第11話 「ルウム会戦」 |
名台詞 |
「…何処だ? ここは? ああ、宇宙か。いきなりあの世かと思ったぜ。あっという間に人は死んで、ゴミになるのか。またゴミの仲間が増えてゆく。おーい、メガネ。メガネ〜っ。」
(リュウ) |
名台詞度
★★★★ |
連邦軍レビル艦隊の偵察機パイロット、リュウ・ホセイはジオン主力艦隊の発見を報せて帰投するが、艦隊に戻ってみると戦闘機発艦のために着艦許可が出ない。そうこうしているうちに、飛来してきたジオン軍のモビルスーツと接触して機体は大破…次に気がつくと宇宙区間を一人で漂っていた。上記の姿は既に無く、目の前には味方艦隊が派手にやられている戦闘宙域が広がっている…その光景に手をさしのべるようなポーズを取りながら、リュウはこのように呟く。
戦争というのは、もちろん人が多く死ぬ現場である。戦闘員同士はもちろん、あるときは一般庶民も巻き添えにして多くの人が死ぬ現場となる。だがその人の死が多くなるほど、その一人一人の死が顧みられなくなるのが戦争の実状だ。死んでいった一人一人に家族があり、友があり、それぞれの物語があるはずだが、戦争のように沢山の人が死ぬ現場ではそんなことはどうでも良くなってしまう。魂が抜けた肉体は「亡骸(=死んだ人間)」ではなく「死体=(ただの物体)」でしかなくなってしまう。その死体がどのように扱われてきたかは、過去の戦争について調べれば嫌と言うほど解るはずだ。少なくとも、その戦いが続いている間は「亡骸」としてた扱われることはなく、邪魔な物体でしかなく弔う者もいない。弔われるとすれば戦いが終わった後だ。
その現実をこの台詞はうまく示していると思う。戦場で死ねば人がどう扱われるのか、リュウは解っているのだ…そして、リュウは死んでいなくても今の自分がゴミと化したことにも気付いていると思う。戦うための武器も持たず、半死半生で宇宙空間を漂っている人間が役に立つはずがないことも解っているのだ。だからリュウはこの台詞の最後で「ゴミの仲間」を探す。それが「メガネ」と呼ばれていた、一緒に偵察機に乗っていた戦友だ。 |
名場面 |
黙祷 |
名場面度
★★★ |
ジオンのドズル艦隊が連邦のレビル艦隊を殲滅し、連邦主力艦隊であるティアンム艦隊がジオン本国への攻撃を中止して反転したことで、この戦いの勝敗が決する。その勝敗が決したとき、破壊されて炎上する連邦艦隊の残骸を見たドズルは「恨むなよ、敗者の運命だ」と呟く。そして「打ち方やめ」と号令を発して「戦いの終結」を宣言したのに続き、「消えゆく大宇宙の戦死諸氏に対して、黙祷!」と号令を発する。するとドズル艦の艦橋にいた乗員たちは、ある者は帽子を脱ぎ、またある者は背筋を正して黙祷する。ドズルも直立不動のまま黙祷している。
このシーンはリュウの名台詞と連動している、と私は感じた。戦争という人の死が多数発生する現場において、一人一人の死が顧みられることはない。だが名台詞欄にも書いたが、その死者が弔われることがないのは戦いが続いている間だけ、戦いが終わればこのように死者に対し祈るくらいのことは行われている。死力を尽くして戦ってきた者が、同じように戦って倒れた者にそっと祈りを捧げるのだ。
だが、このように「戦いで死んだ者」に祈りを捧げることができるのも勝者のみに許された特権であろう。戦って倒れた者は死んでいるか半死半生の状態で、生きている者も死者のために祈るどころではないのは明白だ。倒れていなくても敗れた兵には祈る余裕などはない。敗れた兵には「戦場を脱して帰る」という大仕事が残っているし、その大仕事は逃避行であって楽なものではない。しかも半死半生の人間を連れて行かねばならなかったり、近代戦では自分たちが乗ってきた乗り物を動くように直したりしなければならない。敗れた兵でも敵の手に落ちた者は、勝った敵の命令で黙祷させられるが…その精神状況は祈っているものではないのも明白だ。
この祈りを捧げる行為を通じて、戦いにおける勝者と敗者をうまく浮き彫りにしたと私は考えている。そして名台詞欄の台詞と連動して見ると、戦場での「人の死」に思い至ることができるのは勝者だけという現実まで見せつけられる。「戦争は人が殺し合うから悲惨」なのではなく、その悲惨な要素がもっと深いところにあることを、今話で伝えようとしているのではないかと感じた。 |
感想 |
もう正直言って全部名場面、今話はそう言い切って良さそうだ。旧作「機動戦士ガンダム」でその存在が示唆されていた「ルウム会戦」という戦いが詳細に描かれた。ガンダムワールドにおいてその戦いの設定がどんどん膨らんでゆき、「シャアが戦艦5隻を沈める驚異的な活躍をした」のみでなく、ジオン軍の奇策や「黒い三連星」の戦いぶり、そしてジオンの捕虜となったレビルの動きなど、様々な要素が息つく暇なく描かれた。
特に印象的なのは名台詞欄・名場面欄シーンなのだが、そのほかにも連邦側がドズル艦隊を見失った時の緊張感は、見ているこっちまで緊張してしまうすばらしい仕上がりだ。そして偵察機や見張り員が「敵艦見ゆ」と報告するのに先回りするように、ジオン側が攻撃を仕掛けてきたときの司令の混乱ぶりは、こっちまで戦いに参加させられているようで本当に緊張した。テレビを見ていて自分の家のどこかに被弾するんじゃないか、なんてホントに思ったもん。大袈裟じゃなくて。
