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…物語は航空創始期、複葉機で厳しい山越えに挑む男の姿から始まる。彼の名はファントム・F・ハーロック一世、本作の主人公ハーロックの遠い先祖だ。
名台詞 「私の名は、ファントム・F・ハーロック。その時私は、雷鳴が轟く中を、ポートモレスビーからニューギニア島を横断して、ニューブリテン島のラバウルへ向かっていた。航空探検家として世界の空をくまなく制覇する、生涯を掛けた夢だった。その私の行く手を阻むのは、オーエン・スタンレー山脈。最高峰5030メートル、スタンレーの魔女と人々に恐れられてきた山だ。私の名は、ファントム・F・ハーロック。そして、この飛行機は私の地を分かち合った肉親、生死を共にする友、わが青春のアルカディア。私と共に青春の時を過ごし、共に山駆けたこの飛行機が飛ぶのを止めたとき、私の生涯も終わるのだ。燃料を満載した機体は、その日重かった。高度を取れないアルカディアのエンジンは、激しく喘いだ。シリンダーの息の切れそうな音は、年老いた私の心臓の不規則な鼓動によく似ていた。私とアルカディアは、飛び抜けられる谷合いを求め、力の限り飛んだ。」
(ファントム・F・ハーロック一世)
名台詞度
★★★★
 本作冒頭では、かつてファントム・F・ハーロック一世が挑んだスタンレー山脈越えから始まる。そのシーンを背景にファントム・F・ハーロック一世を演じる石原裕次郎の語りの前半部分がこの台詞だ。
 この語りでは、まず自分が何をしているのかが説明的に語られるが、これは彼が今挑んでいる旅路の困難さを示唆するだけでなく、今後の物語展開を考えると非常に重要だ。続いて既にハーロックの祖先が「アルカディア」という名の機体に特別な感情を抱いていることが上手く語られる。飛行機を愛し、その機体を家族のように扱い、今や身体の一部のようになってしまったという彼の気持ちが上手く表れているだろう。これは乗り物ヲタの私としてはとても共感出来る台詞である。
 そして最後に語られるのは、自分と愛機の姿を重ね合わせ、互いに歳を取ったという感情と、それでも自分と愛機に鞭打ってやらねばならないという現状。それは自身と愛機の一体感をうまく表現しており、ファントム・F・ハーロック一世の語りの中では最も印象深い台詞といって良いだろう。
 こんな台詞が冒頭に入っていたのは、小学生の頃に映画を鑑賞したときから覚えていた。飛行機って燃料を沢山積むと重くなって性能が落ちるという、今考えると当たり前のことはこの台詞に教わったんだよなぁ。この台詞に何百万円もかかっているのか…そう考えるとすごい。
名場面 スタンレー越え 名場面度
★★★★★
 本作の冒頭は20世紀初頭、複葉機によるスタンレー越えという「ハーロック」とは無関係そうなシーンで始まる。だが見ているとその複葉機を繰る人物の名がファントム・F・ハーロック一世であり、複葉機の愛称が「アルカディア」であることから多くの人がこの部分はハーロックの祖先の物語であると感じるところだろう。
 このスタンレー峠越えシーンはとても迫力があり、上映当時小学生だった私をも物語に引き込み、映画館の大スクリーンにこの光景が映し出されたのを今でもハッキリ覚えている。そして感情を抑えた石原裕次郎の静かな語り…映画の最初のシーンでこうも印象深いシーンを置くことで、多くの人が今後の展開に期待したと思うし、またこのシーンが印象に残っていることだろう。もうこれ以上の詳細な説明は、私の文章力では説明不能なシーンと言って良い。
 また、最後の方で不二子ちゃん「スタンレーの魔女」が高らかに笑うのも印象深い。これはこの山脈が人々を寄せ付けないことをうまく示唆していると思う。ここまででしっかり描かれた厳しい気象条件の描写に、この高笑いが加わることで登場人物が「来ては行けない場所に来てしまった」という事を示唆するのだ。もちろん、この要素は今後物語が進み、この伏線が回収される段でも重要だし、なによりもファントム・F・ハーロック一世と乗機「アルカディア」号の敗北を見ている者に印象付ける上でも大事だ。
研究 ・オーエン・スタンレー山脈
 本作の冒頭はファントム・F・ハーロック一世による、複葉機でのスタンレー越えが印象的だ。時代的には第一次大戦の頃のようで、20世紀初頭と考えれば良いだろう。ただし、今後物語に出てくるファントム・F・ハーロック二世が一世の息子だとすると、合点が合わなくなってしまうのだが。
 この劇中に出てくるスタンレー山脈は、パプアニューギニア南東部にある険しい山脈である。地図で言うとここであり、地図で見ると劇中の雪山が想像出来ない人も多いことだろう。劇中で石原裕次郎は「最高峰5030メートル」と語っていたが、調べてみると最高峰はヴィクトリア山の4072メートル(4038メートルとする資料もある)であることがわかる。このヴィクトリア山は1888年にウィリアム・マグレガーが初登頂を果たしている。
 スタンレー山脈と言えば、日本人としては忘れてはならない歴史は太平洋戦争中の「ポートモレスビー作戦」だろう。開戦直後に日本が艦船によるポートモレスビー攻略を企図したが、連合国の妨害にあってこれに失敗。このためニューギニア島の反対側に当たるブナに陸軍を上陸させ、陸路スタンレー山脈を越えてポートモレスビーを攻略するという内容だった。だがスタンレー山脈越えが厳しいために早期のポートモレスビー攻略が必要だったにもかかわらず、ガダルカナル島の戦局悪化の影響をもろに受けてポートモレスビー攻略ができなくなってしまい、さらに制空権が失われていたことで補給もままならず、多くの日本兵が餓えとマラリアに苦しんで生命を落としたという歴史だ。
 しかし、スタンレー山脈について調べると、日本語のサイトはこの「ポートモレスビー作戦」か「わが青春のアルカディア」等の松本零士作品の関連サイトばかりが引っかかり、山脈そのものの解説をしているところは見つけられなかった。横文字のサイトを翻訳するのも大変だしなぁ。

