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・「クレヨンしんちゃん(劇場版) 超時空!嵐を呼ぶオラの花嫁」総評

・物語
 物語は3つに分かれると言って良いだろう。まず最初の40分、ここは物語の設定付けと同時にしんのすけや「かすかべ防衛隊」のメンバーが未来世界へと放り込まれる展開となっている。最初は未来世界における物語の始まりを描き、続いて現代での物語の発端と今後への伏線設定を行う。ここまで住んだところで「かすかべ防衛隊」のメンバーが揃うと共に、そこへタミコがやってきてタイムスリップ。未来世界ではしんのすけとタミコがネオトキオの街を歩きながら、「未来世界がどのような場所か」という設定付けを行うとともに、未来の風間や「花嫁(希望)軍団」の登場など、本作で主人公等が戦う「敵」を印象付ける。同時に「かすかべ防衛隊」はスラム街を彷徨いながら、同じく「未来世界がどのような場所か」という設定付けを行うと共にボーちゃん以外の未来の「かすかべ防衛隊」の面々を出して行く。そしてその設定が終わると最初の「戦い」が描いて「敵」と戦うとどうなるかを示し、唐突に物語の案内役であるタミコが姿を消すことで物語は停まってしまう。

 次は大人しんのすけが爆破された後の76分辺りまでで区切ることが出来る。ここではタミコという案内役を失って物語が停滞したところで、新たな物語の案内役として未来の野原夫妻が登場して、新たな方向へと物語が進むことが描かれる。同時にタミコの側では風間との婚約というこれまた新たな展開が描かれ、これらふたつの物語が合流すると今度はタミコを取り戻そうとするしんのすけの物語が描かれる。最初はタミコは大人しんのすけを守るために5歳のしんのすけを無視しようとするが、次第にそのしんのすけのパワーに引かれて進むべき道を見つけて大人のしんのすけを助けるという物語を形成して行く。こうして物語は一直線に「大人しんのすけの奪還」に進むかに見えたところで、今度は大人しんのすけが爆破されてまた物語が停滞する。目標を失った物語は、主人公が「オラは死んでいない」と宣言したところでどうにもなるはずはなく、物語は落ち着きどころを失ったまま「主人公と巨大ロボとの戦い」という方向へ暴走する。あの「家電ロボX」としんのすけの戦いは大迫力であったが、実情としては物語が目的を失っていて暴走しており、何も展開していない状況だったのだ。

 そして最後は、ここからラストまで。一度は「主人公と巨大ロボとの戦い」という方向へ目標を失ったまま暴走した物語は、大人ボーちゃんの登場でまた「目標」を取り戻す。爆破されたはずの大人しんのすけは実は生きていて、皆でこれを救おうという設定だ。ここで大人の風間も敵陣営から主人公陣営へと寝返ると共に、これまで物語に登場してきた大人マサオや大人ネネ、さらに最後の登場となった大人ひまわりも含めてまさに「総力戦」の戦いが描かれる。戦い自体は途中で二手に分かれ、大人のしんのすけを救おうとするしんのすけとタミコの戦いと、これを阻止しようとする増蔵を制止させるための「ボーちゃん28号」の戦いに分かれるのだ。戦いが分裂したことで物語は単調でなく緩急が付くようになり、戦い自体がとても印象的に描かれる。そしてしんのすけらが勝ち、大人しんのすけが世の中に青空を取り戻すというハッピーエンドを迎える。そして最後にこれまで描かれた「未来」が無かった事になり、物語は終わりを迎える。

