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…「アルカディア」号が地球大気圏外に出ると、イルミダス占領軍からの映像通信が入って来る。その内容は停船命令と帰還命令であり、帰還しない場合はマーヤとエメラルダスを銃殺するという内容であった。
名台詞 「トチロー、俺たちの旗を上げよう。そうだ、俺たちの旗を、だ。」
(ハーロック)
名台詞度
★★★★
 名場面欄で起きた事の成り行きを見届けたハーロックは、そしてトチローに向けて静にこう呟く。
 「アルカディア」号に掲揚されるドクロの旗、この深い意味を知るシーンはこの台詞だと言って良いだろう。「アルカディア」号の船出のために深い友情を交わしたゾルが生命を落とし、ハーロックの恋人であるマーヤも助かるとは思えない深手を負っている。それだけでない、多くの地球人やトカーガ星人がこのためにイルミダスの銃弾に倒れてしまった。こうした哀しみを込めて掲げたのが「アルカディア」号のドクロの旗であり、その哀しみと同時に自分達の存在を誇示するための旗であることも言うまでも無いだろう。
 この台詞には、そんなハーロックの思いが上手く再現出来るよう短い台詞が選ばれていてとても印象深い。余計な事が何も語られていないと言う点では、この台詞は大好きだ。
名場面 ゾルの最期 名場面度
★★★
 ハーロックが「アルカディア」号で地球を脱出しようとしている事態に対し、イルミダス占領軍はマーヤとエメラルダスを人質に取るという戦法を採る。明朝までに戻らねば2人を銃殺刑にすると迫るトライター、これを聞いて涙を流して驚くトチロー。だがハーロックは口を開かず事の成り行きを見守るだけだ。そして処刑場の夜が明けていよいよ二人が銃殺される…と思った瞬間、どこからともなく銃声が聞こえ銃殺隊の構えが解かれる。反乱を起こしたのは…ゾル達トカーガ星人達であった。
 銃殺隊とトカーガ星人の激しい銃撃戦の中、処刑場にいた地球人も反乱を起こして大混乱となる。この映像を見てもハーロックは黙っている。やがてトカーガ星人達がマーヤとエメラルダスの拘束を解くが、この際にムリグソンが撃った銃撃がマーヤに直撃しマーヤは重傷を負う。そして倒れたマーヤを庇おうとしたエメラルダスが顔をムリグソンの銃弾がかすめ、彼女の顔に傷が入ることになる。倒れる二人の女性に怒りを露わにしたゾルは銃を撃ちながらムリグソンに迫るが、背後にいたトライターに撃たれてその場に倒れてしまう。「さらば、友よ…約束を果たせなくて…すまん」…ゾルは最後の力を振り絞ってこう語ると、そのまま絶命する。
 「アルカディア」号の船出は、マーヤとエメラルダスというハーロックの恋人と盟友が磔にされるという危機により頓挫し掛かる。だがハーロックはイルミダスの言うままに戻ろうとはしないのは、誰が見ても予想通りであろう。もちろん船を進めもしない。彼は落ち着いた顔でいつつも、イルミダスの汚いやり方にはらわたが煮えくりかえる思いでいたに違いない。その上で彼はこの事態がどう決着しても決着をみてから地球を立ち去ろうと考えていたに違いない。
 そして事態は「ゾル達トカーガ星人の反乱」という方向へ流れるが、これをハーロックは予想していたと考えられる。ここまでに築き上げられたハーロックとゾルの友情により、ゾルはこのハーロックにとっての大きな危機に助け船を出さぬはずがないのだ。それが本当の男であり、友情であるとハーロックのゾルも信じていたのだろう。
 だからゾルは銃を取った。自分達のためにトカーガ星へ行き、少しでも多くの同胞を助けてくれるはずのハーロックのために。こんなゾルの心意気が伝わってくる印象的なシーンだ。
 そしてゾルは生命を落とすが、彼はそれで後悔はしていないだろう。何よりも友との約束を果たせなかったことだけが心残りではあるが、それも友情のため仕方が無いと思っていただろう。
 余計な事だけど、このシーンではずっとエメラルダスの胸がはだけたままで、「中身」が見えそうで見えなくて気が気でなくてストーリーが頭に入らなかった人も多かったことだろう。子供の頃の私がそうだ。そして実はよーく見ると、エメラルダスの胸の「中身」がちゃんと出てくる。ご覧になりたい方は本作のDVDを買うなり借りるなりして、このシーンをじっくりとご覧頂きたい。
研究 ・「地球時間」って…
 ここは本作でもとても印象的な所だ。宇宙へと乗り出していこうとする「アルカディア」号、これを阻止しようと二人の美しい女性を銃殺にすると迫るイルミダス。磔にされたマーヤとエメラルダスの画像を出して、トライターは「地球時間で明朝6時に銃殺刑とする」と迫るが、なんかおかしくないだろうか?
 では「地球時間で6時」とはいつのことか、と問われれば今いる地点で6時と言うのは正しくない。毎正時になれば必ず「6時」が来る。いや、正しく言えば正時になれば地球の何処かは必ず6時なのだ。つまりトライターはかなりいい加減な言葉で迫っているとしか言いようがない。
 劇中ではタイムリミットの「6時」に向けて、「アルカディア」号の時計が動くシーンが出てくる。どうやらトライターの言う「6時」と「アルカディア」号の時計の「6時」は、同じ時間を指しているようだ。ではこの「6時」の根拠は何だろう?
