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・「ふしぎの海のナディア」エンディング
「Yes,I will...」
 作詞/歌・森川美穗 作曲/編曲・ジョー・リノイエ
 オープニングと同じ位派手で迫力のある曲だが、その詩の内容は力強さだけでなくどことなく切なさを感じる。だが曲の雰囲気はこのバブル絶頂時代に流行した女性シンガーのそれそのものであり、現在とは違う「時代」も感じるし、何よりもこのオープニングも含めて曲の持つ迫力は今の若いシンガーにはなかなか真似が出来ないと思う。
 背景画像がこれまた良い、セピア色の大地を飛ぶ模型飛行機を追ってナディア・ジャン・マリーとキングの三人と一匹がひたすら走るだけのものだ。だがこの三人と一匹から伸びる影は長く描かれて夕景であることをさりげなく示唆している点と、向こうに見える入道雲の雰囲気がとてつもなく良い味を出している。そして三人と一匹が追う模型飛行機はたまにふらついて墜落しそうになりつつも飛び続け、最後は空の彼方に飛び去ってしまう。このラストがこのエンディング背景画像をもの悲しくしている最大要因で、これは「夢をつかむのは難しいけどそれでも詩張り続ける少年少女達」というのを上手く表現していると感じた。
 特に最終回では、ラストシーンで大きくなったマリーがこの模型飛行機を飛ばすシーンからこのエンディングに自然に入る。これが上手く出来ていた感心した。
 いずれにしてもとても印象的で、この時代のアニメのエンディングを象徴するものと私は思う。

・「ふしぎの海のナディア」の総評
・物語について
 物語は大まかに4編に分けられる。まずは第1回から第8回まででひとくくり、ここはナディアとジャンの出会いから二人の旅が始まり、途中でマリーやグランディス一味と合流しながら「ノーチラス号」と合流するまでが描かれている。
 この段では物語を定期的に転換させて今後の登場人物を印象付けるとともに、主人公達が巻き込まれる「戦い」の敵味方両勢力を印象付けるとともに様々な謎の提示や伏線を貼るという役割を持っている。
 第1〜2回は「ナディアとジャンの出会い」を通じてグランディス一味をしっかり印象付け、第3〜4回では「敵」によって何が起きているかを描き本来の主役メカである「ノーチラス号」を登場させて「戦い」を印象付ける。第5〜6回ではマリー登場を印象付けると同時に、ここでようやく「敵」を明確にし、第7〜8回ではグランディス一味がナディアやジャンの側に回る過程とと同時に「敵」の大きさを描くという2回単位の展開で、うまく緩急を付けつつ話を進めるためこの序盤で物語に引き込まれた人は多いことだろう。

 次は第9回から第22回でひとくくりだ。旅の様相はナディアとジャンの二人旅から「ノーチラス号」との旅に変化する。「ノーチラス号」に舞台を移して描かれるのは「敵」との戦いではなく、「ノーチラス号」乗組員という大人に囲まれて成長するナディアやジャンの姿が描かれるが、ナディアがこの成長を受け止められないのは年相応の少女として上手く描いたと感心する。同時に乗組員達やグランディス一味の群像劇のとしての一面や、マリーの冒険譚など様々な要素の物語に取り込まれ、正直「一番退屈しない展開」がここであろう。
 そして同時に物語で示された謎に一つずつ迫りつつも、なかなか核心を見せないというもどかしさを途中まで演じることになる。そして機が熟したところで「ノーチラス号」と敵である「ネオアトランティス」を全面対決させ、「ノーチラス号」敗北というシーンの中で謎の半分を一気に解き明かすという展開でこの部分は幕を閉じ、新たな展開へと移行する。

