「あにめの記憶」過去作品・10

「MAJOR(劇場版)〜友情の一球〜」

・21世紀の野球スポ根漫画
 当サイトでは色々なジャンルのアニメを扱ってきた。名作アニメ、SF、ギャグ…こう来たら次に取り上げるべきは「スポーツもの」か「アクションもの」だろう。後者は私はあまり興味ないので見送るが、前者の「スポーツもの」というのはいつかは取り上げたいジャンルだと感じていた。
 「スポーツもの」の主要展開としては、主人公があるスポーツ選手として成長する伝記スタイルの展開を取ることが多く。この主人公の成長を通じてその競技の技術だけでなく、同じチームメイトとの関係を通じて「仲間」というもののかけがえの無さを学び、さらに自分を支える家族や指導者という大人の存在の重要性を訴える。これはそのまま視聴層である少年少女に「仲間」と「大人」との関係というものをテーマとして訴えることとなり、またこのような人間としての重要なテーマだけでなく、その競技の魅力を余すところ無く再現し、また恋愛などのドラマを織り込むことで物語として上手く成り立たせているのである。
 日本のアニメでも多くの「スポーツもの」の作品が作られていた。野球、プロレス、バレーボール、テニス、ボクシング、サッカー、バスケットボール…これらの中で最も取り上げられた回数が多いのはダントツで野球だろう。私の記憶にある中で古いものでは「巨人の星」「侍ジャイアンツ」といった「巨人もの」は現在のプロ野球人気に通じているのは確かだし、あだち充原作のものは恋愛ドラマを中心に描くことで「青春もの」としての路線を切り開いた。
 もちろんこれらの野球アニメも私の記憶に強い影響を与えている。育ったのが西武線沿線だったこともあり、小学生高学年の頃のお手軽なレジャーと言えば西武球場(現西武ドーム)でのプロ野球観戦だった。このレジャーを楽しむためには野球のルールを正しく理解する必要があるが、私に野球のルールや面白さを教えてくれたのがアニメで放映された「ドカベン」であり、「野球狂の詩」であり、「キャプテン」といった野球もののアニメ達であった。これらのアニメに出てくるキャラクター達から野球を教わった私は、球場で実物の野球観戦を心から楽しむことが出来たのだ。

 そんな私が大人になってから出会った野球漫画と、それを原作としたアニメがある。これが今回取り上げる「MAJOR」だ(テレビアニメ版のタイトルはカタカナで「メジャー」となるが、ここでは原作に倣った「MAJOR」に統一する)。
 私がこの漫画やアニメを知ったのは今から3年ほど前だったと記憶している。GWで休日だったある日の昼に、NHKで「MAJOR」を紹介する番組を偶然見たことだ。実はこのアニメの存在は放送開始間もない頃から知っていた。娘が小さかった頃、土曜日の夕方はNHK教育の幼児向け番組やアニメを見て過ごすことが多く、その系統の番組が終わると「MAJOR」テレビアニメが始まるという組み合わせだったのだ。だが私はこのアニメのオープニングだけしか知らず、後は入浴時間になるかニュース番組にチャンネルを変えるかしていたので、本編は見ていなかった。
 だがこの紹介番組を見て驚いた、正直「こんなアツい野球アニメがあったのか!」と感じたのだ。主人公吾郎を天性の野球少年として描くだけでなく、その性格などの欠点を他の野球漫画なら名前もつかないようなチームメイトまでもがきっちりと補完するというストーリーに正直驚いた。すぐにこの漫画を見てみたいと感じ、この後にコンビニコミックで最初から単行本50巻辺りまでのストーリーを廉価に再版することになったと聞いて、これを毎月買って読むことでとりあえず途中までのストーリーは押さえた。問題はその後の展開がよく分からないままなのだが。
 だがテレビアニメの方は殆ど見ることが出来ていない。当時も現在も土曜日の夕方6時台というのは、夕食やら入浴やらでとても忙しい時間で、とてもアニメをゆっくり見るような環境ではないのだ。さらに今年から「MAJOR」の放映時間帯は、娘の希望で「名探偵コナン」を優先させているので見る事が出来ない。ビデオデッキも留守の際に「コナン」を優先せねばならないので、話が飛び飛びになることを嫌うという理由で見ていないのだ。だが全く見ていなかったわけではなく、何話かは実際に視聴していることを付け加えておこう。