 恐らく、劇中世界でも地球に「世界標準時」があるはずだ。これが現在ならイギリスはロンドン、グリニッジ天文台がある経度が「世界標準時」となることは説明するまでもないだろう。劇中世界では、恐らく地球の宇宙船もこの「世界標準時」に合わせて動くはずだし、この基準があるからこそ地球上の時計が正確に動いているはずなのだ。では劇中世界で言う「地球時間」=「世界標準時」としていいのか? この問題はちょっと難しい。
 ここで「世界標準時」という言葉を使わなかった理由は、この「地球時間」が地球人が決めた標準時でないからだと推測される。つまり「地球時間」というのは、イルミダス人が母星の時間の流れとの差を見るために自分勝手に制定したものと考えて良いだろう。それは「世界標準時」とは別に、イルミダス人が自分達にとって大事な場所を「標準時」にしたからだろう。その場所こそが、劇中でさんざん出てきたイルミダス占領軍の司令部だ。
 実はこう解釈すると、劇中の不自然が全て取れてしまうから面白い。「アルカディア」号の時計は「世界標準時」と「地球時間」の双方を表示出来ると考えれば良いだろう。それはともかく、劇中の描写では全ての人々がイルミダス司令部周辺で活動をしていることが明確であり、この「地球時間」がイルミダス司令部の標準時間であれば、刑執行の時間やそれに関わるキャラクターの動き全てが説明出来てしまうのだ。
 つまり地球はイルミダスに占領されたことで、「時間」まで奪われてしまったのだ。この「地球時間」は、我々が知っているような60秒→1分、60分→1時間、24時間→1日とは限らないので、注意が必要だ。

…「アルカディア」号はトカーガ星に到着する。だがその星はゾルが語っていたような緑多き姿ではなく、赤茶色く焼けただれた大地と大気に充満した煙が見えるだけだった。
名台詞 「ゾル兄ちゃん…ゾル兄ちゃん……ゾル兄ちゃん、トカーガを助けて…」
(ミラ)
名台詞度
★★
 トカーガ星に降り立ったハーロックとミーメは、イルミダスがトカーガで行った殺戮の現実を見せられる。女子供の区別無く徹底的に焼き払われた大地と人々…その中に「ゾル兄ちゃん…」と喋る鳥の姿が…後に「アルカディア」号に乗り込む事になる「トリさん」との出会いだが、一緒にいたゾルの兄弟は既に絶命しているように見えた。そしてハーロックとミーメが敵の銃爆撃を受けると…瓦礫の中から瀕死の少女が出てきて、こう繰り返すのだ。
 これがゾルが語った「幼い弟や妹」のうちの妹と言うことになる。彼が助けたいと想い続けていた兄妹、それが皆助からなかったという現実を見せつけられた後の妹の登場は、見ている人々に様々な希望と絶望を与えたと思う。この少女が助かって物語に絡むのか、それともこの少女は助からずに我々に絶望を見せるための存在なのか…。
 そしてこのミラという少女、実は台詞はこの繰り返しだけである。出ている間ずっと同じことしか言わないという点は彼女が既に息も絶え絶えであることを印象付けることだろう。子供の頃の私にはこれしか言わない少女として完全にすり込まれちゃったけど。
 どーでもいーけど、ミーメはゾルの兄妹の顔と名前を知っていたんだな…。
名場面 トカーガ消滅 名場面度
★★
 ハーロック達が救うことができたトカーガ星人は、最期まで抵抗を続けていた一部の兵士達と、瀕死のミラだけだった。トチローがトカーガ星に惑星破壊爆弾が仕掛けられていることを察知したため、「アルカディア」号がトカーガ星を離脱する。兵士達はその窓から変わり果てたトカーガ星の姿を見るが、彼らは無言のままだ。と思うとトカーガ星は閃光を放って爆発する。窓から目を背ける兵士達、驚きの表情のトチロー、目を閉じるハーロック。ミラの「ゾル兄ちゃん…トカーガを助けて」の声が空しく響く。
 ここにはハーロック達がトカーガに赴きつつも、結局は星を助けることができなかったという悲しさ、そして僅かに助かったトカーガ人達が故郷の星を失った哀しみが上手く再現されている。このシーンを文章で再現してみたが、このシーンの奥底にある哀しみは文章では表しきれない。重厚で悲しいBGMの効果もそうだし、なによりも画面の構成等がこの空気をうまく作っている。
 物語を追っている者に言わせれば、間違いなく行き着くシーンであったはずだ。だがその「星が消される」というシーンを思ったよりあっけなく描いたことも、このシーンに哀しみを添えていると言って良いだろう。この星が消えるシーンも子供の頃に見たのをキチンと覚えていた。
研究 ・トカーガ星2
  今回、ハーロック達がトカーガ星に到着。ここで人々を助けるべく活動するはずが、既に手遅れという物語を展開する。これらのシーンではトカーガ星について色々と解ることがあるので面白い。
 トカーガ星は地球と同じように、かなり大きな衛星を持っていることはトカーガ星域に到着したシーンで解るだろう。ハーロック達の活動からすると、トカーガ星の重力は地球と大して変わらないはず、つまり大きさも殆ど同じと言って支障はないはずだ。この衛星越しにみるトカーガ星は、月の至近から月越しにみる地球とほぼ同じ。つまりトカーガ星は地球の月に匹敵する(惑星比で考えると)非常に巨大な衛星を持っている。
 この巨大な衛星というのは、惑星上での生物進化に重大な役割を果たしたと考えられている。惑星に対する隕石や小惑星衝突のリスクを減らし、惑星に潮汐を起こすことで海水の循環を発生させる原因のひとつとなり生命に必要な栄養源を海底付近から地表近くに移動させる役割もあり、何よりも惑星の自転を安定させ地軸の移動が起きにくいようにすることで急激な気候変動が起きにくくなる。地球の生命も月の存在が無ければここまで進化する可能性が低かったとする学説もあるほどだ。
 トカーガ星の衛星も、地球に対する月と同じように恒星系誕生時の巨大衝突で起きたのだろう。そしてトカーガと衛星も地球と月のように、徐々に距離が離れるなどの関係があるのかも知れない。
