第10話 「赤いモビルスーツ」 |
名台詞 |
「大尉はもう二階級降格という処分を受けています。それに従わなかったのは、ドズル中将の命令に対してです。キシリアに、ではありません。どうしても逮捕するというのならあなたたちのような三下ではなく、キシリア自身が逮捕状を持ってこの店に来なさい…と、クラウレ・ハモンがそう言っていたと、伝えなさい。」
(ハモン) |
名台詞度
★★ |
ルウムでの戦いが迫っていた頃、軍を抜けたランバ・ラルはハモンの店で居眠りしていた。そこへ現れたジオン軍諜報部のタチが、出てきたハモンに対し唐突に「逃げてください」と告げる。驚くハモンに「キシリア機関の者が来ます。あなたと大尉を抗命罪で逮捕するそうです」とタチは告げるが、これを言い切ったところで足音が聞こえタチは慌てて店の客のフリをしてカウンターに座る。すぐに3人の男が現れ「ランバ・ラル大尉はいらっしゃるかな?」とハモンに問う。「奥で寝ているけど、何か?」とハモンが返すと男は「ブリティッシュ作戦(コロニー落とし)における命令不服従の罪で逮捕状が出ています。匿っていたのなら、あなたも…」と要件を言うと、最初はすまし顔で、後半は叫ぶように、ハモンが返した台詞がこれだ。
なんかハモンさんがやっとハモンさんらしくなったと感じた。本作のここまでのハモンはランバ・ラルの女ということだけが共通点で、どこか旧作の彼女と雰囲気が違った。特にキャスバルとアルテイシアが亡命する頃の展開では、ネタキャラの一人になっていた感があるし…。それがこのランバ・ラルを権力で亡き者にしようとする者どもを、ランバ・ラルのために正論で追い返し、彼を守り切る。そんなランバ・ラルに殉じるハモンの姿と、ハモンらしい力強い台詞がやっと描かれた感じだ。
だがここで現れたキシリアの手下が本当に「逮捕状」を持っているかどうかはとても怪しいと言わざるを得ない。恐らく彼らはキシリアの命令を上司から聞いただけで、その意図などは全く解ってないのだろう。キシリアの狙いはザビ家に反旗を翻す可能性があるラル家の全滅であり、ランバ・ラルがドズルの命令に逆らったことでやっと彼を拘束する「言い訳ができた」と言うところなのだろう。逮捕状はハッタリであって、彼らも本当に「逮捕状」が出ているかは知らない。そこを見抜いているからこそハモンは「キシリア本人をよこせ」と言えば彼らが引っ込むことを想定していたのであろう。 |
名場面 |
開戦 |
名場面度
★★★★ |
いよいよルウムでの戦いの幕が切って落とされる。まずはコロニーへの陽動攻撃で始まり、続いてドズルが先頭に立っての艦隊戦の様子が描かれる。その間に地球連邦側の指揮艦の様子や、モニターで戦況を見守るデギンやガルマの様子も描かれる。艦隊戦の緒戦は火力が強い連邦優位に進むが、連邦優位に進んだところでドズルが陣形転換の命令を出す。続いて描かれるのはシャアの出撃だ。シャアは乗艦から出撃すると最初は通常速度で戦闘エリアへ向かうが、フルブーストで加速すると、強烈なGに顔をしかめる。彼の機体はリミッターが切られていることは、前話で示唆済みだ。そのフルスピードで敵へ向かうシャアの「赤いモビルスーツ」が印象的に描かれたところで、今話は幕を閉じる。
いや、カッコイイ。みんなカッコイイ、これぞまさしく「戦記物」という勇ましいシーンに圧倒された。こういう「戦いの格好良さ」というのが否定され始めた時代に生まれたのが「ガンダム」であるが、その風潮にも負けずによくぞここまでカッコイイシーンを作り上げたと感心しきりだ。そして出てくる兵士全員の士気は高く、嫌々行っている兵なんかどこにもいない。敵を倒すことだけに集中している兵士たちの姿が上手く描かれていて、これこそ「戦争の一面」だと強く感じるシーンだ。
もちろんかっこよく描かれているのは兵だけではない。ジオンや連邦の艦船も、シャアに限らずモビルスーツも、みんなかっこよく描かれている。こういうわくわくさせる戦いシーンって、「宇宙戦艦ヤマト2199」以来だなぁ。
さらにこのシーンでは、旧作ではシャアの部下だったドレンやデニムも出てくる(声だけだが)。シャアはこの二人とはルウム戦役からの付き合いだったのかと、ひとつの発見もさせられる。
そして戦いの始まりをかっこよく描いたところで「つづく」だ。あー焦らされる、早く続きが見たい…と多くの人が思うところだろう。 |
感想 |
いよいよルウム戦役勃発。それに向けて話をじわじわと盛り上げてゆき、名場面シーンでもっとも盛り上がったところで「つづく」となるストーリーだったと思う。
冒頭のプロローグではセイラの話が進む。彼女側の話が本格的に進むのは物語中盤でテアボロ邸が暴徒に襲われたところからだろう。そこまではセイラが「死んだのは兄ではなくシャアの方」「兄はシャアとして生きている」という疑いに揺れているだけだったが、ここではハッキリとセイラに変化が出る。自ら銃を取って戦うようになり、戦うことで愛する人を守ることに目覚めたのだが…その瞬間にセイラの育ての親であるテアボロが死ぬという厳しい物語展開であった。そして同時にジオンのサイド5に対する攻撃が始まり、本物のシャアの両親がこの攻撃に巻き込まれて死ぬのだが…本物のシャアの両親が乗っていた旅客船を攻撃したのがシャアという描かれ方をしているのは辛い展開だなぁ。
