前ページ「トムソーヤーの冒険」トップへ次ページ

第1話 「トムとハックとブタ騒動」
名台詞 「ハックは一人でブタを捕まえられるはずが、僕はハックに力を貸してあげられなかったこと、すごく悔しかった。」
(トム)
名台詞度
★★★
 鉄郎キターーーーーーーーーーーーーーッ!
 そうそう「世界名作劇場」版のトムソーヤーの声は鉄郎でおなじみの野沢雅子さん。私にとってこの人の声は1に星野鉄郎、2にトムソーヤー、3に「ど根性ガエル」のひろしだ。私は「ドラゴンボール」のアニメはほとんど見たことはないので、悟空の印象はあまりない人なんですよ−。それはともかく。
 本作最初の冒険である「ハックとブタを捕まえる」という冒険は、なんと学校の授業中だ。授業そっちのけでドビンズ先生の似顔絵を描いた罰に立たされたトムをハックが誘い出したことで、トムはまんまと学校から逃亡を図る。そしてハックと罠を仕掛けてブタを捕まえたが…罠に掛かったブタとハックがロープに絡まっているのを助けようとしたところで、ドビンズ先生が現れてトムは学校へ連行されてしまう。ブタと共に置き去りにされたハックはブタに引きずられてさんざんな目に遭い、一方のトムはドビンズ先生の鞭を受けた。そのドビンズ先生の鞭を受けながらのトムの心の中の台詞がこれだ。
 これは台詞の内容ではなく、鞭の痛みに耐えながらの台詞を上手く演じてくれた野沢雅子さんの演技に感動したというが率直なところだ。もう痛いのが先で意味も繋がっていないし、言葉としてもおかしいところがある。それが「痛み」の演技であって、理路整然と物事を考えることができないほどの痛みというのを上手く再現していると思う。この「痛み」を上手く演じるからこそ、今後の展開でトムだけでなく他の子供たちもドビンズ先生の鞭に恐怖していることに説得力が生まれるし、それによって物語が面白くなってゆく。
 またこの台詞のシーンは、これからしつこいほど出てくるドビンズ先生の鞭による体罰の最初のものだ。
名場面 パイロットルーム 名場面度
★★★★
 学校の仲間たちの協力もあって、トムとハックはブタを港に連れてくる。ところがブタは逃亡を図り、何と蒸気船に乗り込んでしまう。ブタを追って船に乗り込んだトムとハックだが、ハックがブタが逃げ込んだ船室へ入っている間、トムは蒸気船の甲板に上がる。そこで当たりを見渡すと「パイロットルームだ」と声を上げ、まるで引き込まれるかのようにさらに上の甲板へ走る。そしてぱいろっとるーむに忍び込み、ブタのことなど忘れてそこにある舵輪や羅針盤に見入ってしまう。下の船室ではハックがブタを追って大騒ぎしているというのに。
 この第1話で私が個人的に最も好きなシーンであり、かつトムに親近感が最も湧いたシーンはここだ。何でもないシーンだが、子供の時に本話を見たときからこの事実は揺るがない。何が言いたいかというと、やはりトムも男の子として「乗り物が好き」なのであって、その「乗り物が好き」という点で私と同じ男の子だと感じたのがここだったのだ。
 たぶん私がトムとしてこの物語の中に入っていたら、やはりトムと同じことをしたと思う。興味を強く持つ物体でかつ憧れている物が目の前にあって、これを通過して行くなどどうしてもできないはずだ。だからトムは一時的に「自分はハックと共に豚を追っかけてきた」ことは忘れていると、同じ男の子の自分だからよくわかる。蒸気船のパイロットルームが手に届くところに来た時点で、ブタどころではなくなったのだ。
 もちろん、それはほんの一時の話で、トムはすぐに我に返ってブタを追うハックを探しに戻る。でもそのときに後ろ髪を引かれるような思いだったことも、同じ男の子の私はよーくわかる。このシーンは乗り物好きの男の子でなければ、逆になんで挿入されたのか全く意味不明なシーンだとも思う。
 ちなみにパイロットルームというけど、ここは私としては「船橋」と書きたかったところだ。だがここは物語に合わせねばのう。
今話の
冒険
 今話ではハックが「野生のブタ」を発見する…元々何処かで飼われていたものが逃げ出したものらしいが。そのブタを捕獲し、高く売り飛ばすことが今回の冒険だ。ブタを捕まえたらトムが先生に捕まり、捕まえたブタを売り飛ばそうと港へ連れて行ったら逃げ出して大騒ぎ。結局ブタは取り上げられ、1セントにもならなかった。 ミッション達成度
感想  このたび、突然ながら「トムソーヤーの冒険」の考察を始めることにした。何故突然始めたかというと、今年(2019年)の4月から10月に掛けて放映されたNHK朝の連続テレビ小説「なつぞら」を見ていたら、急に世界名作劇場の考察をしたくなったからである。「なつぞら」の終盤展開は、アニメーターの主人公らが「世界名作劇場」シリーズのようなアニメに挑戦する展開で、劇中で登場人物らが製作して放映されたアニメがどう見ても「世界名作劇場」だったからだ。
 そんな感じで突然の考察開始だ。ちなみに今回の考察のために見る「トムソーヤーの冒険」は、昨年1月から東京MXテレビで再放送されたものを録画しておいたものだ。だからデジタルリマスターされて画面の縦横比が本放送当時と違う物を見ていることをお断りしておく。
 事前説明が長くなったが、この第1話は何の前提説明もなくいきなり始まるのが驚きだ。登場人物紹介も何もなく、前から番組が続いているようなノリで淡々と物語が進んでいって、見ていて新番組だと言うことを忘れてしまうほどのものだ。だから朝のシーンでポリーおばさんとトムの関係が解らない、シッドがトムの弟だと解らない、とんでもない始まり方だ。
 その中でも冒頭シーンは、ミシシッピ川の風情や、その流域に広がる物語の舞台であるセント・ピーターズバーグの様子などが、とても印象的に描かれている。ミシシッピ川を流れてくる筏の様子なんか、とても美しいよなぁ。
 そして第1話くらいはトムの日常をゆっくり描くかと思ったら、ハックがトムを豚の捕獲に誘うことで冒険物語となる。この内容もとても面白く、ハックがブタに引きずられるシーンなんかとても迫力もあって見ていて圧倒される。本当にいろんな意味で今後を期待させる1話で、とても印象的だった。

第2話 「ごきげんなペンキ塗り」
名台詞 「僕たちの村、セント・ピーターズバーグにすごく可愛い女の子が引っ越してきたんだ。僕…もう…ひと…ひと…一目ぼれしちゃうんだから。『トムソーヤーの冒険』第3話、『トム一目ぼれをする』、見てね。」
(トムの次回予告ナレーション)
名台詞度
★★★★
 まさか第2話で、いきなり名台詞が次回予告とは…この考察はどうなっちゃうんだ?
