前ページ「団地ともお(スペシャル)」トップへ

・「団地ともお」エンディング
「ふたりで歩けば」
 作詞/作曲・山崎あおい 編曲・島田昌典 歌・山崎あおい
 実はこのアニメ、考察を書こうと考えなかったらエンディングをこんなにじっくり見たり聴いたりしなかったと思う。ギャグが強烈でその余韻に浸っている間にエンディングが終わってしまうからだ。
 曲の内容は、頑張りすぎている人に送るエールみたいな歌だ。この曲の主人公も相手の誰かも、実は大人ではないことは詩を聞いていれば解る、つまりどんな時も友達同士一緒にいれば大丈夫っていう内容なんだけど…相手の「誰か」は素直じゃねーな。
 背景映像も面白い。団地の夕暮れ、まずは物語のキャラに囲まれてともおが学校からの家路についている様が描かれる。雅人や由伸や満夫といった男子達と手を降って別れると、団地の建物の向こうを景子が体操着袋を振り回しながら頼子と一緒に歩いて行く姿が見える。これを見つけたともおはなんかイタズラでもしようとしたのか、隠れながら二人の様子をうかがうが、景子の方が逆から回り込んでともおを体操着袋で殴る。怒って景子を追うともお、二人の追いかけっこが団地2棟分続いたと思うと景子が隠れる。そうとは気付かずに近付いたともおに、景子はまた体操着袋を投げつけて隠れる。景子を探すともお…と思ったら団地の影から景子が出てきて手を振り、同時に画面の端や団地の影から木下一家全員と、ともおの男子の友達と頼子が出てきて全員で手を振ると終わりという案配だ。
 正直、曲も良いし背景画像も「団地ともお」の世界観が上手く再現されていると思う。特に背景画像の中で長い時間を締めるともおと景子のやりとりは見ていて面白い。ただ気になるのは、最初にともおが出てきた時は体操着袋を持っていなかったはずだが、ラストでは景子に投げつけられた体操着袋を一つ持っている点だ。ただこれは景子が体操着袋を二つ持って現れた事から、ともおが学校に置き忘れた体操着袋を景子が届けに来たという解釈は可能だ。現に最初に景子が現れたとき、体操着袋を振り回していたのはともおを探していたからと受け取ることが出来るからだ。多分最後に景子がともおに体操着を投げつけたのは、投げ渡したというのが正解なのだろう。
 う〜ん、このアニメ、新作放映して欲しいなーと、今回このエンディングをじっくり見て心から思った。NHKさん、ちゃんと受信料払っているんだからおながいしますよ〜。
 

・「団地ともお(スペシャル)」総評

・物語
 物語はオープニングやエンディングの分を差し引くと実質40分、この40分の作品は2回のアイキャッチで3つに区切っている。

 最初の部分はいわばプロローグと行って良い。このパートではともお達の夏休みの生活光景を視聴者に印象付けることを最大の目的としているだろう。ラジオ体操、ひまわりの観察日記、カブトムシ捕獲といったともおの夏休みをしっかりと印象付ける。これと同時進行で秀美が今話の方向性を決め、「歴史の補習授業」という伏線を上手く張って行く。こうやって方向性が定まったところで、ともおと君子を街の老人宅へ誘い出して二人に「戦争」の話を聞かせるが、ここでは主人公ともおの心境変化は描かれず、あくまでも彼の「立ち位置」をハッキリさせるだけだ。

 そして真ん中のパートでは、ともおの疑問が主軸になっているのは確かだろう。だがそれを表に出すのは焦らせない。きっかけとなる老人との出会いをじっくり描き、この老人が戦争体験者である事を明確にするが、物語は慌てず主人公もいつものともおのままだ。
 だからこそ男子と女子の間の戦争が活きてくるし、登校日のともおの質問も不自然でなくなるわけだ。この登校日の質問は物語が本格的に戦争について考える内容へと舵を切って行く。だが終戦の日の黙祷シーンでは、一家はいつも通りのギャグを演じてくれるから、これも見ていて楽しいし飽きない点だ。
 たにしマートのシーンでは視聴者に「今回はこういう話だ」と明確に突きつけると、物語はいつものギャグを交えながら主人公もいよいよそっちへと入り込んで行く。祖父母のリアルな終戦体験や、次のステップに入った男子と女子の戦争と、主人公がこの「戦争について」を考えることになるシーンが展開されて次のパートへと進む。

 最終パートは、ともおが一つの結論に到達する過程だ。例の老人の負け戦話がピンとこなかったことで、彼がそれなりに色々と考えるようになったことが上手く示されている。またカブトムシを捕まえに言っていた森が隣町のエリアで、隣町の子供達からその場を追い出される経験など、ともおが経験を重ねるシーンも描かれる。そして由伸との作文の話からともおが「過去の人々」に思いを馳せるようになる。
 ここまで経験と考えを重ねたともおと節子が図書館で出会うことで、物語はゴールに向かって動き出す。ここでともおは「国境」について考え、そこから戦争を毛嫌いしていた節子とともに、境界線とは何なのかをうまくまとめる。
 そしてまだここまでともおが出した結論は示されていないが、先に「オチ」を演じたのは名場面欄にも書いた花火大会の夜のストーリーだ。こうして万を侍して、ラストでタネを付けるまで生長したひまわりを引き合いに出しながら、ともおの結論が示される。それは最後の名台詞欄を見て欲しい。