 1980年代半ばのあだち充作品ブームの頃から、スポーツものの漫画やアニメはその競技の面白さや、競技を通じたメッセージを伝える作品は数を減らし、前述したような恋愛ストーリーを中心にした青春ものが多くなっている。こんな中でスポーツものの原点に立ち返り、「野球」というスポーツの面白さを大々的に描き、それを通じて「仲間」というメッセージを見る者に訴えるこの「MAJOR」という作品を多くの人に知って貰いたい。そんな理由で今回、「あにめの記憶」過去作品で取り上げることにした。なお「クレヨンしんちゃん」同様、テレビアニメは話数が膨大な上にまだ完結しておらず、今後も何処まで話が延びるのか分からない状況なので劇場版を取り上げることにした点をご理解頂きたい。

・「MAJOR 友情の一球」について
 「MAJOR」は1994年から小学館「週刊少年サンデー」誌に連載されている、満田拓也原作の野球漫画である。現在では「名探偵コナン」と並ぶ「サンデー」の長寿作品となっていて、単行本は2010年6月現在で76巻を数えている。前述したように2007年から小学館の廉価版コミック「My First WIDE」シリーズとして50巻頃までの展開を再収録して発行した。
 この漫画は多くの野球人にも支持されており、現役や引退済み問わず多くの野球選手の間でも読まれているという。もちろんこの漫画に刺激されて野球を始めたという少年も多く、2006年夏の甲子園を湧かせた現早稲田大学野球部の斎藤佑樹選手は「MAJOR」と出会ったことで野球選手を目指すようになったという。私はこれからもこの漫画によって刺激された選手が出てくるのが楽しみでたまらない。

 物語は主人公・本田吾郎の半生を描いている。吾郎は幼い日に母親を失い、遠征ばかりで殆ど家にいない野球選手(と言っても二軍投手)の父・茂治との二人の生活から物語は始まる。吾郎が6歳の時に野手に転向して1軍に上がった父は試合での頭部へのデッドボールが原因で他界、以後幼稚園時代の先生で茂治の再婚相手になるはずだった星野桃子に引き取られる。後に桃子は茂治のチームメイトであった茂野英毅と結婚し吾郎も茂野姓に改めるが、吾郎の小学生時代のクラスメイトやチームメイトは相変わらず吾郎を「本田」と呼ぶ。ここまでの部分はややこしいから説明が必要な部分だ。興味を持たれた方は是非ともコミックなどを読んで欲しい、原作劇中の吾郎の名言を借りるが「おもしろさはオレが保証する」。
 この漫画で驚いたのは、野球漫画では「おやくそく」となっている「甲子園」が描かれていないこと。野球漫画の多くでは主人公が高校生の時に「甲子園」に出場するのは当たり前のように描かれているが、この作品では甲子園に行ったのは吾郎のライバルである海堂高校である。でもその海堂高校、簡単に夏の甲子園連覇とかしちゃってるもんなぁ。夏の連覇って半世紀以上経験者がなかった大記録なんだぞー、さすがの「ドカベン」の明訓高校ですら成し遂げることができなかったんだぞー。それはともかく、その後の展開も主人公が簡単に日本のプロ入りをするのでなく、タイトル通りにアメリカへ渡ってメジャーリーグ目指して戦うというストーリーなのはまさに複数の日本人選手がメジャーリーグで成功している現在だからこその展開だろう。また野球のワールドカップという設定も、現実でWBCが行われ日本が優勝したからこそであろう。