 いや、もうこの野沢雅子さんのデレデレした男子の演技サイコー。
名場面 ペンキ塗りが終わって 名場面度
★★★
 ペンキ塗りが終わって塀は真っ白になった。その様子を見たポリーおばさんは、トムがベンと組んで友人たちを手伝わせて楽をしたことなど知らず、トムを徹底的に褒める。そしてトムにキスをして口の周りがペンキだらけになるほどだ。その裏で、トムはベンにボールを投げ渡す。これはベンが前日に紛失し、それをハックが拾ってトムに譲渡したもので、ベンが自宅の雑貨屋の売り物を勝手に持ってきた物だから探し回っていた物だ。ベンはこれをエサにトムにペンキ塗りを手伝わされていたのだが…ベンはボールをなでてからトムを見つめ、トムはこれに片目をつぶって応える。そしてホッとした表情で、ベンはその場を立ち去る。
 これはベンが「トムは良い奴だ」と再認識したシーンであることは確かだ。確かにベンがトムを手伝ったのは、それがハックが拾ってトムに譲渡されたものとはいえ、家に持ち帰らねばならない大事なボールと引き替えだったからであり、その約束が果たされたに過ぎない。だが今回はそれだけの話ではない、トムがペンキ塗りを楽にやろうとそこを通る友人たちをおだてたり騙したりしていたが、それによって得られる「楽な思い」を独り占めするのでなく、最初に手伝った自分にも味合わせてくれたのだ。同時にベンにとって、トムが友人たちをおだてたり騙したりする過程がとても面白かったのだろう、彼にとって楽しい1日だったのは確かで、ボールが帰ってきた以上のものをトムからもらったと彼は感じたに違いないことを上手く描いているのだ。
 だがベンはこの後、雑貨屋である家に帰宅してボールを売り場に戻すと、その場に倒れ込んでしまう。それを見て心配する父に「腹減った」と叫ぶオチを演じてくれる。楽しい1日だったけど疲れたということ、ペンキ塗りはやっぱり大変な仕事だったということも、彼は演じてくれたのだ。
今話の
冒険
 今話ではトムは言うことを聞かなかった罰として、ポリーおばさんから家の塀のペンキ塗りを命じられる。「今日中に全部できなければ家に入れない」ととても厳しい。そのペンキ塗りにペンを引き込んだことから、そこを通る友人たちに少しずつ手伝わせて自分たちは楽をしようというのが今回の冒険。この企みは成功し塀のペンキ塗りは楽に終わることができたが…ベンは帰宅後、腹を空かせて大泣きした。 ミッション達成度
★★★
感想  今話はサブタイトルにある「ペンキ塗り」になかなか話が行かないから、一時はどうなるかと思った。確かに前半でポリーおばさんが「トムにペンキ塗りをやらせる」とジムに語るシーンがあるが、そこからトムがペンキを塗り始めるまでが長い長い。物語はサブタイトルにあるはずの「ペンキ塗り」のことなど忘れて、トムたちに草野球までさせてしまう始末だし…でもそれも「ペンキ塗り」の伏線だったとは、ペンキを塗り始めてハックがボールを出したところでやっと視聴者が気付くという回りくどいが面白い展開だ。
 そして予想通りにボールをエサにペンキ塗りに引き込まれるベン、そしてジョーを発端に次々にペンキ塗りを手伝わされる友人たち…この展開は「冒険」とはちょっと違うが、別の意味で「トムソーヤー」らしいと感じた。仕事をサボり自分が楽をすることだけを考えるが、そのやり方が人に恨まれない程度の絶妙さで他人に悪意を感じさせないのだからすごい。
 しかし前半、ベンの大ホームランでボールを紛失するわけだが、彼らはそのボールを5時間探したとある。5時間探してもボールを見つけられないというのは、よほどわかりにくいところに行ってしまったという意味ではないと思う。彼らが草野球に興じていたのは学校の昼休みと考えられるし、ボールを探したのは下校時刻後だから1〜2時間程度間があったと考えるべきで、その間にハックがボールを見つけて持ち去ったのが正解なのだろう。皆はもうそこにはないボールを5時間も探したのだ、かわいそうに。

第3話 「トム一目ぼれをする」
名台詞 「ここに来てすぐお友達ができるなんて良い事ね。だけど、何処の人かしら? あら、そういえば私、顔もよく見えなかったわ。」
(ベッキー)
名台詞度
★★★
 村にセントルイスから判事の一家が引っ越してきた。この一家の娘であるレベッカ(ベッキー)に恋をしたトムは、早速ベッキーの家を探し当てて彼女の気を引こうとする。ベッキーの家の生け垣のところで帽子を使った芸をしたり、家の向かいにある木に登って目立とうと必死なトムを、ベッキーは植木に水をやったりして気にしないふりをしながらもしっかり見ていた。そしてその面白さに感心し、ベッキーは植木の花を一輪外へ投げる。これを喜んで拾うトムをよそに、窓の陰に隠れたベッキーが語った独り言がこれだ。
 この台詞の前半を聞いている限り、トムの今回の野望は達成したと言って良いだろう。何とかして少しでもベッキーの気を引き、彼女の印象に残ることができた…つまりトムの想いの欠片程度のものはベッキーに伝わったのだ。
 だがこの台詞の後半は、そんなトムに対して辛い現実である。ベッキーは自分は楽しませてくれたこの少年が、何処の誰かを知っているわけがないのだ。引っ越した来たばかりで住んでいる人のことなど解らないし、トムが芸を見せていたのが広い庭を挟んだ生け垣のところだから顔が見えるはずもない。恐らくベッキーの視線ではその少年の年頃もよく解らなかっただろう。だからベッキーはこの自分を楽しませてくれた「友達」が、何処の誰か解らないのだ。
 もちろんこの台詞はこれ単体では余り印象に残らない。この台詞を思い出して印象に残るのは恐らく次回予告を見たときであろう。次回予告では次話の展開として、ベッキーがトムのことを知らないことが明確に示唆されているのだ。それを見て「そういやベッキーがそんなことを言っていたな」と思い出すことで、記憶に残る台詞なのだ。
名場面 トムの一目ぼれ 名場面度
★★★
 ある日の午後、セントルイスに長期滞在していたポリーおばさんの娘メアリーが帰ってくると言うので、港へ定期船を出迎えに行った。一行は無事到着したメアリーを出迎え、久々の会話となる。トムが「早く帰ろう、家でゆっくり話せば良い」と語り出したそのとき、トムの背後を一人の少女が通過して行く。「まぁ、いいところね」と語るその少女の声に反応して振り返る。そしてその少女の顔を見て電撃を受けたようなショックを受けるのだ。そして「お父さんが田舎だと脅かすからよ、家が一軒もないかと思って心配しちゃったわ」と続ける少女の姿をまじまじと見つめてしまう。そしてそのままトムはまずぼーっとしてしまい、ポリーおばさんら一行が家へ向かって歩き出したのに気付かない。ポリーおばさんの声に生返事で応えるが、トムの視線は馬車に乗ってその場から去ろうとしている少女に釘付けだ。そして馬車に乗って少女が行ってしまうと、「決めた、僕はあの子に決めたぞ」と呟いて結婚式場の妄想シーンとなるが、シッドの声に呼び戻されてしまう。
 これは現実的な一目ぼれと比較するとかなりオーバーだと言わざるを得ないが、アニメ等の物語として描くならこのくらい盛大にやった方が分かり易く、かつ効果的という典型的なシーンだと思う。これくらい盛大に一目ぼれを演じてくれるからこそ、ここからトムがベッキーの気を引くためにいろんな事をすることに説得力が出るし、何よりも今後の物語でトムとベッキーが接近して喧嘩も含めて様々な物語を紡いで行く起点として相応しいものと言えてくる。
 もちろんベッキーは、ここで村の少年に一方的に惚れられているなんて想像もしていないだろう。トムはトム、ベッキーはベッキーで無関係に行動するからこそ、ここは「一目ぼれ」として成り立っているし見ていて不自然さがないのが良い。これでベッキーがトムの視線に気付いたりしたら、白けてしまうところだ。
 しかしこのシーン、BGMは途中まで一切なしなのもこれまた良い。またトムがベッキーを初めて見た瞬間の効果音は、「ショックを受けた音」として効果的だ。これも本作の音楽担当の服部克久先生によるものだろうか? ベッキーが馬車で行ってしまうあたりから、トムの脳内音楽として結婚行進曲が流れるが、これがシッドの呼び声と同時に回転数が落ちる形でしぼんでいくのも、彼の気持ちを上手く示していて面白い。
今話の
冒険