 問題は、トカーガ星がイルミダスによって爆破されたときに、この衛星に影響はないのかという問題だ。劇中描写では爆発の影響は避けられたようだが、その後が心配なのは否めない。画面描写からするとトカーガ星が滅びた際、小断片に分解させられたのではなく、何らかの形で完全に消滅させられたようだ。するとこの衛星は母星を失い、中心恒星の周りを公転する軌道に乗ると考えられる。だがその軌道は安定的ではなく、近い将来(宇宙的スケールで)には他の惑星と大衝突をするか、中心恒星に墜ちて行くかのどちらかだと思われる。イルミダスの自然破壊はものすごいなぁ。

…トカーガ星域に「アルカディア」号討伐のためのイルミダスの大艦隊が迫る。地球へ帰ろうとすればこの艦体と正面からぶつかる事になり、避けようとすればプロミネンスの火の河を突破するしかない。「アルカディア」号は「宇宙のスタンレー」と呼ばれるこの火の河を超えることを決意する。
名台詞 「みんなよく聞け、トカーガ最後の女性は今死んだ。子供を産んでくれる女性は、もう1人もいない。トカーガ人類は、滅びたのだ。忘れまい、ハーロック達はトカーガのために生命を賭けて戦ってくれた。」
(老トカーガ兵)
名台詞度
★★★★
 プロミネンスの火の河を突破すべく難航している最中に、ゾルの妹ミラが遂に絶命する。それを見たトカーガ兵らは医務室を出て廊下に並ぶと、そのリーダー格である地球から動向の老トカーガ兵が若い兵士らにこう語る。
 ミラの死という事実は彼らにとって星が消えた以上の衝撃であったはずだ。故郷が無くなっても自分達が生きていれば、いつか何処かで再起出来る。だがミラの死という事実はその「自分達が生きていれば」という希望を奪い去った。最後まで唯一生き残っていた女性の死は、自分達種族の「絶滅」を意味し、自分達が生き残っていてももうそれを言い伝えるべき子孫が存在し得ないという現実である。その「自分達は滅びるしかない」という重い現実を前に、最後に自分達が何をすべきかを語る。それは自分達の故郷のために戦ったハーロックを無事に地球に帰す事だ。この一言により、これは「艦から飛び降りる」という形で実行され、生体反応を引き寄せる性質があるというプロミネンスの河を突破する決定打となる。
 しかし、トカーガ人も地球人と同じように男女の別があるようだ。もちろん性的な点まで同じと考えて良いだろう。だが本作の世界観では「ヤマト」と違い異星人との交配は不可能と考えるべきだ。でないとこのカッコイイ台詞が意味を成さなくなる。純血のトカーガ人はいなくなっても混血して生きて行くという事になってしまうからだ。
 それともう一つ、この老トカーガ兵のキャラクター名は何処を調べても解らない…。
名場面 「宇宙のスタンレー」 名場面度
★★★
 「アルカディア」号は「宇宙のスタンレー」とも言われる難所に挑む。火の河の中を苦労しながら進む「アルカディア」号の様子は、戦闘シーン以外では最大の見どころかも知れない。宇宙空間なのに炎が燃える音が聞こえるはずがないと突っ込んではいけない。それはそこに何らかの大気があるから聞こえるのだと解釈すべきだ。
 この大迫力シーンは、子供の頃に映画館で見たのをハッキリ覚えている。そして「アルカディア」号がどうやってこの難所を切り抜けるのかと、手に汗握って見たものだ。この迫力は私の稚拙な文章では伝えきれないので、興味のある方はDVDを買うなり借りるなりして、出来ればなるべく大きな画面のテレビで観て頂きたい。
研究 ・「宇宙のスタンレー」
 ここで「アルカディア」号は宇宙最大の難所とも言える火の河に難儀する。ここは二重太陽ベスベラスに掛かる5つの炎の河と、トチローが説明する。別名は「宇宙のスタンレー」。
 この場所について自然に考えれば狭い範囲に恒星がふたつあって、その間を炎(プロミネンス)が行き交っていると言うところだろう。この炎が強大で多くの宇宙船がこの星域で難破したと考えればいい。そしてトチローの話では、ここには生体反応を吸い寄せる効果があるため生物は全て吸い込まれてしまう場所のようだ。これがどんな原理かは解らないが、想像するに人間などの動物が持つ脳波の周波数と共鳴するような電磁波が出ているのかも知れない。
 この炎は劇中の様子からすると、太陽のプロミネンスと同じ色をしているのでだいたい6000℃くらいと見て良いだろう。つまり「アルカディア」号が地球上のどんな金属で作られていたとしても溶けるのみならず蒸発する温度だ。トチローは「アルカディア」号の耐熱装置は「クイーンエメラルダス」号より優れていると言うが、どんな耐熱装置でもその耐熱装置自体が蒸発してなくなってしまう温度だ。う〜ん、これは困った。「アルカディア」号がこの炎の河を渡れないじゃないか…。
 「宇宙のスタンレー」という俗称は、もちろん地球人が地球のスタンレー山脈にあやかって付けたものだろう。つまり劇中世界では地球人は既に、太陽系外の恒星系にたどり着いていると考える事が出来る。恐らくイルミダスに占領される前は地球とトカーガの間に交易があったのかも知れない。だからこそ地球とトカーガの直線上から僅から逸れた位置にあるこの空域が地球人の間でも「難所」として恐れられているのだろう。もちろん、宇宙気象の問題(宇宙放射線などの嵐が想定される)によってこちらを迂回せねばならないこともあったのだろう。そして多くの宇宙船がここで難破したと見るべきだ。

…「アルカディア」号が地球に戻ってくるとゼータに着陸許可を要請する、ゼータはムリグソンの迎撃しようという提案を却下して「アルカディア」号地球着陸を認める。着陸した「アルカディア」号を、ゼータやトライター、そして多くの地球人が出迎える。
名台詞 「彼らは自ら着陸を求めてきたのだ。過酷な運命しか待っていないこの地球に敢えて戻ろうとする者を撃ち落とすようなことは、私はしない。彼らは本当の男だ、騎士として迎えるべきだ。」
(ゼータ)
名台詞度
★★★
 「アルカディア」号帰還に、イルミダス占領軍に緊張が走る。ムリグソンは配下の者に迎撃命令を出すが、これをゼータが制止する。「たかが一隻」と言い切るムリグソンに、「たかが一隻で艦をイルミダスが総掛かりで撃ち落としてみろ、再び地球人が内乱を起こしてしまう」と突き付ける。それでも「迎撃すべきです」と具申するムリグソンに、ゼータがこう返すのだ。
