「あにめの記憶」過去作品・22

「わが青春のアルカディア(劇場版)

・「キャプテン・ハーロック」について
 子供の頃の私の胸をときめかせたSFと言えば、何と言っても松本零士御大の手による作品群だろう。「宇宙戦艦ヤマト」(旧作)も御大が製作に深く関わっていたのは言うまでも無く、その後に出てきた「銀河鉄道999」は、小学生低学年の頃の私を夢中にさせた。
 同じ頃、「999」だけでなく「キャプテンハーロック」のテレビアニメも放映されていた。地球を侵略する異星人マゾーンとハーロック戦いを軸とした物語を、兄と一緒にテレビで観ていた記憶が今も残る。同時期に原作漫画も連載されていたが、私がこれを読んだのは10年位前のことだ。
 そして松本零士のSF作品は、「ハーロック」を中心としてひとつの世界観で繋がれることになる。劇場版「銀河鉄道999」ではハーロックだけでなく、エメラルダスやトチローも登場して「キャプテンハーロック」の設定の一部として位置付けられることになる。ハーロックの乗艦である「アルカディア」号のコンピュータに「心」として乗り込んでいるトチローの「死」と、魂が「アルカディア」号に宿る過程がこの作品で描かれた。
 そして、このハーロックを軸とした物語の集成大として1982年夏に公開された映画が、今回考察する「わが青春のアルカディア」である。本作ではハーロックが登場した各作品より前の時代を描くこととし、ハーロックが宇宙海賊になる過程が描かれている。その中でハーロックとトチローの出会い、「アルカディア」号に乗り込む過程、ハーロックやエメラルダスの額の傷について、さらにはハーロックとトチローの先祖の話にまで物語は及ぶ。この中には原作やテレビアニメ「キャプテン・ハーロック」から設定を大きく変えたトカーガ人のゾルとその仲間も出てくるし、何よりもハーロックの恋人であるマーヤというキャラクターが出てきたのは興味深い。
 本作と同タイトルの松本零士御大の漫画が「戦場まんがシリーズ」に存在するが、本作とはその内容は大きく違う。こちらでは本作で「ハーロックの先祖」として出てくるファントム・F・ハーロック二世が主人公の第二次世界大戦が舞台の作品だ。また同じ「戦場まんがシリーズ」の「スタンレーの魔女」という作品も、本作の出展のひとつだと言われている。その他「ガンフロンティア2」などの中編・短編の漫画のエピソードをいくつか拾って、オリジナルエピソードと共に物語としてまとめて本作としてまとまった。
 冒頭ではスタンレー山脈越えに挑むハーロックの先祖であるファントム・F・ハーロック一世が登場するが、この声に起用されたのはあの石原裕次郎である。たった5分程の出演のため、莫大な出演料が掛かったことで本作は話題になった。だがその高額の制作費とは裏腹に、本作の興行収入は予想を大幅に下回ってしまった。また、本作の続編としてテレビアニメ「我が青春のアルカディア 無限軌道SSX」が放映されたが、こちらも視聴率が振るわず途中打ち切りの憂き目をみる。この失敗で予定されていた「クイーンエメラルダス」の映画化は中止となり、「無限軌道SSX」の放映打ち切りで本作では先延ばしされた企画がいくつか日の目を見ることがなくお蔵入りになったとされている。「無限軌道SSX」ではメーテルとハーロックの出会いについて描かれる筈だったらしいが…。いずれにしろ本作が公開された時期が「ガンダム」劇場版3部作の直後だった事を考えると、人々が求めていたSFアニメは松本零士の世界ではなく、「ガンダム」の続編だったというのが答えだったと考えられる。
 本サイトでは、この「わが青春のアルカディア」の劇場公開版について考察し、松本零士作品の魅力を伝えられたらと思っている。


・私と「わが青春のアルカディア」
 前述したように、私が小学生低学年の頃に「キャプテンハーロック」のアニメを見ていた事もあり、このキャラクターや物語の展開は心の片隅にあった。だが私が「ハーロック」や「アルカディア」号について本格的に興味を持ったのは、劇場版「銀河鉄道999」を見てからだ。「銀河鉄道999」は後日のテレビ放映を、「さよなら銀河鉄道999」は劇場でそれぞれ鑑賞し、ハーロックの生き様や男らしさ、なによりも主人公・星野鉄郎のピンチには必ず現れてこれを助ける格好良さに心を惹かれたものだ。
 そして私が小学6年生の夏休みに「わが青春のアルカディア」が公開されることになり、このアニメに関しては興味があったのは確かだ。夏休みに入りたての頃に東急電鉄が走らせたイベント列車「アルカディア号」に家族で参加し、原作者の松本零士御大と握手できたのは今でもハッキリ覚えている。またイベント列車の目的地である「こどもの国」では、本作に出演した役者さんも交えてのイベントもあり、楽しい一時を過ごしたものだ(このイベントが台風の大雨か何かで1日順延になったのも記憶している)。
 そしてお盆の頃に兄と二人で新宿の映画館に足を運んで、「わが青春のアルカディア」を鑑賞した。子供だった私としては、物語の内容よりもカッコ良く描かれた「アルカディア」号や「クイーン・エメラルダス」号等の艦艇に惹かれた記憶が残っている。もちろん、物語の内容にも圧倒されたけど。映画が終わった後は主題歌をさんざん口ずさんでいたよなぁ。
 その後、この映画をなかなか見直す機会が無かったが、90年代半ば…つまり私が20代半ばの頃にNHKのBSでテレビ放映されたのを視聴したことで再会出来た。この時には物語の内容をほぼ理解出来たこともあって、その世界観の奥深さや悲壮感なども理解することができた。何よりも冒頭の「スタンレー越え」や、その後のハーロックとトチローの先祖の出会いの物語などは、子供の理解を超えている内容でもあっただろう。
 そして今年、フルCGアニメとして「キャプテンハーロック」が映画館に帰ってきた。私もこの映画を鑑賞し、設定の大幅変更があったとはいえその世界観が失われていなかったため、この映画を見た後に無性に見たくなった映画が「わが青春のアルカディア」だったというわけだ。今回この作品を取り上げたのはこんな理由であるのだ。

