「あにめの記憶」特別版

団地ともお(スペシャル)
「夏休みの宿題は終わったのかよ?ともお」

・終戦70周年にNHKが放ったヒット作
 夏のテレビ番組はNHKも民放も戦争を題材にした番組が多くなる。8月6日の広島原爆の日、8月15日の終戦記念日を中心に多くの戦争関連番組が放映され、その番組を通じて人々が戦争の悲惨さをしり平和への思いを新たにする…これは日本の夏の風物詩といって良いだろう。特に今年、2015年は「終戦70周年」ということで各局も力の入れようが違う。
 だがそれらの番組の多くは大人向けであり、大人達が昔を振り返る内容になってしまっているのは否定できない。そして戦争を知らない世代に戦争を知らない世代に「戦争は悲惨」という見方を一方的に押しつけていると言っても過言ではない。この時期の戦争番組では日本の「勝ち戦」を放映しないのはお決まりだからだ。
 そんな中で、この夏にNHKが一石を投じる番組を放映したと言っていい。なんとNHKが放映するギャグアニメ「団地ともお」の「終戦の日スペシャル」を制作し、8月14日の朝に「高校野球が3試合のみ日の穴埋め番組」として放映したのだ。危ない、高校野球の2回戦のうち1試合が引き分け再試合とかになったら、この番組の放映は危なかったわけだ。
 その内容の詳細はここから先の考察本文に譲るとするが、この番組は正直言って「戦後70年」で放映された数ある番組の中で、最も印象に残ったと言わざるを得ない。物語の中心はいつもの「団地ともお」の展開ではあるが、その中で「戦後」という時代に対する疑問を強く問題定義し、戦争というものがどうして起きるのかをさりげなく再現し、今の時代の子供達があるべき姿のひとつを呈示している。その上で最後はサブタイトルの内容について質問者が「ん?」と思う凄い作りだ。
 今回は2015年「あにめの記憶」終戦70年特別版として、このアニメを考察してみよう。

・「団地ともお」について
 「団地ともお」は2003年に「ビッグコミックスピリッツ」で連載が始まったギャグ漫画を原作にして、2013年4月から2015年2月NHKで放映されていたギャグアニメだ。東京の郊外にある団地を舞台に、小学生達の日常が描かれている。この舞台になった団地は横浜市に実在するという噂もある。
 主人公の木下ともおは小学4年生、ちょっとやる気のない発言の多い半袖半ズボンの男の子だ。この主人公の家族と友人達が、独特のギャグを交えながら今の世を精一杯生きる姿を描いている。このともおの家族や友達、それに街の人々といったキャラクターが個性溢れていて魅力的であるのが、この作品の最大の見どころと言って良いだろう。

 この漫画の原作は読んだことはないが、NHKでしかも土曜日の朝に放映されたいたこともあって、放映開始間もない頃に偶然見てしまったのが出会いだ。「なんだ、このシュールなアニメは…」というのが私の第一印象で、以降土曜日に用事がない日は積極的に視聴していた。最も気に入っているエピソードは2015年1月17日に放映された「愛好し愛好され生きてくともお」、鉄道ネタというのもあるがその「いぢり方」がとても面白くて感心した。
 また、サイトで本コーナーを立ち上げてからは最近のアニメ声優の人の名前もいくつか覚えるようになっていて、本作にはそうやって覚えた名前の最近の役者さんと、昔ながらの役者さんが良い具合に出ているのも印象的だ。
 2015年2月に残念ながら放映は終わり、現在は「セレクション」という形で傑作選のみ放映(Eテレ)となっている中、8月14日の朝にあのテーマソングがしかも総合で始まった時は本当に驚いたよ。「まさか新作?」と思って見ていたらあんな内容なんて…。
 とにかく、その驚きの内容を考察しよう。