…オープニングテーではハーロックの乗艦(デスシャドウ号)の敗北が示唆され、オープニングを終えると敗北したハーロックが地球に帰還するシーンとなる。そのハーロックの艦に、女性の声のラジオ放送が聞こえてくる。その声はハーロックの恋人、マーヤであった。ハーロックは地球を占領するイルミダス占領軍の指示で、宇宙港にハードランディングを行って帰着する。
名台詞 「治安が悪い、気を付けることだな。死んで戻ってこないとなると俺の責任になる。」
(ゾル)
名台詞度
★★
 名場面シーンの会話のうちに、ハーロックとゾルは艦のタラップにたどり着く。ゾルはハーロックに出頭命令書を渡して出頭時刻を告げるが、これを受け取ったハーロックは司令部とは違う方向へ歩き出す。ゾルは部下と共にハーロックを制止するが、ハーロックは「まだ2時間ある、行きたいところがあってな」と告げる。時計を見たゾルが「家族のところか?」と尋ねるが、ハーロックは「両親はいない」とだけ答える。ゾルは出頭時刻念押しすると、「必ず戻る、俺の言うことが信用出来ないのか?」と返答する。これにゾルが返した言葉がこれだ。
 この台詞はゾルに、ハーロックには余計な事をして欲しくないという気持ちが上手く表れている。この「治安が悪い」と「戻ってこないと俺の責任」というふたつの理由は連動していて、ハーロックが騒ぎを起こさないかと冷や冷やしている胸中と、これを隠して冷静にその言葉を告げるゾルの男らしさが上手く描かれ、ゾルというキャラクター性を確立する。
 なぜなら、ゾルが本当に勇敢な戦士であれば「ハーロックに反抗して欲しくない理由」として「俺の責任になる」なんて言わないだろう。「小公女セーラ」において、ロッティやアーメンガードがもたついたときのラビニアの定型句「院長先生に私が叱られる」と同次元でとても情けない「言い訳」だ。だがゾルが敢えてこの台詞を選んだのは、それだけ治安面等で地球の状況が悪いということを的確に伝えたかったのだと思われる。そしてその意図が、ハーロックになら伝わると信じたのであろう。
 もちろん、ハーロックは治安の悪さをかいくぐり、時間になるとちゃんと司令部に出頭する。これは「この命令には反しない」という気持ちだけでなく、危険ながらも送り出してくれたゾルの思いが通じたと言っていいだろう。
名場面 ゾルとの出会い 名場面度
★★★
 着陸したハーロックの乗艦「デスシャドウ」号に、イルミダス占領軍が乗り込んでくる。彼らは艦橋に上がり込み、下船支度中のハーロックに銃を向けて威圧する。その中のリーダー格の男が、ハーロックを確認すると武装解除を命じ銃を渡すよう迫る。ハーロックが黙って銃を渡すと、男はハードランディングした理由を確認した上で「司令部への報告」を命じる。無言で立ち去ろうとするハーロックを男が追いかけると、ハーロックは立ち止まり「何処かで会ったか?」と問う。男は過去の戦闘でハーロックの乗艦に大穴を開けられたことを告白し、「何度も死ぬかと思った」とした上で「君の船は手強かった」とする。ハーロックが礼を言って歩き出すと、今度は男に名前を尋ねる。男は「トカーガのゾルだ」と名乗ると、「トカーガ星人か? 昔イルミダスと戦って破れた」とハーロックが確認、ゾルは「そうだ」とだけ答える。
 この物語の基幹となる二人のキャラクターの出会いだ。本作ではハーロックとトチローの友情もそうだが、同時にハーロックとゾルの友情も描かれる。トカーガ星人のゾルは原作漫画にも登場しハーロックと強い友情で結ばれるキャラクターだが、本作で描かれた二人の出会いは「敵同士として」というものであることに意外性を感じた人も多いことだろう。
 だが、このシーンはゾルが「あくまでも仕事ととして」ハーロックを威圧しているだけということが上手く演じられている。ゾルがハーロックと過去に戦い、戦いを通じてその強さを認めた点は二人の今後を示す重要な会話であることは確かだろう。この台詞をハーロックは「ありがとう」と素直に受け取り、ハーロックにとってゾルが根っからの敵と思っていないことをうまく演じさせる。
 そして何よりも、このゾルという男の正体をここであっけなく明かしてしまう点も「この二人の男の物語」を期待させるよう上手く作ってある。その内容は彼がトカーガ星人であること、トカーガは今ではイルミダスの手先として地球とも戦ったが、かつてはイルミダスに反抗するために戦っていたことまで明確になる。つまり、ゾルは敵などではなくむしろ地球の理解者になり得ることをここで明確化したことで、始まったばかりの物語にうまく伏線を張ったのだ。
研究 ・劇中での地球について
 オープニングテーマ前の冒頭シーンは、ハーロックの先祖による過去を流すことでハーロックが「先祖」にまつわる本を持っていることを示唆するシーンであった。これが終わると物語は劇中基準での「現代」となり、敗北したハーロックが敗北した地球へ帰還するシーンとなる。
 この時の地球は「イルミダス」という異星人達の侵略を受け、この侵略戦争に負けて占領されてしまったところだ。「宇宙戦艦ヤマト」におけるガミラスのように、イルミダスは圧倒的な科学力でもって地球へ侵略し、見事植民地化に成功したというところだろう。地球にはイルミダスの占領軍が降り立ち、これが軍政を敷いていることは物語が進むと分かる。「宇宙戦艦ヤマト」と違うのは、侵略戦争途中で地球を支援する勢力が現れなかったことだ。
 「デスシャドウ」号が着陸した宇宙港には「司令部」があり、これは「地球占領軍司令部」と思われる。つまり「デスシャドウ」号はイルミダスの地球での本拠地と言える宇宙港に着陸したというところだろう。ここでは今後の物語を彩るゼーダやムリグソンと言った占領軍首脳陣が構えており、その他イルミダスが植民地化した他惑星の人々を手下として利用しているようだ。ゾルら多くのトカーガ星人がここで衛兵として働いているのは今回の部分で解るし、物語が進むと「アルカディア」号に乗り込む事になるミーメはゼーダの秘書として働いている事が明確になる。
