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・「MAJOR〜友情の一球〜」の主題歌
「翼」 作詞/作曲・藤巻亮太 Produced by 小林武史&レミオロメン 歌・レミオロメン
 ノリの良い曲調で、悩みながらも自分が信ずる道を進む心情について歌っている。この歌詞の内容も、その背景の伴奏のノリの良さも「MAJOR」にとても相応しく、この映画を見終えた余韻に浸るには十分すぎる曲だ。
 そしてこの主題歌の背景では、劇中に出てきた少年少女達と同じように野球に励む子供達の写真がスライドショー形式で流される。もちろん劇中にあったように女の子や外国人も一緒にプレイしている。これと同時に内外のプロ野球で活躍する名選手達から野球に励む子供達へのメッセージや、「MAJOR」の感想が添えられている。ここに出てくる選手の名前を挙げておこう。
福岡ソフトバンクホークス 杉内俊哉選手
東北楽天ゴールデンイーグルス 田中将大選手
阪神タイガース 藤川球児選手
横浜ベイスターズ 内川聖一選手
広島東洋カープ 東出輝裕選手
千葉ロッテマリーンズ 今江敏晃選手
北海道日本ハムファイターズ 稲葉篤紀選手
中日ドラゴンズ 井端弘和選手
読売ジャイアンツ 坂本勇人選手
ニューヨークヤンキース 松井秀喜選手
(以上、所属チームは映画上映当時のもの)
 このプロ選手からのメッセージは、野球少年達にとってかけがえのないメッセージとなったことであろう。
 最後に少年野球のスライドショーは誰もいなくなったグラウンドの写真で終わる。この誰もいないグラウンドの切なさと、劇中のアツさが対照的でこの映画のエンディングが印象に残る重大要素と思われる。こうして物語は大きな余韻を残して幕を閉じるのだ。

・「MAJOR〜友情の一球〜」総評

・物語
 全編で100分の映画だが、展開は3つに分けられると考えて良いだろう。物語が始まってから英毅がノーヒットノーランを演じるとともに、将人が英毅にボールを投げつけるまでの展開でひとつ。吾郎が博多南リトルに入団して最初の大会を迎え、北九州リトルとの試合が始まるまででひとつ。残りの決勝戦の試合とその後についてでひとつである。厳密に言えばこれにプロローグとして冒頭シーン、エピローグとしてラストシーンという構成だ。
 最初の部分ではいわば吾郎ら茂野一家が福岡での生活に定着するまでを描いていると言ってもいいだろう。この部分では吾郎が博多南の一因として定着する過程を描くとともに、ちょっとしたことから吾郎と英毅がスランプという危機に陥りこれを一家が団結して乗り越えるという家族ドラマと一面を見せる。後者については物語の本題である「友情」を見せる前に、友情を積み上げる基礎として家族の絆が必要だと言う物語を演じているともいえる。また将人の吾郎への態度も、古賀家の家族ドラマの一面を持っているのが面白い。前者では博多南というチーム、ここにいる将人とその妹の恵を印象付けると共に、吾郎の過去についておさらいしつつ、この新しい環境に吾郎が溶け込んで行くという物語の主軸となる。このふたつの物語を同時並行させるのだが、進行に無理がなくてテンポが良いのが好印象だ。特に原作漫画ではその誕生や名付けの理由について設定がなかった吾郎の弟・真吾についての物語を追加したことや、原作漫画では全く触れられなかった英毅の福岡での活躍がこの部分に集約して描かれた事も、物語を分かり易くする上で好印象である。
 二部目ではチームに溶け込み、家族との悩みの解消した吾郎の活躍がいよいよ始まる。吾郎が本来の活躍をするだけでなく、ライバルである将人が吾郎を認めて徐々に距離を縮めて行くという展開と共に、ここで初めてアーサーとマックスという強敵を提示する。同時に寿也や三船リトルの面々という原作漫画のキャラが出てきて、吾郎を思い出すシーンを追加することで彼のキャラクター性を際だたせる。この部分での特筆すべき事は、吾郎と将人の接近と和解を急がなかったことだ。時間が限られた劇場用長編アニメという制約の中で、二人の関係を近づけるのをギリギリまで引き延ばした点は、将人が吾郎の「実力」をも認めるという物語展開にしっかりと説得力を持たせた。この辺りから恵の存在感が急激に薄らいだのも事実。そしてこれらの展開は決勝戦で吾郎がマウンドに立ち、右腕を失うという悲劇を想像させるのに難くない。
 そして最後の部分は北九州との決勝戦である。ここでは主役チームの博多南が圧倒的に強かったり互角だという描かれ方はされず、むしろ北九州に押され気味という試合展開を描く。その中で博多南は僅かなチャンスをものにして勝つという展開は、試合が最後まで再逆転されるかも知れないという緊張感を持つことに説得力がある。このような試合展開にすることで、投手としては誰よりも才能がある吾郎が投げ続けなければならないという事に説得力があるし、それによって取り返しのつかない負傷を追ってしまうという展開に説得力も出るだろう。これに試合後の吾郎と英毅の後日談のシーンとして、原作漫画にワンカットだけ入れた回想シーンを追加して原作漫画との整合を取ってのはこれも好印象だ。
 これらにエピローグとしてラストシーンを付け加えることで、物語中盤の伏線を回収してうまく物語に「友情の一球」というオチがつく。物語全体は吾郎を軸にした将人・恵・博多南ナイン・アーサーやマックスと言ったライバルも含めた九州の仲間達との物語をメインに、横浜時代の仲間たちによる物語を絡ませて「友情」というテーマを一貫させている。その中には仲間とぶつかったり誤解したりという展開も含まれるが、それも含めて友情であり、その友情こそが同じ目的に向かって突き進む仲間達を結んで勝利を導くという「MAJOR」らしいテーマをうまく描いた。
 また物語の設定自体が「原作漫画で飛ばされた間の物語」というチャンネルを選んだが、物語の内容や展開、それに結果について原作漫画と矛盾がない点も評価したい(チーム名など基本設定は別)。後から製作された追加ストーリーではあるが、この物語も「MAJOR」という物語の一部としてうまく存在できるように作られているのだ。

