…一方、ソフトバンクホークスに移籍した英毅は移籍初登板試合を見事完封で飾るなど幸先の良いスタートを切る。そしてその翌朝、吉野監督が吾郎の家を訪ね吾郎に昨日の非礼を詫びた上で博多南リトルへの入団を乞う。これに吾郎も了承して博多南リトル入りが決まるのだ。 |
名台詞 |
「わかってるよ。心配いらないよ、かあさん。うまくやってるよ。こんなところで躓いていたら、あいつらに合わせる顔がないからね。」
(吾郎) |
名台詞度
★★★★ |
吾郎が博多南リトルに入団して最初の練習で将人と激突(名場面欄参照)、それを聞いた現在の吾郎の母である桃子は「せっかく入れてもらったんだから仲良くするよう努力しなきゃダメ」と吾郎を諭す。それに対する吾郎の返答がこの台詞である。
ここに吾郎が横浜に残してきた「仲間への思い」というのが明確に描かれている。原作漫画でもそうだしこの直後のシーンでも再現されているが、吾郎は監督や教師以外の仲間に黙って福岡へ越してきていたのだ。この台詞は特に原作やアニメでこのあたりの物語(突然吾郎が消えたように描かれている)を見てきた人に、そのシーンの再設定をする役割があると思う。吾郎は例え遠く離れていても、三船リトルで共に戦った仲間のことを忘れたわけではないという事をハッキリと設定する。
そしてこの台詞の直後、原作漫画やテレビアニメ版でその頃三船リトルの仲間達の状況がどうだったのか知らない人のために、加筆シーンも加えてその状況を「おさらい」として再現する。大介や薫や涼太という面々が突然吾郎がいなくなってショックを受け、彼に見捨てられたのではないかと感じてしまうのだ。これらの状況は、原作漫画の場合吾郎らが中学生になって以降の物語で回想シーンとして描かれている。
この吾郎の仲間を大切にする台詞は、この映画でどのようなことが起きるかという伏線にもなる。今一緒に野球をやっている仲間、かつて一緒に野球をやっていた仲間、それらへの思いがこの物語のテーマにもなるのだが、そのあたりの詳細はその場面が来たところで。 |
(次点)「おうっ、泥舟に乗った気で」「ええっ、大舟でしょ?」「ハハッ、そうとも言うか。」(吾郎・誠也)
…吾郎や誠也に投球法をアドバイスすると提案したあとのやり取りだが、まさか「クレヨンしんちゃん」のギャグを「MAJOR」で見られるとは思わなかったよ。 |
名場面 |
激突 |
名場面度
★★★ |
吾郎が博多南リトルに入団して最初の練習、吉野は吾郎にファーストの守備練習とバッティングをさせてみる。吾郎は今度こそ手を抜かず、完璧なファーストの守備を見せ、バッターボックスでは誠也の球を何度も場外へ運ぶ。これを見た吉野が吾郎のポジションを「ファーストで4番」と決定すると、ここまであらゆるシーンで吾郎を快く思っていなかったような表情をしていたこのチームの4番エースが「こんな新入りが4番とは納得がいきません」抗議する。彼はこの物語で吾郎のチーム内のライバルとなる古賀将人だ。
将人がこの抗議の過程で吾郎を「何処の馬の骨か分からない奴」としてことで、吾郎も頭に血が上り口答えする。将人はさらに吾郎の当たりは一緒に入った誠也が相手では実力かどうか分からないとし、吾郎を挑発する。挑発された吾郎は将人に勝負しろと言い、将人は一打席勝負を受けて立つ。だがここで吉野のストップが入る。オーダーは監督がするものであってチーム内で争っている場合でないと二人を窘めるのだ。
「MAJOR」で吾郎が新天地ににやってくるとかならずと言っていいほど初期トラブルが発生する。それは吾郎の野球センスや実力に対する絶対の自信が生み出すときもあるし、または吾郎の過去の実績とそれを裏付ける実力が原因になる場合もある。今回はその後者に当たる、全国レベル間強豪チームを倒したチームのエースという実績、完璧な守備と柵越え連発という目の前で見せた実力…確かにチームに力強い助っ人が入ったと喜ぶ者は多いが、誰もがそう思わないことをこの物語では明確に示してくるのだ。吾郎のような人物の新規加入を快く思わない人間、つまりそのチームでの役割が吾郎とダブってしまう選手である。
野球の守備位置というのはかなり専業的なところがある、投手なら投手専門の者が行い、捕手なら捕手専門、内野手や外野手についても似たようなものだ。それと打順もそれぞれ役割があり、特に長打を打ってランナーを返すという役割を持つ4番は花形でもありそこに充てられた打者は自信と誇りを持っている。もちろんその座は1つしか無いわけで、今日来たばかりの新人にそのたったひとつの座を持ち去られるという事実は、その役割に対して誇りを持っている人ほど危機的なものだ。こうして強い選手がチームにやってくることは良いことばかりではない、という野球チームの現実を「MAJOR」ではキチンと描いているのだ。
