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・「トムソーヤーの冒険」のエンディング
「ぼくのミシシッピー」 作詞・山川 啓介 作曲/編曲・服部 克久 歌・日下 まろん

 子供の頃によく見たエンディングだが、曲は覚えていなかったのに背景画像だけは妙に覚えていた。トムとハックがミシシッピ川を行く蒸気船を追いかけるだけの画像だが、特に何が起きるわけでもないし、冒頭のハックがトムに追いつくところ以外は何も変わらないものなのだが、何故か妙に印象に残ったんだよなぁ。
 曲は静かな感じで、どちらかというと賑やかな物語が多い本編とは対照的な空気が流れる。特に本編のラストが「オチ」になっている事が多い本作では、別の意味で「空気を読んでいない」と感じることが多かったかも知れない。歌詞の内容は冒頭ではミシシッピ川の流れを通じて悠久の時の流れを歌い上げ、そしてサビに向けてトムの生き様を「海を目指す」という川の流れに例えた内容に変化してゆくという、まさに「ミシシッピ川」という大河のそばでの物語だからこその内容だ。
 歌詞の内容は前向きなんだけど伴奏が妙に切ないという不思議な曲で、特に切なく終わった29話にはピッタリな雰囲気だったと思う。

・「トムソーヤーの冒険」の総評

・物語について
 本作は「世界名作劇場」他作のように、物語全編を通じて明確に展開が分類出来るつくりにはなっていない。1話完結か、数話をまたいでひとつのエピソードを形作るかたちの連続で、数話をまたぐ場合も多くは1話ごとに「オチ」を入れて1話完結に近いスタイルにしている。要はキチンと1話ごとに起承転結がハッキリしているのだ。

 物語を分類すると、次のように分けられる。なお名称は私が勝手に命名した。

 第1話・2話・7話・8話・9話・19話・20話・23話・24話・25話・30話・31話・32話・33話…以上14話は1話完結ストーリー。

 第3〜6話(4話)…トムの一目ぼれ編
 第10〜18話(9話)…無人島での大冒険編
 第21〜22話(2話)…病気にならない薬編
 第26〜29話(4話)…子役リゼット編
 第34〜37話(4話)…天から降って来た男編
 第38〜41話(4話)…ロビンソン医師殺害事件編
 第42〜45話(4話)…トムとハックの珍道中編
 第46〜49話(4話)…トムとインジャンの最終決戦編

…この分類法に異論がある方もおられるだろうが、私は本作はこのように分類出来ると解釈している。特に「無人島での大冒険」編が9話に及ぶのは違和感がある方もあると思うが、ここはマフが「海賊の宝」の話を持ち出してから、トムとベッキーが仲直りするまでで区切りのない連続したストーリーだと私は感じる。また「ロビンソン医師殺害事件」編と「トムとハックの珍道中」編は、何処で区切れているかの判断が難しい。第41話の1話をかけて物語を切り替えてゆくという展開を取ったからで、この第41話は「ロビンソン医師殺害事件」編の続きが主体ではあるが、ラストシーンのみは「トムとハックの珍道中」編になっている。

 「トムの一目ぼれ」編ではトムとベッキーの出会いから仲良しになるまでの経過が詳しく描かれるが、この時点ではまた二人は普通のクラスメイト同士でしかなく、トムはともかくベッキーの方はトムを特別意識していたわけではないだろう。ベッキーがトムを意識するのはこの部分のラスト、やはりトムがベッキーと喧嘩になっても女の子を喜ばせるキーワードをキチンと言ったハックの家完成シーンであろう。

 「無人島での大冒険」編は、マフやインジャンといったサブレギュラーを一人ずつ物語に登場させた上で、まず村に「海賊の宝がある」と物語を盛り上げる。そしてそちらの物語の盛り上がりが頂点が見えてきたところで、トムの失言によってベッキーと喧嘩になってしまい、物語が「海賊の宝」どころではなくなる。ここへベンが「子供の日常」に対する不満をぶちまけたところで「海賊」というキーワードだけが復活して、無人島での話へと上手く話が転がる。同時に行方不明のトムらを心配する家族やベッキーの様子をキチンと流し、怒ったベッキーを落ち着かせる時間を与える。そして「自分の葬式に現れる」という大冒険を経てトムが村に戻っても、ベッキーとの関係は何も解決していない現実を浮き彫りにした上で、今度はベッキーが事件を起こしてトムが身体を張ってベッキーを守ることで仲直り…というストーリーが、本当にテンポ良く流れてゆくのだ。この展開は9話に及ぶので本放送時は2ヶ月かけて放映されたはずだが、当時にこの物語を見ていた人は「早く続きを」と焦っていたことが目に浮かぶようだ。

