「あにめの記憶」過去作品・23

「ふしぎの海のナディア」

・1980年代アニメの集成大
 1980年代というのは様々なアニメが誕生したが、その質は1970年代よりも高くなり「テレビまんが」からひとつの「文化」として完成した時代。こう言い切っても異論は無いだろう。「ヤマト」や「ガンダム」といった大ブームを巻き起こしたアニメは1970年代生まれだが、これらのヒットが次世代に繋がって1980年代の「アニメ全体のブーム」というべき時代が来たのは誰もが否定しないところだろう。
 もちろん、一般的にヒットした作品もあれば、「子供向け」として絶大な支持を集めたアニメもある。そして一部のマニア層にのみウケた作品があることも否定しないし、ヒットに乗れず現在ではすっかり忘れられてしまっている作品があることも否定しない。
 そんなアニメにとってある意味幸せだった1980年代という時代が終わり1990年を迎えた時、1980年代のアニメの集成大と呼ぶのに相応しいアニメが登場、しかもまだ当時は堅かったNHKで放映された。それが今回紹介する「ふしぎの海のナディア」である。
 この作品はフランスのジュール・ヴェルヌが著したSF小説「海底二万里(Vingt mille lieues sous les mers)」を原案に、少女ナディアを主人公としてこれと同行するサブ主人公の少年ジャンを設定し、主人公らが「海」を舞台に様々な冒険をする背景に「海底二万里」の主役艦であるノーチラス号を配し、「ネオアトランティス」という真の悪と戦う構図を組み入れてSFとして壮大な世界観を描くことに成功している。
 そしてこのアニメはそれだけでなく、1980年代の様々なアニメの要素(中には明確にパロディとして取り入れているものもあるが)を取り入れており、1980年代にアニメを見て育った世代なら「どこかで見たような…」と思わせる仕掛けがしてあることは一つの注目点だ。最初に主人公ナディアの前に「敵」として現れるグランディス一味については、1980年代初頭まで放映されていた「タイムボカンシリーズ」の悪役がモデルであることは言うまでも無いだろう。その他にも「ガンダム」や「ウルトラマン」等で出てきた要素だけでなく、1980年代他作品を意識したギャグやSFシーンなども多く組み込まれ、その内容はまさに「1980年代アニメの集成大」と私は思っている。
 だがこのアニメはそのような懐古主義だけで作られたものでないことも明白で、主人公ナディアの普段の服装については当時(バブル絶頂期)の世相や流行といったものをうまく反映している。「ヘソ出しスタイル」だけでなく、彼女がつけている様々な宝飾品はまさにその時代の女性像そのものと考えて良いだろう。そしてサブ主人公のジャンは、そんな美しく着飾った女性に振り回される当時の男性像をうまく再現していると言っていい(情けないことだが)。同時に彼は投じて始めた「オタク」な一面を持っていることも、まさに「時代」を象徴していると言って良いだろう。それだけでなく様々なシーンから、このアニメを通じて放映された「バブル絶頂期」という時代が見えてくるのが面白いし、我々の世代は「懐かしい」と感じるところだろう。
 そしてこのアニメは、その「つくり」において1990年代のアニメの方向性を決めたと言っても過言ではない。「くっつきそうでくっつかない少年と少女」という物語は1990年代に多いパターンだったと記憶している。主人公を主軸とした小さな物語と、その背景で進む別の大きな物語という構図は「ガンダム」で発生した物語の進め方であるが、本格的になったのは本作以降だろう。
 本サイトではこのアニメについて、いつものフォーマットで考察を進め、その「面白さ」に迫ってみたい。

 本作は1990年4月より毎週金曜夜にNHKで放映されていた。私は本放映を旅先のホテルなどで数回見たが、その内容はとても面白く「いつか全回通しで視聴したい」とずっと考えていた。それが実現したのは比較的最近で、2012年4月からのNHK教育でのデジタルリマスター版による再放送であった。痛恨だったのはこの再放送では第一回だけは途中(前半の途中)からの視聴となり、未だ完全な視聴となっていない点だ。だがナディアらの冒険や背景のノーチラス号の戦いがとても迫力を持って描かれており、この再放送を毎週楽しみに見ていたのは事実だ。
 よって本考察を書くための視聴は、初の完全通し視聴となることをお断りしておく。と言っても、第2回以降は全部見たけどね。