それと吾郎のファースト守備のシーン、ボールを捕ってランナーを止めるという野球の面白さが上手く描かれている。この点も注目だ。 |
研究 |
・吾郎の仲間意識
この部分では「吾郎と野球仲間」というテーマに少し触れ始める、この吾郎の野球仲間というのは彼がなぜそこまで野球に熱中するかという理由のひとつでもあるのだ。今回はその辺りを研究してみたい。
ここまでの吾郎の野球仲間は、リトルリーグで共に戦ってきた横浜リトルの仲間達と、幼なじみで横浜リトルに所属する佐藤寿也が挙げられるだろう。吾郎の幼少期は特に親しい友達がいたわけでなく、またたった一人の父が不在がちだっったため一人で遊ぶことが多かったようだ。その遊び道具が野球ボールとグローブで、多くのシーンで壁を相手に一人で野球の練習をしていた。たまに父が家にいると四六時中野球のことばかり叩き込まれていたこともあって、彼はここで野球センスを開花させたと言っていいだろう。この中で出会うのが同い年の佐藤寿也だが、寿也は教育の厳しい家に生まれたこともあって親に隠れて吾郎と遊び、その中で野球を覚えた。つまり吾郎によって野球人生を歩まさせるようになった最初の人物だ。その後寿也は幼いながらも親を説得し、教育熱心な寿也の親は「どうせやるなら本格的に」という事で寿也を名門横浜リトルに加入させる。寿也にとって幼き日に野球を教えてくれた吾郎は、弱いチームながらも名門の自分達を打ち負かしたこともあって、ライバルであり目標の人物となって行く。
続いて三船リトルで一緒だったメンバーだ。三船リトルは選手達に覇気もなく、メンバーが足りなくて公式試合にも出られない有様だった。これが吾郎の加入によりメンバーもなんとか9人揃え、対外試合ができるようになる。最初は自らの天性と実力に天狗になった吾郎は皆に嫌われるが、じきに吾郎の情熱に引っ張られるように野球に対して真剣に取り組むようになり、大会が始まると苦しいながらも勝利を積み重ね、全国優勝の有力候補であった横浜リトルを倒すという快挙を成し遂げる。こうして三船リトルの仲間にとって吾郎は無くてはならない存在となる。
三船リトルの中でも吾郎の同級生、小森大介、沢村涼太、清水薫の3人は吾郎の影響で野球の道に進んでいる。4年生に進学した吾郎のクラスの学級委員が薫で、副委員が吾郎という関係となる。この中で三船リトルのメンバー不足という問題に直面した吾郎は、学校内で大々的に加入者を捜すがこれが見つからない。そんな吾郎を見た薫がまず自分がやると立候補、キャッチボールすらまともに出来ない薫に対し吾郎が猛特訓を行う。そんな折に涼太が大介をいじめている光景に出くわし、こう言うことがあると黙っていられない性格(だからこそ学級委員長)の薫がこれを止めようと躍起になる。このいじめに口を挟むことに前向きでなかった吾郎だったが、薫の姿勢に折れる形で大介に「野球をやらないか?」と誘い、試しにキャッチボールをしてみると大介のキャッチャーとしての素質を発見、吾郎が大介に速球を投げ込むと大介がこれを難なく捕った事で二人がバッテリーを組むことになる。そして大介を野球に誘ったことが気に入らない涼太が吾郎のグローブを燃やそうと企むがこれを大介が阻止、これがきっかけで涼太は自分のいじめで大介がどれだけ傷ついたかを知り、大介に謝罪すると同時に自分も野球に入れて欲しいと言う。こうしてこの3人は野球への道を歩むことになり、大介はプレイヤーとして吾郎を尊敬しているだけでなくいじめられていた日々から救ってくれた恩人として、薫は仄かな恋心を持ち憧れの人として、涼太は一歩先で男としての生き様を示してくれる親友として、ともに吾郎を慕っているのである。
もちろんこうして自分が好きな「野球」を共に楽しんでくれるこれらの仲間を、吾郎はとても大事にしているのだ。そして吾郎はとても大事にしているからこそ、彼らに「さよなら」の一言も言わずに彼らの前から消えてしまう道を取る。これは劇中でも語られているが、実父の死を経験してから彼にとって「さよなら」という言葉はそれをきっかけに二度と会えなくなってしまう呪文のように感じていたのだ。吾郎を福岡に連れて行った英毅のホークスとの契約は2年(劇中にこれを示唆する台詞もある)、2年たったら絶対に再会するという強い思いがあるからこそ、黙って彼らの前から消えていたのだ。
そして福岡に来た彼は、その野球に対する絶対的なセンスと実力ですぐに木下誠也という仲間を作る。誠也はすぐに吾郎の実力を認めて、彼を師として投手として自分が成長するための大事な存在として扱うのだ。吾郎も誠也を同じチームで将来的にはエースを争うはずの人として、そしてチームの勝利のために彼を仲間として受け入れて自分の技を彼に伝えるのだ。 |