第14話「結び目」 |
名台詞 |
「荒れ狂う大海原を越え、緑なすナヨロの地に降臨せし聖祖トルガルは『100年に一度現れ、渇きをもたらす水の魔物を倒してくれ』とその地に棲まう民ヤクーに頼まれた。そこでトルガルは、大聖導師ナナイと8人の武人と共に青霧山脈の奥地へと分け入った。鬱蒼と霧に煙る木立の奥、こんこんと沸く泉の傍らに一人の幼子が座っていた。幼子は泉を指してトルガルに言った『我を崇めよ、我はこの地の水を司る者。もし我を崇めるならば、其方らの地に豊かな実りをもたらせてやろう』と。しかしトルガルは、魔物の言葉には惑わされなかった。彼が『星心ノ剣』をすらりと抜き放つと、幼子はたちまちにしてぬらぬらとした水妖に変化し襲いかかってきた。トルガルと8人の武人は三日三晩水妖と戦い続け遂にその首を斬り落とし、その胴から吹き出した青い血を泉に流した。途端に天を割って稲妻が走り、泉を打った。青い光が泉に満ち、清らかな雨となって地を満たした。この地に水の恵みを取り戻したトルガルは、天の加護を受けた天子として帝を名乗り、新ヨゴ王国を起こしたのであった。」
(シュガ) |
名台詞度
★★ |
本話の冒頭、トロガイと水の民の会話シーンに続く2番目のシーンがこの台詞そのものである。シュガが語るこの台詞は、物語の舞台である新ヨゴ国創世の物語…つまり「建国正史」というものだ。新ヨゴ国の帝が帝であることを世に知らしめる証の歴史と言って良いだろう。
上手く出来た劇中物語と思った。いくら物語の世界がファンタシーの世界であっても、「そりゃないだろー」と思うように上手く作られている。これは劇中世界で実際に起きた出来事ではなく、「帝が帝を名乗ることの正当性を示す神話」でしかないように上手く考えられているのだ。こういうところの物語がしっかり出来ているからこそ、ファンタジーであっても物語に現実性と奥行きが生まれ、面白く興味深い話になる。この台詞にある物語はそれを上手く示している。
そしてこれは「シュガが建国正史を読んでいる」という設定の元の台詞だが、そのシュガは物語のナレーター的な役割でもってあくまでも無感情にこれを読み上げるのが面白い。こうすることで視聴者はこの物語の小説を読んでいるような感触を味わうことになるだろう。
この物語を聞いて想像力を働かせる人も多いだろうなぁ。これが作り話だとしたらトルガルは何処からやって来たどんな人で、どういう風に国を興したのかと…私はトルガルというのは農村の大地主みたいな人だったと直感した。大聖導師ナナイはその大地主に取り入って国を興させた張本人で、8人の武人は大地主の下で働く農民…彼らが圧政に苦しむ民を見るに見かねて旧政府に戦いを挑み、勝ったというところが正しい歴史なのだろう。 |
名場面 |
トロガイ再登場 |
名場面度
★★★ |
本話はまず、トロガイと水の民との会話と、シュガによる新ヨゴ国の「建国正史」の朗読と2つのシーンで始まるが、これが終わると前話の戦いを終えて帰宅の途につくバルサへとシーンが切り替わる。前話での戦いを振り返りながら歩くバルサは、唐突に貴方の音を聞く。それは街道沿いの畑の一角から炭油が沸き立つ音であった。ところが見ているうちにその炭油が盛り上がり、その炭油の盛り上がりの中に2つの目が浮き上がるとそれが人である事が解る。その人が「バルサ…」と呟いて気を失おうとしたところで、バルサはそれがトロガイである事に気付いて走り、炭油からトロガイを救出する。
今話では前述した2つのシーンで、ここまでの数話と様相を異にする物語であることに視聴者は気付いているはずだ。それが決定的になるのはこのシーンであると言って良いだろう。バルサ一行とトロガイの合流は、新たな事実がバルサ一行と視聴者にもたらされることであり、ここまでずっと止まっていた物語の本筋の方がいよいよ再開するきっかけであることが明確になる。
だがその大事なシーンを、この物語ではただのトロガイが帰ってくるシーンで済ませることをしなかった。ここは冷静に考えると、戦いを終えて帰宅するバルサとトロガイが街道でバッタリ出会ったり、またはバルサが帰宅した後に突然トロガイが尋ねてきても全く不自然ではない。だが敢えてこのようなシーンに描いたのは、この物語の再開という重大局面をいかに視聴者の印象に残すかという面が大きいだろう。
もちろん、人が出てきそうもない炭油の中からトロガイが突然現れるだけで強印象だが、そのトロガイが自力で炭油から這い上がって「大変だったわい」とか語り出すのでなく、バルサに助けられて気を失うという事実でもって「トロガイが困難な旅をしていた」という印象が視聴者の中に強く残ることになり、これは彼女が長期間物語に出てこなかった説得力にもなろう。同時に、なんでトロガイがこんな所から現れたのかという謎解きの話を視聴者が期待し、見ているとその通りに話が進むから本話全体が気持ちいい1話として印象に残る仕掛けだ。
しかし、物語が進んでいくと、この炭油がトロガイを喰った魔物のウンコだったと解るとは…この謎解きが進んだ後でさらに印象に残るという二重構造になっているのも凄い。このシーンは高島礼子さん演じる実写のトロガイにはやって欲しくないなぁ。いくらそれが架空の魔物の物とは言え、ウンコまみれの高島礼子さんって想像したくない。 |
感想 |
いよいよ本筋が再開する。ここまで1話完結のサブストーリーばかりを数話続けてきたが、ここからはチャグムの体内にある水妖の卵の物語がまた再開すると言って良いだろう。そして物語は二元中継で、バルサがトロガイを救出したところで始まるバルサ側のストーリーと、シュガが古典を読みあさって真実にたどり着こうとする王室側の物語が並行する展開は、本筋が止まる9話以前と同じ構造だ。
バルサ側ではまずトロガイが「水の民」から話を聞くことで、早くも一つの真実にたどり着く。それはチャグムの中にある卵は害ではないが、放っておくと「卵食い」というやつに殺されてしまうという内容と考えて良いだろう。その卵食いから卵を守るために、チャグムがいた王宮というのは格好の場所だったのだが…という理解で私は考えている。
またこちらの展開では、トロガイの回想シーンも面白い。題して「トロガイの大ぼうけん」。火の民に追われて洞窟の中を彷徨い逃げ、地下水流に流されたりするのは何でも知っている老女らしくなくて良かったぞ。ウォータースライダー状態だったり、滝壺に飛び込んで助かるとか…ここだけは正直笑うしかなかった、ここは火の民と戦わせて欲しかったなー。
対してシュガはなかなか真実に行き当たらない。彼の中にあるのは「チャグムが無駄に殺された」と「チャグムは死んでいない」という双方の思いだ。いずれにしても彼の「真実を突き止める」という思いは今回もしつこく描かれている。だからこそ彼は地下室に閉じ込められる、その顛末については次回と。
しかし、前回のバルサは「カルボを斬った」はずだったのか…てっきりあれは解っててやったんだと思ったけどなー。でもカルボが廃人になってしまった事も、バルサは知ったんだろうなぁ。 |