 セントルイスから引っ越して来た判事一家の娘に一目ぼれしたトムは、その家を探し当てる。引っ越してきた一家がトムととは気が合わないジェフの親類と聞いて一時は気分が悪くなるが、それでもトムはこの女の子の気を引こうと色々と芸を見せてみるのが今回の冒険だ。結果、女の子は窓から花を投げてよこしてくれた…今回の密植は大成功だ! ミッション達成度
★★★★
感想  いよいよ本作のヒロインとも言えるベッキーの登場である。だが本作はまだ主要登場人物が全員揃っていないというまったり加減だ。そしてサブタイトル通りではあるが、ベッキーの登場はイコールでトムが「一目ぼれ」を演じることになる。実は私、「一目ぼれ」というのは経験したことがないのでよく分からないが、本当に外見を見た瞬間にああなったしまうのかなぁ? 芸能人の男女交際や結婚の話題においても「一目ぼれ」の例はいくつかあって、「出会った瞬間ビビビッとしました」なんて言うのもあるけれど…そりゃ私も好みのタイプの女性を見れば「おおっ」と思いますよ、でも即座に恋愛感情を抱くかと言えば、そうではないと思う。
 なんか余計なことを書いた。しかし、本話はそんな「一目ぼれ」とは無関係そうなシーンから始まるのがこれまた面白い。1にトムが学校の仲間たちとチャンバラしているシーンで始まり、2にトムがチャンバラに夢中になって大事な用事を忘れている流れになる本作の「おやくそく」だ。だがそこから話が港へと繋がると、通りすがりの「たった今引っ越してきた一家」という存在へと話が繋がるのだ。運命的な出会いというのはこういう偶然から始まるのかも知れない。
 だが本作に限らずこういう物語では、男子が惚れた女子について、男子にとって大きな障害が生じるのも「おやくそく」だ。本作でも早速ベッキーがトムと気が合わないジェフの親類であることが明確になっているし、ラストではベッキーの飼い犬のシーザーがトムを怪しむシーンが上手く演じられている。トムよ、ベッキーの花のお礼をしたいのは解るが、真夜中に行くなよ…。
 個人的には、名台詞欄シーンを受けてトムがベッキーから花をもらって喜んでいるシーンが他人事とは思えない。正直これ、数年前のバレンタインデーに当時気になっていた女性からチョコレートをもらえた私と全く同じだからだ。だから今回、ちょっと本話を見る目が変わったのは正直なところだ。

第4話 「サムじいさんのおまじない」
名台詞 「ハックは僕が泣いていたのを見ていたはずだ。でもハックはそんなことはこれっぽっちも言わなかった。きっと僕に恥ずかしい思いをさせないために違いない。ハックは本当に良い奴だ。言わしてもらうけど、そのうち僕は大金持ちになって、でぇっかい家を買うんだ。そしてその家をハックと半分ずつにして、一緒に暮らすんだ。奴だってこの話にはきっと乗ってくれると思う。」
(トム)
名台詞度
★★★
 教会へ行ってトムはベッキーが自分のことなど覚えていなかった事を思い知る。それどころかベッキーにおかしな子呼ばわりされてしまい、さらにそのベッキーはトムとは気が合わないジェフと遊ぶ約束をしている。トムとベッキーの第一ラウンドはこうしてトムの大敗に終わった。トムは教会を立ち去って森で一人になると、ベッキーとジェフに対して強がっている妄想をするが…そのうちベッキーに忘れ去られていた悲しみを思い出して泣いてしまう…その一部始終をハックが見ていたのだが、ハックはトムに声を掛けるとトムを自分の寝床へ誘い出し、港へ行こうと誘ったり、夜にサムじいさんと会う約束があるから一緒に行こうと誘ったりする。森の中でトムが何をしていたかについて全く口に出さずに、だ。その件についてトムがナレーションするのがこの台詞だ。
 もちろんこれは言うまでもなく、トムがどれだけハックを信用しているかを語る台詞である。実際に視聴者に「なんでハックは良い奴なのか」をキチンと見せつけた上でのこの台詞は、トムとハックの間にこういう事が過去に何度もあったことまで想像させてくれるから面白い。ハックは本当に「空気が読める」奴で、絶対に親友たるトムを傷つけたり恥をかかせたりすることはしない、それができる奴なのだ。恐らくハックが学校へも行かないホームレスなのに学校の子供たちに人気があるのは、トムだけにでなく他の子供たちにもそう接しているからだと考えられる。そんなハックの人望というのが見え隠れしているから面白い。
 そしてトムはそんなハックの信者であり、ハックとなら何でも分け合っていいと考えている。ハックにはその気持ちは伝わっていて、これがハックがトムを一目置いて親友として付き合う理由になっているのだろう。この台詞からはこんな風に、何故この二人が親友同士なのかという点が見えてきて面白い。
 そしてこの台詞にはもう一つの役割がある。実はこの台詞の後半は物風の行き先を暗示していると言うことがわかるのは、本作を最後まで見終えるとよく分かる話になってくる。家を買うかどうかは別にして、トムとハックが大金を手にしてこれを半分ずつ分けるというのがこの「トムソーヤーの冒険」の結末なのだ。もちろんこの段階では本作がそんな風に終わるとはつゆ知らず、この台詞の内容は本当に夢物語なのだが…そんな夢を一緒に見たいと思える親友がいるというのはとても良いことだと思う。
名場面 おまじない 名場面度
★★★★
 夜、トムはハックに連れられてサムじいさんの元を訪れ、怖い話やまじないの話を聞かされる。そしてトムが「願いが叶うまじない」を教えられ、深夜のベッドでこれを実行する(まじないのやり方は「今回の冒険」欄を参照)。もちろん隣のベッドではシッドが寝ていて、この物音に目を覚まし「お兄ちゃん!」と声を上げる。それでも一心不乱にまじないを続けるトムに「バカみたいなかっこうして寝ぼけてるの?」と問うが、トムはまじないをやめない。シッドは何度も声を掛けるがトムの様子は変わらず、ついに「そうだ、解ったぞ。お兄ちゃん、頭が変になってしまったんだね」と声を掛けるシッド。トムはシッドを一度は睨むが、やはりまじないはやめない。シッドは「そこでじっとしているんだよ」と声を掛けると、部屋から飛び出してポリーおばさんとメアリーを呼びに行ってしまう。さすがのトムもこれはまずいと感じ、窓から外に飛び出して今度は屋根の上でまじないを続ける。ポリーおばさんとメアリーが部屋に駆けつけ、屋根の上でまじないを続けるトムを見つける。目に涙を浮かべ「しまった」という表情をするトムだが、やはりまじないをやめない。「何をもだえているんだい? 苦しいのかい?」と声を掛けるポリーおばさん、「やっぱり頭がおかしくなった」と続けるシッド…やがて離れに住むジムまでが騒ぎを聞きつけて現れる。「何かあったんですか?」「トムの様子が少しおかしいんだよ」「だいぶおかしいよ!」「トム坊ちゃんがおかしいですって」「早くお医者さんに診せないと、治らなくなっちゃうよ」とジムとポリーおばさんとシッドが会話すると、ついにメアリーが「私お医者さんを連れてくるわ」と決断し、ポリーおばさんはジムに馬車の支度を命ずる。ここへ来てやっとトムは「やめてよ、お医者さんなんか…あっ!」と反応する。それを見てびっくりする一同をよそに、トムは「99回までできたのに…」と涙目で肩を落とす。「またお前の悪ふざけなのね」とポリーおばさんが叱り出すと、トムはガックリしたまま窓から部屋に入る。「どういうつもりだったのかちゃんと説明できるまでは寝かせませんからね」とのポリーおばさんの説教と、トムの「これから後のことは余り面白くない」というナレーションで、本話は幕を閉じる。
 このシーンでは、出てくる5人のキャラクター(トム・シッド・ポリーおばさん・メアリー・ジム)の間がとてもよくできていて、テンポが良くて面白いシーンになっている。トムがベッドの上でおまじないをしているときは、視聴者はシッドが目を覚ますことを予測しているが、そのシッドが目を覚ますタイミングが適度に引っ張っていてとても絶妙なのだ。これに対しポリーおばさんとメアリーはシッドが呼びに行けば即座に出てくるのは話が間延びしなくて良いし、ジムは騒ぎが大きくなる頃を見計らって出てきて火に油を注ぐ形になる。そして台詞一つ一つも選ばれていて、特にシッドが「トムがおかしくなった」事を先導して台詞を吐き、一番最初に医者に診せる事を進言している点も面白い。でもポリーおばさんとシッドが「トムがおかしい」と言うと、ジムが「トムはいつもおかしい」と良いそうで怖かったのは「クレヨンしんちゃん」の見過ぎか?