 この「イルミダス」についてだが、本作では彼らについての情報は実に少ない。彼らが銀河系の広大な地域を支配しているであろう事、地球を侵略する直前にトカーガ星に侵略戦争を仕掛けて勝利したこと程度の情報しかないのだ。つまり「イルミダス」の母星が何処にあるなどの情報は本作にはない。
 こんな暗い状況の地球で始まる点は、「宇宙戦艦ヤマト」との共通点だろう。だが本作では地球がこの状況から救われることはなく、堕落して行く一方なのが見ていて辛い。

…司令部出頭までの2時間、ハーロックは都市の廃墟を彷徨っていた。どこからとも無く聞こえるマーヤの「自由アルカディアの声」、その声が雑音にかき消されると突然銃撃戦が始まる。イルミダスの警備兵達が、まさに「自由アルカディアの声」を止めさせようと活動を開始したところだった。この銃撃戦をかいくぐりマーヤの元を訪ねると、赤いバラが一輪だけ。その後ハーロックは、司令部に出頭する。
名台詞 「俺はハーロック、デスシャドウの艦長だ。それ以外何も言うことは無い。」
(ハーロック)
名台詞度
★★
 司令部に出頭したハーロックは、ゾルに「何か用か?」と尋ねる。ゾルがイルミダス地球占領軍司令のゼータを紹介すると、ハーロックはこう語りながらゼータの前へ歩み寄る。
 序盤のうちにハーロックの性格を印象付けるとてもカッコイイ台詞だ。彼は今回の戦いで負けはしたが、「負けたままではない」とこの言動で訴えているように感じる。自分達が今回は負けた事なんて、ゼータが事細かに知っているので言う必要も無いという心の叫びも聞こえる。何よりも「このまま引き下がっていられるか」という、ハーロックの心の底まで見えてくる。本当に短い台詞にここまで詰め込んだもんだと思う。
 だからこそ、ハーロックはゼータに何も言うことは無いのだし、「仕事をくれ」と乞うこともしない。あくまでも「後は自分の自由」という態度を貫くだけだ。
 このハーロックの言動を、ゼータや副官のムリグソンが気付かぬはずはない。ゼータは黙ってこの台詞を聞くだけだが、ムリグソンは怒りを露わにしてハーロックの胸ぐらを掴む。もちろん、歯が立たぬ相手なのだが…この辺りの展開がハーロックに「強さ」「男らしさ」を植え付けており、滑り出しはOKと言ったところだ。
名場面 トライター登場 名場面度
★★
 ハーロックとゼータとの対面、ムリグソンによる地球人への侮蔑的発言を減ると、司令部に「イルミダス占領隊協力内閣首相」の肩書きを持つトライターという男が出頭してくる。彼が挨拶するとゼータは「またしてもバラの花一輪を逮捕したようですね」と声を掛ける。だがトライターは「いや、この次は必ず逮捕し直ちに処刑を…」と言い掛けるが、ゼータは「私の指示は『自由アルカディアの声』の主が誰であるかを突き止めると言うことだ。それさえ解れば利用の仕方もある」とトライターの報告を遮る。トライターはハーロックの存在に気付き「この男は?」と問うと、ムリグソンが「難民引き揚げ船の艦長だった男です」と答える。だがトライターはすぐに「ハ、ハーロック!」と男の正体に気付き、「この男は危険だ」と慌てるのだ。振り向いて睨みを効かせるハーロックに対し、トライターは「早速手配を…」と言い残して逃げ出す始末。ゼータが「節操のない奴だ」と吐き捨てる。
 このシーンでは本作のチョイ役でしかないトライターを、見事印象付ける事に成功したと思う。これは本作における「イルミダスに媚びを売る地球人」の全体像までも、この男のようなダメ男だと見ている者が勝手に感じるように上手くできている。澄まして立っているだけのハーロックに震え上がるだけでなく、その直前にはゼータの言うことをまるで理解していないまま事を遂行しようとし、その上失敗したことまで示唆されている。「こんな奴に地球を任せておいたから、地球は異星人の手に落ちたんだ」と文句のひとつでも言いたくなるシーンだ。
 「キャプテンハーロック」の原作漫画に出てくる地球首相も、これに匹敵する情けない男だ。だがトライターは原作漫画の首相ほど情けなくは描かれていないはずだが、そう見えてしまうのは原作を知っているからだろう。異星人の侵略よりゴルフのことばかりを気にし、ハーロックがやってくれば犯罪人の筈なのに「手出しせずに逃がしてやれ」とか命じ出す。トライターならそれをやりかねんと感じさせてくれる点が、このシーンの見どころだ。
研究 ・劇中の地球政府
 この部分では劇中の地球がどうなっているのか、さらによくわかるようにできている。「首相」として出てきた地球側の代表者は、「イルミダス占領隊協力内閣」の首相を名乗っている。これで判明するのは、イルミダスの占領下でも地球に「自治」が認められていることだ。だがこの「自治」は名ばかりでかたちだけのものと見て良いだろう。恐らくイルミダス占領軍が政党(仮名:「イルミダス党」)を組織し、この政党による一党独裁と考えられる。政治の場は一応は地球人で統一されているが、独裁政党のバックがイルミダスなため結局はイルミダスの言いなりというところだろう。もちろん選挙などは廃止されており、イルミダス占領直後に「選挙」でイルミダス党が政権を握り(それもかたちだけの選挙だろう)、その段階で「我が党による独裁政治」を宣言したと考えればいいだろう。
 こうしてイルミダス占領軍は、「かたちだけの自治」ながらも地球人の首相を立てねばならなくなるが、この首相にコントロールしやすい弱腰に人物を選んだ結果がトライターなのだと考えられる。
 では、イルミダスはトライター内閣を通じてどんな政治をしているのだろう? 司令部シーンのラスト、ハーロックが秘書のミーメから「食券」を受け取るシーンがある。これから察するに食糧は配給制度となっていることだけは解る。だがこれがミーメの言うような食糧不足によるものか、さもなくば地球人に腹一杯食べさせて反抗する気力を失わせるための「政策」なのかは、物語を見ていてもわからない。だが本作に出てくる地球の「市民」は元気が無く、動きも少ないことを考えれば前者のような気がしなくもない。