・「わが青春のアルカディア」の登場人物

ハーロックとその関係者
ハーロック 物語の主人公、本作では若き日のその姿であり、物語途中まで顔の傷はない。
 …日本のSFアニメ界で最もカッコイイ男だと私は信じている。だが言うことがいちいち大袈裟なのが今の若いのに受け入れられないかも?
トチロー ハーロックの偉大な親友。何事にも抜け道があると言って、「アルカディア」号という宇宙戦艦まで造ってしまう。
 色んな意味で本作で最も松本キャラらしいキャラクター。御大が描く「天才像」は彼であるが、外観が愛らしくて好きなキャラだ。
エメラルダス 松本作品ではお馴染みの女宇宙海賊だが、本作では「宇宙自由貿易人」という、どの陣営にも属しない一匹狼として登場。
 …ハーロック同様、他作のエメラルダスより若く、顔に傷がない。処刑台に張り付けられたシーンでは胸チラも…。
マーヤ ハーロックが生涯唯一愛した女性で、「自由アルカディアの声」というラジオ放送で地球市民に希望を与え続けている。
 …赤いバラがトレードマーク、ハーロックのドクロの服は彼女が作ったと言うが…劇中ではそんな暇があるように見えなかったけどなぁ。
ラ・ミーメ ハーロックを心より信頼する異星人の女性。本作ではまずイルミダス高官の秘書として登場、トカーガ人に情報を横流しする。
 …本作ではドロンジョ様の声じゃないのね。本作のおかげで、原作漫画で描かれたハーロックとの出会いがなかったことに…。
トリさん 常にハーロックの肩にとまっている首の長いトリだが、本作では新たに「トカーガ星出身の鳥」という設定となる。
 …喋る台詞が、後述のミラと同じというのも…。。
ファントム・F
・ハーロック一世
ハーロックの先祖で、第一次大戦の時代に複葉機で前人未踏のスタンレー山脈越えに挑むが…。
 …ついに当サイトでも、あの石原裕次郎演じるキャラクターが出てくるとは…。
ファントム・F
・ハーロック二世
ハーロックの先祖で、第二次世界大戦でドイツ空軍エースパイロット。「Revi C/12D」という照準機を「自分の目」として愛用。
 …さすがにこちらはハーロックの声、てーか第二次大戦の戦場にハーロックがいればこんな感じなのだろう。
大山 俊郎 トチローの先祖で、第二次大戦時の日本の技術者。照準機開発のためドイツを訪れ、ハーロックに出会う。
 …先祖でもトチローはトチローってとこですな、ハーロックの乗機を救うべく身体を張ったシーンは見ているだけで痛そう。
トカーガ人とイルミダス人
ゾル トカーガの戦士で、イルミダスの命令で地球人を統治をしている。だがハーロックと手を組み、母星のために立ち上がる。
 …原作のゾルは非人間的な生物だったが、今度はカッコイイ人間として再登場。最初は嫌な奴だったけどな…。
ミラ ゾルの妹で、滅亡寸前のトカーガ星からトリさんとともにハーロック達に助けられるが、瀕死の重傷であった。
 …「ゾル兄ちゃん、早く助けて…」の台詞しかないが、それが耳につくと離れない。声はペリーヌ。
ゼーダ 地球にいるイルミダスの司令官で、ハーロックの前に立ちはだかる壁となる。だが根っからの悪人ではなく、勇士の一人だ。
 …役柄の割にはあまり存在感がないけど、最後の艦決戦では圧倒的な存在感を示した。
ムリグソン ゼーダのお付きの高官、いつも的確な判断をするゼーダに対し、強硬案ばかり出して却下される。
 …声が真田さん(by 宇宙戦艦ヤマト)ってだけで、終わってみると記憶に残らない敵キャラ。
トライター首相 イルミダスの傀儡政権に成り下がった地球政府の首相、良い意味でも悪い意味でも人格が無く、「能なし」を演じきる。
 …あんな政治家がトップに立ったら、その上で支配する側はやりやすいだろうな…。

2013年12月15日総評公開
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