 さて、この「MAJOR」が主人公・吾郎の半生を描いていると書いたが、実は劇中で数年にわたり話が飛んで省略されている部分がある。ひとつは茂治の死去からリトルリーグ入団(小学4年進級時)までなのだが、ここでは吾郎が年齢的に野球人として活躍する見せ場もないし、吾郎の人生が大きく変わるわけでもないので飛ばされるのはやむを得ない部分だろう。
 そしてもうひとつが、吾郎が小学5年生に進級した時点から中学3年に進級するまでの4年間だ。この間に吾郎は新しい父となった英毅のトレードに合わせて神奈川県から福岡県に転居し、原作漫画ではこの間にリトルリーグで一定の活躍をしたことが回想シーン等で示唆され、その試合中の負傷で右肩を故障して右腕での投球が不可能になってしまい一時的にサッカーに転向した事が描かれる。もちろん右肩を失った程度で野球を辞める吾郎ではないのだが…。つまりこちらの「飛んだ期間」の中では吾郎の野球人としての人生を大きく転換する出来事が起きており、原作ではそこで何が起きていたのかはほんの僅かな回想シーン以外ではうかがい知ることが出来なかった。
 その吾郎が福岡へ転居してから右肩を故障するまでにどんな物語があったのか、この部分を高校を卒業しマイナーリーグで活躍する吾郎の回想という設定で再現したのがこの劇場版「友情の一球」というわけだ。

 劇中では原作やテレビアニメ版と辻褄を合わせるようにしているが、それでも僅かながら設定変更がある。その中でも最大のものは劇中に出てくるプロ野球チーム名が原作やテレビアニメでは架空のチームであったが、この映画では許諾が得られたこともあって茂野英毅が所属するチームは「ソフトバンクホークス」、対戦相手として出てくるチームは「北海道日本ハムファイターズ」「千葉ロッテマリーンズ」と実在のチームとされた点だ。原作やテレビアニメではこれらのプロ野球チームは完全に架空のチームとされていたが、この映画では制作時に実在した選手も出てくるので現実世界とリンクした内容だといえることが出来る。

 この映画は2008年年末に公開され、私も是非とも見たいと思っていたが年末で忙しく暇を見つけることが出来ないまま時が過ぎてしまった。2010年5月4日にNHK教育での大型連休のアニメスペシャルの一環として放映されたので、今回の考察ではこの際の視聴における感想等が中心となる。

