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…余興のゲームが終わると、いよいよパーティのメインイベントだ。だが、そこでパーティ出席者が見たものは…?
名台詞 「そんなことでは人を殺めようとは思わんよ。それより、さっきの君らの話によると、これは連続殺人ということだが? だとしたら、二件目の原君の時にアリバイのある私は、犯人とはいえないのじゃないかね?」
(峰水)
名台詞度
★★★★
 峰 水 必 死 だ な 。
…って、この台詞を聞くとわかるもんだがなぁ。私は初見の時、この台詞を聞いて「連続殺人の犯人は峰水」という推理を立ててしまった(コナンより先だぜ!)。それが正しいかどうかは、この考察を最後まで読めばわかること。
 余興のゲームが終わり、いよいよツインタワービルに飾られる峰水作の富士山の絵画がお披露目されることになる。だが幕が開くと、その絵画の前に首吊り死体となった美緒の姿があった。この一方に警察も駆けつけ、犯人捜しが始まる。小五郎が「美緒が峰水の絵を高く売りつけていたことを峰水が恨んでいた」旨を言うと、峰水はこう返すのだ。
 そう、峰水はその必要もないのに必死になって自分の潔白を語り出す。アリバイのある峰水は、これが「連続殺人」として警察が捜査している以上安全圏にいるのであり、余計な口出しをするべきではなかったのだ。この美緒殺害事件についても知らぬ存ぜぬだけで通せたはずだ。
 そして決定的なのは最初の一言、「そんなことでは人を殺めようとは思わんよ」が峰水が犯人であることを強く示唆している。この台詞を裏返せば、その程度のことでなければ人を殺めるということだ。警察関係者もこの失言に気付けよ…目暮が「それは、どういうことかな?」と落ち着き払って追求すれば、すぐにボロがでるところだぞ。
 この峰水の失言は、本当に上手くできている。犯人が現場で、犯人だからこそ口を滑らせてしまいそうな台詞を、うまく再現していてとても印象に残った。
名場面 事件の鍵 名場面度
★★
 事件を受け、目暮ら警察関係者と小五郎が状況から花人を推理する(そんなことしている場合じゃなかろうに)。だが英彦の証言で状況は一転する、彼は事件直前に誰かが美緒の元に近付いたと証言するのだ。するとちなみがそれが自分であり、美緒と段取りの確認をしただけだという。これを受けて小五郎がデタラメな推理を始めるが、それにコナンがケチをつけると、コナンは舞台袖に突き飛ばされる。
 舞台袖には哀がいて「苦労しているようね」と声を掛ける、「お前も知恵を出せ」と訴えるコナンに哀は「美緒はお酒で相当酔っていたはず、そうでなければ(殺害されることに)気が付くはずだ」とする。この言葉にハッとしたコナンは、舞台袖に美緒の首飾りについていた真珠を見付ける。何かがひらめいたコナンが、峰水、ちなみ、英彦を視界に入れ「あの人が犯人だとしたら…」と呟き、今度は富士山とは反対側の窓辺に走る。そして「動機」を理解すると、今度はバーカウンターの酒瓶を見て「なるほど、あれはそういう意味だったった訳か!」と呟く。そしてこの事件の全貌が解けたと、高らかに宣言する。
 コナン一人にとってだが、事件の「鍵」が回り事件の内容がハッキリするところだ。このようなシーンは劇場版に限らず、「名探偵コナン」の名物でもあろう。その画面の中、あるいはキャラクターの台詞に、その「鍵」をキチンと含ませ。勘の良い人はその場で、そうでない人は最後まで見終えた後に、どれがどのように事件に関わっているかわかるように出来ている。
 ここでの鍵はまず哀の台詞「(美緒が)お酒で相当酔っていなければ…」がひとつ、なのに美緒はそんなに酔ってないことは見る者は理解出来ている。つまり美緒殺害は美緒の首飾りと関係する人物の犯行であること。次にコナンが「富士山と反対側」の景色で犯人の動機を知った事、つまりコナンが確認した場所からこっちを見れば「見えたはずの富士山が見えなくなっているはず」であること。ここから導き出される犯人は…もう言うまでも無いだろう。
 そしてバーカウンターにあった酒瓶は、「黒の組織」の構成員のコードネームにある「ジン」。つまりこの事件の何処かで「黒の組織」が関わっていることだが、私はこれの意味は所見で推理出来なかった。後から言われると「そういう事なのね!」とは思える内容だが。
 ここからの楽しみは、どうやってコナンが証拠を掴んで犯人を確定されるかという点と、「黒の組織」が誰の事件でどう関わっているかだ。そしてそこに辿り付くまでに、本作ではとんでもない冒険が待っているという凄いストーリーだ。
研究 ・峰水の絵画を公開
 う〜ん、何度見てもこのシーンは不自然だなぁ。
 なんで社長がメインの舞台とはいえ、舞台の演出操作を社長秘書がやるのかなぁ。ふつー、こーゆーのは舞台演出業者みたいなのが出てきて、そういうのに任せるんじゃないかと。
 照明効果があると言うことは、何処かに照明関係を調整する席があるはずだし、音響調整だって欠かせないだろう。何よりも窓際に出てきた巨大な液晶パネル、あれの上げ下げの操作や映し出す画像の操作もあるはずで、ここに上げただけでこのパーティの裏方スタッフは10人以上になるはず。
 特にちなみがやっている舞台操作なんか、一人で全部出来るとは思えないしなぁ。
 ひょっとして「TOKIWA」って会社、こんな豪華な本社ビルを建てたばっかりにとても貧乏になってしまったのかな?
 いや、物語の演出上ってはなしでもないのよ。確かに演出上、ちなみには舞台の袖にいてもらいたいのだが、だったら舞台操作を直接やっているのでなく、それを任せた業者に指示命令を出しているという立場でも、よかったんじゃ?
 あ、そんな事したら舞台上での容疑者候補が増えるだけか。

…コナンが事件の全容に気付いたその時、ツインタワービルにある異変が訪れる。電気室やコンピュータ室が何者かに爆破され火災が発生、パーティ会場も停電する。
名台詞 「だ、大ピンチじゃないですか!」
(光彦)
名台詞度
★★
 名場面欄シーンを受け、エレベータの扉が閉まり「少年探偵団」一行は停電したビルの闇の中に放り出される。「やだ真っ暗、何処かどこだかわかんないよ…」と歩美が不安を口にし、「どうすんだ? 腕時計型ライト預けちまったぞ」と元太が自分達の現況を突き付ける。すると光彦が元太に返す言葉がこれだ。
 これは「そんなのはわかりきっている」っていう内容の台詞でしかない。灯り1つ持たないまま火災による停電中のビルを彷徨うことになるのだから、誰がどう見ても「大ピンチ」以外に考えられないだろう。
 だが光彦というキャラクターは、このようにして常に自分達が置かれた状況を計算し、再確認するというキャラクター性を背負っている。その結果口から出てくる言葉が冷静沈着な判断であったり、自分達の状況を面白おかしく再現する台詞だったり、この台詞のように自分達が置かれた状況をストレートに包み隠さず短く表現するものだったりと、内容は多彩だ。つまり光彦はコナンや哀以外の「少年探偵団」メンバーでは唯一、年相応以上の賢さとキレの良さを持っていて、その頭脳をフルに活かして自分達が置かれた状況を冷静に判断し、必要に応じて解決法もコナンや哀に頼らず自分で出すというキャラクター性を持っている。この台詞はそんな彼の存在理由を上手く示している。
 実はこの大ピンチ、一般的な年相応の子供達ならそうと認識しないかも知れない。彼らは火災の炎をまだ見ていないし、問題は灯りがないという点が主だと思っているからだ。だが光彦のこの一言は、灯りがないことが致命的であり自分達の脱出が上手く行くかどうかと瀬戸際に立たされていることも上手く計算してはじき出されている事を示唆している。これは年相応の子供達には難しいだろう。
 このピンチを救うのは一緒にいた哀だ。彼女は余興に参加しなかったので腕時計型ライトを預けずに済んでいたのだ。これで灯りを得た一行は一刻も早く脱出すべく走り出す。このライト、腕時計におそらくは高輝度のLEDを仕組んだものであり、「少年探偵団」のアイテムとして活用されているのだ。
名場面 66階 名場面度
★★★
