「あにめの記憶」過去作品・20

「名探偵コナン(劇場版)
 天国へのカウントダウン」

・「名探偵コナン」について
 当サイトで「過去作品」としての考察20作目は、奇しくも「あにめの記憶」を始めた頃には最も批判的に見ていたアニメを取り上げることになった。それが「週刊少年サンデー」連載、青山剛昌原作の「探偵もの」漫画である「名探偵コナン」のアニメ作品である。
 「名探偵コナン」の原作漫画連載開始は1994年で、現在単行本は79巻を数えている。1996年にテレビアニメが始まるとたちまち大人気となったのは説明するまでもないだろう。そして平成生まれのテレビアニメとしては、「ちびまる子ちゃん」「クレヨンしんちゃん」に続く長寿アニメとなっているのは皆さんもご存じの通りである。
 これだけの人気テレビアニメを興行界が黙って見ているはずがなく、テレビ放映開始翌年の1997年春に劇場版第一作である「時計仕掛けの摩天楼」が上映された。この作品では連続爆破予告などの要素を使い、ノンストップミステリーとしての要素を強くした。それだけでなく主人公のコナンとヒロインである蘭の恋愛要素を強く押し出すなどの本作独特の展開が見事にマッチして、成功を収めた。
 この第一作が上手く行ったことで「名探偵コナン」の劇場版長編は毎年作られることになり、大型連休を挟んだ4月下旬から5月にかけて上映されることになった。これは本サイトで度々取り上げている「クレヨンしんちゃん」劇場版と同時期であり、この平成生まれの長寿アニメは15年以上にわたり映画館で直接対決する構図となっている。

 今回取り上げる「天国へのカウントダウン」は、「名探偵コナン」劇場版の2001年作品で第5作目である。本作品ではそれまでの劇場版作品ではなかった試みがいくつかされている。
 コナンの同級生である「少年探偵団」をチョイ役ではなく前面に押し出したこと。これは主視聴者層である子供というキャラクターが積極的に物語に絡むということであり、実は子供の登場人物がこの「少年探偵団」くらいしかない本作では大きな要素だ。見ている子供達にとっては等身大のキャラクターが、積極的に物語に絡むことで感情移入が強くなるだろう。しかも彼らは普段の生活から間接的に事件に巻き込まれるという物語を辿るが、その後は主人公と同じように推理をしようとしたり、恋愛沙汰のストーリーを絡めるなど本作では物語の骨格にあるのだから面白い。さらに巻き込まれた事件現場からの脱出では、何度もピンチが描かれ、この作品を見た子供達にとっては自らが冒険ストーリーに放り込まれたような錯覚をしたことだろう。
 次にもう一人のヒロインである灰原哀というキャラクターを大きくしたこと。彼女は主人公コナンと同じく「身体を小さくされた大人」という立場であり、本作中では「いきなり子供に戻ってしまった大人の苦悩」というものをうまく演じる。この要素が発生した事件をさらに盛り上げる原因となるだけではなく、物語に緩急をつける役割を持っている。
 さらに物語の発端であり主人公コナンを作り出した「黒の組織」が劇場版で初登場したこと。ただし彼らは事件を起こすのでなく、メインの事件の裏で暗躍しているという形にしたのは興味深い。さらに劇場版他作品の続きとしての設定を取り入れるなどの要素もあるが、該当作を考察しないのでここではそこには深く突っ込まないようにしよう。
 このようにしてそれまでとは違う劇場版のコナンストーリーとなったと言ってよい。本作は大ヒットとなり、同時期に「クレヨンしんちゃん アッパレ!戦国大合戦」という素晴らしい作品が上映されていたにもかかわらず、29億円もの興行収入を記録することとなった。またたびたびテレビでも放映されており、最近では2012年12月にテレビ放映されている。
 本サイトでは、この「天国へのカウントダウン」を本サイトの定型パターンに沿って考察していきたい。


・私と「名探偵コナン」
 本作については当サイトの他作品考察で何度か批判対象として登場している。その内容を繰り返すと「主人公」が完成されていて成長の余地がないという点だ。つまり、展開的に主人公と視聴者が一緒に悩む事は出来ても主人公がこれで「変わる」事は無いという点である。主人公は主視聴者層である少年少女と共に成長する存在ではなく、悪い言い方をすれば常に「上から目線」で見下ろしているのがこの作品の良くないところだということだ。だがこの設定は人気が出て長期連載となると、「サザエさんワールド」化するのは他作品よりも簡単だったと思う。主人公は良い意味でも悪い意味でも成長しないという事は、変化させる必要が無いのである。つまりこれまでの経験による設定変化などが生じにくく使いにくいキャラクターであるのは確かだろう。
 他にも私としては「名探偵コナン」に対する批判点は多い、物語展開上殺人事件に行き当たる確率が異常なのは仕方が無いにしても、「殺人事件発生」→「主人公一行が巻き込まれる」→「主人公が推理する」→「紆余曲折の末解決」というワンパターンに陥ってしまっていることだ。そしてそのワンパターン化を避けるために増えて行くキャラクター達、最近のアニメにはシャアやらアムロが出ていて笑おうにも笑えなかった記憶も新しい。

