第4話 「サムじいさんのおまじない」 |
名台詞 |
「ハックは僕が泣いていたのを見ていたはずだ。でもハックはそんなことはこれっぽっちも言わなかった。きっと僕に恥ずかしい思いをさせないために違いない。ハックは本当に良い奴だ。言わしてもらうけど、そのうち僕は大金持ちになって、でぇっかい家を買うんだ。そしてその家をハックと半分ずつにして、一緒に暮らすんだ。奴だってこの話にはきっと乗ってくれると思う。」
(トム) |
名台詞度
★★★ |
教会へ行ってトムはベッキーが自分のことなど覚えていなかった事を思い知る。それどころかベッキーにおかしな子呼ばわりされてしまい、さらにそのベッキーはトムとは気が合わないジェフと遊ぶ約束をしている。トムとベッキーの第一ラウンドはこうしてトムの大敗に終わった。トムは教会を立ち去って森で一人になると、ベッキーとジェフに対して強がっている妄想をするが…そのうちベッキーに忘れ去られていた悲しみを思い出して泣いてしまう…その一部始終をハックが見ていたのだが、ハックはトムに声を掛けるとトムを自分の寝床へ誘い出し、港へ行こうと誘ったり、夜にサムじいさんと会う約束があるから一緒に行こうと誘ったりする。森の中でトムが何をしていたかについて全く口に出さずに、だ。その件についてトムがナレーションするのがこの台詞だ。
もちろんこれは言うまでもなく、トムがどれだけハックを信用しているかを語る台詞である。実際に視聴者に「なんでハックは良い奴なのか」をキチンと見せつけた上でのこの台詞は、トムとハックの間にこういう事が過去に何度もあったことまで想像させてくれるから面白い。ハックは本当に「空気が読める」奴で、絶対に親友たるトムを傷つけたり恥をかかせたりすることはしない、それができる奴なのだ。恐らくハックが学校へも行かないホームレスなのに学校の子供たちに人気があるのは、トムだけにでなく他の子供たちにもそう接しているからだと考えられる。そんなハックの人望というのが見え隠れしているから面白い。
そしてトムはそんなハックの信者であり、ハックとなら何でも分け合っていいと考えている。ハックにはその気持ちは伝わっていて、これがハックがトムを一目置いて親友として付き合う理由になっているのだろう。この台詞からはこんな風に、何故この二人が親友同士なのかという点が見えてきて面白い。
そしてこの台詞にはもう一つの役割がある。実はこの台詞の後半は物風の行き先を暗示していると言うことがわかるのは、本作を最後まで見終えるとよく分かる話になってくる。家を買うかどうかは別にして、トムとハックが大金を手にしてこれを半分ずつ分けるというのがこの「トムソーヤーの冒険」の結末なのだ。もちろんこの段階では本作がそんな風に終わるとはつゆ知らず、この台詞の内容は本当に夢物語なのだが…そんな夢を一緒に見たいと思える親友がいるというのはとても良いことだと思う。 |
名場面 |
おまじない |
名場面度
★★★★ |
夜、トムはハックに連れられてサムじいさんの元を訪れ、怖い話やまじないの話を聞かされる。そしてトムが「願いが叶うまじない」を教えられ、深夜のベッドでこれを実行する(まじないのやり方は「今回の冒険」欄を参照)。もちろん隣のベッドではシッドが寝ていて、この物音に目を覚まし「お兄ちゃん!」と声を上げる。それでも一心不乱にまじないを続けるトムに「バカみたいなかっこうして寝ぼけてるの?」と問うが、トムはまじないをやめない。シッドは何度も声を掛けるがトムの様子は変わらず、ついに「そうだ、解ったぞ。お兄ちゃん、頭が変になってしまったんだね」と声を掛けるシッド。トムはシッドを一度は睨むが、やはりまじないはやめない。シッドは「そこでじっとしているんだよ」と声を掛けると、部屋から飛び出してポリーおばさんとメアリーを呼びに行ってしまう。さすがのトムもこれはまずいと感じ、窓から外に飛び出して今度は屋根の上でまじないを続ける。ポリーおばさんとメアリーが部屋に駆けつけ、屋根の上でまじないを続けるトムを見つける。目に涙を浮かべ「しまった」という表情をするトムだが、やはりまじないをやめない。「何をもだえているんだい? 苦しいのかい?」と声を掛けるポリーおばさん、「やっぱり頭がおかしくなった」と続けるシッド…やがて離れに住むジムまでが騒ぎを聞きつけて現れる。「何かあったんですか?」「トムの様子が少しおかしいんだよ」「だいぶおかしいよ!」