…しんのすけも倒されたことで、ひまわりは珠黄泉族の手に落ちてしまう。そしてローズの母が「山に聞いた」結果、ひまわりの行き先は「東京の臨海副都心」と告げる。 |
名台詞 |
「ああ、雲が流れるぜ、ちきしょー。青空を見つめていると、俺にも帰るところがあるような気がすると誰かが言った。もう会社なんてどうだっていい! 世界の危機もどうでもいい。どんな酷いことになっても、家族が一緒にいさえすれば乗り越えられる。みさえ! しんのすけ! ひまわりを助け出してみんなで家に帰るぞ!」
(ひろし) |
名台詞度
★★★★★ |
今や劇場版「クレヨンしんちゃん」になくてはならないもの、それはひろしを筆頭にした野原家の家族愛であり、家族物語としての要素だ。普段のテレビドラマではこの部分を声を大にして言うことが少ないから、この点が劇場版における差別点であり「一家が繰り広げる大冒険」という「非日常」の扉を開けるきっかけにもなる。そしてその入り口にひろしの名言が置かれるケースも多く、この台詞はまさにその典型的な台詞であろう。
ひろしがまず語るのは、現在の「とんでもない事件に巻き込まれた自分」である。そのために会社を無断欠勤させられて、世界滅亡の危機と対峙するという信じられない状況。だが彼は高らかに宣言する、これを乗り越えるよりもっと大事な「家族」についてだ。彼が語ったのは大事な家族のうち一人が欠けていて、それを助け出さねばならないという当然のことであるが、その当然のことを高らかに宣言することは照れなどが入って実は難しい。またこういう宣言をまともに言う勇気のない人や、馬鹿にしていて言わない人の方が多いかも知れない。実はこういう台詞は土壇場にならないと言えないもので、こういう時に自分の保身しか考えないような小さい奴には絶対に言えない。
この台詞はそんなひろしの「でかさ」と「男らしさ」がうまく描かれている。そして普段は下心の多い普通のおっさんでも、やるときはやるというこの男の真面目さも見えてくる。この台詞を聞いて「こんな男になりたい」と感じた男の子が少しでもいればいいんだと思わせてくれる台詞だ。
だがこんなカッコイイ台詞も、「クレヨンしんちゃん」らしく処理されるのが面白い。この台詞に感動して勝ちどきを上げようとする野原一家の背後で、ローズとその母が実に下らない会話をしているからこそ、「クレヨンしんちゃん」の中のキャラクターでしかないことも描かれている。だからこそ印象的であり「面白い」のだ。 |
(次点)
「なぜだ…?」(臼井儀人)
…ひろしに殴り倒されてこう呟く、臼井儀人先生サイコー。 |
名場面 |
珠黄泉族でのひまわりの扱い |
名場面度
★★★ |
ひまわりは臨海副都心にある珠黄泉族のビルへと連れ去られていた。まずヘクソンが画面一杯に登場して「浣腸だ」と訴え、ひまわりを抱いたサタケが「たま、タマが自然に出るのを待つべきだ」と反論するシーンから始まる。間に入って事を先に進めようとするナカムレにサタケは「昼まで待ってくれ」と懇願するとこれが認められる。マホが「見ちゃいられない」としてサタケの過去を馬鹿にするが、サタケはひまわりをあやすのに必死だ。ヘクソンが「一応、浣腸の用意をしておく。それにそいつ(サタケ)のアホ面をこれ以上見ていたくないんでね」と言い残して立ち去ると、ひまわりをあやしながら「なに〜、てめえとはいつか決着をつけるぞー、バーロー、べろべろべー」とひまわりをあやしながらサタケが答えるがこの時のサタケがサイコーだ。ナカムレとマホも席を外すと、「うんちくん〜、出てください〜、がんばれー、ひまわりちゃーん」とサタケはひまわりをあやし続ける。
これまで敵首領の用心棒として迫力の演技を見せていたサタケに、ひまわりを抱かせただけでとても面白いシーンになるとは思わなかった。元プロレスラーという用心棒に「元ベビーシッターで子供好き」という設定を付け、ひまわりが敵の手に落ちると同時にその本性を現してその落差を楽しませるとは本当に面白い。上記の説明の合間にも、サタケがひまわりをあやすシーンが何度も挟まれている。
