…「ボーちゃん28号」が「家電ロボX」を倒すと共に、ジェットコースターがレールから外れて転落したしんのすけ・タミコ・大人しんのすけも助ける。大人しんのすけが「仕上げだ」と5歳のしんのすけに語りかける。そして二人のしんのすけの「OBAKAパワー」により、隕石衝突によって青空を覆っていた厚い雲が晴れ渡る。 |
名台詞 |
「あっ、5歳の野原しんのすけ。お前の未来は、お前のもんだぞ。好きなように生きろ! じゃあな!」
(大人しんのすけ) |
名台詞度
★★★★★ |
「青空を取り戻してくれた人」として街行く女性に囲まれてモテモテの大人しんのすけに、タミコが「悪い事したらグリグリの刑」だと叱りつける。その言葉に女性に囲まれている状況から退却し、逃げ出す前に最後にしんのすけの方に向き直って語った台詞がこれだ。
物語が「大人しんのすけと5歳のしんのすけの力で、未来世界に青空が取り戻される」という結論が出た。だがこのままではしんのすけの未来がこれで固定されてしまう。しんのすけの未来は不定であり、しんのすけ自身が切り開かねばならないというオチが本作に必要で、本作は最終局面でこちらへと舵を大きく切るのだが、そのオチへと物語を切り替える最初の台詞がこれ。
この大人しんのすけ自らが5歳の自分に言い聞かせるのがこの台詞は、まだ5歳であるしんのすけの未来が無限であることを示唆しており、「未来は自分で切り開け」というメッセージを伝えているのだ。このメッセージは劇中のしんのすけへのメッセージだけではなく、映画を見ている子供達へのメッセージでもあると思う。もし唐突に未来の自分に出会っても、それが自分の本当の未来の姿とは限らないと言うことだ。
その方向に結論を持って行く最初の台詞であり、これを主人公の未来の姿の登場人物が語るという点でとても印象的だ。そして物語は、本考察最後の名場面欄へとコマを進め、この未来物語は完全に「なかったこと」にされて幕を閉じるのだ。 |
(次点)「金有増蔵さん、誘拐や汚職、賄賂脅迫、色んな罪で逮捕します。私、こう見えて、国際警察の者なんです。」(大人ひまわり)
…世界に青空が取り戻され愕然とする増蔵の前に大人ひまわりが立ち、「こんなに明るくなったら、電気の売り上げが減って大赤字ね」と語る。「わしはこのままおめおめと負けはしないぞ」と返す増蔵に突き付ける台詞がこれ。この台詞は物語の結末が出た後に、「悪人が懲らしめられる」という要素を作って見る者を安心させる重要な台詞だ。劇中であれだけ無敵で暴れ回った敵がたった一言で負けてしまうのだが、これは本作の本筋ではないのでこの程度で良いだろう。「負けた」とズッこける内海賢二さんの演技も素敵。 |
名場面 |
タミコとの別れ |
名場面度
★★★★ |
名台詞欄シーンを受けて、タミコも大人しんのすけを追ってその場を去ろうとする。だがタミコも5歳のしんのすけの前で「そうだ」と振り返り、「しんちゃん、最後のお願い。しんのすけさん以上の良い男になってね」と告げる。そして「ありがと」と語りながら5歳のしんのすけにそっとキスをしたと思うと、大人しんのすけを追って走り去ってしまう。頬を赤らめてその姿を見送るしんのすけは、「かすかべ防衛隊」の面々に「決めたゾ。オラ、とっとと大人になろうっと。大人の方が絶対に面白そうだゾ!」と宣言する。そして顔を見せずに笑う。
これは未来世界でのラストシーンとなる。「大人になったら何になるか」という事を考えてもいなかったしんのすけが、理由はどうあれ「早く大人になりたい」という決心を持って未来世界での物語を終える。しんのすけが未来というものに対して「希望」というものをハッキリ感じ取ったことで、見る者の多くも未来は希望が一杯だと悟ることになるだろう。
またここまで物語を牽引してきたタミコのラストシーンもここである。主役と同等の強い個性で物語を引っ張ってきたからこそ、彼女に必要なのは「印象的なラスト」である。タミコが画面から消える事自体は出てきて時と逆で非常にあっさりしていたが、その最後の台詞としんのすけへの口づけはとても印象的で、タミコもこの幼児が早く大人になって自分と出会うことを希望しているということが印象付けられる。こうしてタミコというキャラクターが強烈に印象に残った人は多いだろう。
こうして未来世界での物語は終わり、物語そのものにも結論は得られたが、本作ではオチをつけるだけでなくもう一つ重要なことが残っているので、まだ物語は続く。 |
感想 |
・ネオトキオと金有電機 今回部分で、ひろしが未来世界で何が起きたかを解説する。この台詞を抜粋しよう。
「隕石の衝突で世界は変わっちまった、春日部もな。一日中真っ暗闇、薄ら寒くてな…。もう一度這い上がるためには、金有電機の力が必要だった。しかし、社長の金有増蔵は自分に従わない者、自分の儲けにならない者は、次々取りつぶしていった。父ちゃんが勤めていた双葉商事もな…。」
また、この台詞の前にはひろしが「ネオトキオを仕切っているのは金有増蔵」と言ったりしている。この辺りからネオトキオと金有電機の関係を考察してみたい。
まず金有電機が何を扱っている会社かだ。劇中ではこの会社は家電製造・販売を扱っているように見える。だが隕石衝突による「衝突の冬」が起きている事、それとこのひろしの解説から考えると、金有電機という会社はそれだけではないと考えられる。発電や送電設備などの重電関係なども幅広く扱う総合電機産業であることは間違いないだろう。
この「衝突の冬」に金有電機がどう対処したか、答えは簡単で彼らは太陽光が遮られている状態で効率的な発電システムを作り上げることに成功したのだろう。隕石衝突でCO2濃度はかなり上がっているはずだ、つまり火力発電などで石油を燃やすことは許されないだろう。となると再生可能エネルギーだが、太陽光は言うまでも無く発電に使えないし、水力は天変地異でダムが破壊されたりしてアウトだろう。風力は海辺が壊滅状態であれば多くの発電所が被災して使えない。こういう時の原発だが、これも海辺にあることが多く隕石衝突の津波と天変地異で破壊されたことだろう。
だから効率的な発電システムをいち早く作り、それを特許で囲ってしまえばこの世界の主導権を握れる。これに成功したのが金有電機ということだ。どんな発電システムを作ったのかは解らないが、この世界では昼も夜も同じ暗さなので電力使用量は現代と比較にならないほどおおきいはず。
その暗くて寒い世界は、現代の「石油」と同じ地位に「電力」を追いやったと思う。つまり「電力」を制する者は世界を制するというわけだ。そんな世界で指折りの大企業の本社があるネオトキオは、その世界的大企業金有電機が落として行く税金で潤っているはずだ。ネオトキオだけでない、日本全体がそうであるはず。するとネオトキオの地番が「金有○丁目」だったりすることも頷けるし、増蔵に総理大臣が金をせびりにくるのも頷ける。増蔵はネオトキオどころか、この時代の日本…いや世界を牛耳っているのだ。 |