 物語の特徴としては、前半は二元中継で物語が進み、後半は狭いエリアでひとつの物語と進み、最後のヤマ場では劇中に出す人物を減らすためにまた二元中継と忙しい変化をする点だ。前半では「しんのすけやタミコ」と「かすかべ防衛隊」が別々に物語を作った効果は大きく、これによって大人マサオや大人ネネといった本作オリジナルキャラクターの印象付けに成功していると思う。同時に途中で二元中継の構成を変化させた点(構図が「しんのすけと野原夫妻とかすかべ防衛隊」と「タミコと増蔵と大人風間」となる)は、物語に変化をつけて観客を飽きさせない工夫と見るべき点でもあろう。そして別個に進んだ物語が後半でひとつに繋がるという展開に無理が無いのが印象的で、見た者は「ふたつの物語がいつの間にかひとつになっていた」と感じるところだろう。
 そしてこの物語は、子供達に「未来」というものをうまく伝えていると思う。劇中で描かれる「未来」はとても悲惨で、その希望のない世界で希望を作ろうと立ち上がる大人しんのすけを見て子供達は何を思っただろう。そして大人しんのすけが5歳のしんのすけとともに「希望」を取り戻し、「未来」を明るいものにする。こうして「絶望的な未来」でも「自分達の力で希望を勝ち取る」というメッセージを伝えたかと思うと、唐突にその「未来」は無かった事にされるという展開…この展開にすることで、「未来」を白紙にして「未来」を「本来あるべき姿」にしたのはとても印象的だ。常に未来は白紙でありそれを切り開くのは自分達であるというオチは、この物語を見てきた者の胸に強く残っただろう。

・登場人物
 本作では野原一家の出番は少なく、「クレヨンしんちゃん」レギュラーでは「かすかべ防衛隊」が主力となって物語を進めるのがキャラクター面での特徴だ。ここにタミコや増蔵や「花嫁(希望)軍団」と言った未来人キャラ、大人になったしんのすけや「かすかべ防衛隊」の仲間達、それに年老いた野原夫妻などの「オリジナルキャラクターの未来の姿」というキャラクター構成となっている。
 その中で各「オリジナルキャラクターの未来の姿」については、一部の例外を除き担当声優はオリジナルキャラクターと同じ人が起用されている。「かすかべ防衛隊」は幼児だから女性が演じているが、その彼女らがキチンと「大人の男性」を演じている点は見ていて面白い。風間やボーちゃんの声がそのまんまで大人になった姿として通用させてしまったのは賛否両論あるかも知れないが、私は「あり」だと思っている。
 例外はしんのすけだ。彼だけは「大人しんのすけ」に別の男性声優が用意された。確かに、どう考えてもしんのすけ演じる矢島晶子さんの声で大人の男性は無理がある。いや、ここで一言注をつけるとすれば「大人のカッコイイ男性」という役どころのことだ。だからここでしんのすけだけ昔と声が違うというのはそれで良かったと思う。すっかりスマートになり、恐らく顔もカッコイイであろう大人しんのすけの声が、あのまんまだったら逆に白けたと思う。
 もちろん野原夫妻もオリジナルと同じ二人が演じているし、ひまわりについてもそうだ。本文でも語ったが、普段喃語しか台詞のないひまわりが大人になって大活躍したところはとても印象的だ。ひまわりを演じるこおろぎさとみさんの大人女性の役と言えば、「おじゃる丸」の愛ちゃん…サブ主人公の優しくて夫とラブラブの母親を思い出すが、それとは違う「カッコイイ女性」の演技は見ていて痛快だった。

 未来人としてはタミコと増蔵、それに「花嫁(希望)軍団」だ。タミコは性格的にしんのすけと釣り合うよう、上手く考えられたキャラだと思う。あのしんのすけを制御出来る女性となると、みさえのように気が強くて周囲を引っかき回すタイプの女性として描かれた。「嵐を呼ぶ花嫁」という本作のタイトルに恥じない性格付けで、物語中盤までは様々な意味で登場キャラクターを引っかき回して「嵐を呼んでいた」という感じであった。
 増蔵は劇中から退場する瞬間まで徹底的に悪役を演じさせたのはすごい。劇場版「クレヨンしんちゃん」では、悪役はしんのすけや野原家の手で倒される例が多いが、今回はここから少し外れているのも見どころだ。確かに最後に増蔵に引導を渡したのは大人ひまわりであったが、増蔵は良く見るとひまわりに屈したのでなく彼女が持つ「権力」(国際警察)に屈したのである。そのような大きな組織に目をつけられたからこそ最後に「負けた」と明言するのであり、立ち直れないほどの打撃を受けるのである。