 後はイルミダス本星の政治体制を、「地球の自治」というかたちだけを通じて行っているに過ぎないと考えられる。本作ではイルミダスが自分の手を汚さぬよう、反抗したトカーガ星撲滅を命じるシーンがあるが、これはその「政策」のひとつなのだろう。こんな事ばかりしていたら、イルミダス占領軍はいずれ大規模な地球人の反抗(つまりテロ)に遭って追い込まれるに違いない。地球人は「愛」で接しなきゃ操れないことは、過去の歴史が証明していることまでムリグソンは調べてないんだろうな(愛を持ってしても、過去に占領した歴史があれば恨まれることも)。

…司令部で食券を受け取ったハーロックは、まるでクラブのような食堂で食事を取ることとする。そこでハーロックは、食事をむさぼり食う一人の男を見つけた。やがてその店で乱闘騒ぎが起きる。
名台詞 「ハハハハ、愉快だ。俺の名はトチロー、これから逃げる。」
(トチロー)
名台詞度
★★★
 食堂でイルミダス兵がトチローをからかったことで始まった小競り合いは、やがて食堂全体を巻き込んだ大乱闘騒ぎへと発展する。その中でハーロックはイルミダス兵に囲まれて一時はいたぶられるが何とか逃げ出し、トチローは騒動に乗じてさんざん楽しんだ後にハーロックの元に現れ、このように声を掛けたのだ。
 この台詞の言い回しが松本零士キャラらしくて好きだ。今の気持ち、自己紹介、今後の行動、短い最小限の台詞を並べただけで特に気取らず、まだわざとらしくも大袈裟でもないあっさりした台詞で「トチローの自己紹介」を盛り上げる。
 もちろん、ハーロックも共に逃げることを告げ、今後しばらくは二人は同行することになる。この二人の物語の発端はこの台詞と言っていいだろう。
名場面 ハーロックとトチローの出会い 名場面度
★★★★
 ハーロックは食事を受け取り食べ始めるが、彼は近くのテーブルで地球の軍服を着た男が食事をまるで乞食のようにむさぼり食っているのを見つける。ハーロックはこの男の様を見て「お互い辛いな。解るぜ、お前の胸の内が。そうだ、今は黙って喰うしかない。俺たちは負けたが、滅びた訳じゃないからな」と同情の台詞を心の中で呟く。男が食事を終えると帽子を被り、ハーロックの元に近寄る。そして一升瓶をハーロックの元に置き、「死ぬなよ」とだけ呟いて立ち去る。これにハーロックは驚き、「お前に同情していたのにな」と呟く。この男こそトチローだ。
 松本零士SFワールドにおける名コンビと言っていいハーロックとトチローの出会いが本作で描かれる事になったのだが、そのシーンはこのようにして描かれた。敗北の悲壮感の中での食事シーン、ハーロックは慣れない食事に戸惑うが、トチローは周囲に構わずひたすらむさぼり食う。そのトチローの様子にハーロックは、その男から滲み出ている敗北の悲壮感というのを感じ取ったに違いない。敗北の中でも喰うことで次に繋ごうと必死の男の姿を見たのだろう。
 対してトチローは、むさぼり食いながらもハーロックが自分に気付いていることを見通している。トチローもまたハーロックの後ろ姿から「たった今負けて帰ってきたばかりの男」の悲壮感というのを感じていたはずだ。その悲壮感だけでなく、「まだ滅びていない」という次への期待を仄かに抱いているという共通性を二人は感じ取り、言葉も交わさずに通じ合ったシーンとして上手く再現されている。
 そして何よりも、この二人の出会いの場を単に食事が配給される「食堂」として描かず、居酒屋やクラブのような雰囲気にしたのも見逃せない。この名コンビが出会うシーンが味気ない食堂ではイメージが崩れるではないか、そういう意味でもここは設定面より画面背景を優先させ、またこの二人が強く結びつくきっかけとなる乱闘騒ぎの舞台としても相応しいようにこのように描いた点はとても評価出来ると思う。
研究 ・食事の配給
 ハーロックは司令部で食券を受け取り、これを利用して食事をするために居酒屋やクラブのような雰囲気を持った食堂に赴く。このシーンから劇中の地球における食糧事情が見えてくるのは確かだろう。
 ミーメがハーロックに食券を渡すとき、「地球の食料は底をついている」と力説する。つまりは劇中の地球では食料の自給自足ができていないか、自分達で作った食料をイルミダスに持ち去られているかのどちらかと見て良い。個人的には地球はイルミダスによる侵略戦争で疲弊し、食料の自給ができなくなったとみている。イルミダスの攻撃で農地なども荒廃し、農業が立ちゆかなくなっているのだろう。
 これはハーロックに支給された食事からも解る。画面で見ると中央に大きなパン、その脇には僅かな野菜と、何かの飲料だけだ。ここで中央に乗っている食べ物は「肉」にも見えるが、ハーロックやトチローが同じ物をナイフやフォークを使わず素手で食べていることを考えると、これは肉を焼いた物でなくパンと考える方が適切である。同じ食堂で女を囲っているイルミダス人は骨のついた肉を食べており、これを差し出されたトチローが必死になって奪おうとしたところを見ると、ハーロックやトチローのトレイに盛られていた物はパンと考える方が自然だ。もちろんイルミダス人が食べている骨のついた肉は、彼らにだけ配給されていると考えるべきだろう。
 つまり普通の人が夕食にパンと僅かな野菜だけしか食べられない事を思えば、地球の食料事情の悪さが見えてくるってもんだ。そしてイルミダス人が食べる肉は、彼らが母星から持ち込んだ物と考えれば彼らだけが食べていることに合点が行く。
 もちろんイルミダス人が地球の食料を横取りしているという考え方もできると思うが、それが示唆されるシーンがないので何とも言えない。ただそれが理由なら、ハーロック達はパンすら口にできないと思うがいかがだろう?