 突如の爆破火災とそれによる停電、最上階のパーティ会場は大混乱となるが目暮警部の的確な指揮により「男性は階段で連絡通路のある60階へ下りる」「女性と子供と年寄りは別電源で動いているVIP用展望エレベーターで下まで降りる」という避難方法が採用された。これに従い、最初のエレベータには数人の女性客の他「少年探偵団」の3人と哀が乗り込む。コナンと蘭が続こうとしたところで定員オーバーとなる。
 エレベータは順調に下るかに見えたが、66階に停止して扉が開く。そこには余興の際に小五郎の近くにいた赤ん坊連れの女性の姿があった。これを見た「少年探偵団」と哀は光彦の「どうぞ」の一声と同時にエレベータから降りる、「僕たちは非常階段で60階の連絡橋で避難しますから」と光彦が、「下で会おうぜ」と元太が語り、歩美は「早く早く」とその女性をエレベータに押し込む。「ありがとう、坊やたち」女性が礼を述べるとエレベータの扉が閉まる。
 何でもないシーンに見えるが、これは後から「来る」シーンの1つである。高層ビル火災という異常事態から無事避難出来るかに見えた「少年探偵団」と哀が迎えた、「曲がり角」的シーンなのだ。ここに「火災を起こしているビルに取り残される」という彼らの大冒険が始まる。このシーンをきっかけに、いよいよ脱出の瞬間まで続くノンストップアクションムービーへと物語が大きく変化するのだ。
 またここで、余興の30秒当てゲームのシーンで出てきた母子を上手く利用している。彼女はあのシーンで自然に姿を消していて、この異常事態シーンで描き忘れられても不思議でない存在だった。だが実は「少年探偵団」一行を大ピンチへと導く伏線であったことは全くの予想外で、感心させられたシーンだ。
 しかし、この避難シーンで描き忘れられているキャラクターは他にある。殺害された美緒の遺体は何処かへ消えているし、余興の商品紹介シーンで出てきた子供達も描き忘れられているのだ(後者は姿があれば台詞等いらないのに…)。
 それともう一つ、エレベータに乗っている人達の冷たいこと。生命を賭した避難なのは理解するが、途中の階で乗り込もうとした人に場を譲る子供達に、「自分が代わる」と言い出す大人がいないというのは…って、それじゃ話にならなくなるか。
研究 ・ツインワタービルの杜撰な災害体勢
 ツインタワービルの電気室とコンピュータ室が何者かに爆破され、ここから火災が発生する。最上階ではオープンパーティが開かれていたが、社長が殺害されるという事件で中断したばかりのところだった。物語はこの火災をきっかけに「少年探偵団」を中心にした冒険譚へと変化して行くのだが、今回はこの火災とツインタワービルについて語ろう。
 火元は地下電気室と40階のコンピュータ室、地下の電気室を爆破された際に非常電源も同時に爆破されたという設定のようだ。火は瞬く間に燃え広がり、火元階全体が瞬時に炎に包まれたと考えて良い。
 一般的なビルの場合、このような火災が起きれば初期消火システムとしてスプリンクラーが作動するはずだが、本作ではこのシステムも非常電源を含めた電源系のダウンにより動作しなくなったとされている。これはスプリンクラーの構造を考えれば十分に起こりうる話だ。スプリンクラーは加圧した水配管の先に、熱を感知して自動的に開くスプリンクラーヘッドを取り付ける構造だ。この水配管への加圧に電動ポンプを使う例が多く、この場合は停電すれば加圧が停止してスプリンクラーは動作しなくなってしまう。このために大規模設備ではディーゼル発電機などバックアップシステムを備えているが、本作ではこのシステムまで爆破されたらアウトだった…と解釈すれば良い話だ。
 火災が発生するとビルの防災センターから避難誘導が指示される、一般的なビルなら全館放送のはずだが…このビルではパーティー会場の担当社員の携帯電話にその連絡が行く。これは絶対にあり得ない。この社員が担当する部署を全て掌握できるはずがないからだ、現に今回はパーティ参加者の一人が無断で66階に移動している(この人は誰からも避難誘導指示を受けていないはずだ)。このような事態に備え、全員が効く事が出来る防災放送設備があって全館放送されるはずだが…それがないのだ。このビルの中で一人になったらと思うと、ゾッとする。もしその時に大地震が発生しても、避難誘導指示が届かないのだ。
 そして、居合わせた警察官が場を掌握して避難誘導指示を出すって…これはおかしい、本来なら訓練を受けたビルの社員がその状況に応じた避難方法を指示するはずだ。なのにこのビル社員は「VIP用展望エレベータは動くかも知れない」…「知れない」じゃねーだろ。お前はそれが「動く」か「動かない」か明言出来る立場でないとダメなんだよ。
 つまり、このビルでは社員ですら避難誘導方法だけでなく、避難用設備についても知らないと言うことだ。もちろんそんななら、避難訓練も行われているはずがないであろう。恐ろしい、こんな恐ろしいビルは物語の中とはいえ始めて見たぞ。皆さんもこの「西多摩ツインタワービル」を訪れることがあったら、自分がいる間に災害が起きないことを心から祈ろう。私ならこんな災害時対応が杜撰なビルだと知ったら、絶対に私用では中には入らないけど。

…一方、コナンや蘭や園子、それにちなみらは2回目のエレベータ避難で地上を目指す。そこに「黒の組織」の魔の手が忍び寄る。
名台詞 「園子姉ちゃん、パンツ丸見え!」
(コナン)
名台詞度
★★★★
 コナンや蘭や園子を載せた展望エレベーターは地上を目指して降りて行く。この時、コナンは髪型を変えた園子が志保にソックリであることを思い出す。「まさか?」と思って向かい側のビルを、秘密兵器のメガネを使って望遠で見てみると、その屋上にライフルを構えるジンの姿を確認する。そしてジンのターゲットからハッするレーザーポインタは、園子のこめかみにあることにコナンが気付く。園子の生命の危機を知ったコナンが慌てて発した言葉が、この台詞だ。
 上手くできている。もううまく出来過ぎ。「パンツ丸見え」という言葉にはそれで騙される園子のキャラクター性が上手く出ているし、なによりもコナンの「設定」というのも上手く表現されている。そう、コナンが園子を避けさせるための言葉を吐くにしても、「7歳の男の子が大人をからかうために使いそうな言葉」でなければならす、かつ「園子のキャラクターならそれに騙され身を屈めることになる言葉」で無ければならない。ここまで瞬時に考えてこの台詞を放ったなら、コナン=工藤 新一は天才であり、17歳にして「名探偵」として名を馳せたという設定に説得力が生まれる。そういう意味で本当に上手くできている。
 もちろん、この台詞で園子は身を屈め、その瞬間にそれまで園子のこめかみがあった場所を正確に銃弾が貫いて行く。コナンは天才的な一言で恋人の親友を救ったのだ。台詞の内容は天才的には聞こえないが。
 だが、園子の生命は助かったがエレベータに乗っている彼女たちは、火災中のビルでエレベータに閉じ込められるという大ピンチを迎える。だがこれはコナンの機転と、蘭の馬鹿力(笑)であっけなく解決。一行は隣のビルに避難すべく、連絡橋へと走るのだ。
名場面 落橋 名場面度
★★★★★
 1回目のエレベータを66階で下りた「少年探偵団」一行は60階の連絡橋を目指して走る。エレベータの停止というピンチを乗り越えた2回目のエレベータ一行も、45階の連絡橋に差し掛かる。その時、ジンとウォッカが「シェリー」を確認出来ないことを携帯電話で語り合い、ジンは「箸を落とせ」と命令する。もう2回目のエレベータ一行は連絡橋を渡り始めている。「少年探偵団」も連絡橋を目前にしている。「少年探偵団」が連絡橋に差し掛かったその瞬間、爆破ボタンが押されるのだ。60階連絡橋が爆破され、差し掛かっていた「少年探偵団」一行は慌てて引き返す。そして60階連絡橋の落下に気付いたコナンと蘭は足を止め、蘭が「危ない」と叫んでコナンを抱きかかえて引き返す。そこで落ちてきた60階連絡橋が45階連絡橋を破壊し、2つとも地上に落下する。人的被害は防げたが、「少年探偵団」一行が60階で、コナンと蘭が45階でビルに閉じ込められた。しかも45階のコナンと蘭の場所には、もう煙と炎が迫っている。