・「MAJOR 友情の一球」の登場人物

吾郎の家族
茂野 吾郎
(本田吾郎)
主人公で野球選手の息子、何よりも野球を愛しており、また天性の才能もあって素晴らしい速球派投手である。
 …アツくなると周囲が見えなくなるのが欠点で、これによって多くの勝利と共に多くのものも失って成長する男だ。
本田 茂治 吾郎の実父、一軍と二軍を行ったり来たりの投手であったが、野手に転向して自分の野球人生を開花させたのだが…。
 …人気も実力も絶頂に達したときに逝っので、ある意味不幸だしある意味羨ましくもあるキャラ。
茂野 英毅 吾郎の現在の養父で、ソフトバンクホークスの投手。茂治の親友であり、茂治に野手転向を勧めたのも彼であった。
 …原作者の話によると、元々この人が吾郎の養父になるストーリーは考えて無かったそうな。
茂野 桃子 吾郎の養母で、吾郎の幼稚園時代の先生で茂治と婚約していた。その後英毅と結婚し、子をもうける。
 …吾郎に対しあるときは優しく、あるときは厳しく本当の母のように接する。美人。
博多南リトル関係
吉野監督 博多南リトルの監督、ある日チームを訪ねてきた吾郎と誠也をテストして一度は不合格にするが…。
 …この人が指導者として吾郎に厳しくできなかったのが、この映画の結末での悲劇を生んだんだよなー。
木下 誠也 吾郎と共に博多南リトルに入団した投手、元々素質はあったようで吾郎のアドバイスもあってすぐに控え投手として1軍入り。
 …本来ならライバルとなるキャラだが、この物語では主人公とうまく共存共栄したのにおどろいた。
古賀 将人 博多南リトルのエースでキャプテン、父がソフトバンクの投手で英毅によって二軍に落とされたとして吾郎を恨む。
 …こいつと吾郎の関係改善が前半での物語の主軸、だが根はいい奴として最初から描かれているので安心して見ていられた。
古賀 恵 将人の妹で学校では吾郎の隣の席。観客席から兄や吾郎に心からの声援を送る。
 …下記の清水薫とともにどう見ても吾郎に惚れてますな。だが吾郎の背中を見れば男だって惚れるぜ。
古賀 哲也 古賀兄妹の父でソフトバンクの二軍投手、スランプに陥った英毅にアドバイスを与えることで力になる。
 …彼のこの行為が、息子の誤解を解いて吾郎と親友となるきっかけになった。
北九州リトル
山崎監督 北九州リトルの監督だが、平均的な「MAJOR」に出てくる他チーム監督でしかない。
 …それは影が薄いこと、敵チームは選手だけで勝手に試合を進めることが多い。
アーサー 北九州リトルのキャプテンでアメリカから来たと思われる白人選手、4番で捕手。攻守共に優れた才能を持ち、博多南リトルに立ちはだかる。
 …敵キャラによくあるポーカーフェイス、何があっても表情を変えずにマックスを鼓舞する。
マックス 北九州リトルのエースでアメリカから来たと思われる黒人選手、内気だったがアーサーの誘いで野球を始めた。内角への変化球が最大の武器。
 …相手を打ち取っている内はいいのだが、一度崩れると総崩れ。だが立ち直るのも早く、逆転されても最後まで強気に責めていた。
横浜時代の仲間達ほか
安藤監督 吾郎が横浜時代に所属していた三船リトルの監督。吾郎を見いだしたことで全国レベルの強豪、横浜リトルに勝利する。
 …原作では腰痛事件が印象深い、愛と鞭で子供達を鍛える前時代型の指導者だ。
小森 大介 三船リトルで吾郎とバッテリーを組んでいた捕手、いじめられっ子だったのを吾郎に救われ野球に生きる道を見いだす。
 …つぶらな瞳に丸い頭の純粋野球少年だが、吾郎の剛球を難なく捕る恋女房。ある意味吾郎の対極にあるキャラだ。
清水 薫 三船リトルのチームメイトかつ横浜時代のクラスメイトで学級委員。それがきっかけで吾郎に野球をやろうと誘われ、外野手と控え捕手となる。
 …元々スポーツ音痴だったようだが、原作では吾郎に良いところを見せようとして大きく成長する。吾郎に対してはツンデレだ。
沢村 涼太 同じく横浜時代のクラスメイトでサッカー少年。大介をいじめていたが吾郎の一言で改心、それをきっかけに野球に誘われ外野手と控え投手。
 …原作では最初は嫌な奴だったが、後に台詞がいちいち面白いキャラに。この映画ではあまり出番がない。
佐藤 寿也 横浜リトルの捕手で吾郎の幼なじみ。幼年期に吾郎の影響で野球に興味を持ち、名門横浜リトルの捕手として吾郎の前に立ちはだかった。
 …すごくいい奴なのだが、マスクをかぶると人格が豹変して敵から見たら嫌なリードをする捕手に。この映画ではそんな側面は見られないが。
川瀬 涼子 横浜リトルの控え投手、この映画の冒頭でマウンドに立ち吾郎にサヨナラ打を浴びる。原作では吾郎の父茂治を軽蔑していた。
 …あんな可愛い少女があんな剛球を投げるなんて…可愛い顔してすごい筋肉質なんだろうな(笑)。
陣内 アリス マイナーリーグ「メンフィス・バッツ」のオーナー代行を勤める若い日系女性。単身渡米した吾郎を陰で支える。
 …物語の幕を開くシーンに出てくる。この人メジャーリーグにも顔が利くみたいだね。

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