そしてこのシーンはそういう「面白さ」だけでなく視聴者に一種の「安心感」を与えるシーンである。フィクションのアニメの中での出来事とはいえ、生まれて数ヶ月の赤ん坊を悪役に誘拐させるという展開は見ている者に余計な感情を植え付けかねない。それは敵に対して「フィクションの悪役以上の憎しみ」というものだ。こうやって珠黄泉族が本当の悪になってしまえば、この先の珠黄泉族側から発生するギャグが全て空回りしてしまう危険性をはらんでいる。だからこそ珠黄泉族側に「ひまわりを守る存在」が必要となり、悪の手の中でもひまわりという赤ん坊がキチンと守られているシーンを描く必要があるのだ。そこへ悪が狙う「タマ」がひまわりの腹の中に収まっているとあれば、それを「浣腸で無理矢理取る」という赤ん坊を苦しませるやり方と、「自然に便と一緒に出るのを待つ」という赤ん坊の生活に沿ったやり方を対比させ、結果的に後者の道が取られるというシーンを描くことはとても重要なのだ。
この「悪役の中でひまわりを守る役」をまさか用心棒のサタケが引き受けるとは、この映画を見た人にとっては予想外だったから面白いと思う。そしてサタケは、ひまわりが野原家の手に戻るその瞬間まで見事その役に徹し、見る者を珠黄泉族に対して余計な恨みを持たぬようにする防波堤としての機能を果たすことになるのだ。 |
研究 |
・「あ、それ山」→臨海副都心 今回は名場面欄シーンをきっかけに、野原家一行が東京の臨海副都心へ向かう。その前にはひまわりを誘拐したヘクソンが単身で臨海副都心へ向かっている。彼らのルートについて考えてみよう(なお交通機関については、本作が製作された1997年時点のものとする)。
といっても、野原家一行+ローズ+よねについては、劇中でその移動行程がちゃんと描かれている。彼らが東京から「あ、それ山」まで乗ってきた自動車、特急「はつかり」号、東北新幹線、山手線、「ゆりかもめ」という順だ。だから珠黄泉族の臨海副都心のビルが何処にあるか解れば良い。
その珠黄泉族のビル位置も簡単に回答が出る。名場面欄シーンの直前で臨海副都心に珠黄泉族のビルが建っているシーン(次回研究欄のリンク参照)が描かれるが、これで見ると珠黄泉族のビルの位置はテレコムセンターの北側、史実では都立産業技術センターが建っている場所である事は明白である。つまり彼らの行動ルートは、下北半島の尻屋崎から「ゆりかもめ」テレコムセンター駅と断定して良いだろう(野原一家が臼井先生に出会う場所がこれとはちょっと違うが、これは気にしないことにする)。また、画面に大湊から野辺地までのJR大湊線が出てこないので、彼らは八戸市まで自動車で短絡(国道338号線経由)したと考えるべきだ。
その通りであれば、彼らの行程は尻屋崎→(自動車)→八戸駅→(特急「はつかり」)→盛岡駅→(東北新幹線)→東京駅→(山手線)→新橋駅→(「ゆりかもめ」)→テレコムセンター駅である。移動距離は下表の通りだ。
ヘクソンの行動だが、彼はしんのすけを倒した後、翌日午前中には臨海副都心の珠黄泉族のビルに着いていることは確かだ。当時はまた上野駅と青森駅を結ぶ寝台特急「はくつる」が運行されていたので、彼はこれに乗って急いで東京へ戻ったと考えるべきだ。タクシーでJR大湊駅へ急ぎ、JR大湊線で野辺地へ行き寝台特急「はくつる」で上野駅へ、ここから山手線と「ゆりかもめ」を乗り継いでテレコムセンター駅という行程だろう。ただ不審な男一人がタクシーや寝台特急に赤ん坊連れで乗ったら、目立ってしょうがなかっただろうな…。
野原一家らの自動車での行程はこの地図を参照。
野原家 |
珠由良ブラザーズ(ローズ) |
東松山よね |
ヘクソン |
青森県東通村〜臨海副都心(テレコムセンター駅) |
770.1km |
青森県東通村〜臨海副都心(テレコムセンター駅) |
770.1km |
青森県東通村〜臨海副都心(テレコムセンター駅) |
770.1km |
青森県東通村〜臨海副都心(テレコムセンター駅) |
737.3km |
合計 |
1736.1km |
合計 |
1819.1km |
合計 |
1735.9km |
合計 |
1524.7km |
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