 「病気にならない薬」編は、本当は1話完結にしたかったけど1話で収まらなかったというのが本当のところかも知れない。夏休みに入って最初の21話では、この本編に入るまでが冗長で本作で最も退屈に感じたストーリーだったと思う。また「謎」を秘めたまま終わったのもこの話の良いところで、結局薬売りの詐欺師がインジャンと何をしたのか分からずじまい…だから印象に残るのだろうけど。

 「子役リゼット」編は何と言ってもハックとリゼットの小さな恋物語に尽きる。他の展開もあってこちらも面白いのだが、本編の後半で描かれたハックとリゼットの物語に食われてしまっているかたちだ。これも劇中劇「さすらいのリゼット」がどうなるのか謎のままにしたのは面白い。

 「天から降って来た男」編では、メアリーとアーサーの大人の恋物語をキチンと描いたのは「世界名作劇場」ではそれまでになかったことだ。「世界名作劇場」で大人の恋愛を演じたのは、「南の虹のルーシー」のクララとジョン、「わたしのアンネット」のマリー、「ポリアンナ物語」のパレーとチルトンなどの例はあるが、全てこの「トムソーヤーの冒険」以降のものである。年齢的にはメアリーは十代後半なので「大人」と呼ぶのに相応しいかどうかの疑念の余地はあるが、「働いている者同士」の恋愛ということで大人同士と見て良いだろう。同じ世代ながら大人の恋愛と認められないのが「ふしぎな島のフローネ」のフランツだ。

 「ロビンソン医師殺害事件」編は、「化け物屋敷」を発端にトムとハックが事件の一部始終を見てしまう理由付けがとても上手くいっている。そして事件を見て真実を知ったトムとハックの心の変化をうまく描き出し、「見たことを胸に秘める」と誓い合った二人が真実を語ろうと決意する過程もとてもよく描かれている。これを通じてトムとハックが基本的に「ワルガキ」ではないことが視聴者と劇中の登場人物達に突き付けられるかたちとなり、トムが様々な「冒険」で英雄と呼ばれることに違和感を感じなくなるようになってゆく役割も持つ。同時に殺人事件の犯人とされたマフの心境変化も上手く描いたからこそ、それらの終結点である裁判シーンでは泣けるのである。

 「トムとハックの珍道中」編は、本作で唯一物語の舞台を別の場所に移す展開で、他のエピソードと雰囲気が大きく違うのが特徴だ。トムとベッキーの楽しい船旅が描かれるのかと思ったら、そこにハックが割って入ってきたことで物語は大きく変化する。そしてハックはトムと共に、トムの親類の農場に「弟のシッド」として乗り込むからこそ出てくるボロの数々は見ていて楽しいものがあっただろう。それによってゲストキャラのベニー独りが勝手に推理小説的な展開を繰り広げることがあったことも、物語の雰囲気を大きく変えた要因だ。本編のラストの数分にもならないたったワンシーンで、トムとベッキーの船旅はとても楽しかったと視聴者に思わせた点はとても秀逸。

 「トムとインジャンの最終決戦」編は、マフの裁判以降トムとハックの心を占めていた「インジャンに対する恐怖」にキチンと決着を付ける。そのために物語はまたあの「化け物屋敷」から始まり、最初から「インジャンがまた現れる」という雰囲気を醸し出しておいたのは面白い。「化け物屋敷」でインジャンに見つかるスレスレの手に汗握るシーンを描き、その印象が消えないうちに「夏休みのピクニック」で空気を変えてインジャンの恐怖が別世界の出来事のように仕向けておいて、「洞窟」という密室でのトムとインジャンの対決…これがあっさり終わったのは予想外だったが、この直後に保安官が現れて「村人達とインジャンの最終決戦」へ変化させてのは良かったと思う。インジャンが死去したことで、村に平和が戻りましたというオチになったはずだ。
 そしてインジャンが消えた後、トムとハックはインジャンの足跡を追ってついに大量の金貨を手にする…これこそがマフが言っていた「宝」なのだと私は解釈したい。こうして様々な伏線が回収され、ハックだけは金持ちに引き取れる「アンハッピーエンド」となって物語が終わる。