ハーロックとトチローは乱闘騒ぎからの逃亡に成功する。逃げた先でトチローがハーロックに銃を隠し持っていることを明かしハーロックと分け合うが、そこへ警備兵を連れたゾルが現れる。二人は銃を構えるが、先に撃たれてしまいゾルの手に落ちる。ハーロックとトチローは気が付くと、イルミダスの分析台に掛けられていた。そこで二人は、「先祖の記憶」を見せられる。
名台詞 「ハーロック! 死ぬなよ! 死ぬんじゃないぞーっ! ハーロック! 俺の子孫の血の続く限り、お前との友情は忘れない。忘れないからなーっ!」
(俊郎)
名台詞度
★★★★
 ハーロックの祖先であるファントム・F・ハーロック二世と、トチローの祖先である大山俊郎の友情物語(名場面欄参照)は、俊郎のこの台詞で幕を閉じる。命懸けで乗機と自身を救ってくれた俊郎に対しファントム・F・ハーロック二世が見せた友情、これにありったけの言葉で俊郎は応えた台詞だ。
 ファントム・F・ハーロック二世も語るように、二人が出会うには時が悪すぎた。戦争中でしかもお互いに祖国は敗北寸前の戦いを強いられている。それでもファントム・F・ハーロック二世は国のために戦い、大山俊郎は国のために照準機の研究をしている。その中での出会いはかくも短すぎ、そしてファントム・F・ハーロック二世は俊郎を救うため敵に取り囲まれる事態になってしまった。
 だからこの友情の恩返しは、自分達の世代では出来ないと俊郎は考えたのだろう。しかも相手は自分の愛読書「我が青春のアルカディア」著者であるファントム・F・ハーロック一世の息子。この縁を考えればまた子孫が出会うかも知れないと考えるのは自然だ。こうして俊郎はファントム・F・ハーロック二世に「遠い未来で逢おう」と約束したのだ。
 そして、その結果が本作でのハーロックとトチローの出会いとして描かれている。こんな事が実際にある得るかどうかではなく、物語の面白さで見ればとても印象的で、この台詞を小学生の時に聞いた事はハッキリと覚えていた。
名場面 友情 名場面度
★★★★★
 ゾルに捕まったハーロックとトチローが見せられたのは、第二次大戦中に二人の先祖が紡いだ友情物語だった。ドイツ軍のパイロットだったファントム・F・ハーロック二世は、アウトバーンに緊急着陸したところで日本人技士の大山俊郎と出会う。俊郎はハーロックの着陸時に輸送車が破壊されたことで行き場を失ってしまい、ハーロック乗機の胴体に潜り込み、戦場をくぐり抜けて中立国のスイスへ向かうこととなる。
 フランス空軍との空中戦を制したハーロックだが、気付くと友軍機はみな撃墜されていて自分一人になっていた。ハーロックは昇降舵の感触がおかしいことに気付くが、特にこれを気にせずにスイスを目指す。そしてスイスまであと僅かのところで、ファントム・F・ハーロック一世と同じように残り燃料が10分となり、川を渡ればスイスと言うところで燃料が切れて不時着する。
 ハーロックは急いで乗機から降り、俊郎が潜んでいる胴体部を開けて驚愕する。実は空中戦の時に昇降舵のワイヤーが切れていて、俊郎が自分の手足に切れたワイヤーを結びつけてワイヤーの代わりを果たしていたのだ。このため俊郎の手首や足首から血がしたり、半死半生の状態だ。「俊郎…お前が切れたワイヤーをその身体で…すまん、気が付かなかった」と声を掛けながらトチローを救い出したハーロックは、敵に囲まれつつあることに気付きながらも乗機のコックピットに潜り込んで、照準機「Revi C/12D」を取り外す。そして俊郎を背負って対岸のスイスに渡り、そこに俊郎の身体を寝かせる。「俊郎、これを持って帰れ」とハーロックは「Revi C/12D」を俊郎に渡す、「これはお前の…」と俊郎が言い掛けると「信じられる本当の男になら、本当の友達になら、目でも心臓でもくれてやる」とハーロックは静かに応える。そして「Revi C/12D」を俊郎に手渡すと、「お前はどうするんだ?」俊郎が問う。「俺は安全地帯に逃げ込むわけにはいかない」とした上で、「夢を見捨てるなよ、何処までも生きるんだ。下らない戦争の終わりにお前に巡り会えて良かった。違う時代に出会いたかった」と語り、肩を撃たれながらもハーロックは元いたドイツに向けて歩き出す。スイス側で名台詞欄の台詞を叫ぶ俊郎。
 ファントム・F・ハーロック二世は俊郎を逃がすために空中戦の後スイスへ向けて飛ぶが、最初はそれだけの話だったに違いない。いや、彼は俊郎と妙に気が合うことには気付いていたが、それでもそれだけの話で終わるはずだった。
 だが俊郎はハーロックの乗機が被弾し、昇降舵のワイヤーが切れたと知ると素早くこれに対処してハーロックを救う。しかもそれが自分の身体を張ったやり方だったからこそ、彼に取って俊郎が「単なる友人」では無くなった。自分のために身体を張ってくれる男…それこそがハーロックの心を掴んだのかも知れない。彼は「自分の目」であった「Revi C/12D」を俊郎に譲渡するが、この時の台詞にハーロックの思いが全て込められている。
 俊郎にしてみれば、行くあてもなく見知らぬ国で野垂れ死ぬところだったところをハーロックに救ってもらった形だ。昇降舵ワイヤーが切れたときに「自分に手をさしのべたこの男を死なせてはならない」と感じたのは確かだろう。彼のその恩が「自らがワイヤーの代わりになる」という身体を張った対応に繋がった。そしてハーロックから渡された「Revi C/12D」が彼が何よりも大切にしていることを知っている。その宝物を自分に譲られたことで、ハーロックがその行為に対してどれだけ感謝し、それによってどれだけ自分を信用したかを知る。
 だが二人に出来る事は、名台詞欄に書いた通りこの友情を後生へ…つまり子孫へ受け継ぐことだけだっただろう。ここで出てくる「Revi C/12D」という照準機は、今後の物語においてハーロックとトチローの友情を結ぶだけでなく、照準機そのものも伏線として活きることになる。そこへの物語にこのような展開は、本作を大きく盛り上げる要素のひとつであり、私も小学生時代に映画館でこのシーンを見たことをハッキリと覚えていた。
研究 ・「Revi C/12D」
 本作におけるハーロックとトチローの友情を結ぶキーワードであり、劇中でも重要な役割を持つ物がファントム・F・ハーロック二世が「自分の目」と称していた照準機「Revi C/12D」だ。
 照準機とはご存じのように、銃で相手を撃つ際に狙いを定める装置である。もちろん戦闘機にも着けられており、戦闘機の場合は機体に装備されている機銃の狙いを定めるべくコックピットの前方に着けられている。
 この中でも本作に出てくる「Revi C/12D」という照準機は、「光像式」と呼ばれるタイプである。ハーフミラーを用いて前方のガラスパーツに無限遠の照準を投影するものだ。このタイプの方式は照準機だけでなく、操縦席のフロントガラスに速度などの情報を投影する「HUD(ヘッドアップディスプレイ)」も同じ原理の物だ。もちろんHUDに照準を投影すればそのまま照準機となる。