・「団地ともお」主要登場人物

・木下家
木下 友夫 物語の主人公、遊ぶことと食べることをこよなく愛する健康優良児。トラブルも多いが根に持たないサッパリ系。
 …半袖半ズボンというふた時代位前の小学生像を描くが、自転車の泥よけが逆を向いているのはどういう意味なんだろう?
木下 鉄雄 ともおの父、単身赴任している設定で普段は家にいないが、今話ではお盆休みなのか家にいる。
 …単身赴任設定のせいで影が薄い父親だが、一度出てくると強烈な存在感が出てくる不思議な人。
木下 哲子 ともおの母親で、典型的な肝っ玉かあちゃんだが息子を優しく見守っている。中の人は「小公女セーラ」のピーターだ。
 …パートに出ている設定があるので昼間は家にいない母親だが、今回は父親と同じく家にいる。ともおは母親似。
木下 君子 ともおの姉で中学2年生。学校では「バイオ部」という意味不明な部で、一人真面目に部活に勤しんでいる。
 …こいつら本当に姉弟か?と思うほどともおと性格が違う。しかし、母と弟が目を開けているかどうかも見分けられないとは…。
おじいちゃん ともおの父方の祖父で存命だが名は不明、中の人はアナライザー。
 …実は本作の視聴で始めて見たキャラ。凄い戦争体験を持っていたんだなー。
おばあちゃん ともおの父方の祖母だが既に他界、中の人はカーライル院長。
 …こんなばあちゃんがいたんだ。おじいちゃんの語りにわざわざツッコミを入れたり相づちを打つのはある意味怖い。
ともお同級生
吉本 雅人 ともおと一緒にいてたまに優等生ぶる男子、最初はともおと余り仲良くなかった記憶が…。
 …良くも悪くもこの友人のおかけでともおの存在があると言って良いだろう。宿題を写させてもらおうなど狡賢い。
吉田 由伸 ともおと一緒にいるちょっと太った男子、のんひびり屋でゆっくりしゃべる。
 …ともおと一緒に物事を簡単に済まそうとして、今話では作文の宿題を写させてもらっていた。
菊川 満夫 ともおとクラスメイトで優等生、その頭の良さからともおらに頼りにされているが…。
 …頼りにされているのは宿題の内容だ、彼が作った作文を雅人や由伸がアレンジして提出することに。
鎌倉 景子 ともおのクラスメイトでお転婆少女、喧嘩も強くあだ名は「ケリ子」。中の人はミーナ・パタゴスと聞いて驚いたのなんの。
 …ある意味今時の女の子像を演じていると言って良いだろう。正直、この子がいなければ「団地ともお」は成り立たない。
立花 節子 ともおのクラスメイトの学級委員長、団地の住民でないが景子らと一緒にいることが多い。お年寄りと将棋をする趣味がある。
 …そしてこの子の最大の特徴は、なんと「鉄ヲタ」であることだ!
葉山 頼子 ともおのクラスメイトの女子の一人で景子らと一緒にいることが多い。得意技は絵を描くことだ。
 …景子に「戦艦大和のCGかっこよかった」と言われて、空で地面に大和を描いちゃうのは凄い才能だと思う。
本田 育江 ともおのクラス担任教師、何事にも真っ直ぐな性格だ。
 …今回、現在の「戦争に対する世論」に対する疑問をぶつけられて最も苦難するのは、この人だ。私も子供にああ聞かれたら答えに詰まるだろう。
街の人々
青戸 秀美 団地に住む高校2年生、いつも参考書を読んでいるから頭が良いのかと思いきや…。
 …彼女が受ける補習授業が、今回の物語の一つと言って良いだろう。
坂上 団地に住む高校2年生で秀美の友人、足が悪い設定でいつも杖をついて歩いている…。
 …秀美といいコンビだなーといつも思う、互いにないところを補完し合っている面白い友人関係だ。
間 公文 街のコンビニ「たにしマート」で働く老紳士、若い店員である今野に終戦時に父が満州で苦労した話を語る。
 …元裁判官という設定はこの考察で登場人物について調べて始めて知った。
今野 裕二 街のコンビニ「たにしマート」で働く若いアルバイト店員、間が語る父の苦労話を耳にするが…。
 …間との二人の会話はとても印象深い、名場面シーンに取り上げているので参照のこと。
…他にも愉快な登場文物は沢山いるが、「本話ではこの程度を押さえておけば大丈夫」というものをリストアップした。

・「団地ともお」オープニング
「団地でDAN! RAN!」
 作詞・増子直純 キヨサク 作曲・上原子友康 編曲・怒髪天 歌・怒髪天 feat. キヨサク
 正直、テレビからこの曲がこの曲が流れてくるだけで「来たな」と思う、これから約30分間涙と笑いが約束されていると身を構えるオープニングだ。だけどこの話だけは意外な方向へ行ってビックリだったが。
 なんてったって最初の団地の向こうから陽が昇るシーンがとても美しい、ギャグアニメのオープニングとは思えないほどだ。続いて本を開く形で飛び出すタイトル、あとはともおをはじめとする物語を彩る個性豊かなキャラクター達が踊っているだけだ。しかもその背景は物語に描かれるシーンでなくイメージである事が多いが、「団地」を描くことだけは忘れないという気の使い方だ。サビのところで18人のともおが踊っているシーンは、最初見たときは正直気持ち悪かった。一人だけなぜか下着姿なのが面白いが。同じく18人のともおの母が踊るシーンでは、みんなエプロン姿なのに一人だけジャージ姿なのも面白い。学校の仲間達が踊るところではそういうイレギュラーはないのに。そして最後はともおが色々な仮装をして踊り、最後は団地の窓からともおが顔を出してVサイン…とても印象的な背景画像だ。
 曲は印象的というか、メロディも歌詞も覚えやすい。何度か視聴すると空で歌えてしまうほど簡単な歌だからこそ、印象的なんだろうな。でも歌詞を聴いていると、子供の頃の記憶に訴える部分があるのも凄いと思った。

2015年9月13日総評公開
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