第37回「ネオ皇帝」 |
名台詞 |
「いかん! お前は残るんじゃ。いい男を見つけて、子供を産み、そして育てろ。わしらが安心して暮らせる世界を作ってくる。」
(デンギル) |
名台詞度
★★★★ |
「N−ノーチラス」はタルテソスでのガーゴイルからの反撃から逃れ、日本列島に避難していた。そこで最終決戦は自分一人で行くと乗組員全員に下船を命じたネモであったが、乗組員は全員その命令を無視して「N−ノーチラス」でネモと共に戦う道を選ぶ。艦医のデンギルが艦に戻ろうとしたところで、孫で看護師のイコリーナが「私も行く」と訴える。これに対するデンギルの返答がこれだ。
二人がこれまで「孫と祖父」という関係である事は、劇中で僅かに示唆されただけだが、ここに及んでこの二人が感動的なシーンを演じる。イコリーナもまだ若いとは言えネモと共にネオアトランティスを叩くために戦ってきた、だからネモと行きたいという考えがあるのは当然だ。だが祖父はそれがイコリーナという孫の進む道ではないという事をよく知っている。若者達が取るべき道は、何よりも子孫繁栄でありこんな事で生命を散らす事ではない。そしてそのために、老いた自分が何をすべきなのかということをこの艦医はよく知っている。そんな事がよく見えてくる台詞だ。
この艦医の台詞には、孫に対する愛情というのが上手く込められていると思う。彼は敵討ちとはいえ孫をこんな戦いに巻き込んだ事に負い目を感じていたのだろう。本当はイコリーナに平凡な生活をして欲しい、そう願っていたはずだ。
そしてイコリーナは、この祖父からの愛をキチンと受け止める。この台詞を吐いた祖父に、涙を流して抱きつき別れを惜しむのだ。 |
(次点)「お前は嫌な奴だが、他に頼める奴がいないんでな。マリーとキングを頼む。マリー、ちょっと行ってくるからな。」(サンソン)
…名台詞本欄の台詞の直後、並んで「N−ノーチラス」を眺めていたエアトンとマリーにサンソンがかけた別れの台詞だ。サンソンのマリーに対する気持ちが良く出ていると同時に、素直でないサンソンの性格も良く出ている。サンソンはこの旅を通じて「マリーを託す」という点においてはエアトンを信頼できるからこそ、この台詞を吐いたのだ。またこの台詞を聞いたエアトンも、「わかった、イギリスで待ってる」と良い返答をする。 |
名場面 |
ジャンとネモ |
名場面度
★★★★ |
名台詞欄次点シーンを受け、いよいよ「N−ノーチラス」のハッチが全て閉じられた。機関長がネモに乗れる者は皆乗ったことを告げると、ネモの背後からジャンが声をかける。ネモが振り返ると、そこにはジャンだけでなくグランディス一味の姿もあった。ジャンが「ノーチラス」撃沈の際にネモから渡された帽子を差し出す。「ジャン君!」ネモが声をかけると「死にに行くわけじゃないんでしょ?」ジャンが返す。「そうだったな」呟くようにネモが語ると帽子を受け取り、これをしっかりかぶる。そしてネモが「N−ノーチラス」発進準備の号令をかけて、いよいよ発進シーンへと進む。
このネモとジャンのやりとりは、二人の間で無言でいろいろとやりとりがあったことをうまく想像させてくれる。なによりも二人の目的がある一点で同じだと言うこと。ネモは自分の娘としてのナディアを、ジャンは好きで守るべき少女としてのナディアを、それぞれかけがえのないものと認めて救出に行くという共通の認識があるのだ。この二人の意気投合を、以前のシーンでネモからジャンに譲渡された「帽子」を伏線としてうまく再現したと感心する。
そして二人の決心は「死にに行く」のではなく、「生きて返ること」。なぜ生還をしなければならないか、それは助けるべき愛する者がいるからだ。だがネモとジャンではこの辺りの決意は少し違う、ジャンはナディアを助けて生還することが絶対目標であるが、ネモはナディアとジャンを助けるためなら生命を投げ出す覚悟がある。そんな二人の「相違」もここから見えてくる。今回で最も印象的なシーンだ。 |
感想 |