・サブタイトルリスト

第1回 「エッフェル塔の少女」 第21回 「さよなら…ノーチラス号」
第2回 「小さな逃亡者」 第22回 「裏切りのエレクトラ」
第3回 「謎の大海獣」 第23回 「小さな漂流者」
第4回 「万能潜水艦ノーチラス号」 第24回 「リンカーン島」
第5回 「マリーの島」 第25回 「はじめてのキス」
第6回 「孤島の要塞」 第26回 「ひとりぼっちのキング」
第7回 「バベルの塔」 第27回 「魔女のいる島」
第8回 「ナディア救出作戦」 第28回 「流され島」
第9回 「ネモの秘密」 第29回 「キング対キング」
第10回 「グラタンの活躍」 第30回 「地底の迷路」
第11回 「ノーチラス号の新入生」 第31回 「さらば、レッドノア」
第12回 「グランディスの初恋」 第32回 「ナディアの初恋…?」
第13回 「走れ!マリー」 第33回 「キング救出作戦」
第14回 「ディニクチスの谷」 第34回 「いとしのナディア※」
第15回 「ノーチラス最大の危機」 第35回 「ブルー・ウォーターの秘密」
第16回 「消えた大陸の秘密」 第36回 「万能戦艦N-ノーチラス号」
第17回 「ジャンの新発明」 第37回 「ネオ皇帝」
第18回 「ノーチラス対ノーチラス号」 第38回 「宇宙(そら)へ…」
第19回 「ネモの親友」 第39回 「星を継ぐ者…」
第20回 「ジャンの失敗」 (※印はハートマーク)

・「ふしぎの海のナディア」主要登場人物

主人公および主人公とともに行動する人物
ナディア・ラ・アルウォール 物語の主人公。生き別れた親から引き継がれた宝石「ブルー・ウォーター」のせいで、過酷な運命に巻き込まれる。
 …我が儘で意地っ張り、しかも絶対ヘソ出しスタイル。このバブル期のアニメキャラを象徴する面白いキャラが物語を引っ張ると言うより、他のキャラが作った物語に巻き込まれてゆく…。
ジャン・ロック・ラルティーグ こちらも主人公。空を飛ぶことに憧れる発明好きで「名探偵コナン」のような服装で、ナディアと凹凸コンビを組む。
 …何でも作ってしまう万能「博士」キャラ。あれだけの発明が出来るなら、どう考えても当時なら遊んで暮らせるよなぁ…。
マリー・エン・カールスバーグ 第5回で合流する3人目の主人公。両親がネオアトランティスに殺され、一人生き残ったところをナディアとジャンに救われる。
 …じつは3人の中で最も大人、というかおませさん。このキャラがいなかったら本作はここまで面白くはならなかっただろう。
キング ナディアが去れ歩くペットで、白ライオンの子供。裏の主人公であり、ナディアを助けることもあれば災難に巻き込まれることも。
 …白ライオンのくせにとても人間くさい。最後までペットのままで終わらせるのは勿体なかったような…。
グランディスとその手下
グランディス・グランバァ 懸賞金目当てにナディアの「ブルー・ウォーター」を狙っていたが、その後ナディア達と共闘する。資産家の娘だった。
 …どう見てもドロンジョ様ですね。女リーダーとしてより、ナディアを正しい方向へ導く役としての活躍も見逃せない。
サンソン グランディスの手下で、格闘とメカの運転を担当。特に彼の怪力は何度となくナディアやジャンやマリーのピンチを救う。
 …そして、物語一のロリコンであることは最終回のラストシーンでハッキリする…。
ハンソン グランディスの手下で、メカの制作と整備を担当。技術的な回題でジャンと気が合う。
 …自力でグラタン(グランディス・タンク)を作っちゃうんだからなー、ジャンはハンソンをもっと尊敬すべきではないかと思う。
ノーチラス号乗組員
ネモ船長
(エルシス・ラ・アルウォール)
ネオアトランティスと戦う海洋生物学者。目的のためには非情にもなれるが、目の前にナディアが現れたことで…。
 …「艦長ではなく船長なのは、ノーチラス号が軍艦ではないからだ」という詭弁を平気で吐く。潜水「艦」だろ!って突っ込みを入れたいのを耐えるしかない。
メディナ・ルゲンシウス・エレクトラ ノーチラス号副長の美しい女性。ナディアの登場で非情でなくなったネモに反発する。
 …この女の嫉妬強さに見ている人は引いたことだろう。肝心なときに艦長を射殺しようとする、行動を共にすると危険な女。
エーコー・ウィラン ノーチラス号のレーダー手、ジャンに優しく接する乗組員。
 …後述のイコリーナのファンクラブ会員第一号という、見かけによらずミーハーな面が最も印象的。
機関長 ノーチラス号の機関長だが、名前は不明。人生経験豊かでノーチラス号やその乗組員達のリーダー的存在。
 …どう見ても徳川機関長(by「宇宙戦艦ヤマト」)ですね、部下に藪みたいなのがいなくてよかった。
イコリーナ・エッチーノ ノーチラス号に乗り組む看護婦で、乗組員の間にファンクラブまであるかわいい女性。
 …このキャラ、見た目だけでモブから主要キャラにまで成り上がったのだろうなぁ…。船医は彼女の祖父。
フェイト ノーチラス号の機関員の一人、「戦争」の悲しさを登場人物と視聴者に伝えるとても印象深い最期を遂げる。
 …このキャラの最期はとても生々しくて、本作で最も印象に残ったシーンだ。
…その他、多くの乗組員がいるがここでは私の印象に残っているキャラクターのみの紹介とした。
ネオアトランティス
ガーゴイル
ネメシス・ラ・アルゴール
アトランティスの科学力で世界征服を企む、自称「アトランティス人の末裔」。ネモ以上に非情で、見ていて頭来る本当の悪役。
 …悪役とは何か、このキャラは見る者にこれを見せつけてくれる。その登場から最後まで、その悪役ぶりは徹底していたという意味でとても印象深い。
ネオ皇帝
(ビナシス・ラ・アルウォール)
世界征服をもくろむネオアトランティスの皇帝だが、どう見てもガーゴイルの操り人形。その正体が終盤に判明すると…。
 …終盤には「科学と人間」というものを嫌と言うほど見せつけてくれる。だがその終盤までは画面内にいるだけで、目立たない。
その他
エアトン・グレナバン アメリカの戦艦で出会った自称「海生物学者」。物語中盤における無人島で再会し、ナディアらと行動を共にする。
 …最初の登場は結構りりしかった記憶があるが、再登場以降はすっかりネタキャラになっちゃったなぁ。
叔父さん フランスでジャンと暮らしていた叔父、ジャンと共に飛行機を作り博覧会に出る。
 …。