 そしてトムが耐えきれずに口答えしてしまうタイミングが、「おまじない」が完成する直前だったというオチは見事と言わざるを得ない。しかもシーンをあと一回頑張っていたら本当に医者を呼ばれてしまうという形に完成させたのは、脚本の勝利だなと今見ると本当に思う。こういう面白い話が「トムソーヤーの冒険」なのだ。
今話の
冒険
 サムじいさんから「願いが叶うおまじない」を聞かされて、トムは善は急げとこれを早速実行する。そのまじないとは、深夜になるべく人がいない場所で、月に背を向けて頭を下げながら願いを100回唱えるというもの。これを実行している間、他の誰とも話をしてはならないという条件付きだ。トムは深夜に自室のベッドで「ベッキーと友達になれますように」という願いでこのまじないを実行するが…結果は名場面欄の通り。 ミッション達成度
感想  前話の「一目ぼれ」を受けての話だ。トムはベッキーの家の前で芸を見せ、これで花を一輪もらった事で気分は最高潮だったことだろう。最高潮と言うことは落ちるしかないわけで、今話ではまずトムの気持ちを徹底的に落とす。
 ベッキーの前話の名台詞を見れば解るが、ベッキーは自分を楽しませたのが誰だったのか知らないし、顔すらも見ていないのが実状だ。そんなことは知らずに最高潮のトムは自ら進んで教会の日曜日の礼拝に行こうと言いだし、意気揚々と教会に乗り込む…この落とされる前の最高潮を丁寧に描くところが「世界名作劇場」シリーズの良いところだ。そしてベッキーが自分のことを覚えていないことを思い知らされた上、おかしい奴呼ばわれされて、しかも嫌な奴と遊ぶ約束までしちゃえば「どん底まで落ちた」ことは説明するまでもないだろう。特にベッキーがよりによってジェフと遊ぶ約束をしたのは、トムにとっては絶望的だったはずだ。知り合ったばかりで気になる自分のタイプの異性が、自分が嫌いな奴と楽しそうに歓談しているのを見たときの気持ちを想像していただけば、この時のトムの気持ちは良く理解できるはずだ。
 ここまで徹底的に落とすからこそ、名台詞がとても活きるし、そこから「おまじない」の話へ上手く流れていったと感心する。気持ちが沈んでいて引き揚げる術がない状況のトムは藁にもすがりたい気持ちだったはずで、「おまじない」に傾倒するのは説得力のある話だ。これがもしベッキーがトムのことをキチンと覚えていて、ここから会話が弾んだりした後だったらこの「おまじない」はトムにとって用なしになっていたはずだ。そして名場面欄シーンではトムが真剣にこの「おまじない」をするからとても面白い。だからオチが面白いし、本話が終わった後にトムがポリーおばさんに何と説明したかを想像するのもこれまて面白い。
 そしてここまで落ちたのだから、今度はまた浮上するのも次回予告で解る。先に明るい要素が見えなかったトムとベッキーの物語がどう展開するのか、気になる次回予告じゃないか…。

第5話 「恋は異なもの味なもの」
名台詞 「あれぇ? 今日はなんていう日なんだ? 僕が決めた子が鞭と一緒にやってくるなんて。」
(トム)
名台詞度
★★
 月曜日の朝、トムは学校へ行く気が起きない。よりによってそんな日の通学路にハックがいるから、トムはハックと遊んでしまい学校に遅刻する。ドビンズ先生から鞭打ちの罰を食らい「やっぱり今日はついてない」「昨日の晩、おまじないに失敗したのがケチのつき始め」と思う。ところがドビンズ先生の罰は鞭打ちだけでなかった、最前列の教壇の前の席に席替えを命じられるのである。「当分の間、君の席はここだ」とドビンズ先生が鞭で指した席の隣には…なんとこの日転入した来たばかりのベッキーが座っていたのだ。予想外の出来事にトムは表情を崩し「ベッキー…」と呟く。その後席替えのため荷物を移動している間に、トムがナレーションする台詞がこれだ。
 ついてないと思っていた日が、最高の「ついている」日に変わった瞬間の気持ちを上手く表現している。トムにとってはベッキーが学校で同じクラスにいることすら想定外だったはずなのに、そのベッキーと学校でクラスが一緒の上、席が隣同士という幸運を掴んだのだ。朝から仮病がバレたり、ポリーおばさんによって歯を抜かされたり、遅刻して鞭打ち(遅刻は自業自得だが)とさんざんなスタートだった一週間だと思っていたのが、瞬時に最高の日の幕開けに変わったのである。そんな気持ちをよく表現している、「僕が決めた子が鞭と一緒にやってきた」とは本当に上手い表現だ。
 そして、このあともトムはついているのである。自習時間にはベッキーが引っ越してきた日の隠し芸を思い出させることに成功し、昼休みはベッキーと二人でランチタイムを過ごした上、放課後には家へ遊びに行くことにまでなるのだ。うらやましい、自分にもこういう成功談が欲しいなと、見ていて思ったのは最も最近の再放送においてだ。
名場面 トム、歯を抜かれる 名場面度
★★★★
 本話の冒頭は、トムにとって(って別にトムに限った話ではないが)憂鬱な月曜日の朝が描かれる。トムは胸を押さえて苦しみ、ポリーおばさんやシッドに「苦しい…何もしなくて良いからそばにいてくれ」とするが、ポリーおばさんはあっけなくこれを仮病と見抜く。「さあ、起きなさい」と叫ぶポリーおばさんに、トムは「胸の痛みはなくなったけど、夕べから歯が痛い」と訴え、口を開いてぐらついている歯を見せる。これを見たポリーおばさんはメアリーには絹糸を、シッドには炭火をそれぞれ持ってくるように命ずる。これにトムだけでなく視聴者も「?」となるところだ。「どうするの? おばさん」「その歯を抜くんだよ」と会話が進むと、トムは「歯を抜かないでくれ」と懇願する。そこでつい口が滑って「もう学校へ行きたくないなんて言わない」と言ってしまい、トムが胸が苦しいと言った意図が完全にバレる。糸と炭火が来るに及んでもトムの懇願は続くが、ポリーおばさんは歯を抜く準備を進めながら「悪い歯はさっさと抜いた方が良い」「男らしく観念をし」と譲らない。ポリーおばさんはトムのぐらついている歯とベッドを糸で結び、トムの顔前に炭火を近づける。トムが逃げると歯に結ばれた糸が張り、トムの歯が抜ける。トムは「どうだい? 痛かったかい?」と問うポリーおばさんには返事せず、「朝からついてないや」と呟く。
 このシーン、私が9歳の小学3年生の時に本放送で見たことをハッキリ覚えているシーンの一つだ。というか当時の視聴では最も印象に残ったシーンであると言っても過言ではない。私も当時、乳歯が永久歯に生え替わっていた頃でこのシーンのトムが全く他人事ではなかったし、またポリーおばさんが「歯を抜く」と言ったときにどんなやり方をするか興味津々だった。「糸と炭火?」という展開に驚いたのも覚えている、糸は何となく解るが何で火が必要なんだろう?と。見ていたら糸の方は予想通りの使い方をされたが、これだけでは歯は抜けないよ…と思っていたら、ポリーおばさんがトムの顔に炭火を近づけるもんな…あの炭火が熱そうで怖いこと。あの熱そうな炭火が画面に大写しにされた時、自分までトムと一緒になって逃げたのは覚えている。ただし、自分の歯には糸が結ばれていなかったので何も起きなかったが。
 40年近く経ってもそれを初めて見たときのことをハッキリと覚えているシーンなんだから、ここに描かれた炭火の威力はすごいと思う。この炭火を描いた人はどうやったら子供が怖がる迫力が出るか、ずいぶん考えて描いたんだろうなぁと、感心せずにはいられないシーンだ。
今話の
冒険
 今話から2話またいでの冒険は、ハックの新しい家を作ることだ。ハックはミシシッピ川が見下ろせる見晴らしの良い木を見つけ、その木の上に「別荘」を建てると決意したのだ。トムもこの話に乗り、学校が終わったら手伝うとハックと約束するが…ベッキーの家へ遊びに行くことになってしまい、トムはその約束を忘れてしまう。ハックが何かブツブツ言いながら一人で家造りに勤しんでいるシーンは見ていて面白い。 ミッション達成度
感想  本話はトムとベッキーが急接近する大事な回だが…いかん、私にとってやっぱりあの名場面欄シーンのインパクトが大きすぎて印象に残らない回になっている。だって何度か再放送も見ていて物語の筋は知っているはずなのに、トムとベッキーが接近する「きっかけ」=ドビンズ先生からの罰として最前列に席替えをさせられたら、隣の席はベッキーだった…はいつも覚えていないのだ。
 それだけではない、ハックが木の上に家を作るきっかけも今回で、それもいつも覚えていない。そうそう、ハックは最初は木の上に別荘を作るつもりだったんだ…と再放送を見て再確認して、やっぱり忘れる。この回が終わって覚えているのは、いつもトムの歯が抜かれるシーンだけ。他の内容も見直すととても印象的なのだが、歯が抜かれるシーンのインパクトのでかさにどれも埋没してしまうのだ…そう思っているのは私だけかも知れないが。
