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・「名探偵コナン(劇場版) 天国へのカウントダウン」総評
・物語
本作の上映時間は100分、展開は大きく4つに別れていると考えて良いだろう。最初はコナンと「少年探偵団」一行のキャンプに始まり、ツインタワービルの見学を終えるまでで一区切り。ここでは事件を起こすキャラクターを一人一人印象的に登場させ、また哀の不審な行動や「黒の組織」の暗躍と言った負の面で見る者に不安を与える要素がある。同時にツインタワービル側の登場人物は、美緒以外はどれも「事件を起こしそうな」感じに描かれていて、今後の推理シーンで視聴者の頭を悩ませることになる。なお美緒だけは徹底してそのような怪しさは持たされず、「この人が殺害されるのだろう」と明確にわかるように作ってあるのも面白い。
続いては最初の事件が起きてから教室で哀が苦悩を語るシーンまでで一区切り。まずはここで事件が2件起きるが、その2件とも最初の段で「怪しい」と思った人が殺害されるため見ている方は意表を突かれる。そして型通りの刑事を交えての事件推理だけでなく、「少年探偵団」が独自に調査するという内容は見ている子供達を感情移入させやすくすると共に、ハラハラドキドキ要素を組み込むことになる。また「少年探偵団」について峰水に理解されない点も、「子供だけで動いても思い通りに行かない」という教訓を見ている者に与えるだけでなく、峰水が「痛くもない腹を探られたくない」と感じていたと後からわかるようにできている。その流れの中でで哀の不審な行動は徐々に「シロ」と判明し、同時に哀が持つ苦悩が描かれ、それに対して「少年探偵団」が無邪気に振る舞うことで、本作のメッセージである「仲間の絆」という面を物語に内包し始める。
その次はパーティーが始まってから、ビルが爆破され橋が落ちるまでで一区切り。ここは楽しいパーティという要素と、事件による最初の暗転、そして爆破によるさらなる暗転と、二度の暗転を経てどれだけ「空気」に落差をつけられるかが鍵となったことだろう。だからパーティが無事に進んでいる間にはパーティがとても明るく楽しく描かれる。一度画面に出るだけの子供(声は視聴者から選んだらしい)等も交えるとともに、余興では物語の伏線をしっかり張っていることも重要だ。そして美緒殺害による暗転、ここでは緊張させすぎてはいけないけど緊張がないのもよくないという難しいシーンに良く仕上げたと思う。その中で峰水が怪しい台詞を吐き、コナンが謎解きをして犯人解明か?と思った瞬間に爆破事件が起き、物語がさらに暗転する。楽しいパーティは既に消えており、緊迫感溢れる脱出シーンへと物語が進み、この中で「少年探偵団」やコナンと蘭が孤立するよう無理のない経緯で描かれる。そして大迫力の連絡橋落下シーンが、ノンストップアクションになりかけた物語の流れを止めたところで、次の物語へと入って行く。
最後はコナンがA塔60階に戻り、「少年探偵団」とともにビルから脱出して物語の終わりで一区切りだ。コナンが仲間を救うべくエレベーターで上へ上がるシーンがとても印象的で、これを機に「少年探偵団」の脱出劇を通じての本作のメッセージ「仲間の絆」を強く打ち出してくる。ただそれだけでなく、起きた事件の謎解きもちゃんと忘れない。そしてコナンと犯人、それに「少年探偵団」はさらなる爆破で完全に孤立し、ハラハラドキドキの大脱出を迎える。この大脱出劇だけでなく、その前後の流れもとても良く、さらに大脱出を成功させた後の余韻や「オチ」も本当に良くできていると感じた。
そしてそれぞれの区切りの間には、大小あれどその「つなぎ」となる物語を挟んでいる。最初は光彦と歩美が蘭に恋愛相談を持ちかけ、蘭がその内容について新一と電話で語るシーンがそれに当たる。次は毛利探偵事務所の前での待ち合わせシーン、園子が髪型を変えて登場し歩美がそれに倣おうかと考えるシーンがこれに当たる。そしてもう一つはコナンと蘭の決死の脱出シーンがこれに当たる。これらの「繋ぎの物語」はただ単に物語を進めるのでなく、それぞれが「普段のコナン」で設定付けられたキャラを活かしており、本筋に直接関係なくても実に印象的な物語となっている点が凄いと思った。この「繋ぎの物語」から名台詞がみっつ出ていて、しかもひとつは★×5評価なのは自分で採点して驚いた点だ。
本作が訴えようとしているメッセージは、当欄でもしつこく書いてきたように「仲間の絆」であろう。劇場版「名探偵コナン」では始めて「少年探偵団」を準主役に上げ、主人公と共に大ピンチから自分達の力で生還しようとする。その脱出劇については一人一人にちゃんと役割が振られ、その一致協力があって始めて脱出に成功したという描かれ方をしている。これは一人犠牲になる道を選んだ哀に「そんな必要は無いのですよ」と突き付けるだけの説得力はあっただろう。