 私がこのような印象を持った理由は、「名探偵コナン」の原作漫画で最初に見たのが単行本22巻であったことだ。この巻では寝台特急「北斗星」を舞台とした列車ミステリーが載っているとのことで半分冗談で買ってみたのだが、このエピソードは後述する「名探偵コナン」の良い点が全て削がれていると言っても過言では無い。主人公コナンは何の苦労もなく自分の両親と共に事件を解決するだけでなく、その事件の内容が「トリック」のみに頼っているなどミステリー漫画として稚拙な点ばかりが目立つのだ。さらにその「トリック」の内容が実現不可能だったり、だからこそある程度鉄道に通じているものには全く推理不能であり、その上で鉄道に対する描写が目茶苦茶なので途中で読む気が萎えたほどだ。このエピソードはアニメ化に辺り、鉄道の描写は真実に近いように描き直されたらしいが、内容はそのままだと聞いている。

 娘が小学校中学年程度になってくると、ご多分に漏れず「名探偵コナン」の原作漫画を読むようになり、同時にテレビアニメも見るようになった。私もその流れでこの作品に「再会」することとなったのだが、実はここで始めて主人公コナンが誕生した経緯を知る。その上で「本当は優秀なのに姿形が小学生であるから誰にも信じてもらえない」という現実と戦っているという「設定」を知ることになる。原作漫画を読んでいる人は、前述の「北斗星」のエピソードに全くその面が無いことはご理解戴けるだろう。
 この設定により、コナンは自分の推察を警察などに知ってもらおうとあの手この手の作戦を立てるのだ。この「姿形が子供になった」という点こそが本作の肝であり、主人公の苦悩点であり、物語を面白くしている点だと言うことは理解出来たのである。
 だが、この折角の良い「設定」をぶち壊すキャラクターがいる。それはコナンを「影で支える」役回りであったはずの阿笠博士である。阿笠は物語の良心でありとても良いキャラなのだが、劇中で彼が作ったとされる「発明品」が問題なのだ。これによってコナンが無敵になってしまい、前述の苦悩を瞬時に解決してしまうという展開には「そりゃないだろー」と思う。小型麻酔銃はともかく、いつでも何処からでも現れるサッカーボールや劇場版「銀河鉄道999」のパクリであるスケボーはやり過ぎだ。小型麻酔銃のように使用回数に限度があるなど作中で工夫されていればいいのだが、そのような制限が無くコナンがこれに頼り切って乱用するのは頂けない。
 だがこの「ある日突然子供になってしまった」という点を軸にして見ていると「名探偵コナン」という物語は予想以上に楽しく、またそれがバレないようにかつ自分の推理を周囲に報せなければならないというコナンの苦悩は、本作で最も面白い点であるのは確かだ。同時に「天国へのカウントダウン」には出てこないが、コナンの正体を知っている人間が関わってくると話がややこしくなるのも本作の面白い点のひとつである。

 ちなみに私が「名探偵コナン」のキャラクターで好きなのは、本作中の登場人物で最も現実離れしている「怪盗キッド」である。彼は「怪盗」としても文字通りの変わり身も凄いが、それ以上に「劇中でのキャラクター性」における変わり身も凄い。さっきまでキザでクールな怪盗を演じていたと思えば、もうこっちではギャグを演じて劇中に空気を入れ換えているといった具合だ。個人的には青山剛昌さんの漫画では「名探偵コナン」より「まじっく快斗」の方が好きで、こちらでの「ギャグ漫画」としてのキッドやヒロインの青子、そしてライバルである中森刑事の物語は大好きだ。