・登場人物
 「MAJOR」の登場人物は皆何らかの「アツい」点を持っているが、この映画でもこれが受け継がれているのは面白い。主人公である吾郎、家族である英毅や桃子は勿論のこと、敵味方含めて本当にアツいキャラばかりが集まっているのである。
 吾郎・英毅・桃子の3人は原作の性格を引き継いでいる。吾郎は野球に直向きで仲間思いであるが、暴走癖があり自分で自分を止められないばかりでなく、これに他人をも巻き込む力を持っている…吾郎の性格を口を悪くして言えばこうなるだろう。だが彼が自分のペースに他人をも巻き込んで行くのは、何よりも野球について「勝利」に執念を持ち、その中で仲間を思って自分がやるべき事をしっかりやり遂げる点である。この部分によって博多南リトルが吾郎から力を得たという部分はあるし、吾郎が右腕を失うことになるのもこの吾郎の性格故であることは理解できるだろう。
 英毅はよく見ると、良い意味でも悪い意味でも普通のオッサンである。だが普通のオッサンと唯一違う点は、彼がプロ野球選手であることだろう。だからこそ普通のオッサンらしい義理と人情も持ち合わせており、普通のオッサンらしく仕事に一途になるという性格でもある。これらの彼の性格が、最後の方の河原でのあの名シーンを生んだのは確かだろう。
 桃子は一貫して「苦悩する母」だ、婚約者の連れ子を引き取り未婚の母となった彼女は、よく言えばやんちゃな吾郎に手を焼いていたと思われる。原作漫画ではその吾郎の扱いを巡って相談したことから、英毅と出会い親密になりやがて結婚するという設定が取られている。自分が母として吾郎を正しく導くために、どんなときも悩んで的確な答えを見つけるのだが、その苦悩が「若さゆえ」であることは言うまでもないだろう。画面描写をどう見ても20代、吾郎の年齢と物語から想定される桃子の経歴を考えれば、この映画での桃子の推定年齢は27〜28歳というところだろう。10歳の子供の母としては確かに若い。
 博多南リトルの面々についてはとても印象的だ。特にこの映画では試合シーンで吾郎一人に花を持たせないという点は徹底していると思われる。決勝の試合で決勝点となる逆転ホームランは端役である須藤という選手で、吾郎や将人という目立つキャラでなければ、吾郎とバッテリーを組む捕手でもない、そこでホームランを打つまで全シーンを通じて全く存在感がなかった選手である。これらのつくりを通じて、たとえアニメとは言え野球はスター選手だけで持っているのでなくみんなで行うものだと強調している。
 対して決勝の相手である博多南だが、マックスとアーサー以外の選手が全く印象に残らない。チームを指揮する監督すらも印象に残らないという有様(「MOJOR」では相手チーム監督の印象が極端に薄いことはよくあるのだが)で、それことマックスとアーサーだけで持っているチームにも感じる。かと言って「それが理由で負けた」という点を強調していないのがポイントだ。この二人の強さを際だたせることで、主役チームの前に立ちはだかる「壁」として的確に描かれたと思う。
 今回、悪い意味で目についてしまったキャラは将人の妹の恵だ。残念ながら物語を最後まで見ていても将人に妹がいなければならないという必要性を感じなかった…いや、「将人の妹」という設定が彼女の印象を悪くさせた一因であるのは確かだ。なんか特別出演の女優を使うために、はたまた最近のアニメで多いとにかく「お兄ちゃん」を連発させるキャラを確保するために、安易に設定されたキャラに見えてならない。
 恵のキャラとしての中途半端さが際だってしまった理由を上げるとすれば、ひとつは吾郎の隣の席に座る女の子として設定しておきながら学校シーンが少なすぎたこと、もうひとつは恵の吾郎に対する恋愛感情をハッキリさせなかった事にあると思う。前者は物語の内容からすると仕方が無い、上映時間2時間足らずの少年野球アニメ映画で学校シーンを増やすわけに行かないからだ、これが2クール程度の連続テレビアニメだったら話は変わるだろうが。後者についてはこの映画自体が原作漫画本編を補強する追加ストーリーであり、将来吾郎がこの仲間達との別れを迎える事が映画を見る殆どの人間にとって分かりきっているという事を考慮せねばならない。つまりこの映画はある程度原作の縛りから外れて自由に作れるという点だ。つまり吾郎にとっての「本命」清水薫の事は考慮しなくていい、原作漫画の薫のようにもっとハッキリ恵が吾郎を想っている事を押し出しても良かったはずなのだ。ただこれが前面に出せなかった理由として、「将人の妹」という立場がのしかかってくる。その立場上彼女は吾郎だけを応援するわけにはいかず、兄を応援して「お兄ちゃん」を連発させられる羽目になってしまうのだ。
 出来れば将人の妹と吾郎に惚れる女の子は別に用意して欲しかった。これなら女の子キャラで良い意味で印象に残ったと思う。あくまでもこれは個人的な考えではあるが。

