が3時間…原作でもルシエンがホテルモントルーに到着したのは朝の5時とあり、2時間以内ならホテルの場所を探して彷徨っていたと解釈することは可能だ。早朝で誰も町を歩いておらず、調べようがなかったと考えられるのだ。だがアニメではギベットが出発する様子が描かれており、「朝一番の列車」に乗ることを考えると実は朝の6時頃と解釈することも出来るだろう、それにしても日が高すぎるような気がするが…この空白の時間はルシエンがホテルの場所を探していたと考えるしかなさそうだ。

4.まとめ
 ルシエンが越えた峠の名前は「Col de Jaman」という峠である(日本語に訳せば「Jaman峠」ってところだろうか?)。この地はレマン湖を見下ろせる景勝地として名が知れているようで、空中写真で見ると観光客向けの駐車場があるなど日本の名勝となっている峠と似たような雰囲気を感じる。この地図をみれば写真リンクから景色などを見ることが出来るので参考していただきたい。
 劇中では峠から見たモントルー側の景色が印象的である(当ページトップ画像)。これと同じ景色を考察で用いた「Google Earth」で再現してみたが…やってみない方が良かったかも知れない。ちなみに「Microsoft Flight Simulator X」だとこうなる。ロシニエール村への着陸は上手く行ったが、峠の斜面へは着陸と言うより墜落だったな、じゃなくてやっぱ似ない。だがどちらも素晴らしい景色であることには間違いない。
 以上、ルシエンが越えた峠について考察したが、これを通じてこの峠越えがいかに困難な物であったか、それを通じてルシエンの底力と物語の大きさ、それにルシエンの峠越えも含まれるローザンヌ編の意味や重さをもう一度考え直してもらえれば…と思っている。またDVD等を持ってらっしゃる方は、これを通じてまた変わった見方でこの物語を見直していただければと思うのである。

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