 ゼータのハーロックに対する本音というのが見え隠れしている台詞だ。彼も「敵」でありながらもハーロックを「男」として認めている。こんな心意気が伝わって来るではないか。そしてハーロックが「男」だからこそこれが地球人に伝わるのが脅威であり、その脅威を排除するには彼を一人の「戦士」として迎える必要がある。ゼータはこう言っているのだ。
 ムリグソンはそんなゼータを理解出来ない。その理由はここから先の展開で彼の「小物」ぶりが明らかになってくると見えてくる。これはトライターにも言えることだが、結局ムリグソンという男はイルミダスという「力」にぶら下がっているだけで、その「力」を自分で制御しているわけではないからだ。ここに「司令官」と「副官」の差以上の「人間の格の違い」というのが見えてきて面白い。
 もし司令官がムリグソンだったら彼はゼータのような存在になるか?と問われれば答えはノーだ。恐らく何に対しても「力」を誇示するだけで、結局占領した地球の反感を買うだけの存在になるだろう。「力」にぶら下がるだけのトライターは、イルミダス占領軍がそんな状況になれば自分の過去を棚に上げて反乱側に回るだろう。そういう「力のある側」にぶら下がることしかできない男と、ハーロックやゼータのような男の違いというのを、この台詞から考えさせられたのだ。
名場面 地球追放 名場面度
★★
 「アルカディア」号が地球に着陸すると、ハーロックらの見たものはゾルの墓であった。ゼータは無言でハーロックにゾルの墓参りを認める。ハーロックがゾルの墓に声を掛けると、「死んだ男にただそれだけを言うために戻って来たのか?」とムリグソンが皮肉を言い、「バカとしか言いようがない」とトライターが続ける。「お前達には解らないのか? 解らなければそれでいい」と返すハーロックに、トライターは地球政府がイルミダスとの協力関係を取る道を選んだとした上で、「君のような危険分子は地球の方針に合わない。従って地球政府はお前達に、永久追放を宣告する」と宣言する。「もし君たちが地球に残るというなら、我々は君たちと戦わなければならない…君たちは地球の敵だ」と続けるトライターに、ハーロックは「地球の敵か…」と呟く。この声に地球人兵士は銃を下げ、ドクロの旗がたなびくシーンが一瞬入る。そして「よかろう、俺たちを追放するというなら出て行こう」とハーロックも宣言。すると「そうよ、汚れたブタになってまで地球にしがみつく必要は無い」と告げながら、マーヤを抱いたエメラルダスが登場。彼女は自分とマーヤを撃ったムリグソンの残忍さと、ゾルを撃ったトライターの卑劣さを批判する。人の生命を粗末にする残酷さを許さないという理由だ。
 ここがハーロック達が「星の海」を彷徨い続けるきっかけとなったシーンと言って良いだろう。説明した通り、彼らの行動は地球政府の代表であるトライター首相の反感を買い、地球を追放される事になったのだ。
 だがハーロックもここで命乞いなどせず、堂々と地球を出て行く道を取ったのが良いところだ。彼はエメラルダスの言う通り、彼にの言いなりになってまで地球に留まる必要はないと踏んでいるのだ。地球はイルミダスに占領され、その末路はトカーガが「絶滅」と言う形で示しているのに、誰もそれに危機感を抱いたり反抗をしようなどとは考えない。当の地球政府代表者までもがその現実から目を逸らし、イルミダスの言う「幻想」を追っているだけに過ぎない。そんな世の中に嫌気が差し、ハーロックは自分と志を同じ者だけとともに出て行くのが良いと決断したはずである。
 そしてここで、だんだんムリグソンとトライターの「小物」ぶりがハッキリしてくる。彼らが信じているものは「自分」ではない、自分の上にある「イルミダス」という「力」でしかなく、それにぶら下がって生きる事しかできない。だからこれにぶら下がらない者をおかしいと思うし、人間ではないとまで感じる。これがエメラルダスの批判点だろう。
 ここは印象深い台詞やシーンの多い場所で、本考察を編集するのに最も苦労した場所だ。
研究 ・地球追放
 ここではハーロックらが地球からの追放を命じられる。このシーンを見て思うことだが、この追放が何処でどのような手続きを経て、どのように宣告されたのかとても不思議だ。つまりこのシーンを見る限り、劇中の地球に立法や司法や行政という政府組織があるのかどうかさえ不安になってくる。
 ハーロックに地球追放を宣告したのはトライターだ。だがこのような決定は首相一人で決められるわけがない、安倍総理大臣が私に「あなたを日本から追放します」といきなり言ってもそれが有効にならないのは誰もが認めるところだろう。まず憲法があり、憲法に従った法律があり、この法律によって禁止事項とこれに反した罰則があるという順序の「法」があるはずだ。つまり安倍首相が私に「あなたを日本から追放します」と言って有効になるためには、私が法律に違反したことを証明し、その違反行為に対する罰則が「日本から追放」と法で定められていることも明確にしなければならない。そして根本的な問題を言えば、これらの事が確認されたところで安倍首相が私に「これこれいういう理由で日本から追放」と言ってもやはり有効にはならない。私にそれを宣告するのは裁判所でなければならないのだ。
 なのに劇中世界では地球政府の首相が、反乱分子とはいえ一市民に直接「追放」と宣告しているのである。ハーロックが何の法に触れたのか、その法に対する罰則が「追放」であることの確認などはされず、裁判も何も経ないで決められているのである。
 これはもうそのような政府組織がないと見るのが正しいかも知れない。最初の方の考察で「取りあえず選挙をしてイルミダスの傀儡政権が政権を握った」と考察したが、彼らが政権を握ったことでこのような政府機関が骨抜きにされたと見るべきだ。政治はイルミダス占領軍に任され、彼らが言うことを淡々と処理するのが劇中での地球政府の実体なのだろう。悪いことをしてもイルミダス占領軍に直接逮捕され、裁判も無しに刑が執行される恐ろしい世の中なんだろうな。