 文字で説明するのがとても困難な大迫力シーンだ。この落橋シーン迫力がどれほどのものか、興味のある方はDVDを買うなり借りるなりして是非とも見て頂きたい。見て頂ければこのシーンに私が★×5の評価をつけたかご理解頂けるだろう。
 また物語の根幹を成すキャラクターである「少年探偵団」一行とコナンと蘭が、ギリギリのところで免れるという設定も迫力を増すし、何よりもどちらも橋を渡れずに閉じ込められるという設定がまた見る者に不安と期待を与える。さらにここではまだハッキリしないが、「コナンと蘭」と「少年探偵団一行」がお互いに「ビルにとの残されている」という事を知らないという点も物語を盛り上げる要素として大きい。ここはまさに物語が最も盛り上がる所のひとつだ。
研究 ・狙撃
 今回取り上げた部分は物語のヤマ場の1つであると言っても過言ではない。いよいよ「黒の組織」が裏切り者である「シェリー」暗殺へと動き出す。このビルに「シェリー」が現れるのは本人からの情報であるから事実と考えても良いかもしれないが、留守電のメッセージだけを根拠に裏を取らずに暗殺行動を開始する彼らって…そんな話はどうでもいい。
 問題のシーンは、二度目のエレベータのシーン(名場面欄参照)。ジンが向かいの他のビルから、「シェリー」と見られる人物(髪型を変えた園子)を狙撃するシーンである。このシーンを考えれば考えるほど、彼の射撃の腕の凄さが浮かび上がってくる。さすがにゴルゴ13には叶わないが、日本のアニメ・漫画史上でもトップクラスの射撃の腕である。
 この狙撃がどれほど凄いかをまとめてみる。まずは「ジンがいたビルとツインタワービルの距離」、次にジンが放つ弾丸の弾道、続いて「園子が乗っているエレベータの速度」が問題となるので、ここから追求しよう。
 まずはジンがいたビルとツインタワービルがどれだけ離れていたかだが、これはジンが放った弾丸の速度から計算するしかない。ライフル銃の弾丸の速度(初速)は秒速800〜1000メートルと言われている。これは「名探偵コナン(劇場版)漆黒の追跡者」(2009年作品)でも語られている。ここでは空気抵抗等で速度が落ちる分などを勘案して、秒速800メートルで計算したい。ジンがライフルを放ってからエレベータの操作盤に弾が当たるまで6秒20。つまり4960メートルも弾が飛んだことになる。もうこれだけで凄いが、ジンは約5キロも離れたビルから正確に園子の頭を射貫くよう計算して狙撃したのだ。
 さらに弾は真っ直ぐ飛ぶわけでない、弾丸は重力に引かれて斜め下へ飛ぶことになる。この計算法は本作の今後のシーンでも出てくるが、これに従って計算すると弾丸は185メートルも落下している事になる。ツインタワービルの高さの半分を超えている。弾丸が飛んできてエレベータの操作盤を破壊したのは劇中描写から見て47階、単純計算すればその高さは約200メートル。ジンは正確に園子のこめかみを射貫くため、ツインタワービルと同じ標高であれば高さ385メートルのビルの屋上にいたことになる。これって、ツインタワービルより高いぞ?
 さらに、エレベータが動いていることを考慮しなければならない。該当シーンを見ていると、展望エレベータは1フロアごとに窓枠で区切ってあり、コナンが窓の外を見るシーンやジンがスコープ越しにエレベータを見ているシーンでは、この窓枠がぴったり1秒おきに通過する。ツインタワービル1フロアの高さを単純計算すれば4.25メートルだが、ロビー階やコンサートホールなど天井が高い階もあるだろうから、一般的なオフィスビルと同じワンフロア4メートルとして良いだろう。すると秒速4メートル=14.4km/hである。以外に遅いな、このエレベータ。
 だがまとめてみると凄い。ジンの狙撃は5キロ離れた90階建てビルの屋上から、秒速4メートルで動く標的を正確に射貫いたことになる。これは新宿の東京都庁の屋上から、池袋のサンシャイン60の中層階を狙撃するようなものだ。ハッキリ言おう、ありえねー。だいたい弾丸が6秒も飛んでいることがおかしいのではないかと思う。
 仮にそれが可能だとしても、ジンの照準機には重力に引かれる弾道と、エレベータの速度がインプットして補正してあると考えられるが、そうだとしてもあの長いライフル銃を手で持って正確に射貫くのは困難だ。それは必ず「手ぶれ」を起こすから、皆さんもデジカメの望遠撮影で画面が揺れて構図がなかなか定まらなかった経験をお持ちだろう。あれと同じことが起こるのだ。
 また考えちゃいかんことを考えちゃったなぁ。次行こう、次。

…連絡橋の崩壊により、蘭とコナンはA塔45階に閉じ込められる。その背後には火元の40階から伸びてきた火の手が迫っていた。
名台詞 「怖いよ。でもコナン君が一緒だし、新一が待ってって言ったから。生きて新一を待ってなくちゃいけないから………コナン君、私……。」
(蘭)
名台詞度
★★★★★
 連絡橋が破壊されたことで取り残されたコナンと蘭に火の手が迫る。既に彼らが取り残されている場所には煙が充満、コナンが咳き込んでいる。その様子を見た蘭が小さく頷くと、彼女は近くの消火栓から消火ホースを取り出して自らとコナンの身体に巻き付ける。つまり、消火ホースを命綱に火元階の下まで飛び降りようという作戦だ。
 「蘭ねえちゃん、まさか…」と狼狽えるコナンに「映画みたいに上手く行くかわかんないけど…しっかりつかまってるのよ、コナン君」と今度は力強く語りかける。そして蘭はコナンを抱き上げ、連絡橋が落とされた突端部に立つ。さすがに蘭の表情は恐怖に歪む、「蘭ねえちゃん、怖くないの?」とコナンが静かに問うと蘭は静かに、そして力強くこう答えるのだ。
 「名探偵コナン」という物語の要素の1つに、「蘭と新一の恋物語」というのもあるはずだ。しかも男の新一はコナンに姿を変えて目の前にいるのに、女の蘭はそれを知らずに「新一が遠くへ行ってしまった」との前提で新一を想い続ける。そんな蘭が主導の恋物語だ。このシーンではその蘭の気持ちを「生還への動機」として上手く利用している。蘭はこのピンチから生き残るということに対し、明確な「目的」を持っているのだ。
 もちろんその目的とは、「もう一度新一と会う」というそれだけである。新一に会い、自分の口から新一への想いを告げる事、新一の口からその返事を聞くこと。だったそれだけの目的が彼女の中に「生きて帰らねばならない」という強い欲求として存在し、彼女がこの大ピンチでも生還への道を探り、それが無茶なことでも賭けると言う意思に繋がる。この蘭の新一への思いが強く描かれとても印象的な台詞だ。
 新一も新一で蘭を想い続けている。だがコナンの身体ではそれを告白することも、関係を進めることも出来ないジレンマに苦しんでいる。その想い続ける女性が自分の正体も知らず、このように唐突に愛の告白を受けたことは一度や二度ではない。台詞を聞いて驚いた表情のコナンであったが、すぐに笑顔に戻り「大丈夫だよ、蘭ねえちゃん」と語りかける。そしてその続きは新一の心の声となって「おめーの気持ちは痛えほどわかってるからよ」と続く。この心の声が蘭に響いたのか、蘭の脳内シーンとして「キックオフ」風に蘭と新一が見つめ合うシーンとなる。と思うとシーンは現実に戻り、蘭はコナンをしっかりと抱き締めたままついに飛び降りる。もちろん日本の漫画史上1・2を争うスーパーガールである蘭だ、この決死の脱出を見事クリアする。コナンじゃないけど、「やっぱすげえわ、蘭ねえちゃん」とこっちも言いたくなってしまった。
名場面 コナンのジャンプ 名場面度
★★★
 名台詞欄シーンを経て、地上に降りてきたコナンは犯人が下にいないことに気付き阿笠に問う。阿笠は犯人を見失ったことだけでなく、子供達(少年探偵団)の姿も見えないとコナンに告げる。コナンは「少年探偵団」アイテムの1つである、トランシーバー組み込みバッチで一同を呼び出す。60階連絡通路前にいた「少年探偵団」一行はコナンの声に安心するが、光彦が沈んだ声で現在地を告げる。その内容にコナンは「あんなところにいるのか!」驚き、目暮が救助ヘリを手配するのも構わずターボエンジン付きスケートボードを持って走る。軽快なBGMが流れる中、コナンがエレベータで60階へ向かうイメージシーンへと切り替わり、続いてコナンは消防士から懐中電灯を奪ってスケボーに乗る。スケボーのエンジンが唸る、そして一気に加速すると落橋して消えた連絡橋をひとっ飛びし、A塔に見事滑り込む。「すげーな」と元太、「かっこいい!」と歩美、「まさに救世主です」と光彦が語り、「感心している場合じゃねーぞ」とコナンが返す。
