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…物語は夜の成田空港から始まる。人がざわめく到着ロビーに一人の屈強な男が到着し、ホステスの格好をした女性の集団に出迎えられる。そして「タマ」の取引を開始したところへオカマの3人組が邪魔に入り、空港は乱闘騒ぎになる。
名台詞 「このタマをあいつらに渡したら、世界は終わりよ!」
(ローズ)
名台詞度
★★
 今回は名場面欄を「オープニングより前全部」ということにしたが、そのシーンの最後を締めるのはオカマ三兄弟…失敬、「珠由良ブラザーズ」長男ローズのこの台詞だ。
 成田空港で乱闘騒ぎまで起こして「タマ」を奪った彼らは、バイクに乗って逃亡を図る。だが追っ手に追いつかれたため、弟のラベンダーとレモンが「タマ」を持った兄を守るべき囮となり、激しいカーチェイスを演じる。そのシーンを傍目に「タマ」を預かって逃亡を図るローズの叫びだ。
 この台詞には本作の今後の展開がうめく込められていて、オープニングテーマに入る前のいわばプロローグ的なシーンを上手く締めている思う。物語が「タマ」を巡る争いであり、「あいつら」という敵の存在も上手く示唆している。同時にこれが世界的な陰謀に関わるという設定が内包されていることも上手く示しており、彼らが「タマ」を守っているという状況である事は説明するまでもなく理解できるようになっている。だがこの台詞で「珠由良ブラザーズ」の行動理由を語っているに過ぎず、これだけではプロローグの締めとしては機能しない。
 注目すべきはローズがこの台詞を語りきった直後に、彼が乗るバイクが向かっている先が示されていることだ。道路方面標識に「春日部」の文字がある事で、彼の逃亡先が「クレヨンしんちゃん」の舞台であり主人公一家が住む埼玉県春日部市である事が示唆される。同時にこれは無言で野原一家とローズが合流するという展開が待っていることを示唆しており、物語がひとつの方向へ明確に動いていることをうまく盛り上げているのだ。
名場面 オープニングより前全部 名場面度
★★★
 物語が幕を開くと、唐突に野原一家とは無関係そうな成田空港の光景で始まり、到着した男とホステス軍団による「タマ」の取引、邪魔に入る珠由良ブラザーズが引き起こす乱闘騒ぎへと発展する。この映画の観覧者は「これがどうやって野原一家と繋がるんだ?」と思い始める頃合いを見計らって、シーンは突然「千葉県警成田東西署」に変わり、どう見ても左遷されているようにしか見えない女刑事の元に成田空港での事件が報じられ、彼女が愚痴りながらやむなく出動するシーンが挟まる。だがここで女刑事がやたら「格好」にこだわっていることだけは解るように、ちょっとだけ余計なシーンを入れているのはポイントだ。突然のシーンの転換に唖然としている間に、今度は「埴輪が盗まれた」と報じるテレビニュースへと画面が変わり、「何だ?」と思うとすぐにこのニュースを野原一家が見ているというシーンである事に気が付くようになっている。だがこの野原家のシーンは最小限、しんのすけがテレビに出てきた埴輪にある穴を見て「タマタマがあった場所だ」と語ることで、映画のタイトルと野原家を結びつけるだけだ。そして名台詞欄シーンへと流れる。
 このプロローグでは、まだ出会う前のバラバラに動く登場人物達が「出会い」に向けて同じ時間にそれぞれの行動をしていることを淡々と流すことで、物語を上手く盛り上げていると思う。野原一家、珠由良ブラザーズ、成田東西署の刑事である東松山よね、この3組を直接繋げるキーワードはほとんどない。せいぜいしんのすけとローズが「タマ」というキーワードで繋がっている程度だ。こういうバラバラに動く登場人物がどうやってひとつの線に繋がるのか、こうして観覧者を物語に引き込むよう上手く作っていると思う。
 特に面白いのが東松山よねの登場シーンだ。出動命令に対してわざわざ「変なヤマ」と愚痴を言ったり、拳銃を取り上げて無駄なアクションをさせたり、廊下で歩きながら上着を着させたりと余計なシーンを入れている。これは今後判明してくる彼女のキャラクター性を先回りして示唆するという点でとても面白い。もちろん、ここは「クレヨンしんちゃん」の世界だから、この女刑事が「正統派」ではないことを示唆しているのだ。もちろん、このシーンの中でそれが正解と回答するシーンもあるのが面白い。
 こうして物語が賑やかしく始動することで、見ている方も盛り上がるのだ。
研究 ・ 
 

・「クレヨンしんちゃん 暗黒タマタマ大追跡」のオープニング
「年中夢中"I Want You"」 作詞・C's 作曲・菅原サトル 歌・Puppy
 これも当時のテレビアニメ版「クレヨンしんちゃん」のオープニングテーマだ。詩の内容としては丹治曜日をテーマにその喜びを大々的に歌い上げている。これは当時の「クレヨンしんちゃん」での大きな設定変更である「ひまわりの誕生」に連動したものと考えて良いだろう。これは今後紹介予定のエンディングテーマにも言えることだが。
 背景は毎度恒例の粘土アニメで、最初は歌詞に連動して巨大なバースディケーキをしんのすけが食べるシーンから始まる。そこからしんのすけがなると巻を作ったりするシーンなどあまり歌詞や本作と関係なさそうなシーンが続くが、埴輪になった野原一家にひまわりが囲まれる辺りからは映画のシーンの方に連動させているオープニングになってきている。「きかんしゃトーマス」になったひろしがしんのすけとひまわりを乗せているシーンは、本作の一つの特徴である「逃亡劇」というのを前もって上手く示唆しているだろう。だがその先は歌詞に連動させたアニメで、全体を通じてひまわりが目立つように作ってあるのはやはり彼女の劇場版初登場を意識してのことだろう。でも最後はやっぱり埴輪と踊っているので、本作に沿っているのだろう。