 次のくくりは第23回〜第33回であろう。「ノーチラス号」の敗北により、二人の旅は一度リセットされて「無人島に漂流」という展開で「最初からやり直し」である。ここではナディアとジャンだけという狭い世界を描くとともに、この狭い世界で視野狭窄に陥りがちな少年少女が少しずつ前へ進む姿というのをキチンと描く。面白いことにここでマリーが一緒に住んでいながらもこの二人を第三者視線で見ているのだが、いざって時は彼らに守られている少女になったり、重大な事実を突きつける役割に回ったりとマリーというキャラクターが最も目立つ部分でもある。そしてリセットされた物語は二人の成長度合いに合わせて、グランディス一味やエアトンとの再会へとコマを進め、ナディアとレッドノアとの出会いを通じて「自分の正体を知る」という彼女にとって衝撃の出来事へと繋がる。ここでナディアが「守るべきもの」をしっかり自覚して一回り成長してやっと無人島を抜け出し、コンザレスとの戦いで彼女は成長と未熟さの双方を視聴者に見せつけると同時に共に旅をした仲間達との絆をも見せつけ、「旅の目的地」へと着実にコマを進めていることを描いた。
 ここが本作の肝とも言える部分で、ナディアが海と共にあるという「ふしぎの海のナディア」というタイトルらしい展開でもあろう。この段の最初ではまだまだ我が儘なナディアも、最後の方ではしっかりと「自分」を持つに至るのだ。

 そして「つなぎ」の物語である第34回を挟むと、最終章は第35回〜第39回だ。「自分」をキチンと認識するまでに成長したナディアと、ネオアトランティスとの最終決戦が描かれる。最初に「旅の終わり」を通じてナディアが自分の正体をはっきりさせ、自分の採るべき道を再確認した上でナディアがいきなり敵であるネオアトランティスの手に落ちるというまさかの展開から入ってゆく。同時にネモらが無事で新しい戦艦を繰って再登場するだけでなく、ナディアの兄がネオアトランティスの皇帝になっている事実を視聴者に突きつけて不安と期待を煽る。同時にこれまで提示された謎を全て解き明かし、ネオアトランティスがなぜ戦うのか、ネモがなぜこれを止めようとするのかもハッキリする。
 そして最終決戦が描かれるが、ここではナディアが敵に洗脳されたり、ジャンが死ぬなど怒濤の展開で視聴者を揺さぶる。だがその結果はネオアトランティスが戦った理由はガーゴイルの勘違いだったり、ネオやネモが生命を賭してナディアを救ったり、ナディアがプルー・ウォーターと引き替えにジャンを生き返らせたりと、最終回らしい切ない展開も用意されていた。そして最後には「登場人物のその後」というオチが描かれて物語は幕を閉じる。

 物語は少年少女の成長物語としての側面が大きい。ナディアやジャンはそれぞれ方向性が違う「何も解ってないガキ」としてスタートし、物語の様々な出来事を経て「自分が何をすべきか」をキチンと持つ男女に成長する事を描いている。
 またこのテーマとは別に、「科学(オーバーテクノロジー)へのアンチテーゼ」という面と「科学の進歩への期待」という両方が同時に描かれているのは面白い。特にオーバーテクノロジーで「ノーチラス号」がガーゴイルにやられてしまうシーンからは様々な事を感じた人は多いだろう。その中でジャンが「科学は正しい使い方をすれば希望の光となる」ことをきっちり演じるのだから面白いのだ。

 全体的には緩急が付いていて退屈することはなかったが、緩急の緩の方では緩すぎて話が止まってしまうことも多々あった。そのような話については本文考察で指摘済みだ。だが全体的にはとても面白い物語でまた前話通してみたくなってしまう、そんなアニメだと私は思った。

・登場人物
 本作のキャラクターは豊富だ、これらのキャラクターは「主人公と基本的に行動を共にするギャラ」としてナディア、ジャン、マリー、キング、グランディス一味を主軸に置き、「ノーチラス号」キャラとネオアトランティス側キャラ、それに僅かなその他のキャラが配置されている。

