第35話「心の扉をひらいて」 |
名台詞 |
「イエス様…イエス様、私は今、私の心の扉を開きます。今まで心の扉を閉めたままでいたことをお許し下さい。どうぞ、私の心の中にお入り下さい。そして…そして、私があの木彫りの馬を壊した事をルシエンに正直に話すことが出来るよう、勇気をお与え下さい。ルシエンを私のところにお送り下さったことを感謝します。」
(アンネット) |
名台詞度 ★★★★★ |
足を怪我した上、橋から落ちて水没したアンネットは凍死の危機に瀕していた。その時にアンネットの近くを通りすがり、アンネットを救助することになったのはルシエンであった。アンネットはこの偶然により神の存在を心から信じ、神を心の中に迎え入れることにしたのだ。
これまでのアンネットは神というものを大人達から聞いただけで、その存在を信じるような出来事を経験したことがなかったに違いない。これがクラウスを通じて神の存在を信じることになったダニーとの違いで、兄妹でも物事に対する当たり方が違うのは当然である。ダニーは神様が見ていると思うからこそ誰にでも優しくしなきゃならないと考えるのだが、アンネットは神の存在というものを心の底からは信じていなかったので恨んだり憎んだりという行為をいとも簡単にできるのだろう。性格だけでは語れない面なのだ。
そんなアンネットが体験した偶然…死にかかったところを大喧嘩中で仲直りをしたいと思い続けていた相手に救われるという事実を経験し、アンネットはこれは神が自分にくれたチャンスと考えたのだろう。この出来事によりアンネットはルシエンに全てを告白する勇気を得て、今こそ全て話して謝罪をして和解をしようと決心するのだ。それが神が自分に与えた道だと考えたのだ。
そしてこの場にルシエンが来たことを、神様が送ってくれたのだと感じ感謝する。こうしてアンネットは神の存在を心の底から信じ、全ては神の思し召しだと悟るようになったのである。つまりアンネットはこの瞬間から「自分の心の中に神が宿った」と自覚したのだろう。それが「心の扉を開く」という事だと私は理解している。
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(次点)「これなら少しは暖かいだろ? 僕は家に帰ってソリを持ってくる。それまでここで待っててよ、すぐ戻ってくるから。15分、いや10分で戻ってくるよ。今から30分後には君を家に連れて行ってあげる。だから僕が帰ってくるまで絶対に眠るんじゃないよ。わかったね?」(ルシエン)
…木のうろにアンネットを座らせ、自分が着ている上着やマフラーをアンネットに着せながらこの台詞を吐くルシエンかっこよすぎ。 |
名場面 |
和解。 |
名場面度
★★★★★ |
ソリを持って戻ってきたルシエンに、早速ルシエンはアンネットをソリに乗せて家を連れていこうとする。「ちょっと待って、ルシエン」「どうしたの?」「私、あなたに話しておきたいことがあるの」「話なら後だ。それより早く…」「いやダメ、どうしても話さなければいけないわ」「うん?」「私、あなたの木彫りの馬をわざと壊したわ。あなたが展覧会に出すはずだった木彫りは私が壊したのよ。私、あなたがご褒美をもらうのが悔しかったからわざとやったの」アンネットの告白にルシエンの表情は明るくなる「話ってそれだけ?」「それだけよ。どうして笑ってるの?
ルシエン」「嬉しいからさ、アンネットがそのことを僕に言ってくれたのが嬉しいんだよ」「ルシエンは怒らないの?
私が木彫りを壊したこと怒ってないの?」「怒ったさ、さんざん怒って、もう怒り飽きちゃった」「私、本当に悪いことをしたと思ってる。あなたに心から謝りたいと思ってる。ごめんなさいね、ルシエン」「もういいんだアンネット。僕たちは友達じゃないか」「…ルシエン」アンネットは涙を流しながら、遂に和解に至ったことを喜ぶのだ。
いよいよ「世界名作劇場」シリーズ最大の大喧嘩が集結するときが来たのだ。名台詞欄のシーンを受けて神を信じ、ルシエンに全てを正直に話して謝罪する決心をしたアンネット、それに対してのルシエンの返答はあまりにもあっけない許しの言葉で、このシーンでもって二人の長い長い喧嘩に決着がついたのである。しかしルシエンはただ許したのでない、アンネットの仕打ちに対して自分が凄く怒ったと言うことも認めているのだ。そして一度はアンネットを拒絶したものの、フランツとの別れなどを通じてルシエンもアンネットの告白を受け入れる準備は出来ていたはずなのだ。問題はきっかけであって、前回の栗の木のシーンのようにタイミングがずれればどちらも上手く言えないしうまく受け取れない。ルシエンもこのアンネット救助を絶好のチャンスと捉えたはずで、しかもアンネットが全てを正直に打ち明けたことで心の中にあった怒りが全て氷解したのだと考えられる。
そしてお互いにこのチャンスを活かすことが出来たのは、アンネットが神を信じて素直になれたことと、ルシエンの怒りが氷解していたからに違いないのだ。二人は互いに許し合い、認め合い、また元の友人同士に戻って行くのである。
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今回の アンネット VS
ルシエン |