しかしセイラはどれだけ目が良いんだ? コロニーの地面にいて、反対側の採光窓の縁に経つモビルスーツを「赤いモビルスーツ」と認識できるのだから。だってコロニーの直径は約6キロ、セイラは6キロ離れたところにある長さ18メートルの物体を「モビルスーツ」と認識し、しかも色が赤であることまで認識できている。さらに言うと昼ではない、夜にだ…新宿の東京都庁から東京駅を見るようなもんだぞ、目の良い人が昼間なら認識可能かもしれないが、夜となるとちょっと…。
それと名台詞欄シーンの直後にハモンさんが歌っていた歌、なんか切なくてこっちも泣けてきた。ランバ・ラルの現状を旨く示しているようにも聞こえて…ランバ・ラルがガルマの敵討ちをさせられたのは、こういう伏線によって「ジオンへの忠誠を示すため」だったんだろうな。彼はガルマの敵討ちに成功すれば、また元のように軍人として活躍できたのかもしれない。 |
研究 |
・続 コロニー落とし コロニー落としの考察は前回もやったが、今回もその続きを言ってみたい。今回は前回の「落ちたらどうなる」ではなく、「どうやって落としたのか」を研究してみよう。
劇中の描写ではこうだ、まず「アイランド・イフィッシュ」周辺の敵を排除して制宙権を確保する。そこに大規模な工作部隊を送り込んで、コロニー本体に耐熱加工を施し、推進エンジンを取り付け、これらが完了したところで毒ガスで内部の人々を殺害。コロニーが「無人」になったところでエンジンに点火し、「アイランド・イフィッシュ」を地球と月のラグランジュ点から離脱させるというものであった。
コロニーがどんな素材でできているかは解らない(前回考察したように、素材が金属だとすると大気圏突入時に燃え尽きてしまい地面に落着できない)が、「耐熱加工」の必要性は疑問に感じる。「コロニー落とし」によって地下深くにあるジャブロー基地を殲滅するためにコロニーにはなるべく原形を保っていて欲しいという考えは解る。だがコロニーを形成する素材は金属のように簡単に燃えてしまうものでは「耐熱加工」をしても「燃えるものは燃える」という結果になるし、架空の超強力な素材で作られているとすれば「耐熱加工」などに頼らなくても劇中の描写どおりに地面に激突してくれると考えられるからだ。
次に航路だ。スペースコロニーは地球と月の重力が釣り合い、安定して地球を周回できる地点である「ラグランジュ点」に設置されている。ラグランジュ点はL1〜L5の5箇所あり、「アイランド・イフィッシュ」が属するサイド2はL4と呼ばれる月の公転軌道上(地球から見て月より60度先行して公転)にある。普通ならここで減速方向(公転方向とは逆方向)にエンジンを吹かせば地球に落下する軌道を取るはずだが、ラグランジュ点では重力が安定しているのでこれだけでは地球公転軌道から出られない。劇中では月の裏側を経由していたように描かれているが、これがラグランジュ点から脱する軌道となんか関係があるのかもしれない。ひょっとすると月で減速スイングバイをしたのかもしれない。
そして地球へ向かう「アイランド・イフィッシュ」は、南米ジャブローが落着地点と予想されるが、何故か落着した場所は全部がオーストラリア、中部が北米、後部が太平洋という結果だった。落着予想点は「アイランド・イフィッシュ」のコースをトレースすれば正確に分かるはずで外れるなど考えられない。
やはりここは連邦軍艦隊の「アイランド・イフィッシュ」に対する攻撃が原因だろう。「アイランド・イフィッシュ」は地球に確実に降下するコースであったが、ジャブローという限定した地域に落とすには落下中にエンジンを始動させてコースを微調整させる必要があったはずだ。連邦軍の攻撃でこのエンジンを破壊され、微調整が効かなくなったと解釈すれば良い。同時にエンジンの破壊により、燃料の漏洩などで予想外の噴射が発生すれば…落着地点が外れてもおかしくない。
しかし連邦軍も悪だ。「アイランド・イフィッシュ」が地球の降下軌道を取り始め、しかも落着点が自分たちの基地だからって攻撃するか? 相手はスペースコロニーで、何百万もの人が住んでいた物体だぞ。その上避難施設も完備しているし、連邦側は中の住民が毒ガスで殺されている事実は知らなかったはずだ。だからここは「住民に生存者がいる」ことを前提に行動すべき場面のはずだ。つまり連邦軍は「アイランド・イフィッシュ」の軌道変化を確認したら武力攻撃するのでなく、住民救助を前提とした内部の確認行動をすべきはずだったんだが…「毒ガスでの殺害」を知らなかっはずたからこそ、「アイランド・イフィッシュ」住民は連邦軍に見捨てられていたという見方もできるのだ。これじゃ私もジオンの肩を持つなぁ。 |