 主人公はもちろんナディアだが、何度も解説しているように前半は「物語に巻き込まれる」キャラでありその中から成長してゆくことで、後半では逆に物語を引っ張る側に回る。彼女は第一回での登場ではゼロで始まるが、彼女のキャラクター性は前半ではマイナスへと動く。前半では彼女の欠点が強調され、ここからの「成長」をうまく示唆しているのは間違いない。そして中盤展開では彼女の成長ぶりについて、プラスとマイナスを行ったり来たりする。成長してジャンを受け入れるように見えたと思えぱ、次の回ではまた元の我が儘に戻っているなどの描写は多い。そして終盤で彼女は自分で物語を引っ張る側に回るのだが、それで成長があったからこそという上手い描かれ方をする。
 性格的には物語前の設定も上手く追加され、最初は「前向きに物事を考えられない」という面が強調される。ここから様々な教訓を通じつつ、その「前向きに物事を考えられない」ままで成長するのが彼女の見所だ。彼女が初めて前向きにものを見るのはなんと最終回、ジャンが生き返る過程の物語以降である。彼女の成長は「ジャン」という自分を支える存在を認められるかどうかと言う、そのような部分だ。

 ナディアと行動を共にするジャンは、ナディアと対照的な動きをするのが面白い。前半では彼は物語を引っ張り、主人公ナディアを引っ張り回す側に回る。その役割は中盤で最も大きくなるが、終盤でナディアが物語を引っ張り始めると逆に彼は巻き込まれる側に回るのだ。特に最終版では彼はナディアの手のひらの上で殺されては生き返るという物語を演じる。
 ジャンは前向きであると同時に「科学ヲタ」という面を印象的に演じる。その上で大人から様々な知見を吸収してこれをナディアにぶつけるという役回りだ。

 グランディス一味は最初は「悪役」として登場したかと思ったら、すぐにナディアやジャンの姉貴や兄貴という役回りに転じる。その役割の変化はとても素早く、「悪役」に未練を持たせなかったのは評価すべき点だ。
 グランディスはナディアに、サンソンとハンソンはジャンに、それぞれ成長するために必要なものを自然に伝授する役割だ。このためにグランディスには「お嬢様だった過去」という点を設定し、ハンソンにはジャンと同じく科学ヲタ、サンソンはジャンと逆で体育会系という設定を付けたのだろう。このバランスが見ていて気持ちよかった。

 マリーは途中から物語に合流し、前半では「幼女」ということもあって単なるマスコットとしての使われ方が多かった。だが物語が無人島へ行くと彼女の立ち位置が変わってくる。ナディアとジャンを第三者視点で見ると同時に、二人にその視線で見た状況を伝えるという役回りに行く。だがマスコットとしての活躍も忘れていないのは器用なところだ。だがまたグランディス一味と合流するとまたマスコットに戻るが、マスコットとして無くてはならない存在になっていたのは言うまでも無いだろう。そして最後の「オチ」では主役を取って活躍だ。

 「ノーチラス号」の人々は、キャラの配置的に「ヤマト」みたいでずっこけた点もある。だがネモとエレクトラについては最初から「怪しい雰囲気」を漂わせていたのは成功と思う。ネモがナディアの父であるという設定とは無関係に、ラストでは二人が良い関係になって子供も出来ていることを示唆する点はこれがあるから説得力が出るのだ。同時にグランディスの片思いがこれに一役買っているのは言うまでも無い。
 また機関長みたいに印象的な役にながなかったり、イコリーナのように出てくるだけで目立っているキャラなど、ここでは様々な人たちがいて面白い。

 ネオアトランティスのキャラは 基本的にはガーゴイルとネオ以外は雑魚キャラである。だが雑魚キャラもよく見ていると専用の役者が演じていたり、役が固定しているキャラなどがいて細かい。
 ガーゴイルは登場や途中での活躍、そしてその敗北と最期まで徹底的な悪役ぶりだ。冷徹で人を殺すことも厭わない「冷たさ」だけでなく、妥協や手抜きを許さぬ「厳しい上司」としての面もしっかり描いている。そして最期は「自分の勘違いで野望は達せられないと知る」という情けないものだが、勧善懲悪という考え方で見ればこの敗北の仕方はとても彼らしいかも知れない。
 そしてこれと対照的なのはネオであり、彼は徹底して「洗脳され自覚がない」という役を演じきる。同時に最期には本来の自分が目を覚まし、主人公をピンチから救うという行動を「非科学的な奇跡」によって取ることでガーゴイルの対極として完成したと思う。