 こうして解説すると、このオープニングの背景が統一感ないようにも見えてくるかも知れないが、見ていてそうは感じないのはやはり年粘土アニメのクオリティが高いからだろうか? いずれにしても何度見てもこの粘土アニメは素晴らしいと思う。

…舞台は春日部となり、しんのすけはシロを連れて河原を散歩している。その河原の草むらに一人のオカマが眠り込んでいるのを発見、そのわきに虹色に光る「タマ」を発見する。
名台詞 「変な人たちでしゅね〜。」
(みさえ)
名台詞度
★★
 「タマ」が無くなったことでしんのすけを探して歩き回るローズとラベンダーの姿に、ひまわりを連れて買い物のために外出したみさえが気付く。同時にホステス軍団から逃げるレモンとすれ違う。これらのオカマを見たみさえは、不審そうに辺りを見渡した後にベビーカーに乗っているひまわりにこう語る。
 そう、ここまでに出てきた珠由良ブラザーズやホステス軍団は、誰がどう見ても変な人たちだ。オカマの三人兄弟がホステスと戦っているとなれば、それは通常の光景ではなく近寄りがたい光景である事は誰の目にも明かだ。このみさえの台詞はそんなこの時点では「まだ普通の人」であるみさえが上手く演じられている。
 だが観覧者の多くは、既に問題の「タマ」はひまわりの腹の中に収まっており、既にみさえがこれらの「変な人たち」と無関係でいられないことを先回りして知っている。だからこの台詞をまるで他人事のように語るみさえが滑稽に見えてしまうし、またみさえがここで赤ちゃん言葉を使うことでそれがさらに倍増されて何ともない台詞なのに面白い台詞に聞こえてしまう。そういう意味で印象的な台詞だ。
名場面 「タマ」の行方 名場面度
★★★
 しんのすけはオカマと出会ったときに拾った「タマ」を家へ持ち帰る。家ではひまわりが寝ていたがふとしたことで起こしてしまう。「(ひまわりが)泣くとオラが怒られる」として必死にひまわりをあやすしんのすけの手から「タマ」がこぼれると、ひまわりがこれを奪い離そうとしない。しんのすけが奪おうとすればひまわりがベソとなるので無理矢理奪うことも出来ない。そうしている間におやつの時間となり、しんのすけがおやつのプリンを食べる。これに合わせてひまわりは光り輝く「タマ」を見てはしゃいたと思うと、今度はこれをまじまじと眺める。そして大きく開く口…ここでプリンを食べるしんのすけにシーンが変わり、プリンを食べるしんのすけとみさえの会話を挟むと、次に出てくるひまわりの表情は満腹感に溢れ下をなめずるというというものだ。
 これはしんのすけが持ち帰った「タマ」がどうなったかを、上手く示唆していると感心したシーンだ。ひまわりが「タマ」を飲み込むシーンは一切出てこないが、その前後をキチンと描くことでひまわりが「タマ」を飲み込んでしまったことが上手く表現されている。同時にしんのすけが美味しそうにプリンを食べているシーンと、満腹感に溢れるひまわりの表情を交互に出すことで、おやつを食べたしんのすけだけでなくひまわりも何かを食べてお腹いっぱいである事がさりげなく表現されているのだ。
 こうして冒頭に出てきたオカマ一味やホステスの軍団が狙う「タマ」が、ひまわりの腹の中に収まったことで、物語は野原家が「タマ」を巡る事件に巻き込まれるという方向性が明らかになる。多くの人がこのシーンでこの先の展開…とりあえず野原家と珠由良ブラザーズがどう繋がるかを期待することであろう。
研究 ・珠由良VS珠黄泉の足跡1
 ここまでのシーンでは、成田空港で乱闘騒ぎを起こした珠由良ブラザーズの珠黄泉族ホステス軍団が埼玉県春日部市に移動してきたことが解る。
 この地図をご覧頂きたい。これが成田空港で乱闘騒ぎを起こした彼らが辿ったルートだ。成田空港から千葉ニュータウンを通る国道464号線を東へ向かい、北総鉄道の小室駅付近で国道16号線に入って埼玉県春日部市を目指す83キロの道のりである。プロローグシーンでラベンダーやレモンが珠由良ブラザーズを相手にカーチェイスを行った(前名場面欄シーン)は、恐らくこの道のりで千葉ニュータウンより手前、千葉県印西市での出来事と考えられる。あのシーンによく似た光景が千葉県道65号線にあるんだ、これが。
 こんな感じで、本作の考察では登場人物達が辿った道のりを考察してみたい。

・今回の足跡
珠由良ブラザーズ
成田空港〜春日部市 83.0km
合計 83.0km

…買い物に出たみさえだけでなく、会社帰りのひろしも怪しいオカマやホステスを家の周囲で見たと語り出す。そして平和に野原一家が眠りについたと思ったその時、野原家に「珠由良ブラザーズ」が乗り込む。
名台詞 「痛くしないでね」
(しんのすけ)
名台詞度
★★
 深夜の野原家に乗り込んだ「珠由良ブラザーズ」、ローズがしんのすけに「タマを出してちょうだい」と迫ると、しんのすけがズボンごとパンツを下ろして小さな声でこう言う。
 私が劇場版「クレヨンしんちゃん」を見て、最も臼井儀人先生作品らしいと思った台詞とギャグだ。氏の「クレヨンしんちゃん」以外の漫画では、このような状況の時に登場人物が尻を出して「痛くしないでくれ!」と語るのは「おやくそく」の感がある。これを銀幕の上でしんのすけがやったのだから、臼井儀人先生の漫画を多く読んだ私としてはこんなに笑ったことは無い。