 序盤で様々な物語が生み出されているが、それが全てラストまでに回収されて上手く終わっていると思った。ここで積極的に語らなかった中でも、たとえば歴史の補習授業については劇中で問題定義された人々が受講生に加わってゆくことと、そのオチも最後に上手く描かれている。カブトムシ捕獲は主題から逸れると思って見ていたら、「国境」という論理に話が広がるとは思わなかった。

 とにかくこの物語はこれまで持っていた「戦争」にに対する疑問点をうまく指摘してくれた上で、ともおの最後の名台詞では色々考えさせられる素晴らしい物語だと思う。かといって真面目一辺倒に走らず、キチンと「団地ともお」らしいギャグを全編で織り交ぜながら進むことで、変に「よそ行き」を気取っていないのも好感度が高い点だ。このアニメは多くの人に見てもらいたい、心からそう思えた。

・登場人物
 登場人物については基本的にはいつもの「団地ともお」の通りだが、恐らくは歴史の授業をしている高校教師と、ともおに戦争体験を語った老人は本作のオリジナルキャラクターと考えられる。

 本話のともおも良い味を出していたと思う。彼の行動の何が好きかって言うと、劇中で特にギャグを狙っているのでなく自然体で動くことがギャグになっている点だ(ちなみに母親である哲子も同様の共通点を持っている)。本話でもこの点は貫いていて、適度に回転の良いと頭の悪さもいつも通りだ。そんな彼が経験を重ねて色々考える姿は新鮮ではあるが、その課程で「タイムマシンの設計」を真剣にやってとんでもない絵を描いているからこれまた面白い。そしてともおが出した結論は、そんな彼の背伸びしない小さな目標という点は上手く描いたと思う。

 本話でともおの対照的なキャラとして使われたのは節子だろう。彼女は「戦争」について「良くない」と決めつけているところがスタートで、終盤までその考えで突っ走る。だが彼女はその終盤でともおと語り合うことで、色々と気付いたはずだ。その内容は男女の場所の取り合うにおいて自分も戦争していたという事実だろうし、また自分にもっと別の対応が出来たはずという公開であり、戦いには境界を作るためという理由があることだと思う。その辺りを理解したからこそ、ともおに罵声を浴びせたことに謝罪したと解釈できる。

 他の子供達もいつも通りキャラを演じているが、こちらは景子が「大和カッコイイ」と言い頼子が「大和」の絵を描く以外は、「戦争」をテーマにした話には余り入ってこない。だがそのきっかけである男女の遊び場を巡る争いや、カブトムシ捕獲の話では上手く盛り上げてきたと思う。しかし景子の120歩を3で割ったらだいたい10歩って計算大好きだぞ。

 また本話では、子供達だけでなく年配のキャラクターも大いに活躍している。特にともおに戦争の話をした老人は、優しい老人から思わぬ言葉でキレてしまう老人や怒ってしまったことに後悔する姿など、様々な老人の一面を演じているのが印象的だ。
 また歴史教師も、本来は落ちこぼれへの補修のはずなのにふとしたことから町中の人が来てしまった喜びと戸惑いを上手く演じている。戸惑いは最後だけだが…か授業の初めではまだ少ない生徒達に自分の思いを熱弁しちゃう辺りは良いキャラだと思った。ちなみにこの教師、本サイト考察作品でもおなじみの屋良有作さんなんだよなー。
 もちろんともおの祖父母も今回は良い感じだった。ばあちゃんのあの世からのツッコミはいつ見ても怖いぞ。

 その他、この作品には面白いキャラが沢山出てくる。また彼らの活躍をじっくり見てみたいものだ。

 最後に名台詞欄登場回数だが、放映時間が短いせいもあって取り上げた台詞は8つ。その殆どがともおで、2番目が節子というのはやはり彼女が主人公の対照的キャラとして使われた証だろう。後は秀美の「全てのきっかけ」となった台詞だ。

名台詞登場頻度
順位 名前 回数 コメント
ともお 本作を引っ張る主人公、いつものノリで物語を引っ張りつつも最後には真面目に答えを出す。その彼が今回出した回答であるラストの名台詞は、自分たちの平和のために戦った祖先へどうやって報いるかという問題定義で、とても印象に残った。また彼が中盤に放ったふたつの疑問もとても印象的だ。
節子 名台詞欄登場回数次点は、ともおのクラスの学級委員長で鉄ヲタの節子。彼女は戦争は悪いものだとして徹底的に毛嫌いするところからスタートする。彼女の2つの名台詞で印象に残っているのは後者、「戦争の話が嫌い」と将棋を指しながら言うのが滅茶苦茶で印象に残った。
秀美 そして上記2名以外で唯一の名台詞欄登場は、地元の女子高生である秀美。彼女は坂上との会話で本話で最初の問題定義をしていて、「え? 今回はこういう方向性なの」と思わせてくれて印象的だった。ちなみに秀美と節子は演じている役者が一人二役で同じ人なので、本作考察で名台詞欄に登場した役者は2名ということに…。

前ページ「団地ともお(スペシャル)」トップへ