 1話完結ストーリーも印象的なものが多い。これは解説すると考察本文との繰り返しになるので割愛するが、私が好きなエピソードは1話完結の物語に多い。蒸気船の詳細が描かれている第8話や、とにかく面白いだけでなくトムやハックが先にそれなりのペナルティを受ける第20話(これは本作で一番笑った話である)、ベッキーが可愛いだけでなく子供達の楽しい1日を見ていてこっちまで楽しくなりそうな第23話など、印象に残っている話は1話完結に多いのだ。
 ちなみに泣いた話は、言うまでもなく第40話だ。

 こうして本作では子供達の物語として物語が出来上がっている。様々な出来事をあくまでも子供の目線で描き、それを見た子供達が物語を引っ張って作っているのだ。だから本作には明確なテーマがなく、あるとすればそれは「子供そのもの」ということになるだろう。つまり「家族の絆」とか「友情」とテーマを前面には押し出さず、淡々と子供達の目で見た世界を描いてゆき、「家族の絆」「友情」というものはその中で自然発生的に描かれているに過ぎない。そしてトムとハックという子供が、「家族の絆」とか「友情」という抽象的にものではない本当の「宝」を手にするという展開は、本当に「子供目線」でないと描けないだろう。これが本作の良いところなのだ。


・登場人物
 本作は登場人物達がとても魅力的なのも印象的で、これし原作のほうでキャラクター作りがしっかりしていたせいかもしれない。メインキャラのトムとハック、トムのガールフレンドのベッキー、トムの家族であるシッドとポリーおばさんとメアリー、学校の仲間達や教師…それぞれにキチンと特徴を付けているから面白い。

 そしてこの物語のキャラクターは「大人」と「子供」がキチンと分けられているのは、大人になってからの視聴で気付いた点だ。「ふしぎな島のフローネ」のフランツのようなどっちつかずなキャラクターは存在せず、大人は大人で終始一貫して大人を演じるし、子供は子供で終始一貫してこれまた子供を演じるのだ。これは劇中での時の流れがせいぜい3〜4ヶ月という短い期間なので、キャラクターづくりの上で制作者側が気を遣った点なのかも知れない。
 本作では基本的に十代後半のキャラクターは「大人」として描かれている。その代表例がメアリーなのは言うまでもないが、その従姉妹に当たるベニーはちょっと子供に描かれているのは面白い。

 「大人」のキャラは、人によって子供の味方だったり、子供の敵だったりという点を子供目線で描いている。だから本作では教師であるドビンズ先生は悪役だし、社会の目線でなく子供の目線なのだからそうなってしまうのは仕方がないのだ。同じ風に子供の目線だからこそ悪役になってしまったのが、ポリーおばさんとペンの父親かも知れない。インジャンは誰の路線で見ても悪役という描かれ方をされているし、保安官は誰の目線で見てもヒーローではない正義として描かれている。
 逆に子供の目線だからこそ子供の味方となったキャラの筆頭格は、何と言ってもジムだろう。

 「子供」のキャラもキチンと性格を際立たせてある。メインキャラのトムとハックとベッキーは別にしても、ジョーやベンといったトムと仲の良い子供らも、アルフレッドやチャーリーと言ったトムと気が合わない子供達もそうだ。だからこそそれぞれ「何故トムと仲が良いのか」「何故トムと仲が悪いのか」について説得力があり、学校での子供達のパワーバランスなんかも垣間見えてくるのが面白い。
 ただし学校のキャラクターに関して、特に女子について言えることなのだがバラツキが多いのは残念なところである。つまり「その他大勢」として描かれるキャラクターに統一感がまるでないのだ。男子ではオープニングに出てくる子の中に教室シーンでは一度か二度位しか出てこなかったキャラがいるし、女子ではベッキーの後ろの席の女の子が頻繁に変わるという悲惨な状況だ。ベッキーと会話をした女の子ですら、次に教室が出てくるエピソードでは消えていたりする。このあたりの「ブレ」はもうちょっと気を遣って欲しかった、学校シーンが多い「赤毛のアン」「わたしのアンネット」ではこういうことはなかったのに…。

 最後に名台詞欄登場回数の一覧である。トップは主人公トムで17/49回で、本サイトの考察ではだいたい「赤毛のアン」のアンと同頻度で名場面欄に登場したことになる。ただしこのトムの名台詞欄登場回数は、ナレーターとしての登場や次回予告でのナレーションも含んでいるので、実質的にはもっと登場回数は少ないことになる。
 2位はやはりハックで、名台詞欄登場回数9回は主人公でないことを考えれば多い方だ。またハックは何話かで不在の回もあり、その分を差し引くと登場頻度はかなり上がると考えられる。これは後述のベッキーも同様だ。
 3位はベッキーの5回、主人公のガールフレンドという役柄から多くの名台詞を残している。続いて4位のシッドの3回で、これも主人公の弟という役柄から名台詞に恵まれたってところだろう。
 後は少数だが、ここへ来てやっと大人のキャラであるジムとドビンズ先生とインジャンが現れたということを考えると、やっぱり本作は「子供の物語」なのだ。子供達が物語を牽引し、子供達の物語を紡いでいるという構図がこの名台詞欄登場リストからもお分かりいただけるだろう。