 恐らく、ハーロックへの地球追放宣告もトライターではなくイルミダスによるものなのだと考えられる。罪状は「イルミダスへの反抗行為」と言ったところで、この宣告を出したのはゼータなのだろう。彼がなんでそんなことをしたのか、それはハーロックに「生き場所」を与えたかったのかも知れない。もちろん今後の展開を見ていればその「生き場所」をタダでやる気も毛頭無いのは解るが、ゼータは今の地球にハーロックの「居場所」など何処にもないことを知っていたのだろう。
 こうして見ると、この追放宣告がトライターの口から出てきたのも頷ける。ただトライターとしては、自分が信じる「力」からの宣告を自分の責任でいえるとあって有頂天だったかも知れない。結局コイツは、本当の権力者の上で踊らされているだけってことだ。

トライターに地球追放を宣告されたハーロックのもとに、エメラルダスがマーヤを抱いて現れる。マーヤは。深い傷を負っていたが、それでも「自由アルカディアの声」で人々に声を届けようとする。そしてマーヤは、ハーロックの腕の中で息を引き取る。この光景をゼータは黙って見つめている。
名台詞 「マーヤ…マーヤ…、もっと話したいことがあった。もっと聞きたいことがあった。マーヤ!」
(ハーロック)
名台詞度
★★★★
 マーヤは最後の「自由アルカディアの声」で人々にこれ以上放送を続けられないことを語ると、ハーロックと星の海に出たかったということを語り空を見上げる。そしてその最後の言葉を伝えきると、そのまま絶命してしまう。生命を失ったマーヤを抱きしめ、ハーロックが叫んだ言葉がこれだ。
 ハーロックという男はあまり感情を出さないタイプのキャラだ。常に落ち着き払い、冷静にことを運んで勝負に勝つ、そんなカッコイイ男というイメージが強い人は多いことだろう。
 だがこのシーンのハーロックはそんな落ち着き払ったいつものハーロックとは違う。恋人を失い、これを悲しむ一人の男として描かれている。台詞もこの点を重視して言葉が選ばれており、ハーロックは感情をむき出しにして、恋人の亡骸に本音を語るのだ。ハーロックについて落ち着いた印象を持っている人々にとって、この恋人を失い取り乱すハーロックの姿とこの台詞は予想外のものであり、深く印象に残ったはずだ。
 私も子供の頃にこの台詞を聞いたとき、「これがあのハーロックか?」と思ったものだ。怒りの感情を強く出すことはあっても、悲しんだりすることのなかったハーロックの「人間らしい」一面を見た気がする。このハーロックの「若さ」こそがこの「わが青春のアルカディア」という作品の根幹であり、魅力であることはこの台詞で再認識できよう。
 またこの台詞を演じる井上真樹夫さんの演技も良い。これまで演じてきたハーロックとは違い、悲しみをきちんと再現した涙声だ。こんなハーロックの声はあまり聞くことはないだろう。むしろこの役者さんの役どころを考えれば、この声で涙声というのは貴重なはずだ。
名場面 決闘へ 名場面度
★★★★
 地球を追放され、地球から出て行くべく「アルカディア」号に乗り込もうとするハーロックを、これまで黙ってことの成り行きを見ていたゼータが呼び止める。ゼータはハーロックに「無事に地球から立ち去りたければ、この私を倒してからにしろ」と言う。「決闘か?」ハーロックが問えばゼータは「そうだ」として「古来、決闘は一対一だ。誰にも邪魔はさせん」と告げる。ハーロックは「わかった」と頷き「アルカディア」号に乗り込むが、ムリグソンがゼータに「こんなやり方には反対」だと訴えたかと思うと、艦に乗り込もうとするハーロックの背中に銃を向ける。振り返って驚くハーロックだが、ゼータが「お前は私に反対した、私を差し置いて銃を抜いた。その始末は自分でつけろ」と言い残して立ち去る。次の瞬間、ムリグソンはハーロックに撃たれてその場に倒れる。
 男と男がプライドを掛けて決闘の約束をするシーン、良いシーンじゃないかと思って見ているとムリグソンがこれに割り込んでその雰囲気を台無しにするというとんでもないシーンだ。そしてムリグソンがストーリークラッシャーとなり、雰囲気をぶち壊したことは視聴者だけでなく登場人物たちも快く思わない。特にムリグソンは自分の上官でであるゼータを敵に回してしまったことが決定的なのが面白い。ゼータはムリグソンによって雰囲気が破壊されたことで、ハーロックとの決闘に掛けたプライドそのものを破壊されてしまった。一対一での互いの力を出し合おうという勝負にムリグソンが割り込んできただけではない、決闘すると決まった者を差し置いて銃を抜く…これは明らかな反則だ。サッカーで言えば試合開始のホイッスルの前にボールを蹴り始めてしまったようなものだ。誰が見てもムリグソンのこの行為は許されない。
 そしてムリグソンは、上官を裏切って敵に回しただけでなく、本来の敵であるハーロックにあっさり殺されるという末路を演じる。彼はハーロックに向けた銃を撃つことも許されず、結局は上官を裏切ったという事実に怯えるだけだった。これまでさんざん小物ぶりを演じてきたムリグソンに、この映画を作った人はそれに相応しい最期を用意したと感心したシーンである。
 でも、子供の頃に見たときはここでムリグソンが死んだことに気づかなかったなぁ。ムリグソンの声はあの青野武さん、ヤマトの真田さんの声の人がこんな役をやっていたなんて…。
研究 ・イルミダスについて
 実はこの物語で最もよくわからないのは、地球を征服したイルミダスについてだ。恐らく全銀河的に支配権を広げているであろうことは想像できる。だがそれ以上の情報が劇中になく、母星がどこにあるかすら見当は付かない。ただし、増援艦隊が地球まで僅か数日で来られることを考えれば、地球からそう遠くない位置に母星があるとみて良いだろう。
 そしてこのイルミダスが何のためにトカーガや地球を占領しているのかもよくわからない。植民地として積極的に利用している風にも見えない。植民地として利用するなら荒廃したままにせず、その利用方法に向いた形に復興するはずだからだ。トカーガ星がイルミダス占領からずっと荒廃したままであったことを考えると、どうもイルミダスというのは植民地政策が得意ではないのかもしれない。そして星を荒廃したままにして植民地政策が成り行かないと判断されると…トカーガのように滅ぼされるのだ。こんな勝手な星があるか?