 さらに言えばこの前のシーンで、しんのすけが寝ぼけてローズの指をしゃぶるシーンではローズが感じながら「この子テクニシャン」と言うが、これも臼井儀人先生の作品では「おやくそく」だ。この頃の劇場版アニメは原作漫画の雰囲気だけでなく、こういった原作者の作風とかも大事にしていたんだなと感じた台詞だ。
名場面 「タマ」について 名場面度
★★
 問題の「タマ」をひまわりが飲み込んでしまったことがハッキリすると、「珠由良ブラザーズ」は野原一家を「珠由良族東京支部」へ連れて行く。そこは新宿にある「スイングボール」というオカマバー、ここで「珠由良ブラザーズ」はミュージカル仕立てで自己紹介をした後に「タマ」について説明する。自分たち「珠由良族」について、ライバルの「珠由良族」について、魔神ジャークについて…二つの種族は霊能力を使って世界を守っていたが、「珠由良族」の霊能力者が魔神ジャークを使って世界を支配しようと考えだが、「珠由良族」「珠黄泉族」がこの霊能力者を倒して魔神ジャークを埴輪に封じ込めふたつの「タマ」として結晶化した上で「珠由良族」が管理し、埴輪を地中に埋めたという内容だ。この埴輪がプロローグシーンのテレビニュースで出てきた埴輪である事は、しんのすけが語る。
 このシーンはなんてことの無い説明シーンだが、想像シーンは一切使わずに影絵だけで表現されているのは面白い。そしてその影絵が、「珠黄泉族の霊能力者が魔神ジャークを使って世界を支配しようとした」というくだりのところで、話を聞いていた野原家に襲いかかるように映し出されるのは話を盛り上げるためにいい演出である。だがこの話を聞いている野原夫妻が「下らない話を聞かされているような表情」なのがこれまた味を出している。「んなことあるわけねーだろ」的な他人事感が、この時代の若い夫婦を上手く描いていて面白いと感じた。
研究 ・珠由良族東京支部
 この部分からしばらくは、「珠由良族東京支部」が本作の舞台となる。場所は東京新宿、恐らくは東口側の歓楽街であろう。表向きはオカマバー「スイングボール」であり、野原家を連れてきたこの日は「臨時休業」と言うことになっている。
 この東京支部の役割は何だろうか…実は物語が進むと、「珠由良族」は表向きの姿として青森でレジャーランドを経営していることが解る。だから表向きの姿としてはそのレジャーランドの支店、それがなぜかオカマバーと言うわけだ。オカマバーである理由は東京支部がオカマである「珠由良ブラザーズ」に任されているからであろう。そしてその本業は、東京の「珠由良族」の動きを監視し「タマ」を守ることにあると考えられる。
 そして「東京支部」があると言うことは、日本全国に支部があるような気もするがそうではなさそうだ。恐らく青森の本部と東京の支部で事が足りる…というかそれ以外に支部があったら手が回らないはずだ。何しろ頭領の息子全員が東京支部に詰めているのだから。

・今回の足跡
 この地図を参照
野原家 珠由良ブラザーズ
春日部市〜新宿 41.6km 春日部市〜新宿 41.6km
合計 41.6km 合計 124.6km

…野原一家が珠由良族東京支部で説明を聞いていた頃、銀座の珠黄泉族のアジトにヘクソンが到着し、ジャーク復活への陰謀が動き出していた。そして、彼らは珠由良族東京支部を襲撃、しんのすけの失言から「タマ」がひまわりが飲み込んでいることまで露見してしまう。
名台詞 「おい、お前ら! 勝手にこんな所へ連れてきて、今度は帰さないだと? 冗談じゃないぜ! 俺たちは今すぐ帰る!」
(ひろし)
名台詞度
★★
 「珠由良ブラザーズ」から「タマ」についての説明を受けた野原一家、「タマが出てきたらちゃんと返すから帰って良いか?」と問うみさえに彼らは「珠黄泉族は危険」「だから一緒にいた方が良い」「既に事件に巻き込まれている」として帰ることを頑として認めない。この「珠由良ブラザーズ」の強硬な姿勢に、一家の大黒柱であるひろしが立ち上がってこう告げる。
 ここに彼の夫として、父親としての自覚と威厳を見ることが出来る。だが事態がそれほど深刻化していない現時点では、この台詞は真面目に処理されるのでなくギャグとして扱われる運命にあるのも見て取れるから面白い。どちらに転ぶかと観覧者が期待する間もなく、しんのすけが「カッコいいゾ!」、みさえが「あなた〜っ!」と応援する台詞が入ればギャグとして使われる事は瞬時に判明する。すぐに「珠由良ブラザーズ」の三人が立ち上がり、「私たち、とっても強いのよ〜」と言いながらひろしにプロレス技を掛けている(ローズは髭ずり攻撃だが)。この結果に落ち込むひろしとの対比が、ギャグとして完成していて面白い。そのきっかけであるこの台詞はとても印象的だ。
(次点)
「おしっこ200CCまで」(ラベンダー)
「うんちは500gまで」(ローズ)
「紙はミシン目二つまでよ」(レモン)
…トイレ掃除する身になると、この台詞の意味がよくわかってきて面白い。今回の視聴でとても印象に残った3人の台詞だ。
名場面 「珠由良族東京支部」のトイレ 名場面度
★★★★
 このギャグ大好き。
 一度目はひろしが唖然として「出る物も出ない」と呟く。そしてそれだけで済まさず、珠黄泉族の頭領ナカムレがこのトイレへ向かうシーンがあるから面白い。観覧者は「何が起きるか?」と期待し、その期待を裏切らずにに悲鳴、しかもこれが「珠由良ブラザーズ」と野原一家が逃亡に成功する伏線にもなっている。