 この光像式の照準機は第一次大戦と第二次大戦の間に開発され、実用化された。それまでの戦闘機用の照準機は一般的な銃と同じ「眼鏡式」と呼ばれるもので、要は筒状の穴を覗き込むタイプの照準機であった。この「眼鏡式」は狭い戦闘機のコックピットに対して大きすぎることと、何よりも航空機を操縦しながら照準機を覗き込む動作の困難さが問題になっていた。そこで前方のガラスパーツや、フロントガラスそのものに照準を投影する光像式が開発された。
 光像式の照準機は第二次大戦中に著しい進化を遂げ、目標の予想進路を表示する物などが実用化されている。照準機の開発はそのまま航空戦の勝敗を決するため、日本の技士が照準機開発のためドイツに派遣されたという設定は不自然ではない。
 そしてこの「Revi C/12D」は、第二次大戦中の照準機の中でも「名機」とうたわれているが…なんで名機なのかは調べてみたけどよくわからなかった。この照準機の簡単な取扱説明がこのサイトにあるので、興味のある方はご覧になると良いだろう(勝手にリンクを貼っていますので、問題がありましたらリンク解除します)。

…1000年も昔の過去を見せられたハーロックとトチローの元に、ゼータとトライターが現れる。そこでトライターはハーロックに「トカーガ星を殲滅するための地球人義勇兵を輸送」を命じるが、ハーロックはこれに反論。その会話を遮るように一隻の宇宙船が荒野に舞い降りる。
名台詞 「トカーガを絶滅させるのか? 抹殺するのか? いったい誰がその星を無用だと決めるんだ? 誰にとって無用なんだ? 生きているものには、全て生きる価値がある。トカーガを滅ぼす役目を地球人が負おうというのか? 地球人のこの手で…貴様、クズだ!」
(ハーロック)
名台詞度
★★★
 ハーロックとトチローが語り合っているところに現れたトライターは、トチローに席を外させた上でトカーガ星殲滅のための義勇兵の輸送任務に就くよう命じる。もちろんこれにハーロックは反論するが、トライターは「今の君は母か野良犬のどちらかを殺さねばならない」と迫るとハーロックは「地球が母でトカーガが野良犬だというのか?」と問うと、トライターはこれを肯定した上で「イルミダスにとってトカーガの役目は終わった」と告げる。これを聞いたハーロックが、厳しい口調でこう反論する。
 ハーロックの言うことは正論だ。宇宙の何人にもある惑星の生命や、惑星そのものを絶滅させる権利なんか持っちゃいない。そして地球人にもトカーガ星を滅ぼす理由なんかない。この宇宙のあちらこちらで多くの人々が歯を食いしばって生きているはずであり、この人達を一方的に滅ぼすなどできないはずなのだ。
 なのに目の前の地球政府の代表は、惑星ひとつ破壊してこいと言う。その理由として出てくる言葉は「地球人の正義」ではなく、後にいるイルミダス人のゼータが言いたいことそのままなのだ。ハーロックの怒りはこのトライターという人物に「自分」が無いことに対する怒りだろう。今になってこの映画を見るとそう感じる。
 この台詞に対して、トライターは「地球がトカーガを滅ぼせば地球の安全は保証される」と嘯いた上で、「他の星を助けて地球を滅ぼすことはクズではないのか?」と問う。このトライターの言い分も解る、だがそれでは「自分達が助かるためなら他人はどうでも良いのか」という論になって行くだろう。こう突き付けるトライターにハーロックの喉まで出掛かった言葉は、「イルミダスを討てばいい」なんだろうと私は思う。
名場面 エメラルダス登場 名場面度
★★★★
 ハーロックとトライターの口論を遮るように、一隻の宇宙船が荒野に不時着する。その不時着した宇宙船をトチローが訪れると、荒野を吹く風に長い髪をなびかせる女性の後ろ姿が現れる。トチローがこれに気付き振り向くと、「私はエメラルダス、宇宙自由貿易人。私は正規の許可証を持った貿易人。誰の敵でもない、誰の味方でもない、宇宙の自由貿易人。あなたは誰?」とこの女性が語る。トチローは自分の名を名乗り、ここへ来た用事を「友達を捜している」とする。
 いっやー、このエメラルダスの登場はカッコ良すぎ。夕日をバックに足下からゆっくり顔へと画面が変わる登場は、ハーロックワールドを盛り立てる主要キャラの一人としての貫禄十分といったところだ。そしてゆっくりとしつつも威厳のある口調は、「女海賊」らしい雰囲気を強く漂わせている。その後のトチローとのシーンでもエメラルダスは逆行で描かれ続け、その格好良さをアピールする。ホント、エメラルダスって「カッコイイ女性」であり、このシーンはそれらしい。
 そしてこのシーンは、劇中の時代設定がこの後の時代となる「銀河鉄道999」でエメラルダスが「身も心も捧げた人」とされるトチローとの出会いだ。設定上この二人は今後は恋仲にならねばならず、その出会いは印象的でなければならない。だから敢えてここにはハーロックを描かず、エメラルダスとトチローだけのシーンにしたと考えられるのだ。
 この印象的な「出会い」は、子供の頃に映画館で見たのをハッキリ覚えていた。二人の会話の内容も良く覚えていたと我ながらに思う。
研究 ・宇宙自由貿易人
 いよいよエメラルダスが登場し、本作で主要=ハーロックワールドの主要キャラが全員集合したと言ったところだろう。もちろんこの映画は「ハーロックワールドの幕開け」を描いているので、全員が全員で海賊をしているわけではない。ハーロックやトチローは軍人としての立場で出てきているし、ミーメはイルミダスの秘書だ。そしてここで出てきたエメラルダスは、「宇宙自由貿易人」という立場だ。
 この「宇宙自由貿易人」というのは、文字通り宇宙をまたに掛けて幅広い貿易をしているのだろう。何処かの文明のある星で物を買って、それを別の星で売りさばく、恐らく「貿易」というより「行商」に近いものがあると考えられる。この「宇宙自由貿易人」は許可証がいるようで、この許可証を発行しているのは劇中で広く宇宙を支配しているイルミダスと考えられる。イルミダスがこのような貿易人を一定数配置することで、支配地域の物流を促して経済活動を活発化させているのだろう。
 この許可証を得ると、何処の星の人種にも関わらず「貿易」の名の下に宇宙を自由に航行出来るようになるのだろう。恐らくそのためには「貿易」の実績をイルミダスに上げる必要があると考えられ、一定数の成果がなければ許可証が剥奪される等のペナルティがあると考えられる。
 ではエメラルダスがなぜこのような「イルミダスの手先」みたいな行動をしているか、という問題だ。エメラルダスは「松本零士ワールド」に於いては地球人で無いことはハッキリしている。母はプロメシュームでメーテルと姉妹、プロメシュームとは袂を分かったという「後付け」のような設定があるのだ。つまり彼女は惑星ラーメタル人であり、メーテルと同じように母によって長寿命が与えられている可能性がある。
 つまりだ、その長い人生の中でエメラルダスがこの時代を「誰の支配も受けず」に生き抜く唯一の手段が「宇宙自由貿易人」の許可を取ることだったのだろう。この資格を得なければ宇宙を航行するのにいちいちイルミダスの許可を取らねばならないという厄介な時代なのだと思われる。そこで彼女は許可証を取り、「貿易」の名の下に大宇宙を航行しているのだと考えられる。
