「あにめの記憶」

世界名作劇場「トムソーヤーの冒険」

・「世界名作劇場」が描く子供の世界
 本サイトの「世界名作劇場」過去作品考察では、1970年代後半から1980年代にかけての各作品を紹介してきた。その中で今のところ、私が気に入っていて考察を後回しにしていたのが、「世界名作劇場」1980年作品である「トムソーヤーの冒険」だ。これは「牧場の少女カトリ」を考察した際にも言ったが、機会があれば考察したかった作品の一つで、先に「牧場の少女カトリ」考察の機会が来たのでさらに後回しにしていたものだ。
 この作品の本放送は1980年1月から12月にかけての1年間、私が小学3年生から4年生だった頃に放映されたものだ。その後も数年後に再放送がされ、再放送も含めて2〜3回は見た作品であることは間違いない。当時はそんなに歳が変わらない男の子が主人公の作品であったが、当時の私はトムのような活発的な子供でなかったこともあって印象はいまいちだった。この物語のおもしろさに気付いたのは、平日夕方の再放送を見てからと言うのが正しいというところ。
 この物語のおもしろさは、子供たちの日常を丁寧に描いた上でその「日常の退屈を打ち破りたい」という子供たちの願いを実現させているところだ。家族や学校や友人関係と言った子供たちに対する「縛り」「苦悩」をキチンと描き、そこから解き放たれようと子供たちが活発に動く様は実に痛快と言ってよい。「世界名作劇場」シリーズでは多くの作品が「家族」の絆を前面に打ち出しているが、この作品ではそれとはもっと違う子供たちの世界…しかも友情物語を前面に出すのでなく、子供たちの日常や世界そのものを浮き彫りにしていると言っても過言ではないだろう。
 そんな子供たちの世界を、本サイトの標準的なフォーマットで考察してみたい。

 「トムソーヤーの冒険」の原作は、アメリカの世界的に有名な作家マーク・トウェインが1876年に発表した小説「トム・ソーヤーの冒険(The Adventures of Tom Sawyer)」である。ミシシッピ川に沿うセント・ピーターズバーグという架空の町を舞台に、少年トマス・ソーヤーとハックルベリー・フィンら子供たちが様々な冒険を繰り広げるものだ。舞台となったセント・ピーターズバーグはマーク・トウェインが少年時代を過ごしたミズーリ州のハンニバルがモデルとされ(実在のセントピーターズバーグ(フロリダ州)とは無関係である)、エピソードの多くはマーク・トウェイン自身あるいは友人のみに起きた出来事とされている。主人公トムをはじめとする登場人物たちも実在の人物をモデルにしたとされ、だからこそリアリティに富んだシーンもあるのだ。
 「トム・ソーヤーの冒険」には多くの続編があり、その中でも「ハックルベリー・フィンの冒険(The Adventures of Huckleberry Finn)」はアメリカ文学史に残る名作であるとともに、現在まで様々な物議を醸していることでも知られている。

 本作は数多くの「世界名作劇場」作品の中でも、劇中期間が最も短い作品である。劇中で僅か3ヶ月の出来事を1年掛けて放映したのだから、今考えるととてものんびりとした話だ。日本では「世界名作劇場」以外でも1978年にアニメ化されているばかりではなく、1983年に開業した東京ディズニーランドにおいても「トムソーヤ島」(トムソーヤ島いかだ)というアトラクションが設置されて本作の世界観をまさに体験できるようになっている。いずれにしろ日本では「世界名作劇場」以外でも人々に知られている作品であるのは確かな作品だ。

・サブタイトルリスト

第1話 トムとハックとブタ騒動 第26話 子役のリゼット
第2話 ごきげんなペンキ塗り 第27話 お芝居の始まるまで
第3話 トム一目ぼれをする 第28話 リゼットを助けろ!
第4話 サムじいさんのおまじない 第29話 突然のさようなら
第5話 恋は異なもの味なもの 第30話 ハックの父親
第6話 ハックの家づくり 第31話 数を数えろ
第7話 ライバル登場 第32話 黄金を見つけた!
第8話 あこがれの蒸気船 第33話 自由へ向かって逃げろ
第9話 ポリーおばさんの子供たち 第34話 天から降って来た男
第10話 村の嫌われ者 第35話 空を飛びたい
第11話 海賊の宝 第36話 気球を直そう
第12話 ベッキー・サッチャー怒る 第37話 空からの眺め
第13話 海賊になるんだ 第38話 恐ろしい出来事
第14話 海賊には学校はない 第39話 良心の痛み
第15話 冒険・冒険また冒険 第40話 マフ・ポッターの裁判
第16話 トム・ソーヤーの葬式 第41話 インジャン・ジョーの行方
第17話 運の悪い日 第42話 楽しい船の旅
第18話 痛い仲直り 第43話 白い馬を見た
第19話 蛙の戦い 第44話 稲妻をつかまえろ
第20話 ドビンズ先生の秘密 第45話 さらば白馬よ
第21話 夏休みの始まり 第46話 化け物屋敷で
第22話 病気にならない薬 第47話 マクドゥガルの洞窟
第23話 ナマズ釣りの日 第48話 インジャン・ジョーの最後
第24話 ネクタイをしたハック 第49話 格好の悪い終り方
第25話 意地っぱり野郎  