 どんなトイレか興味のある方は、一度この作品をご覧になって頂きたい。
研究 ・ 
 

珠黄泉族の人達がトイレを見て驚いている隙を突いて、「珠由良ブラザーズ」は野原一家と共に自動車に乗って逃亡を図る。そして最初の潜伏先に選んだのは健康ランドだった。
名台詞 「やっと…やっと、銃が撃てるような事件に巡りあえた…。」
(よね)
名台詞度
★★★
 「成田空港で乱闘騒ぎを起こしたオカマ3人組」を追って健康センターにたどり着いた刑事よねは、「珠由良ブラザーズ」に刑事である事を信じてもらえると、「タマ」について事情の説明を受ける。その無いようを「信じてもらえたかしら?」と問うローズに、よねはまずこう答える。
 このよねという刑事がくせ者であり、左遷されているさまはオープニングで示唆されている。どんな事情かは知らないが少なくとも警察サイドから刑事として信頼されていない模様だ。そしんな刑事が「銃が撃てる」ことを喜んでいるんだから、この刑事がまともで無いことはこのシーンでハッキリしたといっていいだろう。そう、千葉県警東松山よね刑事が正統派の刑事キャラでは無く、ネタキャラとした完成した瞬間の台詞である。
 もちろん、この台詞の前にその方向性で盛り上げておくことも忘れない。健康センターの宴会場で銃を誤発砲するが「モデルガン」とされて騒ぎにならない点だ。つまりこの女、見た目も刑事らしくないということが明確に示唆されている。まぁ、健康センターの室内着姿じゃ、誰だって刑事には見えないだろうけど。
名場面 合流 名場面度
★★★
 この健康センターで描かれる本題は、なんといっても珠由良族が追ってきた事による次なる決戦だが、その前にひとつ重要なシーンを挟んでいる。これは冒頭で登場した千葉県警の女刑事、東松山よねと野原一家&「珠由良ブラザーズ」の合流だ。
 まずまさえの悲鳴によりひろしが女子更衣室に飛び込んだ騒ぎの直後に、よねが登場して「今日の代わり風呂は何だろう?」とブツブツ言いながら騒ぎが収まったばかりの女子更衣室に入って行くシーンが描かれる。そしてその後、風呂上がりに皆で宴会場で今後について話し合っている会話に耳をそばだてているよねの姿が描かれ、青森の珠由良族の本部へ行く事が決まったところで「ちょっと」とよねが口を挟む。彼女は「千葉県警の者だ、そこの坊主頭の三人に聞きたいことがある」と格好良く現れる。だが足下では頬を赤らめたしんのすけが「きれーなおねいさん!」と声を上げており、よねにすり寄ろうとしている。そこへみさえが「警察の人なら私たちの話も聞いて」と声を上げるなど混乱するが、よねはしんのすけに回れ右させると「成田空港で暴れたオカマの3人組を追っている」と格好良く続ける。これにラベンダーが「あんた本当に警察の人? 証拠は?」と返すと、「手帳はロッカーだ、でもこれで解ってもらえると…」と室内着の下に隠してある拳銃を、胸元から抜こうとするが上手く行かない。仕方なく室内着の下から拳銃を取ろうとすると、ひろしとしんのすけが「おおーっ」とスケベな叫びを上げる。やっと拳銃を出すが、本物であることを信じてもらえないし、誤発砲してテーブルに穴を開けてもモデルガンで済まされてしまい騒ぎにならない。
 元々ネタキャラでしか無い刑事が、「クレヨンしんちゃん」という物語で格好付けようとするとこうなるという見本例的なシーンだ。カッコイイ刑事を演じているよねは、自分がネタキャラだと思っていないから真剣に格好付けるし、しんのすけのデレデレやみさえのヒステリックな声にも動じずに「手帳はロッカーだ」まで見事に正統派の刑事を演じきる。だがここで拳銃を出すのに失敗した瞬間に化けの皮が剥がれる。格好良く決めていた刑事が瞬時にネタキャラに落ちた最初のシーンで、冒頭の左遷職場のシーンをここで思い出し「こういうキャラか…」と思うよううくま計算されていると思う。そして瞬時にネタキャラにしたからこそ、拳銃の誤発砲という本来はやってはならないことをしてしまうことに説得力が生まれるし、その上でモデルガンとして処理されてしまい騒ぎにならないという展開にも説得力がある。
 とにかく、この健康センター前半のシーンは彼女をいかにネタキャラとして決定づけるかが勝負であり、この後に続く名台詞欄シーンでこれが完成したといって良いだろう。
研究 ・健康センター
 今回考察部分と次回考察部分は、「健康ランド」が舞台である。この健康ランドのシーンは大きく二つのシーンに別れており、その前半は物語のメインキャラの一人である千葉県警刑事東松山よねのキャラクター設定を短時間で印象付けた上で野原一家や「珠由良ブラザーズ」に合流させること。そして後半は野原一家&「珠由良ブラザーズ」と珠黄泉族の戦いの第2ラウンドを描いている。
 この健康センター、「ニコニコ健康ランド」という名前だけはわかっているが場所などは不明だ。広い駐車場から考えると新宿からかなり郊外まで移動したことは確かだろう。「珠由良ブラザーズ」は野原一家を匿うために珠由良族本部への移動を前提にしていたと思われるので、東京から北または北東方向へ移動したと考えられる。この方向でこのクラスの健康ランドがありそうな場所といえば、東京の外縁部を勘定する国道16線界隈だろう…するとこの健康センターの場所として考えられる場所は、埼玉県春日部…あれ、戻ってきちゃったよ。