 やはり、このような冒険ストーリーになったら欲しいのは、非現実でもいいから主人公による派手なアクションシーンだろう。仲間を救うためにまた自ら危険に飛び込んで行く、その手法はもう「無茶」としか言いようのないとんでもない内容だ。いくらエンジン付きだからと言っても、スケボーでビルとビルの間を飛ぶなんて…でもこの非現実さが、この仲間のピンチを救うというシーンにぴったりはまる。これが現実的にシーンであれば、盛り上がりに欠けるところだ。
 またこのBGMも軽快でシーンによく合っている。曲自体は「名探偵コナンのテーマ」なのだが、アレンジを変えて派手なアクションに上手く合致するように出来ている。実は「名探偵コナン」のアニメはBGMがとてもマッチしていて、ここはそのBGMの良さも光るシーンだ。
 この無茶なハイジャンプがあるからこそ、物語は嫌でも盛り上がるし、見ている子供達は物語にどんどん引き込まれて行くのだろう。爆発シーンからここまで、多少の起伏があれどここまでノンストップアクションで来ていて、その果てにこんなシーンが用意されているのだから凄い迫力の映画と言わざるを得ない。
研究 ・ターボエンジン付きスケートボード
 ここでは本来、コナンがB塔からA塔に飛んだことについて考察したかったが、これは「空想科学読本7」(柳田理科雄著)で既出なのでここで取り上げる必要もないだろう。結論だけ言えば「ターボエンジン付きスケートボード」に頼らず、「キック力増強シューズ」を活用すべきだったということになっている。どうしても内容が気になる方は該当の本を買うなりしてご覧頂きたい。
 ここで考察するのは、その「ターボエンジン付きスケートボード」である。このスケボーはコナンが持つ「ひみつ兵器」の中でも、「キック力増強シューズ」に続いて登場頻度が高いだろう。OVA「ルパン三世vs名探偵コナン」では、峰不二子運転のバイクを追跡したことで印象に残っている。
 このスケートボードは、ほぼ確実に劇場版「銀河鉄道999」のパクリと見て良いだろう。だが星野鉄郎が乗っていたスケボーは後輪部分にジェットエンジンが付いていて、これが火を噴いて推進力を得る構造になっていたが、コナンのスケボーは少なくともジェット推進式ではないようだ。
 じつはこの回答は既にオープニングで示されている。阿笠がコナンに持たせている「ひみつ兵器」を紹介する際、このスケボーの図解が出てくる。これによると足下にアクセルボタンがあり、ボード自体はソーラーバッテリーになっていて太陽電池で動くというエコ設計…って、ちょっと待て! 「ターボエンジン」はどうしたんだ、「ターボエンジン」は!?
 ターボエンジンとは過給器付きの内燃機関…内燃機関とはガソリンなどの石油燃料を燃やすことでピストンやタービンを回して動く動力だ。過給器(ターボ)とは、石油燃料エンジンの排気エネルギーを使ってタービン(風車)を回し、エンジンに送る燃料を増やす装置である。過給器のない普通のエンジンと比較するとパワーが大きくなると共に、小さいエンジンの場合はパワーが大きくなることでエンジンに無理をさせる事も減って燃費向上にも繋がる。よって自動車では軽自動車やコンパクトクラスのエンジンに採用されていることが多い。航空機では上空の空気が薄いところでも適切なパワーを出せるのが利点だ。欠点は構造が複雑で冷却系を万全にしなければならないことで、エンジン停止前にアイドリング状態でしっかりラジエータを動作させて冷やしてやる必要がある。
 このターボエンジンの説明を見れば、「ソーラーバッテリー」とかみ合わないことは明白だ。「ソーラーバッテリー」を利用していると言うことは、電動であることは明白だ。これはどういうことなのだろう。
 恐らく、このスケボーはハイブリッドなのだと思う。基本的には石油燃料で動くターボエンジンで動作し、必要によりソーラーバッテリーにより充電した電池から電力を供給してエンジンをアシストする構造なのだろう。そうすると劇中のシーンで、電気制御音が聞こえつつも排ガスのような煙が出て周囲に陽炎が出るという描写も頷ける。
 ただし、この構造だと問題がある。スケボーという大きさの物に、「ターボエンジン」がつけられるかどうかだ。でも調べてみたら、ターボエンジン付きのラジコンカーというのが存在するので、エンジン問題はラジコンエンジンを流用すれば解決だ。例えば後輪をターボエンジンで、前輪をソーラーバッテリーによる電動で動かすという構造であれば、無理なくハイブリッドシステムとして作れるかも知れない。
 でもスケボーという大きさを考えると、航続距離がとてつもなく短そうだ。燃料もそんなに積めそうにないし、何よりも大容量のバッテリーを載せることは難しいだろう。昼間はそれなりの性能が出るけど、夜間はどうだろう。スケボーの正体(というか解釈方)は解っても、いろいろと問題があるなぁ。

コナンと合流した「少年探偵団」一行は、屋上に救助用ヘリコプターが来ることとなったため非常階段を上へ上がる。だがコナンと哀は「少年探偵団」一行に先に屋上へ行くように伝え、再び75階のパーティ会場に戻る。そこには富士山の絵画を眺める一人の男の姿、それこそが事件の犯人であった。
名台詞 「西多摩市の外れに見つけた、小高い丘の上でな。私はその丘に何十年も通い、絵を描き続けた。だが歳を取るに従って、丘を登るのがきつくなってきた。そこで3年前、私は生涯富士山を描き続けるために、丘を丸ごと買い家を建てた。そして、一番良い場所に仕事部屋を作った。その窓からは、富士山が一望出来るようになっていた。それをあの女は…こうしたんだっ!」
(峰水)
名台詞度
★★★★
 75階のパーティ会場で絵画を見ていた男、つまり今回の事件の犯人は日本画家の如月 峰水であった。コナンは爆発火災発生直前に気付いていた推理結果を、ここで峰水に語り出す。美緒の殺害方法、哀が指摘した「美緒が酔ってなきゃ殺害が完成しない」点、佳明殺害はシロであるが自分が犯人にならないよう細工だけはしたこと、若松殺害について…。これらの推理に峰水は「証拠がない」と指摘しようとするが、その証拠までもコナンに暴かれてしまう(この推理の詳細を知りたい方はDVD買うなり借りるなりして本作をご覧下さい)。そこで峰水は自らの犯行であることを認めるが、今度は哀が「動機は何?」と疑問を語る。これに対してコナンが峰水の作品について気付いたことを語ると、それに応えるように峰水はこのように「動機」を語り出す。
 つまり、平たく言えば彼は自宅からの富士の眺めが、このツインタワービルによって遮られたことを恨んでいたのだ。この気持ちは私にも分かる、私は今の家に越してくる前、そこを終の棲家にしようとマンションを買ったが、その部屋からの富士山の眺めは最高だった。そのマンションは色々あって手放したが、もし今でも住んでいて富士を遮るように高層ビルが建ったら…やはりそのビルを造った人物を恨んだことだろう。
 峰水の場合、それは自らの創作活動に関わっている。つまり自宅から見る富士は、自分そのものであり生活の糧であったのだ。そんなものを奪われた恨みを、波平が本当に上手く演じていて最後の「こうしたんだっ!」の部分はものすごい迫力で印象に残る。
 また、この台詞前半の彼が愛でた「小高い丘」に付いて語る部分は、その丘やそこから見る風景への「愛情」までも上手く演じられている。だからこそ峰水がとてもこの丘を愛していて、それが奪われた事でこのような殺害に及ぶという展開に説得力が出る。そんなところまで含んで、まさに永井一郎さんここにありと感じた台詞だ。
 峰水はこの直後、犯行を認めて毒薬を飲んで自殺しようとする。彼は2人も殺害した殺人事件の犯人であるが、根っからの悪人として描かれたわけではないのも好感度が高い。自殺をコナンに止められたことで、彼は高齢ながらも罪を償う覚悟と意思が出来た事だろう。そんなとこまで見えてくる台詞だ。
