「あにめの記憶」過去作品・21
内海賢二さん追悼企画

「クレヨンしんちゃん(劇場版)
 超時空! 嵐を呼ぶオラの花嫁」

・「クレヨンしんちゃん」の未来を描く
 当サイトでは「クレヨンしんちゃん」連載開始時期から、原作者の臼井儀人さんの命日が含まれる今の時期は毎年「クレヨンしんちゃん」を取り上げている。今年もその例に漏れず約2ヶ月ほどの考察連載にお付き合い願いたい。
 そして私が劇場版「クレヨンしんちゃん」考察の5作目に選んだのは、劇場版「クレヨンしんちゃん」2010年作品である「超時空! 嵐を呼ぶオラの花嫁」(以下「オラの花嫁」と略)だ。元々、今年取り上げる劇場版「クレヨンしんちゃん」は本作の予定であったが、連載を前にして本作で金有増蔵を演じており、私にとってもとても印象深い役者さんの一人である内海賢二さんが他界したため、氏の追悼企画を兼ねることとなった。

 昨年取り上げた「戦国大合戦」では、主人公ら家族が戦国時代という「過去」へタイムスリップする物語であった。本作はこれとは逆に「未来」にタイムスリップする物語となっているのが特徴である。主人公しんのすけと、未来世界から来たと言うしんのすけの婚約者を軸に、成長して大人になった「かすかべ防衛隊」メンバーや、老いたしんのすけの両親などを巻き込んだ冒険譚を演じ、これを通じて「未来」とは何かという事を見る者に訴えて行く。そして物語のラストではこの「未成」をなかった事にしてしまうという、大胆なストーリーがとても印象的である。
 劇場版「クレヨンしんちゃん」の多くは、野原一家が中心としてストーリーを作るが、本作は以前考察した「夕陽のカスカベボーイズ」同様に「かすかべ防衛隊」の面々が物語を作って行くのも特徴だ。野原一家が出てくるのはラストシーンだけで、他に劇中に出てくるしんのすけの家族は全て「未来世界」のものなのだ。しんのすけが「かすかべ防衛隊」一同と遊んでいるときに、唐突に未来世界から「しんのすけの婚約者」を名乗る女性が現れ、そのまましんのすけと「かすかべ防衛隊」メンバーが有無を問わさずにタイムスリップさせられるという展開なのだ。
 こんな物語の始まり方をするので、しんのすけと「かすかべ防衛隊」以外はレギュラーメンバーは出ないと言える。しんのすけの家族である野原一家が出てくるには出てくるが、彼らは全て未来世界の住人であり普段のキャラではなく「レギュラー」ではないのは確かだ。いつもの野原一家はオープニング直後とラストシーンで僅かに出てくるに過ぎない(ただし、オープニングでは未来へタイムスリップしたしんのすけが未来の両親に会うための伏線が張られている)。
 また、本作ではしんのすけはもちろん、「かすかべ防衛隊」の面々や野原一家の未来の姿を描き出している。その多くは子供達が夢見る明るいものとは言えないが、そんなかたちで子供達に「現実」を見せてしまう点は賛否分かれるところだと思われる。だが設定された未来世界自体が、突然の災害により世界観そのものが現在と変わってしまっている事を考慮しなければならない。全地球的な災害が明るい未来や希望というものをも奪い去ってしまったという設定なのだ。

 その暗い未来世界で、その暗さ…つまり災害の爪痕を何とかしようと立ち上がったのが未来のしんのすけであり、婚約者タミコはその最大の理解者であり唯一の後援者という位置づけだ。その上で未来世界を牛耳る人物の娘という設定を置くことで、物語に幅を持たせて「しんのすけとその仲間達」が演じる「未来」以外の物語が用意されている点が、本作でとても面白いところであり注目すべき点であろう。

 そして前述したが、さんざん「未来」を見せておいて、物語の最後にはその「未来」をなかったことにするという展開が待っている。これによりこれを見ている子供達に「未来はバラ色ではない」という事を植え付けた後に、「だが未来は1つではない」という重要なメッセージを植え付けている。「未来」は決まっているものではなく、自分で切り開くものだとして物語を終える辺りは本作が名作としてもっと脚光を浴びても良い部分ではないかと考える。

 この登場人物の未来を描く、という点については制作側でもかなり賛否両論があったらしい。最終的には「クレヨンしんちゃん」原作者で史上最強のギャグ漫画家臼井儀人さんの判断を仰ぎ、条件付きでOKが出たために本作が作られることになったという。その条件とは「未来のしんのすけの顔を出さないこと」であり、これに従い劇中では未来のしんのすけは絶対に顔を出さないように描かれている。
 その原作者の臼井儀人さんは、本作の完成を待たずに2009年9月に不慮の事故で他界してしまう。このため、本作の最後には臼井儀人さんへのメッセージが流されるようになっている。

 前述した通り、私が子供の頃から様々なアニメで私たちを湧かせてくれ、本作で悪役である金有増蔵を演じる内海賢二さんの追悼を兼ねることにする。氏は則巻センベエ博士やラオウなどの声で私たちを楽しませてくれたのは言うまでも無いだろう。それだけではない、私の青春の船である青函連絡船「羊蹄丸」が船の科学館で展示された際に展示ブースの入り口にいる「羊蹄丸船長」の声も担当、私の青春の船の保存展示を盛り上げてくれた声でもあるのだ。そんな氏の功績を称える意味でも、氏が出演している作品を考察することで追悼企画とすることにした。