 ただし、この後の戦いでひろしとよねが置いてきぼりにされるが、その場所の詳しい場所は今後考察するが福島県と考えられる。福島県まで数時間でつかないと話が成り立たないから春日部というのは怪しい。しかも高速を使わない前提の逃亡劇で、野原一家の就寝時間の後の話であり、かつ一度新宿を経由しているのだから…う〜ん、時間が合わないなぁ。
 ここは細かいことは気にしないで、この健康ランドは春日部市と決めてしまおう。なぜならこの健康ランドのシーンで、春日部市在住の某漫画家が登場するからだ。

・今回の足跡
 この地図この地図を参照
野原家 珠由良ブラザーズ 東松山よね
新宿〜春日部市 41.6km 新宿〜春日部市 41.6km 成田空港〜春日部市 83.0km
合計 83.2km 合計 166.2km 合計 83.0km

…野原一家と「珠由良ブラザーズ」の当面の行き先が決定し、よねが一行に合流したところで宴会場のステージの幕が開き余興が始まる。その余興を演じていたのは「珠黄泉族」だった
名台詞 「ストップ! こんなところで暴れたら、他のお客さんに迷惑どす。着替えて表出て、続きやりまひょか? ほな、着替えて玄関前に集合だす。それまでどっちも手ぇ出したらあきまへん。よーい、ドン!」
(玉王ナカムレ)
名台詞度
★★★
 宴会場のステージに突如現れた珠黄泉族に、よねが発砲するが当然のように誰にも当たらない。ローズが「使えないわ、あの娘」と呟きしんのすけが「逃げる?」と問うと、珠黄泉族が一斉に野原一家と「珠由良ブラザーズ」に襲いかかる。よねが拳銃で応戦したかと思ったところで、珠黄泉族のリーダーであるナカムレがこう語る。
 誰もがここで珠由良VS珠黄泉の第2ラウンドが始まると思うところだろう。だがここは健康ランドの宴会場、ここで騒動を起こせば冒頭の成田空港以上の騒ぎになることは目に見えている。それだけでは無い、屋内の戦いとなれば珠由良族の面々と野原一家による逃亡劇へと繋がらなくなってくるのも確かだ。恐らく珠黄泉族が「世界の国からこんにちは」を歌っているときに観覧者の多くは「どうやって戦いの舞台を屋外に移すのか?」「そのためにはいつ着替えるのか?」という点に注目するはずだ。その答えがナカムレが戦いを制止し、このように皆に訴える台詞だ。
 これは銀座のクラブを経営するナカムレの他人への気遣いだけで出た言葉では無い。この戦いの第2ラウンドを少しでも有利にしたいというしたたかな作戦も含まれているはずだ。敵であるオカマは薄着だし、野原一家やよねも質素な服装で着替えにそんなに時間を食わないのは目に見えている。ところが珠黄泉族側は、唯一の男性であるサタケだけは着替えが早そうだが、ホステス軍団は身だしなみを整えてこそだし、何よりもナカムレ本人が和服に着替えるのに時間が掛かる。ここへ来て敵を逃がしたくないために、敢えて着替えの時間を取るために休戦協定を提案し、一方的に玄関前に再集合して戦うということにしたのだ。
 そしてこの後のシーンでは、珠由良側は早々に全員着替えを済ませたのに、珠由良側がナカムレの和服の帯を締めるのに手間取ってサタケ以外遅れるシーンが描かれる。ナカムレはここまで読んでいたのだろう。
 この休戦提案にローズは賛成したことで珠由良側もこれを受け入れる。珠由良側にとっても青森までの逃亡を健康センターの室内着で行くわけには行かず、玄関前で再度戦うことになっても確実に着替えの時間を手に入れた方が良いと考えたのだろう。
名場面 「兄弟船」 名場面度
★★★★
 名台詞に関連したシーンが終わると、出てくるのはこれまでアニメの「クレヨンしんちゃん」では見たことが無いキャラクターが、カラオケで気持ちよさそうに「兄弟船」を歌っているシーンだ。「誰?こいつ?」と思う頃を見計らって、「マンガ家 臼井儀人(シュミ便座鑑賞 好きな女性のタイプ松たか子)」とテロップが出てくる。
 私はこの作品を初めて見たとき、原作者自らの出演に驚いた者だ。史上最強のギャグ漫画家・臼井儀人先生は人前に出ることが無かったので、こういう形で劇場版「クレヨンしんちゃん」に登場するとは思ってなかった。
 それにしても臼井先生、このシーンで歌う「兄弟船」はノリノリだ。本当に気持ちよさそうに歌っている。2番を歌うシーンではカラオケ独特のノイズが、そこがカラオケボックスであるという臨場感を上手く再現しているのはポイントが高い。ここは臼井先生でなく別の人が歌っていたとしても、名場面に挙げたかも知れない。
研究 ・新体操格闘術
 着替えて健康ランドの玄関前に集合した一行による、戦いの第2ラウンドが始まる。そこに出てくるのは珠黄泉族ホステス軍団、ホステス軍団リーダーのマホによる「武器の使用許可」が受理されると、ホステス軍団は新体操のリボンを始める。そこでマホがホステス軍団が「新体操格闘術」の使い手である事を自慢げに語る。
 この「新体操格闘術」というのは、このリボンによる攻撃のようだ。マホによるとこのリボンは大根を何でも切れる優れもので、もちろんこのような機能によって人を傷つけることも出来てしまうのであろう。
 ではこれはどういうリボンなのか、を考えてみたい。そう思ってリボンで物を切ることについて調べてみたら、リボンそのものを切断するという話ばかりで全く前進しない。リボンを切断するのが難しいのは解った、リボンで何かを切断することは出来ないのか?を調べたいのに。
 ここで想像によるしかなさそうだ。このサイトをご覧の方で、事務仕事で書類を整理しているときに、書類の紙で手を切ったなんて経験がある人は多いと思う。このリボンはその応用で物を切断したりするのではないだろうか?