名場面 謎解き 名場面度
★★★
 犯人が判明し、殺害方法や事件に潜む謎、そしてなによりもその動機が判明するシーンは、「名探偵コナン」に限らず「推理もの」の醍醐味であるだろう。
 本作でもこの謎解きは理路整然と行われ、かつこれまでの物語展開やキャラクター設定と矛盾がないように上手くできている。
 その詳細については、上記名台詞欄にざっと書いた以上の事は言わない。詳細を知りたい方は是非とも本作のDVDを買うなり借りるなりしてみて欲しい。
 また、本作では「名探偵コナン」として珍しく、コナンが自分の口で直接犯人を特定し、事件の推理を語っている点だ。「名探偵コナン」という物語の設定を考えれば、コナンは子供と認識されておりこのような推理を語っても信用してもらえない立場で、いつも小五郎なり園子なりを眠らせて「他人の口を借りて」の推理となる。でも今回は展開上その必要がなくなったのだ。
 その推理に哀が疑問を挟むと、コナンがその謎を語るというリレーも上手い。だが一部で哀がコナンの台詞を取ってしまっているのは、この推理シーン唯一の欠点である。哀には別の役割があるシーンなんだから、あそこはコナンに全部語らせた方がしっくり来ると思うけどなー。
研究 ・ついでに…
 前回研究欄で「ターボエンジン付きスケートボード」について考察したから、ついでだからコナンや「少年探偵団」一行が持つ他の「ひみつ兵器」についても考えてみよう。
 まずは「キック力増強シューズ」。これはベルトに収納してあるサッカーボールとセットで使われることが多いが、本作では単独での使用となる。実はこの靴だけはどんな仕組みになっているのか想像出来ない…公式設定では「足のツボを電気と磁力で刺激」となっているけど、それなら太もも辺りまで電極が伸びているんだろうな…。
 ボールが収納されているベルトは、ボタンを押せばバックルからボールが出てくる。どうやらその場で膨らませているようだ、このボールについても「空想科学読本」で考察されている。「天空の難破船」ではものすごい大きさになったけど…。
 「腕時計型麻酔銃」は、コナンが推理するときに「口を借りる」大人を眠らせるためにある。よく標的にされるのは小五郎のおっちゃんだが、園子に対して使用されることがある。この銃で眠らされた人物の中に、「ルパン三世」の銭形のとっつあんがいる。銭形警部って「小公女セーラ」にも通行人として出ているんだよなって、それは置いておいて。この銃は針が一本しか組み込めないのは、構造的な問題でなく麻酔薬の乱用による健康被害を防止するためだろう。
 「犯人追跡メガネ」は、コナンが普段掛けている眼鏡だ。別添の発信器の場所を映し出すという優れものだ。また望遠鏡機能も付いていて、本作でもその性能を遺憾なく発揮している。何せ5キロも離れた場所でライフルを構えている人物を「ジン」と特定出来るのだから。
 「蝶ネクタイ変声機」も出番が多い「ひみつ兵器」だ。これは使用している人物の声を特定の人物の声に変換するだけでなく、同時に使用している人物の声は消してくれるという優れものだ。この機能がなければコナンが眠らせた大人に成りすますことが出来ないのは明白だ。しかし、眠らされている人物と別の方向から声が聞こえることに、「名探偵コナン」登場人物の皆さんは疑問を持たないのだろーか?
 少年探偵団らも持つ「探偵バッジ」は、お揃いのバッジにトランシーバーを仕込んだだけの物だ。ただこのトランシーバーは出力がかなり大きい事は、劇中の描写を見れば理解出来る。その大出力トランシーバーを小型化・薄型化してバッジに組み込んだという点が凄いのだ。
 「腕時計型ライト」も少年探偵団メンバーが持っている。前の方でも書いているが、腕時計に高輝度LEDを仕込んだと考えられる。電池はボタン電池だろうから、長持ちはしないだろう。本作でもコナンや哀のものは短時間で電池が切れている事がわかる。
 本作では登場していないものもあるが、コナンや「少年探偵団」が持つ「ひみつ兵器」はこんなものだろう。これを全て阿笠が作ったというのは驚きで、彼が「科学者」だけではなく「技術者」であることもよくわかる。これだけのものが作れるのなら、売って金儲けすればいいのに。特に「腕時計型麻酔銃」なんて、「黒の組織」が欲しがりそうだぞ(笑)。

…連続殺人事件の犯人も解り、犯人を連れて外へ出るべくコナンは動く出す。ところが今度は、頼みの綱である救助ヘリが着陸出来る屋上のヘリポートが爆破されて大火災となり、コナンや「少年探偵団」一行は完全にビルの中に孤立する。それに追い打ちを掛けるように、哀が衝撃の事実に気付いていた。
名台詞 「じ、自信はないけど…でも、コナン君と一緒なら! コナン君がそばにいてくれたら、私、できると思う。」
(歩美)
名台詞度
★★★★
 名場面欄シーンを受け、コナンは脱出方法を考える。彼が出した結論はパーティ会場に乗り残されている余興の商品、マスタング・コンバーチブルをフルスピードで加速させて隣のビルに飛び移る作戦だ。これに哀が108km/hまで加速できなきゃ墜落すると反論するが、コナンはトランクを開けて「爆風を利用して加速する」ことを提案する。だがこの方法の場合、爆破のタイミングを正確に掴む必要があり、誰かが正確にカウントダウンをしなければならない。そこで光彦がキャンプの時の「30秒当てゲーム」でピタリ30秒当てた歩美にカウントさせることを提案するが、元太がパーティの余興では外したことを指摘する。これにコナンは歩美に「できるか?」と問うと、歩美は力を込めてこう答える。
 ここには歩美の気持ちが上手く出ている。好きな男の子と力を合わせて何とか危機を乗り越えたい、そんな女の子の気持ちがうまく込められた台詞で、私がこれまで見た「名探偵コナン」アニメ作品全てにおいて最も印象に残った歩美の台詞だ。このような台詞は、普段のアニメや原作漫画で「歩美はコナンに惚れている」という点をしっかり描き、キャラクター設定として固めてあるからこそ白けない。最近の劇場版「ドラえもん」みたいに、のび太が普段の作品で考えた素振りもない大仰な台詞を言って物語を白けさせるのとは訳が違う。
 同時に、この台詞は最初の「30秒当てゲーム」で歩美がピタリ30秒当てられたこと、並びにパーティ余興では外しただけでなくその時にコナンを捜していたことが伏線であった。歩美がなぜ30秒ピタリと当てられるときがあるのか、ダメなときもあるのか、その謎解きが実はこの台詞には隠されている。この危機を乗り越えれば、その謎解きを歩美自らがしてくれるのだが。
 しかしコナン君、クラスメートの女の子にこういう形で愛を告白されるとは、幸せなやっちゃな。それは置いておいて、この台詞を持っていよいよ映画のタイトル「天国へのカウントダウン」が始まるのだ。
名場面 孤立 名場面度
★★
 連続殺人の犯人が解り、麻酔薬で務練らされている犯人である峰水を運ぶべくコナンは屋上の「少年探偵団」一行を呼びに行く。そしてパーティー会場に残された哀は、バーカウンターに赤く光る物体を発見する。
 その頃、屋上ではちょうど救助ヘリが着陸しようとしていたところだ。「少年探偵団」だけでなく、B塔から見守る目暮らもこの光景に安堵した瞬間、ヘリポートの一角から爆発音が響く。そして爆破と同時にガソリンが入った容器が屋上に放り出され、ヘリポートは猛火に包まれてしまう。コナンの声に反応した「少年探偵団」一行は間一髪でパーティ会場に逃げ込む。
 そしてヘトヘトになって階段を下りてきて「屋上が沈下するのを待とう」と語るコナンと「少年探偵団」に、哀が「そんな時間はないみたいよ」とテーブルクロスをめくりながら言う。そこへコナンが走って見た物は…何者かが仕掛けた時限爆弾だった。爆弾は全部のテーブルにセットしてあり、残りカウントは4分と10秒であった。