 でも劇中描写を見ているとそれしか考えられない。イルミダスは支配権を広げつつも、植民地政策が下手くそで結局は各地で破壊の限りを尽くすしかないというろくでもない人種なのだ。これではイルミダスに滅ぼされたトカーガやミーメの母星が浮かばれない。
 イルミダス人は地球人と同じような姿形をしているが、顔だけは地球人と少し違う。髭の生え方が顔を包むような形状となっていて、毛並みだけ見ていると猿に近い顔になる。
 イルミダスの文化として、地球の文化と同じように「騎士道精神」はあるようだ。騎士は互いに相手を敬い、そして相手を丁寧に扱って戦うという文化があるのは確か。また「決闘は一対一」という考え方も文化としてあるようだ。意外に地球と共通点多そうだぞ。

…ハーロックは「アルカディア」号で、エメラルダスは「クイーンエメラルダス」号で、並ぶように地球から出発した。そしてそれを追うようにゼータの乗艦が「アルカディア」号に迫る。いよいよ男と男の決闘が始まろうとしていた。
名台詞 「ハーロック、地獄で会ったら共に親友として酒を呑もう。それまでお前は死なずに、お前の夢を果たせ、生きて必ず夢を果たせ。さらばだ。」
(ゼータ)
名台詞度
★★★
 名場面欄シーンを受けて、艦に多大な損害を受け、乗組員を全員対艦させたゼータは、艦に一人残り回頭して「アルカディア」号の正面に回り込んでくる。トチローがこれを撃とうとするがハーロックがこれを制止。あわや正面衝突…というタイミングでゼータが「アルカディア」号に無線通信で伝えたのがこの台詞だ。
 ゼータはこの決闘には「占領軍指揮官と、占領軍に対する反乱分子」としてではなく、「一人の男として、一人のサムライと戦う」という覚悟で戦っていた。情け容赦は無用で様々な手を尽くしても結局ゼータは勝てなかったが、彼はそれによってハーロックが自分が見込んだとおりの男だと認めたのだ。だからこそこの男と敵味方に分かれて出会った不運を思い、本当は親友になりたいという気持ちをこの台詞に託したのだ。だがその親友になる日がすぐでは困る、ゼータとしては草葉の陰でハーロックがどんな世界を作るのか見届けたいと思っている、つまりこの男に期待しているのだ。
 そんなゼータの思いをうまく表現したこの台詞は、ゼータの最期の言葉でもある。この直後にゼータ艦の機関が大爆発を起こし、「アルカディア」号はその爆炎の中を進む形となって何とか助かる。このゼータの最期を見届けたハーロックは、「さらばゼータ、地獄で会おう」と呟く。つまりハーロックもゼータを認め、親友になれる相手だと思ったのだ。この二人のやりとりは本作でも強く印使用に残る部分だ。
名場面 決着 名場面度
★★★★★
 ハーロックとゼータとの決闘は二度に渡る砲撃戦の末、双方とも艦に損害を負っていた。「アルカディア」号ではゼータ艦の砲撃による衝撃で、艦橋の自動照準器が破損して敵艦を捕捉することができなくなってしまった。だがトチローは「照準器?」と何かを思い出したようにひらめき、艦橋の収納庫から古くなった箱を取り出す。この中にトチローの先祖である俊郎が、ハーロックの祖先であるファントム・F・ハーロック二世から友情の証として受け取った照準器「Revi C/12D」が納められていた。トチローは自分とハーロックの先祖を結びつけた照準器を「俺たちの目」だと言い、これを「アルカディア」号に設置して戦闘を続行することを決意する。
 一方のゼータ艦も損害は激しく、3体構成の艦体のうち損害が大きい両端側を切り離して艦橋のある中央艦体だけで戦おうと「アルカディア」号に突っ込んでくる。「アルカディア」号の攻撃指揮所に「Revi C/12D」を取り付けたトチローが照準器を睨む。「艦橋部を集中攻撃!」と命じるハーロックの声に、トチローは震えながらも応えて突っ込んできたセータ艦を捕捉した。そして激しい砲撃戦、必死に発射レバーを押し続けるトチロー…トチローが放った砲撃のうち1弾がゼータ艦に命中、これが貫通弾となりゼータ艦は火に包まれて艦橋のゼータにもこれは及ぶ。だがゼータも艦も反撃を続ける。「アルカディア」号も損害が大きく、トチローも攻撃指揮所でやっと生きているような状態だ。だがゼータ艦ではついに機関部から火の手が上がり、ゼータは総員対艦を命ずる。
 ハーロックとゼータの決闘、これは二度目の砲撃戦まで五分五分に進んでいたと言って良いだろう。共に致命的ではないにしろ損害は決して小さくなく、ゼータ艦は両端部の艦体を切り離せばまだ無傷という状況だ。この状況下で「アルカディア」号の照準器が破損するというピンチに、いよいよ本作の序盤で演じられてきたハーロックとトチローの先祖による友情物語の伏線が回収される。トチローは先祖から照準器「Revi C/12D」を受け継がれており、これが「アルカディア」号に搭載されていたというストーリーを紡ぐのだ。
 そしてこの照準器を使うことで、主砲の照準合わせなどが自動ではなく手動で行わねばならず、そのためにはトチローが危険な攻撃指揮所で照準合わせを行うといったリスクが演じられつつ、ついに「アルカディア」号はゼータ艦に対して決定的な一打を浴びせる。これは二人の祖先を結んだ照準器があればこその出来事として描かれたのは、本作と一見無関係そうな二人の先祖の物語と本作の世界観を結びうまくオチをつけたといって良いだろう。
 そして何よりも、このような「オチ」に向かう砲撃戦がものすごい迫力で描かれており、子供の頃に映画館で見たときはまさに「手に汗握って」という感じだったのを覚えている。両艦の間でのビーム砲の応酬、そして命中した際の爆音…これらが迫力を持って描かれており、このシーンは「わが青春のアルカディア」という映画の中でも最大の見所と言って良いだろう。
研究 ・ゼータ艦
 今回はハーロックとゼータの決闘を演じたゼータ艦について考えたい。