 最後に名台詞欄一覧である。これは始める前から分かっていたことだが、やはり吾郎が圧倒的トップとなった。「MAJOR」という作品は彼のカッコイイ台詞で成り立っているという面もあるからだ。最後に名台詞欄登場頻度を提示して、この考察を終わりにしたい。

名台詞登場頻度
順位 名前 回数 コメント
吾郎 原作漫画で名言の多い吾郎だが、当考察でもその通りになった。2位以下を寄せ付けない圧倒的首位。
彼の台詞が名言となるのは、クサイだけでなくその言葉が自然に出てくるよううまく性格付けされているからだろう。この映画で印象に残ったのは、打ち込まれた将人に掛けたあの台詞だ。
桃子 2位につけてきたのは主人公の母、というのはこのサイトでありがちなケースだが、それでも登場回数はたった2回。
若くして母となった苦労が彼女の台詞からはよく分かる。でもそれとは違う吾郎を応援する決勝朝の台詞が印象に残った。。
マックス 同じく2位は宿敵北九州のエース。野球によって仲間と力を得た彼の人生と、野球に掛ける気迫は色々な台詞に込められた。
最終回を守りきって吾郎に掛けたあの短い台詞が好印象。
誠也 吾郎の同僚(?)として物語に出てきた割には、後半で存在感を失ってしまい台詞に恵まれなかった可哀想なキャラ。
特別出演待遇の女優に「お兄ちゃん」を連発させるためだけに出てきたような気がしてならない。
寿也 吾郎の横浜時代の友人で唯一の名台詞欄登場。だがこの映画では「敵に回すと怖い」彼らしさがなくて残念。
将人 この映画での吾郎の良きライバルで親友だが、分かり合うタイミングが遅くて名台詞に恵まれなかった。
アーサー マックスとセットのキャラだが、マックスの方が順位が上なのは投手で「1対1の戦い」を演じさせられたからと思う。
英毅 彼が最後の方で語った台詞はこの映画で一番印象に残った台詞。あのやりとりが実の父子でないとは信じられないが、それほどの絆で結ばれた父子なのだ。

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