「あにめの記憶」過去作品・25

「クレヨンしんちゃん(劇場版)
 暗黒タマタマ大追跡」

・劇場版「クレヨンしんちゃん」の基本形
 毎年語っていることだが、当サイトでは「クレヨンしんちゃん」連載開始時期から、原作者の臼井儀人さんの命日が含まれる今の時期は毎年アニメの「クレヨンしんちゃん」を取り上げている。今年もその例に漏れず約2ヶ月ほどの考察連載にお付き合い願いたい。
 私が劇場版「クレヨンしんちゃん」考察の7作目に選んだのは、劇場版「クレヨンしんちゃん」1997年作品で第5作目となる「暗黒タマタマ大追跡」である。

 1993年に第一作「アクション仮面VSハイグレ魔王」の上映から、銀幕での「クレヨンしんちゃん」の歴史が始まった。普段の原作漫画やテレビアニメでは日常生活をベースとしたギャグに徹している「クレヨンしんちゃん」であるが、いったん銀幕に引きずり上げられると映画館で過ごす短い時間の中で、観覧者を冒険の世界に引きずり込まねばならない。このセオリーに従って劇場版「クレヨンしんちゃん」はSFやファンタジーといういわば架空の世界を舞台に、主要登場人物である野原一家に冒険をさせるという物語を紡いできた。

 そんな中でこの第5作「暗黒タマタマ大追跡」では、それまでの劇場版「クレヨンしんちゃん」とは明らかに違う方向性が見られる。担当監督が替わったことや、それに野原家に主人公しんのすけの妹ひまわりが加わった事は本作からである。それより大きな変化があり、その後の劇場版「クレヨンしんちゃん」のひとつのパターンを確立したと言っていい作品だ。
 その最たるものは、野原一家に与えられる「冒険の場」がSFやファンタシーに頼らない現実世界であり、その中で等身大の活躍をするという「現実路線」を取った事である。野原一家が生活する現実社会に唐突に「敵」が現れ、その「敵」と対峙させられることで発生する「冒険」を描くというストーリーである。

 本作で描かれるのは本来は野原一家が戦うべき戦いではない。本来は全く無関係なふたつの勢力の戦いであり、そこに野原一家が巻き込まれて戦いに参加せざるを得ない状況に追い込まれるストーリーだ。その過程で野原一家の冒険と団結を描き、その冒険と団結の中心にしんのすけを据えることで「クレヨンしんちゃん」の家庭的な物語へとストーリーを落とし込んで行く。同時に共に「敵」と戦う登場人物達との物語を膨らませ、群像劇としての要素も見せるのだから面白い。そして戦いシーンでの派手なアクションに、見る者は手に汗握りスクリーンに見入ることになったはずだ。

 このような現実社会ベースに「敵」と戦う物語は、本作の後の劇場版「クレヨンしんちゃん」で多く見られるようになって行く。本サイトでの考察作品では「嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲」はまさにこれに当たり、その後の作品では「嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦」や「嵐を呼ぶ!夕陽のカスカベボーイズ」など数作が例外になっている程度で、多くが上記のようなパターンに当てはまってくる。
 その中でも徹底的に一家の団結を描く物があれば、一家の誰かにスポットを当てた作品がある。「敵」との物語や共に戦うゲストキャラとの物語を重視するものなどその方向性は様々だが、それらの物語を膨らませて見る者が感情移入しやすい「現実世界での物語」はまさに本作から始まったのだ。

 現実社会がベースだからこそ、物語の各所に上映当時の風景や流行が織り込まれるのも面白い。本作ではクライマックスシーンの場所に、当時はまだ再開発途上にあったお台場が選ばれ1997年当時のお台場の寂しい風景が再現されているのは本当に時代を感じる。また登場人物らが東京から青森まで往復しながら戦うというストーリーのため、当時の自動車や鉄道と言った乗り物が大々的に出てくるのも面白いところだ。私の考察ではこの辺りは重視していきたい。

 ちなみに、私がこの「暗黒タマタマ大追跡」を初めて見たのは2002年頃だったと記憶している。当時の妻の実家へ行った際、ケーブルテレビのアニメチャンネルで放映されていたのをたまたま見たかたちだ。意外な話だが、これは私が初めて全編通しで見た劇場版「クレヨンしんちゃん」である(ちなみに同じ日に「嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲」も放映されていて、それを見ている)。