・「ふしぎの海のナディア」オープニング
「ブルーウォーター」
 作詞・来生えつこ 作曲・井上ヨシマサ 編曲・ジョー・リノイエ 歌・森川美穂
 曲も背景画像もとても印象的で、一度見ると忘れないほどのものだ。このオープニングを本放映当時に僅か数回見たことは、今でもハッキリ覚えている。
 曲はボーカルソロで始まり、その後は当時のポップスを思わせる賑やかで明るい曲だ。今聴くと「バブル絶頂期はこんなヒット曲が多かったなー」としみじみ感じる女性ボーカルとアレンジである。ボーカルソロで始まった曲はそのまま長めの演奏から本大部分に入ってゆく。その詩の内容は「プルーウォーター」って言うより、主人公ナディアそのものを歌っているように感じるけど…。サビの繰り返し部分間の歌詞が英語になるのも、当時多かったパターンのように感じる。
 背景画像もとても印象的だ。最初の白い雲の中から白い鳥が飛ぶシーンで始まり、次に雲が出てくるとジャンが作った飛行機が飛んでゆき、タイトル表示に繋がる流れはとても美しい。最初のシーンが太陽の光と共に消えると、ナディア・ジャン・マリーとキング・グランディス一味という順でそれぞれのキャラを印象付ける画像となり、初めてこの作品を見るという人でもこの6人と1匹が物語の根幹をなす主要キャラだと理解することだろう。続いてはこの6人と1匹が走るシーンとなるが、その次のグラタン登場をきっかけに、一瞬だけ例の6人と1匹が出てくるものの画像はメカシーンとなる。サビに入ったところで水中を行くノーチラス号が登場、これが単純に水中を航行するのでなく画面を斜めに横切ってゆくのがとてもカッコいいんだ。ノーチラス号シーンを3カット挟むと、今度はネモ船長のりりしい姿が…と思ったら画面は唐突に上半身裸と思われるナディアの姿となり、最後の画面一杯にナディアが所有し物語の発端となる宝石「ブルーウォーター」画面一杯に広がったと思うと、これが海になり波しぶきが上がると空が映し出されて終わるという寸法だ。
 このオープニングは個人的にはとても大好きだが、終盤にノーチラス号のシーンがN-ノーチラス号に差し替えられたときはちょっと白けた。やっぱりあそこは画面を斜めに横切るノーチラス号でなきゃ…でもこれだけパンチ力のあるアニメのオープニングは少ないと思う。出てくるキャラクターとメカをしっかり印象付け、物語にきたいを持たせるという本来の役割をキチンと負っていると、私は思う。
 また第1回、あの最初のナレーションの後にこのオープニングを見せられると、ちょっと物語に重厚感が出るのは今回初めて気付いた驚きであった。

2014年4月27日総評公開
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