同時に、この大脱出で「仲間の絆」が描けるように、様々な伏線を物語の中で張ってあった。元太が米粒ひとつ残さず食べるというキャンプシーンもそうだが、なによりも哀の苦悩が表面化し、その上で「少年探偵団」が哀を元気づけるシーンは無くてはならなかったと思う。これで哀が「少年探偵団」の面々を仲間と認め、決死の大脱出を一致協力することに説得力が出るし、何よりも「自分だけ犠牲になろう」と一度は考えてしまう点にも説得力が出たと思う。
個人的にはこの映画を見ていて、特に後半がノンストップで進んでいくこともあって100分が少し短く感じた。それほど「手に汗握る」シーンが多かったとも言える。劇場版作品に必要なスリル、そして冒険が上手く描かれたことで、映画館で見るべき「非日常」の物語としてうまくバランスを持って完成していると言える。これは普段の物語がコナンや蘭などの日常生活の中で起きている物語であることを思えば、重要な点であるはずだ。
この作品を見るまでは「名探偵コナン」について「えらそーなガキが事件を解決する物語だろ」という印象を持っていたが、本作で描かれたそのメッセージ性を見て「これは子供に見せなきゃダメだ」と考えを新たにした作品となった。今のところ「名探偵コナン」の劇場版では、最も気に入っている作品である。
・登場人物
本作では「名探偵コナン」のメインキャラクターについては、「普段の設定」を活かしてそのある部分を伸ばすというキャラの使われ方をしている。「名探偵コナン」の劇場版は何作か見ているが、劇場版ではこのようなキャラの使われ方をされるのは定番と見て良いだろう。
主人公コナンについては、本作では「少年探偵団のリーダー」的な役割を鮮明にしているのがポイントだ。本来、「少年探偵団」は光彦・元太・歩美の三人でコナンや哀は付き合わされているような描かれ方をされているが、その中でもコナンが自然にリーダーシップを取っている描かれ方である。まぁ小学生の中に一人だけ17歳が混じれば自然にそうなるのだが…冒頭のキャンプから最後の脱出までコナンが「少年探偵団」と哀を上手くまとめているのは印象的だ。それは「少年探偵団」が活躍するシーンだけでなく、哀の苦悩が描かれるシーンでも同じことが言える。実は「名探偵コナン」でこの役を取っているのは阿笠であることが多い。同時に「事件」の推理の誘導役も果たしているが、これは「普段の設定」通りと考えて良い。
哀はそのキャラクターが誕生した設定を活かし、本作では物語の前面に押し出されてきたとみていいだろう。その初登場から「姉への思い」が強いという描かれ方が一貫していたので、本作のように「姉の声が聞きたい」と姉の家の留守電に電話を掛けるという展開は、唐突でも不自然さが無くて良い。それを発端に「自分は何者になってしまったのか?」という苦悩を演じて物語に伏線を張って行くのは「物語」のところで語った通りだ。同時に前半ではその不審な行動から見ている者の不安を煽る役目と、後半は「少年探偵団」をコナンに代わってまとめ上げたり、脱出に一ヤマ置く役割も持っている。そして最後は上手くオチまでつける、本当に本作は哀の出番が多い作品であった。
哀の代わりに出番が減ったのは阿笠だろう。「少年探偵団」や哀が絡む物語だと、「少年探偵団」を可愛がっており、哀の保護者でもある阿笠の出番が多くなるのは定番だが、本作ではその定番が崩れている。「少年探偵団」のまとめ役を完全にコナンに奪われ、コナン不在時には「少年探偵団」と別行動だという展開がその理由だ。彼が目立ったのは冒頭のキャンプシーンくらいで、後は画面の端っこにいるだけの事が多かった。おかげで名台詞にも恵まれていない。
「少年探偵団」は本作で主役級の活躍をしたと言って良いだろう。冒頭ではいつもの「少年探偵団」で見るべき所は少なかったが、元太の何気ない台詞が最終盤への伏線になると共に、「30秒当てゲーム」という重大な伏線を最初に示している。本筋である事件の解決や推理という部分でも、彼らは自分達で聞き込みをするなどしてコナンを関係者の元に誘い出し、コナンや視聴者が犯人に行き着くヒントを多く引っ張り出すことに成功している。佳明殺人についても同様で、彼らが現場に引っ張り出したからこそコナンや視聴者は若松殺害と違う「特異性」を見つけることになる。そして後半では様々な理由から孤立したことで、コナンを真犯人の元に呼び寄せる役割を持つと共に、ハイライトシーンであるパーティー会場からの大脱出劇を「仲間」というメッセージを添えつつ演出して行く。その大脱出劇の中でそれぞれがそれぞれの役に徹し、その結果で全員を助け出すというストーリーは彼らの存在があるからこそ作り出せた物だ。
「少年探偵団」を矢面に出したために出番が削られた人物に、蘭と小五郎も挙げられるだろう。とは言え元々出番の多い蘭については、出番が減らされたとは言え本作ではかなり重要な役回りをしている。特にコナンと二人でのビルからの脱出については、「新一への思い」を上手く演じた名シーンであることは誰も否定しないだろう。