 連続殺人の全容が解明され、救助のヘリが飛んできて「めでたしめでたし」と視聴者が感じる頃合いを見計らっての、大どんでん返しだ。最初の哀が何かを見つけるシーンから始まっていると言え、ここでは何が起きようともう救助の手がそこまで迫っているからそんなに不安は感じない。だが、その安堵を見計らってウォッカが爆破ボタンを押すところで、安堵は不安へと暗転する。この「暗転」を一気に描くのでなく、視聴者の心情を揺さぶりながらひとつひとつ描くのがとても印象的だ。特に哀が最初に「赤く光る何か」を見つけたところで一度切り、そこで「時限爆弾」と明確にしなかったのが良い。その上で屋上シーンをギリギリまで引っ張って爆破シーンにした事は、その前で「哀が何かを見つけた」こと印象付けさせ、彼らが単に逃げ道を失っただけではないことを予感させられる。そして哀が見つけたものが「時限爆弾」と明確になり、視聴者はこの先の展開に強く引き込まれる。
 この段階法は、このシーンの直前でコナンと哀を上手く分離させたからとても印象的になったと思う。屋上の爆破と時限爆弾、これを二人がほぼ同時に発見して同時進行しているという描き方だから、展開もリアルで印象的なのだ。
研究 ・哀の計算について
 ここでは、パーティ会場に取り残された「少年探偵団」一行の脱出劇に欠かせない点がある。それはコナンの「マスタング・コンバーチブルで向こうのビルに飛び移る」という作戦に対し、哀がかなりの速度を出さないと反論する点である。しかもここには重力加速度による自動車の落下距離について、計算式まで示して検証するという力の入れ用だ。この計算の説明をするだけで、4分なんてあっという間に終わってしまいそうだが。この計算結果について考えるという挑戦的な研究だ。
 哀は薬品科学の専門家だろ? なのに何でこのような物理公式に詳しいんだという突っ込みはこの際考えないことにしよう。
 とはいえ、哀が示した重力加速度による落下時間の計算はケチのつけようがない。しかし私は、このシーンを見て「何か変だぞ」と思わずにはいられなかった。それは公式や計算面ではない、計算をするに当たっての条件設定に重大なミスがここにあるような気がしてならなかったのだ。
 これを検証するために…小学館発行のフィルムコミックスを購入して、哀の台詞やその背景に流れる概念図を何度も見てみた。その結果見つけてしまった、それは「落下距離20メートル」である。
 ツインタワービルの諸元をおさらいしよう、A塔の全高は319メートル、B塔は294メートル。これを純粋に見ればその差は25メートル、彼らがいるのはA塔最上階フロアであり屋上ではないから5メートル位下だろう。そこからB塔の最上階フロアに降りるのだから、差はそのまま25メートルと思う方も多いだろう。
 だが忘れてはならないのは、B塔最上階の構造だ。B塔の最上階は開閉ドーム式のプールになっている。プールの水面がB塔最上階フロアとほぼ同一で、屋根部分は普通のビル構造ではなく「ドーム」になっている。この構造が問題なのだ。
 B塔の全高の基準は、このドームの最登頂部と考えるべきだ。B塔上階の描写を何度も確認したが、このドーム高さは2フロア分以上の高さがあるのは間違いない。1フロア高さが一般的ななピルと同じと4メートルとすれば、このドームは10メートルほどの高さがあることになる。294メートルから10メートル下だから、着地点は284メートル。前述の通りA塔の最上階フロアが屋上から5メートル下とすれば314メートル。その差はピッタリ30メートル。つまり哀の計算の前提より、実際に落下する距離が10メートル高いという事になる。
 ではこの10メートルの違いで計算がどのように変わるか考えてみよう。t=√2S/gについて、S=20メートルを30メートルに変更するだけだ。すると落下時間は2.47秒、四捨五入して2.5秒で計算しよう。2.5秒で60メートル進むと言うことは、秒速24メートルで良い事になる。時速にすると86.4km/hということになる。少し条件は緩和されたが、体勢には影響ないか…。
 と思いきや、もし落下距離20メートルのつもりで108km/hまで加速したらどうなるかを考えねばならない。すると今度は飛行距離が75メートルとなる…あ、逆に有利になったかも知れない。
 実は塔間距離が50メートル、それに対して哀が必要だとした飛行距離60メートルは短すぎると感じていた。屋上はドーム状になっているので、ドームの中に入り込むにはB塔の少し奥に回り込む必要があるからだ。劇中の描写からビル端部から10メートルではかなりキツイ、やはりもう10メートル、できれば15メートルとここで指摘したかった点だ。劇中描写から見てプールの奥行きは20メートルはあると思われるので、なるべく奥に着水した方が色んな意味で安全なのだ。
 この哀の計算設定の勘違いが、「少年探偵団」一行を救っていたとはまさか思わなかった。うん、こう言うのは「揚げ足取り」で済ませず、しっかりと調べてみると意外な物語の実態が浮かんでくるものである。
 しかし哀ちゃん、いくら18歳とは言え、平方根を含んだ計算を暗算で瞬時に解いてしまうんだから凄いよなー。どんなに頭の良い人でも、あそこは電卓をトントンと叩くところだぞ。

…マスタング・コンバーチブルでの脱出を決行する事が決まった。爆発30秒前までは哀がバーカウンターでカウントを読み、以降は「30秒当てゲーム」で実績のある歩美がカウントダウンすることで爆破と脱出のタイミングを取ろうという作戦だ。
名台詞 「母ちゃんが言ってたんだよ、米粒ひとつでも残したらバチが当たるってな!」
(元太)
名台詞度
★★★★
 爆破30秒前になったらカウントを歩美に代わる筈の哀であったが、30秒前を過ぎても彼女はカウントを止めない。つまり彼女は仲間達を救おうと、自らが犠牲になって爆破の瞬間までカウントをするつもりでいたのだ。
 これに業を煮やして走り出したのが元太だ、光彦より先に車を降りて哀がいるバーカウンターへ走り、哀の手を無理矢理掴んだかと思ったら抱きかかえて車へ向かって走っていた。驚いて「何するのよ!」と叫ぶ哀に、元太は走りながらこう答えたのだ。
 もちろん、元太には哀が米粒に見えたわけではない。元太は全員の一致協力でここまで来ておきながら、一人だけ助からないというのが許せなかったのかも知れない。彼の根底にあったのは、いつも一緒にいる「少年探偵団」の仲間全員が助かることであって、メンバーの誰かを犠牲にして生き延びることではない。つまり「友達の一人でもここに置いていったらバチが当たる」と彼は感じたのである。だから誰よりも早く車を降りて哀を救いに行ったのだ、その行為が自分の生命を賭している自覚は無かっただろう。
 そしてこの台詞と彼の行為から見えてくる、この映画が観覧している子供達に伝えようとしているメッセージがある。それは「仲間」でありいつも一緒にいる「友達」というものだ。この映画の中では、中盤の「少年探偵団」が犯人捜しのために関係者を回るシーンや、哀の苦悩のシーン、それに爆破されたビルの中で右往左往するシーン等で、常に皆が一致協力しているシーンが描かれている。これらが「かけがえのない仲間」という連帯感を生んでいる事を、この映画ではキチンと描いてきていて、それがこの元太の台詞と元太の行動で完成されたといって良いだろう。例えそれが「仲間達を救う」ためであっても、誰かの犠牲の上で助かる事はできない、助かるときはみんな一緒、という本当の「絆」がこの映画のメッセージとして上手く表現されたのだ。
 さらに言うと、この台詞への伏線は映画の冒頭でちゃんと張ってある。キャンプの夕食シーンで光彦の食器に米粒が残っているのを見た元太が、ほぼ同じ台詞を光彦に向かって吐いていたのだ。まさかあの台詞がクライマックスで活きるとは、この映画が初見の人は誰も思うまい。
名場面 天国へのカウントダウン 名場面度
★★★★★