 しかし、月曜日が憂鬱って当時の私はあまり理解していなかった。正直言って日曜日には学校より嫌いなボーイスカウトの活動があったので、月曜日になればそれから解放されるので月曜日は天国みたいに感じていたのは事実。月曜日が憂鬱に感じるようになったのは中学生の頃からかな、あの頃は学校行くの嫌だったし。でも高校の時は学校を楽しんでいたから、また月曜日が憂鬱ではなくなったんだよね。今は普通の月曜日は憂鬱には感じないけど、長い休み明けとかは憂鬱だなぁと、そんなことを思わせてくれる展開だ。
 その憂鬱な日の始まりがついてないとなれば、さらに暗い月曜日になるはずなのだが、そうはならなかったのがこの話の良いところだと私は思う。憂鬱なことも行ってみれば大して辛くなかったというのも、大人になれば多く体験することだろう。まぁこの話のトムの場合は、最低から最高潮へ一気に駆け上がったのだから、ちょっと次元は違うのが確かだが。

第6話 「ハックの家づくり」
名台詞 「じゃあ、仕方がありませんね。早いところこの小屋を仕上げてしまいましょう。それがノコギリやカナヅチを返してもらう一番の良い方法のようですから、私もこの小屋作りを手伝いますよ。さぁ、ノコギリとカナヅチを出してください。私もこの小屋作りの仲間入りをさせてもらいます。いかがですか? これで。」
(ジム)
名台詞度
★★★
 ハックの家づくりは、樹上に上げようとした材料が墜落し、窓枠など廃屋から拾ってきた材料が壊れたことで行き詰まる。仕方なくトムは家へ帰り、家にいる黒人奴隷のジムの部屋から窓枠を盗み出そうとしたところを、ジムに見つかってしまう。ジムにトムに「家からなくなったノコギリやカナヅチを出すか、ポリーおばさんの叩かれるか」と迫ると、トムはジムをハックの家づくりの現場を連れて行かざるを得なくなる。そこでジムは作りかけの家の様子を観察した後に、トムに「ノコギリとカナヅチは何処にあるんですか?」「これを完成させるまで返さないつもりですか?」と問うが、トムは頑としてノコギリやカナヅチを出そうとしない。そのトムの様子を見たジムが、トムとハックに返した台詞がこれだ。
 ハックの家づくりがジムにバレたことで、多くの視聴者は混乱したはずだ。ジムは黒人奴隷とは言いつつもポリーおばさんの元で家族のように暮らしており、彼に企みがバレることは家族にバレることと同じだからであることは視聴者も理解しているはずだからだ。現にジムは前述したようにトムの家でのシーンでは「ノコギリやカナヅチを出すか、ポリーおばさんの叩かれるか」とトムに迫っている。だから多くの視聴者はジムは「ポリーおばさんの側に立っている」と思ったはずだ…だが、オープニングテーマではハックの木の上の家は完成しているし、ハックの木の上の家といえば本作の象徴の一つでディズニーランドでも再現されるほどのものだ。家族にバレてどうやってこの家が完成するのか?と視聴者は混乱することになる。
 ところが風向きが変わってくるのは、ジムが作りかけのハックの家をまじまじと観察するシーンからだ。この時のジムの様子は、「この家に問題はないか」「どうやったら完成させられるか」を考えている風に見えるではないか。その結果としてこの台詞でジムはトムやハックを手伝うと宣言する。この時に視聴者は始めてジムが「トムの側に立っている」事に気付き、またジムが劇中での立場上のこととはいえ一貫して敬語を使っていることもあって、とてもジムがかっこよく見えた瞬間でもあろう。
 そしてジムにとっては、主人の家の坊ちゃんであるトムを助けることと、「なくなったノコギリとカナヅチを取り戻す」ことで主人に忠実に働けるということで一石二鳥の選択をしたこともある。ジムってこうしてみるとしても頭が良くて、こういう選択を合理的にできるのだから主人であるポリーおばさんも優しく接しているんだろうなと想像できて面白い台詞でもあるのだ。
名場面 ハックの家完成 名場面度
★★★
 名台詞欄シーンによってジムが加勢したことで、ハックの家は急速に完成に近付く。やがてトムの学校の友人たちも見物にやってきて、多くの子供たちが見守る中ハックの家が完成するのだ。子供たちは家の完成を聞くと先を争うように、木の上の家に登ってゆく。ところがその喧噪から少し離れたところに立って様子を見ている少女の姿があった、ベッキーであった。トムはこの家づくりのためベッキーに「ポリーおばさんが病気だ」と嘘を言って遊びに行く約束を断っていたのであった。トムがベッキーの元に走って行くと、ベッキーは「嘘つき」とトムに背を向ける。トムはベッキーに嘘を言ったことを謝った上で、「君を驚かせたかった」とする。「嘘つきは大嫌いだわ」と改めて背を向けるベッキーに「ハックの家を見においでよ、すてきだよ」と声を掛ければ、「あんな高いところは怖いわ」と返されてしまう。「登らせてあげる」といえば「木登りしたことがない」と返されてもトムはめげない、「階段があるんだ、ハックは要らないっていったんだけど、僕が君のために特別に作った」と言ったところでベッキーの表情が変わる。「私のために…」と振り返ったベッキーの手を取るトム、木の上では子供たちがミシシッピ川を見下ろしていて、トムとベッキーがこれに加わったところで本話が幕を閉じる。
 やっぱり多くの視聴者が気にしたのは、トムが「ポリーおばさんの病気」という嘘を言ってまでほったらかしたベッキーのことだろう。名台詞欄シーンまでにはベッキーにこの嘘はバレており、「わぁ、ひどいわ、トムったら」とまで言わせている。このトムとベッキーの結末を見るまでは本話は終わることはできないし、またトムがベッキーを驚かせるという理由でハックの家を(そこに住む本人の希望とは無関係に)豪華に作ろうと頑張っていた事を思えば、この問題の解決なしにはハックの家は完成しないのは言うまでもない。
 そして描かれたシーンは、ハックの家の見物に多くの子供たちがやってきた設定を置き、ベッキーがその輪から外れてこちらを見ているという状況を作ることから始めたのだ。これだけでベッキーの「怒り」というものが上手く演出できるが、残り時間も僅かだから短時間で二人を仲直りさせねばならないという問題も控えている。そこでトムに「女の子が喜ぶキーワード」を一つ吐かせるという内容になったのだ。そのキーワードは言うまでもなく「僕が君のために特別に作った」というもので、この男子は自分に対しては特別なんだという事が明確にしたことで女の子を油断させ、その隙に本当にすてきなところへ連れいてってめでたしめでたしという寸法だ。
 もちろん、この方法での男女の仲直りは上手くいかないこともある。だがここで上手くいったことは、それだけハックの家からの眺めがすばらしく、風情のあるものだと言うことを示唆しているのだ。喧嘩している男女の仲直りに使えるほど、ハックは景色が良いところを見つけて家を作ったということを上手く示していて面白いと感じた。
今話の
冒険
 前話から2話またいでの冒険は、ハックの新しい家を作ることだ。ハックは家の床だけ作って「これで充分」とするが、しっかりした家を作ってベッキーを驚かせたいというトムは「ちゃんとした家を作ろう」と言葉を尽くしてハックを丸め込む。廃屋から様々な材料を調達し、一度は材料の引き揚げに失敗するが、この失敗のおかげでジムが家づくりに参加、紆余曲折はあったが立派な木の上の家が完成した。 ミッション達成度
★★★★★
感想  この話も子供の頃に見たの覚えていた。トムが「ポリーおばさんが病気」とベッキーに嘘を言い、これがバレてゆく過程が見ていて怖かったのを覚えている。ラストのトムとベッキーが対面したところなんか、怖くて見られなかったもんなぁ…というのも自分にも女の子との約束を破って、相手はそこまで怒りはしなかったけど自分が後悔で苦しい思いをした経験があったからだ。今となっては小学生低学年の時の、その女の子との約束が何だったのか思い出せないが。
 いずれにしてもハックの家が完成するまで色々あったのだと、今見直すと感心するというかなんというか。トムがハックの家づくりのことを忘れてベッキーと遊ぶ約束をしてしまったことも、ハックがトムにほったらかされて途中まで一人で家づくりをしていたこともこれに含まれよう。それらの「いろいろあった」がさらに次の「いろいろ」を呼び込んで複雑に絡み合うからこそ、その家の完成にはそれら様々な「いろいろ」が解決する必要があるし、それらが解決したことで視聴者もハックの家の完成を素直に喜べる、とても良い内容の物語だと私は思う。
 そして今話では、ハックの家づくりに関わる展開以外は一切の併行する物語がないのも特徴だ。本話の最初や最後で「前の物語」を引きずったり、「次の物語」に入り込んだりもしない。たったひとつの物語をじっくりと見せてくれるアニメって、最近は少ないなーと感じずにはいられない。やはり全50話前後を1年掛けて放映するという作り方が現在はできないのが痛いなぁ。

第7話 「ライバル登場」
名台詞 「謝ればいいんだ。頭下げて謝れば、たいていのことは上手くいくぞ。すいませんって。」
(ハック)
名台詞度
★★★