前回は最終決戦へ向けて物語が大きく展開したが、今回はこれを受けて敵味方とも最終決戦の「準備段階」である。「N−ノーチラス」側については名台詞欄や名場面欄で語ったとおり、戦いに同行する者と地球に残り見守る者との別れが描かれ、同時に艦側の出発劇が描かれるというところだろう。「N−ノーチラス」の発進シーンは格好良かった、その間に演じられるイコリーナとエーコーのワンカットは、二人が既に相思相愛であることがさりげなく示唆されていると思う。
そして同時並行でネオアトランティス側の物語も進められる、ナディアとネオの再会では「二人が兄妹である」ことを明かさないようギリギリまで引っ張ったのはちょっと白けた。もうあそこのシーンでは視ている方は解りきっているのだから、ナディアがネオに対面した瞬間に「お兄さん?」と声を出す位唐突でも良かったと思う。そして語られる「ふしぎの海のナディア」世界での人間の進化について、ヒトという生物はアトランティス人がサル(恐らくチンパンジーとヒトとの共通祖先)を遺伝子操作して作られたという設定に、多くの人は驚いたことだろう。そしてガーゴイルは地球侵略を急ぎ、「レッドノア」という一昔前のアダムスキー型エイリアンクラフトを巨大にした協力戦艦を繰り「全世界への宣戦布告」まで物語を進める。
こうして互いの準備が整ったところで終わらず、戦いの最初の一撃までのコマを進めておくのはこの手のSFではおやくそく的なところだろう。盛り上げに盛り上げてから「つづく」というのは、ありがちな話だ。
いよいよ次からは最後の戦いが描かれる。次回予告はジャンが進めるが、またサブタイトル読み上げはガーゴイルだ。なに? 戦いの舞台は宇宙だって?
どうでも良いけど、ガーゴイルが「全世界に宣戦布告」するシーンで世界各地の様子が出てくるが、その中の日本のシーンを見て「ここは何処だ?」と叫びたくなったのは私だけであるまい、「富士吉田」という字幕は出ていたが、どう見ても町並みは京都だし富士山は静岡県側から見たそれだし、逆立ちしてみても「富士吉田」には見えないのだ。う〜ん。 |
研究 |
・人間の進化について 今回、劇中設定として「ヒトは古代アトランティス人が忠実な下僕として作ったもの」ということが発表される。それによると今から240万年前、地球に降り立ったアトランティス人は人口が少なく、労働力が不足していたので奴隷を必要としていたのだ。このために自分たちに姿形が似た高等生物を自分たちで作り出したというのである。最初は当時の地球で最も知性が高かった鯨を改造したが上手く行かず、これが以前に「ネモの友人」として出てきたイリオンだという。続いて姿形がアトランティス人に最も近いサル(恐らくヒトとチンパンジーの共通祖先)を改造してヒトにたどり着いたのだという。その改造方法が「遺伝子操作」であることも語られている。
同時進行でエレクトラがヒトの進化には穴があることを説いている。化石記録などによるとサルはヒトに近い形に徐々に近づいたが、ある時代に突然ヒトになりこれが説明できないのだとする。だからアトランティス人が進化の過程に手を加えれば辻褄が合うと説くのだ。
では現実の世界はどうか、遺伝子による調査結果からヒトとチンパンジーが共通祖先から分岐したのは約480万年前とされており、化石記録では700万年前には二足歩行していた霊長類がいたことが解っている。う、アトランティス人が地球に来るよりずっと前じゃないか。チンパンジーの祖先が熱帯雨林で樹上の生活をしたのに対し、ヒトの祖先は熱帯雨林を追われて乾燥した台地を生活の舞台としたことが分岐理由だと言われている。
エレクトラが指摘していた体毛についても、最近のNHKスペシャルで謎解きが放映されていた。これは樹上から台地に降りた際、日向を歩く時間が長くなった事が原因と言われている。ヒトは体毛を減らして汗腺を発達させることで乾燥した大地での生活に対応した結果だというのだ。高い知性や言語能力は、ヒトが現在の「ホモ・サピエンス」へ進化する過程で少しずつ獲得していったものだ。別にある日突然生まれたわけではないし、海辺に棲んでいて栄養豊富な種族から広まっていったという説もあるほどだ。
まぁ、これはあくまでもSF設定上の話だから、深く突っ込むのはやめた方が良い。この物語を見る上では、化石記録とは合致しなくてもヒトが宇宙人によって作られたとした方が面白いからだ。 |