 たとえばリボンの素材が薄くて丈夫で端部が鋭利な素材で出来ていたら、リボンの使い方によっては大根くらいは切れるかも知れない。ただ新体操のようにリボンが波打っているようだと駄目な気もするけど…いずれにしてもあの新体操的な動きで大根を切断するにはかなりの練習が必要なのは確かだろう。その上「手首の使い方一つでどんな切り方も…」などとは、血の滲むように練習をしたんだろうな。
 大根が切れるのだから、あんなのがまともに人に当たったらタダじゃ済まない。恐らく何針も縫うような怪我をして流血の惨事になることだけは確かだ。

…野原一家と「珠由良ブラザーズ」、そして行きがかり上「珠由良ブラザーズ」一行についていくことになったよねは、レモンが巧みに操る運転する自動車で辛くも逃亡に成功する。一方、珠黄泉族のアジトではヘクソンが超能力を使って、「タマ」の在処を探っていた。
名台詞 「その名前は忘れてちょうだい。グロイヤと呼んで。」
(よね)
名台詞度
★★★
 なんとか珠黄泉族の追跡を振り切った一行だが、車内での話題はよねがなぜついてきたか、本当に警察官なのかという点となる。ローズが「あいつらを逮捕させて」と言ったことでよねは署に連絡するが、信じてもらえなかった模様だ。これを見たみさえがついに「警察手帳を見せて」と迫る。ひろしが「国民に対する義務だ」、しんのすけが「本当はただのアブナイおねいさんだったりして」とつく加えると、よねは警察手帳を見せてここで初めて一行に自分の名を語る。「東松山よね」という氏名に驚く野原一家、しんのすけが「よねさんなんて渋いお名前」と言うと、よねは髪をかき上げながらこう語る。
 そうそう、こんな感じで現実解で映画のキャラになりきっている人というのも、臼井儀人作品で多いキャラクターだ。そしてそのテのキャラクターが出たときのその料理の仕方は二通り、本当にそのキャラに染まって我が道を行く事をギャグにするか、本作のよねのようにそのキャラになりきれずにネタキャラになるかのどちらかだ。もちろん、ここまでの展開を考えればよねがグロイヤになりきれるはずも無く、ネタキャラ街道まっしぐらなのは言うまでも無い。この台詞ではこれが確定するだけだ。
 だが、この台詞をきっかけによねの行動パターンにひとつの理由が生じる。それは全て「映画だと上手く行くんだけどな」という、「刑事物の映画」が基準になる事だ。もちろんここまでのシーンも「上手く行くはずなんだけど」と言うシーンはあったが、その基準が「映画」であることは語られていなかった。つまりよね本人は自分が映画ヒーローになった気分でいることが明確になる事が面白い台詞なのだ。
名場面 ひろしとよね 名場面度
★★★★
 ビールの飲み過ぎでひろしが立ち小便しているという最悪のタイミングで、一行は一度振り切った珠黄泉族に発見される。レモンが車を出すが小便を出し切って何とかひろしが間に合いそうだったが…ひろしを車に乗せようと手を伸ばしたよねが車から転げ落ちた事で、ひろしはよねとともに置いてきぼりを食うことになる。
 二人は言い争った後、とにかく近くの駅へ歩く。駅の待合室に落ち着くとひろしは「何でこんな事になっちまったんだ」と頭を抱える。「何とか後を追うしかない」と語るよねに「これは現実なのか?」とひろしが問うと「私はそう思うけど、普通の人は信じてはくれない」と返される。ひろしはまた頭を抱え「なんでこんな奴が刑事になれたんだ?」と問うと、よねは「世の中には色んな刑事がいるんだよ!」と叫び返す。「全然説得力ないよ、もうやだ」と言ってひろしがふて寝すると、よねが「きっと大丈夫だよ、おじさんの家族も…」と言いかけたところで「野原だ」と自己紹介する。よねはひろしの仕事のことを聞くと、今度はひろしがよねに「あんた、何で警官になったんだ?」と聞き返す。よねは素直に「正義の味方になりたかったっていうか…でもなかなかなれない、ドジばっかで。今も現場から外されちゃってるんだ」と膝を抱えながら語り出す。ひろしはちょっとよねの方を見る。「そりゃ、痴漢捕まえるのに銃を使うことなかったんだけどさ」とよねが自分のドジを語ると、冷や汗をかきながら「撃ったのか?」と問う。「撃とうとしたら素直に降参したわ」の声に、ひろしはよねから視線を逸らして寝に入る。「下りの始発で北へ向かうんでしょ? 青森のあっそれ山って言ったわよね。おやすみ」とだけ語ったよねも、そのまま寝に入る。