 ゼータの乗艦について、劇中では艦名はわからないままだ。トチローが「イルミダスの旗艦」だと言うことを考えれば、超弩級戦艦クラスで恐らく同型艦が何隻かあると考えて良いと思われる。イルミダスが各占領地の指揮官に与えている旗艦がこれなのかも知れない、この後のシーンでイルミダスからの増援部隊が出てくるが、この指揮官が乗っている艦が違うタイプであることを考えると、占領地の指揮官はかなりの高位にある将校なのかも知れない。
 艦の大きさは、全長は「アルカディア」号の二割増しくらいのサイズだ。全幅は三倍はあるだろう。
特徴は3つの艦体を横に連結した構造となっており、中央艦体は艦橋と機関部が大部分を占めていることだろう。もちろん乗員の居住区や賄い施設などもここではないかと推測される。対して両端の艦体は武装中心で、また中央艦体に対する盾としての機能も兼ねていると思われる。
 武装は横方向に固定されたビーム砲で、これはどう見ても真横の敵しか攻撃できないと思われる。つまり対空母戦のような戦いは想定しておらず、宇宙戦艦同士がすれ違いざまに攻撃し合うという戦い方に特化している。この構造はあながち間違っておらず、無重力・真空の宇宙空間では敵を攻撃したらすぐに爆発圏外まで逃げねばならないことを考えれば、追跡による攻撃などはできない方が良い。「アルカディア」号がすれ違いざまの攻撃をするのは、ゼータ艦のこの構造に合わせて戦っているのでなく、あくまでも敵を攻撃したらすぐ爆発圏外まで待避するためだと思われる。
 問題はこの横に3体構造という連結構造だ。この戦いで描かれたように、初期の戦いで両側艦体がやられてしまうことはこの艦にとって致命的なはずだ。攻撃機能が失われても盾ととして有効なはずで、徹底的に逃げ回れば逃げ切って生還の可能性が出てくるはず。だがゼータはこの両側艦体を、爆発などの危険な状態が迫っているわけでもないのにあっさりと切り離してしまう。もちろん中央艦体にも武装があるが、これは両側艦体よりも数が少なく威力も小さいのは劇中の描写からも明かだ。
 ゼータがこのような行動に出ざるを得なかったのは、「決闘」という逃げるのを由としない戦いであった点もそうだが、何よりもこの艦の構造に問題があることだろう。この段階で両側艦体の攻撃機能が何らかの理由で完全に失われたに違いない。すると中央艦体の武装で攻撃せねばならないが…この場合、両側艦体が邪魔になるということだ。
 つまりこの艦は、健全であれば武装のうち1/4か1/3程度の武装が使えないというとんでもない欠陥構造なのだ。それらの武装は両側艦体を切り離すというピンチで初めて使えるものであり、その段階では艦はもう半死半生で勝ち目がないのだ。なんでイルミダスはゼータ艦をこんな構造にしたのかな…。

…「アルカディア」号との戦いに敗れたゼータ艦は、大爆発ののち宇宙に消える。だが続いて「アルカディア」号の前に、イルミダスの大艦隊が立ちはだかる。エメラルダスは「今反転すればイルミダス艦隊は追いつけない」とアドバイスするが、ハーロックとトチローは「末代まで逃げたと言われ続けるのは嫌だ」「敵に後ろを見せて海へ出たくない」と語り、イルミダス大艦隊と真っ向勝負を挑み、旗艦に乗り込むべく艦を進める。
名台詞 「俺の旗の翻る場所に、二度と近寄るな!」
(ハーロック)
名台詞度
★★★★
 イルミダス大艦隊に突入した「アルカディア」号だが、ゼータ艦の爆発の影響で地場が狂い敵のビーム砲が当たらないという幸運を掴む。そして「アルカディア」号はイルミダス艦隊の懐深く入り込んで旗艦に接舷、ハーロックは旗艦に乗り込み指揮官の前に現れる。指揮官が「貴様の戦い方は…?」と思わず口走ると、ハーロックは「ルールにないと言うのか? その通り、これは海賊の戦い方だ!」と叫んで指揮官を銃殺する。そして決め台詞としてこの台詞を吐き、「アルカディア」号へと戻ってゆく。
 いやーっ、もうカッコいいの一言で片付けるしかない。この台詞を吐くときのハーロックの表情も決まっている。本作のハーロックで最もカッコイイ台詞とシーンであり、子供の頃にこの台詞を聞いたこともよく覚えている。
 ハーロックが最も許せない者、それは堕落した地球人ではなく地球人を堕落させたイルミダスであり、そのイルミダスの「数と力にものを言わせる」というやり方が卑怯で許せないのだ。そんな彼の気持ちがよく伝わってくる。だからこそ彼はイルミダスには容赦しない、自分に近づけば死あるのみとイルミダスに宣告したのだろう。これでこそハーロックであり、劇中世界では今後となる「キャプテンハーロック」や「銀河鉄道999」のハーロックにつながるキャラクターが完成したのはこの台詞と言い切っていいだろう。本作のここまでのハーロックと違い、それらの世界観のキャラクター性に見合った台詞であり、我々が知るハーロック誕生の瞬間と言って過言ではない台詞だ。
名場面 宇宙葬 名場面度
★★★★★
 イルミダス大艦隊との戦いが終わると、劇中シーンは静かな宇宙空間となる。そして本作のラストシーンは、この劇中で生命を散らした3人の葬儀となる。
 「大宇宙を司る万物の真理よ、我が友ゾルとその妹…汚れなきトカーガ最期の女性ミラを、あなたの腕に今委ねる。されば真理よ、ゾルとミラに永遠の安らぎを…」とハーロックが語り、トチローが涙を流しながら「さらば、友よ」と続けると、まずゾルとミラの棺が大宇宙へと旅立ってゆく。これを無言で見つめる「アルカディア」号乗組員とエメラルダス。続いてハーロックはマーヤの亡骸に「遠く、時の輪の接するところで、また逢おう。さようなら、マーヤ。星の海で命尽きるまで、俺は忘れはしない…」と語りかける。ハーロックがマーヤの亡骸から離れる、トチローはマーヤの棺を放出するレバーを引いてしまって良いのかと悩む。「いいか? ハーロック…」と問うが、ハーロックの返事はない。ハーロックの表情を確認したエメラルダスがトチローに向かって頷くと、トチローは静かにレバーを引く。その音で目を見開くハーロック、彼は銃を掲げ「星の海よ、今かけがえのない愛する人をその手に委ねる。