第8話「刀鍛冶」 |
名台詞 |
「実は、偶然ながらその武人によく似た人物を私も一人知っているのだ。その者は自分に一切関わりが無い他人の子を、ある日突然託されて追っ手から逃げた。そして一度は奪い返されたその子供を、自らの生命を危険に晒しながらも取り返して行ったのだ。しかも驚くべき事に自分を殺そうと迫り来る幾人もの追っ手を、その者はただの一人として殺しはしなかった。その者が何故他人の子供を預かる気になったのか、その心持ちは私などには察するべくもない。奴はただ、目の前で散りゆこうとしているか弱い生命を黙って見過ごすことが出来なかっただけなのかも知れん。それ故に誰をも殺めることのない、至高の剣を振るった。」
(モン) |
名台詞度
★★★ |
バルサが槍の修理を依頼しに来た刀鍛冶の元に、バルサを追う王室の追っ手のモンとジンが現れる。バルサの真意を図りかねた刀鍛冶はバルサを物置に匿った上で、王室の側の話を聞こうとして自分が理想とする刀の話をし、そのような刀を作るに相応しかった相手としたバルサを育てたジグロの話をする。かつて国王暗殺の陰謀に巻き込まれた友人から子供を引き取り、その子を守るためにかつての友人達と戦うことになったというジグロの話を聞いたモンが返した台詞がこれで、これはまさにここまでのバルサと王室の戦いを示唆しているのは誰もが認めるところだろう。
もちろん、この台詞によって刀鍛冶がバルサの「思い」を知ることによって槍の修理を引き受けるきっかけになる台詞であるという点での重要性はもちろんだが、バルサの敵とも言える王室の追っ手の一人が敵味方関係なくバルサについて公平に語ったという点でこの台詞はとても印象深い。もちろん刀鍛冶から聞いたジグロの話に彼なりに思うところがあったわけで、それがここまでのバルサの行動だったわけだ。このようなときに彼がバルサを思い出すに至ったのは、彼はバルサを「暗殺対象」どだけではなく一人の人間としても見つめていたことの裏返しであり、彼なりにバルサの行動理由を理解していたという事である。それが伝わるように言葉が選ばれているからこそ、この台詞をきっかけに刀鍛冶がバルサの思いを理解することに至るというここの展開に説得力が生まれたのは言うまでもない。
私がこの台詞を聞いたとき、もしこのシーンでモンがバルサを見つけたらどういう行動に出たかという点に興味を持った。もちろんそれが彼の職務である以上はバルサを見つけたら襲いかかるだろうが、果たしてこんな思いがある相手に対して本気で刀を振るうことが出来るかどうかと言う意味だ。いずれにしてももしこのシーンでモンがバルサを見つけたとしても、彼らはモンは刀を刀鍛冶に預けてあって丸腰だからなにも起きないのは確かだけど。 |
名場面 |
刀鍛冶 |
名場面度
★★★★ |
正直、今話はそのストーリーの殆どを占める刀鍛冶のもとにバルサがいるシーン全てが名場面と言って良いだろう。そのシーンの中から「特にここが良かった」と特定のシーンだけ抜き出すことは出来ないし、かといって刀鍛冶のシーン全部が平凡とも思えずそのシーン全てがとても巧く出来ていて、視聴者を物語に引き込むようさが多いと感じたからだ。
特にバルサの真意を図りかねた刀鍛冶が、「別の客が来る」とした上で「双方から話を伺ってみることにします」とバルサに告げるシーンや、モンがバルサが匿われている部屋の扉を開こうとするシーンの緊張度は素晴らしいと思う。その上で刀鍛冶とバルサの「駆け引き」というのも上手く描かれ、本来はモンとジンはそこにたまたまいただけという関係も一貫していて、かつ刀鍛冶に決断をさせるのは「たまたまいただけ」のはずのモンの台詞という面白い構図によってモンやジンが「たまたまいただけ」なのに蚊帳の外になっていないのも面白い。
それよりも刀鍛冶を演じる堀勝之祐さんの落ち着いた口調がとても良い。彼が本サイト考察作品に出てくるのは3回目だが、どれも味のある演技をしているのが印象的だ。最近はNHKスペシャル「映像の世紀」で彼の声をよく聞いたな…。 |
感想 |
名場面欄に本話の感想を殆ど書いちゃった。だって本話の8割に近い長いシーンを全部名場面にしちゃったからなぁ。それ以外と言えば、冒頭のバルサとチャグムが早起きするシーン、刀鍛冶の元に向かうバルサとチャグムのシーン、刀鍛冶から新品の槍が届いてバルサがこれを振るうラストシーンだけ。登場人物も6人だが、タンダは出てくるだけで台詞がないので実質5人だけの単純な物語だ。登場人物が少ないから単純になるのはあくまでもストーリーで、登場人物を演じる側は登場人物が少ないからこそそれぞれの味をキチンと出さなきゃならないので大変だろう。
物語そのものは前話と同様、表向きはバルサとチャグムが死んだ事になっているままで話が進むので平和と言えば平和だ。ハッキリ言って「戦いの緊張感」にあったのは刀鍛冶の倉庫に匿われていたバルサとチャグムの二人だけ。これ以外はここで戦いが起きるなんて誰も思ってはいないし、それで実際に戦いは起きないんだから平和な話だ。なのに視聴者はバルサやチャグムと一緒に戦いに備えた緊張をしなきゃならないという話だから、面白い一話に仕上がっているのは確かだ。
でもこの平和も何処まで続くんだろう? 続けるとしたらあと1〜2話が限界だろうなぁ。 |