 そんなこんなで本サイトでは、この「オラの花嫁」をあらゆる角度から徹底的に見てみたいと思う。

・「クレヨンしんちゃん 超時空! 嵐を呼ぶオラの花嫁」の登場人物

かすかべ防衛隊
野原 しんのすけ お馴染みの主人公で5歳、仲間達と公園で遊んでいるときに未来から来た婚約者を名乗る女性と出会う。将来の夢は「子供でいること」。
 …いつもは周囲を振り回し「嵐を呼ぶ園児」だが、本作前半はタミコに振り回されっぱなしのしんのすけを見る事が出来る。
風間 トオル 「かすかべ防衛隊」の自称リーダー、将来の夢は一流企業の社長になり社員のために働くこと。
 …幼少時代の婚約者の姿がこのような模範児であることを願うのは、タミコだけじゃないのは理解出来よう。
桜田 ネネ 「かすかべ防衛隊」の紅一点、将来の夢は美人女優で若くしてセレブ婚し、広い庭で子供達に囲まれること。
 …要は「リアルおままごと」がそのまんま彼女の夢だが、未来で「現実」を見せつけられても変わらない。
佐藤 マサオ 「かすかべ防衛隊」のオニギリ担当、将来の夢は超売れっ子人気漫画家で何本も連載を持つこと。
 …そして最初に「未来の自分」に出会って落胆するのは彼以外に考えられない。本作では未来のマサオが目立ちすぎ。
ボーちゃん 「かすかべ防衛隊」の頭脳、将来の夢は発明家になること。
 …「未来の自分」がその夢の通りになっていた唯一の人物、科学者になれるほど頭良いんだなー…。
未来世界の人々
野原 ひろし しんのすけの父の未来の姿、勤めていた会社が倒産して失業中のようだ。
 …いやーっ、未来のひろしは普段のひろしより面白いかも知れない。カツラひとつであそこまで変身するのは笑える。
野原 みさえ しんのすけの母の未来の姿、現代の三段腹どころか…。
 …このみさえも普段のみさえよりキャラが立っている。だが息子や夫を思う気持ちが変わらないのが、見ていていいなと思う。
野原 しんのすけ しんのすけの未来の姿、ネオトキオを救おうと立ち上がるが、その企みを増蔵に察知されタミコに「5歳のオラが必要だ」と訴える。
 …そしてネオトキオを救おうとした理由は…これは映画を最後まで見てのお楽しみだが、しんのすけは大きくなってもしんのすけだった。
野原 ひまわり しんのすけの妹の未来の姿、滅多に実家に帰らず親ともあまり連絡を取っていないようだが…公務員というがその正体は?
 …喃語以外を喋るこおろぎさとみさんの演技はあまり印象に無い(失礼)が、本作では大人のひまわりがとても印象的だ。
シロ 野原家の飼い犬の未来の姿、一見なにも変わっていないように見えたが。
 …まだ名前を覚えられない…。
金有タミコ 未来から来たしんのすけの婚約者、未来のしんのすけを救うために5歳のしんのすけを未来へ連れて行く。
 …本作のもう一人の主人公、親に失望し反抗するがそれが及ばない娘の姿を演じる。確かに親があんななら反抗したくなるわ。
金有増蔵 タミコの父で未来世界を牛耳る大企業「金有電機」社長。娘に愛情を注がず、損得勘定だけで物事を考える最低の父親像。
 …その最低の父親像を、ベテラン声優の一人である内海賢二さんが演じる。タミコに怒りをぶつける演技は大迫力だ。
風間 トオル 風間の未来の姿、「金有電機」の重役に上り詰めており増蔵の信頼も厚い。そんな彼が突然、タミコとの結婚を命じられる。
 …唯一声が子供時代のまま、最初の社長と共に「腹黒さ」を演じる部分はサイコー。だが5歳の自分を見て心が変わる。
桜田 ネネ ネネの未来の姿、「広い庭で子供達に囲まれている」のは確かだが…5歳のネネに現実は「リアルおままごと」とは違うと訴える。
 …すげー、大型免許持ってるんだ(それはよしなが先生にも言えることだが)。
佐藤 マサオ マサオの未来の姿、コンビニでのバイトで生計を立てている売れない漫画家。最初は5歳の自分に気付かないが…。
 …5歳の自分に文句を言われるってどんな気持ちだろう?と考えさせてくれる。一龍斎貞友さんの「大人の男性」の演技も良いぞ。
ボーちゃん ボーちゃんの未来の姿、科学者であり巨大ロボを作って増蔵と対決するだけでなく、様々な要素で未来のしんのすけを救おうとする。
 …ボーちゃん28号サイコー!
花嫁(希望)軍団 「金有電機」の指示で、会社に反抗する者などを取り締まる独身女性軍団。一枚岩でないのが面白い。
 …最初は風間(未来)の配下であったのに、気付けば増蔵の配下になっていたり、独自に行動したりと設定が一定しないことは気にしない。

9月9日更新
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