 トムのクラスにアルフレッドという転入生がやってきた。ところがトムは最初に出会ったときの態度や、話術に長けている事で学校で人気者になりつつあることでどうしても気に入らない。しかも気の合う友人のジェフや、あのベッキーまでもがアルフレッドの話術に惹かれてしまったようでさらに気に入らず、勢い余ってアルフレッドに決闘を申し込む。アルフレッドが「立会人を立ててくれ」という条件を示したため、トムはハックに立会人を頼みに行く。そのハックは「殴り合いなんか見たくない」として嫌がる。これを受けて「今さら後には引けない」と力説するトムに、ハックが訴える台詞がこれだ。
 そう、これは正論である。トムがアルフレッドに「ごめんなさい」と謝ってしまえば解決するタイミングはいくつもあったのだ。もちろん今回のトムとアルフレッドの諍いはアルフレッドの側に問題があったのは事実、初対面の人間に自分の不注意でぶつかっておいて失礼な態度を取ってしまったのはアルフレッドの方で、トムが怒るのは無理のない話だ(もちろんアルフレッドがぶつかった相手が初対面ではなく、気心の知れている人に対してならあれで良いだろう)。トムに必要だったのは「とりあえず謝っておいてその場を丸く収める」ということで、ここのハックはそれを言いたかったはずだ。そしてその「とりあえず謝って丸く収める」事ができるタイミングは、この物語の前半を見ているといくつもあったことは視聴者ならすぐ解るはずだ。
 そしてとりあえず丸く収まっていれば、昼休みのシーンではトムはジェフやベッキーと一緒にアルフレッドの話を聞くことに参加できたかも知れないし(そこで謝って話に加わるという手もあったはずだ)、決闘という話までにはならなかったのは明確だ。そうすればハックは「決闘の立会人」なんて面倒なことをせずに済んだのだから。
 今話では二人の決闘が始まるまで、完全に暴走してしまっているトムに対してハックが正論を言い続ける点が面白い。もうひとつハックの台詞で印象的だったのは、決闘が始まるときに言った「こんなもの勝ったからって、面白くもなんともないんだから」である。そう、この決闘は無意味なのだが…決闘後の事件によって意味のあるものになってしまった。
名場面 決闘のあと 名場面度
★★
 トムとアルフレッドの決闘は引き分け。だがその帰りに乗ったポートは途中で沈んでしまったことで、アルフレッドが泳げないという事実が露呈する。溺れかけたアルフレッドをトムが助けて何とか岸に這い上がり、一行はずぶ濡れのまま村に帰ってきた。そのずぶ濡れの一行を、シーザーの散歩をしていたベッキーが見つける。「まぁ、みんなずぶ濡れだわ、いったいどうしたの?」と問うベッキーに、ウォルターがボートか沈んだ事件を語る。「アルフレッド坊ちゃんが溺れかけたんです、でもトーマス君のおかげで助かりました」とウォルターが語ると、ベッキーは驚いた後に「それ本当?」とトムに問う。「夢中だったからよく覚えてない」と返すトムに、ウォルターが「トーマス君の勇気には驚きました」と付け加えると、ベッキーは「わかるわ、よーくわかるわ」とトムを尊敬の眼差しで見る。これに喜んだトムはアルフレッドを送りに行くと一度立ち去りかけるが、またベッキーの元に戻ってきてトムの現在の宝物であるきれいに磨いたドアの把手をプレゼントしようとする。「私、いいわ。要らないの」と告げるベッキーにトムは落胆し、「明日うち来ない? 溺れた人を助けた話を聞きたいわ」「是非来てね」「お母さんに言っておかし作っていてもらおう」と続けるベッキーに対し生返事しかできない。「また明日」といって立ち去るベッキー、把手を見つめて「がっかりだ」と呟くトム。
 今回の話の結末だ。ひとつはアルフレッドとの決闘を通じて「こうなりました」という要素で、決闘そのものではなく、その後のボート沈没でトムがアルフレッドを助けた事でひとつ「貸し」ができただけでなく、ガールフレンドのベッキーから尊敬を受けたという決着だ。もちろん本作品の場合、主人公が素直に決闘に勝っただけでは話にならないし、ベッキーというヒロインがいる以上そういう野蛮な話だけで終わるわけにも行かない。同時にトムを決闘で負けさせるわけにも行かないので、決闘そのものは引き分けにしてその後の出来事でトムが勝つという描き方しかないだろう。そしてその決着はトムとアルフレッドが仲良くなるのでは面白くない、トムのこの時点での最大の問題である「ベッキーとさらに仲良くなる」という目標に近付く必要がある。だからこそここでベッキーがご都合主義的に現れて、事の次第を聞いてトムを尊敬し直すという話にしたのは正解だ。
 だがそれだけで終わらせないのが「トムソーヤーの冒険」。この時点での「トムの宝物」であり、本話の冒頭からその存在を誇示し続けた「きれいに磨いたドアの把手」についてもここで決着させる。トムはこれをプレゼントすることでベッキーとの距離を縮めようとしたのだろうが、女の子がこんな物をもらって喜ぶはずがないというのは視聴者の誰もが思うところだろう。その思った通りの決着がつくことでトムがこの「ドアの把手」に関する興味を失ってしまうという展開は、正直言って「うんうん」と頷くしかなかった。その上でベッキーとの距離はトムがアルフレッドを助けた件で縮まっているのだから、それで良いじゃないかと言いたいのを視聴者はこらえるしかできないもどかしさも含めて。
 本話で決着を付けるべき二つの出来事を、まとめて決着を付けたという意味で最も印象深かったのだ。
今話の
冒険
 今話は何と言っても転校生アルフレッドとの決闘だ。勢いだけで決闘といってしまったとは言え、もう後には引けないし負けるわけにもいかない。立会人としてアルフレッドは家の使用人であるウォルターを、トムはハックを連れて行った。壮絶な殴り合いの末、この決闘はウォルターのジャッジにより「引き分け」となる。 ミッション達成度
★★★★
感想  こういうテンポの良い話は大好きだ。まずトムの「現在の宝物」を上手く示して、これをとむがシッドに「あげない」としていることから、この「宝物」について「トムが誰かにプレゼントする物」だということを明確にする。その上で事件が起きる、水くみに出かけたトムとアルフレッドが衝突するのだが、ここの二人の会話が最初から歯車が狂っていて「二人は絶対に仲良くできない」感を上手く演じているのが面白い。歯車を狂わせたのは本話で初登場のアルフレッドなのだが、トムにその狂った歯車を修正する気が感じられないのもこれまた見ていて面白い。一度こんがらがった糸がなかなかほつれないように、どんどん話がこんがらがってゆく。
 そして学校シーンでアルフレッドは転入生と解るが、視聴者から見ればここでアルフレッドがベッキーの隣の座っているのを見ただけで、「トムの怒り」の火に油が注がれることを理解できる。そしてベッキーだけでなくジェフまでもアルフレッドの話を聞きに行ってしまえば、「決闘」へ向けての準備は万全というところだろう。
 だがこれだけで決闘をさせるのでなく、トムにもうひと怒りさせるのが「トムソーヤーの冒険」だ。このタイミングでトムがベッキーにあの把手をプレゼントしようとするのだが、もちろん女の子はそんな物をもらって喜ぶはずがなくベッキーはこれを拒否する。これをトムは「ベッキーが自分への興味をなくした」と受け取るからこそ火に油どころか爆薬が入れられ、トムが勢い余ってアルフレッドに決闘を申し込むことに無理がなくなる。
 これ以降のことは名場面欄や名台詞欄に書いてしまっているが、トムとアルフレッドの決闘は迫力があって良かったなぁ。今のアニメでは「殴り合い」をこんな迫力で描けるかな…なんい疑問を呈したら「山賊の娘ローニャ」に失礼か。でもあれは大人の男二人、それも屈強な二人の殴り合いだから嫌でも迫力が出る。こっちは年端のいかない少年二人の殴り合いで、それを迫力を付けてみせるために色々工夫しているのがよく分かる。
 それと今回、描写が上手いなぁと思ったのはあの把手だ。把手がきれいに磨かれている事を示すために、把手に映るシッドやジェフの顔を描いているのだが、その映り込み方が実に研究されていて本物の把手を見ているようだ。実はこの表現はアニメでしかできない、実写でやろうとしたらCG処理でもしない限り把手にカメラが映っておしまいだ。この把手の行き先は今話のオチとなる、把手に関して急速に興味を失ったトムは、把手を元の場所に戻してハイおしまいだ。

第8話 「あこがれの蒸気船」
名台詞 「いいかマイク、ミシシッピというのはいつでもこれだ。こういうときは水面を読まなきゃいけねぇ。さぁ、水面をよく見ろ…斜めに光った線が見えるだろ? あれが暗礁だ。水の中に切り立った砂州があるんだ。下手に乗り上げたら横倒しになっちまう。反対側は急流だ、あいつに逆らったら船が何隻あっても足りねぇ。急流に押される前に、暗礁と直角に食い込ませるんだ。後は全速で突っ切る、いいか、水面から目を離すんじゃねぇ!」
(ブリック)
名台詞度
★★★★