「トム坊ちゃんがおかしいですって」「早くお医者さんに診せないと、治らなくなっちゃうよ」とジムとポリーおばさんとシッドが会話すると、ついにメアリーが「私お医者さんを連れてくるわ」と決断し、ポリーおばさんはジムに馬車の支度を命ずる。ここへ来てやっとトムは「やめてよ、お医者さんなんか…あっ!」と反応する。それを見てびっくりする一同をよそに、トムは「99回までできたのに…」と涙目で肩を落とす。「またお前の悪ふざけなのね」とポリーおばさんが叱り出すと、トムはガックリしたまま窓から部屋に入る。「どういうつもりだったのかちゃんと説明できるまでは寝かせませんからね」とのポリーおばさんの説教と、トムの「これから後のことは余り面白くない」というナレーションで、本話は幕を閉じる。
このシーンでは、出てくる5人のキャラクター(トム・シッド・ポリーおばさん・メアリー・ジム)の間がとてもよくできていて、テンポが良くて面白いシーンになっている。トムがベッドの上でおまじないをしているときは、視聴者はシッドが目を覚ますことを予測しているが、そのシッドが目を覚ますタイミングが適度に引っ張っていてとても絶妙なのだ。これに対しポリーおばさんとメアリーはシッドが呼びに行けば即座に出てくるのは話が間延びしなくて良いし、ジムは騒ぎが大きくなる頃を見計らって出てきて火に油を注ぐ形になる。そして台詞一つ一つも選ばれていて、特にシッドが「トムがおかしくなった」事を先導して台詞を吐き、一番最初に医者に診せる事を進言している点も面白い。でもポリーおばさんとシッドが「トムがおかしい」と言うと、ジムが「トムはいつもおかしい」と良いそうで怖かったのは「クレヨンしんちゃん」の見過ぎか?
そしてトムが耐えきれずに口答えしてしまうタイミングが、「おまじない」が完成する直前だったというオチは見事と言わざるを得ない。しかもシーンをあと一回頑張っていたら本当に医者を呼ばれてしまうという形に完成させたのは、脚本の勝利だなと今見ると本当に思う。こういう面白い話が「トムソーヤーの冒険」なのだ。 |
今話の
冒険 |
サムじいさんから「願いが叶うおまじない」を聞かされて、トムは善は急げとこれを早速実行する。そのまじないとは、深夜になるべく人がいない場所で、月に背を向けて頭を下げながら願いを100回唱えるというもの。これを実行している間、他の誰とも話をしてはならないという条件付きだ。トムは深夜に自室のベッドで「ベッキーと友達になれますように」という願いでこのまじないを実行するが…結果は名場面欄の通り。 |
ミッション達成度
★ |
感想 |
前話の「一目ぼれ」を受けての話だ。トムはベッキーの家の前で芸を見せ、これで花を一輪もらった事で気分は最高潮だったことだろう。最高潮と言うことは落ちるしかないわけで、今話ではまずトムの気持ちを徹底的に落とす。
ベッキーの前話の名台詞を見れば解るが、ベッキーは自分を楽しませたのが誰だったのか知らないし、顔すらも見ていないのが実状だ。そんなことは知らずに最高潮のトムは自ら進んで教会の日曜日の礼拝に行こうと言いだし、意気揚々と教会に乗り込む…この落とされる前の最高潮を丁寧に描くところが「世界名作劇場」シリーズの良いところだ。そしてベッキーが自分のことを覚えていないことを思い知らされた上、おかしい奴呼ばわれされて、しかも嫌な奴と遊ぶ約束までしちゃえば「どん底まで落ちた」ことは説明するまでもないだろう。特にベッキーがよりによってジェフと遊ぶ約束をしたのは、トムにとっては絶望的だったはずだ。知り合ったばかりで気になる自分のタイプの異性が、自分が嫌いな奴と楽しそうに歓談しているのを見たときの気持ちを想像していただけば、この時のトムの気持ちは良く理解できるはずだ。
ここまで徹底的に落とすからこそ、名台詞がとても活きるし、そこから「おまじない」の話へ上手く流れていったと感心する。気持ちが沈んでいて引き揚げる術がない状況のトムは藁にもすがりたい気持ちだったはずで、「おまじない」に傾倒するのは説得力のある話だ。これがもしベッキーがトムのことをキチンと覚えていて、ここから会話が弾んだりした後だったらこの「おまじない」はトムにとって用なしになっていたはずだ。そして名場面欄シーンではトムが真剣にこの「おまじない」をするからとても面白い。だからオチが面白いし、本話が終わった後にトムがポリーおばさんに何と説明したかを想像するのもこれまて面白い。
そしてここまで落ちたのだから、今度はまた浮上するのも次回予告で解る。先に明るい要素が見えなかったトムとベッキーの物語がどう展開するのか、気になる次回予告じゃないか…。 |