 この現在の劇場版「クレヨンしんちゃん」にも通じる本作を、私なりの目線でじっくり見てみよう。

・「クレヨンしんちゃん 暗黒タマタマ大追跡」の登場人物

野原家
野原 ひろし 野原家の大黒柱で35歳、常の心の中で会社の若い女の子のことを気にしているらしい。
 …男には他人に知られたくない「本性」ってものがあるのさ、健康ランドの女湯の脱衣場に入ったのは羨ましいぞ。
野原 みさえ しんのすけの母で29歳、最初は生まれたばかりのひまわりにべったりな母親像から始まる。
 …体重計に乗って男子更衣室にまで聞こえる悲鳴を上げるなどいつもの行動も健在。。
野原 しんのすけ お馴染みの主人公で5歳、妹の誕生で両親がなかなかこっちを向いてくれない事が気に入らない様子だ。
 …本作はしんのすけが「おかまのおぼうさん」とタマを見つけることから、全てが始まる。
野原 ひまわり しんのすけの妹で乳児、本作では野原一家が事件に巻き込まれるきっかけを作る。
 …劇場版では本作が初登場、「赤ん坊のくせに光り物が好き」という設定をうまく使って事件に巻き込まれるきっかけを作る。
シロ 野原家の飼い犬、いつのまにか野原一家についてきていたんだろう?
 …新幹線の中で「ぬいぐるみ」を演じさせられるのは本作からか? そして忘れ去られる。
珠由良族の人々
ローズ 野原一家と行動を共にする「珠由良ブラザーズ」のオカマの長男、髭面と厳つい顔と気色悪いウインクが特徴。
 …眠っているときの仕草が気持ち悪いけど笑える。身体が大きく動きは鈍いが、頭は切れる。
ラベンダー 「珠由良ブラザーズ」のオカマの次男、小柄な身体に白いすべすべの肌とアイシャドウが特徴。
 …こういう三兄弟って、次男が一番目立たない運命なんだな…ローズが目立ちすぎという話も。
レモン 「珠由良ブラザーズ」のオカマの三男、問題の「タマ」の在処を感じ取ることが出来る。自動車運転も上手くうまく敵を振り切る。
 …みさえを「おばさん」呼ばわりするとは、なんとまぁ命知らずな…。
珠由良の母 「珠由良ブラザーズ」の母親で珠由良族の頭領、息子達とは違いまともな母親である。
 …ローズにママと呼ばれたり、息子達がオカマであることが気に入らないらしい。ヘクソン同様人の動きを読むことが出来る。
珠黄泉族の人々
玉王ナカムレ 珠黄泉族の頭領で、銀座のクラブのママ。なぜか京都弁。
 …無邪気な子供が好きなど平和的な面もあるが腹黒い。さすがに珠由良族関東本部のトイレには腰を抜かす。
チーママ・マホ 珠黄泉族の戦闘部隊「ホステス軍団」を率いる。後述のサタケが最初から嫌いだったらしい。
 …「睡眠不足は肌に悪い」という理由で、夜間の追跡を中止するなよ…。
サタケ 玉王ナカムレの用心棒、珠由良族の関東本部に乗り込むのに壁を破壊するほどの怪力の持ち主。
 …その力強い肉体などとは裏腹に、元ベビーシッターで赤ん坊の世話が大好きで用心棒に向かない。
ヘクソン 珠由良族の血を引く移民の子孫、超能力者であり、人の動きや心の中を読むことが出来る。
 …「クレヨンしんちゃん」らしくない強いだけが特徴のノーギャグなキャラ、でもこういうキャラが一人混じるから面白い。
その他の人々
東松山 よね 千葉県警成田東西署の女刑事、アクション刑事よろしく銃を乱射するが。「やっと銃が撃てるような事件に出会えた」という理由で珠由良族と行動を共にする。
 …最初のシーンから「正統派刑事」でないことは解る、痴漢を捕まえるために拳銃を使用したことで現場から外されているのが真相。
魔人ジャーク どんな平気よりも強力な力を持つ魔神、珠黄泉族はこの魔神の力を使うために「タマ」を巡って珠由良族と戦っていたが…。
 …賞味期限のある魔神って…ネタバレだけど、「しんちゃん」らしいオチがよかった。
臼井 儀人 趣味は便座鑑賞、好きな女性のタイプは松たか子。カラオケ好きな漫画家として登場。
 …序盤の健康ランドのシーンではノリノリで歌ったのが印象的、もちろん声を演じるの本人だ。

2015年10月4日更新あり
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