 この増蔵だが、本作では迫力たっぷりに悪役を演じ、本作の恨まれ役を一手に引き受けたという点でも印象に残った。主人公が5歳児とは言え容赦のない言葉使いで、本作を盛り上げたのは言うまでも無いだろう。それは内海賢二さんの声と演技によるところが大きく、本作でタミコ以上に印象的なオリジナルキャラクターとなった。このたび本作を見直して本当に惜しい人を亡くしたのだと改めて実感した、本サイト考察作品では「クレヨンしんちゃん(劇場版)夕陽のカスカベボーイズ」のヴィンは登場回数が少なく印象も低かったが、「スペースコブラ」のターページはクリスタルボーイとの名コンビとなる演技で見る者を不安に陥れた。その他印象に残っている役は、まずは何と言っても「Dr.スランプ アラレちゃん」のセンベエ博士だ。そして「がんばれタブチくん」のネモト監督、「トム・ソーヤーの冒険」のインジャン・ジョー、「CAT’S EYE」の課長、「北斗の拳」のラオウ、「プロゴルファー猿」のミスターXといった役が印象に残っているが、何よりもこの人の声で最も印象に残っているのはアニメではなく、「船の科学館」の羊蹄丸船長の声だ。。

 最後に名台詞欄一覧である。今回は現代キャラと未来キャラについては別集計とした。よってしんのすけは実質7回、ひろしは実質2回の名台詞欄登場となる。
 目立つのは、しんのすけの1位はともかくとして、タミコと増蔵が同じ回数である点だ。これは「未来キャラ」の中でこの二人が飛び抜けて印象的であるからだと思われる。あとは大人しんのすけ以外は少数の登場で、その大人しんのすけも劇中のほとんどをバイオコーティングで固められるという設定で喋ることの出来ない状態で過ごすため、登場時間で考えれば名台詞は多い方である。

名台詞登場頻度
順位 名前 回数 コメント
しんのすけ やはり主人公、いつも通り圧倒的なパワーで物語を牽引している。本作では名台詞に恵まれておりとても印象深い活躍を見せてくれた。特に「死んでない」とアピールする台詞や、最後の「ちょっと未来まで」はとても印象的だった。
増蔵 名優・内海賢二さんが迫力たっぷりの悪役を演じてくれたのはとても印象深い。特に大人しんのすけを爆破した前後の演技はサイコーだった。本当に惜しい人を亡くしてしまったものだ。
タミコ 本作のもう一人の主人公で、名台詞にも恵まれた。名台詞欄登場回数は父親の増蔵と一緒。しんのすけの婚約者らしく、彼の良いところも悪いところも知り尽くした台詞が面白かった。映画のタイトル通り本当に「嵐を呼ぶ花嫁」だったなぁ。
しんのすけ
(大人)
劇中の大半をバイオコーティングで声も出せない状況で過ごした彼だが、印象的な台詞は多かった。彼の最後の台詞は、物語をリセットして「未来がなかったことになる」という展開の第一歩でとても印象深い。
ひろし
(現代)
現代のひろしは殆ど出番が無く、台詞自体に恵まれなかった。だが「夜明けのMew」のシーンでは、古い曲を聴いて昔を思い出すという我々も良く体験する状況を上手く演じた。
風間
(大人)
大人の風間は子供時代と全く声が同じという設定はある意味成功だったと思う。そんな彼が一度だけ発した名台詞は、笑い声が印象的な悪役としての登場シーンであった。「カスカベボーイズ」の風間を彷彿とさせる活躍は印象深い。
シロたち その風間と一人二役のシロだが、本作では2役どころか何役やったんだ?
みさえ
(未来)
年老いて太ったみさえは見ていてとても面白かった。低音を効かせたならはしみきさんの「老いたみさえ」の声は、間違いなく本作で「老いた野原夫妻」を象徴するものだ。その名台詞はそんな中でも若さを忘れないというみさえのキャラクター性が上手く出ている。
ネネ
(大人)
大人になって色々学んだネネは、5歳の自分にどうしても言いたいことを言ったという点でとても印象的だ。あとようち園で電話しているときの台詞も良かったなー。「しんちゃんがまた何かやったのね」も良かった。
ひろし
(未来)
年老いてハゲ頭のひろしもとても印象深い活躍だったが、現代のひろしと殆ど変わらない口調だったのは賛否両論あるかも知れない。そのひろしが「親は子に生き抜くよう諭すべき」と叫ぶ台詞は、本作のひろしを象徴するものだ。