そして本作の登場人物で注目すべき使われ方をしたキャラは園子である。多くのキャラクターが「いつもの名探偵コナン」の人物設定に沿った、またはその延長線上でのキャラの使われ方をしているのに対し、園子だけは普段と逆の役回りになっている。何度も書いているが普段の園子の役回りは、「大金持ちのお嬢様」という設定でコナンや蘭を「事件現場」に連れ出す役割を持っている。別荘、山荘、旅行、乗り物、美術館…という「名探偵コナン」を彩る多くの事件現場は、園子が金に物をいわせてコナンや蘭を連れて行った場所だ。だが今回はコナンや蘭に「事件現場」へ連れて行かれるという役回りであり、その中で「黒の組織」が付け狙う「シェリー」と人違いされるというピンチを演じる役だ。だがこの使われ方の変更で園子が目立たなくなってしまったのは否めない、彼女は自分が連れ出した先で嫌味の無いように自慢するのが味なんだけどなーと私は思う。
本作のゲストキャラも多彩だが、正直言って美緒と峰水以外は余り印象に残らなかった。まぁ若松はスケベオヤジを演じたかと思ったらすぐ殺されちゃったし、佳明も「子供好き」を一度演じたらすぐ殺されてしまったから仕方が無い。ちなみはおっちょこちょいで犯人に間違われるというそんなイメージだけが残るし、英彦は犯人と疑われることすらなかったので本当に印象に残らない(美緒殺害直後は空気になってたし)。ゲストキャラで最も目立ったのは峰水というのも皮肉で、単に犯人だからでなく、犯人とわかった後の彼の行動がとても迫力があり印象深かったからこそだという点だ。この辺りでは殺害されてしまったキャラクターの不憫さを感じずにはいられない。
最後に名台詞欄登場回数であるが、主役のコナンがトップに立つのはある意味当然だが、同着に哀が着けているのはこの物語での哀の存在の大きさが表れている証拠だろう。これは第2位の面々にも言えることで、「少年探偵団」の出番の多さと峰水がどれだけ目立ったかと言うことを示している。後は一度だけ登場の人達だが、「少年探偵団」で唯一元太がこっちへ入ってしまったのはちょっと可哀想だ。また「名探偵コナン」の準主役とも言える蘭がここにいるのも予想外だ。
名台詞登場頻度 |
順位 |
名前 |
回数 |
コメント |
1 |
コナン |
3 |
やはり主人公、と言いたいが本考察では思ったより名台詞に恵まれてない。最も印象に残ったのは「パンツ丸見え!」だが、その前の蘭との電話の後でボヤく台詞は、彼の苦悩が上手く滲み出ていると思う。 |
哀 |
3 |
本作で主人公に負けない活躍をしたのは彼女だ。物語の前半で印象深い台詞を数多く吐いている。特に学校の教室で「私には席がないの」と訴える台詞は、彼女のもつ苦悩が上手く表れ本作では最も印象的な台詞のひとつであった。 |
2 |
歩美 |
2 |
「少年探偵団」の紅一点、歩美がこの順位につけてきた。やはり印象深いのはビルからの脱出直前、「コナン君と一緒ならできると思う」の台詞には彼女の様々な思いが込められていて好印象。名台詞欄で取り上げた以外にも印象深い台詞あり。 |
峰水 |
2 |
本作のゲストキャラ、特に犯行の動機を語る台詞は迫力があってとても印象深い。また自分の犯行をとぼける台詞も、自分が逃げようとする必死さをうまく演じている。さすがはベテランの永井一郎さんだと唸らせる演技だ。 |
光彦 |
2 |
「少年探偵団」の頭脳キャラである彼だが、最後の「離しませんよ!」は短い台詞ながらも迫力があって印象深い。惚れっぽいという設定だけでなく、「男だから女の子を守る」という義務感の強さも、普段の「名探偵コナン」で演じてきたからこそ活きた台詞だ。 |
4 |
小五郎 |
1 |
実は「名探偵コナン」を取り上げるにあたり、コナンにより眠らされている小五郎の台詞が名台詞欄に上がったらどういう扱いにするか悩んでいた。彼の名台詞は「老いた自分」というものを考えさせられる、何てことないけど深い台詞だ。 |
園子 |
1 |
お嬢様キャラの園子は、普段はキャラクターを事件現場に誘う役回りだが今回は誘われる役でありあまり目立たなかった。彼女唯一の名台詞は、これが事件のきっかけと後から「来る」もの。また歩美が同じ台詞を後で吐くのも印象深い。 |
蘭 |
1 |
今回は準主役を「少年探偵団」に持って行かれてしまったため、彼女としては目立たない役回りとなった。だが彼女の名台詞は「生きる」「信じて待つ」という、彼女の生き様が上手く出ていて本作でも最も印象に残った台詞のひとつだ。 |
元太 |
1 |
「少年探偵団」のジャイアン的立場である彼は、名台詞には恵まれなかったが終盤で「哀を助ける」にあたって最も美味しい役回りと、最も美味しい台詞を取った。哀を米粒に例えた事はどうかと思うが、彼に「仲間」という意識が強くあり、とても印象深い台詞だった。 |
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