第5話「おじいさんと孫」 |
名台詞 |
「可哀想な人達…お医者様もいなかったなんて、本当に辛かったでしょうね。お父様ももし良いお医者様に診てもらえたら、助かったわね。きっと…。私、お医者様になりたいわ。(以下略)」
(ペリーヌ) |
名台詞度
★★★★ |
旅の途中のペリーヌがショッキングな話を聞かされる。それは伝染病によって多くの人達が生命を落としたという小さな村、医者もおらず特に年寄りや子供達が倒れて行くのを黙って見る事しか出来なかった悲劇。ペリーヌはこれと父の死を重ね合わせて見たに違いない、エドモンも旅の途中の小さな村で病に罹り、まともな医者に診てもらうことも出来ず生命を落としたに違いないのだ。そんな自分が見た山村の現実と、父の死を重ね合わせたペリーヌが吐いた台詞がこれだ。
このペリーヌの決意に対し、マリは「そんなすぐに医者になるなんて決める必要はない」と語るが、ペリーヌはこれに対し「病気で困っている人を助けるなんてとても良い仕事だ」として、マロクールの祖母の元に着いたら医者になるための勉強をすると宣言する。彼女の意思はとても強いことが解るのだが…この設定が劇中で余り活かされていないのが残念。ペリーヌにこんな決意があったことを、物語後半になると忘れてしまう人が多いのではないかと思う。 |
名場面 |
水樽破壊シーン |
名場面度
★★★ |
道中の名も知らぬ村で伝染病が流行ったと聞き、ペリーヌ達は一刻も早く村から離れるため馬車を急がせる。ところがそこはとんでもない悪路だった。路面に突き出した岩を何度も踏み馬車は大揺れする。商売が中止になったことでマリが着替えて御者台に出てくるとスピードを落とすが、それでも悪路は変わらない。何度目かに岩を踏んだ時に、馬車の床下に備え付けられた犬小屋からバロンが振り落とされる。バロンは走って馬車を追い、追い付いたところで水樽が壊れて水が漏れていることに気付いて御者台に向かって吠えるが、「何を吠えているのかしら?」「小屋の中に収まったままでいい気なものね」と母子は緊急事態に気付かない様子。そうしているうちに水樽の水がどんどん漏れて行くが、バロン以外は誰もそれに気付くことなく、御者台の母子は名台詞欄に繋がる会話を始める。バロンはふて寝してしまう。
とても面白いシーンだ。ここまでのバロンのキャラクター性を上手く活かしていて、さらにペリーヌやマリからあまり信用されていないという設定も上手く使ってとても面白いシーンに仕上がったと思う。これは今話全般に言えることなのだが、バロンの表情が豊かで名物キャラとしての地位を確固たるものにしたのはまさに今話だ。
またここに至るまで、前話から今話に掛けてバロンが気まぐれに頭の良い行動をしているのは、このシーンを盛り上げる上で重要な点だろう。前話でペリーヌに「静かにしろ」と脅すゴルジモフに勇猛果敢に飛びかかり、今話冒頭(「今回の迷犬バロン」欄参照)ではペリーヌの予想に反して見事に魚を捕まえている。さらにこのシーンの後では水に困っている母子に他人の存在を知らせるという金星を挙げている。こうして「ここのところバロンは冴えている」というのを上手く使ったギャグシーンに仕上げ、視聴者に「冴えている時のバロンは使える」という印象を強く残したのはこのシーンで間違いないだろう。
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今回の
迷犬バロン |
物語冒頭、河原で給水のために馬車を止めたペリーヌ達だが、バロンはそんなことに構わず水の中に飛び込んで魚取りを始めてしまう。それによって川の水が汚れたことをペリーヌに窘められるが、全く構う様子はない。「お前に捕まるような間抜けな魚なんていないわよ」とペリーヌはキッパリ言うが、バロンはちゃんと魚を捕まえて飼い主の前で胸を張る。「やるじゃない、バロン」ペリーヌ談…今日のバロンは確かに冴えてる。 |
気まぐれ度
★★★★★ |
感想 |
特にこれと言って何も起きない回ではあるが、今回のポイントはペリーヌの前に現れる「おじいさんと孫」、つまりヴァルトとその祖父だ。同時に村での出来事を通じて生じたペリーヌの決意、この双方を掛け合わせることでペリーヌはまだ見ぬ祖父に対して「祖母は優しい人」と勝手な妄想を膨らませる。これが今話だけでなく今後の物語展開にとって重要だ。
だが困ったのは、その主題よりも今話ではバロンが目立ちすぎてしまったことだ。今話の考察を見ればお分かりと思うが、名場面欄までバロン一色である。前々話まで「ダメ犬」として視聴者に印象付けられ、前話でやっとその汚名を返上したバロンが、前話での活躍のせいもあってか今話では非常に冴えている。この視聴者にとっても登場人物達にとっても予想外の展開が、今話を非常に面白くしているのは名場面欄に書いた通りだ。
でも今話のシナリオの良いところは実はラストの方で、今回は冴えまくりのバロンが「いつものバロン」に戻る点である。ヴァルトがバロンを仕込んで投げた枝切れを持ち帰るまでに仕上げるが、すぐにそれに飽きてマリの元に駆け寄るバロンを見て安心した人も多かろう。冴えたままで終わっていたら「いつものバロンじゃなーい」と暴れながら見るしか無かったはずだ。これぞ本当の「気まぐれ」というやつで、エンディングテーマの通りと言ったところだ。 |
研究 |
・今回訪れた村で何が起きていたか?
今回はペリーヌ達が立ち寄った村で何が起きていたのか検証したい。今話前半、ペリーヌ達がある小さな村で商売を始めるが人が全く集まらない。どういう事だろうと思うと神父がやってきて、この医者もいない小さな村で伝染病が流行ったために多くの人が生命を落としたという惨劇を語るのだ。それがどんな病気か、神父の台詞に情報がある。
「高熱が出て一週間ほど続いて、それから顔が真っ赤になって、しばらくして身体が衰弱して死んで行くんじゃ。」
…そしてこれに付け加える形で、主に年寄りや子供がこの病気にやられることが多かったことが示される。では、この病気は一体何であろう。
これを気に流行病や伝染病についていろいろ調べてみたところ、麻疹(はしか)が重病になったケースがこれに該当しそうだ。麻疹に罹るとウイルス感染から1〜2収監の潜伏期間を経て、まずは風邪のような高熱が数日続き、これが一度落ち着くと発症1週間後くらいから高熱と共に身体中に赤い発疹が出る。この発疹が顔から始まることを考えればこの台詞の「顔が真っ赤になる」という症状と合致していると言えるだろう。そして同時にウイルス性脳炎を引き起こし、意識障害や痙攣などの症状が出て弱ってゆき、最後には死に至る。
子供の頃に麻疹に罹った、という人が多い上に、現在はワクチンなどによって掛かる人がかなり減少していることもあり、怖くない伝染病と勘違いしている人が多いかも知れないが、江戸時代の1862年には江戸で大流行した麻疹によって24万人もの人々が生命を落としている。近年も2006〜2007年に大流行している。
麻疹は子供が罹る病気、というイメージが強いがこれは年齢問わずに罹る病気だ。またウイルスによっては掛かる年齢に偏りが出る事もあり、2007年の流行では10〜29歳に感染者が集中したという。もちろん劇中で描かれたような年寄りや子供に感染しやすいウイルスもあるだろう。
つまりペリーヌ達が訪れた村では麻疹が大流行したと言うことだ。人々は高熱と身体中に出来た発疹に苦しみながら、倒れていったのである。想像するだけで怖い。 |