第16話 「トム・ソーヤーの葬式」 |
名台詞 |
「何処でも同じだな、俺は。」
(ハック) |
名台詞度
★★★ |
名場面欄に書いたトムとベンとハックの葬式が終わると、家族に出迎えられたトムやベンとは違いハックは一人で家に戻る。そして嵐で家が一部壊れているのに落胆しつつも、家の中に入って横になる。そして呟いた台詞がこれだ。
この「無人島での大冒険」という家出生活を経て、ハックだけは何も変わらなかったのである。トムもベンも自分の葬式中に家族の元に帰るという劇的な帰り方をして、それぞれ家族との絆を痛感してそれを新たにしたところだ。トムは家族だけでなく、ベッキーとの関係も新たにしたと感じたのをハックは見ているはずだ。だがハックだけはそのようなものはなにもない、一緒に住む家族もいないし、帰るべき場所として木上の家があるだけだ。そこで家出前と変わらない生活を続けるだけだ。
もちろん、ハックにとって無人島で過ごした日々はそれまでの彼の日常とは違ったはずだ。昼間は学校へ行って会う事ができないトムや友人と一日中一緒にいただけでなく、寝食まで共にした。朝から晩までトムと一緒に過ごして文句を言う者もいないし、何よりも自分の姿を見ただけで「宿無し」と罵る村人達もいない、清々した生活を送れたはずだが…ハックにとってはそれだけである。トムやベンとの絆は今まで以上になったかも知れないが、戻ってきた自分を出迎える者は誰も無く、元通りに戻るだけなのだ。
そのハックの寂しい実態を、ちょっとだけのぞき見されられた気もするし、やはり現在は一人暮らしの自分にとってこのハックの気持ちは理解できる。そういう意味で最後のこの台詞がとても印象に残った。 |
(次点)「なんだか変なお葬式でしたわね。でもちょっとばかり感動的だったわ。」(サッチャー夫人)
…葬式が終わり、参列者が三々五々帰宅の途につき始めた頃、馬車に乗ったベッキーの母が呟く台詞。この台詞はこの葬式の空気を視聴者に代わって代弁しているように感じた。弔われている当人達が突然現れる変な葬式であり、その当人達の生還を皆が喜ぶ感動的な内容だったのは、視聴者として見ても確かだった。 |
名場面 |
トムソーヤーの葬式 |
名場面度
★★★★ |
村の教会でトムとベンとハックの3人の葬式が始まる。まだ幼気な少年3人の葬儀とだけあって、その雰囲気は重く、悲しいものに包まれていた。その葬儀の始まりを告げる賛美歌が歌われている頃、トムとベンとハックはコッソリと教会に近付く。トムは「牧師さんのお説教が一番盛り上がったときに俺たちは叫ぶんだ、俺たちは帰ってきた、死を乗り越えて帰った来た!」とベンとハックを鼓舞する。そして牧師の説教が始まった頃、3人は教会に忍び込んでその最後尾に隠れて様子を見る。続く牧師の説教、そして教会を包む参列者の嗚咽。牧師の説教は「3人は天使である」として、神が3人を自身のそばに招いたと続く。その説教の内容にトムは目に涙を浮かべて立ち上がり、ベンがこれに続く。牧師は力を込めて「嗚呼、私たちはもうこの世では、絶対にあの3人の子供達の顔を見る事ができない」と論じた瞬間、説教の途中なのに突然「ああっ!」と叫ぶ。牧師は真正面に、目に涙を浮かべた3人の姿がある事を認めると、今度は指をさして「あっあっあーあー!」と叫ぶ。参列者が牧師が指さした方向を見ると、今度は教会の中が様々な叫び声に包まれる。そして沈黙のあと、3人は涙をぬぐってから帽子を取って前へと歩く。ポリーおばさんが「トム! あんた本当にトムなんだね?」と叫ぶと、トムは「そうです」と返して感動の抱擁。続いてベンの父親が「このバカヤロー!」とベンを殴った後、ベンを抱きしめる。続いてトムとシッドやメアリーとの抱擁が演じられた後、牧師が「奇跡が起きました!」と場を取り繕って一同が賛美歌を歌う。賛美歌を歌いながらトムがベッキーの方を見ると、ベッキーは笑顔でトムを見つめている。
サブタイトル「トムソーヤーの葬式」と見たとき、トムの事だから自分の葬式があると知れば絶対にそこへ行くだろうなと思っていたら、その通りになったと思ったシーンだ。トムの葬式は悲しくなればなるほど、何が起きるかを察している視聴者としてはおかしいシーンになってゆく。だがこの葬式はトムが思い描いていた展開とひとつだけ違った点は、実際に出てみたらトム達にとっても悲しい葬式だったということだ。だからトムは格好良く「俺たちは帰ってきた」と宣言するつもりが、それができなくなってしまった。でもだからこそ良い、トムが自分の葬式に悲しんで自分の思い通りにできないからこそ、この葬式シーンは「葬式の最中に弔われている本人が現れる」というとても難しいシーンにリアリティが出たのだ。もしこれがトムの企み通りに宣言していたら、この葬式は白けたかも知れない。