 だが許可証もタダでは無い、恐らく「貿易」の実績があるからこそ許可証を持ち続けられるのだろう。だから彼女は「表向き」だけの貿易活動をしているはずだ。故郷であるラーメタルに生活物資を運んでいるのかなぁ。
 もちろん、この解釈であれば彼女の「宇宙自由貿易人」になる前の職業は、「女海賊」のはずだ。

…イルミダスが地球政府にトカーガ殲滅を命じたことは、ミーメがゾル達トカーガ人に報せていた。一方のハーロックは、再び「自由アルカディアの声」の主の元へ赴きここで銃撃戦の末に恋人マーヤに再会するが、この銃撃戦で右目を失う。右目を失ったハーロックは這う這うの体でクイーンエメラルダス号を訪れる。
名台詞 「俺は「犬」だった、一族の命乞いをするための「犬」だ。イルミダスの手先となって戦う「犬」だ。星に残った人々が、再起の日を信じて歯を食いしばっている。俺たちがいつか助けに戻って来ることを信じて、イルミダスの下で息を潜めている。目を瞑ると俺には見える、俺のまだ幼い弟や妹が、俺の帰る日を祈って歯を食いしばっている姿が、生きて帰れと祈っている姿が。トカーガへ行ってくれ、頼む。」
(ゾル)
名台詞度
★★★★
 名場面欄シーンを受け、ゾルは「これはトカーガの問題」とし「その船を俺たちに貸してくれ」と要求するが、トチローは「俺がいないと動かせない」としてこれを断る。ミーメがゾルを説得する、「あなたの代わりに私が行く、だからハーロック達にトカーガへ行ってくれと頼んで」「その間、イルミダスに忠誠を尽くす振りをして、バクテリアのようにイルミダスを内部から食いつぶしてくれ」と。ゾルが「俺が地球にいるバクテリアになるのか?」と問うと、ハーロックは「そして、俺たちがトカーガのバクテリアになる」と静かに返す。するとゾルは涙を流しながらこう訴え、最後はトチローの前に土下座して頼む。
 これまで味方なのか悪役なのかよくわからないまま描かれていたゾルの、故郷を後にしてきたときの思いが語られる。これでこの作品を観ている人はゾルは悪役ではなく、これまで悪役を演じてきた味方と判断するし、彼にも守るべき故郷や家族がいること、そしてその守るべきものが巨大な敵であるイルミダスに消され掛かっている立場であることを理解する。
 そしてこの台詞に多くの人が「自分の守るべきもの」を思って感動したかも知れない。そして劇中にもこの台詞を聞いて感動した男が一人、トチローだ。トチローはこの台詞を聞いて星飛雄馬ばりの涙を流し、ゾルの「頼み」に対して言葉にならない頷きに続いて肩を抱いてこれに応えるのだ。こうしてハーロック達がゾルの依頼でトカーガへ赴くという「アルカディア」号最初のミッションが決定し、この成功を祈って一同はトカーガ星の乾杯を交わすのだ。
名場面 船はある 名場面度
★★★★
 マーヤが「自由アルカディアの声」を通じてハーロックに充てた言葉は、平たく言えば「こんな地球にあなたはいるべき人ではない」という内容であった。これを聞いたハーロックはエメラルダスに地球を脱出するために「船を奪わせてくれ」と訴えるが、ここでゾル達トカーガ人警備兵が現れる。そしてミーメが説明する、ゾル達は滅ぼされる運命にあるトカーガに帰るために「クイーンエメラルダス」号を奪いに来たと。ミーメは自分の母星がイルミダスによって消されたこと、そしてこれはいつかは地球にも巡る運命であるとし、ゾル達をトカーガに行かせてやれと力説する。エメラルダスは「この船はトチローが修理してくれなかったら捨てるしかなかった」として、これに同意するがこれをトチローが制止する。「クイーンエメラルダス」号を使えばエメラルダスの立場が危うくなるだけでなく、ゾル達がいなくなった事でイルミダスはすぐにトカーガ殲滅を実行するとし、「別の船で行こう」と言う。そしてトチローはハーロックに「ゾル達の代わりに俺たちがトカーガへ行こう」と言うと、「俺は待っていた…ずっと待っていた…俺の宇宙船を動かす日を」とトチローは涙を流しながら一人呟く。そしてハーロックに「俺の船を託すに足る船長を捜していた」と告げると、ハーロックとトチローは子供のようにはしゃいで喜ぶ。
 このシーンでやっと「アルカディア」号の存在が示唆される。トチローがどうやって一人で宇宙船を造ったのかという問題はさておき、トチローがハーロックに自分が作った宇宙船の存在を明確にし、その船長についてハーロックが適任と告げる事でいよいよ「アルカディア」号を主役艦とした「キャプテンハーロック」の物語が始まる。
 その発端はひたすら涙を流すトチローであるが、彼がどんな思いを込めて宇宙船を造ったかはこのシーンから色々と想像出来るだろう。「犬」に成り下がった地球からの脱出、そして自分の守るべきものとして地球を守ること。何よりも自分達を「犬」程度にしか感じていない侵略者への反抗心…これらの思いが全て交錯していたに違いない。
 そして宇宙船があると知ったハーロックは、トチローとはしゃいで喜ぶシーンはハーロックらしくなくて好きなシーンだ。トチローはトチローらしく、ハーロックはハーロックらしくなくというこのバランスがこのシーンをとても印象的にしたのだ。
研究 ・トカーガ星1
 ここからしばらくの物語の舞台はトカーガ星だ。ゾル達の故郷であり、劇中の地球と同じようにイルミダスに占領され支配されているという設定だ。
 物語を追っていると、トカーガ星は地球の直前にイルミダスの侵略を受けたことは理解出来る。そして占領された後にゾル達はイルミダスに忠誠を尽くす振りをしていつか挽回するために、イルミダスに送られた「戦士」なのだろう。こうしてゾル達はイルミダスの義勇兵の扱いとしてイルミダス軍に同行し、イルミダスがトカーガの直後に占領政策に入った地球の占領部隊となったのだろう。彼らの担当は地球の元軍人の監視等であると考えられる。
 さらにいえば、ミーメが生まれた星はトカーガよりかなり前に占領されたと見て良いだろう。ミーメの星は破壊され、難民船で逃れた一部がイルミダスに保護される形だったと考えられる。ミーメはゼータ配下の秘書となり、ゼータとともに宇宙を行動し、地球占領軍司令となったゼータと共に地球へ来たと考えるべきだ。もちろん、ミーメの本当の狙いは「自分の星のような悲しい体験を他の星にさせないこと」で、地球ではゾル達にイルミダスのトカーガ星に対する政策の情報を送る役割だったと思われる。
 さて、トカーガ星であるが、今回台詞から断片的に彼らの星の文化や生態系が見えてくる。まずトカーガ星には地球と同じように豊かな生態系があることで、彼らの星にも地球の「犬」に相当する哺乳動物と、「バクテリア」に相当する菌類が存在するのは確かだ。でないと今回の会話はかみ合わないだろう。
 そしてトカーガ人にも「酒」というものが大事な席では欠かせないという文化があることも確かだ。信じ合う者同士が酒を酌み交わして語り合うことの大切さ、何よりも人と人とのコミュニケーション手段として「酒」を利用しているのは確かだ。その証拠が「ゴーラム」という「乾杯」の掛け声が存在する事であろう。
 「酒」については、原作漫画ではミーメが生まれた星では主食とされている。だからミーメは酒を呑んでも酔わないという設定で、酒をがぶ飲みするシーンが何度も出てくる。しかし酒が主食では、人と人とのコミュニケーション手段は何が持っているのかな?