 作戦に従い哀がカウントダウンする中、「少年探偵団」の仲間達は峰水を車に乗せ、コナンは目暮にB塔屋上ドームを開くことを依頼するよう頼む。歩美がマウンテンバイクとセットのヘルメットを被り、爆破55秒前に準備が整い50秒前にコナンがマスタング・コンバーチブルのエンジンに火を入れる。全員がシートベルトを着用すると、コナンは歩美の手をそっと握る。30秒前、コナンに手を握られて笑顔を見せた歩美は目を閉じてカウントを開始する。だが、バーカウンターにいる哀はカウントを止めようとしないのだ。光彦が「灰原さん!」と叫ぶ、「灰原さんが…灰原さんがカウントを止めないんです!」ト事情を説明する光彦の声に反応し、元太は「灰原、何やってんだ! 早く来い!」と叫ぶ。「バカね、この方が正確でしょ?」と答える哀の考えをコナンが察する。光彦が哀の返答に反応してシートベルトを外すが、それより先に哀の元へ走る元太の姿があった。元太は一目散にバーカウンターへ走り、有無を問わさず哀の手を引いてかと思うとそのまま抱きかかえ、すぐに車に向かって走り出す。「(名台詞欄の台詞)」と元太が言うと、哀は驚いた顔で元太を見る。8秒前、元太が哀の身体を放り込むように車に載せる、その哀の身体を光彦が受け止め、元太は助手席に飛び込んだのが6秒前。5秒前、コナンはアクセルを強く踏み込む。マスタング・コンバーチブルは力強く加速を開始し、残り1秒を切ったところでビルのガラスを突き破る。その瞬間にパーティ会場は閃光と共に爆発し、その爆風に押されて車は宙に舞う。
 まさに映画のタイトルとなったシーンである。カウントダウンの後に到達する場所は、B塔最上階のプールか、はたまた天国か…。その緊張感を様々な要素を使って緊張的に描いた本映画のクライマックスシーンだ。このクライマックスシーンでは本作が子供達に伝えるべきメッセージまで上手く描いているが、それは名台詞欄シーンで解説済みだ。
 何よりもこのシーンで重要な役は、哀と元太だ。元太の役どころは名台詞欄で説明済みでありここで改めて書くまでもない。哀は仲間達を助けるために自分が犠牲になる覚悟を決める、それは彼女が「少年探偵団」の仲間達を「かけがえのない仲間」と認識して何が何でも救おうとした点と、自分の存在が原因で仲間達をこのような事件に巻き込んだという責任感から、自らを犠牲にしようと考えたはずだ。この哀の行動はこのクライマックスを平凡なアクションシーンとして終わらせず、ひと山設けてこのシーンをさらに盛り上げる効果がある。もちろんそれに対する元太の行為もそうだ。
 またカウントダウンの途中で歩美の手をそっと握るコナンも良い。コナンは歩美の気持ちを知り、この脱出を成功させるために自分が歩美を勇気づける必要があると感じ、それに応じた対応を取るのが見ていて良い。
 このシーンが本欄と、名場面欄のふたつの要素でもって本作がとても印象的な作品として完成したのは確かだ。このシーンがもっと違うように描かれていたら、この映画は私にとって単なる劇場版「名探偵コナン」の一作品で終わり、このサイトで取り上げるほどの印象度の高い作品とはならなかったであろう。
研究 ・爆破
 しかし、あれだよなー。
 「黒の組織」はデータが持ち出されたことだけが理由で、よくぞここまで派手にビルを爆破するよなー。彼らは地下の電力設備、40階のメインサーバー、そして屋上にパーティー会場。一体どのように爆弾を仕掛けたのだろう?
 劇中では一人の人間が、まず防災センター(劇中では中央監視室となっているが)の係員を眠らせ、続いて地下室へ、その後40階へ走り爆弾を仕掛けたシーンが描かれたが、これはまず不可能だと見て良い。見つかるリスクが高すぎる。なぜなら管理員が全員防災センター屁にいればいいのだが…あの位のビルになれば一人や二人はビル内の点検に出ている可能性が上がる。その係員が帰ってきて、他の係員が眠らされているのを見つければ…間違いなく通報される。そうなれば爆弾を仕掛けた当人は防災センターに戻れず、睡眠薬散布装置を遺留品として残すことになり「アシ」が付く。それだけではない、防災センター係員が全員眠らされるという事件になれば、間違いなく館内が徹底的に検査されるだろう。劇中で描かれた方法はこのようなリスクが高すぎ、作戦失敗の可能性が高い(もっとも、このビルの避難誘導体勢があれだけ杜撰であることを考えれば、点検や警備体制も杜撰な可能性があり、「黒の組織」をそこを突いた可能性は否定出来ないが)。
 それよりももっと安全な方法は内通者を従業員に内通者をしのばせることだ。地下の電気室に爆弾を仕掛けるなら、「TOKIWA」から電気関係を請け負っている会社に、コンピュータルームにはサーバーを保守管理している会社に、パーティ会場にはパーティ開催を請け負っているイベント会社に、それぞれ内通者がいればいい…というか、そうしなければ爆弾を仕掛けることは不可能だ。人間一人が潜り込むならともかく、多量の爆弾を仕掛けるとなるとそこに頻繁に出入りする必要は避けられないからだ。
 だが、内通者説を採ると、この事件が成立しなくなってしまう。もしこれだけの爆破が可能な程の内通者がこのビルにいるなら、「黒の組織」は何もビルを爆破させる必要なんかなくなってしまうのである。サーバー管理会社の内通者に対し、目的のファイルを探し出して削除するように命じればそれで終わってしまうからだ。ビルを爆破して警察が集まるような状況にノコノコと出て行く必要もない、シェリー殺害ならばそれこそビル爆破をしなければもっと安全確実に、しかもビルに近付いて行えるはずだ。
 こう考えると、「黒の組織」には発覚のリスクを承知の上で、不確定な作戦を採らざるを得なかった理由があったのだろう。ひとつ考えられるのはこのビルに内通者がいなかった事だが、そうなれば電気室に爆弾を仕掛けられても、他がかなり困難になる。
 もう一つ考えられるのは、「黒の組織」が峰水の企みを前もって知っていたことだろう。佳明を殺害したのは「黒の組織」だが、その後もしばらく現場に潜んでいたのかも知れない。そして佳明を殺害しようと現場に現れた峰水の独り言で、彼の企みを知ったのだろう。
 するとシェリーを暗殺しようとしている現場に、警察官などが押しかけてくることになる。シェリー暗殺を達するためには何か別の事件を起こして警察の目をそちらに引きつける必要があったはずだ。そこでビル爆破をすることになったのだろう。スプリンクラーを作動させないためには地下電気室の爆破はどうしても必要だし、自分らの狙いが「シェリー」だと知られないようにするためにはパーティ会場全部の爆破もいる。コンピュータルームを破壊したのは、内通者による違法なファイル消去の痕跡を隠す絶好の機会としてついでにやったことだろう。
 でも「黒の組織」は、時限発火装置という遺留品をこのビルに多く残しているんだよな。これで警察に掴まらないのだから、やはり警察にも内通者がいるんだろう。怖い怖い。

…コナンらを乗せたマスタング・コンバーチブルは宙を飛び、無事にB塔最上階のプールに着水する。
名台詞 「離しませんよ! 絶対に!」
(光彦)
名台詞度
★★★★
 爆風に押されて鋭い加速でもって空中へ押し出されたマスタング・コンバーチブルであったが、道路を走る車と違い安定性を欠いていたせいか、シートベルトを着用していなかった哀の身体が宙に舞う。と思うと彼女は車から転落してしまうが…「灰原さん!」と叫んだ光彦が急いで哀の手を掴んだため、哀は墜落せずに済んだ。だが哀の体重が光彦の腕一本に掛かる。その重さに耐えながら彼が叫んだ台詞がこれだ。
 このたった一言の光彦の台詞であるが、「重い」という演技がしっかりこもっていてとても迫力がある。この時の彼の思いは、「好きな女の子のピンチを救う」という気持ちもあるし、「何が何でも犠牲者を一人も出さずに無事帰還する」という思いがあるだろう。哀を救うための一番美味しいところを元太に持って行かれてしまった悔しさもあるかも知れない。でも何よりも一番大きい気持ちは、「ここで仲間を失ってはいけない」という強い思いだったはずだ。それらの思いがまだ幼い彼に「女の子を一人つり上げる」ための馬鹿力に繋がり、あの状況で哀を落とさず生還させるという奇跡を生む。この台詞にはそんな部分もしっかり込められているからこそ、迫力があるのだ。
 これで、パーティ会場からの脱出劇を通じて、哀を助けるために「少年探偵団」3人のチームプレーが完成したことになる。哀が「無理してまでカウントを続ける必要がない」という前提を作るための基本的なカウント担当を歩美が、それでも無理をしようとした哀を無理矢理助け出す元太、そして突然のピンチに奇跡の馬鹿力で哀を救った光彦という案配だ。こんなところにも本作のメッセージである「仲間」という点がうまく描かれている。