・「トムソーヤーの冒険」の主な登場人物

トムの家族等
トム・ソーヤー
(トム)
物語の主人公、勉強嫌いでいつも遊ぶことばかり考えているが、学校ではそれなりに人気もある。
 …「世界名作劇場」主人公で最初から「冒険する気満々」なのは彼だけだろう、シリーズ男子主人公では最も印象的な存在だ。
シドニー・ソーヤー
(シッド)
主人公の弟、兄とは違いおとなしい優等生だが、兄と遊ぶことも好きなようだ。メガネがトレードマーク。
 …良い意味でも悪い意味でも「頭の良い子」を演じていくれる。この兄弟のギャップは今でも好きだ。
ポリーおばさん トムとシッドの伯母で、幼い頃に両親を失ったトムとシッドを引き取り、母親代わりとして育てている。
 …このおばさんの「トム!」という叫び声は、大人になっても忘れてなかったなー。
メアリー ポリーの娘でトムとシッドの従姉妹に当たる。優しくて理想のお姉さんで、二人の姉としても印象的。
 …劇中期間たった3ヶ月の間に、男を見つけて婚約までしてしまうという「足の速さ」も印象的だ。
ジム・ホリス ポリーの家に仕える黒人奴隷。だがこの家では黒人に対する差別意識がないので、お手伝いさんみたいな感じだ。
 …差別されていないからこそ家に対して常に忠実で、子供であるトムやシッドにまで敬語を使うんだろうな。
ピーター ポリーの家で飼われている猫、ハックがこっそりトムを呼び出すときに鳴き真似をする。
 …これも「世界名作劇場」シリーズでは、印象に残らない方のペットキャラ。後述のシーザーの方が印象的だ。
トムの友人と学校関係者
ハックルベリー・フィン
(ハック)
村の近くに一人で住み着いている「宿無し」の少年で、トムの大親友。学校へも行っていない
 …ああいう自由気ままな生活は、劇中の子供たちでなくても憧れる。だからラストは彼に同情できる。
レベッカ・サッチャー
(ベッキー)
セントルイスからやってきた転入生の女の子、トムに一目ぼれされ、この歳で婚約までさせられる。
 …物語前半は彼女の感情が支配していると言っても過言ではない。でもこの子とトムは相思相愛なんだよね。
ベンジャミン・ロジャース
(ベン)
トムの同級生で、村の雑貨屋息子。太った身体と情けない声が印象的だ。
 …そんな彼がトムやハックとともに家出して無人島へ、そこでの扱われようは想像通りだったな。
ジョセフ・ハーバー
(ジョー)
トムの同級生で、トムとは仲が良く一緒に遊ぶこともある。
 …原作小説では彼こそがトムの大親友で、無人島へも一緒に行っている。本アニメでは出番が少ない不遇なキャラ。
ジェフリー・サッチャー
(ジェフ)
トムの同級生でベッキーの親戚、優等生を気取っていてトムとは気が合わない。
 …そして親戚であるベッキーにトムが近付こうとしているのが気に入らない。トムもこいつが気に入らないらしい。
アルフレッド・テンプル トムの同級生でセントルイスからの転入生、トムとは気が合わないというよりライバル視している。
 …そしてことあるごとにトムに対抗意識を燃やして決闘をする。そんな彼をトムは嫌いではないようだ。
チャーリー・ドナヒュー トムの同級生で、トムとは気が合わないのでなく完全に嫌っている。正確はとても陰湿。
 …トムのいたずらとは違い、彼のいたずらは明らかに悪意があるのが許せない。
エミー・ローレンス トムの同級生でパン屋の娘、ベッキーが転入する前はトムと婚約していた。
 …トムの彼女だったが、ベッキーが登場するととたんに相手にされなくなる。それでも嫉妬しない強い女子。
ドビンズ先生 トムの担任教師、何かというとすぐに鞭を振るう前時代的な体罰教師で、感情的なところがある。
 …トムがそんな彼の秘密を握るのは面白い。「世界名作劇場」で印象的な教師の一人であることは間違いない。
ナタリー・ローズ先生 ドビンズ先生の後任でトムの担任教師となる。若くて美しい女性教師だが…。
 …確かにこれまでドビンズ先生がいた教室に、何の前触れもなく彼女がいたら「部屋を間違った」と思うだろう。
町の人々
インジャン・ジョー 村に住むならず者で、人殺しをしたという噂もある。村では大人から子供まで彼を恐れている。
 …そしてトムとハックはそのならず者の犯行現場を目撃してしまい、話が面白くなってゆくのだ。
マフ・ポッター 村で働きもせずに酒に溺れるおっさん、怠け者と村の人から嫌われるが、トムやハックとは気が合う。
 …海賊の子孫で宝物を隠していると言うが何処まで本当なのやら…と冷めた目で当時も見ていたよ。
ミッチェル先生 村に以前から住む開業医、大酒飲みで村の人からの評判は芳しくなく、ロビンソンの登場で患者が減る。
 …それでもポリー一家はこの医師に信頼を寄せていて、娘を働きにまで出すのだ。
ロビンソン先生 セントルイスからやってきた開業医、評判が良く村人は皆こちらに来るようになるが…。
 …彼が村にやってきたことで事件が起きたと言っても過言ではない。未来のことを考えてのことだったんだろうな。
ジョン・ロジャース 村の雑貨屋の主人でベンの父親、いつもベンを頭ごなしに叱ってばかりだ。
 …とはいえ子供のことをキチンと想っているシーンもあって、「不器用な父親」を上手く演じてくれた。
コリンズ保安官 村の保安官で、厳しくもあって優しくもあって村の人に頼りにされている。
 …子供が言うことでもキチンと話を聞くのが印象的、でないと物語が進まないのだが。
パット コリンズの部下で村の駐在所(?)で働いてる。
 …コリンズが現れるシーンや、駐在所のシーンでは必ず出てくるだけで印象に残っている。
シーザー ベッキーの家の飼い犬、毛がふさふさした大きな犬であったことが印象的だが…。
 …怖い物知らずのトムにとって唯一かつ最大の天敵といっても過言ではない。
その他
リゼット・ジャン 村にやってきた芝居一座の子役、芝居の上演を待つまでもなく村の子供たちのアイドルになる。
 …ハックがこの子に惚れるが、これも相思相愛だったとみて良い。ハックとリゼットの恋物語は好きだ。
アーサー・オコーナー ある日、村に空から降った来た男。いつの間にかメアリーと恋仲に落ち、婚約する。
 …恐らく、この物語で一番の「当たり役」は彼だと思う。
ベニー・フェルプス ポリーの親類が経営するフェルプス農場の娘、お転婆でトムやハックと気が合う。
 …そして勘が鋭いというのも彼女の特徴、シッドとしてやってきたハックの正体を見破る。

