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 いよいよ盛行きの列車が出発した。車内は観光バスツアーの乗客で溢れ、とても賑やかだ。
 最初の停車駅は三陸駅、ここでは上下列車とも閉塞扱いの都合があって数分の停車時間が設定されている。
 ここから三陸鉄道の列車が大好きという、地元の幼児が乗り込んできて「かぶりつき」スペースはほほえましい状況に。
 南リアス線は、リアス式海岸特有の地形に沿って、突き出た半島を一つ一つ長大トンネルでくりぬくという繰り返しで南下する。だからトンネルが多い路線であるのが特徴だ。
 断崖絶壁の海岸線を行く北リアス線との違いは乗っているとわかりにくいが、地図を見ると大きいのでとても面白い。
 ボランティアガイドによる「大漁節」の歌声に合わせて列車は走り、定刻に盛駅に到着。
 今日は日の高い時間にこの車両の出番はない、後ろ髪を引かれる思いで快適な新型車と別れた。
 床が木製でびっくりしたのなんの。盛駅の改札にいた女性駅員が「あの新型は南リアス線の自慢、勿体ないくらいだ」と自慢していた。

 この36-700型の側面前方に、「クウェート国からのご支援に感謝します」というメッセージが、クウェート語、英語、日本語で書かれている(クウェート語は一回り大きな文字で書かれている)。
 盛駅前「三陸鉄道発祥の地」の石碑、やっとこの石碑が建つところで三陸鉄道が生き返ったのだ。
 不通だった間は、盛駅は「ふれあい待合室」として解放されていた。浸水して使えなくなった車両をホームに横付けし、イベントスペースとしても活用されていたという。
 車両の横付けは昨年11月で終了し、そのまま解体されたという。
 折り返しは三陸鉄道では見慣れた36-100型による「キットずっと号」。去年は北リアス線でも運行されていたが、私はこの列車に当たっていない。今回は初の乗車だ。
 「キットずっと号」は36-105、前述したが吉浜〜唐丹駅間のトンネルで閉じ込められた車両。
 その後、トンネルから引き出されて線路の復旧工事が完了するまで吉浜駅で待機していた。
 このような経緯で生き残り、南リアス線唯一の36-100型として生きている。
 列車は定刻に発車、今度は団体客などは無いので満席というほどではなかった。三陸駅近くに住んでいるという鉄道好きの幼児は、この列車でも乗り合わせた。「かぶりつきスペース」の楽しさを覚えてしまったようで、父親が一生懸命抱っこしていた。
 「キットずっと号」の車内は桜の造花と、三陸鉄道への応援メッセージで飾られている。私と同じ鉄道好きという人も何人か乗っていた。

(この写真は一部加工しています)
 列車が三陸駅に到着すると、駅務員が出てきて閉塞の手続きを取る。列車の運行状況、予定ダイヤなどを確認している。
 確認が済むと、駅務員からタブレットが渡される。この中には三陸駅〜吉浜駅間の通行を認める通券が入っているはずで、「指導員」と書かれた赤い腕章がつけてあった。
 運転士の説明では、これを持っていないと三陸駅から先に入れないルールとのこと。またこれが三陸駅にない場合は、この駅間に列車がいるということになり三陸駅から列車を出せないようにしていると。
 閉塞の手続きが済み、運転士がタブレットを引き取ると信号機と駅務員の手信号が「進行」を指示、これに従って列車は発車する。
 この間5分、この手続きの間は観光客はホームに出て列車や女性アテンダントとの記念撮影タイムとなっていた。
 こうして列車は無事に吉浜駅に到着。私の南リアス線1往復の旅は終わった。
 来年は釜石から盛に向かって乗れればと思う。

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