 色々ツッコミどころはあるが、乗り物好きとして一言で片付けさせて欲しい。
 も、萌え〜っ。
名場面 パイロットルーム 名場面度
★★★★
 ハックと二人で船に忍び込んだトムは、上の甲板へと上がってゆき、ついにパイロットルーム(船橋)に行き着く。二人はこっそりと中をのぞき込むが、誰もいないことが解ると喜んで中へ入ってゆく。そして二人揃って中の様子に目を輝かせたと思うと、二人は「ごっこ」遊びを始める。「ハック、出港準備は良いか!」「アイアイサー」「積み荷の点検終わりました!」「よーし、渡り板外せ!」「釜を炊け!」「進路に異常なーし!」「よーし、出港せよー!」と遊ぶ。「出港用意!」という声がまた聞こえてきて二人はフリーズする。「何か言った?」とお互いに問うが、ここに船長と水先案内人の二人がやってくるのが見える。慌てて隠れる二人だ。
 このシーン大好き。このシーンも子供の頃に見たのをハッキリと覚えていて、トムかハックが自分だったら間違いなく同じ事をやったなーと思ったシーンだ。やっぱりこのような「ホンモノ」のメカを目の前にして、「ごっこ」遊びをしない男子はいないと頷きながら見ていた。このシーンを通じてトムもハックも自分と等身大の男の子だと解って、見ように親近感を感じたものだ。
今話の
冒険
 学校の帰りにミシシッピ川を見下ろすと、そこには不定期の貨物船「リバー・クィーン」号の姿があった。この船がセント・ピーターズバーグに入港し今夜出港するという予定をベンから聞かされ、トムは学校の仲間たちに「みんなで乗り込もう」と提案する。夜になると他の子供たちは家から抜け出せず、トム一人で船に乗り込むことになるがここで偶然ハックと合流。二人で船に忍び込んで、パイロットルームにたどり着いた上にしばしの航海まで楽しむことができた。 ミッション達成度
★★★★
感想  この1話も覚えているし、子供の頃はわくわくしながら見た1話だ。正直言って船の動かし方というのは、まずこのアニメで教わったと言って良いだろう。もちろん船の知識を色々と吸収した今ではツッコミどころは沢山ある。だがそういうのを無視して楽しまねばならない一話だと、大人になった今でも思う。
 測鉛で水深を測り、これによって航路を決めてゆくなんてやり方はこのアニメを見なきゃ知るのはずっと後だと思う。子供の頃は船が水路を行くのに水深がそんな大事なんて、考えてもいなかったからなぁ。それに測鉛時に出てきた単位は「尋(ひろ)」だよ。日本の船が推進を測る時に使っていた単位で、1尋=1.82m…って、おい、ここはミシシッピ川だぞ。まぁ欧米の船が水深に使っていた単位「ファゾム」と「尋」はほぼイコールだから、訳したと思えば問題ないか。
 伝声管で機関室に命令を伝えたり、前甲板への命令はメガフォンだったりと、命令する場所によって伝達方法が違うのはとても細かいと思った。そういうところで手を抜かないのは「世界名作劇場」の良いところ。
 ちなみにブリックは、劇中では「水先案内人」とされていたけど、実際には航海士か操舵手だと思う。出航後に船長が船長室に戻った後に当直を任されていた事を考えれば、やっぱり航海士というのが正しいと思う。そして川船なので航海士が直接舵を取っていると解釈すれば良いだろう。ブリックが「水先案内人」ではないのは、セント・ピーターズバーグの入出港のみの船に属さない操船手ではなく、船に属している操船手であることが確かだからだ。「水先案内人」だったら、セント・ピーターズバーグの港付近の難所を過ぎたら下船するはずだし、何よりも他の正規の乗組員の立ち会いがいるはずだ。だからブリックは航海士、マイクは航海士見習いだと私は解釈している。

第9話 「ポリーおばさんの子供たち」
名台詞 「じゃあ誓わないよ。僕が誓わなければおばさんが死ねないんなら…いつまでも生きていてよ。僕はどんなに叱られてもいいから、おばさんに生きていてもらいたいんだ。おばさんは…おばさんは…僕のお母さんだもの。」
(トム)
名台詞度
★★★
 ポリーおばさんが病に倒れるが、ミッチェルの診断で疲労と暑気あたりでたいしたことはないとされる。だがポリーおばさんはミッチェルと結託してトムに対しては重病であると伝え、トムが部屋に来れば重病で死にそうな演技をする。そしていたずらをしないことや大人に言うことをキチンと聞くことを約束させようとするのだ。途中でトムに演技を見破られそうになりながらもこの企みは途中まで上手くいったが、ポリーおばさんが「私を心安らかに死なせておくれ、これからは良い子になると神様に誓ってちょうだい」とトムに言う。これに対してトムは「僕が誓わないと死ねないの?」と確認を取るように問うと「お前が良い子になると誓ってくれないと、死ぬに死ねないのよ」と返すが、これに対するトムの返答がこれだ。
 いやー、トムの方が一枚上手だった。このポリーおばさんの企みを「今回の冒険」欄に挙げたように、これはポリーおばさんが仕組んだいわば「いたずら」だ。だがこれを通してトムが悪ガキでなくなって欲しいという願いと親心を込めたいたずらだ。だからこそ「トムの方が一枚上手でなければならない」と思いながら見ていたのだが、その通りになったことを示唆するのがこの台詞だ。トムがこの台詞を吐いたのは本気が8割、いたずら心が2割と私は解釈しているが、その2割程度のいたずら心がなければこうは言えないと私は思う。全部本気で言ったら、やっぱり良い子になると誓ってしまうのが子供という物だ。
 そしてこの台詞を聞いたポリーおばさんは、恐らくあるひとつの事に気付いているはずだ。それはいたずらしない良い子になったらトムはトムでなくなるということ、トムはポリーおばさんの「生」を「いたずらをしたら叱られる」という事で感じているのであって、ポリーおばさんにとってもトムがいたずらをすることは織り込み済みで育ててきたはずなのだ。だからこの台詞を通じてトムは「生きたおばさんに叱られ続けたい」と訴えているのであって、「おばさんがいなくなって叱られることがなくなる」ことを望んでいるわけではないことが見えてくるのだ。
 このポリーおばさんのトムへの愛情が、トムのポリーおばさんへの愛情で返されてしまい、ポリーおばさんの企みは失敗したかに見えるが、この後のシーンの抱擁をみればこの失敗を通じて「絆」が強まったことは言うまでもないだろう。
名場面 ひまし油 名場面度
★★
 夜、ハックがトムの家にこっそりとやってきてトムを呼び出す。昼間は身体の具合が悪くて寝込んでいたハックは回復し、トムに用事があってきたのだ。トムが下に降りてくると忘れ物だとして、トムが昼間にハックの薬として持ってきた「ひまし油」を差し出す。これを受け取ったトムは、ピーターに飲ませると言いだし、ハックがピーターを無理矢理押さえ込んで、トムがピーターの口に「ひまし油」を流し込む。あまりの「ひまし油」の不味さに、のたうち回って苦しむピーターを見て二人が笑い合う。
 これは今話の「オチ」だが、今回の展開でこの終わり方はとても気持ちが良い。ポリーおばさんが仮病を使ってトムを良い子にしようとした企み、これによって深まった家族の絆…だけどトムとハックはやはり何も変わっていない親友だという事を上手く示している。トムは家ではポリーおばさんやメアリーにハックとの付き合いを禁じられているが、トムはそんなことお構いなしにハックと友人としての付き合いを続けている。これはトムにとって、家族に何を言われようが絶対に譲れない大事な物だと言うことを上手く示している。ハッキリ言って、昼間にあんな事があったからといってトムがハックの呼び出しに応じなかったり、ハックを突き返すようなことがあったら本作はここで終わりだったと思う。それをしなかったから気持ちよいのだ。
今話の
冒険
 今回の冒険はポリーおばさんのものだ。ポリーおばさんは夜まで出かけているはずだったが、体調を崩して途中で帰ってきてしまう。ミッチェル先生の診断は疲労と暑気あたりだったが、ポリーおばさんはトムには重病だと言うように仕向ける。そして重病で死にそうな病を演じてトムにいたずらをしない良い子になるように誓わせようとするが…トムの方が一枚上手だった。 ミッション達成度
★★
感想  「ひまし油」なんて今どきの子供は知らないだろうなぁ。私の世代でも「くそ不味い薬」と言うことは知っていても、実際にそれを服用するどころか見たことがあるって人もいないだろう。アフリカ原産で世界中に広まったトウゴマという植物の種子から取れる油で、かつては潤滑油として使われていた。日本でも戦時中には航空機の潤滑油として重用され、国民にトウゴマの栽培を勧めていたほどである。医薬としても昔から使われていて、欧米では古くから下剤として用いられていたので、「トムソーヤーの冒険」や「若草物語」などの児童文学に登場すると言っても過言ではない…ってそれはともかく。