・「トムソーヤーの冒険」のオープニング

「誰よりも遠くへ
 作詞・山川 啓介 作曲/編曲・服部 克久 歌・日下 まろん
 このオープニングも子供の頃からずっと覚えていた。「世界名作劇場」のオープニングの中で、子供の頃から今までずっと空で歌える歌の一曲だったのは本当だ。
 歌の内容はどこでも前向きで、決して希望を捨てないように訴える良い内容だ。落ち込んでいるときに聞くと元気が出るような、作詞した人はたぶんそこを子供たちに訴えようと作ったんだと思う。また編曲はとても明るく軽いノリで、同じ服部克久さんの手による「小公女セーラ」の重厚なものとは対照的だ。この前向きな歌詞と明るい曲調が、視聴者をうまく物語に引き込む。
 背景画像はもっと印象的だ。前奏部分ではトムと仲間たちがいろんな形で家から飛び出してくる、その最後にハックがあの木の家から飛び出してくるとタイトルが出てくるという印象的な始まり方だ。続いてトムと仲間たちが行列を組んで歩くところなんか、「人数を集めて実際にやったら面白いだろうな」と真剣に考えてしまうほど楽しい。続くトムとハックがじゃれながら走るところも印象的だし、トムと仲間が気球に乗って飛ぶシーンなんかロープにぶら下がるシッドが良い味出しているとみるたびに思うところだ。だがその後の馬で走るシーンやトムが海賊になっているシーンは、悪くはないけどちょっと物足りないなー。
 いずれにしても底抜けに明るいこのオープニングは、「トムソーヤーの冒険」のような底抜けの明るい物語のオープニングとしてとても印象に残っているのは確かだ。この曲の明るいノリのまま、本編行ってみよう。

世界名作劇場「トムソーヤーの冒険」の総評はこちら

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