第15話「フランス!フランス!」 |
名台詞 |
「ああ、フランス! 明日はとうとうフランスに着けるんだわ!(以下歌い出す)」
(ペリーヌ) |
名台詞度
★★ |
今話は「台詞」という面から見るとこの台詞のためにあると言っていい一話であるだろう。ペリーヌと母は街道沿いの丘の上で昼食とする。丘の上から見渡せば湖と点在する別荘地、この景色にうっとりするペリーヌに、マリは今日中にジュネーブにたどり着ければ明日はフランスという事実を語る。これを聞いたペリーヌがこう叫んだと思うと、歌い出して踊り出すのだ。
そう、この台詞に込められているのは「希望」である。まだ見ぬ祖父が待つフランス、長い旅路の果ての目的地であるフランス、その目的地にペリーヌは「希望」があると信じて疑わないからこそ、「フランスが近い」というそれだけでここまで喜んで踊ってしまうのである。
と、この台詞を通じてペリーヌのこんな思いが視聴者に印象付けられればこの台詞を含むこのシーンは大成功である。さらに視聴者も一緒になって彼女たちの目的地フランスに、彼女たちの希望があると信じれば言うことは無い。サブタイトル「フランス!フランス!」もこういう制作者側の思惑があって付けられたのだろう。だがまだ物語全体から見ればやっと「序盤」を抜けた辺り、彼女たちに簡単に「希望」が訪れることがなく、むしろ「絶望」を味わうことになる事を、これから嫌と言うほど見せつけられる前のペリーヌの「喜び」だ。
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名場面 |
マリ倒れる |
名場面度
★★★★ |
狼に追われ馬車に振り回された翌朝、ペリーヌは穏やかな日差しを感じて目を覚ます。外に出て通りすがりのボヤッキー農夫に現在地を尋ねる。ミロード村という聞いた事もない返答に対し、ペリーヌがジュネーブの方向を聞くと農夫は馬車が今来た方角を指さした。そしてここが既にスイスではないことと、フランスに入国したことを知ったペリーヌはこの吉報を知らせようと母を呼びながら跳ねるように馬車に飛び込む。マリはすぐに目を覚まし「フランス?」と呟いて立ち上がり笑顔になる。だが次の瞬間、マリはそのまま馬車の床に倒れてしまう。マリの額には汗が玉のように浮いている。「お母さん!」ペリーヌの絶叫にマリは「あたまが…」というのが精一杯だ。「お母さん、しっかりして!」ペリーヌの絶叫が続く、そしてナレーターが静かにマリが高熱を出していることと、そのまま意識を失ったことを解説して今話が終わる。
今話では最後の最後で一気に暗転させた。中盤の牧場での昼食シーンで既にマリの不調は描かれていたが、直後に何の理由も無くマリを復活させることで一旦は視聴者を油断させる。「マリの不調は確かだが今話いきなり倒れることはないだろう」と。その上で牧場での出来事(「今話の迷犬バロン欄」参照)にペリーヌと共に笑い、夜の狼襲撃シーンでは気丈な母親を演じてその健康ぶりを視聴者にアピールする。だから視聴者は油断していて、このシーンはペリーヌがフランスに入国したことでハッピーエンドと思う…残り時間から考えればそう考えるのが自然だ。
だから、その隙を突いて物語を暗転させる今話のやり方は非常に印象に残る。前述したように伏線はあったものの、それとは逆方向に物語が暴走とも言える進み方をしていたのだから。だがここで隙を突かれた視聴者は、今話中盤でのマリの不調を覚えているから彼女の病が軽いものではないことも一気に予感させられる。まさに物語は非常事態、この非常事態に決着を付けないまま「つづく」である。こんなもどかしい展開があるだろうか?