また葬式シーンの最後の方でトムとベッキーが見つめ合うのも注目点だ。トムが家出をした最大の原因は、ベッキーの前で取り返しのつかない失言をしていまい嫌われたことであって、そのベッキーの反応はトムにとっても気になるところだったはずだ。ところがそのベッキーはトムを見て笑顔である、つまりトムにはベッキーが以前ほどは怒っていないという確証を取れたわけであって、トムにとっての「帰ってきて良かった」がここにキチンと描かれているのだ。もちろん、トムとベッキーの仲直りはすんなりとは行かないのだが、それは次回以降の話だ。 |
今話の
冒険 |
「無人島での大冒険」最終章、もうベンは完全なホームシックになっていて、これを見たハックまでもが帰ると言い出す。これを見たトムは新たな「冒険」を思いついて、二人の無人島滞在を2日間だけ引き延ばす事に成功する。トムは村の様子を見に行った事で自分たちの葬式が行われる事を知っていたので、その葬式の最中にひょっこり顔を出すというかたちで村に帰る事だ。この企みは大成功だが、葬式があまりにも悲しいので「俺たちは死を乗り越えて帰った」と高々と宣言する事はできなかった。 |
ミッション達成度
★★★★★ |
感想 |
「無人島での大冒険」は楽しかったが、視聴者としてはそろそろ飽きてくる頃であるのも確かだ。そこへトムが戻って村の様子を見た事で、ベンがホームシックにかかってしまい「帰ろう」と主張するところから今話が始まる。これにハックものって、ハックとベンが泳いで帰ろうとしたのをトムが止める。ここで何を思いついたのか語らず引っ張るのは、初めてこの作品に触れる視聴者に対してなら大成功だろう。
前述したように、視聴者ももう「無人島での大冒険」はお腹がいっぱいになってきたところで、ベンがホームシックでハックが帰ると言い出せば、この家出生活を支持しているのはトム一人になってしまう。だが同時にもう一つの問題は、このまま帰ったのでは家出生活にうまくオチが着かない事だ。面白い事にこれは一番強く感じているのは劇中のトムだ。トムが仲間二人が帰る事を主張しても島での生活にこだわったのは、トムにとって帰るきっかけがないからだ。トムとしてはこの生活を終わらせるならただ村が恋しくて帰るのでは無く、派手な事をして人々をあっと言わせるような出来事が欲しかったのだろう…恐らく、一度村へ帰って様子を見たときに「日曜日に3人の葬式がある」と知ったときから、「葬式会場にひょっこり現れる」という帰還方法を思いついていたのだろう。最初はこのプランを自分の胸の中にしまっておいて、当日に色々理由を付けて村へ帰って二人も驚かせようとしたのかも知れない。恐らく「帰る」と主張したのがベン一人だったら、ベンをなんとか説得して2日間持たせる事はできると考えたと思う…だがハックまでもが「帰る」という話に載るというのは計算外だったことだろう。だからトムは二人にこのプランを話したと私は解釈している。このプランにハックは載ったが、ベンは最初は乗り気では無かったのだろう。だが多数決になると弱い立場で約束させられたんだろうな…でもそのおかげでベンは、「自分の葬式に出る」という誰も味わえないような体験をできたのだから、幸せだぞ。
そしてトムの葬式が決まり、人々の悲しみをキチンと描くからこそ、何が起きるか解っている視聴者にとって笑いが止まらない展開になってゆく。ポリーおばさんやベッキーが悲しめば悲しむほど、盛り上がってゆくのは確かだっただろう。ベッキーはトムをあんなに嫌ったのに、そのトムが自分との喧嘩が原因で死んだとあっては悲しむしかない。その悲しみ方がとても深いので…ベッキーには悪いがこれで話が面白くなってしまった要素だ。泣き続けるベッキーを最初に父が、続けて母が励ますシーンが描かれると、その都度話が面白くなって笑えてしまう。「世界名作劇場」シリーズでは様々な「葬式」が描かれているが、始まりにあたって、そして式が進むにあたってこんなに笑える葬式は他にはない。登場人物達が悲しめば悲しむほど面白くなる葬式なんて、他には絶対にない。まさにベッキーの母が最後に言ったとおり「変なお葬式」で「ちょっとばかり感動的」だったのだ。
もうひとつ、本話ではキチンと「オチ」が演じられた事も忘れてはならない。葬式の夜、トムはポリーおばさんから叱られてげんこつを沢山もらったと、トムがナレーションするのだ。このフォローがなかったら、この話は家出を正当化するような内容になってしまうところだった。トムが家出についてはキツく叱られたことを明確にして、「家出はしてはいけない」ことをキチンと示す配慮があるからこそ、よい子の「世界名作劇場」だと私は思う。 |