 この駅待合室シーンは行きがかり上二人きりになってしまった男女のもどかしさというか、バツの悪さというものを上手く描くことから始まっている。その上で男から見れば女は「信用できないドジ女」で手を出す気にもなれない相手だし、女から見れば「職務上守らねばならない相手だが信用されていないのは解っている」のだからなんとか空気を良くしたいと考えるところだ。ひろしが最初に語るのは家族を危険な目に遭わせているだけでなく、そこから自分が落ちこぼれた不幸であり、その状況を目の前のドジ女が作ったという事だ。よねはこれに対して今後どうするかを語るしか出来ないのは当然。そこから少しずつ二人の距離が縮まって行くのだから面白い。よねがひろしを気遣う言葉を掛けたところで、ひろしは「野原だ」と名を語ったのは偶然ではないはずだ。そしてよねは相手を知ろうとひろしの仕事のことを聞いて「大変だ」と感想を述べ、これに対してひろしはよねの事を聞き出す。そしてよねの本音を聞き出したところでひろしは会話から手を引く、これは目の前の女性が翌日家族を共に追うことが出来る相手と認め、その上でそれ以上の深入りは余計な心情を互いにさらけ出すだけと踏んだに違いないとみている。もちろんよねもこれにすぐ気付く、翌日の行動を確認するとひろし同様に眠りにつく。
 こんな駅の待合室での男女の様子を上手く描いていて、私にとってこの作品で最初の強印象のシーンであった。
研究 ・浜前田駅
 今回部分でひろしとよねが車から振り落とされ、別行動で「珠由良ブラザーズ」一行を追うことを余儀なくされる。そこで二人が選んだ移動手段は鉄道利用であり、車から落とされた地点から歩いて最寄りの鉄道駅に到着する。その駅名は「浜前田(はままえだ)」、ちなみに隣の駅は片方が「しんはままえ」、反対側が「となりのはまだ」である。今考察では登場人物達の動きを追っている以上、この「浜前田」駅が何処にあるのか特定することは避けて通れないだろう。ちなみに日本の鉄道には「浜前田」という名前の駅は存在しない。
 「浜前田」駅の特徴を挙げると、海辺にある事、海岸近くにせり立った断崖の下に線路と駅がある事、ホームに待合室がある事だ。鉄ヲタ的視点で見ると非電化路線である事、駅舎とホームの双方に待合室がある事、ホーム線路の配置が「1面2線(ホーム一本の両側に線路2本という配置)」である事が挙げられる。よってこの駅は東北地方の単線のローカル線で、交換可能駅と考えることが出来るだろう。
 まず画面に描かれた特徴から外れるが、東京と青森の間に「浜前田」という地名があるかどうかを調べてみた。すると2件がヒット、1件目は福島県は浜通地方、相馬郡新地町の海岸近くで新地町の東約1キロの所にある集落である。2件目は宮城県は南三陸地方、石巻市に存在する。浜前田駅の場所はこのどちらか…と選びたいところだが、実は2件目の石巻市の「浜前田」は候補から落ちる。なぜなら石巻市の「浜前田」は網地島という離島にあり、鉄道があるはずはないし東京から自動車だけで行くことは出来ないからだ。
 すると福島県の「浜前田」に絞られる。ここには鉄道も通っているし、東京から青森へ下道で向かうのに国道4号でなく6号を利用したと考えれば合点も合う。
 だが問題点もある。劇中に出てくる「浜前田」駅は前述したように非電化のローカル線であるが、福島県の「浜前田」を通る鉄道路線はJR常磐線。単線ではあるが電化されているという相違点がある。
 まぁ、アニメに出てくる鉄道が実物を忠実に再現しているというのもあり得ないので、この福島県の「浜前田」に最も近いJR常磐線新地駅を「浜前田」駅としようではないか。恐らく日の出とともにやってきた列車が常磐線、ひろしが会社に電話をした駅が東北本線と合流する岩沼駅と考えれば良いだろう。
 なおこの新地駅、現在は東日本大震災の津波の影響でずっと不通のままだ。震災当時、駅には仙台発原の町行き普通列車が停車中で、乗り合わせていた乗務員や警察官の機転で乗客全員が避難できた。震災当時に福島県で津波に呑まれて流された電車が大写しされたニュースがあったが、あれが震災によって変わり果てた新地駅である。
 つまり、「珠由良ブラザーズ」の一行は青森まで下道で行くコースとして、メインルートの国道4号線ではなく、海岸経由のサブルートである国道6号線を選んだと言うことになる。「浜前田」駅について調べるだけで、こういうことまで解ってくるのだ。

・今回の足跡
 この地図を参照
野原家 珠由良ブラザーズ 東松山よね
春日部市〜福島県相馬郡新地町 314.8km 春日部市〜福島県相馬郡新地町 314.8km 春日部市〜福島県相馬郡新地町 314.8km
合計 398.0km 合計 481.0km 合計 397.8km

…珠黄泉族のホステス軍団が夜間の追跡を中止したため、野原一家や「珠由良ブラザーズ」は珠黄泉族に襲われることもなく朝を迎える。そんな折、ひまわりの紙おむつが切れたのでスーパーに立ち寄ることを余儀なくされる。
名台詞 「アホやな、お前は。まぁ、狩りに例えるならばマホちゃん達は猟犬、ヘクソンはんはハンター、そしてわては獲物が届けられるのを待つ貴婦人ってとこや。ふふふふふふふふ…」
(玉王ナカムレ)
名台詞度
★★★★
 スーパーの戦いでラベンダーとレモンを捕らえるという一定の勝利を得たホステス軍団だが、この様子を超能力で探っていたヘクソンはナカムレにホステス軍団を引き揚げさせるように訴える。そして自らは直接「タマ」を手に入れるべく出発する。それを見たサタケがヘクソンを制止しようとするが、ナカムレは「お土産楽しみにしております」とヘクソンを見送り、ヘクソンが出て行った後にサタケにこう告げる。