 今回はサブタイトルがなんか重いが、物語そのものはいつもの「トムソーヤーの冒険」だ。学校でトムが居眠りをしてドビンズ先生に鞭で叩かれ、放課後にトムはハックのところへ遊びに行く。そこでハックの体調が悪くても、トムは何とかしてハックを引っ張り出そうとするのは本作らしい展開だ。だがポリーおばさんが体調不良で帰ってきたところから話が重くなり始める。ポリーおばさんが重病という診断が出て、どうなることかと思ったらこれがポリーおばさんによるいたずらであることは視聴者にはすぐ解る展開は気持ちいい。あとは名台詞欄、名場面欄の通りだが、名場面欄で紹介した「オチ」ので含めて物語がテンポ良く進むので気持ちの良い。
 そして内容的にも名台詞欄シーンのような重い展開になりつつも、「結局は元のトムのままでした、めでたしめでたし」で終わるからこの話は好きなんだ。何も犠牲にせずに家族の絆だけを強める気持ちの良い物語で、結局トムも友だち付き合いを制限されたり、いたずらを辞めさせられたりという我慢を強いられていない。だから気持ちよい話なんだ。

第10話 「村の嫌われ者」
名台詞 「ああ、そんなことはよく知っている。知っていてやめられないのが、この酒なんだよ。」
(マフ)
名台詞度
★★★
 ある日の午後、トムとハックはオールのないボートで川を流されている酔っ払いのマフ・ポッターを助ける。救助されたマフは酒を飲みながら「悪いな、お前たちに何もお礼ができなくて」と言うと、トムは「お礼なんか良いけど、なんでそんなに呑んでばかりいるんだい?」と問う。マフは「こればかりは子供に説明してもわからんだろうな」と返すと、トムは「身体に悪いんじゃないかな?」とさらに問うと、マフがこのように返事をする。
 これは本作を見て育った子供たちが、大人になって「酒」と出会って始めて理解したことだと思う。子供の頃は多くの人が、大人になって自分は酒なんか呑まないと思っていたことだろう。酒の呑みすぎで身体を壊した人の話も子供の耳には入ってくるので、子供の頃は多くの人が「自分は大人になっても酒を呑まずに長生きするんだ」と思うところだろう。トムの問いはそんな子供たちの平均的な意見とみて良いだろう。
 また自らが興味半分でか、はたまた酔っ払った大人の悪ふざけかの理由で、子供のうちに酒を口にした経験がある人もいるだろう。だがその時に酒を「美味い」と感じた子供はいないはずだ。甘くもないし苦くて決しておいしくない、子供の頃に酒を口にした人の感想はほぼかならずそうだ。
 ところが、これが大人になって酒を呑むと変わってしまうのである。酒の味が理解できるようになることもあるが、何よりも人生の潤滑油としての作用としての酒の愉しさを覚えるからである。そうなれば身体に悪いと解っていても、やめられなくなってゆく。そんな経験をした大人たちは多いことだろう。
 私も子供の頃は、このマフが言っていることを全く理解できなかった。だが今はこの言葉の意味がよく分かる。身体に悪いとわかっていても、仲間たちに囲まれ酒がおいしいと思う夜はとことん呑んでしまう。まぁ、私の場合酔っ払うとすぐ寝てしまう人らしいが…とにかく酒って楽しいって事は大人になってよーく解ったことだ。
名場面 インジャン・ジョー登場 名場面度
★★★★
 ある日の学校帰り、トムはベッキーと一緒に帰宅する。その途中にある酒場で、店からマフが放り出されたところに行き当たってしまう。トムがマフに「どうしたの?」と問えば、マフは「金がないから追い出された」と返す。その返事を言い切った瞬間に、店から一人の男が出てくる。これに気付いて男を見たトムは、驚いた声を上げてベッキーを守るかのように後ずさる。すると男の顔がアップで出る、体格の良い身体に鋭い顔つきのこの男は鋭い声で「おいマフ、こっちへくればもう一杯だけ呑ませてやるぜ」とマフに声を掛ける。マフは「そいつはありがてぇ」と男に歩み寄るが、男はマフの胸ぐらを掴み「その代わり、俺の仕事を手伝えよ」と相変わらずの鋭い声で続ける。「わかったよ、手伝うよ」と返すと男はマフを放し、今度はベッキーを守るように立って様子を見てるトムに目を向ける。恐怖に思わずトムの背後に隠れようとするベッキー。男はトムをしばらく見つめたかと思うと、黙って店の中へ入ってゆく。「またな」と言って一緒に姿を消すマフを見送ると、「今の酔っ払いがマフ?」とベッキーがトムに問う。トムが「ああ、そして後から出てきた方がインジャン・ジョーだ」と返すと二人は歩き出す。「インジャン・ジョー?」「あいつ、また村に帰ってきたんだな。悪い奴なんだ、人殺しをしたこともあるんだってさ」「私怖いわ」「二人とも村では嫌われ者だよ」「当たり前だわ…ねぇトム、宝なんかあるはずないわよ、絶対に」と会話が続くが、トムの顔は何故か暗い。
 このシーンを文字で説明したが、正直これは伝えきれない。本作で最大の悪役であるインジャン・ジョーの初登場を実に印象的に描いたもので、店から出てくるインジャンの姿の出し方はとても迫力があるし、そこから店の中へ姿を消すまでインジャンの姿を実に迫力を持って描いている。子供の頃に見たとき、インジャンがトムを見下ろす顔がアップで出てきたとき、本当に怖かったよ。
 そしてトムの動きが「インジャンの怖さ」を実にうまく演出していると思う。無意識にベッキーの前に立ってベッキーを守るような仕草をしているだけで、トムから見てインジャンがどれだけ怖いか、インジャンについてどんな怖い過去があるのか浮き彫りになったと言っても過言ではない。
 さらにインジャンがマフに「俺の仕事を手伝え」とただ言うのではなく、わざわざ胸ぐらを掴ませた事でインジャンの怖さは完成したと思う。この男がマフを使って何を企んでいるのか、それによってマフがどうなってしまうのか、トムがどのようにこれに絡んでゆくのか…物語の先を見るのが楽しみのような、怖いようなとも感じる秀逸なシーンだと私は思う。
今話の
冒険
 いよいよ今回から「海賊の宝」を求めてあちらこちらをほじくり回す…のかと思ったら今回はまだそういうノリではない。トムは「海賊の宝」を探す気満々だが、ベッキーだけでなくハックまでもが「そんなものはあるはずがない」と批判する始末。トムは何とかハックを説得しようとした矢先、スコップを持ったインジャンがマフを連れて「海賊の宝」があるとされる丘へ向かうのを目撃。これでハックもその気になって、いよいよ「海賊の宝」探しが始まる。 ミッション達成度
感想  この話しも子供の頃に見たのをよく覚えている。名場面欄シーンは子供の頃に、テレビの前にいる自分も怖がったのをキチンと覚えている。マフは「世界名作劇場」シリーズで、私の記憶にある最初の「酔っ払い」だ。前作の「赤毛のアン」では酔っ払いは出てこなかったし、その前の「ペリーヌ物語」も酔っ払いと言えばシモンじいさんくらいでその出番は限られていたせいかリアルタイムで見た記憶はない(見ていたはずなのだが)。それ以前の作品となると、もうリアルタイムで見ていた記憶自体が怪しい…という感じになってくるので。
 てずれにしても、今話はインジャンとマフという二人の初登場が本筋だろう。他の物語はおまけだが、次の物語となる「海賊の宝」の話にとりあえず首を突っ込んだ程度のことだろう。だから「今話の冒険」欄に書いたように、主人公トム以外はこれにあまり乗り気でないのは正解だ、今話からハックも一緒にやる気満々では次が持たなくなる。こうして実際にほじくり返すまで時間を掛けるのが、「世界名作劇場」シリーズの良いところなのは間違いない。現在の忙しいアニメだったら、今話のうちの掘り始めちゃうぞ。
 また、今話ではベッキーがキチンの「今のところの自分の立場」が解った役割をしているのは面白い。これはベッキーが転入して間もないという設定のことで、ベッキーにはトムを中心として起きている村の出来事を第三者的視線で指摘することが可能や役回りであるのだ。今回のベッキーはトムとの会話時間をしっかり持って、この役割に徹している。「海賊の宝」について批判する役回りとなるのはもちろんのこと、今回初登場のマフやインジャンについて視聴者に代わって説明を求める事ができる役回りもこなしたのだ。本作では基本的に最初からいるキャラについて、それが何者なのかという説明は一切していない。これはポリーおばさんやシッドの初登場を見ていれば解るし、ジムについて「奴隷である」という説明がされたのはなんと今話だ。ハックも学校の仲間たちもドビンズ先生も何の説明もなく登場し、いつしか物語でそれぞれ決まった役割に落ち着いている。途中出場のキャラではベッキーやアルフレッドはは転入生設定だから何者であるかの説明は要らないが、今回のインジャンとマフは「村に以前からいる人」という設定(=村の中で役割が決まっている)なので誰も説明しないという訳にはいかないのだ。だから二人とも今までのキャラ通り、何の説明もなく唐突な画面に現れた後、それが何者なのか誰かが説明しなければならない。その発端をベッキーがトムとの会話で自然に演じることで、不自然な説明が不要になったのも良い作りだと思った。

前ページ「トムソーヤーの冒険」トップへ次ページ