・おまけ
・「クレヨンしんちゃん 超時空!嵐を呼ぶオラの花嫁」予告編について
 この予告編は映画会社のタイトルが消えると、突然大人しんのすけが塔の上で唸っているあの冒頭シーンとなり、すぐに増蔵に撃たれるシーンとなる。その大人しんのすけが劇中と同じく「5歳のオラが必要だ!」と叫ぶと、突然画面にしんのすけが大写しになり「オラ?」と語ったところで映画タイトルが出てくる。この冒頭はいきなり見せられると印象的だ。
 ここからは劇中のシーンを拾って、物語のダイジェストで展開をなぞる。発端であるタミコが公園に現れるシーンでは、タミコの美しさを描いたシーンを抜き出してこのキャラを上手く印象付ける。タミコがタイムマシンを起動するシーンを挟むと、もう一行は未来世界に到着していて、増蔵が「今すぐ捕まえろ!」と叫ぶシーンを挟んむと<迫り来る強敵>と文字が流れと「花嫁(希望)軍団」と戦っている(その最初のシーンは劇中では使用されなかったシーンだ)。<その時未来の仲間は?>と文字が流れると、直後に大人マサオとの出会い、大人ネネの発見、未来の野原夫妻の「かぶーる!」「スリーム!」、「ボーちゃん28号」の立像と流れ、「花嫁(希望)軍団」との戦いが流される。と思うと花嫁姿のタミコに「しんのすけがどうなっても構わないのか?」と問うシーンが内海賢二さんの迫力ある演技で流される。直後にしんのすけが階段を登るシーンと共に主題歌が流れ、<タミコとしんのすけ>の文字に続いてしんのすけとタミコが語らうシーン(劇中では使用されなかった)、<二人の未来は!?>の文字に続いて「来ないでー!」と叫んで誰かの腕を取る花嫁姿のタミコ(相手が大人風間だと解らないカット)、これにしんのすけが「タミさんのお婿さんはオラだ!」と叫びながら家電ロボXに反撃するシーンが流される。
 ここでしんのすけとタミコが飛行するシーンを背景に映画タイトルがもう一度流れる。とここまではごく普通の映画の予告編でしかない。この予告編が衝撃的なのはここからだ。
 タイトルが消えると逆光の中でアクション仮面の面を取る男性の姿が描かれる。戦いで服がボロボロのしんのすけが「あれが未来のオラ?」と語ったと思うと、花嫁姿のタミコが「しんのすさーん」と叫びながら駆け寄ってくる。再び画面が大人しんのすけに戻ると、唐突に大人しんのすけは爆破される。驚くタミコが一瞬挟まれたと思うと、しんのすけが叫びながら走るシーンに続いて公開日が出てきて予告編が唐突に終わる。この二度目のタイトル表示後のシーンは、全て劇中で使用されなかった画像を使用しており、大人しんのすけの爆破も「アクション仮面の面を取った姿」のままで爆破されるなど、実際の劇中のシーンとはかなり様子が違う。
 この最後の部分は「大人のしんのすけが爆破される」という事を明確に示唆しており、予告編を見て人を驚かせて「この映画が見たい」と思わせる動機となることだろう。特に直後にタミコの驚きを一瞬入れたのは、このシーンが劇中でも夢や幻などではなく明確に描かれるという事を上手く示唆している。この点でとても印象的な予告編だ。
 この予告編にはギャグなどの要素はほとんどないが、「大人しんのすけ爆破」は劇中以上に印象的に描かれたことでとても迫力のあるものとなった。現に私もこの予告編を映画館で見て、内容が気になって早く公開にならないかと首を長くして待ったものだ。

・注意
 当考察では、一部の表現を臼井儀人作品の世界観に合わせるべく独特の言葉遣いを使用した。
 例えばしんのすけの台詞の語尾をカタカナの「ゾ」にする(原作表記に従ったがアニメ公式設定も同様、ただし日本語の使い方としてはどうかと思う)、しんのすけが両親を呼ぶときの表記を漢字と平仮名で「父ちゃん・母ちゃん」とする(アニメ公式では「とーちゃん・かーちゃん」らしいがここは原作設定に従った)、「幼稚園」を漢字ではなく「ようち園」と表記する(原作ではほぼこの表記に統一されている)等。
 なおしんのすけが通う幼稚園名、今回名称が出てくることはなかったがひろしが勤務する会社名は、今後「クレヨンしんちゃん」を取り上げる場合にはアニメの設定に従いそれぞれ「ふたばようち園」「双葉商事」に統一するつもりである(原作では「アクションようち園」「アクション商事」)。

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