 このおばはんも筋金入りの悪だなーと再認識させられた台詞だ。ここまでの戦いでは子供好きな面を見せたり、健康センターでの着替えの間の休戦を提案するなど温厚な面を見せていたが、ここで彼女はその腹黒さを前面に出す。要は自分が欲しい物は、ここで座って待っていれば手下達が黙って運んでくるという現状に確固たる自信があり、それを実現させるためにその手下達をどのように扱うのが最も適しているかを瞬時に判断しているのだ。今はホステス軍団に敵の中でも手強い相手二人を処分させたこともあり、彼女はもうヘクソンが暴走して目的の物を手に入れて帰ってくることをキチンと計算していたに違いない。サタケを万一の際のボディガードとして手元に置いておけば自分がここに座っているだけで何でも手に入る、そんな腹黒い計算がよくわかる台詞でこのキャラクターの印象度をとても強くしたと思う。
名場面 スーパーでの戦いの結末 名場面度
★★★
 ひまわりの紙おむつを買うために立ち寄ったスーパーに、ホステス軍団が現れる。最初は首尾よくひまわりの確保に成功したかに見えたホステス軍団だったが、しんのすけを一緒にさらおうとしたことでこれに失敗する。そして「珠由良ブラザーズ」とホステス軍団の、スーパーでの売り物を使った激しい戦いとなる。みさえもひまわりとしんのすけを守るべく戦い、ホステス一人を倒すという大金星を挙げる。だが今回はホステス軍団の方が強かった、ラベンダーとレモンは野原一家とローズを逃がすためにギリギリまで戦ったことで、珠黄泉族に捕らえられてしまう。そしてその二人が捕らえられた姿を一度見たローズは、厳しい表情のまま無言で車を出す。
 これはローズが今の「珠由良ブラザーズ」にとって守るべきものが何であるかを理解し、そのために弟たちを犠牲にせざるを得ないと言う思いが上手く伝わってくるシーンだ。彼らが本来守るべきものは「タマ」であるが、それは同時に不本意にも事件に巻き込んでしまった一家を守ることでもあった。「珠由良ブラザーズ」は自らのチームワークによってこれを守ることに成功するのと引き替えに、3人のうち2人が敵の手に落ちてしまった。その悔しさと、その上での「何が何でもタマを守り敵の陰謀を阻止する」というローズの思いが無言で描かれていて、ローズのシーンでは最も印象に残ったシーンとなった。
 またここで「珠由良ブラザーズ」のうち二人を敵のに落としローズ一人にしてしまう点は、物語に変化を付けるシーン要素としてとても大きいと思う。さらに前回考察部分からはひろしとよねも別行動ときてる、こうして登場人物の入れ替わりで繰り返しやってくる戦いに変化を付けるという点でもこのシーンはとても印象深い。今回はひろしとよねが不在の戦いを描き、次はラベンダーとレモンが不在というバリエーションが生まれるのだ。
研究 ・最初の鉄道旅行
 今回はひろしとよねが別行動して鉄道で「珠由良ブラザーズ」を追う。そして列車を乗り継いだ先で偶然にひろし達が乗る列車と「珠由良ブラザーズ」の車が併走したことで、彼らは合流する。
 合流シーンは山の中の小駅といった感じだ。この画面を良く見てみるとこのシーンでの駅名は「奥山中部駅」という文字が確認できる。今度は地名も存在しない駅名なのだが、この位置を特定しないと話が進まない。
 東京と青森を結ぶ区間でこれにソックリな駅名と言えば、上映当時に存在した東北本線の「奥中山」駅だ。現在は東北新幹線の開業によりJRから岩手銀河鉄道に引き継がれ、「奥中山高原」駅と名を改めている。この駅の手前では東北本線と国道4号線が併走する区間もあるので、ここでほぼ間違いないとみて良いだろう。地形的には盛岡側の北上川が作る盆地と、八戸側の海岸線を隔てる峠に最も近い駅であり、山の中の小駅というイメージが強い駅だ。
 つまり、ひろしとよねはJR常磐線と東北本線を乗り継いで仙台駅へ出て、手持ちの資金などの都合からそのまま普通列車を乗り継いで東北本線を北へ向かったと考えていいだろう。当時はコンビニにATMなんか無い時代だ。合流したい相手が下道だけで北へ向かっていることを考えると、在来線普通列車だけで充分に追いつけるはずだ。
 するとみさえらが珠黄泉族に襲われたスーパーマーケットの位置は、仙台市と盛岡市の間のどこかとみて良いだろう。あのスーパーの雰囲気的には、宮城県北部のようにも見えたのであながち間違っていないと考えられる。

・今回の足跡
 この地図を参照。なお鉄道移動組も道路と同じ距離を移動したものとした。
野原家 珠由良ブラザーズ 東松山よね
福島県相馬郡新地町〜岩手県一戸町奥中山高原 279.5km 福島県相馬郡新地町〜岩手県一戸町奥中山高原 279.5km 福島県相馬郡新地町〜岩手県一戸町奥中山高原 279.5km
合計 677.5km 合計 760.5km 合計 677.3km

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