…イルミダス占領軍司令部付近で勃発する地球人による大規模な反乱、これを攪乱する「クイーンエメラルダス」号。この中でハーロックとトチローは旅立ちの時を迎える。そんなとき、マーヤは配下の者に「ハーロックに届けて欲しい」とトランクを手渡す。
名台詞 「遠い祖先からの夢を、俺が満たした船だ。名付けてアルカディア号。我々の乗る船の名は、アルカディア号をおいて他にない。これが俺たちの船だ。そうだ、歴史上の技術的遺産を受け継いで、俺が作ったこの船は俺の分身だ。ハーロック、この船はお前と俺の夢を果たす船だ。」
(トチロー)
名台詞度
★★★★★
 ハーロックら一行がトチローの案内で地下を走り回り到着した場所、それは宇宙戦艦の艦橋であった。そこでハーロックが「これは…?」と問うと、トチローはこう答える。
 この台詞でハーロックが乗るこの船が「アルカディア」号と名付けられた。そこにはハーロックとトチローの先祖による厚い友情物語の中でハーロックが乗っていた乗機の名であり、また二人が大事に持っていた本の著者「ファントム・F・ハーロック一世」の愛機の名前を、その遠い子孫の自分達が引き継ぐときが来たと感じているのだろう。恐らく、トチローは「アルカディア」号建造時にはこの名をつけるつもりでいたに違いない。まさかファントム・F・ハーロック一世の子孫をこの船の艦長にする運命にあるとも知らず。
 そしてトチローは言い切る。「歴史上の技術遺産」=「自分が知る技術の全て」をぶち込んだこのは自分の分身であり、自分そのものであると。トチローが夢見ていたのはこの船で大宇宙を旅するときだろう。そして自分が信じるもののために戦い、自分の信じる世界を作る…トチローがハーロックと実現させようとしている夢そのものが自分自身であり、だからこそこの船を動かすのは自分自身でなければならないのだ。
 その彼らの夢、それこそが「理想郷(アルカディア)」であり、この船の名前にそんな意味が込められているのは20代になってにこの映画を見直したときだ。子供の時にこの台詞を聞いた記憶はあり「深い」と感じたけど、聞けば聞くほどこの台詞は味があると思う。
 そして、今は亡き名声優、富山敬さんの台詞の中で最も印象に残っている台詞のひとつだ。
名場面 アルカディア号発進! 名場面度
★★★★★
 「カタパルト上昇角40度、バランス正常、全回路シールド排除、武装システムへの動力回路セーフティ・オフ、シリンダー内振動数毎秒3億6千万全て正常、推力伝導菅閉鎖弁解除、人工重力発生開始、ライフルレーダー入力・オン、スロットル微速前進から全開へ…」…トチローの声が流れると「アルカディア」号のエンジンは青い火を噴き出す。そこへハーロックの足下だけが登場し「アルカディア号、発進!」の掛け声が掛かる。すると「アルカディア」号は力強く動き出し、イルミダス占領軍司令部の地面を突き破って宙へとジャンプする。そしてそのまま地球大気圏外まで飛行する。
 もう言うことはこれだけ。「アルカディア」号、カッコ良すぎ。この離陸シーン、子供の頃に映画館の大スクリーンで見て感動した。途中で「クイーンエメラルダス」号と行き会うシーンなんかもうサイコー。このシーンだけでご飯3杯行けるよ。
感想 ・「アルカディア」号建造について
  物語を半分消化したところで、やっと主役艦「アルカディア」号が画面に登場する。この登場シーンもその直前のトチローの台詞もとても印象深く、ここは前半のヤマ場と言って良いところだ。
 だが、子供の頃から気になっていることがある。それはトチローが「この船は俺が作った」と言い切っていることだ。「アルカディア」号と言えば誰が何と言っても巨大宇宙戦艦、全長500メートルに及ぶこまの巨大戦艦を、どう考えてもトチロー一人で作ったとは思えないのだ。
 もちろん、この解釈はトチローの言う「作った」というのを「設計」だと受け取れば簡単に解決する。これ以上のツッコミは子供同士が「大阪城を作った人は?」「大工さん」と言い合っているのと同レベルになるかも知れないが、モノが巨大なだけにこの部分はどうしても気になって仕方が無い。
 もちろん、劇中設定を全て無視すれば、トチローが実はものすごい資産を持っていて(例えば技術的な特許でボロ儲けしたとかならキャラクター設定上あり得るだろう)、これで人を雇って建造したと解釈することも可能だ。だが劇中の地球は異星人の侵略を受けており、地球人の行動などは制限されている。銃一丁持つのが困難な事はトチロー自身が示唆しており、このような状況の中でコッソリ宇宙戦艦を造るなんてどう考えても無理があるのだ。
 だから私の解釈として、前段で語ったように「トチローに資産がありこれで人を雇った」というのは間違いないと見ている。そしてイルミダスの問題だが、敗戦前に「アルカディア」号が完成していたと見るべきだ。そして地下深くに隠してあった「アルカディア」号は、イルミダスにも発見されずトチローがハーロックと出会う日まで見事隠され続けた。こう解釈すべきと思う。
 もちろん、トチローの下で建造に関わった人がイルミダスに密告しているかも知れない。そこは建造場所と隠し場所が違うという解釈も可能だ。つまりトチローは完成してから一度「アルカディア」号を動かしたと考えるのだ。試運転などもしなければならないしこう考えるのはごく自然であり、試運転後に今の場所に隠されたと考えるのだ。
 いずれにしろ、この「アルカディア」号は松本零士御大のSFの骨格を成すと見て良いだろう。この劇中での誕生を想像することはとても楽しい事だ。本当に御大は面白い物語を考えてくれたと思う。

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