・「名探偵コナン 天国へのカウントダウン」の登場人物

コナンとその関係者
江戸川 コナン
(工藤 新一)
物語の主人公、本当は17歳高校2年生の工藤新一であったが、悪の組織に飲まされた薬で小学生の身体に。
 …口癖は「バーロー」、事件があるとすぐ出しゃばるのが17歳らしくて良い。
毛利 小五郎 元刑事で興信所(探偵)を経営。事件を解くときに眠っているように見えるので「眠りの小五郎」と呼ばれる。
 …そして自宅にコナンを住まわせる保護者の面も。しかしあんなに麻酔薬打たれたらヤバイと思うが…。
毛利 蘭 小五郎の娘で新一の同級生かつ幼なじみで恋人、少年探偵団の面々にとってはやさしいおねえさん。
 …この娘のあり得ないほどのパワーと能力があれば、怖いものは何もないと思う。
阿笠 博士 新一の家の隣に住む自称天才科学者。コナンと哀の保護者であり、二人の秘密をしる数少ない人物のひとり。
 …どう見ても「発明者」ではなく「技術者」なのですが…彼の収入源は何かは最大の謎だ。
灰原 哀
(宮野 志保)
博士の家に住む少女、だがその身は「黒の組織」から逃げ出してきた女性で、コナンと同じ薬で子供の身体に。
 …ふつー、あんな暗い小学一年生の女の子がいたら、みんな色んな意味で心配すると思うぞ。
鈴木 園子 蘭のクラスメイトで大金持ちのお嬢様。彼女はその財力で登場人物を様々な事件発生地へ引っ張り出すが…。
 …本作ではいつもと役割が少し違うので、存在感は薄い。
少年探偵団
吉田 歩美 少年探偵団の紅一点、高層マンションに住むごく普通の女の子。コナンに恋心を抱く。
 …そりゃ、同じクラスにあんな頭が良くて何でも知っていてスポーツ万能の男の子が来りゃ、どんな女の子もああなるわな。
円谷 光彦 少年探偵団の頭脳派のお坊ちゃま。歩美から哀へと心が揺れている様子。いつも一番頑張るのが彼。
 …今回は「頭脳派」としての活躍はないが、哀を助けるために必死となる。自分の恋心を蘭に相談するシーンも良いぞ。
小嶋 元太 10円ハゲとオニギリ頭の典型的な一時代前のガキ大将タイプ。特に運動が得意な訳でもなく、鰻重のことしか頭にない。
 …しかし今回は事件の発覚は彼の行動だったとも言える。しかし米粒と友人が同程度とは、恐れ入った。
事件関連人物
常磐 美緒 事件の舞台となるツインタワービルのオーナーで「TOKIWA」の社長。小五郎の大学の後輩で美人。
 …そして美人薄命の言葉通り、彼女の殺害が本作での主要事件となる。自分主催のパーティを自分で仕切るなよ…。
大木 岩松 西多摩市市議で、ツインタワービル建設の際に暗躍したらしい。第1の殺人事件の被害者。
 …本作で最も悲惨なキャラ。スケベ親父を演じさせられたと思ったら、すぐ殺害されてしまう。
沢口 ちなみ 美緒の秘書で、亥年生まれだから猪突猛進といういい加減な設定の女性。これってタダのドジじゃぁ?
 …「名探偵コナン」劇場作ではおやくそくの「犯人の濡れ衣を着せられる」役回り。つまりハズレ役ってこと。
原 佳明 「TOKIWA」の専務で、第2の事件の被害者となる。子供好きだが、その正体は…。
 …子供好きだからといってホイホイとチョコをあげるのもいかがなものかと。こいつのせいで事件が大袈裟になったのは確か。
風間 英彦 建築家でツインタワービルの設計者。「少年探偵団」の活動に理解を示し、知っていることは包み隠さず語り出す。
 …劇場版第一作「時計仕掛けの摩天楼」に登場の森谷帝二の弟といわれてもなー。見てなきゃ「誰それ?」状態。
如月 峰水 富士山をこよなく愛する日本画家、西多摩市の富士山が見える丘に自宅を建ててそこで創作活動をしていたが…。
 …本作のゲストキャラというべき存在で、声は「コナン」では鈴木次郎吉が持ち役の磯野波平だ。。
警察関係者
目暮 十三 コナン等が事件に出会うと現れる警部。中年太りでコートに帽子と、一時代前の警部という雰囲気が強い。
 …高校生に殺人事件の謎解きを依頼する悪く言えば情けなく、よく言えば柔軟な人。「漆黒の追跡者」ではカッコ良かったなぁ。
白鳥 任三郎 目暮と同じ階級だが、何故か目暮の下で働いている事が多いキャリア組の警部。
 …本当は「名探偵コナン」に出てくる警察キャラで最も頭が良いが、他の警察関係者に隠れてどうも目立たない。
高木 渉 目暮の元で働く若い刑事の一人。
 …本作では警察サイドでは目暮と白鳥だけで話が進んでしまう。現在は恋人もいて、それなりに存在感があるのだが…。
千葉刑事 目暮の元で働く若い刑事の一人。
 …高木と同じく本作では出番が少ない。背景に立っているだけのことが多い。
「黒の組織」
ジン 何をやってんだかよくわからない「黒の組織」の幹部で新一をコナンにした張本人。常に冷酷な表情でいかにも「悪人」という感じだ。
 …「平気で何人も殺してきたような顔」の割には、よく見ると劇中でドジをやっていることが多い。新一にとどめ刺さなかったのも謎だ。
ウォッカ ジンの直下の部下で、常にジンと行動を共にしている。悪役だが上司であるジンには忠実である。
 …「アニキ、○○ですぜ」が口癖。まるでヤクザの子分みたいだ。まぁ、そうなんだろうけど。
宮野 明美 哀の正体である宮野志保の姉、色々あってジンに殺害される。姉妹揃って「黒の組織」のメンバーであった。
 …「はい宮野です、ただいま留守にしております…」今回は留守番電話の声だけの登場。

6月17日更新
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