 ちなみにこの後、哀は再度ピンチに陥る。飛行している車がプールにある装飾ギリギリをかすめるために、光彦により車外につり下げられているかたちの哀と衝突しそうになったのだ。この哀の再度のピンチは、コナンの「キック力増強シューズ」で解決する。歩美にかぶせていたヘルメットがこんな形で活きることになった。
名場面 脱出のあと 名場面度
★★★★
 コナンらを乗せたマスタング・コンバーチブルは、無事にB塔最上階のプールに着水。そこで蘭や小五郎、阿笠に警察の一行と合流する。峰水が高木刑事らに連行されると、コナンと哀と阿笠は佳明殺害や爆破事件については警察の捜査が及ばないことを語り合う。と思うと哀は光彦の元にゆっくり歩き、「さっきはありがとう、おかげで助かったわ」と告げる。哀は「男としての義務を果たしたまでです」と笑う光彦を見届けると、今度は元太に「小嶋君も、私は米粒と同じって訳ね」と笑顔を見せる。元太はその言葉に照れたかと思うと、歩美に「なんで今度は30秒当てられたんだ?」と問う。「まぐれだよ」と笑った歩美がコナンの元へ走り、「本当はコナン君のおかげなんだ。コナン君がそばにいるとドキドキして、心臓の鼓動で時間がわかるんだよ」と頬を赤らめながら語る。歩美は驚くコナンの表情も確認せずにまた光彦や元太の元に戻り、「光彦君かっこよかった!」「元太君もよ!」と二人に語りかける。それを見つめるコナンに阿笠が「どうするんじゃ?」と問い、哀は「吉田さんを泣かせたら、私許さないわよ」とコナンを茶化す。「おいおい」とコナンは困惑の表情をする。
 この「少年探偵団」一行のやり取りはとても好きだ。何よりもあの大脱出劇の「余韻」を上手く表現していると共に、彼らがそれを成し遂げたという安堵感や達成感を見事に演じているのだ。
 そしてそれは、あのハラハラドキドキが続いた大脱出劇をずっと見てきた視聴者も同じ思いであろう。光彦や元太に「かっこよかった」と言いたい気持ちの少年少女はたくさんいたと思うし、歩美が30秒ピタリと当てられる謎もわかって大団円といった感じだ。物語の終わりの安堵を劇中のキャラクターと視聴者が一体になって感じられるのは、全て爆破事件以降の流れが大迫力で、かつ「少年探偵団」を中心に描いたことで多くの少年少女が感情移入出来たからであろう。そしてこの安堵シーンまでも、「少年探偵団」を主役に描いたからだ。
 物語はまだ小五郎を中心とした「オチ」がワンシーン残っているが、ここで終わってもとてもきれいに終わることができたと思う。ただ、小五郎が最後に演じる「オチ」も上手くできていて、この「少年探偵団」による「安堵や余韻」をぶち壊さない。こうしてこの映画を見た少年少女達は、家までその余韻に浸っていたことだろう。
感想 ・マスタング・コンバーチブルはどうなった?
 物語の「オチ」は、コナン達がA塔からの脱出に使ったマスタング・コンバーチブルが、自分への景品であることに気付くシーンだ。小五郎が言うように、水没しただけだから乾かせば使えるかも知れない。だがその後の「名探偵コナン」に、このマスタング・コンバーチブルが出てきた事はない。つまり小五郎が自家用車を持つというシーンは描かれず、このマスタング・コンバーチブルは何処かへ消えてしまったのだ。
 まぁ、劇場版は番外編という見方も出来るし、「名探偵コナン」自体が「サザエさんワールド化」しているため設定をうかつにいじることができないという点が本来の理由であるが、それではつまらないのでここではひとつその解釈法について考えたい。
 実はこの時点では、このマスタング・コンバーチブルは正式に小五郎の物になっていない。彼は余興のゲームに勝った事で、その景品としてこの自動車が譲渡される事を告げられたに過ぎない。つまり「この自動車をもらう権利がある」程度のものだろう。所有権の移転はまだ行われておらず、鍵なども渡されていないから小五郎に所有者が移転したということにはならないはずだ。
 だからまだこの自動車についての責任は「TOKIWA」側にある。「TOKIWA」はこのマスタング・コンバーチブルを修理するか、または新品と取り替えて小五郎に渡す義務があるだろう。そのために保険にも加入していると考えられるし、戦災や自然災害の被災で失われた訳ではない。
 だがもしこうだったら…余興で小五郎が優勝した際、彼は壇上に呼ばれてマスタング・コンバーチブル譲渡を告げられているが、この際に劇中に描かれていない形で「目録」が手渡されていたらどうだろう? その目録に「TOKIWAの責に拠らない事故や災害等で自動車が失われた場合は、この譲渡契約は破棄されるものとする」みたいな一文があれば…この爆破事件は「TOKIWA」が起こしたものではなく、「TOKIWA」はあくまでも被害者の立場だ。つまり「TOKIWA」には責任はないと見なされ、自動車の修理や代替車の用意もなく、マスタング・コンバーチブルのプレゼント自体が無かった事に…実はこうであった可能性は高い。さらにそれを小五郎が知っていたから、彼がショックを受けたのだろう(コナンらが脱出に使わなくても、爆破され失われる運命ではあったが)。
 この場合、「乾かせば使えるかも」と小五郎が言っていたが、どうだろう? 多分乾かして使えるようであれば小五郎にこの自動車をもらえる権利は残るかも知れない。だがこれは状況から言って困難だ。自動車が冠水した場合、水がマフラーから高い水位になったらアウトと言われる。水がマフラーからエンジンに入り込み、エンジンが故障してしまう。この場合の故障とは乾かせばいい程度の問題ではなく、エンジンを完全に分解して壊れた箇所を探し出し、部品を交換する…つまりオーバーホールが必要になると言うことだ。これには大変な金額が掛かるだろう。
 エンジンが動いていれば排気ガスの圧力で水の流入が食い止められる可能性はあるが、どうやら着水後はエンジンを止めていたようだ。エンジンを止めたのは誰か…と言えば、それはコナンしかあり得ない。つまり小五郎の自動車を使用不可にした張本人はコナンである可能性は高い。
 だが冷静に考えれば、このプールからエンジンを掛けたままで自動車を引き上げる術などないし、B塔に自動車を運搬出来るエレベータがあるかどうかも不明だ。やはり、このような事情で小五郎はマスタング・コンバーチブルを諦めざるを得なかったと考えるのが自然だ。小五郎が受け取らなければ、この車の処理は「TOKIWA」がビルに掛けていた保険などですることになるとかいう話も出たのだろう。この処理方法とは、その場で解体処分だろう。
 こうして考えると、その後の物語で小五郎がマスタング・コンバーチブルに乗っていなかった理由が見えてくる。こうして本作は、原作漫画やテレビアニメと辻褄が合うように計算されていたに違いないのだ。

・「名探偵コナン 天国へのカウントダウン」のエンディング

「always」 作詞/歌・倉木麻衣 作曲・大野愛果 編曲・Cybersound
 う〜ん、この人の曲はどうもみんな同じように聞こえる。あと横文字の歌詞が多すぎて、内容がよく分からない事も多いけど。
 歌詞の内容としては、一言で言えば「愛を信じてみよう」って内容なのだろうけど、字幕に出た歌詞を読んでみると劇中の蘭の気持ちと重なるところはあるのだと解釈はできる。
 エンディングの背景は、何故か横浜方面から見たものを中心に、東京湾岸地区から見た富士山の景色を印象的に流している。だが、富士山の周囲に見える山で判定出来るが、これは物語の舞台となった東京多摩から見る富士山とかなり雰囲気が違う。富士山の景色にこだわる多摩人がみれば、この背景画像は一気に萎えてしまう危険性を孕んでいる。もちろん、多摩から見た富士山というのを知らなければ気にならない点なのだけど。子どもが見る分には問題は無いだろう。
 そのような論点抜きで見れば、これら富士山の映像はとても美しく、物語の余韻に浸るには充分なものだと思う。
 本作の構成を見れば、このエンディングが流れた後にも「オチ」としてまだワンシーン(最後の研究欄参照)残っているので、余韻に浸っていると腰砕けになるので視聴には注意が必要。

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