第23話「シグ・サルアを追って」 |
名台詞 |
「分かったんだ。もし自分が死んだとしても、必ず何かを残せるから大丈夫だって。バルサにジグロの話を聞かせてもらってから、そう思えるようになったんだ。」
(チャグム) |
名台詞度
★★★★★ |
名台詞次点欄シーンの続きだが、バルサとの関係にハッキリ決着を付けようとしないタンダに、チャグムは「俺が(バルサの気持ちを)聞こうか?」と言い出す。これを聞いたタンダは「チャグムはどうしてそこまで思い切れるようになったのか?」と問い返す。そのチャグムの返答がこれだ。
「死」の確率が高いという自らの運命を知って一度は絶望したチャグムが、狩穴の越冬生活を通じてその運命に立ち向かう考え方をキチンと持つに至った大事な台詞だ。彼は「死」に向き合うことで、「何のために死ぬのか」「死んだら自分がどうなるのか」を彼なりに深く考え、その結果「自分が生きた証を残せれば良い」と考えるように至ったことで絶望から抜け出したのだ。そのためには自分の思いを親友に残して逝ったバルサの父や、その思いを全うしてバルサに生きる力を残して逝ったジグロの話はどうしても必要だったことはここまで来るとよく分かる。人は死ねば身体と魂はなくなるが、自分が持っていた思いは残すことが出来ることを理解し、それが生きた証として残ることが「永遠の生命」であることを彼は12歳にして知った深い台詞だ。
そしてチャグムがバルサとタンダの恋愛が成就するのを願っているのは、この二人が今くっつくとすればそれはやはり自分が生きた証として残せるものだと感じているからだ。もちろんそんなのはバルサもタンダも気付いていないかも知れない、だけどもしそうなれば二人は死ぬまで自分を忘れない→自分は死ぬわけではないという事にも気付いているのだ。
この台詞で「自分が死んだら何が残るのか」ってことを考えちゃったじゃないか、本当に深くて印象に残る台詞で、このり台詞は本作で1・2を争う名台詞だと私は思う。 |
(次点)「昔は夏の日差しみたいな燃える想いもあったけど、時が経つにつれ、秋の風みたいな穏やかな想いに変わってきたんだよ。だから、まだこのままでいいんだ。」(タンダ)
…前話名場面欄で、タンダにバルサに「3人で一緒に暮らそう」と申し出たが、チャグムはこの返事がどうなったのかをタンダに聞いてみる。するとタンダは「お互いにいろいろある」と誤魔化そうとするので、チャグムは「娶っちゃえばいいのに」とタンダに突きつける。そのタンダの返答がこれなのだが、歳を重ねてくるとこのタンダの気持ちはよく分かる。好きな人への想いというのは一気に燃え上がるときと静かにくすぶるときが交互にやってくる。今のタンダはくすぶりつつもその炎を燃やしている状態で、その彼の気持ちが上手く伝わってくる台詞でとても印象に残った。 |
名場面 |
シュガの命令 |
名場面度
★★ |
王室の狩人や兵隊達を連れて約束の地である「青池」を向かうシュガ、その途中の森で狩人達に「あの者達と利害は一致している」「チャグム皇子の想い」という理由で「短槍使いに件を交えてはならぬ」と命じる。これに狩人達は「分かりました」と了解すると、足早にその場を立ち去るのだが…。このシーンの印象的なのはここからだ。シュガが一人になったと思ったところで、後ろから「シュガ様」と声が飛んでくる。声の主は「指示通り選りすぐりの弓取り三名を帰りの参道に忍ばせました」と続ける。その台詞が終わってやっと、シュガの背後で忍びの者が跪いてこの報告をしていることが分かるように出来ている。シュガは振り返らずに「そうか」と答えると、忍びは「ですが、本当によろしいのですか?」と確認を取る。するとシュガは表情ひとつ崩さずに「仕方あるまい、帝の命だ」と答える。
うっわー、この男は何を考えているんだ!と叫び返したくなるシーンだ。つまりこのシーンから解る事は、チャグムが精霊の卵を無事に孵して事が済んだ後にシュガが主犯となって誰かを暗殺することに他ならない。その対象で考えられる人物は3人、チャグムかバルサかトロガイの誰かと言うことだ。つまり最後の最後で「どんでん返し」的な物語が生まれそうな伏線で、このやりとりにどんな展開が隠されているか気になってしまうパンチ力のあるシーンだ。
しかもこのシュガが誰かの暗殺を命じていることが分かるシーンでは、その直前まで狩人達にバルサとの先頭を禁じる命令を出しているのも怖い。「帝の命令」であれば極悪非道にもなれるこの男の「裏」を垣間見てしまったような、それとも仕事に忠実な真面目な男という面を強調したのか…いずれにしてもシュガに対する評価がガラリと変わりそうなシーンで驚いた。 |
感想 |
いよいよ精霊の卵が孵るにあたっての重大局面の物語が回り出す。その割には前半はずっと穏やかな物語が続いていたが…前話名場面欄シーンを引きずることで示唆されたのはやはり「バルサ達の今後」のことだ。ここでタンダだけではなく、バルサやチャグムもこの「3人での生活」を欲していることが痛いほど分かるように上手くつくってある。しかしトロガイって、ああ見えても子持ちだったというのは意外だったなぁ。そりゃともかく、名台詞はどうしてもどっちの台詞も紹介したかったのでこのような形にした。あのタンダの台詞もとても印象深いが、その後のチャグムの台詞は「物語の流れ」というのも上手く表現している点で逃すわけに行かない台詞だったからだ。
そして後半はいよいよ「約束の地」に到着、バルサらとシュガらが合流していよいよ「卵食い」との対峙が始まる。そして「卵食い」が現れてバルサだけでなく、シュガが連れてきた兵隊達も火炎放射器で応戦して、「盛り上がってまいりました!」ってところでガカイが「事実が違う」という事に気付いて話がひっくり返るまでが今話だ。何をどう間違っていて何が起きるのか、という大事な点は次回に持ち越しというもどかしい物語だ。
しかし、「卵食い」がなんかカニみたいな腕が出てきて「気持ち悪い」のでなく、「捕まえて喰ったらうまそう」に描いたのはどうかなーと思った。もっとグロテスクな凄いのが出てくると思って期待していたところなんだけどな、アレじゃどう見たって「かに道楽」の看板だ。
それと名台詞欄に書いた通り、チャグムがキチンと成長を見ているのは好感度な設定だ。やはり「死の恐怖」を乗り越えた人間というのは言うことが違う、そこを上手く再現したのは面白い。今話のチャグムはトロガイが言う通り、顔つきなども成長している。実車ドラマ版ではこういうのが無かったんだよなーって、子役にそこまで強いるのは無理か。
いよいよ次話が、チャグムに最大の危機が訪れる展開だと思う。残りあと3話、どんな展開になるか目が離せなくなってきたぞ。 |