…物語は航空創始期、複葉機で厳しい山越えに挑む男の姿から始まる。彼の名はファントム・F・ハーロック一世、本作の主人公ハーロックの遠い先祖だ。 |
名台詞 |
「私の名は、ファントム・F・ハーロック。その時私は、雷鳴が轟く中を、ポートモレスビーからニューギニア島を横断して、ニューブリテン島のラバウルへ向かっていた。航空探検家として世界の空をくまなく制覇する、生涯を掛けた夢だった。その私の行く手を阻むのは、オーエン・スタンレー山脈。最高峰5030メートル、スタンレーの魔女と人々に恐れられてきた山だ。私の名は、ファントム・F・ハーロック。そして、この飛行機は私の地を分かち合った肉親、生死を共にする友、わが青春のアルカディア。私と共に青春の時を過ごし、共に山駆けたこの飛行機が飛ぶのを止めたとき、私の生涯も終わるのだ。燃料を満載した機体は、その日重かった。高度を取れないアルカディアのエンジンは、激しく喘いだ。シリンダーの息の切れそうな音は、年老いた私の心臓の不規則な鼓動によく似ていた。私とアルカディアは、飛び抜けられる谷合いを求め、力の限り飛んだ。」
(ファントム・F・ハーロック一世) |
名台詞度
★★★★ |
本作冒頭では、かつてファントム・F・ハーロック一世が挑んだスタンレー山脈越えから始まる。そのシーンを背景にファントム・F・ハーロック一世を演じる石原裕次郎の語りの前半部分がこの台詞だ。
この語りでは、まず自分が何をしているのかが説明的に語られるが、これは彼が今挑んでいる旅路の困難さを示唆するだけでなく、今後の物語展開を考えると非常に重要だ。続いて既にハーロックの祖先が「アルカディア」という名の機体に特別な感情を抱いていることが上手く語られる。飛行機を愛し、その機体を家族のように扱い、今や身体の一部のようになってしまったという彼の気持ちが上手く表れているだろう。これは乗り物ヲタの私としてはとても共感出来る台詞である。
そして最後に語られるのは、自分と愛機の姿を重ね合わせ、互いに歳を取ったという感情と、それでも自分と愛機に鞭打ってやらねばならないという現状。それは自身と愛機の一体感をうまく表現しており、ファントム・F・ハーロック一世の語りの中では最も印象深い台詞といって良いだろう。
こんな台詞が冒頭に入っていたのは、小学生の頃に映画を鑑賞したときから覚えていた。飛行機って燃料を沢山積むと重くなって性能が落ちるという、今考えると当たり前のことはこの台詞に教わったんだよなぁ。この台詞に何百万円もかかっているのか…そう考えるとすごい。 |
名場面 |
スタンレー越え |
名場面度
★★★★★ |
本作の冒頭は20世紀初頭、複葉機によるスタンレー越えという「ハーロック」とは無関係そうなシーンで始まる。だが見ているとその複葉機を繰る人物の名がファントム・F・ハーロック一世であり、複葉機の愛称が「アルカディア」であることから多くの人がこの部分はハーロックの祖先の物語であると感じるところだろう。
このスタンレー峠越えシーンはとても迫力があり、上映当時小学生だった私をも物語に引き込み、映画館の大スクリーンにこの光景が映し出されたのを今でもハッキリ覚えている。そして感情を抑えた石原裕次郎の静かな語り…映画の最初のシーンでこうも印象深いシーンを置くことで、多くの人が今後の展開に期待したと思うし、またこのシーンが印象に残っていることだろう。もうこれ以上の詳細な説明は、私の文章力では説明不能なシーンと言って良い。
また、最後の方で不二子ちゃん「スタンレーの魔女」が高らかに笑うのも印象深い。これはこの山脈が人々を寄せ付けないことをうまく示唆していると思う。ここまででしっかり描かれた厳しい気象条件の描写に、この高笑いが加わることで登場人物が「来ては行けない場所に来てしまった」という事を示唆するのだ。もちろん、この要素は今後物語が進み、この伏線が回収される段でも重要だし、なによりもファントム・F・ハーロック一世と乗機「アルカディア」号の敗北を見ている者に印象付ける上でも大事だ。 |
研究 |
・オーエン・スタンレー山脈 本作の冒頭はファントム・F・ハーロック一世による、複葉機でのスタンレー越えが印象的だ。時代的には第一次大戦の頃のようで、20世紀初頭と考えれば良いだろう。ただし、今後物語に出てくるファントム・F・ハーロック二世が一世の息子だとすると、合点が合わなくなってしまうのだが。
この劇中に出てくるスタンレー山脈は、パプアニューギニア南東部にある険しい山脈である。地図で言うとここであり、地図で見ると劇中の雪山が想像出来ない人も多いことだろう。劇中で石原裕次郎は「最高峰5030メートル」と語っていたが、調べてみると最高峰はヴィクトリア山の4072メートル(4038メートルとする資料もある)であることがわかる。このヴィクトリア山は1888年にウィリアム・マグレガーが初登頂を果たしている。
スタンレー山脈と言えば、日本人としては忘れてはならない歴史は太平洋戦争中の「ポートモレスビー作戦」だろう。開戦直後に日本が艦船によるポートモレスビー攻略を企図したが、連合国の妨害にあってこれに失敗。このためニューギニア島の反対側に当たるブナに陸軍を上陸させ、陸路スタンレー山脈を越えてポートモレスビーを攻略するという内容だった。だがスタンレー山脈越えが厳しいために早期のポートモレスビー攻略が必要だったにもかかわらず、ガダルカナル島の戦局悪化の影響をもろに受けてポートモレスビー攻略ができなくなってしまい、さらに制空権が失われていたことで補給もままならず、多くの日本兵が餓えとマラリアに苦しんで生命を落としたという歴史だ。
しかし、スタンレー山脈について調べると、日本語のサイトはこの「ポートモレスビー作戦」か「わが青春のアルカディア」等の松本零士作品の関連サイトばかりが引っかかり、山脈そのものの解説をしているところは見つけられなかった。横文字のサイトを翻訳するのも大変だしなぁ。 |