スキーでの帰宅途中、声が聞こえたような気がして戻るルシエン。ルシエンが見たものは雪の中に倒れている少女の姿だ。「誰? そこにいるの誰だい? 何してるの?」…だが倒れている少女からの反応はない。「君、そんなところで寝ていると死んじゃうよ…えっ、死んじゃう?」ルシエンはスキーで少女の側まで滑り、慌ててスキーを脱ぐ。そして少女を抱き上げる、「君、起きるんだ! 起きろ! 眠っちゃいけないよ! おい…ああっ」「…痛、痛いわ」なんとその少女はアンネットだった。「アンネット!?」「ルシエン、あなただったの?」「あ、眠っちゃいけない、アンネット! 目を開けるんだ、アンネット!」「戻ってきてくれたのね、ありがとうルシエン」「長い間雪の中にいたんだね、身体の震えが止まらないじゃないか」「足をくじいてしまって、ずっと這って歩いていたの。あなたが来てくれなかったらきっと…」「話は後でいいよ、このままじゃ凍えてしまう。さあ、元気を出して!」アンネットを立たせるルシエンだが、アンネットはどうしても歩けない。「ダメだわ、やっぱり歩けない」困り果てたルシエンだが、いいところに大きな木があるのを見つける、その木のうろにアンネットを連れて行く、そしてアンネットに自分のマフラーとコートを着せるのだ。「(名台詞欄次点の台詞)」「ありがとうルシエン。あなたが来るまでここで待ってるわ」「じゃ、行ってくるよ!」…こうしてルシエンのアンネット救出劇が始まるのだ。 |
感想 |
本放送時、サブタイトルを見た時にはまたアンネットの苦悩が続く展開なのかと思ったら、あれよあれよと言う間にアンネットが遭難し、都合良くルシエンが現れて和解したのには驚いた。ただこの偶然にはキチンと意味を持たせてあり、単なるご都合主義ではない描かれたかをしていると感じたのは今回の再視聴によるものである。アンネットはこの偶然を通じてしっかりと「神」というものを認識して信じ、ルシエンもこの偶然により怒りを完全に捨ててシリーズ最大の大喧嘩の幕は閉じるのである。この和解は「わたしのアンネット」最大のヤマ場であるとも言えるだろう。
本放送時は仲直りが意外に早いと驚いた。まだ最終回まで10話以上も残しており、喧嘩の終結が最終回直前と当時は予測していたのでこれが大きく外れて驚いたのだ。でもこの物語はダニーの足が元通りにならないことにはハッピーエンドにならないと気付いたのはこの回を見終えた直後である。アンネットとルシエンが仲直りしました、めでたしめでたし…だけではダニーが救われず、ハッピーエンドとして成立しないのだ。ダニーの足を治すのに10話もいるのか?と当時は考えたけど、この期にもうひとヤマあるとは予測できなかったからなぁ。
いずれにせよ「わたしのアンネット」の辛い展開はここまで、後はまた序盤のような楽しい物語になるのだろうか?
それとも和解した後にまた喧嘩がぶり返すのか、本放送時はこの先の展開の予測が付かず楽しみだった記憶があるのだ。 |
研究 |
・助け出されたアンネット
このアンネットとルシエンの和解も原作を踏襲した展開だ。ただアニメでは1話で収まってしまったこの物語が、原作ではなんと4章にも及んでいるのは「雪のたから」を読んで驚いた点だ。そのうちの1章「閉ざされた戸」では原作ではあっさりと流したクリスマスのミサについての詳細が描かれており、その席でダニーが我が儘を言いたい放題だったり、アニメ同様の説教があったことが描かれている。その時にアンネットが「心の扉を開く」と言うことがどういう事か悩むが、ルシエンの姿を見てそれは出来ないと念じる展開となっているのだ。続いては「雨戸を開けると」という章で、クラウスが行方不明になってそれを捜しに行くまでが描かれている。この中でアニメでは前話に当たる「心の闇」についてのクロードの説教がある。クラウス行方不明については、ダニーの台詞回しまで原作とアニメは共通している。アニメではクラウスが雌のオコジョを見つけて森の中へ消えるシーンが描かれているが、原作クラウスも同じ理由でしばらく行方不明になったことがわかる。
そして「助け出されたアンネット」という章と、「答えられた二つの祈り」という章の冒頭まででアンネットの遭難と、それを助けるルシエンが描かれるのだ。これを通じてアンネットが神の存在を信じて心の扉を開くのも同じである。ただしルシエンは木彫りの馬を破壊したのはアンネットだったという事実をこの時点まで知らず、最初はアンネットの告白に驚く。続いて嬉しくなったとあるのだが、その理由は「アンネットも悪いことをしたんだ…だからここでアンネットを許せば、アンネットが自分を許してくれるに違いない」という考えからである。他は原作とアニメの内容は全く同じで、名台詞欄に挙げた心の扉を開くアンネットの台詞と、馬破壊を告白する台詞はほぼ同じである。
この二人の和解というシーンは、原作ではこれまでずっと仲が悪かった(ダニー転落事故の有無は問わない)二人が初めて認め合うシーンで、アンネットはルシエンを愛さなければならないと感じるし、ルシエンはこれがアンネットと仲良くなるチャンスと考えて行動するのである。その二人の行動が実を結んでこれまで反目し合っていた二人が仲良くなると言うアニメ以上のものが原作には描かれている。アニメはこのシーンを忠実に再現することで、長い喧嘩をしていた二人の和解という場面として使用した。そして長い喧嘩が終わって二人の仲が元通りになるのに相応しい名シーンに仕上がったのだ。 |