 そして他に敵味方どちらにも付いてないキャラとして、エアトンや「エイブラハム号」の乗組員達、ジャンの叔父や叔母、アフリカで出会ったハマハマやムラムラ、ネオアトランティスとは違う「敵」としてゴンザレスという構成である。ゴンザレスもある意味、ガーゴイルやネオとは違う最期が描かれた「悪役」と見ることができるだろう。

 そして最後に名台詞欄登場頻度である。ナディアとジャンがワン・ツー・フィニッシュなのは当然として、3位にサンソンが付けてきたのは彼の台詞の面白さを考えれば当然の結果かも知れない。またナディアも名台詞欄登場の殆どは物語後半という偏ってもので、逆にジャンは殆ど前半という状況だ。二人が主人公と考えれば物語の3分の1はこの二人の名台詞であり、妥当な結果と思って頂けるだろう。

名台詞登場頻度
順位 名前 回数 コメント
ナディア 主人公だから首位は当然とはいえ、実は前半では名台詞欄登場頻度が非常に少ない。これは前半では彼女は「物語に巻き込まれるキャラ」であり、自分で積極的に物語を切り開かなかったのが原因だ。ナディアの台詞で一番好きなのは、第27回の名台詞だ。
ジャン ナディアとは対照的に、全回を通じて名台詞欄に登場する頻度に変化は無かったと思う。彼にはナディアが成長過程で足踏みしたときに彼女を引っ張るという役割もあったからだ。第31回の名台詞は、以前ジャンが「言われる立場」だったこと。ここくに彼の成長が窺える
サンソン グランディス一味のイケメンキャラ。そして台詞がいちいち面白く彼の台詞だけで「名言集」が作れそうなのは「風の少女エミリー」のイルゼ・バーンリとの共通点。一番好きな台詞は第30回の名台詞だ。
ネモ 主人公の父親というキャラでありながら、それらしい台詞がないのが彼らしい。だが最終回名台詞欄シーンではしっかりと「父親」を演じてくれた。一番好きな台詞は第19回の名台詞、本当に美しい景色に出会った人がある人なら頷かずにはいられない。
グランディス 最初は主人公の敵であったが、途中からは主人公の「姉貴」に変化してナディアを正しい方向に導く唯一の女性であった。第28回の名台詞は的を射ていて好きな台詞で、制作側もグランディス一味について上手く描いたと感心した。
マリー 第5回からナディアに同行した女の子、本作の低年齢層の視聴者が感情移入できるように用意されたキャラかと思ったらそうでもないらしい。好きというか面白かったのは、第25回の名台詞次点欄シーンだ。
7  ガーゴイル 敵の大将、冷徹な悪役を最後まで演じきったが、演じていた役者さんがノリノリだったのは見ていて伝わってきた。第6回の名台詞はいろいろ考えさせられたなぁ。
ハンソン グランディス一味の中でもっとも名台詞に恵まれなかったのは、ハンソンが良いことを言うと別のキャラがもっと良いことを言うジンクスがあったから。第33回の名台詞の気持ちはよくわかる。
エレクトラ 実はこの物語の中で私がもっと嫌いな女性だ。第11回の名台詞では科学が持つ表と裏をキチンと語ってくれる。でもこの回で名台詞欄をゲットできたのは、台詞の印象度よりも他のキャラが良いことを言わなかったから。
機関長 「ヤマト」の徳川機関長を彷彿とさせるキャラ、彼の台詞の多くは無口なネモの言い分を代弁していることが多かった。二度の名台詞欄登場もそんな活躍の一つだったと思うが、その背中がカッコイイ。
エアトン 再登場の時は、過去の登場でどんなキャラだったかすっかり忘れ去られていたんだろうなぁ。最初は無人島で再登場させるつもりではなかったのでは?と思ったともあった。第29回ではサンソンとハンソンの戦いの本質を上手く語ってくれた。
デンギル このキャラよりもかわいい孫娘、看護婦イコリーナの方が印象深い人の方が多いと思う。だが彼が孫娘に語った第37回の台詞は、自分の役割と孫への思いをきっちり語っていて強印象だった。

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