正義がこの海を治めていることを信じて…」と語る。遠ざかるマーヤの棺、これが見えなくなるとハーロックは銃を下げ、艦橋の操舵台に向かいながら「我々は決して何にも祈りはしない、人の助けを求めもしない、二度と他人の旗の下に戦うことはしない。我々は、己が信じるもののためにだけ、我々の旗の下にだけ、生涯を掛けて戦い続ける。俺の旗の下に…」と語る。語り終わるとハーロックは舵輪を握るあのポーズだ。艦橋全体へとシーンが引いてゆく、頷くトチロー、見つめるミーメ、通信モニター上で銃を掲げるエメラルダス、はためくハーロックのドクロの旗…「わが青春のアルカディア号、発進!」とハーロックが決め台詞を決めると、「アルカディア」号のエンジンが火を噴き主題歌が流れ出す。エメラルダスが「クイーンエメラルダス」号の艦橋で発進を宣言すると、二隻が並んで宇宙の大海原へ乗り出してゆくシーンで本作は終わる。
 実に印象的なラストシーンである。本作で生命を散らしたハーロックの友と恋人を弔うだけでなく、これを通じてハーロックが得た信念「他人のためではなく自分のために戦う」が語られたことで、「わが青春のアルカディア」というタイトルの物語にうまくオチがついたと言っていいだろう。ハーロックが「アルカディア」号発進宣言として「わが青春のアルカディア号、発進!」とわざわざ本作のタイトルを言うが、これがわざとらしくも不自然でもない、実に自然に彼の口からこの台詞が出てくるように物語が作られていたのは感心する。
 このラストシーンも子供の頃に映画館で見たことをはっきりと覚えているし、20年ほど前にBSで放映された際に最も感動したシーンだ。このシーンとこの台詞に行き着くために2時間10分もの長い物語が綴られていたのだ。
 そして何よりも、「自分のため」「他人のため」という表現を「旗の下」という表現にしたのが、この「ハーロック」の世界観らしくて良い。やはりハーロックと言えば「アルカディア号にはためくドクロの旗」であり、この旗に集う40人の仲間たちというイメージは多くの人にこびりついているだろう。もちろんそのイメージが全くないところから、これで固めるという作業も本作では行われており、「おおっ」と思った人も少なくないだろう。
 とにかく、このラストシーンで本作はうまく物語が落ち、「ハーロック」の世界観を確立させたといって良いくらいの名場面だ。この場面がなければ「わが青春のアルカディア」は、別の物語になってしまっていたことだろう。
研究 ・「アルカディア」号その後
 本作のラストで、「アルカディア」号は宇宙へと旅立ってゆく。この後どうなったかはテレビアニメ版「わが青春のアルカディア 無限軌道SSX」で語られているが、この作品は視聴率低迷により途中で打ち切りという憂き目を見ることになった。かくいう私もこのテレビアニメ版の「わが青春のアルカディア」は観ていない。
 そこで独自にこの後のハーロックや「アルカディア」号について考えてみたい。
 この後、「キャプテンハーロック」や「銀河鉄道999」においてハーロックや「アルカディア」号の物語は綴られている。劇中での時代的に言えば、間違いなく「銀河鉄道999」が先で、「キャプテンハーロック」の方が後だ。理由は「銀河鉄道999」ではトチローの死と、彼の「魂」が「アルカディア」号の大コンピュータに転移する過程が描かれている。そして「キャプテンハーロック」ではすでに「アルカディア」号の大コンピュータにトチローの「心」が乗り移っているという設定になっているからだ。また「キャプテンハーロック」の原作漫画では、ハーロックは惑星ヘビーメルダーのトチローの墓に参るシーンもあるし、そこで鉄郎とメーテルの消息について話題を出すシーンもある。これで「銀河鉄道999」と「キャプテンハーロック」の前後関係だけはハッキリした。
 つまり、地球はこの後数年でイルミダスの支配から脱し、自治独立した地球に戻るはずである。「銀河鉄道999」の世界では地球がどこかの惑星に支配されている様子はない。イルミダスもこの世界では力を振るっておらず、恐らくイルミダス自体がこの数年後に力を失って広大な支配地域を手放さざるを得なくなる。そして代わりに台頭してきたのがプロメシュームやメーテルによる「機械化帝国」であり、帝国は人体を機械化することで不老不死を実現するという技術を前面に出して全宇宙的な影響力を持つことになる。だが「機械化帝国」は支配というより、政治的ではなく技術的・経済的な力で地球も含めた全宇宙に影響を及ぼしたと言うところだろう。
 「銀河鉄道999」の世界では、ハーロックはこの「機械化帝国」に楯突いていたようだ。作中ではハーロックが指名手配釆゛あることが示唆されるシーンもある。ちなみにハーロックはこの機械化帝国支配の時代までの間に、ヤッタランや有紀蛍といった「アルカディア」号主要メンバーと出会ったとみて良いだろう。
 ハーロックの協力の下、星野鉄郎により機械化帝国が滅ぼされると次に出てくるハーロックの敵は、「銀河鉄道999」の続編で描かれた「メタノイド」や「ダークイーン」であるが、この戦いは決着がつかないままになっている。だが最終的にはハーロックはこれに勝利するはずだ。そしてその後の世界が「キャプテンハーロック」で描かれたマゾーンとの戦いという順序になるはずだ。
 こうしてみると、「キャプテンハーロック」の時代のハーロックの年齢が気になる。恐らく「わが青春のアルカディア」では20代半ばだろう。その後の機械化帝国からダークイーンとの戦いで10年以上の年月は流れるはずだ、すると「キャプテンハーロック」のハーロックは40歳くらいということになるのだろうか?
 いやいや、アニメキャラの年齢をまともに考えてはだめだ。でもおっさんのハーロックってなんかピンとこないなぁ。

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