もちろんメカ類の動きもとても良くて、特にシャアのザクなんかかっこよすぎ。でもどちらかというと、私は「黒い三連星」の無骨な戦い方の方が印象に残ったなぁ。ヒートホークで敵艦の艦橋を縦に真っ二つになんて、普通じゃ想像できない戦い方だと思うけど、それを思いついた上に映像化してしまったのは本当に驚いた。でも危なく、三連星はもうちょっとでレビル将軍を殺しちゃうところだったんだなぁ、危なかった。
そしてその裏で怪しく動くザビ家兄妹、ようやくキシリアが旧作の「あの格好」で出てきてくれたとはともかく、ギレンはこの頃からデギンを何とか殺してしまおうと考えていたのね。ただしこの戦いの当時は、積極的に亡き者にしようとしたのではなく、「あわよくば死んでくれ」程度のものだったのだろう。その上でチャンスをうかがっていたんだろうな。
次はルウム会戦の「戦いの後」が描かれるはずだ。レビル救出劇も描かれるだろうし、ジオン有利になるはずだった終戦交渉が決裂する過程も描かれるのだろう。いよいよ旧作の時代に近づいてくるわけだ。 |
研究 |
・ルウム会戦 今回は旧作「機動戦士ガンダム」でその存在が示唆されていた「ルウム戦役」について描かれている。この「ルウム戦役」は過去の設定では、ジオンが再び「コロニー落とし」を行うために連邦側に付いたサイド5「ルウム」を襲撃するというものであったが、本作の「ルウム戦役」ではそのような要素は一切見られない。ジオンが連邦に付いたサイド5に鉄槌を食らわすという目的もあるものの、それは連邦軍艦隊を誘い出すためのエサであり、本当の目的は連邦軍艦隊を損耗させることにあったようだ。
前々話からの流れを見ているとこういう作戦のようだ。まずジオンはサイド5「ルウム」政府に対し、「連邦の一部とみなす」という理由で宣戦布告を改めて行ったのであろう。これによって連邦軍からはサイド5防衛のためにティアンム艦隊を出す。さらにジオンとの艦隊戦に備えて、地球から連邦軍主力艦隊であるレビル艦隊が出撃する。
ここでジオンの大本営が「我が艦隊は全力でティアンム艦隊を叩く」と決定する、もちろんジオンの大本営には連邦に通じている者がいるから、この情報は筒抜けである。連邦軍はジオンがサイド5攻撃のためにティアンム艦隊を戦うと睨んでティアンム艦隊はジオン艦隊を迎え撃つために全艦出撃、この後方からレビル艦隊も加わってジオン艦隊を一網打尽にしようと考えたのだ。
ところがこの連邦のブランは序盤から崩れる。これは前話で描かれたことだが、サイド5がジオンのモビルスーツの急襲を受けたのだ。各コロニーの港が破壊され、住民は脱出することもできなくなってしまう。この急襲のタイミングもジオンはうまく考えていて、ティアンム艦隊がジオン艦隊に会敵する頃合いを狙っている。もちろんティアンム艦隊は回れ右して本来のサイド5防衛に向かうわけに行かず、サイド5の救援はレピル艦隊の戦力を割いて行うしかなくなってしまう。
それでもティアンム艦隊は全艦がジオン艦隊との戦いに参加するため、ジオンにとっては不利だ。ジオンは最初から「全力でティアンム艦隊を叩く」つもりなんかなく、大本営会議の決議とは違う行動を取ることになる。ティアンム艦隊との戦いでは負けているように見せかけて、敗走するように見せかけつつ転進。結果連邦側はジオン艦隊を見失ってしまう(ミノフスキー粒子の影響もあり)。連邦が見失ったジオン艦隊を探している間、ジオン艦隊はティアンム艦隊を大きく迂回してその後方のレビル艦隊に急襲を掛ける。しかも最初にレビル艦隊旗艦に致命傷を与え、艦隊を混乱させるという手の込みようだ。
こうしてレビル艦隊は混乱の中で次々に沈められ、レビル将軍自らがジオンの捕虜になってしまう。さらにサイド5に救援に行った連邦艦隊も、引き続きサイド5攻撃活動をしていたジオンのモビルスーツの餌食になり、ここでシャアが5隻の戦艦を沈めるという武勲を立てることになった。
そして最後に、状況下でほぼ無傷でサイド5からサイド3(ジオン本国)方面へ進撃していたティアンム艦隊が、デギン公王の座乗艦に出くわしたことをきっかけに撤退する決断をする。こうしてルウム戦役はジオンの圧倒的勝利で終結…という訳だ。
この戦いはジオンが「数が少ない自分たちがどうやって勝つか」を考えに考えて作った作戦だろう。連邦のスパイが大本営に潜入していることを逆手に取るという「諜報戦」で敵艦隊の動きを操ることができたし、何よりも「あれもこれも」を言わずに最初から攻撃すべき対象を「ルウム」と「レビル艦隊」に絞り、それぞれ別部隊がこれらを攻撃するという役割分担に徹したのは大きいだろう。これだけすばらしい作戦を立てたのは誰だ? と思わずにはいられない…少なくともギレンじゃないな。彼がこれだけの作戦を立てられるのであれば、その後の戦いであんな無様な負け方をしなかったはずだ。私はジオンでこの「ルウム戦役」の作戦を考案した者は、この戦いの直後に何らかの理由で死んだのだと解釈している。そうでないと、旧作「ガンダム」と辻褄が合わなくなってしまう…。 |