こうして前々話から次の悲劇に向けて大きく舵を切りつつあった物語は、その方向性を確定させたと言っていいだろう。次回予告ではマリの病気だけでなく「資金難」という困難が待ち受けていることも示唆される、視聴者はこうして物語に強く引き込まれるのだ。
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今回の
迷犬バロン |
牧場での昼食、ペリーヌはパリカールに水を飲ませるため水飲み場へ。その間、バロンは牧場をうろつくが…一頭の牛がバロンを追い始めたのをきっかけに牧場中の牛がバロンを追う、そしてバロンが飼い主の元に逃げると、今度はペリーヌしパリカールが牛に囲まれることに。何とか脱出したペリーヌは大笑い、体調を崩していたはずのマリもあまりの珍事に元気になってしまったとさ。 |
気まぐれ度
★★★ |
感想 |
いや、本当に最後までよく引っ張った。もう今回の感想はこれに尽きる。最後の最後まで「希望の地フランス」を目前とした明くるくもおかしく、さらに狼にまで追われるという困難はあったものの本当に楽しい旅が描かれていた。村の悪ガキに悪さをされたり、自転車との事故やそれをきっかけに商売を禁止されるという「事件」もあったが(次回予告ではその「事件」が主題かのように描かれていた)、全般的にはのんびりした何の不安も感じさせない物語だった。
特に名場面欄で語ったが、一度マリに「不調」を演じさせるのが大きい。同時にその「不調」も直後の面白おかしい事件(「今話の迷犬バロン」欄参照)で瞬時にかき消してしまうのは、「マリの調子が悪い」と訴えつつも視聴者を油断させる脚本としてすごく上手いと思った。
そして本当に最後の最後のシーンで、瞬時に物語を暗転させる。ただ暗転したのでない、その前の「明るさ」が瞬時に忘れてしまえるほどかき消されているのである。この「繋ぎ」のシーンとして狼に追われるという脚本にしたのはこれまたすごいと思うし、暗転した後になって中盤での「マリの不調」が効いてきて視聴者が不安になるというすごい物語構成だ。さらに倒れたマリが病院に担ぎ込まれる等のシーンは一切無しで、そのまま「つづく」だから潔い。
そして次回予告を見ながら視聴者はあることを知ることになる。それは名台詞欄シーンでの「希望」がすっかり消えていることだ。今話で描かねばならない点はまさにそこで、だからこそ前半では「希望」をキッチリと演じ、ラストのギリギリまでそれを引っ張ったことで「希望が消えた」ことを上手く視聴者に印象付けたのだ。
しかし今話、ボヤッキーが二役も演じているとは思わなかった。ラストに出てくる農夫もそうだったけど、自転車との衝突事故シーンにも出ていたね。それと村で悪ガキ共がペリーヌとパリカールにちょっかいを出すシーンでは、スパンクの笑い声が聞こえてきて笑った。 |
研究 |
・シンプロン峠〜フランス入国
いよいよペリーヌ達が目的地の国、フランスに入国する。では前々話の研究欄で語ったシンプロン峠から、フランス入国までの経路を辿ってみよう。この地図を見ながらの説明となる。
まずは14話冒頭の宿屋だが、これは間違いなく「1」地点のブリークだろう。母子が峠を下って間もないことが語られているし、14話のストーリーから「3」地点までの行程が動かせないのでこう解釈するしかない。
「2」地点はペリーヌが怪我をしたと思われる地点である。これは前述の通り「3」地点が負傷したペリーヌが医師の診察を受けたシエルの街である。これから逆算してみると「1」地点からそう離れていない「2」地点がペリーヌ負傷地点と推察される。
15話の冒頭は「4」地点で確定だ。冒頭シーンで出てきた城は間違いなくモントルーのシヨン城で、母子はレマン湖の北岸を経由したことになる。ジュネーブへは南岸を通った方が近そうだが、母子は商売上の顧客が多そうな方を経由せざるを得なかったのだろう。恐らく馬車と自転車の事故はローザンヌでの出来事と思われる。う〜ん、アンネットの顔が浮かんできたぞ。
さらに言うと、このレマン湖北岸ルートは劇中のある設定とうまく合致する。それはジュネーブの先がフランスという設定だ。南岸を回るとジュネーブ到着前に一度フランス領に入るコースになるので、フランス入国の感動が薄れてしまうことだろう。だからこそ母子にはどうしてもレマン湖北岸を通って欲しいのだ。
そして15話の最終地、フランスの「ミロード村」の位置だ。ジュネーブ近くのフランス領の地図をなめるように見てみたが、「ミロード」という地名を見つけることは出来なかった。だがジュネーブの街の大きさを考慮すると、まだ街を通り越していない…つまりジュネーブの街の側面に出たと考えるべきだ。それとペリーヌ達が道に迷ったこと、さらに昼間でも暗そうな森で狼に追われたことを考えると、ジュネーブ付近ではこのようなルートを辿り、「5」地点が架空の「ミロード村」の想定地点であると思われる。この位置であればジュネーブはまだ先だが、既にフランス領に入っている上に、劇中で描かれたようにジュネーブへは戻る方向に指さされるであろう。
シンプロン峠からの行程は223キロ。フランスに来たとは言え、パリですらまだまだだぞ…。
・今回までの旅程
シンプロン峠〜「ミロード村」 |
移動距離 |
223km |
合計(ダッカから) |
12371km |
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