名台詞登場頻度
順位 名前 回数 コメント
トム 17 物語の主人公だけあって名台詞欄登場回数は当然のようにトップだが、中盤に入りかけの10話から20話にかけては本欄への登場がない。印象的な台詞は最終回、「何故学校へ行かされるのか」を子供目線で語らせたこの台詞は、子供の頃の私をうならせた。
ハック 主人公の親友で浮浪児という役回りは、ボケ役よりもツッコミ役であることが多かった。印象的なのは20話の「ハゲ頭が何故おかしいのか」を鋭く突いた台詞と、28話のリゼットの演技を見たハックの台詞だ。
ベッキー 主人公のガールフレンドという立場だが、初登場以降の全話に出ているわけではなく不在の回も多かった。やっぱり男子としては女の子から25話の台詞を言われたら、嬉しいものだ。
シッド 主人公の弟という役回りであるが、名台詞がこの数で留まったのはこの物語は他に魅力的なキャラクターが多いからだろう。個人的には15話の名台詞が印象的で、シッドが「良い子」という立場を苦労して手に入れたのが目に浮かぶ。
ジム 主人公が住む家で働く黒人奴隷だが、差別されている様子は全くないせいか「良い使用人」を最後まで演じてくれた。6話の名台詞は「実は子供の味方」という役回りを見事に印象づけてくれる。
ドビンズ先生 主人公の教師、しかも体罰教師だ。17話で「無人島での大冒険」について大人の冷酷な考えを見事に訴えてくれた。でも演技的には18話のベッキーを威圧する演技が忘れられない。
インジャン 本作最大の悪役で、主人公によって懲らしめられ、最終的には生命を失うというハズレ役でもある。しかし38話では彼の名台詞までは私も彼にまんまと騙されていた。
ブリック 「誰だっけ?」と思うか他もあると思うが、8話のゲストキャラでミシシッピ川をゆく蒸気船の航海士もしくは操舵手。子供の頃、彼の台詞に「船の動かし方を教わったのだ。
マフ 村の酔っ払いでいつも酔いつぶれ、挙げ句はインジャンに濡れ衣を着せられ縛り首になる寸前にまでなる。9話の名台詞はお酒が好きな人はみんな頷くだろう。演技的には40話のトムに抱きついて泣くところだ。
ベン 主人公の同級生の一人で、「無人島での大冒険」を共にするなど同級生達の中では比較的出番が多かった。13話の名台詞はナイスツッコミだ。個人的にはベンとアルフレッドの大食い競争を見てみたかった。
メアリー 主人公の事実上の姉という役回りでありながら、名台詞に恵まれなかった。24話の名台詞は「浮浪児」という差別感情抜きでハックを評価している彼女の思いが見える。24話はメアリーの見どころ多し。
エミー 主人公の元カノで、そのせいか出番が少なくいつの間にか担当声優まで替わってたという不遇のキャラ。26話の名台詞というのは、お芝居などの愉しさを子供目線で上手く訴えている。
ポリーおばさん 主人公の事実上の親という役回りでありながら、この人が良いことをいうと他のキャラがもっと良いことを言ってしまうというループに陥って名台詞欄にほとんど出てこなかった。32話の名台詞は、名場面欄シーンとセットで楽しいものだ。
コリンズ保安官 村の保安官という役回りで、事件が起きることの多いこの物語では意外に出番が多かったキャラだ。34話の名台詞は「未知の物体」に出会った「責任ある者」の本音を上手く訴えていて印象に残った。
ミッチェル先生 村の開業医だが、後からやってきた若い医師に患者を奪われているという設定だ。36話での名台詞は、メアリーに「一目ぼれ」を突き付けるものでとても印象的だ。
ベニー 43〜45話の「トムとハックの珍道中」編のゲストキャラで、メアリーの従姉妹だ。45話の名台詞はシッドになりすまして農場に入り込んだハックに「バレている」と突き付けた点でとても印象的。

・はいじま的「トムソーヤーの冒険」解釈
 「トムソーヤーの冒険・完結編」
 2000年に制作されて放映された「トムソーヤーの冒険」の総集編。

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